≪月3三歩図≫
[夜と月と狼]
――こんなにすばらしい月夜なのに、どこもかしこも、そこらじゅう死人だらけだ、と、おれはもの悲しく考えた。
(平井和正『狼男だよ』から)
≪月5二金図≫
この図の5二金が≪亜空間、月の道≫の入口である。終盤探検隊はこの後を調査中だが、いまだ先手の勝ち筋が発見できていない。(それが見つかればこの探検調査は終了にできるのだが…)
今調べているのは、ここで先手「2五玉」の手である。
≪月5一歩図≫
対して後手は、「5一歩」(図)が最善。
そこで先手がどうすればよいのか、それがわからない。今は「7七角」を調査中である。
ここから「7七角、4八と、2六玉」と進んだのが次の図である。
≪月2六玉図≫
今回はこの図以降の調査内容を報告する。
後手が5九とならば――
変化3一金図1
ここで3一金という手段がある。
次に3二金となっては後手負けなので、たとえば後手が3三金と受けたとする。すると3四歩で、これは先手が勝てる。
変化3一金図2
だから後手は4二金打と受けることになるが、この局面は形勢不明である。
ここから明解な先手の勝ち筋がまだ見つかっていない。だからもしかするとここはこの4二金打の受けで後手がよいのかもしれない。
≪月3三歩図≫
しかしこのような先手の手段をあらかじめ防ぐ「3三歩」(図)を本筋として見ていくことにする。(前回part20のレポートではこの図を<課題図>として示しておいた)
△3三歩と打つと、後手の守備は堅くなるが、反面、3三桂などの攻め筋がなくなってしまうという面もある。しかしここはその3三桂の筋に備えて先手が2六玉と逃げているので、このタイミングでの3三歩は“本筋”と思われるのである。
さて、先手の手番だが、後手には次に5九との金取りの楽しみがある。先手にとってここで何が有効となるのか。
(は)6八金、(ひ)3四歩、(ふ)4八金、(へ)4五金、この4つの手が有力手として考えられる。
まず(は)6八金から――
6八金図1
6八金として、とにかく後手に金を渡さないという手だ。6八金には、3八と。
そこで〔a〕3六玉と、〔b〕4八歩、がある。
〔a〕3六玉は、4五からの脱出をはかる意味だが、後手はそれを阻止して4四歩。以下、4四同角、4三銀、7七角、4四桂、4五玉、5三金(次の図)となる。
6八金図2
4三銀~4四桂が好手段で、先手玉は身動きが取れなくなった。しかたがないので、ここで4四角、同銀、5六玉とする。しかし――、先手にとって不幸なことにここで4五角(王手竜取り)があるのだ。
4五角以下、一例を示すと、6六玉、8一角、6二飛、5四角、6五銀、5五銀行、7七玉、6六飛、7六金(次の図)
6八金図3
6八飛成、同玉、6五角、同飛成、6四金、8五竜、7四金、8六竜、6六桂(次の図)
6八金図4
後手勝ち。
後手の穴熊も薄くなっているので、実戦なら先手にもチャンスはありそうな変化だが、正確に指されると先手に勝ち目のないながれである。
6八金図5
そこで「6八金図1」まで戻って、後手3八とに、〔b〕4八歩(図)を見てみよう。
これは、3七金、同桂、同と、3五銀、3四桂、同銀、同歩(次の図)が想定される。
6八金図6
ここで(イ)2九桂と、(ロ)3八歩、を調べる。
(イ)2九桂だと、3六銀、3七桂、同銀右成、5五角打(詰めろだが…)、1四桂、1五玉、3三銀直(次の図)
6八金図7
後手の勝ち。
6八金図8
上の変化は桂馬を渡したので1四桂と打たれてしまった。ということで、(ロ)3八歩(図)だが、これはどうだろうか。
