はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part91 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2016年12月30日 | しょうぎ
≪煙7四角図≫

 我々終盤探検隊は、≪亜空間の主(ぬし)≫を相手に、≪亜空間戦争≫をたたかっている最中だ。
 ついに我々は求めていた「先手の勝ち筋」を見つけた、と思った。
 しかしこの≪亜空間将棋≫は、どちらかが望めば、時をさかのぼって(指手を戻して)、また闘いのやり直しができる―――そういう法則の特殊空間なのである。
 ≪ぬし≫は、またも手を戻してきたのであった。

 この将棋、もしかしたら、“終わりがない”のではないのか?


    [閉じこめられた可能性]
 頭(こうべ)をめぐらすと、いま、結晶星団が南東の地平をはなれ、青白くもえながらのぼってくる所だった。
 十四個の輝く恒星を、整然とした“神の檻”……そして、その中央に閉じこめられ、あらゆる物理観測を翻弄し、嘲笑し、拒絶する“謎の暗黒”……。
 今夜、アイは、その中心に挑むことになっていた。

 よくきた……わんわんひびく、奇怪な笑うようながいった。……よく来てくれた。宇宙開闢(かいびゃく)以来、このン・ンヘ――宇宙の封じ目へ来てくれたのは、お前がはじめてだ……。
「なにものだ?」と、アイはしめつけてくるエネルギーにもがきながらさけんだ。「ここで何をしている?」
 われわれは閉じこめられた可能性だ……と、「声」は嘲笑するようにいった。     
                                  (小松左京著『結晶星団』より)



≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   → 調査中   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 後手良し
 この≪夏への扉図≫から「先手の勝ち筋」を見つけることが、我々の課題となっている。
 ここで【い】3三歩を選択する。以下、同銀、3四歩、同銀、9一竜、5九金、6六角と進む。そこで後手が[炎]5五銀引と受け、9三角成、9四歩、3三歩、3一歩、4一飛と進むのが、我々がやっと発見した「先手の勝ち筋」である。

≪黒雲の図≫
 すなわち、この図である。

≪6六角図≫
  [炎]5五銀引  → 先手良し
  [灰]3三歩   → 先手良し 
  [炭]4四銀   → 先手良し
  [煙]4四歩   → 先手良し?
 しかし、それに至る前、先手「6六角」(この図)のときに、後手が [煙]4四歩とする変化を、≪ぬし≫は選び直してきたのだった。「こうしたらどうやって勝つんだ?」という挑戦である。
 その≪戦い≫も、一度は我々の勝利となったのであるが…
 [煙]4四歩以下、9三角成、8四金、8五金、7四歩、8四金、」同歩、同馬、8三歩、7四馬、7五金、同馬、同銀、8五玉、8四銀、9四玉、7四角と進んで次の図となる。

≪煙7四角図≫
 ここで7六角と打って、先手良し―――ということで、ここから先には進まなかった。最初の闘いでは。

煙図01
 「7六角」(図)と打つ手。この手が絶好にみえる。後手玉への“詰めろ”であり、後手の狙いの「9三歩、同竜、8五銀以下の攻めを防いでいる。
 だから後手はここで3二歩と打つしかない―――と思ったのが、我々の思考の誤りであった。
 たしかに、ここで3二歩なら、9三金として、先手良しだ。

 だが、≪ぬし≫は、次の手を示し、再チャレンジしてきたのだ。

煙図02
 「7六角」に、9三歩、同竜、同銀、同玉と、あっさり先手玉の“入玉”を許すというのが、我々の考えの盲点を突いていた。その後に、3二歩と受けるのだ。
 問題は、その後にどうなるか、どちらが勝つか―――ということである。

 9三歩、同竜、同銀、同玉、3二歩、8二玉、7七飛、7五飛、2九角成、7三歩、6五歩(次の図)

煙図03
 これはソフト「激指」は、「互角」と示しているが、“先手が勝ちきれるのか?”と考えると、それはちょっと自信がない。 先手玉のみ“入玉”しているのだから、先手の負けはないとは思うが…。 

煙図04
 やり直しだ。どうやら後手3二歩の次、先手は3三歩(図)が最善の手のように思われる。これを同桂は、なんと2一金、同玉、4一飛から“詰み”がある。
 よって、後手は3三同玉と応じるしかなく、以下想定手順は、3一飛、4五歩、3二角成、4四玉、2一馬、4三金(次の図)

煙図05
 こうなる。この図は、さて、先手は“勝てる”のだろうか?
 この後手玉を捕獲するのは相当苦労しそうだし、また“相入玉”になった場合を考えると、先手の大駒は2枚(=10点)、確保できている小駒(持駒)は10枚、合計20点。この将棋のルールは24点法なので、あと4点取れば先手に負けはない。それは簡単に実現できそうだ。しかし、“勝つ”には、あと11点、すなわち小駒を11枚確保しないといけない。それができるだろうか?
 やはり「持将棋引き分け」が、可能性として大きいと思われる。

 『黒雲作戦』によって、我々は「勝ち筋」をついに見つけた、と大いに喜んだ。であるから、もはや「引き分け」では、不満である。我々は、“勝ちたい”のだ。

煙図06
 もう一度、“やり直し”だ。
 「7六角」では勝ちきれないようなので、その手に代えて、「8六香」(図)ではどうだろう。
 以下、9三歩、同竜、同銀、同玉、2九角成、8二玉、6五馬(次の図)

煙図07
 これもやはり、“勝ちきる”のは難しそうに見える。7三歩でと金をとりあえずつくりたいが、7一歩(同玉なら6二銀でやっかい)と防がれる。7二歩は、5五馬とされ、先手が悪そう…。
 ということで、どうも先手玉は“入玉”したのだけど、まだ安全ではなく、なかなか敵を攻めていけない状況である。

 困った…。もしかして、これは先手に“勝ち”がない道に入っているのだろうか。
 そうだとすると、『黒雲作戦』の局面にまで持っていけないので、せっかく見つけたと思った「先手勝ちの道筋」が、まぼろしとなってしまう…。

 だからなんとしても≪煙7四角図≫は“先手勝ち”にしなければいけない。
 見つけるのだ! “勝ち”の道を!

煙図08
 その願いが天に届いたか、我々は、「勝ち筋」を見つけることに成功した!
 後手7四角に、「9二金」(図)と打つのである。冷静になってみれば、当然こう指すところである。
 「7六角」や「8六香」で、なぜ先手が良い結果を得られなかったかといえば、9三歩以下、先手の竜と後手の銀との交換になり、先手後手の大駒(飛車角)の数が2対2になってしまったからである。
 だから、“先手は竜を敵に渡さず入玉する”という条件をクリアーする必要があったのだ。後手に大駒を2枚持たせてはいけない。
 この「9二金」なら、その条件をクリアーできるのだ。

 図以下は、2九角成、8六香、7四馬、7二飛が予想される手順(次の図)

煙図09
 6三馬、7三歩、同銀、8三香成、7四銀、8二金(次の図)

煙図10
 7二馬、同成香、7九飛、9三玉、6三銀、6五角、3一歩、8三角成、3三玉(次の図)

煙図11
 この図は、はっきり先手が勝てるとまでは言えないが、しかし勝ちが十分見込める図になっていると思うのである。

 よって、≪煙7四角図≫は、「9二金」で先手良し、を結論とする。

≪6六角図≫
  [炎]5五銀引  → 先手良し
  [灰]3三歩   → 先手良し 
  [炭]4四銀   → 先手良し
  [煙]4四歩   → 先手良しが確定

 これで、この図は「先手良し」が確定したことになる。
 (しかし奴はそれを認めるだろうか)


 我々――終盤探検隊――は、やっと手に入れた優位、「先手の勝ち筋」を失わずにすんだことに、とりあえずホッとした…。

 しかし、心の底で、もやもやした不安が沈殿していた。
 ここまで我々は「先手の勝ち筋」を見つければ、それでこの≪戦争≫はおわりなのだと思ってがんばってきた。
 ところが、求めていたそれを手に入れた瞬間に、悟ったのだ。 相手が「参りました」と負けを認めない限りは、この戦いは無限に続く可能性があるのだと。こっちが「これで先手が勝ちだ」と言っても、敵が「いやちがう、ここからもう一度やり直そう」と言って、無限に抵抗してきたらどうなるのだ。
 我々の探してきた「先手の勝ち筋」は、何も意味がなかったのではないか―――。

 実は少し前、奴――≪亜空間の主(ぬし)≫――は、我々に話しかけ、ある提案を持ちかけてきたのだった。
 その提案とは、「最終一番勝負でこの闘いの決着をつけようではないか」という提案だった。その時に我々が思ったことは、「自分が不利になったとたんにそれを言い出すなんて、ずるいやつめ」ということだった。その提案をだからその時は無視した。返事をせず、スルーしたのだった。

 しかし、ここにきて、我々は悟った。このままでは、終わりがないと。
 奴の提案は、まともな意見だったのだと。



 「一番勝負」で決着をつけよう。


                       『終盤探検隊 part92』につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part90 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2016年12月26日 | しょうぎ
≪6六角図≫
 
 この図から後手5五銀引に、9三角成。そこで9四歩が後手の最強手だったが、終盤探検隊はついに“解”を得たのである。「3三歩、3一歩、4一飛」。(これを『黒雲作戦』とした)
 探求の結果、この道は、「勝利」へとつづく道であると我々は確信した。
 ずっと苦しい闘いだったが、ここにきてはじめて先手番を持つ我々終盤探検隊が敵に対して優位に立ったのだ。

 ところが―――我々が闘う相手、≪亜空間の主(ぬし)≫が、まだあきらめない。 時を巻き戻して、また“別の手”を繰り出してきたのだ。


    [超時空間]
「――人間が、三七世紀、はじめて亜空間航行を達成し、同時にはじめて、長年の宿願である時間旅行を達成した時、“超越者”のルールは、すでにそこにあった。われわれの旅行は、“超越者”の僕(しもべ)と名のる未来人たちによって、きびしく監視され、制限されてきた。」

果てしなき流れの果てには、なにがあるのか?
突然、アイは、上昇をはじめた。――滔々と流れ行く超時空間に、直交する方向へ向かって。
とまれ
階梯概念が指示した――だが、彼は、それにさからって、上昇をつづけた。     
                                  (小松左京著『果てしなき流れの果てに』より)



≪6六角図≫
 ≪亜空間戦争≫は、多重並行世界(パラレルワールド)の戦争なのだ。
 たとえ負けても、手をさかのぼってまた何度でもやりなおせる。
 ≪主(ぬし)≫は、この≪6六角図≫まで手を戻し、ここからまた戦おうと言っている。
 ≪主(ぬし)≫は、“3三歩”と、彼の見えない指で着手してきた。

≪3三歩図≫
 [炎]5五銀引  → 先手良し
 [灰]3三歩
 
 この後手が3三歩と打つ形は、後手の玉が閉所に閉じ込められたようなところもあり、直感的には、「先手に勝ちがある」と我々は感じていた。だが、直感ではそうであるのに、ソフトを駆使しても、なかなか“先手の正解”にたどり着けず、我々は少々焦った。そんなはずはない…、と。
 そうして、ようやく答えを見つけることに成功し、安堵した。答えは一つではなく、複数あるようだった。
 たとえばここで(G)7二飛と打つのもその答えの一つ。(7二飛以下は、6二歩、7三歩成、7五歩、8六玉、6七と、の手順が予想される)

 しかし我々が以下に紹介するのは、まず(H)9三角成とする手順である。

3三歩図01
 [灰]3三歩に、(H)9三角成。
 そこで後手の有力手は、〔1〕8四金と、〔2〕9四歩の2つがある。

 まず〔2〕9四歩(図)から。(この場合はこちらのほうが簡単なので)
 ここで先手は8二飛と打てばよい(次の図) 

3三歩図02
 この手は、3二金、同玉、5二飛成以下の“詰めろ”になっている。 なので後手は6二歩と受ける。
 そこで“8三飛成”とすれば、先手玉の8五玉からの“入玉”はもう遮る手段が後手になく、あっさり先手の優位が確定である。

3三歩図03
 そういうわけで、後手は先手(H)9三角成に、〔1〕8四金(図)が優る。
 この8四金には、今までも見てきたように、先手は8五金と道をこじ開けに行く。以下、7四歩、8四金、同歩、同馬と進む。そこで後手<a>8三歩(次の図) 

3三歩図04
 (先手6六角に)[炎]5五銀引のケースでは、ここで先手は8五玉(以下、8四歩、9四玉)しかなかった。(その時の分かれは「互角」だった)
 しかしこの場合は先手にここで「7四馬」の選択肢がある。[炎]5五銀引の時には7四馬には8四金があってダメだったが、この場合は、8四金なら5二馬として、この手が後手玉の“詰めろ”にもなっているので、先手の攻めのほうが早い。後手が3三歩を打って玉を狭くしているためにそういうことになったのである。

3三歩図05
 しかし、7四馬には、この図のように、「7五金」という手があって、これが警戒すべき手だ。同馬、同銀、同玉だと、6四角で、“王手竜取り”になってしまう。
 だから先手は、7五同馬、同銀、8五玉と銀を取らずにかわす。以下、8四銀、9四玉となり、そこで後手は7四角(次の図)

3三歩図06
 この7四角も見かけ以上に手ごわい手で、たとえば先手が油断して3二歩などと攻めの手を指せば、痛い目に合うことになる。すなわち、3二歩に、9三歩、同竜、8五銀、9五玉、9四歩、同竜、同玉、9二飛、9三香、9二桂(次の図)

3三歩図07
 これは先手大失敗の図である。

3三歩図08
 よって、戻って、7四角には、8六香(図)と、受ける必要がある。
 このまま8四香と銀を取れれば先手優勢がはっきりするので、後手もあばれてくる。
 9三歩、同竜、同銀、同玉、8四歩、8三銀、2六角成、4一金(次の図)

3三歩図09
 4一金と、先手に待望の攻めの手番が来た。
 これを後手は3一桂と受ける。以下、想定される手順は
 7四歩、3五銀引、7三歩成、1九馬、7四歩、6九飛、5四歩、4二銀、7五角(対して6四歩なら6三とがある)、6四馬、同角、同飛成、7二飛(次の図)

3三歩図10
 後手玉の脱出ができないし、受けづらく、先手優勢である。
 6二歩には、6三歩がある。 また9一香には、8二玉、6一竜、8一金で、後手の攻めは続かない。

3三歩図11
 戻って、<a>8三歩に代えて、<b>7三金(図)と打ってきた場合。
 これには9三馬とする。以下、8四歩、8六玉、8三桂(次の図)

3三歩図12
 ここで8二飛と打つ手がある。上でも出てきたが、これは5二飛成以下“詰めろ”である。なので後手は、7五銀、9六玉の後、6二歩と受けるが、そこで先手は8三飛成、同金、同馬と二枚替えだ。この場合は馬を残すほうが入玉しやすい(角を渡すと後手5八角があるから)
 8二飛~8三飛成があることは、後手はわかってはいても、先手の“入玉”を防ぐには8三桂しかないのである。
 そして、9三歩、7九香で、次の図となる。

3三歩図13
 9三歩は同馬と取ってもよいが(同竜は8一桂が生じる)、図の7九香で後手の銀を取ってしまうほうがわかりやすい。
 以下、6九飛なら、7五香、6六飛成、8六銀でよい。先手優勢。
 先手の“入玉”は決定的となった。しかしもはや“入玉”せずとも、先手玉の安全がよりはっきりしてきたら、4一銀のような攻めを決行すればよい。

 これで、<b>7三金も先手良しだ。


≪3三歩図≫
 以上より、[灰]3三歩は、9三角成とし、後手〔1〕8四金と〔2〕9四歩のいずれも先手優勢になる。

 これで、[灰]3三歩は「先手良し」、が決定した。
 我々が勝利したのだ。



 しかし、またも、時は巻き戻され、同じところ同じ場面まで盤面が戻されてしまったのである。
 ここから、また“新たな次の戦争”の始まりだ。

≪6六角図≫
  [炎]5五銀引  → 先手良し
  [灰]3三歩   → 先手良し

 また、ここで、[炭]4四銀には、5三歩で、先手良しである。
 “敵”(ぬし)が新たに出してきたのは、[煙]4四歩であった。(次の図)



≪4四歩図≫
 [灰]3三歩のときは直感的に「これは先手勝てる」と感じたが、この[煙]4四歩の図はまったく先が見えない気がした。急所は、どこだろう?

 たとえば9三角成、9四歩、3三歩、3一歩、4一飛と、[炎]5五銀引に対して行った指し方(黒雲作戦)を採った場合……、3三桂、9六歩、8四金となって―――

参考図a
 この図になる。しかしこの場合は“後手良し”になってしまうのだ。4三に空間が空いているために後手玉が広くなっていて、そのために8四馬からもう一枚金を補充しても、それでも後手玉は詰まないのである。
 これが後手番の《主(ぬし)》の狙いだったのだ。

 となると、先手(我々)は、また別の攻め筋を採用しなければいけない。

≪9三角成図≫
 まず、9三角成とする。
 そこで後手の手は、やはりここでも2つ、〔1〕8四金と〔2〕9四歩がある。

≪8四金図≫
 まず、〔1〕8四金。
 以下はやはりさっきと同じように、8五金、7四歩、8四金、同歩、同馬、そして<a>8三歩と進みそうだ。
 (この<a>8三歩ではやはり<b>7三金もあり、それは後でやる)

4四歩図01
 ここで7四馬が通るかどうかが一つの山になるが、この場合はOKだ。

4四歩図02
 7四馬に後手8四金なら、この場合も5二馬が後手玉の“詰めろ”になっているし、5二馬を同歩でも詰む。その詰み手順を確認しておくと、3二金、同玉、3一飛、4三玉、3二角(次の図)

4四歩図03
 以下、3三玉、5四角成、2四玉、1五金、3五玉、3六香まで。

4四歩図04
 さて、7四馬まで戻って、したがって後手はここでも図の7五金しかない。
 同馬、同銀、8五玉、8四銀、9四玉、7四角、7六角(次の図)

4四歩図05
 7四角まで、[灰]3三歩の時とまったく同じ進行になる。違うのは後手の陣形だ。それによって、結果がどう変わるか。
 今回は、そこで7六角がある(図)。
 後手玉に“詰めろ”をかけつつ、8五にも利かせ、後手の狙いの9三歩、同竜、8五銀と防いでいる。後手は3二歩と受けるが、これによって、先手は“もう一手”を指すことができる。
 すなわち、後手3二歩に、9三金と打って、先手良しとなる。
 (しかしこの見通しは甘かったことが、後になって明らかになった)

4四歩図06
 (<a>8三歩に代えて)<b>7三金(図)の場合。
 以下、9三馬、8四歩、8六玉、8三桂、7六歩(図)

4四歩図07
 [灰]3三歩の時より後手陣が攻めにくいので、ここは8二飛と打つ前に、図のように7六歩として、後手の7五銀の進行を阻止しておくほうが良いようだ。
 この図で、後手の有効な手がはっきりしない。ということは、ここは先手が少し模様良しかもしれない。
 後手7五歩として、その後を見ていこう。以下、8二飛(5二飛成からの詰めろ)、6二歩、8三飛成、同金、同馬、8五飛、9六玉(次の図)

4四歩図08
 すんなり先手玉が“入玉”できれば、先手良しになる。だから後手も必死でそれを阻止してくる。だが後手の持駒は桂と歩だけ。
 7六歩、8六金、3五飛、6五歩(次の図)

4四歩図09
 先手優勢だ。 6五同銀なら、3六香。 6五同飛は、同馬、同銀、2六桂。

〔1〕8四金は「先手良し」で確定。



≪9四歩図≫
 さて、〔2〕9四歩だが、これが難敵。
 ここで「3三歩、3一歩、4一飛」の『黒雲作戦』の攻めは、この場合は通用しないと先ほど述べた。また「3三歩、3一歩」だけでも利かしておこうという考えはあるも、3三歩を“同玉”(次の参考図)とされたときも、先手がいいのかどうかわからない。

参考図b
 この図は形勢不明。 この場合は3三玉が攻めにくく、たとえば3一飛、3二歩、1一角、4三玉のようになると、すこし先手が悪いかもしれない。後手玉には4三玉~5四玉という脱走経路があるのである。

≪8六角図≫
 しかし、我々はソフト「激指」の力を借りて、この難局を乗り切っていくことができたのである! (どうやらよい流れが我々終盤探検隊のほうに来ている!!)
 後手の9四歩、「8六角」と打つのだ! これが絶好打なのだった。
 この角は「7五」と「9五」に利いており、後手がなにも対策をしなければ、先手は8五玉とし、以下9五金、同角、同歩、9四玉のように、“入玉”が確実になり、先手良しだ。
 したがって、ここは後手は8四金しかないところ。

≪6五歩図≫
 そこで6五歩(図)だ。 7五銀なら、同角、同金、同馬で、圧倒的に先手良し。5五銀上とするのも、7二飛、6二歩、7三歩成で先手良しだ。
 お互いにとって、ここが勝負どころである。 後手の有力な候補手は次の4つ。
  <k>6五同銀
  <l>7四金
  <m>7四歩
  <n>7二桂

 それらの手を一つ一つ、先手を持つ我々は潰していかねばならないわけだ。

参考図c
 ところで、[炎]5五銀引のときには、この8六角~6五歩は通用しない。この図は、「5五銀引型」で、この攻めを敢行し、先手の6五歩に、後手“5六と”とした場面。
 これは次に後手からの6六とで詰まされるので、先手は7七玉だが、以下、6六銀、8八玉、7六桂、9八玉、7五銀上(参考図d)

参考図d
 以下、5九角に6八歩。 これは後手良し。

4四歩図10
 先手の6五歩に、<k>6五同銀とする変化は、以下同玉、7四金、6六玉、6四桂、4一銀(図)が想定される。この図、先手玉はほうっておくと6五桂と打たれて受けなしになってしまう。
 4一銀は後手玉への詰めろだから後手はこれを3一歩と受ける。(4二金、5一竜、4一金、同竜は先手良し)
 そこで先手は7九香が良いようだ。7四の金を取られてはいけないので、後手は6五歩とし、7七玉に、8五金と、金を出てくる。
 しかしこれは“足りない攻め”で、先手は5二銀成、同歩、4一飛と攻めることができる(次の図)

4四歩図11
 4二銀打と受けても、6四角で先手勝ち。
 したがってこの図では後手3三玉ということになるが、3一飛成、3二歩、4一竜左、4三銀、2五金、3四銀打、6四角、2五銀、4六角となって、やはり先手勝勢となる。

