はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part58 ≪亜空間の旅≫

2015年10月31日 | しょうぎ
≪月5四玉図≫
 さあ、いよいよ、「先手の勝利」が近づいてきた―――かもしれない。


    [月下推敲]
   聞居少鄰並 草徑入荒園
   鳥宿池邊樹 僧敲月下門
   過橋分野色 移石動雲根
   暫去還來此 幽期不負言          (詩「題李凝幽居」 賈島作)


 唐の詩人、賈島(かとう)の「題李凝幽居」というタイトルの詩。
 「しばらくぶりにこの家を訪れたが、やっぱええわ、来てよかったわ~」という意味の詩。
 「僧敲月下門」という部分が有名で、初めは「僧推月下門」としていたのを、よく考えて「僧敲月下門」に変えた。
 それが「月下推敲」という故事になっている。


≪4二銀図≫
  <R>3一歩   → 先手勝ち
  <S>3三銀打
  <T>4二同金  → 先手勝ち
 図の「4二銀」が我々の発見した手で、これを今、調査中だ。<T>4二同金で先手勝てないと思ってたが、それが再調査により結論が逆になった。
 あとは、<S>3三銀打がどうなるか。

≪3三銀図≫
  [烏]2五玉         → 後手勝ち
  [鳶]4五玉         → 形勢不明
  [鴨]3三銀成、同銀、2五玉 → 後手勝ち
  [鷺]3三銀成、同銀、4五玉

 <S>3三銀打と、後手が銀を打ったところ。

 ここから、[鷺]3三銀成、同銀、4五玉――それで先手が勝てるかどうか、それが今回のテーマであり、もし「先手勝ち」ならば、めでたく我々終盤探検隊の任務は終了となる。

4五玉図
 5四玉~6四玉~7三玉という「入玉」ができれば、それで「先手勝ち」となる。
 したがって、後手はこの図では5三金がこの一手。(4二桂だと3一銀以下後手玉詰み。また3一歩、5四玉、6三銀、6五玉の展開は先手良し)


 ここで3一銀が、先手の“希望”をつなぐ手。
 同玉、5一竜に、4一銀と合いをする(4一桂合だと4二角、同銀、2二金以下詰む)
 以下、5三竜、4二桂と進む(次の図)


 ここまでは変化の余地がお互いにない。4二桂にも、同竜しかないようだ。
 以下、同銀上(同銀引だと2二金、同玉、3四桂以下詰む)、5四玉(次の図)

5四玉図
 ここで、後手に選択肢が多い。
  〔ラ〕5三銀打
  〔リ〕6二銀
  〔ル〕5一桂
  〔レ〕6二飛
  〔ロ〕5三飛
 最有力なのは〔ロ〕5三飛と思われるが、「先手勝ち」を確定させたい我々としては、これらの手を一つ一つすべて粉砕しないといけない。順に見ていこう。

5三銀打図1
 〔ラ〕5三銀打は、6三玉と入玉する。以下、6七飛、7二玉、6二飛成(図)
 8一玉、9二竜、7一玉、6二銀、6一玉、8二竜、4一金(次の図)
 (8二竜に代えて5一銀左には、7二角、8二竜、8一飛で受け切っている) 

5三銀打図2
 実戦なら、ここでは7二金がふつうか。それで先手が良いが、ここでは4一金からの寄せを紹介しておく。
 4一金を同玉なら、5二角、3一玉、4一飛、3二玉、3一金以下詰む。
 2二玉なら詰みはなく、その場合は、3四桂、同銀、4二金として、先手良し(以下、7一竜、5二玉、3一歩、6一金で先手勝勢)
 4一金に、3二玉のときは、4二金、同銀に、2四桂(次の図)

5三銀打図3
 これで“詰み”だ。 2四同歩に、4一角、同玉、2三角、3二金、5二金、3一玉、4一飛、2二玉、3二角成以下。2四桂に3三玉には、2二角、3四玉、2五銀、同玉、2六金、3四玉、2五角、4五玉、3六角、5六玉、6六飛まで。


6二銀図1
 〔リ〕6二銀には、7三歩成(図)が良さそうだ。これで、先手が勝てる。
 7三同銀は7一飛があるので、後手は5三飛とし、6五玉に、7三銀とと金を払う。
 先手は、6一飛。以下、5一歩、5四歩、6四歩、7六玉、5四飛、4五角(次の図)

6二銀図2
 5五飛なら、2三角成、3二歩、6三角で先手良し。だから5六飛だが――
 5六飛、同角、同歩、6三角、2二玉、3四歩(次の図)

6二銀図3
 2二玉としたのは、5一飛成、同銀、4一飛以下の“詰めろ”が後手玉にかかっていたからだが、2二玉には、3四歩(図)があった。3三同銀に、7二飛と打って、先手優勢。


5一桂図1
 〔ル〕5一桂は(後手にとって)良さそうな手だ。
 しかしこれには、7三歩成として、この手が4一金、同玉、5二角以下の“詰めろ”になっているので、後手は7九飛と打ちたいところだが、その余裕がない。
 よって後手5二歩としてみる。先手は6五玉。後手7九飛に、7六桂(次の図)