だがそこで後手に2五桂(次の図)といううまい手があった。
6八金図9
以下、3七歩に、3五銀、2五玉、2四歩、3四玉、4四銀打で、次の図。
6八金図10
後手勝勢である。4四同角しかなさそうだが、同銀、2四玉、4六角、2五玉、3七角成で受けがない。
それにしても、この将棋、先手玉が単身で闘う姿は感動を誘うものがある。なんとか“先手の勝ち”を見つけ、あの孤軍奮闘の玉を救出したいものだ。
3四歩図1
≪3三歩図≫に戻って、2番目の手段(ひ)3四歩を見ていこう。後手は5九と(図)と金を取る。
そこで先手がどうするか。それが難しい。3三歩成としたいのだが、それは、同桂、3四歩、3七金、同桂、1四桂、1七玉、3七銀不成で後手の勝ちになる。
なので別の手が必要だ。〔c〕9一竜と、〔d〕6四角を考えてみた。
3四歩図2
〔c〕9一竜には、図のように3七桂という手がある。同桂、同銀不成、3五玉、4六金となれば後手の勝ちが確定だ。
そこで先手は3七桂に、3六香とする。2九桂成、3三歩成、3七銀不成、3五玉、3三桂(次の図)
3四歩図3
3三同角成、同銀直、4五玉、7六角(次の図)
3四歩図4
どうやらこれも“後手の勝ち”のようだ。
もう少し進めてみる。5六玉、8七角成、6一竜、3一歩(次の図)
3四歩図5
この図の3一歩で、後手4六銀不成などと指すと、2一金、同玉、3二銀、同玉、5二竜から後手玉が詰んで先手の勝ちとなる。それを見破っての“3一歩”である。これで後手優勢は変わらない。
以下は、3三香成、同銀、3六金(次に4七玉が狙い)、4六金、同金、4四桂、4七玉、4六銀成、同玉、3六金、5五玉、6三香(次の図)
3四歩図6
こうなって後手の勝ち。 どこまで行っても“孤独な先手玉”である。
先手には豊富な持駒がある。これで後手玉に詰みはないか。
詰み筋はある。2一金、同玉、3二銀だ。これを同玉と取ってくれると、5二竜から詰む。
しかし3二同歩で詰みなし。
3四歩図7
さて、では3六香としたところ(3四歩図2)で、換えて「3六金」(図)はどうだろうか。これは3七の地点も押さえている。
2九桂成、6四角、1四桂、1七玉、1九成桂、1五歩、5三金、同角成、2四桂(次の図)
3四歩図8
後手勝ち。
3四歩図9
さて、では〔c〕9一竜に換えて、〔d〕6四角を探査していこう。
6四角は攻防の角である。なかなか優れた手なのである。4一桂成や6一桂成とすれば3一の地点に角の利きが通るし、後手が3八金と指せば4六角で銀が取れる。
ここで後手が何をするかだが、3五金と打ちたくなる。しかしそれはどうも明解な決め手にはならないようである。
3四歩図10
我々終盤探検隊の調査では、ここでは“4四桂”が最有力と出た。これは7七の角の利きを3重に遮断する用心深い手だ。
ここで先手は6一桂成とする。角筋を通し、3一銀などの手を狙っている。
3四歩図11
そこで6三歩が落ち着いた手である。8六角引ならば7六金で後手は角を取りに行く。
なので先手は7三角成。後手は4九と。このと金を使う。
以下、8六角、3九と、3一銀(次の図)
3四歩図12
この3一銀は“詰めろ”なので放置はできない。3一同銀、同角成、2二銀、3二馬。
先手好調のようだが、そこで後手に4二金という絶妙手があった(次の図)
3四歩図13
この4二金の意味は、もしもここで後手が3六金、1七玉、2九と(先手玉への詰めろ)なら、2二馬、同玉、3一銀、同玉、4一飛、同玉、5一馬以下、後手玉のほうが先に詰んでしまう、その詰みを逃れるための4二金なのだ!
