『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  517

2015-04-30 08:07:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは、山頂に到って小一時間、足踏み身体こすりを休むことなく続けていた。
 東のはるか彼方の水平線に黎明の兆しを目にする。太陽の第一射を気にかけて身体の暖め作業を続けた。
 明るさが増してくる、水平線が黄金色に輝いてきた。一同の動作が停まる。彼らは感動の一瞬を息を止めて待った。
 来たっ!
 彼らは、水平線の幕を破って届く、太陽の第一射を身に受けた。それを目にした。
 彼らは、すべてを忘れて、全神経、心のありったけ、身体の全てを、その一点に集中した。
 彼らは、声を上げた。五体を搾って、心から、腹の底から声を出した。
 『ワオ~ッ!』『ワオ~ッ』
 それは獣声に似た声であった。
 感動の叫び、今日を開く、未来を拓く、心の雄たけびであった。各人が五度、六度と声を上げる、彼らの心中は唯我、己のみ存在の叫び声であった。
 大日輪が水平線から身を離して昇っていく、大感動の一瞬から幾ばくかの時が過ぎて、感動の嵐が去ろうとしている。感動の時が過去となろうとしている。全員が顔を見合わせた。
 目と目を合わせる、互いに肩を抱いた。この瞬間にイデー山山頂に同会した感動を共有した歓びを交わした。彼らは、でっかい太陽を胸に抱いた。生涯忘れることのない感動であった。
 『この感動をわすれない!』を誓った。
 時が過ぎていく、昇りゆく太陽に各自が思い思いに何かを託した。目を輝かせて太陽の軌跡を追った。
 身を凍らせる寒さが遠のいていく、我に帰る時が訪れた。アヱネアスが声をかけた。
 『素晴らしい時であった。感動した。この時を生涯忘れはしない。イリオネス、スダヌス、クリテス、イデオス、ありがとう』
 彼は感謝を一同に伝えた。
 『統領、このようなチャンスをいただいた私たちこそ、統領に感謝いたします。この山頂でのこと生涯忘れることはありません。ありがとうございました』
 イリオネスもスダヌスも目を潤ませて、アヱネアスの言葉に答えた。
 『おい!寒さを思い出した。腹も減ったな』
 『よし!腹に何かを入れよう。イデオス、袋をよこせ!』
 スダヌスはイデオスに声をかけた。