5一桂図2
 7六桂が良い手だ。これは、後手が5九飛成で金をとれば、7四玉から入玉するという意味で、そのときに8四金と打たせないための、7六桂なのである。
 これで形勢は先手が良いが、もう少し続けてみよう。
 図から8五銀、7五金、6四歩、同玉、5五銀、同玉、5六と、同玉、5九飛成、4七玉、3五桂、4六玉、7六銀、同金、4四銀、3八銀(次の図)

5一桂図3
 先手優勢は間違いないが、楽観してはいけない。4八竜なら、5六玉とする。以下、5五金、6七玉、3八竜で、先手玉は逃げやすくなる。(以下は1一銀、2二銀に、7四角が“詰めろ竜取り”)
 図以下、5八竜に、7四角と打つ。この角打ちが攻防手だ。
 以下、6七竜、5六銀、7六竜に、1一角(次の図)

5一桂図4
 これで先手の勝ちになった。1一角は、敵の穴熊の1二香型の弱点を突いた決め手で、気持ちいい。
 後手はこれを2二金と受けても(3三銀引でも)、4一金、同玉、5二角成、同玉、6二飛から詰んでいる。


6二飛図1
 〔レ〕6二飛という手もある。
 これには、6三歩。そこで「5二飛」と、「5三銀打」とが考えられる。
 「5二飛」には、5三歩(次の図)

6二飛図2
 同飛なら6四玉から入玉できそう。だから同銀だが、そこでなんと先手は4三玉と突入する(次の図)

6二飛図3
 これで先手勝ちなのである。5一歩なら、3二歩、同飛、5三玉だし、4一銀でもやはり3二歩である。

6二飛図4
 (先手6三歩に)「5三銀打」の場合。この変化は少しばかり複雑だ。
 6五玉、6三飛、7五玉、6七飛成、7一飛、5一歩、7三歩成、6四竜、8六玉、5八金、7四と、5五竜、7三角(次の図)

6二飛図5
 後手は7四とに、5五竜としたので図の7三角が絶好となったが、6六竜では7六金で、先手で受けられてしまうのでしかたがない。
 7三角は、5一角成を狙っている。
 6四歩、8八角、5六竜、6六金、4五竜、5八金、同と、7五金、6五金、5一角成(次の図)

6二飛図6
 7五金、同と、5一銀、同竜、4一金に、3三角成で、先手勝ち。


5四玉図
  〔ラ〕5三銀打  → 先手勝ち
  〔リ〕6二銀   → 先手勝ち
  〔ル〕5一桂   → 先手勝ち
  〔レ〕6二飛   → 先手勝ち
  〔ロ〕5三飛

 これで、あとは、〔ロ〕5三飛だけだ。

5三飛図1
 〔ロ〕5三飛には、6五玉と逃げる

5三飛図2
 ここで後手はおそらくは6四歩が最善手である。他の手、たとえば6七とだと、6一飛、5一歩に、5四歩と飛車を押さえられて、先手が良くなる。
 また、6一桂はあるが、7一飛で、それも先手良し。

5三飛図3
 この6四歩に、逃げる手も検討してみた。しかし7六玉だと6五銀で先手勝てないようだ。また7五玉は、8四銀、7六玉、5五飛で、これも先手悪い。
 というわけで、6四同玉。後手は5五銀とし、先手は6五玉(次の図)

5三飛図4
 6五玉とした手で、代えて7五玉は、6七ととされて、どうも先手が勝てないようだ。ここは6五の位置が良い。
 ここで後手「6三飛」なら、5五玉、4四銀、5四玉で、先手良し。
 「5六と」(または6七と)なら、7一飛(次の図)と打って、先手が良い。

5三飛図5
 7一飛に、5一歩、7三歩成となって「と金」ができてしまうと、先手玉の入玉を防ぐのが困難で先手が優勢。
 よって、ここでは5一飛でどうかだが、それは、同飛成、同銀、3二歩、同玉、4一角、同玉、5三桂(次の図)

5三飛図6
 という順で“詰み”。この詰め手順で、最初の3二歩に、2二玉の場合は、3一角、3二玉、4一角(次の図)

5三飛図7
 4一同玉、5三桂、3二玉、4二金、4二同銀上、同角成、同玉、4一飛(次の図)

5三飛図8
 以下“詰み”である。

5三飛図9
 ということで、「5六銀」が、後手本筋の手になる。
 ここで先手はどこに逃げるか、悩ましい。“6四玉”、“6六玉”、“7五玉”、“7六玉”の四択。
 しかしこのうち、“6六玉”は、6三飛があって簡単に先手負けるので、真っ先に除外。

 我々は、「6四玉で先手勝ち」と考えていた。その“6四玉”の変化からみていこう。
 6四玉、7二桂、7五玉、5五飛、8六玉、7五銀、7七玉、6七と、8八玉、7六銀、6三角(次の図)