4二同馬と取らせて後手玉の詰めろを消し、そこで3六金、1七玉、2九と。これが次に2五桂、1八玉、2七金、同玉、3七金以下の詰みを見ている。
よって先手はその詰みを受ける必要があるが、2五飛は3五桂で受けきれない。
2五銀と受けてみる。これは3七金寄、3八銀、同金、3六銀、3七銀不成、2六歩、6四銀(次の図)と進んで――
3四歩図14
後手良し。
どうも先手の勝ち筋が発見できない。
次は3番目の候補手(ふ)4八金。
4八金図1
「4八金、同金」としてから、「3四歩」としたのがこの図である。
1四桂、1七玉、3八金、6四角、3六金、2五銀、3五金、2八金(次の図)
4八金図2
先手“6四角”に3六金だとこういう図となる。これは形勢不明である。
4八金図3
よって、“6四角”に、後手はこの図のように2九金とするほうが優ると思われる。
ここで先手は〔e〕4六角、または、〔f〕1五歩が候補手として挙げられる。
〔e〕4六角以下は、2五桂、1八玉、3八金、7八飛、1九金(次の図)が考えられる進行。
4八金図4
1九金という手があった。同玉に、1七香、1八金(1八銀だと同香成、同玉、2九銀、1九玉、1七桂成がある)、同香成、同玉、1七金、1九玉、3七桂成、2九香、2六桂、同歩、5三金(次の図)
4八金図5
2七に空間を開けて、5三金で桂馬を補充する。先手が3九桂と受ければ3六桂がある。
先手玉はまだ“必至”ではないが、この後手の攻めはほどけない。
後手勝勢である。
4八金図6
2九金に、〔f〕1五歩(図)を見ていこう。
これは2五桂、1六玉、3七桂成とすすむ。以下、4六角に、3六成桂が、次に2六金の詰めろになっている。
よって先手は3七銀。これで次の図となる。
4八金図7
4六成桂、同銀、1九金、3五金、1八金、9八飛、1七金打、2五玉、4七角、3六桂、2七金(次の図)
4八金図8
図以下、1四歩、2四香、同金、同歩、3五玉、5六角成となって、後手勝勢である。
4五金図1
4番目の手、(へ)4五金である。
この手に対し、5九とは、4八歩、同金、4六金、3四桂、3七玉、5八と、4九歩、同と、6一桂成(次の図)となる。
4五金図2
これは互角か、むしろ先手有望かもしれない分かれである。上の手順中、4九歩が好手だった。
したがって、後手は別の選択肢があればそれを選びたいところ。
4五金図3
そこで4五金には、3四桂でどうか。これを本筋として考えていきたい。
これを〔g〕同金と取るのが「激指」の推奨する手だが、〔h〕1七玉も有力な手だ。
4五金図4
まず、後手3四桂に、〔g〕同金の場合。
同歩、3一銀、3三桂、2二銀成、同玉、2五桂(これは3一銀、同玉、4一飛以下の詰めろになっている)、3六金、1七玉、2八銀(次の図)
4五金図5
この銀を取ると3七銀成から簡単に詰む。したがって、1八玉、2九銀不成、1七玉となるが、そこで4四桂で後手の詰みを消して、後手勝勢がはっきりする。放っておけば△2五桂までなので、3三桂成、同銀、2五桂とするが…
4五金図6
3七銀成(図)で受けなしに。後手玉に詰みがあればよいのだが、詰まない。
3四桂を〔g〕同金の分かれは、はっきり後手勝ちと言ってよいようだ。
4五金図7
後手3四桂に、〔h〕1七玉を調べる。
5九と、3五歩、5三金、2五銀(次の図)とすすむ。
4五金図8
この2五銀は後手からの2五桂を防ぐ意味である。
この局面の形勢は微妙である。ここでの後手の最善手はどうやら4四金。
以下、同金、同歩、3四歩で、次の図。
4五金図9
さて、ここが問題だ。凡人はここで3五金と打つだろうが、それでは後手は負けそうだ。3五金、4二金、3一金、同金、同銀、5一竜、4一金、5三角、2二銀、3一金、2五金、2一金、同玉、3三歩成…、こうなれば先手勝ち。どうも後手の3五金~2五金は少し攻めが遅いようだ。
ということで、この図での後手の手がむつかしい。
いったん受けるのはどうだろうか。受けておいて次の3五金を間に合わせようという狙い。
しかし3一金と受けるのは5一竜で、3五金に8六角で、これは先手の攻めのほうが早い。
4一金の受けも、4二歩、3一金、5一竜、3五金に、4三桂、同銀、4一歩成で、やはり先手優勢のようだ。
“正解手”は「3四同歩」である(次の図)
4五金図10
この手の意味は、大胆にも次に“3三桂”と跳ねようというのである。
たとえば先手4二金なら3三桂で、5一竜に、4一金(次の図)
4五金図11
これで後手勝ちというわけだ。(3三桂打ではなく、3三桂というのがすごい)
つまりこのケースの場合、3五金~2五金の攻めよりも、3四歩~3三桂~2五桂の攻めのほうがはるかに厳しい、速い攻めなのである。
持ち駒にもう一枚桂馬を持っているので、先手は当たりになっている銀を逃げても2五桂打とつながれてしまう。
ここで先手、3六角と頑張ってみる。以下、2五桂、同角、3七金、4一竜、2一桂で、次の図となる。
4五金図12
なお、この図の2一桂の手で、4一同銀と竜を取るのは、2一金、同玉、3三桂、同銀、3一飛、2二玉、3七桂で先手の勝ちになる。
この図は、先手玉に2八銀、1八玉、1九銀成以下の詰めろが掛かっている。
図以下、3七桂、同銀不成、3九金、4一銀、同金、3三桂(次の図)
4五金図13
ここで再度の、“3三桂跳ね”!
