≪最終一番勝負 第79譜 指始図≫ 6八角成まで
指し手 ▲4四歩
[女王たちの宴]
アリスは大広間をすすんでゆきながら、おそるおそるテーブルの方を見やると、そこには五十人ほどの、ありとあらゆる種類のお客さまがせいぞろいしていてね。鳥もいればけものもいるし、花でさえ何人かいるんだ。アリスの思うのに、「招待をまたずあつまってきてくれてよかったわ。だれを招(よ)べばいいかなんて、自分じゃとてもわかりっこなかったもの!」
(『鏡の国のアリス』 ルイス・キャロル著 矢川澄子訳 新潮文庫 より)
さあ、パーティーが始まった!
<第79譜 視界は良好!>
≪最終一番勝負 第79譜 指始図≫ 6八角成まで
「亜空間戦争 最終一番勝負」はこうなっている。
コンピューター・ソフト「激指14」の評価値は +297 ―――この値は、この「最終一番勝負」の先手にとっての最高値である。これまでずっとマイナス600くらいの値だった(それでも後で調べるとほとんど先手良しだったのだが)、それがついにプラスに転じたので、我々のこころは浮きたった。重苦しい雨雲が消えて、晴天の空が広がっているかのような‥‥
後で振り返れば、浮わついていたようにも思う。
さて、この図での候補手は次の通り。
6八角成図
【1】8七銀
【2】8七金
【3】7七歩
【4】7九金
【5】4二歩
【6】5四歩
【7】6一竜
【8】3四歩
【9】4四歩
【1】~【4】が後手良し、【5】~【9】が先手良しになる。
6八角成図(再掲)
ここで後手の手番ならば、9五歩の手が厳しく、さらに放置すれば次の7八馬で後手勝ちが決まる。7八馬を防ぐ7九金には8八香があり、9五歩に8七玉も6六歩や7四香で後手良し。
―――ということであれば、9五歩~7八馬が来る前に対処しなければ―――という考えになるが、その方法が難しいのである。
【1】~【9】を、この順番で解説していく。
8七銀図
【1】8七銀(図)と打って、後手の9五歩と7八馬に備えた。
しかし、9五歩、同歩、9六歩、同銀、9四歩と進んで―――(次の図)
変化8七銀図01
これは、先手が悪い形勢である。銀を受けに使っても、やはり「9五歩~7八馬」が厳しいという状況は脱していない。
8七金図
それでは、
【2】8七金(図)はどうだろう?
これもしかし、9五歩、同歩、9六歩がある(次の図)
変化8七金図01
9六同金、9四歩に、8七玉として、9五歩に、6九歩(代えて9七金は9六香で後手良し)
以下6七馬に、7八金(次の図)
変化8七金図02
馬を引いてくれれば9七金で頑張れるが、7八同馬、同玉、9六歩で、「金二枚」と交換される。
次に6六金と打たれると先手玉は"受けなし"になるので、6七玉と右辺に逃げる。これで逃げ切れたようにもみえるが、8八金がある。飛車を取りに来る。
しかしこの瞬間に攻める手はないか。
「4二歩、同銀、5一銀」という攻めの手段がある。同銀、同竜まで進めば、次の8四馬の切り札があるので先手が勝てそうだ。
しかし5一銀に、3一銀とかわされて、そこでどうするか。4二角と攻めをつなぐ(次の図)
変化8七金図03
4二同銀、同銀成、1四歩、1一銀(同玉なら3二成銀で先手良し)、1三玉、3二成銀、8九金、3六銀、6二香(次の図)
変化8七金図04
3六銀の手に代えて2五金などでは6五飛で打った金を抜かれてしまう。3六銀と打って、後手玉に“詰めろ”を掛けつつ、後手からの4七飛を消したが、6二香(図)と打たれてみると、先手に勝ち目がない局面になっていることがはっきりする(6筋には歩合が利かない)
頑張って後手玉を追い込んでみたが、これが限界だ。
7七歩図
【3】7七歩(図)は良さそうな手である。
〈ア〉7七同馬なら、8七金で先手有望。〈イ〉7八馬は7九金、これも先手が良い。
また〈ウ〉6七馬には、6九飛、6八桂成と進むが、5四歩、4二銀、6一竜で―――(次の図)
変化7七歩図01
先手が良い。6六歩なら5二竜がある。
この図からは、6九成桂、6七竜、6八飛と進みそうだが、5七竜で、(まだ大きな差は開いていないが)先手リードの形勢。
変化7七歩図02
【3】7七歩 には、〈エ〉9五歩(図)がこの場合も最強の一手である。