5三飛図10(6四玉の変化)
 この図、この6三角は、後手玉への“詰めろ”になっている。
 そして先手玉はまだ詰まない。よって先手勝てる――というのがはじめの我々の研究だったのだが――

5三飛図11
 後手4五銀。この手が、“詰めろ逃れの詰めろ”なのだ。
 6三角による後手玉の“詰めろ”は、後手玉が2二に行ったときに“3四桂”という手が入る。この後手の4五銀は、その3四桂を消して、後手玉の“詰めろ”を解除しているのである。
 同時に、5九飛成が可能になり、先手玉が“詰めろ”になった。
 これは先手負けである。

5三飛図12(7六玉の変化)
 それでは、“7六玉”と逃げるのはどうか。
 これは、6七銀不成、8六玉、5五飛(好手。この手で5六飛は7五玉で先手良し)、6一飛、5一歩、6五金(次の図)

5三飛図13
 この6五金は、後手からの9四桂、7七玉、7五飛の“詰めろ”を受ける手だが、これを「歩」だと、5六飛でダメだ。(5六飛に7五玉は7二桂がある。) 「金」ならば、5六飛には、6六歩として、先手良し。
 しかし、6五金には、後手同飛と切って、同飛成に、7六金とするのが好判断。これは同竜しかなく、以下同銀成、同玉、7九飛、7七銀、6七と(次の図)となる。

5三飛図14
 以下、6七同玉、5九飛成で、後手優勢だ。

5三飛図15(7五玉の変化)
 “7五玉”。この手が駄目なら、これは「先手負け」が結論となってしまう。
 ここで後手に考えられる手は、「7四歩」か、「8四銀」だ。

 「7四歩」は、同玉、6二桂、8五玉となりそうだが、そこで後手に早い攻めがないので、5八金くらい。
 それはしかし、6一飛、5一歩、6二飛成、5九金に、3四桂(次の図)

5三飛図16
 先手が勝ちになった。

5三飛図17
 後手は「8四銀」のほうが良さそうだ。8四銀、8六玉、5五飛、6三角(次の図)

5三飛図18
 6三角は“詰めろ”である。詰め手順は、3二金、同玉、4一角打、2二玉、3四桂以下の簡単な順。
 図からは、8五銀、7七玉、6七と、8八玉となるが、この場合は、“6四玉”の場合(5三飛成図10)の6三角より一手遅くなっている。そのため、4五銀は先手玉の詰めろなっておらず、4一飛、2二玉、6四角で、先手が良い(以下は5一飛、2四桂、同銀、8二飛)
 5二歩、6一飛、4一桂と受けるなら、3四歩(次の図)

5三飛図19
 3四歩は、同銀なら、1一角、3三銀、5一金で、駒のない後手は受けなしになる。3四歩に2二銀なら、5四桂と打って、これが次に4二桂成、同玉、6四角以下の詰めろになる。
 ただしこの3四歩自体は詰めろではない。
 よって、後手は先手玉に“詰めろ”以上の手で迫るならまだ勝ちがある。
 7五飛、8九金、7七と、9八玉、7六銀、7九桂、8五飛、9六角(次の図)

5三飛図20
 先手、受けきった。先手勝ち。

 よって、後手5六銀に、“7五玉”なら、先手勝ちになる、とわかった。


 すると――、「先手の勝ち」は、これで確定―――ということで、いいのだろうか。

 我々は、勝ったのか?


     part59につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part57 ≪亜空間の旅≫

2015年10月29日 | しょうぎ
≪月3三銀打図≫
 先手「4二銀」に、後手が「3三銀打」と応じたところ。「4二銀」に対しては、これが後手最後の手段。
 この局面を制圧すれば、ついに、「先手の勝利」が訪れる…


    [月の船]
 ぽつぽつと足もとを濡らしはじめた雨粒は、みるみる大降りになっていく。
「智さん」
 今度は勝田くんが呼びかけた。
 智さんはふりむかない。
 地上でうなりつづける消防車の一団は、もう校門のあたりまで迫っていた。
「月の船は来ないよ」
 と、あたしは智さんに言った。
「宇宙船も来ない」
「……」
「死神も来ない」
「……」
「でも、あたしたちは来たよ」           (森絵都『つきのふね』より)


 天の海に雲の波立ち星の林に月の船        (『万葉集』巻七 柿本人麻呂歌集より)




≪4二銀図≫
  <R>3一歩   → 先手勝ち
  <S>3三銀打
  <T>4二同金  → 先手勝ち

 さあ、あとは<S>3三銀打のみ。
 (後手に)他の手はなさそうなので、この<S>3三銀打に対し、先手がこの変化を勝てれば、「先手勝利」がこの図の「4二銀」によって確定するのである!