以下、3六金、2五桂、同金、4七飛(次の図)
4五金図14
4七飛で受けがないようだ。次に2八銀打からの詰みがあり、それを2八桂のように受けても、2六銀打、同金、同銀成、同玉、3五角以下の詰みがある。
後手の勝ち。
4五金図15
ということで、4二金に換えて、5一竜(図)だとどうだろうか。
5一竜には4一金と受ける。対して先手9一竜なら、3三桂と跳ねられる。
なので先手もここは4三金と張り付く。(同銀なら4一竜、3一金、4三竜でこれは先手にとって互角以上の変化となる)
後手は3一金打だが、以下3二金、同金右、6二飛、3三桂(次の図)となる。
4五金図16
やっぱりこの場合も、“3三桂跳ね”が有効手になるのだ。先手の攻めの狙い筋は3二飛成なのだが、後手の2五桂で先手玉が詰んでしまうので一旦は受ける必要がある。
3六銀打と受けて、2五桂、同銀、そこで3八金。
この3八金も2八銀以下の“詰めろ”なので、3九角と受ける。(2八桂は3九銀で後手勝ち。2八角も3三桂、3四銀、3七銀打で寄せられる)
そこで後手は4一金打といったん受ける(次の図)
4五金図17
ここで先手9一竜なら3九金、5九竜なら4七桂で後手良し。
よって、ここは3二飛成、同金で攻めの継続を計る。以下、3三歩、同金、4三桂。この4三桂を同金なら、3二金の意味である。
しかし後手3九金と角を取った手が、2八銀以下の“詰めろ”になっている。
先手はそれを防いで2八金(次の図)
4五金図18
いつのまにか後手の持ち駒が豊富になっている。
この2八金に換えて2八桂は、3五角、2六金、同角、同歩、3八銀で寄りである。
2八金に、後手は4三金と手を戻す。
そこで先手3二歩なら、3三桂、3七桂打、4八飛がやはり“詰めろ”で後手の勝勢となる。
4三金に、先手1五桂という手がある。後手は3二銀としっかり受ける。先手は8六角と角を攻めに使う。
そこでまたも“3三桂”だ(次の図)
4五金図19
この3三桂も、次に2五桂、1八玉、1七銀以下の詰めろなので、先手は2六歩と受ける。
以下、4七飛、3七歩、2九金で、次の図。
4五金図20
これで後手の勝ちがはっきりした。
図の2九金を同金は、2五桂、同歩、3七飛成から詰むし、図で3一角成は、3七飛成、2七金打、2五桂、同歩、2六銀以下の詰みとなる。
どうやら、≪月3三歩図≫からは先手に勝ちはないようだ。
ということで――
≪月5一歩図≫
〔ら〕4一銀 → 後手優勢
〔り〕9一竜 → 後手優勢
〔る〕3四歩 → 後手優勢
〔れ〕3三歩 → 後手優勢
〔ろ〕7七角(6六角) → 後手優勢
〔わ〕2六玉
この図で7七角(6六角)も「後手優勢」が確定となったのである。
そして〔わ〕2六玉について、次回に調査報告をしたい。
part22に続く
[夜と月と狼]
――こんなにすばらしい月夜なのに、どこもかしこも、そこらじゅう死人だらけだ、と、おれはもの悲しく考えた。
(平井和正『狼男だよ』から)
≪月5二金図≫
この図の5二金が≪亜空間、月の道≫の入口である。終盤探検隊はこの後を調査中だが、いまだ先手の勝ち筋が発見できていない。(それが見つかればこの探検調査は終了にできるのだが…)
今調べているのは、ここで先手「2五玉」の手である。
≪月5一歩図≫
対して後手は、「5一歩」(図)が最善。