7六歩では7八馬で先手負け。ここは8七玉が最善手。
対して6六歩が厳しい手。桂を取る7六歩なら、6七歩成、8八金、8五金、同歩、8六香で後手良し。
先手はここは6九歩が最善の頑張り。以下6七馬、7八金(次の図)
変化7七歩図03
ここで4五馬なら、5四歩(同馬なら7六歩で先手良し)、4二銀、6一竜(後手6七歩成を受けながら次に5二竜の攻めのねらい)で、先手良し。
7八同馬、同玉、6四香、7六歩、6七歩成、8七玉、7七金、9八玉、7八とと進む(次の図)
変化7七歩図04
一目、先手勝てそうにない図に見えるが、5五角(3四桂以下後手玉詰めろ)と打って、4四歩に、6一竜で、まだ勝ち筋は残っている(次の図)
変化7七歩図05
ここで8九と、7七角、7八飛、8七玉の展開は、きわどいながらも先手有望の筋がある(内容は省略)
しかし6六歩が冷静な一手。
4四角が勝負手(同銀なら4二金で先手勝ちになる)だが、8八とが切り返し。同飛、同金、同玉、4八飛(次の図)
変化7七歩図06
以下6八金、4四飛成となった図は、後手やや良しの形勢。
【3】7七歩 も先手が良くなる道はないようだ。
7九金図
【4】7九金(図)と受ける手は考えたいところ。
4六馬のような手なら、先手に攻めの手番が来て、たとえば4四歩、同歩、4二歩、同銀、4三歩、同銀直、4二歩で、先手が勝てる。
またここで9五歩はあるが、8七玉で、先手有望の展開になる。
先手にとって問題は、ここで8八香という手があることである(次の図)
変化7九金図01
8八同金、同桂成、同飛、7八金、同飛、同馬、8八金、同馬、同玉、5八飛。
5八飛に7八歩では7七歩で後手良しがはっきりする。
9七玉が最善だが、後手は「9五歩」(次の図)
変化7九金図02
ソフトの評価値はほぼゼロ(互角)
ここは
9五同歩と
6七銀が考えられる。
9五同歩、9六歩、同歩、9四歩、7七角(次の図)
変化7九金図03
7七角(図)と打って後手玉に詰めろを掛けた(代えて6六角は5五金、7七角、7六歩で後手良しになる)
後手4四歩に、6七銀と打つ。以下5七飛成(2八飛成なら5四歩で先手良し)、6八金(次の図)
変化7九金図04
6七竜、同金、7八銀(詰めろ)、8五歩、6七銀成(次の図)
変化7九金図05
8四歩、7七成銀となれば、はっきり後手優勢。
5五角と逃げると9五金以下先手玉は詰んでしまう。
なのでここは5九角だが、7四銀があり、以下8四歩、8五金、9七玉に7六歩で、これも先手が苦しい。
変化7九金図06
「9五歩」に、
6七銀(図)の変化。
5九飛成、7七角(詰めろ飛車取り)、6六歩(次の図)
変化7九金図07
5九角、6七歩成、9五歩、7六歩。
以下は変化の一例。7九香、9五金、9六歩、8四銀(次の図)
変化7九金図08
後手良し。9五歩は9三銀(次に6九角が詰めろになる)
8三馬は、7七歩成、同香、8六金、同玉、8五歩。
8二馬は、9六歩、同竜、9五歩。
そして8四同馬は、同歩、9五歩に、4六角で、後手優勢(9五歩に代えて9五竜は、7七歩成、同香、7六歩で後手優勢)
後手の7六歩に7九香と受けた手に代えて8八金とするなど、先手に変化の余地はあるが、先手が勝てる筋は見当たらない。
6八角成図(再掲)
【1】8七銀
→ 後手良し
【2】8七金
→ 後手良し
【3】7七歩
→ 後手良し
【4】7九金
→ 後手良し
【5】4二歩
【6】5四歩
【7】6一竜
【8】3四歩
【9】4四歩
以上、【1】~【4】の手を調べてきたが、いずれも「後手良し」となった。
どうやら、受ける手は先手に勝ちがないようである。
それでは、先手が勝つための “正解” をこれから紹介しよう。“正解” はいくつかある。
4二歩図
「6八角成図」から先手が勝つための最も明快な手は、
【5】4二歩(図)である。
4二同銀に、5一銀がある(次の図)
変化4二歩図01
3一銀には4二金。5三銀には5四歩で、寄せきれる。
「5一同銀、同竜」と進んだ場合、そこで3一銀なら、4二金、同銀、同竜、3一金に、1一銀があるので攻めが続く。
したがって、「5一同銀、同竜、1四歩」が想定される展開(次の図)