4四歩図12
 <l>7四金とする変化は、以下、6四歩(銀を取った)、8四桂(王手)、7七玉、8五金となって、この図となる。
 この図を見ても、後手の4六銀が働いていないので、後手の攻め駒が不足気味なのが感じられるだろう。とはいえ、現実は“角取り”になっていてこの角は逃げられない。
 先手はここで、9四馬と馬を活用する。7六金と出る手を防いでいる。
 そこで後手6五桂は、6六玉と逃げて、先手が良い。以下、角を取る8六金には、7五玉と、曲芸のような玉さばきで、先手玉は捕まらない。
 9四馬には、「激指」は6七とを推奨しているので、その変化を追って行こう、
 以下、6七と、同玉、8六金、同歩、4九角、7七玉、6五桂、8八玉で、次の図。

4四歩図13
 9四角成、同竜、6六角、9八玉、7七桂成、8九金(次の図)

4四歩図14
 以下、7六桂に、8七金と受けて、これで後手の攻めは止まった。
 後手の攻めが止まれば、3三歩、3一歩、6五角のような攻めで、先手が勝ちになる。
 後手<l>7四金も先手良しと判断する。

4四歩図15
 3番目の候補手<m>7四歩(図)。
 これには当然先手は6四歩だが、そこで7三桂が後手のねらいの手。次に8五金とするつもりだ。
 先手は5九角と金を取りながら、角を退避させる。
 以下、8五金、7七玉、6五桂、8八玉、6八と(次の図) 

4四歩図16
 この図はまだ、どちらが良いのかわからない。
 6八とを同角は7六桂がある。 次に後手は7六桂、9八玉、7七桂成が指したい手だ。
 先手は4一銀と攻めるような手もありそうで、迷うところだが、我々終盤探検隊は、ここでの最善は6六馬ではないかと判断した。(6六馬、5九と、6五馬は先手良し)
 以下の想定手順は、7六桂、9八玉、7五金(先手6五馬は許せない)、4一銀、3一歩、3三歩、同桂(次の図)

4四歩図17
 図の3三同桂に代えて「同玉」もあるが、1五角、2四歩、5六馬、7七桂成、8九金は先手良し。
 ここで先手はまた迷う。5六馬、7七桂成、8九金で先手良しかもしれない。
 ただし我々が追及して見つけた勝ち方は、次に示す別の手だ。 

4四歩図18
 3二香(図)と打つ。歩があればもちろん歩でよいところだが、ないので、3二香だ。これを同歩なら、5二銀成(詰めろ)で先手勝ち。後手が角を得ても、まだ先手玉は詰まない。
 よって後手は4二銀と受ける。以下、先手は4四馬。
 そこで後手5九と(角を取る)なら、3一香成、同銀、3四馬で、後手玉に3二金以下の“詰めろ”がかかっていてそれで先手勝てる。
 後手は7八とのほうが厳しい手になる。先手は5二銀成。次の図となる。

4四歩図19
 5二銀成(図)を同歩は、2一金、同玉、3一香成、同銀、1一飛以下の“詰み”。
 実はこのままでも後手玉には“詰めろ”がかかっている。その手順は、2一金、同玉、3一香成、同銀、3二金(次の図)

4四歩図20
 3二同玉(同銀は3一飛、同玉、5一竜)、4二飛、同銀、同成銀、同玉、4三歩、同銀、5三金以下。
 (途中4二飛に2一玉は、3二金、同銀、5一竜、3一金、3二飛成、同玉、4二成銀以下)

 だから前図から後手が指すとすれば、8八桂成、同馬、同と、同玉と先手の馬を消して、そこで5二歩くらいだが―――

4四歩図21
 それには4一竜(図)で先手勝勢。

 後手<m>7四歩も先手良しと決まった。 

4四歩図21
 さあ、残るは第4候補の<n>7二桂(図)だけだ。これを勝てばこの難局をクリアーできる。
 <n>7二桂に、6四歩だと、同桂、7七玉、6六歩、3三歩、6七歩成、8八玉、3一歩は、先手苦戦。どうやら簡単に後手に6四歩、同桂からあの桂馬を捌かせてはいけない。
 ということで、この図では、3三歩と手裏剣を投げ入れる。
 これを同玉は3一飛、3二歩、2一飛成で、先手やや良し。(同桂は後で示す)
 後手は3一歩と受け、先手は3九香と打つ(次の図)

4四歩図23
 この3九香に3五桂は、後手の攻め駒が減り、9二飛で先手良しになる。
 また、4三銀も、同じく9二飛で先手良し。
 3四銀取りを放置して、7四歩が有力手だが、6四歩、同桂、7七玉、6六歩、8八玉、6七歩成、3四香、3三桂、3六飛(次の図)

4四歩図24
 これも先手良しだ。

4四歩図25
 よって、先手の3九香に、3三玉が最強手ではないかと思う。
 対して先手は6一竜(図)と竜を活用する。この手の第1の意味は、7二竜と桂馬を取ることである。と同時に竜を戦場へと接近させた。
 後手はここで7四歩。次に7五銀を見せて、先手に6四歩を強要する手だ。
 すなわち、この図から7四歩、6四歩、同桂と進み、先手はこれを同角と取る。以下、同銀、同竜で、次の図。

4四歩図26
 このとき、後手玉には、先手2五桂からの“詰めろ”がかかっており、この図は先手優勢である。細かいところだが、先手が3九香と打った手で、3八香だったら、この図の場面で4九角で王手香取りになるところだった。だから香車は3九から打つのが正解ということになる。

4四歩図27
 戻って、後手の7四歩の手で、他の手を探してみよう。図の4九金はどうか。3九の香車を取りに行く手だ。
 以下、3四香、同玉。
 これで後手に香車が入ったので、7五香と後手から打つ手ができた。それは困るので、先手は6四歩と銀を取る、以下、同桂、同角、同銀、同竜、6七角、7七玉(次の図)

4四歩図28
 この場合も先手優勢で、実は後手6七角を同竜と取って、同とに、5六角から後手玉に“詰み”があるようだ。とはいえ、その“詰み”は変化が広いので、見送った。この図の7七玉でも、先手が勝てる将棋だ。
 ここでたとえば後手6二香なら、先手は2五銀と打ち、同玉なら、4四竜で寄り、3三玉と逃げれば、4一飛と“詰めろ”をかけて先手勝ち。

4四歩図29
 最後に、先手の3三歩に、同桂(図)と応じるとどうなるかを見て行こう。
 先手はここでも6一竜がよいと我々は考えた。以下、7四歩、6四歩、同桂、7七玉、6六歩、1一銀(次の図) 

4四歩図30
 この1一銀が狙いすましたかっこいい手だ。同玉なら、3一飛と打って、2一銀に、3二金で“必至”をかける。
 また1一銀に3一玉は、8四馬と金を取って、2二金以下後手玉“詰み”。
 よって後手は3二玉と逃げることになる。
 そこで5四香と打つ。かっこいい手の第2弾だ。これを同銀は、2二飛、4三玉、5二竜から“詰み”。
 後手も攻める。6七歩成、8八玉、7六桂打、9八玉、7八と、9六歩(次の図) 

4四歩図31
 9六歩で、先手は“詰めろ”から逃れている。
 なお、後手の7六桂打で、単に7六桂と跳ねると、8六の角が5三にまで通って、後手玉に2二飛、4三玉、5三角成という“詰み”が生じてしまう。だから“桂打”と打った。
 ここからは仕上げだが、4三玉に、5三香成、同金、7一馬と、あそんでいた馬を使う。5二歩に、5三馬(次の図)

4四歩図32
 5三同歩に、4二飛、5四玉、6四竜以下、“詰み”。(詰み手順は省略)

 <n>7二桂も先手勝ちと確定した。

≪9四歩図≫
 これで後手の有力手はすべて潰したので、この図、≪9四歩図≫は「先手良し」、が結論となる。


 もう一度戻って≪6六角図≫…

≪6六角図≫
  [炎]5五銀引  → 先手良し
  [灰]3三歩   → 先手良し 
  [炭]4四銀   → 先手良し
  [煙]4四歩   → 先手良し

 [炎]5五銀引には(9三角成、9四歩の後)、「3三歩、3一歩、4一飛」(黒雲作戦)と指し、[灰]3三歩には8二飛、[煙]4四歩のときには「8六角、8四金、6五歩」という攻めで、先手良しになると解明されたのであった。

 なんと気持ちの良い結論だろう!!!

 ところが―――――


 またまた奴―――≪亜空間の主(ぬし)≫―――は、時を巻き戻して再勝負を挑んできたのである。「お前の勝ちはまだ認めないぞ」ということだ。

(再掲)
 この図はすでに見てきた図だ。
 ≪6六角図≫から、4四歩、9三角成、そこで〔1〕8四金と後手が応じ、以下、8五金、7四歩、8四金、同歩、同馬、8三歩、7四馬、7五金、同馬、同銀、8五玉、8四銀、9四玉、7四角と進んで、先手が7六角と打ったところだ。

 ≪亜空間の主(ぬし)≫はこう言った。
 { お前たちは勝ったつもりでいる。だがほんとうにそうだろうか。たしかにこの図で私は先ほどは負けたと思ったので投了した。7六角に、3二歩、9三金…たしかにそれはこっち(後手)がわるいか…}

 {だが、この図で“9三歩”だとどうなる? }

 { さあ、もう一勝負だ } 嬉しそうに≪主(ぬし)≫がそう言った。


 嫌な感じがした。この勝負、勝っても勝っても、終わりがない闘いなのではないか。

≪9三歩図≫


                          『終盤探検隊 part91』につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part89 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2016年12月24日 | しょうぎ
 我々終盤探検隊は、今、『黒雲(くろくも)作戦』を実行中である。
 “4一飛”と打ちこんで、局面を妖しくしていくというこの作戦、今のところ、うまくいっている。
 その4一飛に、後手が4二銀と応じたらどうなるのか―――それが今回のテーマである。
 それには、図のように、8二竜とする。これはこのまま次に4二飛成となれば、先手が勝つが―――


    [イスカンダルのスターシャ]
〈……とうとうやってきましたね……〉
 ススムたちは、あわててあたりを見わたしたが、人影はおろか、風ひとつ吹いていない。
「あなたは、あなたはいったいどなたですか……?」
〈……わたしはスターシャ。イスカンダルのスターシャはわたしです……〉
「おお、スターシャ! どこにいるのです! どうか姿を見せてください!」
〈地球人よ……。わたしには、あなた方がいう意味での姿というものはありません。ですから、そのように捜してもむだなことです。〉
「……それはいったい、どういう意味ですか……?」
 スターシャのことばは、たしかに不可解なものだった。ススムは、困惑したように雪の顔を見た。
〈……わたしは、こおイスカンダル星の地下深くにはりめぐらされている、コンピュータなのです……〉
「そ、そんな馬鹿な……!」
                                (小説『宇宙戦艦ヤマト』石津嵐著 豊田有恒原案 より)



 この豊田有恒原案の『宇宙戦艦ヤマト』のストーリーは、本筋であるアニメ版と結末がかなり異なっていてショッキングな内容である。
 美女スターシャは、イスカンダル星人によってその星の地下につくられたコンピューターであり、そのスターシャが「自分を守れ」という最優先至上命令に従って、デスラーをつくり、部下たちをつくった。つまり「ガミラス星人」の軍団をつくりだしたのはスターシャであった。
 そうしたコンピューター・スターシャの行動を危険と感じたイスカンダル人たちは、そのプログラミングをカットしようとした。それを見て、「スターシャを守る」ために存在しているデスラーたちは、イスカンダル人に襲いかかり、とうとうイスカンダル人を全滅させてしまったのだった。それが地球年で100年ほどまえのこと。
 それをきっかけにコンピューター・スターシャは不調に陥り、デスラーたちはつぎつぎと侵略の歴史を重ねて、ついに人間の住む地球へ……、ということなのだった。
 だから彼女(スターシャ)は、地球人を呼んで、自分を破壊してもらおうと考えたのだった。そうすれば、デスラーたちの「スターシャを守る」という存在理由もなくなり、彼らの侵略も止まるというのである…
 しかも冷酷にも、放射能(反陽子爆弾による汚染)で苦しむ地球を元の姿には戻せないから、あなたたち(人間)自身を改造して生きる、それしか道はない、という。

 このストーリーは、結局ボツになったわけだが、「SF小説」的には、こちらのほうがより面白い。しかし、お茶の間のTVとしては、後味の悪すぎる結末と言える。採用されなかったのも無理はない。「美女」が自分を殺してくれという結末では……。

 この話の設定は西暦2199年。すでに人類は「亜光速エンジン」を開発済みで、冥王星まで7時間で航行可能だ。(すごい速さだ)
 そんなとき、ガミラス・デスラー軍団の攻撃が始まった。これが地球人類と異星人のファースト・コンタクトになる。
 スターシャの助けによって、人類は「ワープエンジン」を手に入れ、イスカンダル・ガミラスの二重連星のある(大マゼラン星雲の方向)、往復29万6千光年の距離を、1年かけて行ってこようというのが、「宇宙戦艦ヤマト」の計画であった。
 (このあたりの設定はTVアニメも小説版も松本零士の漫画版もすべて同じ)
 それにしても、“美女”の言葉をこうも簡単に信用してホイホイ近づいていくこの作戦、いかがなものか。デスラーの仕掛けたハニー・トラップだと主張する人間が一人もいないのは、解せないことである。 もっとも、ガミラスの圧倒的攻撃力を受けて、他になにも手段もないとすれば、結局、「やるしかない」のであるが。

 この小説版では、地球上は、ガミラス軍の「反陽子爆弾」で攻撃を受けて壊滅状態、となっている。(TVアニメ版は「遊星爆弾」)
 「反陽子」とは何か。
 そう不思議なものではなく、1955年にカルフォルニアの加速器(実験用の設備)によって、実験的には確認されている。
 この世界の物質の「原子」は、「陽子」と「電子」から成っているが、「陽子」のほうが「電子」よりも1850倍大きい(質量的に)。ところが、ふしぎなことに、「陽子」と「電子」は、まったく逆向きのしかし同じ強さの電荷(プラスとマイナス)をもっていて、それで安定してくっついている。
 1932年に「陽電子」が発見された。「電子」と同じ大きさ(質量)で、電荷がプラスのもの、それが「陽電子」。 それは今となっては簡単に見つけられるもので、ただ、この世界(われわれの住むこの宇宙)にはなぜか「電子」のほうが数が多く、したがって「陽電子」は生まれた瞬間に「電子」と反応して“対消滅”して消えてしまう。だからそれまで見つからなかったのである。
 それなら、「反陽子」も存在するのではないか―――物理学者がそう考えるのは、当然のことであった。「反陽子」、すなわち、「陽子」と同じ質量で電荷がマイナスの粒子である…。
 この宇宙は、なぜか「陽子」と「電子」が多く残って、それが「物質」を形勢している。この世(宇宙)は、なぜか“非対称”だったのである。(つまり「反陽子」よりも「陽子」の数が多く、「陽電子」よりも「電子」の数が多かった。宇宙がゼロからはじまったというなら、なぜ“同数”ではないのかという疑問が残る)



≪黒雲の図≫
 4一飛―――『黒雲作戦』―――。 (この図の「激指」評価値は[-289])
 前回、これに対する後手の応手 〔砂〕3三玉、〔土〕4二金打、〔石〕3三桂、を調べた。 その結果は先手にとって悪くなかった(後でまとめる)

 今回は、「後手〔岩〕4二銀」との勝負である。
 



≪8二竜図≫
 〔岩〕4二銀には、「8二竜」(図)が最善手で、ここでは、“これしかない”ところだ。
 「8二竜」は、次に4二飛成、同金、同竜となれば、先手勝ちだ。

 後手の応手は、次の4つ。
   〔ラ〕6二歩
   〔リ〕3三銀
   〔ル〕3三玉
   〔レ〕3三桂

 我々(終盤探検隊は先手を持っている)は、これら4つの応手をすべて粉砕しなければならない。

6二歩図1
 〔ラ〕6二歩(図)と打つ手には、8三竜とする。そして後手3三銀に、8五玉(次の図)

6二歩図2
 “入玉”ねらいである。 入玉はほぼ確実だが、形勢はどのようになるか。
 図から、予想される進行は、3二玉、4二歩、同銀、同飛成、同金、9四玉、7九飛、8一竜(次の図)

6二歩図3
 もう少し進めてみよう。 ここで7四飛成は8四金があって、後手の攻めは止まる。よって9九飛成とする。 
 9九飛成、8三玉、9七竜、9四歩、5二金、9二玉、4四銀、6五歩(次の図)

6二歩図4
 以下、5三銀、7三歩成、5六と、7一金のような進行が予想されるが、これは玉が“入玉”して安全になり、飛角三枚を有している先手が勝勢であろう。


3三銀図1
 〔リ〕3三銀。 この手には、5一飛成が利くかどうかが重要な分かれになる。(ここでの8三竜はうまくいかない)
 5一飛成、8四桂、8六玉、7五金、7七玉、4二金、4一金、6二歩(次の図)

3三銀図2
 図の6二歩は、同竜に、5三銀と受けようという意味。
 先手は3一金。後手は1四歩と端から脱出を図る。以下、2一金、1三玉、3六桂。
 3六桂は(2二角までの)“詰めろ”なので、それを後手は3二金と受ける。そこで先手は6二飛成。
 そこで後手は攻めに転じる。 6六銀、8八玉、7六桂、9八玉、7七銀成、8九香、9五桂、7九角(次の図)

3三銀図3
 これで後手の先手玉への“詰めろ攻撃”は止まった。先手勝ちの図である。


 並べた順序から言えば、次は〔ル〕3三玉だが、〔レ〕3三桂のほうが結論が簡明なので、まずそちらから。

3三桂図1
 先手8二竜に、〔レ〕3三桂(図)としたところ。
 先手狙いの4二飛成は、同金、同竜、3二金で、弾き返されてしまう。
 しかし、我々の調査結果では、どうやらそれでもそれを決行するのが最善と出た。(ソフト「激指」はそれで先手が不利と見ていたのだが)
 4二飛成は、同金、同竜、3二金、5一竜、7八飛、8六玉(次の図)

3三桂図2
 飛車を後手に渡したが、持駒の金を受けに使わせたので、後手の攻めも厚くない。
 どうやらこの図は、先手優勢のようである。
 6五銀、8五銀、6六銀左、4二金と進んで、次の図。

3三桂図3
 4二同金なら、1一角から詰む。よって、ここは粘るなら後手は1四歩とでもするしかないが、それも、6六馬、同銀として、3二金、同玉、4二金、2二玉、3一竜、1三玉、2二銀、2四玉、4六角以下、“詰み”である。
 〔レ〕3三桂は、4二飛成以下、先手良し。


3三玉図1
 〔ル〕3三玉。 この手が後手の最善手だろう。
 この手は先手の4二飛成の攻めを受けつつ、次に3二玉~4一玉で、飛車を取ろうという意味。

3三玉図2
 先手は7三歩成(図)。
 そこで後手の手番だが、まず<h>3二玉からやってみよう。
 後手3二玉に、先手は5三歩(これを同銀上は5一飛成がある)。 以下、同銀引、8三馬、4一玉、8五玉(次の図)

3三玉図3
 もう何度も出て来た“入玉”ねらいの8五玉。
 6四銀引、7四歩、7九飛、8四玉、9九飛成、9三玉(次の図)

3三玉図4
 8一歩、同竜、3二玉、3七香、3五桂、同香、同銀、3四桂(次の図)

3三玉図5
 これは先手優勢である。

3三玉図6
 では、先手の7三歩成に、<i>8四金(図)と応じるとどうなるか。“入玉は許さない”という手だ。
 これには6三とがある。以下、5六と、1一角、2二桂、7七玉(次の図) 

3三玉図7
 先手勝勢である。

3三玉図8
 先手7三歩成に、<j>7三同銀(図)という手があった。
 これは同銀に8一桂と打つという意味だ。さて<j>7三同銀に先手どうする?
 考慮の結果、ここは1一角、2二桂、7三竜が最善の対応ではないかと、我々は考えた。(これ以外では苦しくなるのだ。) 「1一角、2二桂」で桂馬を一枚使わせ後手の攻めを細くしている意味がある。 

3三玉図9
 当然後手は8一桂と打ってくる。これには8五玉として、7三桂に、9四玉(次の図)

3三玉図10
 しかしこの変化は、場合によっては大駒を三枚敵に渡すことになるかもしれない。盤上の4一飛と1一角は動けない。さあ、形勢はいかに。
 9二歩、同馬、3二玉、4二飛成、同金、6七飛、7四歩(次の図) 

3三玉図11
 6二飛成、8二金、6四銀、8四銀、6三金、8一馬、7九飛、9二玉(次の図)

3三玉図12
 9九飛成、3七香、9七竜、9三歩、3三桂、3四香、2一玉、2二角成、同玉、5四桂(次の図)

3三玉図13
 こうなると少し先手が良いようだが、先手は大駒が8一の馬一枚だけというのが不安ではある。
 この<j>7三同銀の変化は、「互角」としておきたい。

3三玉図1(再掲)
 ということで、今のところ、後手のこの〔ル〕3三玉に対しては、7三歩成、同銀以下、「互角」の形勢と出ている。
 しかし7三歩成のところで、8三竜はないだろうか。以下それを検討してみよう。


3三玉図14
 後手の〔ル〕3三玉に、8三竜としたところ。 “入玉”作戦だ。
 3二玉、8五玉、4一玉、9四玉、6九飛(次の図) 

3三玉図15
 先手は4一の飛車はすんなり渡し、その間に8五~9四玉。 まだ三枚の大駒が先手にはある。
 ここで7三歩成としたくなるが、それは同銀、同竜、8一桂がある。
 よってここは8二馬とする。以下、7四歩、9三玉、9九飛成、9二玉、9七竜、8一玉(次の図) 

3三玉図16
 ここで後手7三金なら、8六竜とし、9八竜に、6五歩で先手好調。
 ここでは後手6三金打からの展開を見ていく。6三金打、3九香、7三銀、7一馬、6二銀、6一馬、3三香、1一角(次の図)

3三玉図17
 先手優勢。
 
 どうやら、〔ル〕3三玉には、7三歩成より、8三竜のほうが良いようだ。

≪8二竜図≫
 以上の探査の結果、≪8二竜図≫は、「先手良し」と決まった。


 前回からのながれをまとめるとどうなるのか。

 
≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   → 調査中      
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 後手良し

 この≪夏への扉図≫から、3三歩、同銀、3四歩、同銀、5九金、6六角、5五銀引、9三角成、9四歩まで進んだ時、“3三歩”と打つ。

≪3三歩図≫
 3三歩に、3一歩。 そして―――

≪黒雲の図≫
 ここで、“4一飛”(図)と打つのが、今回の作戦――黒雲(くろくも)作戦――である。
 この“4一飛”は、3一飛成、同玉、3二金までの、“詰めろ”。
 後手はそれを受ける必要がある。候補手は次の4つ。
  〔砂〕3三玉   → 先手勝ち
  〔土〕4二金打  → 持将棋引き分け?
  〔石〕3三桂   → 先手有利
  〔岩〕4二銀   → 先手有利

 こうしてまとめてみると、〔土〕4二金打の分かれが、引っかかる。これさえなんとかすれば―――この変化を「先手有利」にすれば、この『黒雲作戦』は成功となるではないか。
 ということで、もう一度〔土〕4二金打を検証してみよう。
 ≪亜空間≫の戦争は、時を戻して、何度でもやり直しの利く特殊空間―――パラレルワールドなのだ。

≪4二金打図≫
 この後手4二金打の図から、戦争の“やり直し”である。
 〔土〕4二金打、8五玉、4一金、9四金、7七飛、8三玉、7四飛成、9二玉、4六銀、3九香、3五桂(次の図)

4二金打図a
 “前回の戦争”では、ここですぐ3五同香と桂を取り、以下、同銀直、7二歩、5五銀上、7一歩成、3三玉と進んだ。それで先手優位は確かと思えたのだが、結局は、“相入玉”となって、持将棋引き分けになりそうな図に至ったのである。

 それは、この図での3五同香がよくなかったのではないか。この手はすぐに決める必要はなく、後でも取れる。後回しにするほうが、後手はやりにくいのではないか。
 と、考えて、我々はここで7二歩をあらためて選んだ。 それで、どうなったか。

 7二歩、4二銀、7一歩成、3三銀、7二と、5八金、6二歩(次の図)

4二金図b
 7九竜、3五香、同銀引、6一歩成、2九竜、6二と寄、3二金、5二と、同歩、6二と、9九竜、5二と、1九竜、2六桂(次の図)

4二金図c
 先手優勢。これは先手が勝ちやすい将棋だ。

 先手が怖いのは、後手が“相入玉”をめざしてきた場合である。
 今度は後手が修正してくる。

 「4二金打図a」より、7二歩、5五銀上、7一歩成、6六歩、7二と、3三玉(次の図)

4二金図d
 今度は、後手が「5五銀上~6六歩」と“入玉”の下準備をしてから、3三玉としてきた。
 これに対しては、1一角、2二桂、3五香、同銀引(同銀上には4五桂)、3七桂(次の図)

4二金図e
 と、遊んでいたこの桂馬を活用する手がある。
 以下、3二金、4五桂打、4四玉、5三桂成、同金、5一竜、5二歩、4一銀(次の図)

4二金図f
 先手優勢。 こうなれば先手の三枚の大駒が働いてくるので、後手玉を捕まえられそうだ。

4二金図g
 さらに、後手は、時を戻して、手を代えてきた。先手3七桂に、4四歩(図)だ。
 以下、2六桂、同銀、同歩、3二金、2五桂、4三玉、6一竜、6四銀上(この手で6四銀引には、8三銀、7六竜、6三歩と指す)、3三歩(次の図)

4二金図h
 以下、3三同桂、同桂成、同玉、6二とが予想され、先手優勢である。
 こうした変化も、後手玉に入玉される可能性をゼロにはできないが、最善を尽くせばきっと後手玉を捕獲できると信じる。

 よって、この分かれ―――後手〔土〕4二金打―――は、「先手良し」となった。

≪黒雲の図≫
  〔砂〕3三玉   → 先手勝ち
  〔土〕4二金打  → 先手有利
  〔石〕3三桂   → 先手有利
  〔岩〕4二銀   → 先手有利

 こうして、ついに我々は見つけたのであった。 待望の、「先手の勝ち筋」を!!!