そこで先手がどうすればよいのか、それがわからない。今は「7七角」を調査中である。
ここから「7七角、4八と、2六玉」と進んだのが次の図である。
≪月2六玉図≫
今回はこの図以降の調査内容を報告する。
後手が5九とならば――
変化3一金図1
ここで3一金という手段がある。
次に3二金となっては後手負けなので、たとえば後手が3三金と受けたとする。すると3四歩で、これは先手が勝てる。
変化3一金図2
だから後手は4二金打と受けることになるが、この局面は形勢不明である。
ここから明解な先手の勝ち筋がまだ見つかっていない。だからもしかするとここはこの4二金打の受けで後手がよいのかもしれない。
≪月3三歩図≫
しかしこのような先手の手段をあらかじめ防ぐ「3三歩」(図)を本筋として見ていくことにする。(前回part20のレポートではこの図を<課題図>として示しておいた)
△3三歩と打つと、後手の守備は堅くなるが、反面、3三桂などの攻め筋がなくなってしまうという面もある。しかしここはその3三桂の筋に備えて先手が2六玉と逃げているので、このタイミングでの3三歩は“本筋”と思われるのである。
さて、先手の手番だが、後手には次に5九との金取りの楽しみがある。先手にとってここで何が有効となるのか。
(は)6八金、(ひ)3四歩、(ふ)4八金、(へ)4五金、この4つの手が有力手として考えられる。
まず(は)6八金から――
6八金図1
6八金として、とにかく後手に金を渡さないという手だ。6八金には、3八と。
そこで〔a〕3六玉と、〔b〕4八歩、がある。
〔a〕3六玉は、4五からの脱出をはかる意味だが、後手はそれを阻止して4四歩。以下、4四同角、4三銀、7七角、4四桂、4五玉、5三金(次の図)となる。
6八金図2
4三銀~4四桂が好手段で、先手玉は身動きが取れなくなった。しかたがないので、ここで4四角、同銀、5六玉とする。しかし――、先手にとって不幸なことにここで4五角(王手竜取り)があるのだ。
4五角以下、一例を示すと、6六玉、8一角、6二飛、5四角、6五銀、5五銀行、7七玉、6六飛、7六金(次の図)
6八金図3
6八飛成、同玉、6五角、同飛成、6四金、8五竜、7四金、8六竜、6六桂(次の図)
6八金図4
後手勝ち。
後手の穴熊も薄くなっているので、実戦なら先手にもチャンスはありそうな変化だが、正確に指されると先手に勝ち目のないながれである。
6八金図5
そこで「6八金図1」まで戻って、後手3八とに、〔b〕4八歩(図)を見てみよう。
これは、3七金、同桂、同と、3五銀、3四桂、同銀、同歩(次の図)が想定される。
6八金図6
ここで(イ)2九桂と、(ロ)3八歩、を調べる。
(イ)2九桂だと、3六銀、3七桂、同銀右成、5五角打(詰めろだが…)、1四桂、1五玉、3三銀直(次の図)
6八金図7
後手の勝ち。
6八金図8
上の変化は桂馬を渡したので1四桂と打たれてしまった。ということで、(ロ)3八歩(図)だが、これはどうだろうか。
だがそこで後手に2五桂(次の図)といううまい手があった。
6八金図9
以下、3七歩に、3五銀、2五玉、2四歩、3四玉、4四銀打で、次の図。
6八金図10
後手勝勢である。4四同角しかなさそうだが、同銀、2四玉、4六角、2五玉、3七角成で受けがない。