変化4二歩図02
ここで3一銀が打てる。1三玉なら2五金と打って(1四金以下詰めろ)、2四銀に、1四金、同玉、2六金で、後手玉を “必至” に追い込める。
だから3一銀は同玉。そこで銀がもう一枚あれば1一銀なのだがあいにくそれはない。4二金と打って、2二玉、3二金、同玉と進む。
そこで “次の一手” が決め手だ(次の図)
変化4二歩図03
1三銀(図)と打つ。逃げ道封鎖の一手。
1三銀に代えて1一銀は3四歩でこの場合はうまくいかない。この1三銀に3四歩なら、4四金がある(4四同歩なら5二竜で詰み)
ただし、ここから先もまだ警戒すべき落とし穴がある。それを読み切ればゴールだ。
1三同馬なら、4二金、2二玉、3二金、1一玉、8四馬。同銀に、2一金、同玉、4一竜以下後手玉詰み。
1三同香は、4二金、2二玉と進む。
そこでうっかり4一竜だと7九馬以下詰まされて先手負ける(これが “落とし穴” だ)
ここは3二金打、1二玉と後手玉を追い込んで、8四馬が正解である(次の図)
変化4二歩図04
これなら、7九馬、同飛、8八銀、8七玉、7七金、同飛、同銀成という詰み筋にも、8四馬が受けに利いていて大丈夫。つまり8四馬は、"詰めろ逃れの詰めろ" だった。
先手勝ち。
【6】5四歩(図)も、基本的には【5】4二歩 の場合と同じ攻め筋で、先手が勝てる。
違いは、持歩の数と、「5四歩」が盤上に残るということである。この場合はこの歩はないほうが先手にとって都合がよく、その分、この
【6】5四歩 は読まないといけない変化が多くなる。
【6】5四歩 には、4二銀だが、以下5一銀、同銀、同竜と進む。
そこで1四歩は、【5】4二歩 の場合と同じように、「3一銀、同玉、4二金、2二玉、3二金、同玉、1三銀」で寄せることができる。
問題は、ここで後手2四歩の場合である(次の図)
変化5四歩図01
「5四歩」が盤上になかったら、ここは5二竜が詰めろになり、先手良しがはっきりしていた。
ところがこの場合は、「5四歩」がジャマをして竜を5四や5五に引けないので、5二竜は詰めろになっていない。なので5二竜では8八銀で後手勝ちになってしまうのである。
しかしここは別の勝ち方がある。3一銀と打つのである。2三玉と逃げれば、3五歩、同馬、3六歩で先手勝勢(3六同馬なら3九飛)
よって3一銀は、同玉。
以下4二金、2二玉、3二金、同玉、5二竜、4二香、2二金(次の図)
変化5四歩図02
2二同玉、4二竜、3二銀、3一銀、2三玉、3二竜、3四玉、5六金、4五金、4二銀成(次の図)
変化5四歩図03
このような感じで後手玉を上下から挟んで寄せて、先手勝勢。
6一竜図
【7】6一竜(図)は、受けに利かした意味と、それだけでなく、攻めの含みがある。たとえばここで後手
[L]7七歩 なら、4二歩、同銀、5二竜、3一銀、4二金と攻めて先手良しだ。
[M]9五歩 が、ここでも後手の有力手だが、この場合はどうなるだろうか。
この手には、先手は8七玉とする(次の図)
変化6一竜図01
8七玉(図)に、7四香が厳しい追撃だが、そこで先手3四歩が急所の一手(次の図)
変化6一竜図02
3四同歩なら6七金と打って、先手は角を入手する展開になるので、どこかで5五角のような王手が有効になる。これが3四歩の意味。
8八桂成、同玉、7七香成、9八玉、7八馬、3三歩成(次の図)
変化6一竜図03
3三同銀、8八金、9六歩、7八金、同成香、3四桂(次の図)
変化6一竜図04
3四同銀、6六角、3三歩、8七玉、8九成香、4一竜、3一金、5二竜、4二銀、3二歩(次の図)
変化6一竜図05
先手優勢である。
これは変化の一例にすぎないが、
[M]9五歩 に対し、正確に指せば、先手が良くなると思われる(ただし変化は多い)
変化6一竜図06
【7】6一竜 に、
[N]7八馬(図)が、調べておくべきもう一つの変化である。
この手には7九金と受ける。8九馬、同金、4九飛、6九歩、2九飛成、7七歩の進行は、先手良し。
7九金に7七歩がしぶとい手。これには8七銀と受け、先手玉はこれで受かっている。
それでも勝ちたい後手は8八香と食い下がる。
そこで先手は4二歩(次の図)
変化6一竜図07
4二同銀と銀を下がらせておけば、後で5四桂などの攻めが有効になる。
4二同銀に、8八金、同馬、同飛、同桂成、同玉(次の図)
変化6一竜図08
こうなって、先手の模様が良い。しかしここで後手の手が広く、実戦的にはまだまだ油断がならない。
ここで2八飛なら、7七玉、2九飛成、5四桂で先手優勢。
他に先手には5五角(次に3四桂)の狙いもある。
それらの攻め筋を考えて、この図で、5八飛と打つ変化を見ていこう。
5八飛、6八金、7八金、同銀、同歩成、同玉、7七歩、同玉、7六歩、同玉、5九飛成、6九歩、7四銀、8七玉、7六歩、7八金打(次の図)
変化6一竜図09
ここで後手が困っている。2九竜は5四桂が入るし、7七銀と打ちこむのは清算して続きの攻めがない。
7五銀としたいが、それは先手6五金と打って次に7五金で9三の馬も働いてくる。
1四歩と待つ手なら、5八香と打って、5二香成から攻めて行けばよい。
先手優勢。
以上の通り、
【7】6一竜 は、変化が多いが、どうやら先手良しになるようである。
6八角成図(再掲)
【1】8七銀
→ 後手良し
【2】8七金
→ 後手良し
【3】7七歩
→ 後手良し
【4】7九金
→ 後手良し
【5】4二歩
→ 先手良し
【6】5四歩
→ 先手良し
【7】6一竜
→ 先手良し
【8】3四歩
【9】4四歩 = 実戦の指し手
3四歩図
【8】3四歩(図)と打つ手も有力手で、これも先手良しになる。以下、その内容を示す。
3四歩に7八馬は3三歩成、同桂、7九金、8九馬、同金、3四歩、7七歩が変化の一例で先手良し。
3四歩に9五歩も有力だが、3三歩成、同玉(同桂は1一銀、同玉、4一竜以下後手玉詰み)、8七玉、7七歩、7九金で、やはり先手良し。後手玉が露出しているので、先手に有効手が多くなる。
というわけで後手は3四同歩と応じる。
そこで3三歩と打って、同桂に、4四歩(次の図)
変化3四歩図01
4四歩に代えて7九金もあるところ(この場合8八香は、同金、同桂成、同飛、7八金に2六桂があって先手良し。ただし7九金に9五歩が少々たいへん)
ここでは4四歩(図)以下の変化を見ていく。
4四同歩なら、4三銀と打つ手があって、先手勝ちになる(4三同銀は2一金以下詰み)
後手は9五歩(代えて7八馬なら7九金で先手良し)とし、先手4三歩成と進む(次の図)
変化3四歩図02
以下7八馬が先手玉への “詰めろ” だ。受けはない。
3二と、同玉、2一銀(同玉は詰み)、4二玉、4三歩、同玉、4一竜、4二歩、4九飛(次の図)
変化3四歩図03
まだ変化が多いが、読み切れば先手が勝てる。
4四銀は、4二竜、同玉、4四飛以下詰み。
4四香も、3二銀不成、5四玉、5九飛以下詰み。
4五香も、3二銀不成、4四玉、3六桂、5四玉、5九飛以下詰みがある。
4五桂が難しい。しかし4五桂には、8五歩の好手があって先手が勝てる。8五同金なら9三馬の利きが通って、後手玉に詰みが生じる。
5四玉にはどうするか。5九飛、5五香、同飛、同玉、5九香(次の図)
変化3四歩図04
飛車を切って、5九香で先手が勝てる。以下6五玉に、6一竜、6二歩、6六歩、同玉、5七金、7七玉、6七金打、同馬、同金、同玉、5八銀以下、先手勝ち。
このように、
【8】3四歩 は 先手良し。
6八角成図(再掲)
【1】8七銀
→ 後手良し
【2】8七金
→ 後手良し
【3】7七歩
→ 後手良し
【4】7九金
→ 後手良し
【5】4二歩
→ 先手良し
【6】5四歩
→ 先手良し
【7】6一竜
→ 先手良し
【8】3四歩
→ 先手良し
【9】4四歩 = 実戦の指し手(
先手良し)
【9】4四歩 も、先手良しになる。実戦で終盤探検隊は、この【9】4四歩 を選んだ。
つまり5つあった “正解” のうちの一つを選んだのである。
≪最終一番勝負 第79譜 指了図≫ 4四歩まで
先手の我々は、
▲4四歩 を選んで指した。
「激指14」がこの手を第一候補手として推していた。
この
▲4四歩 を同歩なら、4二歩、同銀、4三歩、同銀直、4二歩で、先手良しになる。
しかし当然、後手は別の手を指してくる。おそらく、9五歩だろう。
第80譜につづく