『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 1344

　７６０余りに及ぶ目線がオキテスに集中する、おもむろに口を開く、ひと言、ひと言、短い言葉を発する。
　『諸君！いい朝だ！おはよう！』
　一同を見廻す。
　『本日より、船舶の建造を、開始する。心が決まっているか！』
　振り絞る大声。
　『いい施設、いい設備、いい腕、いい技術、いい工具、いい心、いい身体でもって、いい船の建造を開始する！一同、心を一つにするのだ。いい船を造っていく！一同！これに努めよ！』
　言葉を切って見回す、一同と顔を合わせる、言葉を継ぐ。
　『俺が声をあげる、その言葉を復唱するのだ。三回だ！いくぞ！』
　オキテスが台上で気をあらためる、全体を見廻す、眼光鋭く決意を示す、一同と目が合う、オキテスが声を発する。
　『いい船を造る！』
　復唱の声があがる。二度目の声を発する。
　『いい船を造る！』『いい船を造る！』
　三唱を終える。
　一同の声が建造の場を震わせる、木々の葉も震える。
　いちどきに一同の気の充実と活性が高揚する。一同のオーラがたちのぼる。
　代わって台上にドックスが立つ。
　『一同、担当する場に就け！班長、集合！』
　班長らがドックスを囲む、段取りを伝える、合わせて作業の注意事項を伝える。
　『くれぐれも安全を第一にして、品質管理を徹底して、無欠点で作業を遂行せよ！いいな！以上だ』
　『おうっ！』
　一同が返事を返す、一同が場に就く、建造作業がスタートする。
　パリヌルス、オキテス、ドックスの三人は、この情景を目を凝らして、注意深く見つめている。オキテスが横にいるドックスに言葉をかける。
　『おう、ドックス、いよいよだな。支障なく作業が始まった。互いに心を引き締めて事にあたっていく。いいな！第四船台が開いている、新々艇の作業スタートは、いつに予定している？』
　『はい、その件は、明後日が作業開始日となります』
　『解った。工程および日程管理をしっかりだな』
　『解りました』
　彼らは、この状況を見つめている四つの目に気づいていない、パリヌルスとオキテスが場の会所へと歩を向ける、二人に声が届く。
　『おう、両人、ごくろう！建造作業がスタートしたな』
　アエネアスとイリオネスが場に立っている、この情景をつぶさに見ている。
　イリオネスが三人に声をかけて場の会所へ向かい歩みだす。
　イリオネスが話しかける。
　『おう、建造が始まった。俺らも役務をしっかりと果たしていかねばならない。オキテス、売り出しに関連して営業計画の組み立てだ。一か月なんてアッという間にすぎるぞ』
　イリオネスがオキテスに話しかけた。