 ついに来た―――、歓喜の時が―――――――――!!!!!!!――――――?


 その時! 我々は聞いたのである。 奴の―――≪亜空間の主(ぬし)≫―――の声を。

 それは、我々をあざ笑う声だった気もするし、「ついに来たか」という呟きだった気もするが、はっきりと聞き取れたわけではない。しかし、たしかにあれは、我々と盤をはさんで対峙するこの姿の見えない“敵将”の初めて聞く「声」であった。

 だが、この≪亜空間世界≫はパラレルワールドなのだ。
 負けても負けても、時を巻き戻して、また≪戦争≫は新局面から繰り返されるのだ。
 ≪主(ぬし)≫は、またしても、時を巻き戻してきたのである。



                            『終盤探検隊 part90』につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part88 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2016年12月21日 | しょうぎ
≪黒雲の図≫

 “4一飛”と打ちこんだこの闘い方を、我々(終盤探検隊)は、『黒雲(くろくも)作戦』と呼ぶことにした。
 合戦で、劣勢になり、どうにも打開手段が見つからない時、黒い雲がもくもくとやってきて、雨を降らせ、運よく打開する―――そういうイメージで「黒雲」としたのである。
 この“4一飛”は、3一飛成以下の“詰めろ”だが、後手はこれをどう受けるか。


    [アートマンと暗黒星雲]
《《 釈迦から弥勒にいたるアートマンの系譜にヤマトタケル、お前があらわれたのが地球時間で千六百年前。
そしてお前は暗黒星雲をここまで遠ざけて地球を救い、別の持空間でもう一度われにあうことを約束した!
時は来た! さあ! 決断を下す時だ! お前とともにこの暗黒星雲はどこへでも行くであろう。 》》
「わからない、わからない! なぜそんな必要があるんだ。 ぼくにどうしろというんだ!」
                                  (諸星大二郎作 漫画『暗黒神話』より)


 諸星大二郎『暗黒神話』は、1976年『週刊少年ジャンプ』に発表され、連載された。連載としてはわずか6回で完結する話なのだが、中身が濃密である。当時の読者は、あまりに密度の濃い内容に圧倒され、そして惹き込まれていった。
 「お前とともにこの暗黒星雲はどこへでも行くであろう」の“暗黒星雲”とは、オリオン座の方向にある有名な馬頭星雲のことで、馬の首の形をしている。そしてこの物語の中では、この馬頭星雲は“スサノオ”であり、主人公武(=ヤマトタケル)の意のままに従う存在となっている。
 「參は猛悪にして血を好み…」という文章が『暗黒神話』の中にくり返し出てきて、スサノオの凶悪ぶりを表現しているが、これは作者諸星大二郎のつくった文とのことである。「参(しん)」というのは、オリオン座のことで、これは中国での呼び名。

 『古事記』の中で伝えられるスサノオは、イザナギ神が、黄泉の国から脱出して日向において禊をしたときに最後に生んだ三貴神の一人で、アマテラス、ツクヨミと共に生まれた。アマテラスは高天原(たかまがはら)を、ツクヨミには夜の国を、そしてスサノオは海をおさめよと命じられた。
 アマテラスが太陽、ツクヨミが月だとするなら、スサノオは「雲」であろう。(なぜかそのように述べている書がほとんどないが)
 「雲」は海からやって来る。スサノオは父イザナギに「海をおさめよ」と言われていたにもかかわらず、陸にまでやってきて雨を降らせたり、日を照らすアマテラスを隠したりして、秩序を乱す。スサノオが泣くと雨が降るのである。雨は人々に恵みをもたらすこともするが、降りすぎるとやっかいだ。
 スサノオはまた出雲でヤマタノオロチを退治するのだが、その怪物の尾の中から出て来た大刀が“天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)”である。出雲の「雲」、そしてこの刀の名前から、スサノオが「雲」の神であることは、明らかである。“叢雲”とは、雲がたくさん群がるという意味だし、“出雲”とか“八雲”も同じような意味である。
 

≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩      
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 後手良し

 我々――終盤探検隊――はこの図から「先手の勝ち筋」を探しているが、まだ見つかっていない。
 いま、【い】3三歩の道を進んでいる。
 3三歩、同銀、3四歩、同銀、と進む(次の図)

≪3四同銀図≫
ここで[]7三歩成と、[]9一竜が先手の候補手。しかし[]7三歩成(白波作戦Ⅲ)は、前回の調査の結果、「後手良し」が確定した。

≪9一竜図≫
 ということで、[]9一竜(図)。 これが今回のテーマであるが…。 
 後手陣が「3二銀型」の時、9一竜について調べたが、それは「後手良し」だった。
 今回は「3四銀型」である。その分、後手陣にスキがあり、そこに「先手の勝ち筋」を探している我々の期待がかかる。

 この9一竜のねらいの基本は、先手玉の“入玉”である。
 ところが、この図から、5九金、6六角、5五銀引、9三角成、9四歩、9六歩、8四金と進んでみると――――(次の図)

≪8四金図≫
 やはり“入玉”は完全に封じられてしまっている。(この手順中、9四歩が好手で、これは「3二銀型」の時にすでに解説している)

 
 先手はもう一工夫必要だった。
 ―――そこで『黒雲(くろくも)』の登場である。


〈黒雲作戦〉

 ≪9一竜図≫から、5九金、6六角、5五銀引、9三角成、9四歩まで進んだ時、“3三歩”と打つ。

≪3三歩図≫
 『黒雲作戦』はまず、ここで“3三歩”(図)の手裏剣を飛ばす。
 これには「3一歩」と受けるのが正着となるが、ほかに「同桂」や、「同玉」も一応ある。
 それらの手にはどう指すのが良いのであろうか。まずその確認をしておこう。

変化3三同桂図1
 “3三歩”を「同桂」には、先手に二つ勝つ手があって、一つはこの3二歩(図)。
 これは放っておくと3一角なのだが、同玉も1一飛があってダメ。となれば、後手は4二銀しかない。
 そこで先手は4一飛。これも詰めろなので、後手は3一歩とするが、同歩成、同銀に、5四香(次の図)

変化3三同桂図2
 これではっきり先手優勢。 対して5三桂は無意味な受けで、1一角、3二玉、3一飛成、同玉、2二銀以下、後手玉“詰み”。

変化3三同桂図3
 3三歩、同桂には、9六歩(図)でも、先手が良くなる。
 この図、後手が何もしなければ、8五玉から“入玉”する。だからこの図では8四金としたいところ。
 しかし8四金は、同馬、同歩、4一飛で、次の図となって―――

変化3三同桂図4
 先手玉は詰まず、後手玉は“詰めろ”で、しかも受けなしである。

変化3三同玉図1
 では、先手“3三歩”に、「同玉」だとどうなるか。これには3一飛と打つ。
 後手は4四玉か、3二歩だが、ます4四玉には―――

変化3三同玉図2
 4五歩(図)がある。同銀なら3五金があり、同玉には3六角があって寄り。(5四玉には3四飛成)

変化3三同玉図3
 3一飛に3二歩とした場合は、1一角、2二桂、5七馬(図)が幸便な駒運び。
 以下、6五桂なら、2一飛成、5七桂成、2二角成、2四玉、3九香で先手優勢。
 4四玉の先逃げなら、たとえば2二角成、3三歩、9四竜、8四金、9二竜のような指し方で、先手良し。

 そういうわけで、後手は(先手3三歩に)、「3一歩」と受けることになる。

≪黒雲の図≫
 そうしておいて、“4一飛”(図)と打つのが、今回の作戦――黒雲(くろくも)作戦――である。
 この“4一飛”は、3一飛成、同玉、3二金までの、“詰めろ”。
 後手はそれを受ける必要がある。候補手は次の4つ。
  〔砂〕3三玉
  〔土〕4二金打
  〔石〕3三桂
  〔岩〕4二銀
 しかし〔砂〕3三玉は、上で見てきた「3三歩に、同玉」の時と同様の順で先手良しになる。すなわち、3一飛成、4四玉、4五歩、同玉、3六角、の順である。

 では、〔土〕4二金打はどうか。

4二金打図1
 〔土〕4二金打と後手が金を打ったところ。
 対して、先手は同飛成とするのではなく、8五玉が正着。もともと4一飛と打ったのは、この飛車を犠牲に、“入玉”するという狙いであった。後手が持駒の金を使ったので、“入玉”が可能になった。
 8五玉、4一金、9四玉、7七飛(次の図)

4二金打図2
 8三玉、7四飛成、9二玉、4六銀、3九香、3五桂、同香、同銀直(同銀引は5七馬がある)、7二歩、5五銀上、7一歩成、3三玉、1一角、3四玉、2二角成、6六歩、2一馬、4五玉、1二馬、3二金(次の図)

4二金打図3
 一例だが、こういう展開になる。どうやら先手は負けはなさそうだが、後手玉の“入玉”を阻止するのも難しく、“相入玉”になりそうだ。うまくいけば、「点数勝ち」も望めるが、その可能性は低そうに思う。“持将棋引き分け”が濃厚だろう。


≪3三桂図≫
 〔石〕3三桂(図)。 これでひとまず詰みを防ぎ、3二玉から飛車を取りに行くのが後手のねらい。

≪9六歩図≫
 対して、先手は9六歩(図)がその対策である。
 この手は、「次に8五玉から入玉するぞ」という手である。後手が(u)3二玉なら、8五玉だ。
 その順が本筋だが、その前に、(v)8四金、(w)8四歩でどうなるかを見ておこう。

 (v)8四金なら、先手の『黒雲作戦』のねらいにハマる。8四金は、同馬と取る。
 以下、同歩なら、1一角、3二玉、3一飛成、同玉、2二金、4一玉、3二金打で詰むというわけだ。
 つまり『黒雲作戦』は、4一に飛車を打ち込むことによって、8四金を打たせないようにし、8五玉からの“入玉”を実現させようという作戦なのだ!
 8四金、同馬に、3二玉の場合は、5一竜(次の図)とする。

変化8四金図
 このケースでは飛車を渡してもまだ先手玉は詰まないので、これで先手の勝ちが決まる。

変化8四歩図1
 (w)8四歩という手もある。これは、同馬に、7二桂と打って、この桂で先手の入玉を止めようという意図だ。
 8四歩、同馬、7二桂、5七馬、3二玉(次の図)

変化8四歩図2
 しかし7二桂には、5七馬で、先手良し。後手は3二玉(図)と飛車を取りに来たが、これにはやはり5一竜でよい。以下、7五金、6七玉、5一金、同竜と進んで、次の図。

変化8四歩図3
 後手玉には“詰めろ”がかかっており、先手勝ち。

≪3二玉図≫
 どうやら先手の“入玉”を防ぐのは難しいようなので、後手は(u)3二玉を選んでこの図。

変化8五玉図01
 もちろん先手は〈イ〉8五玉(図)。
 (ただしこの手に代えて〈ロ〉4二歩も有力で、その変化は後で見ていくことにする)
 8五玉以下の想定手順は、8四金、同馬、同歩、9四玉、4一玉、9三玉、5四角(次の図)

変化8五玉図02
 この5四角は、8一桂と打つねらい。
 先手はここで、3九香と打つ。そこで後手は7四歩。(すぐに8一桂と打つ変化は後で)
 そこで先手はあわてず(つまり3四香は指さず)、8一角と角を合わせるのがよい。以下、同角、同竜、5四角に、7二歩。
 さらに、3六桂、同香、同角、2六桂、2五銀、3四歩、4四銀、3七桂(次の図)

変化8五玉図03
 これは先手良し。

変化8五玉図04
 7四歩に代えて、8一桂(図)の場合。このほうが先手にとって厳しそう。
 先手は9二玉と逃げる。後手の狙い筋は9三飛だが、すぐに9三飛は、8二玉、9一飛、同玉で、これは先手にとって都合がよい。
 なので後手は、9二玉に、7四歩。今度は9三飛、8三玉に、7三銀があって、それだと先手の竜はタダ取りされてしまう。
 よって、7四歩には、8三金と受ける。
 そこで後手は<1>7一桂と、<2>9四飛とが有力。

変化8五玉図05
 まず<1>7一桂(図)。 以下、7二歩、8三桂、8一竜、6二金、8二金、6一金打、7一歩成、7三銀、9四桂(次の図)

変化8五玉図06
 8一角、同と、7五桂、8三金、4四銀引、8二桂成、6九飛、3四香、9九飛成、2一角、3九飛、3三香成、同飛成、1二角成(次の図)

変化8五玉図07
 これは「互角」。 ただし、先手に負けはなさそうだ。

変化8五玉図08
 途中まで戻り、<2>9四飛(図)だとどうなるか、見ておこう。
 9三金打、同飛、同金、同桂、3四香、4四銀引、8三銀(次の図)
 
変化8五玉図09
 6二銀、2二飛、7一桂、7二角(次の図)

変化8五玉図10
 これは先手が良さそう。

 こうして総合的に見ると、後手は「変化8五玉図07」を選ぶことになり、「形勢互角」が結論となる。


変化4二歩図01
 先手は「互角」が不満なら、あるいはこの〈ロ〉4二歩のほうを選ぶべきかもしれない。調べてみよう。
 この図は、後手3二玉に、〈ロ〉4二歩としたところ。
 ここでまず考えられる手は<a>4二同銀。 他には<b>8四歩、<c>8四金があるが、<c>8四金は同馬と取られ、先手持駒が「角金金」になると、後手玉が2二金、同玉、1一角以下詰んでしまうのではっきり先手良し。

 <a>4二同銀から考えよう。
 以下、同飛成、同金、そこで8五玉だ(次の図)

変化4二歩図02
 やはり先手は“入玉”をめざす。先ほどと比較して、先手にも後手にも持駒が多くなっている。
 後手8四金に、同馬、同歩、9四玉で、玉の“進撃”は止まらない(次の図)

変化4二歩図03
 以下の予想手順は、4七角、9三玉、7四角成、8三銀、6三馬、3九香、7四歩、9二玉(次の図)

変化4二歩図04
 図以下、3六桂なら、6一竜、6二歩、7二角で、先手優勢。この分かれは先手が良いようだ。

変化4二歩図05
 戻って、先手8五玉に、7九飛(図)と手を変えたところ。(先ほどは8四金とした)
 この手には、8三馬とすれば“入玉”できる。
 以下、7四歩、9四玉、9九飛成、9三玉、9六竜、9四歩(次の図)

変化4二歩図06
 先手は“入玉”できたし、大駒も三枚持っているので、先手良し。
 後手陣が、4二飛成で飛車を切って銀と交換したことで、その分薄くなっているのも大きい。

変化4二歩図07
 さらに戻って、後手が(<a>4二同銀ではなく)<b>8四歩(図)としてきた場合。
 これは先手同馬ととり、7二桂に、5七馬。

変化4二歩図08
 後手は6六歩(図)。 次は7五金、7七玉、6五桂のような狙いがある。
 しかしそこで先手に好手がある。

変化4二歩図09
 6三金(図)だ。 同金では3一飛成~5一竜で玉が詰んでしまうので、これは取れないし、次に5二金とする手がきびしい。
 ただし、6三金には、6二金打がある。しかしそれには、5一竜、同金、同飛成(次の図)

変化4二歩図10
 先手優勢である。
 どうやら〈イ〉8五玉よりも、〈ロ〉4二歩のほうが先手にとって良いようだと判明した。


≪3三桂図≫(再掲)
 以上の探査の結果、後手〔石〕3三桂には、9六歩、3二玉と進み、そこで先手〈ロ〉4二歩以下、「先手良し」、と結論する。


≪4二銀図≫
 さて、「4一飛」に対する後手の手段は、〔岩〕4二銀(図)を残すのみ。

≪8二竜図≫
 後手4二銀には、先手8二竜(図)がある。
 この後は、次回に。

                       『終盤探検隊 part89』につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part87 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2016年12月18日 | しょうぎ
 「先手の勝ち筋」の発見が、我々の、終盤探検隊の目的である。
 しかし「必ず答えが一つある」と御約束の詰将棋とは違って、この場合は答えが存在しないかもしれない。それが現実というものの冷徹さで、それがもたらす虚無感と闘いつつ、前進しなければならない。
 「勝ちがある」と信じて―――。

 ところで、我々は、この《亜空間戦争》の“姿の見えない敵”のことを、「主(ぬし)」と呼ぶことに決めた。


    [東中学出身、涼宮ハルヒ]
 ここまでは普通だった。真後ろの席を身体をよじって見るのもおっくうなので俺は前を向いたまま、その涼やかな声を聞いた。
「ただの人間に興味はありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
 さすがに振り向いたね。
 長くて真っ直ぐな黒い髪にカチューシャをつけて、クラス全員の視線を傲然と受け止める顔は、この上なく整った目鼻立ち、医師の強そうな大きくて黒い目を異常に長いまつげが縁取り、淡桃色(うすももいろ)の唇を固く引き結んだ女。
                                  (谷川流著『涼宮ハルヒの憂鬱』より)


 このSF小説は、中高生が読むときっと面白いだろうし、大人が読んでも、中高生の時のような気持ちで読めば、面白く読めるだろう。
 涼宮ハルヒという高校一年生の少女が、「宇宙人」、「未来人」、「異世界人」、「超能力者」と自分は友達になりたい、と願って、そうしたらいつのまにか望みどおりになっていたのだが、本人はまったく気づいておらず―――という設定。彼女は実は“世界(宇宙)の中心”で、彼女が望むことはすべて現実となるのだった。彼女がそう望めば、宇宙さえも消滅してしまう…。宇宙人や未来人は、その“中心”を見張るために、彼女に気づかれないよう、高校一年生の平凡な男女の姿の使者を送りこんでいるのだった。たとえば「宇宙人」は、地味で読書好きの女子だが、実は“宇宙の情報統合思念体から派遣された対人間用インターフェイス”なのであった。
 かれらは、涼宮ハルヒのきまぐれによってこの宇宙が消滅させられてはかなわん、と見張っているというわけだ。
 このばかばかしい設定が面白く、そしてSF的な描写が迫力があるので、最後まで一気に読者を運んでしまう。(この涼宮ハルヒのシリーズは二作目以降はその“迫力”はなくなって「おもしろ学園もの」になっていくが、それはまあそういうもので、しかたがない)

 “涼宮ハルヒ”という存在は、“遊びの中心点”ではないだろうか。
 
 昔、少年漫画で「ケンカもの」が流行った時代があった。そのころは漫画の中だけでなく、現実世界で、子供たちの間で、「親分(ボス)と子分」という関係づくりが流行った。おそらく全国には数えきれないほどの子供の「親分」と「子分」がいたはずである。その「現実」のほうが先にあり、漫画はそれを反映していたにすぎない。
 あれは後にして思えば、「親分(ボス)」を中心とした遊び集団づくり、という遊びだった。現実の小学生の中で「親分(ボス)」になるのは、漫画のように決してケンカが強い、乱暴者とは限らなかった。「親分」は、勝ち取るものではなく、自然発生的に選ばれるものだった。なんとなく、子供たちは遊びの中心となる「親分」を求め、それにいちばんふさわしいと思われる人物をそこに坐らせた。
 子供が10人も集まると、何をして遊ぶか、意見がまとまらなくなる。しかしいったん「親分」が「かくれんぼをやろう」と決めたら、もうだれも異論を言わない。「親分」がそういったのだから、それは正しいのである。「かくれんぼなどつまらない」と思っていた者も、いったんやると決まったなら、楽しまなきゃ損だ。それなら、かくれんぼをより楽しくするアイデアはないかと考え、それを「親分」に提案する。「それはいい考えだ」と「親分」が採用してくれるとうれしくなって、もっといいアイデアを出そうとまた考える。
 そうやってかくれんぼを始めてみたら、「かくれんぼってこんなに楽しかったか」と思うほどに夢中になって遊んだ。やっぱりこの「親分」といると楽しい―――。
 遊びがハチャメチャになり、最初は楽しかったのが、いつの間にか「悲しい」ものになりそうになった時、いちはやく察して「親分」が言う。「やめだ」。「親分」は正しく導き、その遊びを終了させる。親分は冒険の旅(あそび)に出た船の進路を決定する重要な船長なのである。
 「親分」という“遊びの中心点”をつくって、子供たちはダイナミックな「遊び空間」を創りだしていたのだ。


≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 後手良し

 我々――終盤探検隊――はこの図から「先手の勝ち筋」を見つけたい。それが我々の闘い――≪亜空間戦争≫――である。
 これから進む道は、【い】3三歩である。
 3三歩、同銀、3四歩、同銀、と進む(次の図)


≪3四同銀図≫
 ここで[]7三歩成と、[]9一竜が先手の候補手となる。
 今回は、[A]7三歩成の道を進む。 そしてこれを、『白波作戦Ⅲ』とする。
 “Ⅲ”なのは、ⅠおよびⅡがあるからで、それはすでに検討結果が出ている。

白波作戦Ⅰ
 『白波作戦Ⅰ』は、後手「3二銀型」に対する「7三歩成」である。
 これは「後手良し」が結論。

白波作戦Ⅱ
 『白波作戦Ⅱ』は、後手「3二銀3三桂型」に対する「7三歩成」。
 これは3三桂と桂をはねた形が後手に不利に働き、「先手良し」になると前回レポートで確定している。

≪7三歩成図≫
 そして後手「3四銀型」に対しての「7三歩成」が、『白波作戦Ⅲ』。 
 この図から「先手の勝ち筋」が発見できるかどうか、それが今回のテーマである。

 この「7三歩成」に、5九金、7四金という進行が予想される(次の図)

≪7四金図≫
 ここから、〔X〕7三銀、同金、6四銀、7四飛と進んで、次の図となる。
 その順が、ソフト「激指13」の示す最善手順だが、後手番のこの図では他にも有力手がある。
 〔Y〕7五歩、〔Z〕5五銀引である。
 そういう手もあるということをふまえて、〔X〕7三銀、同金、6四銀、7四飛(次の図)を本筋として、これからその道を進もう。

≪7四飛図≫
 図の「7四飛」に代えて、“7四金”もあるが、これは『白波作戦Ⅰ』(後手3二銀型)の時と同じく、8四桂(同金、同歩、同竜、7二桂)で、“後手良し”。
 よって、先手は「7四飛」と打って、この手に期待をかけた。
 『白波作戦Ⅰ』の時は、この「7四飛」に対しては、7五歩、8五玉、9四金、同飛以下、これも“後手良し”になったが―――

7四飛図1(7五歩の変化)
 後手「3四銀型」の場合は、同様に進んで、結果が逆になる。
 この図から、後手7三銀として“後手良し”というのが3二銀型の『白波作戦Ⅰ』であったが、この場合はこの図を見てもらうとわかるが、7三銀には、“3四飛”がある。この手が後手玉への“詰めろ”にもなっており、“先手良し”である。

 そういうわけで≪7四飛図≫で、(1)7五歩はこの場合は“先手良し”だが、(2)5五銀引はどうなるか。

7四飛図2(5五銀引の変化)
 (2)5五銀引には、5三歩(図)がある。この変化も、「3二銀型」と「3四銀型」の違いがはっきりと出て、「3四銀型」のために先手有利に働く場合が多い。それをこれから確認していく。
 図で、後手の最善手はおそらく〈マ〉8四桂と我々は考える。
 
 他の手――たとえば〈ミ〉7五歩や〈ム〉6二桂という手――も有力ではあるが、先手の5二歩成が後手玉への“詰めろ”になるので、後手のの攻めは届かない。
 具体的にその“詰み”を見てもらうために、〈ム〉6二桂(次の図)以下の手順を確認しておこう。

 7四飛図3
 先手7四飛、5五銀引、5三歩に、〈ム〉6二桂と打ったところ。
 これがなかなかの手で、先手同金なら、同金で、それは後手良しとなる。だからここで5二歩成が後手玉への“詰めろ”になっていなければ、後手勝ちになるところだった。
 ところが、この図から5二歩成、7四桂、4四角(次の図)と進んで―――

7四飛図4
 後手玉は“詰み”。 4四同歩(同銀)に、3一銀、同玉、5一竜以下。

7四飛図5
 「7四飛図2」まで戻って、7四飛、5五銀引、5三歩に、〈マ〉8四桂が後手の最有力手と考えられる。以下、8五玉(8六玉は7三銀、同飛成、8四金と進み後手良し)、9四金、8六玉、7三銀、同飛成となって、この図である。
 後手は先手5二歩成の前に先手玉を追いつめなければいけないが、ここでは7四歩、同竜、6二桂という手段がある。その6二桂に、先手は6五竜とするのが良い。5五の銀取りになっている。
 そこで6七と(同竜なら6六歩で後手良し)には、先手9六歩(次の図) 

7四飛図6
 後手は攻め続ける。8五金打、同竜、同金、同玉、6五飛、7五歩、6四銀、5二歩成。
 先手待望の“5二歩成”がここで入った。
 こうなると後手はもう先手玉を詰めるしかないが…
 7五飛、8六玉、7六飛、9七玉、8八玉、7六桂、8九玉(次の図)

7四飛図7
 詰まない。 よって、先手の勝ち。

7四飛図8
 今の手順の、7四歩に代えて、6六銀(図)ならどうだろう?
 ここでも9六歩が良い。以下、後手7五桂が“詰めろ”だが、7六銀と受ける手があり、どうやらこれで受かっている。
 以下、7六同桂、同玉、5五金(6五玉と逃がしては後手いけない)、8六玉、8四銀、5二歩成(次の図)   

7四飛図9
 やはり5二歩成が入り、先手が勝ちになった。
 図で7三銀(竜を取る)に、4四角から後手玉は“詰み”。

7四飛図10(8四桂の変化)
 (1)7五歩も、(2)5五銀引も“先手良し”になった。
 それでは第3の手、(3)8四桂(図)はどうだろうか。(似たような図をすでに検討したが、上で検討したのは5五銀引、5三歩、8四桂という展開で、違いに注意)
 この(3)8四桂には、8五玉と逃げる。(8六玉と逃げるのは7五金で後手良し。8五玉に7五金には同飛、同銀、7四玉で入玉できる)
 8四桂、8五玉、9四金、8六玉、7三銀、同飛成、7四歩、同竜、6二桂、7一竜行(次の図)

7四飛図11
 この場合は、先ほどのケースと違い、5三歩がまだ入っていない。よって、7一竜と入り、次に3一角(同玉なら5一竜以下詰み)からの寄せを狙う。
 図から、7四歩(詰めろ)に、3一角、3三玉、1一角、2四玉、6五銀、3五玉、9六歩、6六歩、6四角成(次の図) 

7四飛図12
 先手の攻めの方が早い。 6七歩成には、5三歩で先手良し。
 先手優勢。

 これでどうやら「7四飛」以下、“先手良し”で確定か――――と思ったが、そうではなかった。

7四飛図13(後手8五金の変化)
 いまの手順の途中、7四歩のところを代えて、8五金打(図)が、どうやら後手の最有力手段。(あまりに“俗手”だし、ソフト「激指」もこの手を第3候補手としていたため、この手の調査が遅れた)
 図以下の手順は、7七玉、7六金、同竜、同桂、6六角(次の図)

7四飛図14   
 後手に飛車を持たれていると、先手玉はもう相当に危ない。図の6六角が攻防の手。
 以下、5五桂、7六玉、7八飛、7七歩、6七と、7五角(次の図)

7四飛図15
 7五角(図)は、次に3一銀を狙っている。
 7七飛成、6五玉、6六と、6四玉、8五金、7三玉、7五竜、8二玉、6四角、7三歩、同角、7一玉、6四角、7二金(次の図)

7四飛図16
 「角」を犠牲に、先手玉はついに“入玉”を果たした。
 この図の形勢判断ははっきりせず、「互角」と評価するしかなさそうだ。
 先手は駒数が少ないので、もし“相入玉”になった場合、点数では優位には立てそうになく、ここから小駒を10枚くらい取って、やっと“持将棋引き分け”になる。その点では少し先手に分が悪い。
 しかし先手玉はすでに入玉を果たしており、後手がここから入玉するのはそう容易というわけでもない。後手は持駒が歩しかなく、先手の勝機も十分にある図である。
 ソフト「激指13」の評価値は[ -157 互角 ]

 そういうわけで、≪7四飛図≫以下の評価は「互角」(形勢不明)、を結論とする。

 先手が勝ちまではいかなかったが、「互角」の結論を得たのは、我々(終盤探検隊)としては、大きな収穫である。
 しかし…、まだ、問題が残っている。後手にはまだ、“有力な選択肢”が残っているからである。


≪7四金図≫(再掲)
 さてこの図は、いま探査してきた≪7四飛図≫の、4手前の図。(ここから〔X〕7三銀、同金、6四銀、7四飛で≪7四飛図≫になる)
 後手の“有力な選択肢”というのがこの図での、〔Y〕7五歩、および〔Z〕5五銀引である。
 以下、〔Y〕7五歩についてまず簡単に触れ、〔Z〕5五銀引について詳しく説明したいと思う。

後手7五歩図1
 ここで〔Y〕7五歩と打つ。
 これには8六玉と逃げるが、以下、9四歩、9六歩、9三桂(次の図)

後手7五歩図2
 後手の9四歩~9三桂が好着想。次に後手に7六金と打たれてはいけないので、ここで先手7七歩だが、それには7六歩(次の図)

後手7五歩図3
 後手の持ち駒は「金桂」で、先手の持ち駒は「飛角角」。 先手にも可能性のある図とも思えるが、ソフト「激指13」の評価は[ -570 後手有利 ]で、後手寄りに傾いている。
 図以下を調べてみると、先手良しになるケースも多く出てくるのだが、ここで先手最有力とみられる8三竜には、後手8五歩、9七玉、6七ととし、以下、7六歩、6五銀、7五金、6六銀という展開で、“先手苦しい”というのが今のところのこの図への我々の評価になっている。


後手5五銀引図1
 そして〔Z〕5五銀引(図)だが、結論から先に言えば、どうもこの〔Z〕5五銀引によって“後手良し”というのが我々の出した結論である。残念ながら、これを打ち破る道を発見できていない。(「激指13」はこの図を、[ -96 互角 ]と評価)
 ここで(ヤ)3二歩という鋭い手もあるが、4二銀と応じられて、その後に良い手段がない。
 (ユ)6五歩もある。以下、7五歩、8六玉、6五銀…、あるいは先手の勝ち筋がそこに潜んでいるかもしれないが、我々の調査では見つけることはできていない。

 ここでは、終盤探検隊は、先手の最有力手は(ヨ)8三竜だと判断し、その手を以下調査していくこととする。

後手5五銀引図2
 (ヨ)8三竜、7一桂、3三歩、3一歩、8二竜、8四歩(次の図)
 「3三歩、3一歩」の交換はだいたい後でも入る場合が多いが、早めに打っておくことで後手に一歩多く歩を使わせた。 
 
後手5五銀引図3
  ここで、<p>8四同竜と、<q>8六歩が有力手。
 <p>8四同竜、8三歩、同と、6二桂(次の図)

後手5五銀引図4
 ここでの後手6二桂(図)が好手。
 続いて、7三と、7四桂、同と、8三歩、8五竜(次の図)

後手5五銀引図5
 こうした変化の時、後手に余分に手段をあたえないよう後手を歩切れにさせた。
 先手は飛車角四枚を持ち、後手は金銀八枚を持っているという凄い戦いだ。どちらが勝つか。
 5六と、2六桂、6六と、8六玉、2五銀、3七飛(次の図)

後手5五銀引図6
 後手に5六と~6六とと、じわっと攻められて、先手は3七飛(図)が攻防の手。3七に打ったのは受けの意味で、3五飛や3九飛では、7六金と打たれ、同竜、同と、同玉、6五銀、同玉、6六金、7五玉、7七飛という攻めで先手玉が寄ってしまう。この3七飛はその最後の7七飛を打たせないための受けだ。そして金が入れば3二金と打って後手玉を詰ますことができるが…
 4二金、8二角、9四金(次の図)

後手5五銀引図7
 ここで9四金と、後手はいつでもあった“切り札”をここで出す。
 5五竜、7六金、9六玉、5五銀、3二歩成、同歩、5五角成、3三歩、7三角、2六銀(次の図)

後手5五銀引図8
 2六の桂を取って、後手は次に8四桂と打つつもり。 この図は、先手と後手の玉の安全度に差がありすぎる。

 こんな感じで、<p>8四同竜以下はどうも先手勝てない。

後手5五銀引図9
 竜を引くと、後手玉への攻め味が弱くなってしまう。では、<q>8六歩(図)とするのはどうか。竜は8二に置いて、攻めに使うつもり。
 後手は5六と。
 そこで先手の候補手は、〔a〕6七歩と、〔b〕8四金。

 まず〔a〕6七歩。 
 これは後手の6六とを防いだ手なのだが、6七同とと取られる手が先手にとって一番困る手になる。(同玉は6五銀で先手が悪い)
 以下、8四金に、9四歩(次の図)

後手5五銀引図10
 この9四歩が、どうやら後手の好手になっている。(この9四歩に代えて7五金なら6七玉で先手良し)
 先手は“あわよくば入玉”と目論んでいるのだが、この9四歩でそれを防がれる。もしここで先手8五玉なら、そこで7五金と打って、9六玉、9五歩、8七玉、6六銀で後手良し。
 図以下の進行例は、7四金、8四歩、同竜、7二歩(同とは8三歩)、8三と、6六と、8五玉、6五銀、7五金、8三桂、同竜、6四銀引(次の図)

後手5五銀引図11
 結局、この変化も、先手は攻められっぱなしで捕まってしまうことになった。
 先手負け。

後手5五銀引図12  8四金
 戻って、後手5六とに、〔b〕8四金。
 以下、予想手順は、7五金、8七玉、6六と、4一角(次の図)

後手5五銀引図13
 先手はもう入玉はきっぱりあきらめ、“9八玉”と引いて闘う覚悟を決め、4一角(図)で勝負。このほうが、可能性はありそうだ。
 図以下は、7六と、9八玉、3三桂、5二角成、同歩、同飛成、3二桂、4一飛、1四歩(次の図)

後手5五銀引図14
 1一角、1三玉、3一飛成、8七角(次の図)

後手5五銀引図15
 以下、8九玉に、8八歩、同玉、6九角成となって、残念ながら、先手が一手負けになっている。
 後手玉は3三角成の一手が入れば必至なのだが…、先手玉への“詰めろ”がほどけない。

後手5五銀引図16
 戻って、5二角成と攻める前に、7七歩(図)と工夫する。
 同とに、7八とと打って―――これを同となら―――(次の図)

後手5五銀引図17
 3二歩(図)で先手勝ちになる。
 これを同歩なら、5二角成、同歩に、2一金、同玉、7一竜以下の詰みがある。
 したがって3二歩には4二銀だが、それには6二とで先手が勝てる。

後手5五銀引図18
 それなら―――ということで、7七歩、同と、7八歩に、7六ととした場合。
 この場合は、5二角成以下、上で書いた手順で攻めていくと、この図になるが、この場合だと逆に“先手良し”になっている。今度は後手の8七角~6九角成がないので、先手玉に詰めろをかける手がないから、3三角成のほうが早くなっているのだ。

 それなら、これで“先手勝ち”なのか―――?

後手5五銀引図19
 いや、残念ながらそうはならなかった。
 7七歩には、後手6六銀(図)で、後手優勢だ。以下、7六歩、同金で、次に7七銀成が“詰めろ”になる。それを7八歩と防いでも、7七歩と合わせられ、先手勝てない。先手は飛角しか受け駒がないし、後手は6、7、8筋に歩が使えるので、どうにもならない。
 
 結論。5五銀引に(ヨ)8三竜、は、先手勝ちがない。


[今回のまとめ]

≪7三歩成図≫(再掲)
 この図、7三歩成以下(白波作戦Ⅲ)を調べてきた。
 以下、5九金、7四金と進んで―――

≪7四金図≫(再掲)
 この図になるが、ここから〔X〕7三銀、同金、6四銀、7四飛なら、「互角」の勝負。
 しかし、〔Y〕7五歩、または〔Z〕5五銀引で、先手自信なしが終盤探検隊の結論である。ここで手の選択権利が後手にあるのが、先手にとって痛いところだ。

 『白波作戦Ⅲ』は不発。


 「先手の勝ち筋」は、いまだ発見できていない。



                       『終盤探検隊 part88』につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part86 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2016年12月15日 | しょうぎ
 ≪亜空間≫で我々が闘っている、“敵”とは誰だろう。
 我々が――終盤探検隊が――「先手番」を持ち、“敵”が「後手番」を持って、対峙している。
 その“敵”とは―――?


    [エスパイ]
そのときのぼくは、ショックのあまり、自分のいる場所を見失いそうだった。
二十世紀の科学者の粋をあつめた人工衛星の中で、地上はるか数十キロの空間を、時速三万キロでとびながら対決した、“敵”の正体が――。
「ソ連首相暗殺計画」という、おそろしく現実的な国際陰謀にまきこまれ、世界中の暗殺組織をむこうにまわして、その中核へとせまりながら、ついにつきとめた“敵”の正体が――。
そんなバカなことはあり得ない!
                                  (小松左京著『エスパイ』より)


 小説『エスパイ』は、1964年から大人向け漫画雑誌に小松左京が連載した小説で後に映画化もされた。「エスパイ」とは「エスパー」と「スパイ」とを合わせた、小松の造語である。
 日本では1960年代に、映画や小説では「スパイブーム」で、たとえば丹波哲郎や千葉真一が出ていて大人気だったTVドラマ『キーハンター』が始まったのは1968年だし、この前年10月から放映されていた子供向けの『ウルトラセブン』も、多分に「スパイもの」の香りがしていたストーリーであった。また、さいとうたかをの漫画『ゴルゴ13』も同じ1968年に始まっているようだ。
 “米ソ”が「ロケット競争」をしていた頃だ。
 しかし英米の「スパイブーム」はおそらく日本より10年くらい早く、1950年代と思われる。「水爆競争」が過熱し、「放射能」という言葉に過剰に踊らされていた。北半球はそのうち核戦争のために放射能で住めなくなるから、できるなら南半球へ移住した方がよい、などと大人がまじめに議論していた時代である。
 1938年に、ウランに中性子線を当てると妙なことが起こる、そのからくり―――すなわち「核分裂」―――が判った。と同時に第二次世界大戦がドイツからはじまった。「核分裂fission」と言う命名者は、物理学者オットー・フリッシュであったが、オースリアのウィーンでユダヤの家系に生まれ、戦争が始まった時、彼は33歳で、デンマーク・コペンハーゲンにいた。戦争でデンマークは住みづらくなり、イギリスへ移ったが、所有していたピアノを置いていくしかなかった。
 イギリスも戦争で忙しいし、フリッシュは外国人だ。科学者は皆、戦争のために(たとえばレーダーや暗号などの)研究をしていたが、フリッシュのような外国人に重要な研究を任せるわけにもいかない。敵国ドイツのスパイかもしれないし。そういうわけでフリッシュのような、外国からやってきた物理学者はやることがなく暇だった。暇なのでフリッシュは気になっていたあの「核分裂」の“問題”について考えることにした。
 “問題”とは、「核分裂の連鎖反応は実現可能か」という問題のことだ。当時の大御所物理学者たちは「それは無理だ」と言っていたが、ほんとうだろうか。もし「連鎖反応状態」がつくり出せたら、核エネルギーは現実的になるし、核爆弾だってできてしまう。
 フリッシュの実験と考察の結果は、「核分裂の連続連鎖反応は実現可能である」だった。製造は困難だが、でも理論的にはできる、というのがフリッシュの結論だった。
 これは報告しなければいけないと、その研究をイギリスに提出した。
 その報告は、やがてアメリカにも渡った。しかし当初のアメリカ上層部は、その核エネルギーなどという夢物語をあまり現実的に考えられず、フリッシュの報告はアメリカを動かす引き金にはならなかったようだ。
 しかし、イギリスは動いた。科学者を集め、原子爆弾の製造の研究をせよと命じた。イギリス本島は戦争状態で落ち着いて研究できる環境にないので、同盟国のカナダに拠点を移し、そこでこのイギリスの研究者チームは原子爆弾の研究をはじめた。動き始めたのはこのようにアメリカよりもイギリスが先だったが、イギリスの研究はなかなか進まなかった。
 実はこのイギリスの原爆研究チーム、ほとんどが外国人だった。イギリスの研究者の重要人物のほとんどは、本土でもっと必要に迫られた軍事研究をしなければならず、したがってカナダに集められたこの研究者たちは、ほとんどが、ドイツなどから避難してきた外国人だったのである。優秀な人物も多かったが。フリッシュもそのメンバーだった。
 この多国籍軍のイギリス原爆研究班は、やがてアメリカの原爆研究チームに合流する。イギリスは一旦自国の原爆製造を休止し、とうとう本気を出したアメリカの、その応援サポート部隊になったのである。そういうわけで、イギリス人でもアメリカ人でもないオットー・フリッシュも、このアメリカのロスアラモスでの「原子爆弾製造研究」に参加し携わり、そしてそのような境遇の科学者は彼だけではなかった。他に何人も外国人研究者はそこにいた。
 ところが、このイギリスチームの「多国籍研究者」などの中に、“ソ連のスパイ”がいたのである。フリッシュではない。正確なところはわからないが、少なくとも判っているのは、クラウス・フックスというドイツ生まれの物理学者は、ロスアラモスの原爆研究に参加し、大戦後にスパイ容疑で告発され、そして本人もそれを認めたということである。フックスは共産主義者であり、ソ連へイギリスの軍事研究情報を流していたという。フリッシュは彼がスパイだなんて思いもしなかったと述懐している。
 当時のアメリカが外国人に対して少し警戒心に欠けていたということはあるかもしれない。しかしたとえばウクライナ出身のジョージ・ガモフ(物理学者)は、ロスアラモスには呼ばなかった。ソ連のスパイと言う可能性を排除できなかったからである。
 “スパイ”が盗んだ情報は、たとえばこんな情報である。
 プルトニウム型原子爆弾は、ウラン型とは別の問題があった。「プルトニウム型」では、「連鎖反応」を一定時間持続させなければならないとわかり、ところがふつうに爆発させるとそれができず、連鎖反応は起こらず、したがって爆弾としては不発である。そこでアメリカ研究チームが考えたのが「爆縮」という技である。そのプルトニウム爆弾の中に、TNT火薬をうまいぐあいに配置し、TNT火薬の内側に向けた爆発力のよって、爆弾が飛び散るのを防ぐべく強引にしばし圧縮するという技である。そのために計算し、考えつくされた最初の火薬のデザインを「爆縮レンズ」という。これは天才数学者達の計算機を使わない何か月にもおよぶ思考(計算)で編み出された緻密なデザインであった。
 こうした技が、スパイによってソビエト連邦へ横流しされたのである。
 このように「スパイ戦争」ではソビエト連邦が一歩先を進んでいたが、大戦後、英米はそれに負けぬよう対抗し、その意識が一般人にまで及び、「スパイブーム」をつくっていったということかもしれない。こういう空気の中では、スパイをやっている人の中では、「スパイをやっているオレ、かっこいい」というような意識もおそらくあっただろう。 


≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 後手良し

 我々――終盤探検隊――のこれから進む道は、【い】3三歩である。


≪3三歩図≫
 もしも後手が、 3三歩を手抜きして5九金なら、3二歩成、同銀、3三歩(次の図)となって―――

変化A図(3三歩に5九金)
 先手優勢となる。
 図から、3三同桂には1一飛、3三同玉なら1一角、2二桂、4五金である。

≪3四同銀図≫
 したがって、≪3三歩図≫から、3三同銀、3四歩、同銀と進むのが我々が考える「本筋」で、この図になる。
 これが、【い】3三歩の本筋の進行で、この後先手は「7三歩成」とするか、あるいは「9一竜」か…。

 しかしその前に、3三歩を「 同桂 」(次の図)だったらどうするのか―――という問題がある

≪3三同桂図≫
 これが今回のレポートのテーマである。 もしもこの「 3三同桂 」で先手が悪いのであれば、上の≪3四同銀図≫を調べても意味がない。だから終盤探検隊の望みとしては、「この≪3三同桂図≫の分かれは先手良し」ときっちり確定させておきたい。(そうでないと次へ進めない)

 この≪3三同桂図≫で、先手はどう指すのがよいだろうか。
 3つの有力手段がある。
  〔E〕5八金
  〔F〕3四歩
  〔G〕7三歩成
 (他に〔H〕9一竜もあるが、それは5九金、3四歩となって〔F〕と合流する)


〔E〕5八金

5八金図1
 〔E〕5八金は、以下、同と、9一竜(図)と進む。
 この9一竜は必要な手で、この手で他の手――たとえば3四歩――だと、8四桂と打たれて先手がいっぺんに不利になる。(9一竜の後に8四桂には、8五玉、9四金、8六玉で、これは「9四金を打たせた」ということで、逆に先手が良い)
 ここで7五金、7七玉、3四歩が、おそらく後手の最善の対応(次の図)

5八金図2
 先手は今「飛角角金金香歩2」と強力な持駒をもっているので、3四歩を打って3三歩成とする手で後手玉は一気に“詰み”となる。なので後手がこの図の「3四歩」を打つ以外の手は、先手が勝つ。
 しかし「3四歩」と桂頭を受けて歩を打ったこの図はどうもここからは先手の勝ちがない―――と判断し、終盤探検隊は一旦はこの道の調査を打ち切ったのであった。ところが、その後、この先の展開で先手に“好手”を発見したので、それをぜひ紹介したい。

 まずこの図で、先手は3五歩と歩を合わせる(次の図)

5八金図3
 以下、6五桂、8八玉、3五銀(次の図)

5八金図4
 「6五桂、8八玉」を決めてから、「3五銀」としたのは、単に3五銀だと6七玉のような手があって、その変化を消した意味があった。しかし実はそれが後手の失敗になろうとは…。正解は「単に3五同銀」だったのだ!(この理由は後で説明する)

5八金図5
 後手の3五銀に、6三角(図)と打つ手があった。この手は、終盤探検隊が見つけた。(つまりソフト「激指」はこの手を10個の候補手として示していないということ)
 どうやらこれで、この局面は“先手勝ち”になっているのである!

 6三角の手では、6一角のような手はよくある“筋”であるが、それはこの場合4二金とかわされて次の手がない。それで、6三角と打った。4二金なら5一竜があるのが6一角との大きな違い。
 この6三角を同金と後手は取りたいだろう。しかし6三同金、5一竜、4一桂、5二飛となると、はっきり先手優勢である。

 では図から、7六桂、9八玉、7七桂成だとどうなるか。先手は8九香と詰めろを受け、そこで8六金、同歩、6三金で次の図だ。

5八金図6
 先手玉は、次に8七角、同香、8八桂成までの三手詰めだ。
 後手玉に“詰み”はあるか? あれば先手勝ちになるが…
 答えを言うと、後手玉に“詰み”はない。しかし、“先手勝ち”になるのだ。
 その手順は、3一角、同玉、1一飛、2一角、5一竜、4一角、5二金(次の図)

5八金図6
 これで“先手勝ち”。 後手に「角」を二枚受けに使わせたので、先手玉が安全になったからだ。
 この図で後手2二玉も、2一飛成、同玉、3一金以下詰み。


 さて、戻って、では先手「6三角」に、この図のように「4一桂」と受ける手はどうなるだろうか。
 それには5二角成、同歩、6一飛と行く。これは3一角以下の“詰めろ”だ。
 よって、後手は1四歩。 先手は1五歩(詰めろ)、同歩、1四歩(同香なら3一角、同玉、1二金)、4五桂、4一飛成、同銀、1一角(次の図)

5八金図7
 1一同玉は2一金、同玉、4一竜から詰むので、3二玉と逃げるが、それも詰みがある。3三香、同角、2二金(次の図)

5八金図8
 2二同角、同角成、同玉、1一角、同玉、2一金、同玉、4一飛成…、以下の“詰み”である。



 このように、「6三角」という好手があって、今の変化は“先手勝ち”。
 ところが、「5八金図3」まで戻って、先手「3五歩」を、後手が“単に3五同銀”(次の図)とすれば、事情が変わるのだ。

5八金図9
 ここで先手はどう指すか。それが問題だ。
 ここであの「6三角」を打つとどうなるのか。
 それは同金と取られ、5一竜、6六角、7八玉、4一桂となるが、この形だと“後手良し”となるのである。これが先ほどとの大きな違い。
 図で6七玉が見えるが、それは6六桂と打つ手がぴったりで、やはりこれも“後手良し”。

 ということで、“早逃げ”の8八玉が最善かと思えるが…
 8八玉、7六桂、9八玉、6八と、6三角(次の図)

5八金図10
 さあ、この形での「6三角」はどうか。
 この図で重要なことは、後手の駒台に「桂」が乗っていることである。6五桂と7六桂、二枚の桂馬を打つ場合との違いはそこである。この違いが後で形勢を分ける。
 「6三同金」と図で角を素直に取ると、5一竜、4一桂、4二歩、7八と、3一角、3一同玉、1一飛、2一角、4一歩成(次の図)

5八金図11
 2二玉、2一飛成、同銀、3二金、同玉、3一と…、以下後手玉“詰み”。
 これは、“先手勝ち”になった。
 
5八金図12
 戻って、先手「6三角」に、6三同金とはせず、「7八と」(図)が後手の正解手である。
 これで先手玉に詰めろがかかったので、先手は8九香と受ける。
 そこで6三金と角を取る(次の図)

5八金図13
 これで“後手勝ち”が確定である。この場合、後手の持駒に「桂」が一枚あることが大きい。これがなければ、さきの変化にあったように、この図から3一角、同玉、1一飛、2一角打、5一竜、4一角、5二金の順で先手勝ちになるところだった。角を受けに二枚使ったので後手の勝ちがその場合はない。ところがこの図では「桂」があるので、5一竜には「4一桂」と受けることができ、これで「角」を使わないですむ、それによって、この図から「8八桂成、同香、8九角」の先手玉の“詰み”が残り、この詰みを伸ばす手段が先手に無い。


 以上の探査研究により、〔E〕5八金コースは「後手勝ち」とわかった。
  


〔F〕3四歩

3四歩図1
 〔F〕3四歩と先に打つ。次の3三歩成がどれほど後手に利いているか。
 この場合は〔E〕5八金コースの場合との大きな違いは、金が持駒に一枚少ないということである。
 しかし5九の金を取らせる代わりに、「一手」多く先手が指せるということになり、その「一手」で3四歩と先着したのである。
 図以下、5九金、3三歩成、同銀、9一竜と進んで、次の図。 

3四歩図2
 上のケースでも出てきたが、この9一竜は、後手に8四桂と打たせないための必要手。
 ここで後手に選択肢がある。
  〔カ〕7五金、〔キ〕7四歩、〔ク〕4二銀右、の3つ。

 〔カ〕7五金は、これがいちばん最初に見える手と思うが、どうだろうか。
 7五金、7七玉、6五桂、8八玉、7六桂、9八玉、7七桂成、3四桂(次の図)

3四歩-3五金図01
 二枚の桂で後手は先手玉に“詰めろ”をかけた。
 しかし図の3四桂が先手用意の“返し技”。以下、3四同銀、1一角、同玉、3一飛(次の図)

3四歩-3五金図02 
 2一角、3三角、2二桂、7七角成(次の図)

3四歩-3五金図03
 これで先手優勢。

3四歩-3五金図04
 後手のやり直し。7六桂の王手に代えて、今度は7六金(図)と攻める。
 次は7七桂成とねらっているが、まだ詰めろではない。
 先手はどうするか。
 ここはやはり同じ攻め―――3四桂~1一角~3一飛でよい。

3四歩-3五金図05
 同じように攻めて、今度は3二金(図)と打って、後手玉は“必至”である。

 このように、「3四桂以下」の先手の攻めがたいへん強烈である。この攻めは後手が「金」を持っていると受かる。後手は7五金と金を使ったので、この「3四桂以下」の攻めが炸裂したのだった。

3四歩-3五金図06     3五金~4二銀右
 少し手を戻して、途中で、図のように「4二銀右」受けた場合。
 この場合は4一角と打つ。“詰めろ”だが、これを3二歩と受けると、5二角成がある。
 よって後手は3一歩と受けるが、それには2六香がある(次の図)

3四歩-3五金図07
 「2三」に火力を集中させれば、後手はひとたまりもない。2四桂と受けるのは、同香、同銀、3四桂、3三玉、4五金で“いっちょあがり”である。

3四歩-3五金図08   3五金~6二銀
 手はあるもので、先ほど4二銀右としたところを代えて、「6二銀」とそっちに銀を引いたのがこの図である。
 4二銀右のときと同じく4一角と打つと後手のわなにハマってしまう。4一角は、4二金とされ、先手まずい。4一角と先手に打たせないための「6二銀」という工夫であった。
 ここは4五桂と打って、寄せの“仕込み”をしておく。
 後手は攻めてくる。6五桂、8八玉、7六桂、9八玉、7七桂成、8九香(次の図)

3四歩-3五金図09
 後手は4二金と受け、3筋を強化(ほうっておくと3四歩がきびしい)
 しかし持ち駒の多い先手には攻めがある。1一角、同玉、3一飛、2一角、3三桂成。

3四歩-3五金図10
 先手勝ち。

 後手〔カ〕7五金は、“先手勝ち”と結論する。

3四歩-7四歩図01 7四歩
 〔カ〕7五金で勝てなかった後手は、〔キ〕7四歩(図)と工夫する。これは次に7五銀と出ようという手だ。

3四歩-7四歩図02
 対して先手は2五桂(図)と打つ。(代えて3四歩もあるが、その後の変化が多く、我々の調査は結論まで出せていない)
 後手はねらいの7五銀。
 これに対して、先手は<a>8五玉と<b>7七玉と、二択である。
 まず<a>8五玉だが――――

3四歩-7四歩図03 8五玉に6四銀
 実を言うと、先手が2五桂と打った時、後手玉には“詰めろ”がかかっていたのである。(その“詰み”は後で出てくる)
 ところが、この図の後手「6四銀」はその詰みを逃れつつ(5三の脱出口が開いたため)、先手玉に詰めろをかける“詰めろ逃れの詰めろ”なのだった。先手玉には後手8四歩以下の詰みがある。
 この図は、先手が苦しい。

3四歩-7四歩図04
 後手7五銀に対する先手の正解手は、<b>7七玉だった。後手は「金桂桂」と持っていて、なんだか詰まされそうな気もするが、大丈夫、詰まない。6五桂には7八玉と逃げて、詰まない。以下6六桂、8九玉、7七桂成となって、先手玉はほぼ必至だが、先ほども言ったように、後手玉には“詰めろ”がかかっているので、先手が勝ちになる。
 その“詰み”の手順は、まず2一金から入って―――(次の図)

3四歩-7四歩図05
 2一同玉、3三桂不成、3二玉、4一角、3三玉、1一角(次の図)

3四歩-7四歩図06
 2四玉、2三角成、同玉、3三飛(次の図)

3四歩-7四歩図07
 こういう“詰み”である。

3四歩-7四歩図08
 こんな具合に後手玉が詰んでしまうので、その前に後手は受ける必要がある。それで6五桂と打つ前に4二銀右としたのが、この図。
 上でもあったように、この場合も4一角が有効(次の図)

3四歩-7四歩図09
 3一歩なら、3六香、3五桂、同桂、同銀、3四歩と攻めていけばよい。以下3四同銀は、2一金、同玉、3三桂打以下詰み。
 ただしこの場合、後手は金を持っているので、3一金の受けがある。その形でどういう攻防になるか、それを確認しておこう。
 3一金、3三桂成、同銀、5二角成、6五桂、8八玉、7六桂、9八玉、7七桂成、8九香(次の図) 

3四歩-7四歩図10
 8九香で後手の攻めは止まった。後手はここで5二歩と手を戻す。
 そこで後手玉に“詰み”があるのだった。
 3一飛成、同玉、1一飛(次の図)

3四歩-7四歩図11
 元々、後手玉は「穴熊玉」だった。だから「1一」に空間があり、その空間を利用して後手玉を寄せるのはたいへんに気分の良いことである。
 1一飛に4二玉は3一角があるし、2一に合駒は何を合いしても、4一金、同玉、2一飛成、3一合駒、3二金、5一玉、7三角以下、わりとわかりやすい“詰み”である。

 〔キ〕7四歩も“先手勝ち”だ。

3四歩-4二銀右01
 〔ク〕4二銀右。 もっと早い段階で――つまり先手から2五桂が来る前に――4二銀右とした場合。
 やはり先手4一角と打って行き、後手は3一金と受ける。
 以下、5二角成、同歩、6一飛、6七角、8六玉、9四桂、9五玉、7五銀(次の図)

3四歩-4二銀右02
 先手が6一飛と打った時には、後手玉には“詰めろ”がかかっていた。その詰みは、3四桂、同銀、1一角という筋で、後手はそれを受けつつ、6七角と打ったきたのである。
 この図では、今は逆に、先手玉に“詰めろ”がかかっている。8四銀、9六玉、8五角成の三手詰めだ。
 先手は8五香と打って、それを受ける。
 後手は8四歩。先手、同香。そこで後手、8六桂(次の図)

3四歩-4二銀右図03
 後手の細い攻めをふりほどけば、先手の勝ちがはっきりする。
 この図では8五桂でもよいが、3四桂がもっとわかりやすい。同馬と取らせて、先手玉を安全にして、3二歩と攻める。

3四歩-4二銀右図04
 3二同玉だと、4一角からかんたんに詰んでしまう。よってここは1四歩と逃げ道を開くくらいしか手がないが、3一歩成で“先手勝勢”である。。

4二銀右図01 
 さて、もっと前―――先手3四歩と打ったところ―――に手を遡って、そこで「4二銀右」(これまでは5九金以下の展開を調べてきた)としたのがこの図。これを調査しよう。
 ここでは3三歩成、同銀右とすぐに桂を取るのもあるかもしれないが、先手のより戦いやすい指し手は何かを考えたい。
 後手は4二銀右と受けを強化した。その分、盤面左半分の、後手からの先手玉への“圧力”は減少した。
 そこを衝いて、6五歩と打つのが本筋ではないかと思う。5三銀や5五銀上なら、7三歩成だ。
 よって、6五歩には、5九金、6四歩が予想される。
 そこで先手は6六角と打つ、次に3三歩成が厳しいので、後手は5五桂と受ける(5五金の受けなら、8八角と引いておく。金を打ってくれると7五玉からの入玉がラクにできる)
 そこで8三竜(次の図) 

4二銀右図02
 先手は“入玉作戦”である。
 図以下の想定手順は、5六と、3九角、3八歩、8四角、7一桂、7四竜、8三金、同竜、同桂、8五玉(次の図)

4二銀右図03
 飛車は敵に渡したが、“入玉”は確定的。玉を安全にしてから、思いっきり攻めればよい。
 3三歩成を決めないのは、こういう流れになった時、3三玉からの後手の“中段玉”あるいは入玉狙いを警戒したからだった。


 以上の調べにより、〔F〕3四歩は「先手勝ち」と結論する。

≪3三同桂図≫(再掲)
  〔E〕5八金   →後手良し
  〔F〕3四歩   →先手良し
  〔G〕7三歩成
 「3三歩、同桂」の次、手番は先手。なので、〔F〕3四歩を選べば先手良しの道を進めるわけで、したがって、この図の形勢判断は「先手良し」となる。
 結論はすでに出たので、〔G〕7三歩成については省略してもよいのだが、面白い手も出てくるので、大雑把に紹介しておこう。


〔G〕7三歩成 (白波作戦Ⅱ)

≪7三歩成図≫
 『報告part83』で、我々は『白波作戦』と名付けて、7三歩成以下の戦術を調べた。
 その時と今回と、何が違うかといえば―――

参考図(白波作戦Ⅰ)
 これがその『白波作戦』の図であるが、この図で「3三歩、同桂」が入っているケースが、これから調べる戦術である。後手3三桂型に対する7三歩成を『白波作戦Ⅱ』としよう。

 『白波作戦Ⅰ』は失敗に終わったが、『白波作戦Ⅱ』はどうだろうか。 

 ≪7三歩成図≫からの指し手の本筋は、(先手7三歩成に)
 5九金、7四金、7三銀、同金、6四銀、7四金となる(次の図)

≪7四金図≫
 ここで後手が何を指すかだが、『白波作戦Ⅰ』(後手2一桂型)の時は、7四金には、8四桂と打たれ、以下、同金、同歩、同竜、7二桂で、“後手良し”と結論した。
 ところがこの図で8四桂は、結果は逆に出る。“先手良し”になるのだ。
 図で後手8四桂には、同金で、その瞬間3四桂からの“詰めろ”が後手玉にかかるので、後手はこれを同歩とは取れず、それで先手優位の将棋となるのだ。
 ほとんどの変化で、後手陣の「3三桂型」は、先手にとって得な結果になる。しかし「先手良し」を確定するためには、後手の指し手の選択肢の全てをチェックする必要があるわけだが、今のところ、この図から後手が有利になる順は見つかっていない。
 〔サ〕8四桂以外では、後手の有力な指し手は
  〔シ〕5五銀引
  〔ス〕6三歩
  〔セ〕7三桂
  〔ソ〕7五歩
  〔タ〕7三金
 これくらいだろうか。以下、順に触れておくとしよう。

7三歩成-5五銀引図01
 〔シ〕5五銀引。 ≪7四金図≫は後手の6四の“銀取り”がかかっているので、後手が5五銀引とするのは自然。しかしその手は、この図の「5三歩」が破壊力のある手で、はっきり“先手良し”になる。これを放置すれば、5二歩成が後手玉の“詰めろ”になっているし、同金は5一竜がある。5三同銀と取るのが無難に思えるが、それは先手の玉が安全になるので、3四歩と打たれて、先手に攻めの主導権が渡ってしまう。
 というわけで、〔シ〕5五銀引は“先手良し”。

 〔ス〕6三歩も、同じく5三歩で、“先手良し”になる。

7三歩成-7三桂図01
 〔セ〕7三桂。
 これも同金と取って、取った桂を3四に打てば簡単に―――と思いきや、そうならない。7三同金に、8四桂と打たれ、これはあやしい変化になる。
 この〔セ〕7三桂には、6四金と銀を取るほうがよい。それには8五金、7七玉、7六歩と、先手玉は下段に追い落とされてしまうが、以下、8八玉、6七と、7三金、7七歩成、9八玉、3四歩、2六桂、4二桂、6四角(次の図)

7三歩成-7三桂図02
 変化の一例だが、このようになって、後手がつらい展開になる。図の6四角は“詰めろ”である。

 また〔ソ〕7五歩は、8六玉とかわしてこれも“先手良し”。

7三歩成-7三金図01
 〔タ〕7三金。
 この後手7三金と打つのが一番の強敵かもしれない。しかしそれも、7三同金と素直に取って、同銀に、そこで先手に素晴らしい手が出番を待っている(次の図)

7三歩成-7三金図02
 美しさを感じるこの飛車打ちで、“先手良し”が決定的になる。
 次に5二飛成が先手のねらいだが、これを受けるのが難しい。5三桂と受けても、同飛成、同金、3四桂以下後手玉は詰んでいる。
 8四桂は6四桂と王手で桂を打つ手も、3四桂ねらいで、“同飛”と取られてしまう。
 また、3一歩と受けるのは、それでも5二飛成で、同歩なら、1一角以下の詰みがあるので、受けになっていないのだ。 
 だから図で後手が粘るとすれば、4一金と打つくらいだが、それは粘るだけ、3四歩から攻められる。

 図から、後手7五歩、8六玉、9四歩の展開を最後に紹介しておく(次の図)

7三歩成-7三金図03 後手7五歩~9四歩
 逆転のねらいを秘めた勝負手である。この9四歩のねらいがぼんやりしているように見えるところに味がある。
 勝負手といっても、先手優位は間違いないので、意味が分かってしまえば対処は簡単。
 この手は、5二飛成に、7六金と打って、8五玉に、8四歩と突くねらいである。こうなると、先手は同竜しかない、というわけである。
 対処方はいくつかあるが、ここはあっさり敵の望みをかなえるのが、実はわかりやすい勝ち方。

 図から、5二飛成、7六金、8五玉、8四歩(次の図)

7三歩成-7三金図04
 8四同竜、同銀(竜を取る)、同玉、5二歩(2つめの竜を取る)、4二銀(次の図)

7三歩成-7三金図05
 3一歩、7三玉、6九飛、6四歩、6八飛打、6三金、7一桂、5一角(次の図)

7三歩成-7三金図06
 先手勝ち。

 結論、〔G〕7三歩成(=白波作戦Ⅱ)は、「先手良し」。


≪3三歩図≫(再掲)
 さあ、これでこの図での、「3三同桂は、先手良し」、が確定した。(めでたし、である)
 〔F〕3四歩、または〔G〕7三歩成以下、先手が有利になる。
 また、図の3三歩を同玉と取るのも、1一角、2二桂、4五金で先手良し。