≪3三銀図≫
 <S>3三銀打と後手が打った。ここで先手の手段は、次の4通りが考えられる。
  [烏(からす)]2五玉
  [鳶(とび)]4五玉
  [鴨(かも)]3三銀成、同銀、2五玉
  [鷺(さぎ)]3三銀成、同銀、4五玉

烏の図1(2五玉の変化)
 [烏]2五玉は、はっきり先手が悪い。
 以下、4二銀(図)で、次に後手からの3三桂、2六玉、3四桂、1七玉、2五桂、1八玉、3七銀成(詰めろ)がある。
 それを防いで、3四歩が考えられるが、5八とで、金を取りにこられて、それで先手には勝ち目がなさそうだ。

鳶基本図
 [鳶]4五玉はどうなるか。
 これは以下、4二銀、5四玉と進む。

鳶の図1
 ここで「6三銀」と、「5三銀」とがある。「5三銀」のほうが(後手にとって)優るので、その後を見ていこう。
 5三銀、6五玉、6四銀打、7六玉、5八金(次の図) 

鳶の図2
 ここで3三歩が筋の攻めだが――
 3三歩、同銀、3四歩、同銀、7三歩成、5九金、7四金(次の図)

鳶の図3
 7三銀、同金、6四銀、7四飛、5五銀引(次の図)

鳶の図4
 この図は「後手良し」ではないかと思う。ここで5三歩が入ればよいが、8四桂と打たれる手が先手で入る。また8三金から入玉をうかがうのは、この場合は、7三歩、同金、8四歩、同竜、9二桂のような手で、なかなかうまくいかない。

鳶の図5
 しかしまだ先手には手段があった。
 まず、「7三歩成」に代えて、「9一竜」とする。そして5九金に、6六角。
 以下、5五銀引、9三角成(次の図)

鳶の図6
 ここで8四金なら、8五金と打って、これならなんとか入玉できそうなのだが――

鳶の図7
 9四歩が好手。同馬なら7五金だし、8五玉には9五金だ。5七馬には6五桂がある。このままなら、8四桂と打つ。
 だが、ここではこれに対応する手段があるのだった。ここで、3三歩と打って、3一歩の受けに、4一飛と打つ。これは3一飛成、同玉、3二金の“詰み”を見ている手なので、後手は3三桂(4二銀もある)。
 そこで先手は9六歩と受ける(次の図)

鳶の図8
 この9六歩は、敵に9五金と打たせる手を防いで、8五玉とする狙いである。
 だから9六歩には後手は8四金としたいところだが、この場合、8四金は、同馬と取られ、後手玉が1一角、3二玉、3一飛成、同玉、3二金以下の“詰み”となる。よって、8四金をここでは後手打てないのである。3三歩~4一飛の一連の攻めは、8四金を打たせない工夫だったのだ。
 ここからの予想手順は、3二玉、8五玉、4一玉、8三馬(次の図)

鳶の図9
 先手は4一に飛車を打って、その飛車を犠牲になんとか入玉を可能にした。
 この図は「形勢不明」とするしかない。入玉はできそうなのだが、はっきり先手良しとまでは言いきれず――といったところだ。ソフト「激指」の評価値は、[-100(互角)]となっている。
 図以下は、8一歩、同竜、6二銀、5三歩、同金、9四玉、7一金のような展開が予想される。
 この変化の研究は、ここまでにしておいて、必要ならばまたここに戻ってくることにしよう。

 [鳶]4五玉は、(とりあえず)「形勢不明」。


≪3三銀図≫
  [烏]2五玉         → 後手勝ち
  [鳶]4五玉         → 形勢不明
  [鴨]3三銀成、同玉、2五玉
  [鷺]3三銀成、同玉、4五玉

≪3三同銀成図≫
 ということで、今度は、3三銀成(図)。
 以下、同銀に、[鴨]2五玉と、[鷺]4五玉とがあるが、その前に、図の3三同銀成に、「同桂」の場合、先手はどうするのか。
 これには、後手玉に“詰み”があるので、先手勝ちになる。逆に、“詰み”がなければ、“3三同桂で後手勝ち”となるところだった。
 その“詰み”の手順を見ておこう。 

3三同桂の変化図1
 実戦で、たとえば30秒将棋だと、この“詰み”を正確に指すのは難しそうだ。というのは、1手目にポイントがあるからだ。「3一角」が正解で、3一銀だと不正解になる。この場合は、「角銀を残す」必要がある。だから「3一角」から入る。
 3一角、同玉、4一金、同銀、1一飛(次の図)

3三同桂の変化図2
 この1一飛には、“2一桂”と、“2一銀”、それと“2二玉”とがある。
 “2二玉”の時に「角銀」でないと詰まない。だから最初に「銀」を使ってはいけないのだ。
 “2一桂”には、4一桂成、3二玉、2一飛成、同玉、2二銀、同玉、3一角、2一玉、2二銀、3二玉、4四桂(次の図)

3三同桂の変化図3
 取った桂馬をここで使う。これは4三にあとで駒を打つスペースをつくる手。
 4四桂に4一玉は、4二歩がある。よって、4四同歩だが、4二成桂、同金、同角成、同玉、4三金(次の図)