それにしても、この将棋、先手玉が単身で闘う姿は感動を誘うものがある。なんとか“先手の勝ち”を見つけ、あの孤軍奮闘の玉を救出したいものだ。
3四歩図1
≪3三歩図≫に戻って、2番目の手段(ひ)3四歩を見ていこう。後手は5九と(図)と金を取る。
そこで先手がどうするか。それが難しい。3三歩成としたいのだが、それは、同桂、3四歩、3七金、同桂、1四桂、1七玉、3七銀不成で後手の勝ちになる。
なので別の手が必要だ。〔c〕9一竜と、〔d〕6四角を考えてみた。
3四歩図2
〔c〕9一竜には、図のように3七桂という手がある。同桂、同銀不成、3五玉、4六金となれば後手の勝ちが確定だ。
そこで先手は3七桂に、3六香とする。2九桂成、3三歩成、3七銀不成、3五玉、3三桂(次の図)
3四歩図3
3三同角成、同銀直、4五玉、7六角(次の図)
3四歩図4
どうやらこれも“後手の勝ち”のようだ。
もう少し進めてみる。5六玉、8七角成、6一竜、3一歩(次の図)
3四歩図5
この図の3一歩で、後手4六銀不成などと指すと、2一金、同玉、3二銀、同玉、5二竜から後手玉が詰んで先手の勝ちとなる。それを見破っての“3一歩”である。これで後手優勢は変わらない。
以下は、3三香成、同銀、3六金(次に4七玉が狙い)、4六金、同金、4四桂、4七玉、4六銀成、同玉、3六金、5五玉、6三香(次の図)
3四歩図6
こうなって後手の勝ち。 どこまで行っても“孤独な先手玉”である。
先手には豊富な持駒がある。これで後手玉に詰みはないか。
詰み筋はある。2一金、同玉、3二銀だ。これを同玉と取ってくれると、5二竜から詰む。
しかし3二同歩で詰みなし。
3四歩図7
さて、では3六香としたところ(3四歩図2)で、換えて「3六金」(図)はどうだろうか。これは3七の地点も押さえている。
2九桂成、6四角、1四桂、1七玉、1九成桂、1五歩、5三金、同角成、2四桂(次の図)
3四歩図8
後手勝ち。
3四歩図9
さて、では〔c〕9一竜に換えて、〔d〕6四角を探査していこう。
6四角は攻防の角である。なかなか優れた手なのである。4一桂成や6一桂成とすれば3一の地点に角の利きが通るし、後手が3八金と指せば4六角で銀が取れる。
ここで後手が何をするかだが、3五金と打ちたくなる。しかしそれはどうも明解な決め手にはならないようである。
3四歩図10
我々終盤探検隊の調査では、ここでは“4四桂”が最有力と出た。これは7七の角の利きを3重に遮断する用心深い手だ。
ここで先手は6一桂成とする。角筋を通し、3一銀などの手を狙っている。
3四歩図11
そこで6三歩が落ち着いた手である。8六角引ならば7六金で後手は角を取りに行く。
なので先手は7三角成。後手は4九と。このと金を使う。
以下、8六角、3九と、3一銀(次の図)
3四歩図12
この3一銀は“詰めろ”なので放置はできない。3一同銀、同角成、2二銀、3二馬。
先手好調のようだが、そこで後手に4二金という絶妙手があった(次の図)
3四歩図13
この4二金の意味は、もしもここで後手が3六金、1七玉、2九と(先手玉への詰めろ)なら、2二馬、同玉、3一銀、同玉、4一飛、同玉、5一馬以下、後手玉のほうが先に詰んでしまう、その詰みを逃れるための4二金なのだ!