 よって3三歩は「同銀」と取るのが、後手の本筋となるわけだ。
 以下、3四歩、同銀で、次の図。

≪3四同銀図≫
 これが新たなテーマ図になる。
 ここから7三歩成はどうか。 また、9一竜はどうか。


 次回のテーマはこの図での「7三歩成」。 『白波作戦Ⅲ』である。



                       『終盤探検隊 part87』につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part85 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2016年12月13日 | しょうぎ
 今、終盤探検隊はこの将棋を、「先手番」をもって闘っている。
 最初我々はこの闘い――≪亜空間戦争≫――の観戦者にすぎなかったが、いつの間にか「先手番」の座席に坐ることになってしまっている。(これは何者かによる仕組まれた罠なのか、それとも単に偶然なのか…)

 それにしてもいったい我々は「何」と闘っているのであろう。「後手番」をもつ正体の見えない敵は、誰なのだ。


    [主]
知の海にあって視る者がいた。主(かれ)は今、無数の小さな生命がひとつの渦の中へ吸い込まれて行くのを見ていた。その生命たちは時間をかけて手際よくより分けられ、遠くから渦に向かって漂って来たものたちであった。
主(かれ)は今、その微小な生命がひとつに練り固まって行くのを待っているのであった。
                                  (半村良『妖星伝』(五)天道の巻より)


 これはこの小説中、「黄金城」と「鬼道衆」(人間の霊魂)とが混ざり合わさり、宇宙へ飛び立つ霊船「黄金丸」へと変身するところの描写である。


≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   →
  【お】6五歩   → 後手良し

 この≪夏への扉図≫が、今、我々の最大テーマとなっている。
 この図からの“先手の勝ち筋”を見つけることができれば、この勝負――≪亜空間戦争≫――は我々の勝利で終わる。逆に見つけられなければ、負けだ。

 いま、【え】9一竜を探査中である。 
 9一竜、5九金、6六角、5五銀引、9三角成、9四歩で、次の図となる。

≪9四歩図≫
 9一竜~9三角成で9筋を“開拓”し、“入玉”をねらうのが、前回試みた『草薙作戦』であった。残念ながらそれは失敗に終わった。
 この図の「9四歩」が好手で、その“入玉作戦”は完全に抑えられてしまった。
 ここで9六歩には、後手は8四金と打つ。

 そこで「8六歩」。 これが今回の作戦である。


〈ハロー作戦〉

≪8六歩図≫
 今、先手は「8六歩」と突いたところ。
 8四金と後手に打たれて、もう入玉は無理――。それなら、“攻め合い”に活路を見い出そう、そして攻め合う前にまず「8六歩」。
 これによって玉の“ふところ”を広げ、次の手番で、3三歩から勝負の形をつくる…。後手の8四金は打たれたのではなく、打たせた、と考えよう。

 これを我々終盤探検隊は、『ハロー作戦』と呼ぶことにした。

 「8六歩」で、次は後手の手番になるが、どう指してくるだろうか。
 見ればこの図、先手は四枚の大駒(飛車と角行)をすべて持ち、後手は金銀七枚を盤上に置いている。
 ここで[R]7五桂と打つのは後手まずい。それは8五歩、7四金、8六玉で、次に9四馬~9五玉…、これは先手良し。


5六と図1
 [S]5六とはこの局面で「激指13」が示す後手の最善手である。
 ところが、我々の調査研究では、ここから進めていくと、どうも“先手勝ち”の結果に行き着くのである。その手順をこれから示す。
 図から、8八玉、6六と、7八香、6五桂、8八金、6七歩、3三歩(次の図)

5六と図2
 3三同銀、4一角、3一歩、3二歩(次の図)

5六と図3
 4一角と打ち込むこの攻めは、4二金とされると5一竜、4一金、同竜と進んで「角金交換」になることを承知の攻め。相手に「角」を渡してその「角」でこちらの玉が詰まされてしまっては意味がないが、この場合は大丈夫なのだ。
 図の3二歩は、同歩と取らせて5二角成、同歩、6一飛で寄せようという意味だが、後手はだから同歩ではなく、4二銀右と頑張る。(4二銀左は3八飛がある)
 以下、5二角成、同歩、6一飛と、それでもこの攻めを決行する。6一飛はまだ詰めろではないのでここで後手は反撃してくる。
 後手7六桂と打つ。以下、8九金(次の図)

5六と図4
 7七桂成、同香、6九角、7八桂、7七と、同玉、6八歩成、8四馬(次の図)

5六と図5
 図の「8四馬」が先手のねらっていた手で、金を取って、持駒が「金二枚」となったので、後手玉に3一竜、同銀、同竜、1一玉、2一竜、同玉、3一金、2二玉、2一金打までの“詰めろ”がかかった。
 なお、代えて3一歩成も後手玉への詰めろだが、それだと7八と、7六玉、7五香以下、先手玉が先に詰まされてしまう。 しかし「8四馬」のこの図なら、この攻めには後手の7五香は同馬と取れるのである。 つまり「8四馬」は、“詰めろ逃れの詰めろ”だったのである。

 もう少し続けてみよう。後手が5一香と打って頑張ると…
 5一香、3一歩成、同銀、5一飛成、4二銀引、5二竜、1一玉、3三歩(次の図)

5六と図6
 後手は先手の“詰めろ”の追撃から逃れようとしたが、結局できなかった。 
 この図の3三歩も“詰めろ”。 2二金、同銀、2一竜以下。
 「先手勝ち」。


≪8六歩図≫(再掲)
 [S]5六とは、「激指」が推しているように、(後手にとって)良い手に思えた。しかし結果は先手に幸いした。
 ということで、後手は別の手を考え出す必要がある。

5四銀図1
 [T]5四銀。 この手は、“厚い攻め”を目指した手で、中央の三枚の銀で先手玉に迫ろうというもの。(しかしその分自陣はうすくなるが)
 8七玉、6五銀左、9七玉、6七と、3八香(次の図)

5四銀図2
 先手は3八香と、持駒の香車を攻めに使った。この将棋は受けに香車を使うのも有効だし、香車をどう使うか悩みどころだ。 この場合、後手の5四銀~6五銀の攻めは少し遅い攻めなので、攻めに香車が使えるという判断で打った。
 3三歩の受けに、7二飛と打つ(次の図)

5四銀図3
 これで後手受けがない。次に5二飛成がある。
 6二桂は7三歩成で、以下、7六銀、6二と、7七と、7九桂、7五桂、9八金で、後手の攻めはそれ以上続かないので、先手勝ち。
 今の手順は、6二で取られた桂馬を7九桂と受けに使われた。
 それなら―――3一桂と受けてみよう。
 図から、3一桂、3三香成、同玉、1一角、3四玉、3六金(次の図)
 (3三香成を同桂は、5二飛成、同歩に、1一角から詰み。3三香成を同銀は、5一竜がある)

5四銀図4
 3三香成からの寄せがあった。先手勝ち。
 『ハロー作戦』大成功。

5四銀図5
 3八香と打った手に、「3三歩」が後手にとってまずい手だったようだ。
 その手に代えて、「7七と」としたのがこの図。次に7六銀とすれば、先手玉に詰めろがかかる。
 7七とでなく、“先に7六銀”なら、1一角、同玉、3二香成で、先手勝ちが決まっていた。 この図の場合は角を渡すと、後手7九角以下の詰みがあるので、その手段は使えない。
 「7七と」、次は7六銀、さらに7五桂と後手は攻めてくるつもりだ。

 先手はここでどう指すか。
 3二香成、同玉、1一角(詰めろ)、4二玉、5四歩(詰めろ)、同銀、6一竜(詰めろ)、6二歩、3七飛(次の図)

5四銀図7
 先手は後手玉に詰めろの連続で迫り、3七飛(図)。
 この飛車打ちは詰めろにはないっていないが、後手はどうするか。飛車のタテの利きを3三歩や3六歩で止めると、7七飛とと金を払われる。その展開は、勝負は長引くが、はっきり先手が良い。
 なのでここは「と金」を守る。7六香。(7六に打ったのは7五桂と打つスペースを開けておくため)
 以下、2二角成、5三玉、3一馬、4二桂、3二飛成(次の図)

5四銀図8
 この3二飛成(図)は、5二竜~4二馬の手順で“詰めろ”になっている。
 進行の例は、6三玉、5三歩、7五桂、9八銀、5三銀、7三歩成、同玉、5六歩、同銀、6六金(次の図)
 (手順中5六歩に6六銀は、8二馬、7四玉、7二竜、6五玉、3五竜以下詰みがある)

5四銀図9
 先手勝ち。

 この図を見れば、この8六歩として闘う『ハロー作戦』の特徴(良さ)がよく出ている。9七に玉を逃げ込む、そして、四枚の大駒をいかにうまく使うかが勝利のカギとなる。


≪8六歩図≫(再掲)
 以上、[S]5六とと[T]5四銀、2つのケースを見てきたが、この『ハロー作戦』の優秀さがわかる例だったと思う。
 8六歩と先手が指したこの図、「激指13」の評価値は[-462]。 にもかかわらず、ほとんどの順は、結局先手が勝つ流れになる。後手の玉は3三歩と叩くと意外にもろく、かといって後手が3三歩と打てば玉が狭くなりまた寄せやすくなるので補強をしようがない。また後手は持駒の桂馬で早く攻めたいがあまり早く桂を使うと、その桂を取られて3四桂と逆用されてしまうので、使いどころが難しい。そういう関係で、どうも(意外にも)先手の勝ちやすい将棋になっている。
 我々(終盤探検隊)にとっての重大な問題は、ではこの図からすべての後手の手段に対して、先手が勝てるのかどうか、ということだ。(そうであれば嬉しいのだが)
 この図からの、後手の最善の指し方は何だろう?
 この将棋、どうやら結局後手は「7七」に駒の利きを増やす攻めになりそう。それなら、5七の「と金」は6七とと使いたい。5六とと引いて6六と使うのが最初のケースだったが、それだと「7七」に利かすまで2手かかっているし、6六にと金がいると5五の銀が使えない。5五の「銀」を6六銀と使い、5七の「と金」は6七とと使いたい。そして「6五桂」と打つ。―――その形を実現させるように手を進める手順を考えてみる。
 (先手をもつ我々としては、その後手最善手順を粉砕すれば「先手勝ち」が確定できる)

7五銀図1
 どうやら[U]7五銀(図)が最善手ではないかと思う。(「激指13」はこの手を5番目の候補手として評価している)
 上の≪8六歩図≫から7五銀として、以下、8七玉、6六銀左、3三歩、同銀、7九香、6七と(次の図)と進む。
 今の手順で、6六銀左の手で、6七とを先にすると、先手6八歩の手があって、これを同とでは後手は面白くない。

7五銀図2
 ここで「4一角」と打って勝つのが先手の狙い目なのだが―――。
 4一角、4二金、5一竜、4一金、同竜、8六銀、同玉、6八角(次の図)

7五銀図3
 なんとこれで先手玉は詰んでしまうのである。角を渡すとこの「8六銀~6八角」の攻め筋があるということだ。

7五銀図4
 そこで先手は「4一角を打つ前に、6八歩、同とを利かせておけばよいのでは」という考えになる。
 「7五銀図2」まで戻って、先手6八歩(図)。
 ところが6八歩を同と取らず、“7七と”があるのだ。
 この図より、7七と、同香、6五桂(次の図)

7五銀図5
 7五香、7七桂成、9七玉、7五金(次の図)

7五銀図6
 ここで4一角と打つのは、やはり4二金以下角を後手に渡すと、7九角と打たれて負けてしまうので先手まずい。
 それならと、この図から、3四歩、同銀と銀をつり上げ、3三歩、3一歩、4一飛と飛車を打ち込む攻めを試みてみる。次に3一飛成、同玉、3二金までの“詰めろ”。
 これには後手4二銀と受ける(次の図)

7五銀図7 
 この4二銀には先手5三歩が手筋。後手はこれを取れない。そして次の5二歩成が詰めろになる。
 ところがこの場合は5三歩~5二歩成よりも、後手の8四香の先手玉への“詰めろ”が先だ。しかもこの“詰めろ”は受けようがない。(図で6四角には7六金で後手良し)
 この図は「後手勝ち」で確定である。

7五銀図2(再掲)
 もう一度「7五銀図2」に戻る。どうもここから先手の勝ち筋が発見できない。
 この図で4一角では先手勝てないとすでに書いた。
 では、この図から3四歩、同銀、3三歩、3一歩、4一飛(次の図)はどうだろうか。

7五銀図8
 実はこの図は、上のケースと違って「先手大成功の図」で、先手優位が見込める図になっている。
 後手4二銀の受けには5三歩で、この場合は後手からの“詰めろ”の攻めがないので、先手の次の5二歩成が間に合うのである。
 そしてこの図では、後手の受けは4二銀以外では3三玉か3二桂しかなさそうだが、いずれも我々の調査では先手良しになった。(その解説は省略する)
 どうやらこの図になれば、「先手良し」。

7五銀図9 
 ところが、今の手順の途中で、先手の3四歩に、この図のように4二銀左と銀を引く手がある。
 ここからこの後手陣を攻略するのがむずかしい。いや、手段はあるのだが…
 やはりこの場合は4一角と打つのが攻略手段。ただ問題は、先手と後手との“攻めの速度”の問題である。この場合、角を後手に渡すと先手玉が8六銀、同玉、6八角で詰まされてしまうことは上で述べた。その時は4一角に対し、4二金から角金交換になった。しかしこの場合は4二の場所に銀があるので4二金がない。だからすぐに角金交換にならない。
 4一角に、3二歩。
 そこで5二角成、同歩、6一飛としたいところだが、角を渡せないので、5二角成は保留して飛車を1段目に打つ(次の図)

7五銀図10
 6一飛と打つと6二金があるので7一飛(図)と打った。次に5二角成とし、同歩なら、2一飛成で後手玉は詰み。これなら後手は角を使う余裕がない。ただしこの攻めは先に5二角成として飛車を打つ攻めより一手遅い攻めになるのだが…
 先手と後手と、どちらの攻めが早いか、という問題になる。
 図から、6五桂、5二角成、7七と、9七玉、7六銀、9八金、7五桂(次の図)

7五銀図11
 後手の攻めのほうが勝った。受けるなら8八金打しかないが、それでも8七と以下、先手玉は詰んでしまう。

 こうして、[U]7五銀以下、どうも先手に勝ちがないと、我々は判断するに至った。


≪8六歩図≫(再掲)
 結論。 この≪8六歩図≫は、後手7五銀以下、「後手優勢」になる。


 先手『ハロー作戦』は不発に終わった。 (あとひと押しという感じではあったが…)


≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 後手良し

 そして今回の探査で、この図から【え】9一竜の結論も「後手良し」に確定した。


 しかしまだ、【い】3三歩がある。


                       『終盤探検隊 part86』につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part84 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2016年12月10日 | しょうぎ
 先手9一竜と香車を取り、後手5九金に、今、6六角と打ったところ。
 以下、5五銀引、9三角成と進むが、こうやって8五~9四玉と、“入玉”をめざす――というのが、今回の作戦である。
 この作戦を、『草薙(くさなぎ)作戦』と名付けてみた。


   [鳴動黄金城]
「はい。そして鬼道衆はそこに導かれていました」
「導かれるとは、誰に……」
「彼らの造り主に」
「皇帝か」
「皇帝はただ一人の者と言うようには数えられぬ存在です。」
「人智を超えていたような」
 日円は諦めたように言う。
「かつて一粒の種子が大地に落ちました。皇帝は長い時をかけ、その種子から生じた芽をひとつの方向に伸びるよう育てたのです」
「どの方向だ」
「宇宙(そら)へ」
「すると、人は宇宙(そら)に向かってやがて羽ばたく生きものか」
「いずれこの星の者は宇宙(そら)へ飛び立とうとするでしょう」
「その日を見たいものだ」
「しかし、自在に天翔けるには、まだ時が要ります。仮りにこの星の者が天翔けるようになれたとしても、それは限られた高さ、広さ、遠さ……」
「そうかも知れぬ。いや、大いにそうであろう」
                                  (半村良『妖星伝』(五)天道の巻より)
 

 「将軍詰め」の謎を解き、黄金城の扉を開いた「鬼道衆」たちは、みな死んだ。別の言い方をすれば、肉体を脱して、霊的存在となり、「黄金城」の一部になる。そして「黄金城」は宇宙船となり、宇宙へと飛び立ち、外道皇帝を乗せて、彼のふるさとへ…。(宇宙船と言っても、それは霊的宇宙船なのだが)
 これは小説上の話だが、その霊的宇宙船「黄金丸」の出発は、おそらく1758年か1759年。
 ところで、アーサー・C・クラーク原作の『2001年宇宙の旅』も、土星の衛星ヤペタス(映画版は木星のエウロパ)にある巨大なモノリス(黒い直方体)を見つけるのだが、それを調査した宇宙船の乗組員ボーマンは、それに吸い込まれ宇宙の遙か彼方まで飛んでいく。モノリスは、それを300万年前に造った者たちの使うスターゲイトだったのである。そしてそれを300万年前に造った者は、すでに肉体を超越したエネルギー生物へと進化していたわけである。
 SF小説が隆盛していた頃は、こういうイメージ―――「人間は当然やがて宇宙へ出ていく」とか「人間が究極に進化すると肉体を脱して超越的な存在になるのかも」―――というようなイメージがよく描かれていた。「進化する」というイメージが強烈に眩しく、この時代の人々はそれに興奮していたのである。その象徴が、月をめざすロケットであった。
 大阪の万国博覧会が開かれ、アメリカ館で展示された特に変哲もない「月の石」を見るために、人々が長い長い行列をつくって何時間も並んでいたのは、1970年のことである。
 (小説『妖星伝』が書かれたのは、1975年から)

 そのころ将棋界はどうなっていたかといえば、1970年6月、47歳の剛腕大山康晴が内藤国雄から棋聖位をもぎ取り、五冠王(当時の将棋タイトルの全ての保持者)に復帰したのである。


〈草薙作戦〉

≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   →
  【お】6五歩   → 後手良し

 『草薙(くさなぎ)作戦』はまず、【え】9一竜からはじまる(次の図)

≪9一竜図≫
 対して後手は5九金(金を手にして先手の狙う8五玉に8四金を用意した)
 先手は6六角(王手)と打ち、5五銀引に、9三角成(次の図)

≪9三角成図≫
 ここで先手の手番なら、8五玉と進み、8四金には、同馬、同歩、9四玉として、『草薙作戦』成功だ。
 そこで後手は、[P]8四金(次の図)として、入玉阻止の構えだ。

≪8四金図≫
 [P]8四金―――さあ、先手はこの「金のバリケード」を突破できるか。

変化8四金図1
 先手は8五金と打って入玉を図る。
 後手は7四歩と応じ、以下8四金、同歩、同馬と進むが、そこで8三歩がある(次の図)
 (途中先手8四金に後手7五銀は、8五玉、8四銀、9四玉、9三銀、同玉ですんなり入玉できる)

変化8四金図2
 この8三歩が好手で、これを同馬とは(7五金と打たれるので)できないし、5七馬は7五銀、8五玉、8四金、9六玉、9五歩、同竜、9四歩で、先手負け。
 また、7四馬は、8四金と打たれて、やはり先手いけない。
 なのでここは先手は8五玉しかない。以下、8四歩に、9四玉、7三銀(次の図)

変化8四金図3
 この7三銀が警戒すべき手で、まだ先手の“入玉”は確定していない。
 ここで8三香と打つと、9二歩、同竜、6七角、9三玉、9四飛となって、あっという間に先手負け。8三金と打つのも9二歩、同金、7二角以下、先手不利になる。
 ここは8三玉または9三玉と入玉を急ぐ。対して後手8二金なら、同竜、同銀、同玉、6四角、8一玉で、この分かれは先手悪くない。

 図以下の進行は、8三玉、6二銀左(次の図)

変化8四金図4
 9三でなく8三玉としたのは、後手に7二金と打たせたくないからだが、後手に図のように6二銀左とされてみると、ここで先手7二金と打つのは7一桂、9二玉、8三角があってまずく、また7二歩は今度こそ8二金と打たれ、同竜、同銀、同玉、6四角となった時、打った7二歩があるために8一玉とできず(9一飛で詰み)、この場合は先手が悪い。
 ここでの先手の手の選択肢は限られている。どうやら8一飛と飛車を打つのが良いようだ。この手は8二、8三に利かせつつ、後手の7一金の手も防いでいる。
 後手は4七角と打つ。次に7五歩とするつもりだ。
 よって先手は先逃げで9二玉。 以下、7五歩、8三香、7二金、9三金と進む。
 結局、7二金と打たれる展開になる。(これは結果的に前の図で9三玉と入った場合に予想される変化と同じになる)

 図以下の今の進行を書いておくと、8一飛、4七角、9二玉、7五歩、8三香、7二金、9三金(次の図)

変化8四金図5
 続いて、予想手順は、7四銀、8二香成、6三銀引、8三角、同金、同金、3八角打、5三歩、同銀、7三歩、2九角成、5四歩、同銀、7二歩成(次の図)

変化8四金図6
 どうやら先手は入玉に成功した。
 これは“持将棋引き分け”となりそうだ。先手は確保している「小駒」が少なく、ここから相入玉での点数勝ちはちょっと難しそうだ。
 大駒は先後二枚ずつ。現在先手が確保できている小駒は六枚。“引き分け”まで、あと八枚が必要だ。“勝つ”まではあと十五枚―――ちょっと厳しい。
(この勝負は「24点法」を適用している。すなわち両者が24点以上で持将棋成立)

 先手の「6六角~9三角成」に対して、後手「8四金」なら、このようになる。
 「8四金」に8五金で、「持将棋引き分け」には持ち込めそうだとわかった。 ただし「勝つ」ことは難しい。
 だが、「引き分け」というのは、これまでの探査結果からすると、最高の結果である。

 しかし『草薙作戦』について、これが結論かと聞かれれば、まだそうだとは言えない。
 “調べなければならない手”が他にあるからだ。


 ≪9三角成図≫まで戻って、今は、後手[P]8四金でどうなるかを見てきた。しかしその手に代えて、[Q]9四歩という手がある。

≪9四歩図≫
 先手9三角成のときに、この図のように、[Q]9四歩という手があって、これがおそらく後手の最強手である。(これはソフト「激指13」がすぐに示していた手で、こういう手が一瞬で見えるのがソフトの怖さである)

 この[Q]9四歩を同馬なら7五金と打たれるし、8六玉(次に9四馬を狙う)は9五金、7七玉、6六歩で、後手が勝つ。
 このままなら、8四桂と後手から打たれる手で、先手はまいってしまう。