3三同桂の変化図4
 以下3一玉に、5一竜で、4一に何を合い駒しても“詰み”である。

3三同桂の変化図5
 “2一銀合”の場合。これも同じように、4一桂成、3二玉、2一飛成と攻めることになる。
 同玉、2二銀、同玉まで、同じ手順だが、そこで持駒が違う。この場合は「角銀銀」だ。

3三同桂の変化図6
 さっきは3一角と打ったが、今度は角を手駒に残しておいて、3一銀(図)。
 2一玉なら、2二銀打、3二玉、2一角、4一玉、4二歩から4三角成の筋。
 だから図では3二玉とするが、それには、4二成桂、同金、同銀成、同玉、3一角、同玉、5一竜(次の図)

3三同桂の変化図7
 以下、4一桂に、4二銀、2二玉、2一金以下、“詰み”となる。

 そんなわけで、後手は「3三同銀」だが、そこで[鴨]2五玉と、[鷺]4五玉の二択。

2五玉図
 [鴨]2五玉を調査する。
 この図で、放っておくと後手玉は3一銀から詰む。 

鴨の図1
 したがって、「3一歩」がおそらく後手の最善手と思われる。
 そこで、先手がどう指すか。それが問題だ。
 〔1〕4一桂成としてみたい。 他には〔2〕3四歩、〔3〕1五歩がある。

鴨の図2
 〔1〕4一桂成としたところ。
 そこで後手が何をしてくるか。「4八と」が考えられる。

鴨の図3
 しかしそれには先手7五角。
 この手は次に3一角成があるので、後手は受けなければいけないが、“4二桂”と、“5三桂”しか受けがなさそう。
 “4二桂”には、同成桂、同金(同銀は3四桂がある)、5一竜(次の図)

鴨の図4
 これで先手が良さそうだ。5三歩としても、4二竜、同銀、3四桂で寄っている。
 図以下、3四銀打で頑張る手はあるが、それも先手勝ちになる。

鴨の図5
 “5三桂”の受けも、先手にうまい順がある。
 いったん2六玉として、5九とに、3四歩(図)とする。
 以下、3四同銀に、3一成桂、同玉、5三角成、4二金打、3三歩(次の図)

鴨の図6
 この図は先手優勢。3三同桂に、1一飛、2一銀、5二馬で、先手勝勢になる。

 この変化は、7五角と打って、先手良しになった。

 しかし、〔1〕4一桂成には、「4八と」ではなしに、“2四銀”とする手があった。

鴨の図7
 すなわち、〔1〕4一桂成に、「2四銀、2六玉、2五桂」とする。そしてこの図である。
 どうもこれで先手は身動きがとれず、どうにもならない。これは先手負け。
 〔1〕4一桂成は、この2四銀があるので、先手勝てないようだ。つまり「4一桂成~7五角」も良い攻めなのだが、「2四銀~2五桂」のほうがより早い攻めになっているのだ。

鴨の図8
 ということで、〔1〕4一桂成に代えて、〔2〕3四歩(図)を検討する。
 以下、3五銀打、1五歩、2四銀、1六玉、1四歩、1七玉、1五歩、1八玉、1六歩、1三玉、同香、4一角(次の図)

鴨の図9
 これは先手うまくやって、先手良しになっている。次に3二金からの“詰めろ”があるが、それを防いで3二桂なら、同角成、同玉、1二飛、2二角、1一角で先手勝ち。後手は1筋の攻めを逆用された。
 しかしこれは〔2〕3四歩に対する後手の対応がまずかったのである。

鴨の図10
 〔2〕3四歩にも、“2四銀”が良い。
 先手3六玉なら、3五銀打、4五玉、4二桂で、後手勝勢。
 よって、先手は2六玉。そこでやはり後手2五桂。
 以下、7七角、4四銀、1五歩、3五銀引、1六玉、1四歩、2六歩、1五銀、2七玉、2六銀左、1八玉、3六銀、2八歩、3七金(次の図)

鴨の図11
 これを受けるには4九角くらいだが、それでは1五歩または4八とが間に合って、後手勝ち。

鴨の図12
 〔3〕1五歩はどうなるか。(これを「激指」は最善手として推してるのだが…)
 1五歩にも、“2四銀”がある。以下、3六玉には、3五銀打、4五玉、4二桂で、後手勝ち。
 2六玉に、3七銀打(次の図)

鴨の図13
 以下、1七玉(1六玉には1四歩)、2五桂、1八玉、3八金、7七角、4四歩、同角、3三銀(次の図)

鴨の図14
 図以下は、1七角打、4四銀、同角、3三角、1七角、9九角成が予想される。間違えなければ、後手が勝つ。
 なお、この〔3〕1五歩には、4八とでも後手が勝てる。

 [鴨]3三銀成、同玉、2五玉は、「後手勝ち」で確定だ。
 

≪3三銀図≫
  [烏]2五玉         → 後手勝ち
  [鳶]4五玉         → 形勢不明
  [鴨]3三銀成、同銀、2五玉 → 後手勝ち
  [鷺]3三銀成、同銀、4五玉

