ふしぎなほど暖かな秋でした。例年なら霜が降りるか,初雪がちらつくか,そんな頃なのに,その気配すらしませんでした。そしてそのまま,暦のうえでは冬を迎えてしまいました。
ほとんどの昆虫にとって厳しい寒さが訪れます。秋,あれだけ活発に行動したカマキリにも,平等に寒さが襲いかかります。といっても,カマキリはこの寒さを卵で乗り切ります。子孫を卵に託した成虫は,ただ静かにいのちを終えるだけです。
この成虫を見かけた場所は,河川敷に植えられたサクラの幹。もう「待ったなし」で迫る冬を前に,なんとも鈍い動き。自然のまま,あるがまま。死を直前にした姿です。
この個体を入れて撮りたいと思ったのが,初冬の田舎風景。しかし,昆虫であってもそこはいのちの大変化を感じる場面です。ついつい厳かな気持ちになっていました。
のっそりのっそり歩き始めたとき,遠景も入れて撮りました。長い鎌が伸びてい輝いています。野に棲む昆虫の王者といった風格が漂います。これまで存分に使ってきたでしょうが,もう使う必要はなさそう。
からだをぐうっと上に向けて姿勢を変えました。そうして,またしばらくそこにじっとしたまま。
澄み切った青空のもと,心地よいひとときが過ぎていきました。カマキリには,今年も撮影でずいぶん助けてもらいました。感謝,感謝。