 さて、先手はどう指すか。次の4つの手を一つずつ検討してみる。

  〔ナ〕8五玉
  〔二〕9六歩
  〔ヌ〕7三歩成
  〔ネ〕5七馬
 
変化8五玉図1
 〔ナ〕8五玉には、9五金、7六玉、8四桂(図)と返される。
 7七玉は、8五桂、8八玉、6七と、7九香、6六銀というような攻めで先手負ける。
 それなら、図で8四同馬と、今打たれた桂馬を即食いちぎるのはどうか。
 8四同馬、同歩、3四桂、3三玉、3五金、4四歩(次の図)

変化8五玉図2
 4四歩として「4三」のスペースを開けて、この図は「後手優勢」。 後手からは、6七角、7七玉、8九角成という攻めがある。

変化9六歩図1
 〔ニ〕9六歩には、後手は8四金(図)と打って、先手の狙う“入玉”を全力で防ぐ。
 ここで先手8五金はどうなるのか。(上で検討した場合とは「後手9四歩と先手9六歩」の部分が違っている)
 以下7四歩、8四金、同歩、同馬、7三桂(次の図)

変化9六歩図2
 この時に、「後手9四歩と先手9六歩」の交換がない場合には、先手はここで8六玉から9五玉のルートで入玉がねらえた。ところがこの場合は後手の「9四歩」があるのでそれがない。
 ということで図の「7三桂」で、先手はほとんど入玉の可能性は抑えられている。

 ここから、3三歩、同銀、3四歩、同銀、7四馬としてみる。後手はそこで8五歩(次の図)

変化9六歩図3
 先手の7四馬は、5二馬を狙っている。これを同歩なら、3二金、同玉、3一飛で先手勝ちというわけだが、しかし5二馬は同歩とはしてくれず、6六金まで先手玉の“詰み”である。
 そういうことなので、ここは先手受ける必要があるが、7七玉は7六桂で、6七歩は7五歩、同馬、6七とで寄せられる。
 では、8五同馬とあっさり取るのはどうか。それには6六銀といううまい手があるようだ。
 ここはもう「後手勝勢」である。

変化7三歩成図1
 〔ヌ〕7三歩成はどうか。
 これは後手は、同銀と応じる。
 そこで<e>9四馬には―――

変化7三歩成図2
 8四金である。後手良し。
 
 では〔ヌ〕7三歩成、同銀に、<f>7七角と打って、6四銀上に、8五玉はどうだ。
 7七角と打ったのは、9五に利かせて、ここに金を打たせないという意味で、そうしておいて8五玉から“入玉させてくれ”というお願いだ。
 しかしこれには―――

変化7三歩成図3
 8二桂という手があった。(どうも後手にいくらでも技が出てくる展開になっている)
 以下、5九角、7四銀、7六玉、7五銀直(次の図)

変化7三歩成図4
 7五同馬、同銀、同玉、6六角で、先手玉は詰まされて負け。7七玉なら詰みはないが、それでも先手に勝ち目はない。

 〔ヌ〕7三歩成は「先手負け」。

変化5七馬図1
 〔ネ〕5七馬ならどうか。
 これには6五桂が好手となる。“馬取り”だが、9三馬と逃げると8四桂が絶好打になる。3九に馬を逃げるのもやはり8四桂と打たれ、後手が良い。
 それならと、先手は6八馬と応じる。これに対して8四桂なら、8五玉で、こうなると今度は逆に先手良し。移動した馬が「9五」に利いているので。
 だから、6八馬に、後手は8四桂とはせず、5八金と馬に当てて金を動かす手が好手である。(それにしても、後手に次々と“好手”が現れる)
 これを同馬は、今度こそ8四桂で、どこへ逃げても以下一手詰。
 なので先手は8六馬とする。

 指し手を書くと、この図より、6五桂、6八馬、5八金、8六馬となる。
 以下、予想手順は、8四歩、8八角、7四歩(次の図)

変化5七馬図2
 これも「後手優勢」の図になっている。
 ここからは5五角、同銀、6五玉というような手段があり、それをねらいに先手は8八角を打ったのだが、それを決行しても、6五玉以下、6四銀上、同馬、同銀、同玉、4六角、5五香、6三金打のような手順で、先手玉は結局捕まってしまう。

≪9四歩図≫(再掲)
 〔ナ〕8五玉、〔二〕9六歩、〔ヌ〕7三歩成、〔ネ〕5七馬、を調べたが、先手の勝てそうな展開はまったくなかった。
 しかしまだあきらめるのは早すぎる。さらにあと4つ、候補手を考えてみた。

  〔ノ〕8六金
  〔ハ〕8六角
  〔ヒ〕3九香
  〔フ〕3三歩

変化8六金図1
 〔ノ〕8六金。この金打ちは、「7五」と「9五」に利かせた意味で、次は8五玉からやはり“入玉”のねらい。それを防いで後手も8四金と金を打つ。(ここはこれしかないようだ)
 “入玉”を止められた先手は、ここから方針を変え、3三歩から“攻め”に転じる。
 図以下の指し手は、8四金、3三歩、同銀、3四歩、同銀、3九香、3五桂(次の図)
 
変化8六金図2
 先手の3九香に、後手3五桂と受けたこの図も、やはり「後手良し」。
 3五桂のところ、“3五歩”だったら、逆に先手良しになるところだった。3五歩には、3三歩と打ち、後手は3一歩が(二歩なので)打てないので、後手は同桂(同玉は1一角で先手良し)と取るが、そこで先手4一角で、先手良しの形勢となる。
 しかし後手に3五桂と応じられると、3三歩には3一歩で継続手がない。先手も金を手離しているので、そのぶん攻めの厚みがいまひとつ足らず、たとえば4一角も3二歩で次がないし、3五香、同銀、3四桂も、“自爆”の攻めになる。
 この図は、後手からの早い攻めもないように見えるかもしれないが、後手7四歩とする手が意外に早い手で、7四歩の後、7五銀、7七玉、8六銀が後手のねらい筋。また、6六歩という着実な手もある。

 図から7二飛と打ってみよう。 以下、6二歩、7三歩成、7五歩、7七玉、6五銀、6三と、6六銀直、8八玉、6七と、7八歩、7六桂、9八玉、7八と、9六歩、7七銀不成(次の図)

変化8六金図3
 このように「小駒」だけの攻めで、先手は押し切られてしまった。

 〔ノ〕8六金も「後手良し」。

変化8六角図1
 次は〔ハ〕8六角。 金ではなく、角を8六に打つのはどうだろう。
 この手も次に8五玉からの“入玉”があるので、後手は8四金と打つことになる。
 以下、〔ノ〕8六金の時と同じように、3三歩から後手陣を崩す。
 図より、8四金、3三歩、同銀、3四歩、同銀、3三歩、3一歩、3九香、3五桂、6五歩(次の図)
 (この場合は先手の手駒に角がないことが関係して単に3九香だと3五歩で後手良しとなる。なので先に「3三歩、3一歩」としてから3九香を打つ)

変化8六角図2
 この6五歩が先手の狙い筋。“銀取り”だが、うまくいくかどうか。
 図以下の進行は、5六と、7七玉、6六銀、8八玉、7五銀上、5九角(次の図)

変化8六角図3
 銀は取れなかったが、5九角で先手は金を一枚補充した。先手の攻めのねらいは3五香で、同銀に3四飛と打つとその手が後手玉への“詰めろ”になっている。
 ここで後手は6七と。 それを見て先手は期待の3五香を決行だ。
 しかし後手はこれを取らず、7六銀で次の図となる。

変化8六角図4
 こうなってみると、先手玉へは7七銀左成以下の“詰めろ”がかかっており、どうやら後手の攻めのほうが一歩早かったようだ。嗚呼、残念。
 
 〔ハ〕8六角も、「後手良し」になる。

変化3九香図1
 〔ヒ〕3九香。 何も受けないで、いきなり香車を打つ手。
 これには後手3三歩だが、ここに歩を受けさせて、8二飛と打つのが先手のねらいだ。
 8二飛は、二つのねらいがあって、一つは5二飛成の攻め、あと一つは8三飛成からの“入玉”のための原野開拓だ。後手に3三歩と打たせたので、5二飛成がわかりやすい後手玉への“詰めろ”になる。

変化3九香図2
 後手は8四桂と打つ(図)。
 これを先手8六玉と逃げるのは、7五金、7七玉、6六銀、8八玉、7六桂、9八玉、7七銀成で後手勝ちとなる。
 よって、図からは、8四同馬、同歩、同飛成と進行するが、そこで7五金(次の図)がある。 

変化3九香図3
 これを同竜は、(同銀とするのではなく)6七角と打って、7七玉、7五銀で、後手勝ちである。

 〔ヒ〕3九香も「後手良し」となった。

変化3三歩図1
 そして8番目の候補手〔フ〕3三歩だが、じつはこの手が最も期待できる手で、これを最後にとっておいた。
 〔フ〕3三歩以下は、同銀、3四歩、同銀、3九香と攻める(次の図)

変化3三歩図2
 後手の銀を3四まで吊り出してから、3九香と打った。
 似たようなケースが上でも出て来たが、やはり〔x〕3五歩と受けるのは先手良しになる。まずそれを確認しておこう。
 3五歩には、先手は3三歩とする(次の図)

変化3三歩図3
 3一歩と打てない後手は3三同桂と応じるが、そこで先手3二歩。
 後手3二同玉には、1一飛と打てば、後手が困っている。
 そこで後手は3二歩に4二銀とするが、それには4一飛と打つ。(これは1一角、3二玉、2一飛成以下5手詰の詰めろ)
 後手は1四歩と“詰めろ”を受けるが、そこで1一金(次の図)が先手の好手である。

変化3三歩図4
 角ではなく、金を打つのが良い。
 この金打ちは“詰めろ”(2一飛成、1三玉、1二竜、2四玉、1三角、2五玉、2六香まで)だし、これを受けるには3一桂くらい。それには同歩成、同銀、2一角でよい。
 後手は攻めの手番がまわってこない。「先手優勢」である。

変化3三歩図5
 先手の3九香に、〔x〕3五歩と受けるのは以上の通りダメなので、こんどは〔y〕3五桂(図)と受けよう。

変化3三歩図6
 先手は3三歩。これには(1)3一歩と、(2)3三同桂とがある。
 まず(1)3一歩から。この手には先手は8二飛と飛車を打つ。

変化3三歩図7
 上でも出て来た飛車打ちだ、5二飛成と8三飛成の両ねらい。
 ここで8四桂だと、同馬、同歩、5二飛成、同歩、3一竜、同玉、3二金。先手勝ち。
 なので後手はこの攻め筋を消す必要があるが、6二歩だと、8三飛成で先手玉の“入玉”はもう阻止できない。
 よって6二銀と受ける。7一や7三に利かせて“入玉阻止”だ。
 以下、8三飛成、6三桂、8六金(次の図)

変化3三歩図8
 後手の6三桂は、先手が8五玉なら9五金、8四玉、7五銀で詰ますぞ、というような意味だったが、先手はそれを8六金でしっかり受けて、この図である。これはもう、先手玉の“入玉”は止まらず、先手良しの将棋になった。先手はまず“入玉”し玉を安全にしてから攻めればよい。

変化3三歩図9
 戻って、先手の3三歩を、(2)3三同桂と取った場合。
 これにも8二飛で先手わるくないが、ここは3五香が面白い。これを同銀は3四桂がある。
 よって後手はここで8四桂と反撃に出る(次の図)

変化3三歩図10
 8六玉、7五金、7七玉、6六銀、8八玉、7六桂、9八玉、7七銀成、7九金(次の図)

変化3三歩図11
 7九金(図)で後手の攻めは止まった。
 ここで後手はどうするかだが、3五銀は、3四桂、2一玉に、7五馬と金の質駒を取って、先手勝ちが決まる。
 6七とでは遅いが、これくらいの手しかない。ここはもう先手の勝ち将棋。
 先手はどう決めるか。2六桂と打つ手がよい(次の図)

変化3三歩図12
 2六桂(図)に、3五銀なら先ほど書いた手順でよいし、2五銀には、3四歩で勝つ。

 以上調査の結果は、先手の3九香に〔y〕3五桂は、「先手勝ち」。

変化3三歩図2(再掲)
 さあ、もう一度この図に戻って、〔x〕3五歩でも〔y〕3五桂でも、“先手良し”になった。
 3五桂でなぜ後手が苦しくなったかといえば、後手の攻め駒が不足したからだ。3五に桂馬を受けのために使ったために、後手の攻めが細くなった。それが後手の敗因である。
 この図では3四の銀取りは放置して、後手は〔z〕8四桂と攻めるのが正着なのであった(次の図)

変化3三歩図13
 8六玉、7五金、7七玉、6六銀、8八玉、7六桂、9八玉、7七銀成(次の図)

変化3三歩図14
 同じような手順が先ほどもあったが、今度はここは先手に受けがないのである。後手が「桂」を一枚持っているからだ。
 だからここで7九金と受けても、8八桂成、同金、同成銀、同玉と清算して、もう一度“7六桂”と打って、先手玉は詰まされてしまう。
 また、図で7九角の受けには、9五桂があって、この図ははっきり先手負けである。

 よって、〔フ〕3三歩は、先手にとって惜しい変化はあったが、結局は、「後手良し」が結論となる。


≪9四歩図≫(再掲)
 いろいろと頑張ってみたが、ここからはすべて後手良しの結果にに行き着いた。
 どうやらこの図――後手が9四歩と打ったところ――は「後手勝ち」のように思われる。
 9筋から“入玉”を図らんとする我らが『草薙作戦』は、この「9四歩」の一手に粉砕されたのであった。


 ――――いや、まて、まだ手はある。 もうひと頑張りしてみよう。

≪8六歩図≫
 この図は上の≪9四歩図≫から、9六歩、8四金に、8六歩と指したところ。
 これで、どうだ。

 よしこれを『ハロー作戦』と名付けるとしよう。


                             『終盤探検隊 part85』につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part83 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2016年12月07日 | しょうぎ
 この図を≪夏への扉図≫と名前を付けよう。暖かい場所へとつながる“扉”がこの図のどこかに存在し、我々がそれをやがて探り当てることを信じて。

 終盤探検隊は、「先手の勝利」をめざし戦っている。これが≪亜空間戦争≫の目的である。
 しかし我々の≪亜空間≫での思考は、しばらくの間、呆けていた。SF小説中の冷凍睡眠(コールドスリープ)中の宇宙船乗務員のように。いったいどれくらいの時間が流れたのだろうか。


    [宇宙船ディスカバリー号]
地球を飛びたつのはこれで何回かわからないが、感激はいっこうにさめないものだ。ヘイウッド・フロイド博士はつくづく思った。火星へは一度、月へは三度、あちこちの宇宙ステーションは数えきれないほど行っている。

これは計算ずみの危険であり、未知の旅にはかならずつきまとうものである。しかし半世紀にわたる研究によって、人間の人工冬眠が危険率ゼロであることは証明されており、宇宙旅行の新しい可能性はすでにひらけていた。とはいえ、その技術がとことん活かされるのは、今回の飛行機任務が初めてだった。
                          (アーサー・C・クラーク『2001年宇宙の旅』より)


 アーサー・C・クラークは南国のセイロン島に住んでいた。1964年4月、映画監督スタンリー・クーブリックから連絡があり、新作SF映画のためのストーリーを書いてくれと言ってきた。そうして生まれたのがこの『2001年宇宙の旅』で、映画は1968年に公開された。(アポロ11号乗務員による人類月面初着陸はその翌年のことである)
 ここに切り取った文章のように、この小説(映画)の設定では、人類はすでに火星へも到達ずみであり、人工睡眠(コールドスリープ)の技術は完成している。
 21世紀の現在の視点で感想を言えば「寝ぼけた夢を見てたんだなあ」という感覚だが、とくに人間の人工睡眠(コールドスリープ)の実用化なんて今から50年後でもありそうにない。(だが、未来の予測なんて簡単にできるものではないから、案外実用化していたりするのだろうか)
 月面にて発見され、およそ300万年前に造られたとわかったTMA・1(モノリス)と呼ばれることになった物体の“謎”を追って、土星まで行き、その衛星ヤペタスを調査する、というのが宇宙船ディスカバリー号の目的である。(映画版は木星の衛星が目的地になっている)
 この旅は恐ろしいことになんと“片道切符の旅”で、乗組員は“謎”を一通り調査してその報告を地球へ電波で送り、その後は土星の衛星軌道でまわりながら、5年後のディスカバリー2号の到着をやはり人工睡眠カプセルの中で眠って待ち、ディスカバリー2号によって地球に帰るという計画である。
 なんとも破天荒な旅である。
 わくわくするような“謎”があれば、苦難が待ちうけていてもそれにたち向かって近づいて行きたく衝動は、たしかに本能としては私たちの中にもある。(だからこそそういう小説、映画がヒットするのだろう)


≪夏への扉図≫
 この図が、“もんだいの図”である。ここから先手がどうやって勝つか。それが今、我々終盤探検隊に課せられたテーマ、すなわち、我々に与えられた“謎”である。
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   
  【う】7三歩成  → 
  【え】9一竜
  【お】6五歩   → 後手良し
 この≪夏への扉図≫の次の一手候補は、こんなところである。ソフト「激指13」の第一候補手は、【い】3三歩である。その評価値は[ -367 後手有利 ]。(前回の報告では[-433]と書いたが、なぜか「激指13」の評価値は同じ時間でもその時によって値が違う)
 この評価値を見れば、この闘いがいかに困難な道かが予想されるであろう。


<白波作戦>

 そして、これから調査する【う】7三歩成とする先手の戦い方を、我々(終盤探検隊)は、『白波作戦』と呼ぶことにした。(子供っぽい行為だが、名前をつけることでいくらかでも我々自身の士気を上げるのが目的だ。困難なたたかいに勝つためには、“気持ち”が少なからず重要だから)

≪7三歩成図≫
 今回の我々の報告は、この【う】7三歩成の成否である。これで先手が勝てることを、先手をもって戦っている我々は期待している。
 「激指13」の評価値は[ -538 後手有利 ]と出ているが、これくらいであきらめてはいられない。むしろ、「これくらいならひっくり返せる」と強気に行こう。

 【う】7三歩成を「同銀」は、後手にとってさえない展開となる。7三同銀、8三竜、7五歩、8六玉、7四桂、9六玉、6四銀左、3三歩、同銀、3四歩、同銀、4一飛(次の図)

変化7三同銀図
 ここで後手5九金なら、4二角と打って、後手玉に“必至”がかかる。
 3三玉には、1一角、2二桂、3一角、4四玉、2二角成、3三歩、6四角成である。
 「7三同銀」は、先手優勢になる。

≪5九金図≫
 よって7三歩成には、後手は「5九金(図)」と、金を取る。
 ここで「7四と」と指したくなるが、それは先手玉の上部が薄くなるので、「7四金」と打つほうがよい。

≪7四金図(113手目)≫
 「7四金」と打ったところ。以下、7三銀、同金、6四銀と進む。

 一応、先ほど触れた「7四と」の展開も解説しておくと、7四と、7三歩、6四と、同銀、3三歩、同銀、3四歩、同銀、3三歩、3一歩、4一銀(次の図)。

変化7三歩図1
 この4一銀は“詰めろ”なので後手は受ける必要があるが、その前に8四桂と打って、7七玉、6五桂、7八玉、6七と、8九玉、そこで1四歩と受ける(次の図)

変化7三歩図2
 今の手順で、後手6七とを同玉の場合は、3三桂として、これが“詰めろ逃れの詰めろ”になり後手良し。
 8九玉と先手玉が逃げて後手1四歩(図)と玉のふところを広げたこの図は、やはり後手良しの形勢。(先手の攻めよりも後手の7七桂成の攻めが早い)


≪6四銀図≫
 先手が「7四金」と打って、7三銀、同金、6四銀と後手が進めたところ。
 この将棋は「7五」のポジションをお互いが押さえようとしている。

 この図で、先手の有力な指し手は〈1〉7四金と7三の金を引く手と、〈2〉7四飛と打つ手。



7四金(117手目)図01
 まず〈1〉7四金から。
 ここで後手は有力手がいろいろあり、悩みどころ。

7四金図02
 後手「8四桂」を、最有力手として見ていく。
 これには先手は「同金」の一手。(玉を逃げるとあっさり負けになる)
 8四同金に、後手7五金、7七玉、6五桂、8八玉、7六金、3四桂、3三玉、4五銀(次の図)

7四金図03
 後手負けになった。後手は桂馬を先手に渡すと、このように先手3四桂があるので、それを覚悟に桂を使わなければいけない。
 なにがいけなかったかというと、7五金と後手が打った手がこの場合は失着だったのである。

7四金図04
 「8四桂、同金」に、7五金と打たず、素直に「8四同歩」と指したのがこの図。
 この図は、先手玉は7五歩、7七玉、6五桂以下の詰みがあるので、この図で3四桂と攻める余裕はない。
 ここは先手「8四同竜」しかない。 

7四金図05
 そこで、「7二桂」。 「8四同竜」には、この図のように、「7二桂」がある。この桂打ちが絶好で、先手は勝利への道がない。どうやらこの展開は“後手優勢”ということが判明した。
 もう少し続けてみよう。8三竜と逃げてどうか。その手は、実は4四角、同歩、3四桂からの後手玉の詰みの狙いもあるのだが、7五金、7七玉と先手玉の上部を押さえたあと、いったん3三歩と受けておいて後手良しである。後は、後手は7六歩、8八玉、6七とのように、ひたひたと迫っていけばよい。

 ここでは、3四桂、3三玉、1一角、3四玉、5四飛から先手が打開していく手を見ていく。
 以下、4五玉、6四竜、同桂、同飛(次の図)

7四金図06
 “相中段玉”になって、お互いに間違えやすい将棋になってきた。この図は検討上は、はっきり“後手優勢”だが、まだ逆転のあやがたっぷりある。
 この図、じつは後手玉には“詰めろ”がかかっている。すなわちこの図で7三金などと後手が指せば、5四角、5六玉、6五角、4五玉、5六銀、同と、5四角以下、後手玉は詰み。
 では手番の後手はこの図でどう指すか。一例だが、7五歩と打つ。同玉なら後手玉は5六~6七という遁走ルートが開いたので、後手玉は安全になり、それなら7三金で良い。
 よって、後手7五歩に、先手は6五玉と頑張る。これなら、まだ後手は5六に出られないので“詰めろ”はまだ解除されていない。(したがって7三金では先手玉が詰まされて負け)
 7五歩、6五玉以下、後手5三金に、7三角、3三銀と進んで、次の図。

7四金図07
 後手が5三金と打ったのは、先に述べた“詰めろ”(5四角以下)を消しながら飛車取りに迫ったということ。
 3三銀(図)は、先手の1一角の利きを止めた手。この手を指さないで6三金打などと指せば、同飛成、同金、4六角成の筋で、逆転されてしまうところだった。先手の7三角にはそういう狙いがあった。
 その先手の逆転の狙いを3三銀で受け、次に6三金打と打つ手が後手にある。
 この図で、先手2五銀と打てばまた後手玉に詰めろがかかるが、それには後手5五飛、7四玉、7一桂として先手玉を7四に追っておけば、後手玉は5六に逃げる道があるので、その2五銀の詰めろは空振りになる。
 また、この図で6一飛成なら、後手は6二桂と打って、後手の勝ちは揺るぎがない。