 これまでの探査結果は、こうなっている。


鷺の図1
 [鷺]3三銀成、同銀、4五玉で、勝ち切りたいところだ。(「先手の勝ち筋」を見つけることが我々のテーマである)
 4五玉以下は、5三金、3一銀、同玉、5一竜、4一銀、5三竜、4二桂、同竜、同銀上、5四玉という展開が予想される。それが次の図である。

鷺の図2
 さあ、この図が、「先手勝ち」になっているかどうか。
 ≪亜空間の旅≫は、いよいよゴールに辿り着くのか。それとも…


     part58につづく 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part56 ≪亜空間の旅≫

2015年10月28日 | しょうぎ
≪月3一歩図≫
 先手の“希望”、4二銀に対し、後手が3一歩と打ったところ。これが今回のテーマ図。


    [ツナワタリ]
 ツナワタリは巨大な毛むくじゃらな気球さながらに、月へと降下した。
  (中略)
 月の上空には、たくさんのツナワタリがうかんでいた。無数のケーブルが、いたるところにだらしなくひろがっている。ここは、彼らのお気に入りの基地なのだ。空気が濃く、手足の不自由な地球より、彼らはここを好んだ。ここは、彼らが発見した世界――むかし、地球からやってきた小生物もあったが、それはとうに滅びて、もう見えない。生物界の最後の覇者、覇者と呼ぶにふさわしい姿と巨体を持った彼らは、長い退屈な午後を存分に楽しんでいた。
 ツナワタリは、ケーブルをつむぎだすのをやめて減速した。そして、のんびりと一本のケーブルにわたると、月に繁殖する青ざめた植物めざしておりていった。
                    (ブライアン・オールディス『地球の長い午後』より)



≪月2二玉図≫
 〔一〕4一銀  → 後手勝ち
 〔二〕2五玉  → 後手勝ち
 〔三〕6六角  → 後手勝ち
 〔四〕4五玉  → 後手勝ち
 〔五〕7三歩成 → 後手勝ち
 〔六〕9一竜  → 後手勝ち
 〔七〕8二飛  → 後手勝ち
 〔八〕6四角  → 後手勝ち
 〔九〕3三歩  → 後手勝ち

 この図は、≪亜空間、月の道≫と名付けた後手5二金から、3一銀、5一歩、2二銀成、同玉と進んだところ。
 この図から、我々(終盤探検隊)は、「先手の勝ち筋」が見つけられず、その結果、≪亜空間≫から抜け出せなくなってしまっている。
 上の〔一〕~〔九〕の手では、先手勝てない。
 この図では、後手の「3三桂打」と、「4二桂」と、そのどちらかの手で先手はやられてしまう。2五玉と逃げるのも、3四桂、1七玉、2五桂とされ、これは図で4二桂と打たれた変化と同じである。

 それなら、と我々は、「4二歩ならどうか」と考えたのであった。

4二歩図
 〔十〕4二歩と歩を置けば、後手は「4二桂」とは打てないし、これは後手玉への“詰めろ”にもなっているので、「3三桂打」も打つ余裕がない。対して3三銀打も、4五玉、6二桂、3一銀、同玉、4一桂成以下、先手が勝ちになる。
 この〔十〕4二歩は、ソフト「激指13」も示していない手である。
 (「激指」の示す最善手は「8二飛」で評価値[-269]、次善手は「6四角」で評価値[-333]であった)

 だが、〔十〕4二歩に対しては、「3一歩」で、これも結局先手は勝てないとわかった。(「part32」)

 そこで、「それなら“4二銀”でどうか」と我々は考えたのである。これが11番目の手、〔十一〕4二銀だ。

≪4二銀図≫
 この〔十一〕4二銀に対する後手の次の手は、次の3つ。
  <R>3一歩
  <S>3三銀打
  <T>4二同金  → 先手勝ち

 この〔十一〕4二銀については、「<T>4二同金で先手負け」というのが、以前「part32」における結論となって、それでこの図はそれ以上追及しなかったのだが、前回「part55」で、その結論がひっくり返った。「先手勝ち」に変わったのだ。

 ということで、いま、この図を調べている。

 今回は、<R>3一歩の調査である。

≪3一歩図≫
 <R>3一歩と、後手が“詰めろ”を受けたところ。
 これに対して、3一同銀不成、同玉、3一飛から強引に2三玉からの入玉を狙うのは、うまくいかない。
 ここでは、「4一桂成」とする(次の図)

≪4一桂成図≫
 “〔十〕4二歩”の時には、こうやっても後手玉への“詰めろにならない”から、3三桂打とされて先手が負けになっているところだが、この場合はそれが「銀」なので、4一桂成が、次に3一銀不成からの“詰めろ”。よって、3三桂打はない。先手は、この時のために「4二銀」を打ったとも言える。