4二同馬と取らせて後手玉の詰めろを消し、そこで3六金、1七玉、2九と。これが次に2五桂、1八玉、2七金、同玉、3七金以下の詰みを見ている。
よって先手はその詰みを受ける必要があるが、2五飛は3五桂で受けきれない。
2五銀と受けてみる。これは3七金寄、3八銀、同金、3六銀、3七銀不成、2六歩、6四銀(次の図)と進んで――
3四歩図14
後手良し。
どうも先手の勝ち筋が発見できない。
次は3番目の候補手(ふ)4八金。
4八金図1
「4八金、同金」としてから、「3四歩」としたのがこの図である。
1四桂、1七玉、3八金、6四角、3六金、2五銀、3五金、2八金(次の図)
4八金図2
先手“6四角”に3六金だとこういう図となる。これは形勢不明である。
4八金図3
よって、“6四角”に、後手はこの図のように2九金とするほうが優ると思われる。
ここで先手は〔e〕4六角、または、〔f〕1五歩が候補手として挙げられる。
〔e〕4六角以下は、2五桂、1八玉、3八金、7八飛、1九金(次の図)が考えられる進行。
4八金図4
1九金という手があった。同玉に、1七香、1八金(1八銀だと同香成、同玉、2九銀、1九玉、1七桂成がある)、同香成、同玉、1七金、1九玉、3七桂成、2九香、2六桂、同歩、5三金(次の図)
4八金図5
2七に空間を開けて、5三金で桂馬を補充する。先手が3九桂と受ければ3六桂がある。
先手玉はまだ“必至”ではないが、この後手の攻めはほどけない。
後手勝勢である。
4八金図6
2九金に、〔f〕1五歩(図)を見ていこう。
これは2五桂、1六玉、3七桂成とすすむ。以下、4六角に、3六成桂が、次に2六金の詰めろになっている。
よって先手は3七銀。これで次の図となる。
4八金図7
4六成桂、同銀、1九金、3五金、1八金、9八飛、1七金打、2五玉、4七角、3六桂、2七金(次の図)
4八金図8
図以下、1四歩、2四香、同金、同歩、3五玉、5六角成となって、後手勝勢である。
4五金図1
4番目の手、(へ)4五金である。
この手に対し、5九とは、4八歩、同金、4六金、3四桂、3七玉、5八と、4九歩、同と、6一桂成(次の図)となる。
4五金図2
これは互角か、むしろ先手有望かもしれない分かれである。上の手順中、4九歩が好手だった。
したがって、後手は別の選択肢があればそれを選びたいところ。
4五金図3
そこで4五金には、3四桂でどうか。これを本筋として考えていきたい。
これを〔g〕同金と取るのが「激指」の推奨する手だが、〔h〕1七玉も有力な手だ。
4五金図4
まず、後手3四桂に、〔g〕同金の場合。
同歩、3一銀、3三桂、2二銀成、同玉、2五桂(これは3一銀、同玉、4一飛以下の詰めろになっている)、3六金、1七玉、2八銀(次の図)
4五金図5
この銀を取ると3七銀成から簡単に詰む。したがって、1八玉、2九銀不成、1七玉となるが、そこで4四桂で後手の詰みを消して、後手勝勢がはっきりする。放っておけば△2五桂までなので、3三桂成、同銀、2五桂とするが…
4五金図6
3七銀成(図)で受けなしに。後手玉に詰みがあればよいのだが、詰まない。
3四桂を〔g〕同金の分かれは、はっきり後手勝ちと言ってよいようだ。
4五金図7
後手3四桂に、〔h〕1七玉を調べる。
5九と、3五歩、5三金、2五銀(次の図)とすすむ。
4五金図8
この2五銀は後手からの2五桂を防ぐ意味である。
この局面の形勢は微妙である。ここでの後手の最善手はどうやら4四金。
以下、同金、同歩、3四歩で、次の図。
4五金図9
さて、ここが問題だ。凡人はここで3五金と打つだろうが、それでは後手は負けそうだ。3五金、4二金、3一金、同金、同銀、5一竜、4一金、5三角、2二銀、3一金、2五金、2一金、同玉、3三歩成…、こうなれば先手勝ち。どうも後手の3五金~2五金は少し攻めが遅いようだ。
ということで、この図での後手の手がむつかしい。
いったん受けるのはどうだろうか。受けておいて次の3五金を間に合わせようという狙い。
しかし3一金と受けるのは5一竜で、3五金に8六角で、これは先手の攻めのほうが早い。
4一金の受けも、4二歩、3一金、5一竜、3五金に、4三桂、同銀、4一歩成で、やはり先手優勢のようだ。
“正解手”は「3四同歩」である(次の図)
4五金図10
この手の意味は、大胆にも次に“3三桂”と跳ねようというのである。
たとえば先手4二金なら3三桂で、5一竜に、4一金(次の図)
4五金図11
これで後手勝ちというわけだ。(3三桂打ではなく、3三桂というのがすごい)
つまりこのケースの場合、3五金~2五金の攻めよりも、3四歩~3三桂~2五桂の攻めのほうがはるかに厳しい、速い攻めなのである。
持ち駒にもう一枚桂馬を持っているので、先手は当たりになっている銀を逃げても2五桂打とつながれてしまう。
ここで先手、3六角と頑張ってみる。以下、2五桂、同角、3七金、4一竜、2一桂で、次の図となる。
4五金図12
なお、この図の2一桂の手で、4一同銀と竜を取るのは、2一金、同玉、3三桂、同銀、3一飛、2二玉、3七桂で先手の勝ちになる。
この図は、先手玉に2八銀、1八玉、1九銀成以下の詰めろが掛かっている。
図以下、3七桂、同銀不成、3九金、4一銀、同金、3三桂(次の図)
4五金図13
ここで再度の、“3三桂跳ね”!