 以上の検討のとうり、〈1〉7四金は、「後手優勢」になる。


7四飛図1
 戻って、〈2〉7四飛と打つ手の検討に入る。
 この手には、5五銀引が考えられるが、そこで先手8三竜としたときの後手のよい継続手段が見つからない。
 この図では、後手7五歩が厳しい手で、以下、この手を見ていく。

7四飛図2
 7五歩(図)。 これには8五玉か8六玉と逃げるしかないが(7七玉は7六金以下先手負け)、8六玉は後手に7三銀、同飛成、8四金とされて、後手良し。
 よって、7五歩、8五玉となるが、以下、9四金、同飛、7三銀(次の図)

7四飛図3
 後手は9四の飛車を取らず、7三銀(図)と金のほうを取った。
 ここで先手は〔j〕5四飛と、〔k〕8三竜が候補手となる。この2つの手をこれから調査する。

 〔j〕5四飛に、4二桂と打つ手が良さそうに見える。しかしそれには、5二飛成があり、同歩、3一角、3三玉、4二角成…、以下、形勢不明である。
 5四飛には、もっと優れた手があって、それが次の手である。

7四飛図4
 「6二桂」が好手である。
 今度5二飛成なら、7四銀以下、先手玉が詰むのである。といって、3四飛では、3三歩と打たれて先手は困る。
 よって、この「6二桂」の場面では、8三竜とする。以下、8四歩、同飛、同銀、同玉(同竜は9四金がある)、8二歩で、次の図である。

7四飛図5
 この8二歩(図)を同竜だと7四飛があって先手玉は捕まる。よって7二竜と逃げるが、以下、8三金、同竜、同歩、同玉、8一飛、8二銀、8五飛(次の図)
 (図の8二歩に、3一銀、同玉、6四角という手もあるので後で紹介する)

7四飛図6
 後手は“二枚飛車”で上下から攻める。図以下、8四銀、同飛、同玉、8二飛、8三金、7二桂、7三玉、8三飛、同玉、7一金(次の図)

7四飛図7
 この図になって、後手は持駒に銀二枚だけだが、先手玉への“詰めろ”をほどく手はなく、「後手勝ち」が確定である。

7四飛図8
 少し戻って、3一銀(図)、同玉、6四角と打つ手段でどうなるかを調べよう。それには、5三飛と受ける(次の図)

7四飛図9
 5三角成には同金で、同竜なら、9五角、同玉、9四銀以下先手玉は詰み。5三同竜は、7四金、9五玉、5三金、同角成、4二桂で後手勝ち。また、8二角成なら、9五銀、同玉、8三飛、同馬、9四金で、これも後手勝勢である。

 以上の検討により、〔j〕5四飛の変化は、後手優勢。


7四飛図10
 〔k〕8三竜(図)の場合。
 後手はここで8二金と打ちたくなるが、それは6六角、3三歩、8二竜、同銀、6四角で、先手にとって有望な分かれになりそう。
 したがって後手としてはこの図では9四歩(飛車をとる)と指すほうがよい。以下、先手7三竜。
 そこで後手8一桂(次の図)

7四飛図11
 この図の「8一桂」が素晴らしい手で、この変化も“後手良し”になる。
 以下、7二竜に、8三歩(次の図)

7四飛図12
 7二竜の手に代えて、8二竜でも、また6四竜でも、後手はやはり8三歩と打つのが有効となる。
 8三歩(図)を同竜は、7三桂打、7四玉、6三金打から先手玉は寄る。以下、7五玉、6五飛、8六玉、8五歩、7六玉、6七飛成、7五玉、6四竜、7六玉、6五竜、7七玉、6八竜、7六玉、5五銀で、次の図となる。
 (図で6六角、3三銀、7五角という手もあるが、9五飛、7四玉、7五飛、同玉、8四金と進め、これも後手勝勢)

7四飛図13
 後手勝勢である。
 〔k〕8三竜の変化も、後手勝ちになるとわかった。


 以上、終盤探検隊の結論として、≪夏への扉図≫で、【う】7三歩成は「後手勝ち」、とする。

 我々が期待を賭けていた『白波作戦』は、失敗に終わった。今回の検討では、後手の「桂馬の受け」の好手がいくつか現れ、それに打ち負かされた印象だ。

 次回は、【え】9一竜以下を探査していく。



                        『終盤探検隊 part84』につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part82 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2016年12月04日 | しょうぎ
≪鳶4五玉図≫

 終盤探検隊は≪亜空間≫を進んでいる。
 目的は、≪亜空間≫の敵とたたかい、「先手」をもって勝利することである。


   [そして一九七〇年十二月の三日、かくいうぼくも夏への扉を探していた]
「ひとつ質問がある。あなたの会社では、猫の冷凍睡眠(コールドスリープ)をひき受けてくれますか」

だが、本当に問題なのは、もしぼくが冷凍睡眠(コールドスリープ)中に死亡した場合のことだった。会社は、三〇年間の冷凍睡眠(コールドスリープ)中にぼくが行き永らえる見込みを、十中七であると主張していた。そして、会社はこの賭のいずれか一方、加入者の選ばなかったほうをとる。
                               (ロバート・A・ハインライン『夏への扉』より)
 

 ハインラインがこの小説を発表したのは1956年。そしてこの小説の舞台設定は1970年。1970年に冷凍睡眠(コールドスリープ)がすでに実用化していた(30年生存率70パーセントだが)という設定になっている。
 この時代――1950年代――の「科学」の凄まじい勢いがこの設定から想像できる。現実は、この「科学の勢い」は、アポロ11号の月着陸をピークに、“ゆるやかな上昇”へと変わり、映画『スター・ウォーズ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が公開された頃には、「SF」はすでにだいたいのことをやりつくして、すっかり衰退期へと移行していたのである。(日本ではこの頃からSF人気が始まったのであるが)
 ハインラインはたいへんな猫好きだったと知られている。『夏への扉』は人気のある小説で、10年くらい前に、すべてのSF小説を対象に(日本の)SF雑誌が「好きなSF小説は何ですか」ということで読者アンケートを実施したところ、1位だったのがこの『夏への扉』であった。
 苦境に陥った主人公とその猫とが、最後には“夏への扉”を見つけ、苦境を脱するという話である。


≪亜空間の入口≫
 これが≪亜空間≫の出発図である。
 図の3四飛成が、元々の(現実の)将棋の94手目になるが、実際にはこれは現れなかった手である。≪亜空間≫の中にいる時間が長いせいで、我々はその元の将棋が誰と誰のいつの対局で、どういう内容の将棋だったかさえ、記憶がぼんやりしている。たしか先手が三間飛車で、後手が中飛車左穴熊だったと思う。
 3四同玉に、後手の次の手は、どうやら「5二金」(我々はこの先の道を“月の道”と呼ぶことにした)が最善手である。4二金(=風の道)のほうが本手に見えるが、それは3一銀が好手で先手が勝てると判った。「5二金」は、先手がそれでも3一銀と打って来れば、5一歩と受けようという手である。


≪月の道基本図≫
 これだ。これが“月の道”の入口「5二金」である。
 それでも、やはり3一銀と打つしかないようだ。他の手もいくつも調査してみたが、どれも勝ち筋を見つけられなかった。


4五玉の変化図a
 3一銀、5一歩に、そこで2二銀成では先手勝ちがないと(いったん)わかったので、“銀を取らずに4五玉”と工夫してみたところ。 つまり3一に打った銀を犠牲にして、その間に5四玉~6四玉と遊行しようという作戦だ。 以下、3一銀、5四玉、6三銀、6五玉…

4五玉の変化図b
 上の図から、3一銀、5四玉、6三銀、6五玉、7四銀、7六玉、5八金、7五歩、5九金、7四歩、同歩、6四角、7五金、同歩、同玉、6三金、3三歩と進んでこの図。
 この展開は、先手有利と出た! ついに来た―――――と思ったのだが…

4五玉の変化図c
 ところが! 4五玉のときに、「6二桂」という手があったのだった。
 この手に対しては、8八角でなんとかならないかと思案してみたが、その希望はガツンと結局打ち砕かれた。 8八角に、3三歩、3五銀、4四銀、同銀、同角、4三歩、1七角、3四歩(次に3三桂)で、先手負け。

 この道も閉ざされ、先手の勝ち筋を探す我々の≪亜空間の旅≫は、もはやわずかの希望もないように思えた。この旅は、はじまりは「旅」であったが、先手をもって戦い始めた時からは「戦争」であり、この闘いに敗れると我々は永久に≪亜空間≫へと閉じ込められてしまうことになるだろう。


≪月4二銀図≫
 そうして、あきらめかけた時、すいと現れたのがこの図の「4二銀」である。これはつまり、上の≪月の道基本図≫から、3一銀、5一歩、2二銀成、同玉、4二銀とした局面である。
 ソフト「激指」も10個の候補に挙げていないこの手「4二銀」を我々が思いついたのは、他の手をあれこれと検討しているうちに、この4二の場所に後手から桂馬を打たれてはどうにも先手は勝ち目がないことがわかり、それならと最初は4二歩を考え、それが駄目だったので次に4二銀をと、ついでにやっておこうという気持ちで検討してみたのだった。
 しかしこの4二銀も、やはり最初の直感通り、4二同金と応じられて、先手勝てない、という結論に最初はなった。やっぱりな、と思った。
 ところが、しばらくして、もう一度この「4二銀」を調べてみたら(何故調べ直したたのか、今となっては思い出せない)、結論が変わって、「4二同金は先手勝ち」とわかったのだ! これが我々にとっては奇跡的なブレイクスルーだった。

 この図からの4二同金以下の変化を掲げておくと、4二同金、3一角、同玉、5一竜、4一銀打、同桂成、同銀、3二歩、同玉、4二竜、同玉、7二飛、5二飛、6四角、5三銀、5四銀(次の図)である。

4二同金の変化図
 5三角成と、4三銀成と二つの“詰み”と、それから2三~1二という入玉ルートがあり、この図は、先手の勝利へと続く道である。

≪3三銀図≫
 ところが、我々の試練はまだ終わらなかった。「4二銀」に対し、後手には3三銀打(図)という応手があって、これをまだ我々は打ち破ることができていないのである。

 3三銀打と後手が打った、この図で先手の手段は、次の4通りが考えられる。
  [烏(からす)]2五玉
  [鳶(とび)]4五玉
  [鴨(かも)]3三同銀成、同銀、2五玉
  [鷺(さぎ)]3三同銀成、同銀、4五玉

 しかし2五玉と逃げる2つの道は、すぐに、いずれも「後手勝ち」が確定した。
 我々が最も希望を抱いていたのは、銀を取って4五玉とする「[鷺]3三同銀成、同銀、4五玉」のコースである。

≪鷺6五玉図≫
 その[鷺]のコースを進むと、必然的にこの図となる。(手順は略)
 ここで「激指13」は、候補手として6四歩、同玉、5五銀、6五玉、5六銀と進む手順を示していた。我々はその後を丁寧に探索し、その結果、“先手の勝ち”と結論をした。その時は“前途洋々”という気分がしたものだ。ついに≪亜空間≫の出口が近づいてきた――と。
 ところが、念のためにとこの図をよく調べてみると、「問題」が発覚したのだった。“先手の勝ち”が消えたのだ。
 この図から、6四歩、同玉、5五銀、6五玉、6三飛、5五玉、6七飛成…、この手順を後手が選べば、「後手良し」と判明したのだ。
 さらにもう一つ「後手の勝ち筋」があって、この図から、6四歩、同玉、7二桂という手段である。2つもの強力な「負け筋」があってはもういけない。

 そういうわけで、[鷺]のコースには、我々の望む“先手の勝ち筋”は存在しないと判ったのである。

 我々終盤探検隊に、最後に残された道、それが[鳶(とび)]4五玉のコースである。


≪鳶4五玉図≫
 3三の銀を取らず、4五玉(図)。 これが[鳶]のコース。
 正直、銀(4二)をタダで敵に渡して、それで勝てるという気はしない。それでも、我々にはもう、この道しか行く道がないのだ。

 この図で後手6二桂はない。それは3一角、1一玉、2二角打以下、後手玉に“詰み”があるからだ。
 よってこの図からは、4二銀、5四玉と進むことになる。そして次の図。


≪鳶5四玉図≫
 後手の手番。
 [A]5三銀と[B]6三銀とがある。
 本筋は[A]5三銀であるが、[B]6三銀はどうなるか。

6三銀の変化図1
 [B]6三銀、6五玉、7四銀、7六玉、5八金、7五歩(次の図)と進む。
 7四銀に代えて、7四歩もあるが、それは3三歩、同銀右、3四歩、同銀、6一桂成のように指されて、後手としては損だろう。

6三銀の変化図2
 ここで(m)6四桂、8六玉、6五銀、と銀を逃がす手と、銀を取らせるかわりに金の入手を急ぐ(n)5九金とが候補となる。
 (m)6四桂、8六玉、6五銀、だと、5八金、同と、9一竜、7六銀、9六金と進む(次の図)

6三銀の変化図3
 攻め駒が足らず、これ以上後手は先手玉に迫れない。先手良し。
 この図からは、5三銀、9三竜、8四金が想定されるが、そこで先手は8四同竜、同歩と竜を切り、9五玉と“入玉”を計る。元々先手は四枚の大駒をもっているので、一枚飛車を渡すくらいは、入玉できるのなら問題ない。
 この変化は、先手良し。

(再掲)6三銀の変化図2
 7五歩と銀取りに先手が歩を打ったこの図に戻って、今度は後手(n)5九金を見ていく。
 5九金、7四歩、同歩、7五歩(次の図)

6三銀の変化図4
 この図は、後手から7五金と打たれたくないので、先手は7五歩と歩を合わせたところ。(7五歩に代えて6六角もあるがその変化は複雑で形勢不明)

 ここから、後手〔h〕7五同歩と、〔i〕5三金とを見ていく。
 まず〔h〕7五同歩だが、同玉と進んで、そこで後手5三銀は7四玉とまた一歩前進して“入玉”が止まらない。なので(h)7五同歩、同玉に、6三金が考えられるが、以下8三竜、7三金打、8二竜(4二の銀取り)、6二歩、8四金(次の図)となる。

6三銀の変化図5
 この8四金は、同金、同玉、7三金に、同竜、同金、同玉と、やはり“入玉”がねらいである。
 だからこの図では5三銀と後手は指すかもしれない。それには7三金として、以下、6四銀、8四玉、7三金、同竜、同銀、同玉、7一金で、次の図である。

6三銀の変化図6
 7一金と打って、先手の8二~9一への進行を防いだが、ここはもう入玉にこだわらず後手玉を攻めていく。
 6六角、5五桂、4二銀(次の図)

6三銀の変化図7
 4二銀と打つのだが、その前に「6六角、5五桂」の細工をしておくのがうまい手である。4二銀は、次に3一角(銀)からの詰めろなので、それを防ぐ手として後手3一歩が予想されるが、その時に“桂馬”があれば、3四桂から簡単に詰む。すなわち、この図から、5五角、同銀、3四桂である。“桂馬”の質駒をつくるための「6六角、5五桂」の細工なのであった。

(再掲)6三銀の変化図4
 さて、この図まで戻って、次はここで〔i〕5三金を見ていく。

6三銀の変化図8
 この手には、先手は7三角(図)と打つ。この角の第一の目的は、後手の金を6四に前進させないための受けである。この将棋は「7五」の地点が争点なのだ。
 対して後手は6四桂と王手する手が見えるが、それは後手の5三の金が前進できなくなるのであまり怖くない。6四桂には、8六玉と横にかわし、8四金、9一角成で、後手の手は止まってしまう。

6三銀の変化図9
 よって先手7三角に、後手はこの図のように、6四金打と打ってくるかもしれない。
 以下、7四歩(同金なら4六角成がある)、6三金寄、9一角成、7四金上、7二飛(次の図)

6三銀の変化図10
 7二飛(図)と打って、先手も攻めの体勢をつくる。4二の銀取りだ。この7二飛では、代えて7二竜としたくなるかもしれないが、飛車を打つ方がより速い攻めになっている。つまり、7二飛に、後手が5二桂と受けた時、5三歩と桂頭を歩でたたくが、これを同銀と取れば5一竜があるので、この5三歩を取れないというわけである。
 図以下の進行は、5二桂、5三歩、7五金左、7七玉、6五桂、8八玉、7六金(次の図)

6三銀の変化図11
 まだ先手玉は詰まないが、図から後手は「7七桂成、8九玉、6七と」迫ってくる。この攻めに勝たねばならない。どうするか。
 ここは5二歩成と攻めてよい。
 5二歩成、7七桂成、8九玉、6七と、5五角(次の図) 

6三銀の変化図12
 5二歩成のときに入手した“桂馬”がある。だからこの「5五角」で後手玉は“詰み”なのだ。(3三歩に3四桂)
 5五同銀、同馬、4四角も、3四桂と打って、3三玉、2二銀以下詰み。
 後手のこの玉形の攻略は、いかに良いタイミングで桂を手に入れることが、重要になる。

 以上で[B]6三銀の変化を終わる。これは先手良しと結論する。


5三銀図
 そして、[A]5三銀である。桂馬を取りながら王手をするこの手が、やはり本筋だろう。
 5三銀に、6五玉、6四銀打、7六玉、5八金と進んで、次の図。

5八金図
 7六玉までは特に代わる手もなさそうだが、図の「5八金」の手で、代えて「5八と」だとどうなるのだろう? それを考えてみたい。
 「5八と」の場合だと、この瞬間、後手の「と」と「金」が先手玉からわずかに離れている。そのことで後手が不利になるケースが出てくるのである。
 具体的に指し手で示しておこう。図の「5八金」を「5八と」に代えて、そこから、3三歩、同銀、3四歩、同銀、3三歩、3一歩、4一角(次の図)と進んで―――

変化5八と図1
 この4一角は“詰めろ”である。
 ここでは後手の受けは、4二金か、3三玉くらいしかない。3三玉は我々の研究では先手有利の分かれとなるが、ここで注目したいのは「4二金」の場合である。
 4二金以下、5一竜、4一金、同竜、3三玉、1一角、2二桂、5二飛となる(次の図)

変化5八と図2
 この5二飛が工夫の一手である。この手で3一竜と指したくなるが、それは4四玉、2二角成、3三歩で、その図は先手が勝ちにくい形になっている。3一の歩を取ったから“3三歩”と受ける手が生じたわけであり、だから3一竜はやめて、5二飛と打って次の2二角成をねらうこの手が良い工夫になる。
 図以下、4四玉、2二角成、3三桂打、5六桂、4五玉、6四桂となったとき、次に5三飛成があって、“先手勝勢”となる。

 つまり「3三歩以下」の先手の攻めが成功となったのである。

 ところが、戻って、「5八と」のところを、「5八金」に代えると、事情が代わって、この攻めをしても、“先手負け”になってしまうのである。

参考図1(5八金以下の場合)
 「5八金」に、上と同じ「3三歩以下」の攻めをするとこの図になる。
 しかしこの図は、逆にはっきり“先手負け”になっている。
 後手の手番だが、5九金と指し、先手が2二角成、2四玉、2六金として後手玉に詰めろがかかるが、ところがそこで先手玉が詰まされてしまう。
 6五角、7七玉、6七と(次の図)

参考図2(5八金以下の場合)
 6七同玉、7五桂、6八玉、6七歩、5九玉、5八歩、4九玉、3八金、5八玉、4七角成、5九玉、4八金まで。

 そういうわけで、「5八と」より、「5八金」が優る。

≪鳶5八金図≫(再掲)
 さあ、この図が、我々にとって重要な図だ。ここでどう指すか。選択肢も多い。
 まず気になるのは、後手が「金が欲しい」という意思で指してきたこの「5八金」を、「同金」と取るのが良いか、放置して他の一手を指すのが良いか、ということである。

 「5八同金」と指した場合。以下、予想される手順は、同と、9一竜、7四歩(次の図)

5八同金図1
 6六角、5五桂(5五銀引もある)、9三角成、7三桂(次の図)

5八同金図2
 こうなる。
 この展開をどう見るか。「先手勝ち」への道が、ここにあるかどうか。
 我々は、ここには先手の勝利の希望がないのではないかと思った。どう表現して良いかわからないが、この道をこれ以上調べる気になれなかったのである。(もちろんある程度はその先を調べてみたが、先手の勝ち筋を見つけるのは容易でないことだけはっきりわかった)


≪鳶5八金図≫(再掲)
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩
  【う】7三歩成
  【え】9一竜
  【お】6五歩
 この≪5八金図≫の次の一手候補は、こんなところである。
 ソフト「激指」の一推しは【い】3三歩である。その評価値は[ -433 後手有利 ]。
 
 まず、【お】6五歩から片づけてしまおう。
 

6五歩図1
 6五歩に5五銀なら、7三歩成で、これは入玉できそうだし、先手優勢だろう。
 だから、6五歩、5九金、6四歩、同銀と進むだろう。
 そこで9一竜とする。これはどうやら最善手で、香車の入手と同時に後手からの8四桂をけん制する意味がある。(このまま8四桂と打たれると先手玉は詰む。) 9一竜に8四桂は、8五玉として入玉を狙い、以下9四金なら8六玉としておいて、この金の働きが悪いので、先手が良くなる。
 9一竜に、後手7五金とし、7七玉、6五桂、8八玉、6七とで、次の図。

6五歩図2
 ここで先手は攻めに転じ、3三歩と叩く。(同銀なら、3四歩)
 後手は7七桂成、9八玉としてから、3三桂と応じ、以下、8九香、7六金、8五銀、7八と、7六銀、同成桂、6一飛、3一歩(次の図)

6五歩図3
 先手が6一飛と打った手は、3一角以下の“詰めろ”になっていたが、後手はそれを受けて3一歩と歩を打ったのがこの局面。
 しかしこの図になってみると、先手はもう勝ち目がない。攻めるなら3四歩だが、7五桂と詰めろをかけられ、それを9六角と受けても、8九と(同玉なら8七桂成)で、先手玉が先に寄っている。
 また図で6四飛成は、7七成桂で、これが8八成桂、同香、8九銀までの“詰めろ”。それを9六歩と受けても、8九とで、受けが利かない。
 先手負けだ。

 というわけで、【お】6五歩は「後手優勢」になる、と結論。



≪鳶5八金図≫(再掲)
 次回は【う】7三歩成を調べることにする。我々はこの手に期待している。“夏への扉”とつながっているとよいのだが。


                 『終盤探検隊 part83』につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする