『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  514

2015-04-27 06:54:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 クリテスは、何かと気を使いながら寝についていた。イデー山登頂予定を宿坊の主人に伝えてある。彼は思いのほか疲れていたらしい、寝つきも早く、ぐっすり寝入っていた。
 宿坊の主人は、頃合いを見計らって、戸口に近い位置に寝ているクリテスの肩に手をかけてゆすった。
 『クリテス殿、もうそろそろですよ。空には月がありますよ!』
 小声で告げる、目を開けるクリテス、音を忍ばせて、戸外へ出る、空を仰ぐ、頭上の銀月は、白がねの光を振りまいていた。彼は雀躍した。
 『よしっ!一同を起こす!』
 彼は部屋に戻った。イリオネス隊長に起床を促した。次いでスダヌスを揺り起す。イリオネスが声をかけてくる、
 『クリテス、朝行事の間があるか?』
 『充分にあります!』
 『そうか、よし!』
 一同が目を覚ます、アヱネアスに声をかける。
 『頭(かしら)、時間です』
 イリオネスは、アヱネアスをどう呼ぼうかと寝て考えた結果の呼称であった。彼らは、朝行事にと小川へ向かった。
 『うえっ!冷てえ!』
 彼らは、流れる川の水の冷たさに驚いた。その冷たさが彼らの心を引き締めた。
 朝行事を終えて、足ごしらえを整えた。スダヌスは全員の足ごしらえを点検した。
 『よし!いいぞ!』
 『イデオス、これはダメだ!ちょっとゆるい、締めなおすのだ。しかっり結べ』
 『おう、イリオネス、一同、万端、OKだ!』
 『私、ちょっと宿坊の打ち合わせをしてきます』
 彼はクリテスを伴って、宿坊の主人と二言、三言打ち合わせた。イリオネスと目線を合わせる、手振りを加える。
 イリオネスは一同に出発を告げて、クリテスに合図を送った。
 『月があります、松明なしで登頂に出発します。登山口の三叉路まで、休みなしで行きます。出発!』と告げて、力をこめた一歩を踏み出した。
 先頭を松明を入れた袋を背にしたクリテス、続いてアヱネアス、イリオネス、今日の食料を入れた袋を担いでイデオス、殿りをスダヌス、一行五人は、言葉を交わすことなく粛々と歩を進めた。
 月は照り、星は輝く、イデーの山体は黒く大きく身じろぎもせず、峰筋は月照に輝き、山裾のソニアナの集落の甍が凍てついて目に映った。冬の名残りの風景であった。
 『へえ~、これが山から見下ろす夜の風景!?』
 彼らにとって、この情景はめずらしかった。
 ソニアナを出てから2時間、記憶に残る登山口の三叉路に着いた。小休止する。一行は歩んできた道を振り返っていた。目に映る夜の眺望であった。
 クリテスは、山行の<こうであろう>を簡単に語って説明した。