以下、3六金、2五桂、同金、4七飛(次の図)
4五金図14
4七飛で受けがないようだ。次に2八銀打からの詰みがあり、それを2八桂のように受けても、2六銀打、同金、同銀成、同玉、3五角以下の詰みがある。
後手の勝ち。
4五金図15
ということで、4二金に換えて、5一竜(図)だとどうだろうか。
5一竜には4一金と受ける。対して先手9一竜なら、3三桂と跳ねられる。
なので先手もここは4三金と張り付く。(同銀なら4一竜、3一金、4三竜でこれは先手にとって互角以上の変化となる)
後手は3一金打だが、以下3二金、同金右、6二飛、3三桂(次の図)となる。
4五金図16
やっぱりこの場合も、“3三桂跳ね”が有効手になるのだ。先手の攻めの狙い筋は3二飛成なのだが、後手の2五桂で先手玉が詰んでしまうので一旦は受ける必要がある。
3六銀打と受けて、2五桂、同銀、そこで3八金。
この3八金も2八銀以下の“詰めろ”なので、3九角と受ける。(2八桂は3九銀で後手勝ち。2八角も3三桂、3四銀、3七銀打で寄せられる)
そこで後手は4一金打といったん受ける(次の図)
4五金図17
ここで先手9一竜なら3九金、5九竜なら4七桂で後手良し。
よって、ここは3二飛成、同金で攻めの継続を計る。以下、3三歩、同金、4三桂。この4三桂を同金なら、3二金の意味である。
しかし後手3九金と角を取った手が、2八銀以下の“詰めろ”になっている。
先手はそれを防いで2八金(次の図)
4五金図18
いつのまにか後手の持ち駒が豊富になっている。
この2八金に換えて2八桂は、3五角、2六金、同角、同歩、3八銀で寄りである。
2八金に、後手は4三金と手を戻す。
そこで先手3二歩なら、3三桂、3七桂打、4八飛がやはり“詰めろ”で後手の勝勢となる。
4三金に、先手1五桂という手がある。後手は3二銀としっかり受ける。先手は8六角と角を攻めに使う。
そこでまたも“3三桂”だ(次の図)
4五金図19
この3三桂も、次に2五桂、1八玉、1七銀以下の詰めろなので、先手は2六歩と受ける。
以下、4七飛、3七歩、2九金で、次の図。
4五金図20
これで後手の勝ちがはっきりした。
図の2九金を同金は、2五桂、同歩、3七飛成から詰むし、図で3一角成は、3七飛成、2七金打、2五桂、同歩、2六銀以下の詰みとなる。
どうやら、≪月3三歩図≫からは先手に勝ちはないようだ。
ということで――
≪月5一歩図≫
〔ら〕4一銀 → 後手優勢
〔り〕9一竜 → 後手優勢
〔る〕3四歩 → 後手優勢
〔れ〕3三歩 → 後手優勢
〔ろ〕7七角(6六角) → 後手優勢
〔わ〕2六玉
この図で7七角(6六角)も「後手優勢」が確定となったのである。
そして〔わ〕2六玉について、次回に調査報告をしたい。
part22に続く