 ここで、後手に考えられる手は、【伊】4二金、【呂】3三銀、【波】3三銀打。

4二金図1
 【伊】4二金は、同成桂、3三銀打と進む(次の図)が、3三銀打のところ、3三銀だと、4三玉で先手勝勢になる。 

4二金図2
 先手は4五玉(2五玉は4二銀、3四歩、5八とで先手不利)とし、後手は6二桂と、先手の入玉を阻止。

4二金図3
 この6二桂の手で、4二銀なら、5四玉から入玉して、先手優勢。また5三銀は、3二成桂、同玉(同歩)、5一竜で先手が勝てる。
 6二桂に、3二成桂。
 これを同歩なら、3一銀、同玉、4一金、同玉、6三角から詰む。5二銀合、同角成、同玉、6三銀、同玉、7三歩成、同玉、7二飛以下。
 6二桂、3二成桂、同玉には、4一角(次の図)

4二金図4
 これで詰んでいる。
 2二玉なら、4二飛(次の図)

4二金図5
 以下、同銀に、2三角成、同玉、3四金、3二玉、2三角、2二玉、1一銀、同玉、1二角成、同玉、2三金、1一玉、1二香まで。
 3二合駒の場合は、同角成、同歩、3一銀から詰む。

4二金図6
 4一角に、同玉の場合。
 これには、6三角。以下、5二銀、同角成、同玉、6三銀、同玉、5四金、同桂、7三歩成、同玉、7二飛(次の図)

4二金図7
 ここでの詰め方は一通りではないが、こういう感じで“詰み”となる。手数は長いが、比較的容易である。

 【伊】4二金は「先手勝ち」である。


3三銀図1
 【呂】3三銀の場合。
 これは同銀成、同桂。そこで3二金以下の“詰み”があるが、ここでは1一銀(次の図)からの寄せを紹介する。

3三銀図2
 同玉と取らせて、3一成桂と寄せていく。
 この寄せで気をつけるところは、そこで2一銀と受けられた場合。4一飛などとすると、4五銀以下、先手玉が詰まされて逆転負けになる。2一銀には、同成桂、同玉、4一飛、3一歩合、2二銀、同玉、1一角、3二玉、3三角成、4一玉、5三桂、同金、5一竜までの“詰み”。
 この図から、1一同玉、3一成桂に、4二桂、3三玉、2二銀、3二玉、3一銀、同玉、2二銀、4一玉で、次の図。

3三銀図3
 面白いところに逃げこんで、先手勝ち。
 ここで3一歩には、2一金、同玉、3三桂、同銀、3二銀以下“詰み”である。

 【呂】3三銀は、「先手勝ち」。


≪4一桂成図≫(再掲)

 【伊】4二金  → 先手勝ち
 【呂】3三銀  → 先手勝ち
 【波】3三銀打
 あとは、【波】3三銀打である。これをやっつければ、今回のテーマ図の「先手勝ち」が確定する。


3三銀打図1
 【波】3三銀打に、同銀成は、同桂で、先手負けになる。
 2五玉も、4二金、同成桂、同銀で、先手不利。
 よって、図では、「4五玉」しかない。

3三銀打図2
 以下、4二銀、5四玉(図)と、進む。
 ここで<a>6三銀と、<b>5三銀があって、どちらも有力で、形勢不明の変化になる。
 そこを今回はもう一歩踏みこんで、先後どちらが勝ちなのかを明らかにしていきたい。

 まず<a>6三銀だが、6五玉、7四銀、7六玉、5八金、7五歩となる(次の図)

3三銀打図3
 以下、5九金、7四歩、同歩、6六角、3三銀(この手以外だと、4二成桂が入って先手良しになる)、6四角(次の図)

3三銀打図4
 この6四角で、先手好調。後手は4一銀だが、そこで3四歩もあるが、それは7五金以下、少し複雑になるので、ここは9一角成がわかりやすい。一直線に、まず、「入玉ねらい」だ。
 以下、7五金、同角、同歩、同玉に、6三金(次の図)

3三銀打図5
 ここで7二竜が目につく。それでも先手が良いが、8三竜が優る。「入玉をめざす」という方針に沿った手だ。
 以下、7四歩には、8五玉で、次の図。 

3三銀打図6
 6三の金取りになっているので、後手7三桂が考えられる。それには、同馬で、入玉確定となる。
 また図で6二歩には、9三竜として、やはり入玉確定。また図で7一桂は7二飛(王手)がある。
 どうやら、先手勝ちになった。そしてこの道は後手にあまり変化の余地がなかった。

 <a>6三銀は「先手勝ち」と結論する。

3三銀打図7
 <b>5三銀。後手にとっては、こちらのほうがより期待できる。
 以下は、6五玉、6四銀打、7六玉、5八金、7三歩成(次の図) 

3三銀打図8
 このあたり、先手も後手も指し手が難しい。先手は7三歩成とする(この手では5一成桂もある)
 そこで後手(1)5九金と、(2)7三同銀が考えられる。

 (1)5九金には、7四金とする。(この手で7四ともあるが、7四金が手堅い)
 以下、7三銀、同金、6四銀(次の図)

3三銀打図9
 さあ、勝負どころである。
 ここで7四金だと、6三金が後手の勝負手(同金に8四桂が狙い)で、これは先手負けかもしれない。
 だからここは7四飛と受けるのが正着(次の図)

3三銀打図10
 後手5五銀引に、先手は8三金、次に7二飛成がその狙いだが、後手はそれを許さず7三歩。先手、同金。
 シブい応酬だが、先手は後手の8三の歩が消えたのはプラスである。入玉がしやすくなった。
 そこで後手にはっきりした有効手がないようだ。4一銀とするが、先手は「入玉するぞ」と、8五玉。

3三銀打図11
 入玉されると後手終わりだから、9四金(図)としたが、これには同飛が予定である。
 以下は一例だが、7三銀、7四歩、9四歩、7三歩成、7七飛、7五歩、8七飛成、8六歩、7二歩、9一竜、7三歩、9四玉、8六竜、8四歩(次の図)

3三銀打図12
 入玉確定で、先手優勢。

3三銀打図13
 戻って、(2)7三同銀の場合。
 ここでは「8三竜」か、「5一成桂」が有力手。
 「5一成桂」で見ていく。以下、7五歩、8六玉、7四桂、9六玉で、次の図となる

3三銀打図14
 この図は、「先手良し」のようだ。しかしまだ明解になっていないので、もう少し進めてみよう。
 ここで後手がどう出るか。候補手は〔パ〕5一金、〔ピ〕4二金、〔プ〕6二金、〔ペ〕5九金。
 〔パ〕5一金は、7七角、6六歩、5一竜、5九金に、6一飛で先手優勢。
 〔ピ〕4二金には、7二飛がある。以下、6二銀引に、6五金(次の図)

3三銀打図15
 この6五金の意味は、後手5九金なら、7四金、同銀、3四桂、3三玉、7四竜という狙い。7四の桂馬を取ることが攻防両面で大きな手になる。
 したがって、図で後手は3三金のような手で来るかもしれないが、それには、5二成桂で、やはり先手優勢である。5九金なら、6二飛成、同銀に、3一竜から、後手玉詰みとなる。

3三銀打図16
 〔プ〕6二金には、3三歩(図)と叩く。
 これを同桂なら、5二成桂が1一角以下の“詰めろ”になる。
 よって同銀だが、3二歩、同歩、3四歩(次の図)と攻める。

3三銀打図17
 先手勝勢。3四同銀に、3一角、同玉、1一角まで。
 先手の「5一成桂」に、〔ピ〕4二金や〔プ〕6二金では、5九金の余裕も与えられずに後手か負けになるとわかった。

3三銀打図18
 では、〔ペ〕5九金だとどうなるだろう。それには、先手も5二成桂と金を取る。
 以下8四銀に、8六歩、7六金に、8八飛と受けで、それでこの図になる。
 これで受けきって、先手勝勢である。9四歩には9一竜で、後手の攻めは止まった。6七となら、5三成桂が、3一竜以下の“詰めろ”で、それを5一歩と受けても、4二角で先手の勝ちが決まる。
 したがって、図では後手は9四歩、9一竜、9五歩とするしかなさそうだが、同竜、同銀、同玉、9三歩、8五銀で、先手の勝ちは動きそうにない。

 それにしても、この≪亜空間≫の将棋の先手の玉の“冒険”はものすごい。単身、1一方面に入玉したり、9一方面に入玉したり、9六玉で頑張ったり。勇者の玉の舞である。


 以上の検討により、いずれの変化も「先手勝ち」となった。
 よって、<R>3一歩は「先手勝ち」と結論する。


≪4二銀図≫
  <R>3一歩   → 先手勝ち
  <S>3三銀打
  <T>4二同金  → 先手勝ち

 さて、あとは<S>3三銀打、である。

 これを成敗すれば、≪亜空間の旅≫で、我々に課せられた課題は、終わる。≪亜空間戦争≫は「先手の勝利」となるのである。
 だが、<S>3三銀打は手強そうだ。


    part57につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part55 ≪亜空間の旅≫

2015年10月26日 | しょうぎ
≪月3二歩図≫
 次の一手は、「3二歩」。 同玉と取らせて、それから4二竜、同玉、7二飛が狙い。
 だが、これで後手玉が詰むわけではない。どうやって、先手はこれを勝つというのか――?


    [芭蕉の句]
  名月の花かと見えて綿畠
  錠明けて月さし入れよ浮見堂
  春もやや気色ととのふ月と梅
                    (松尾芭蕉作)


 松尾芭蕉の生きた時代、1644年~1694年、将棋界はどういう時代だったかというと、名人は二世名人が大橋宗古(1634~)、三世名人が伊藤宗看(1654年~)、四世名人が五代大橋宗桂(1691年~)の時代になる。

 伊藤宗看で有名なのは、檜垣是安との、二番勝負で、「檜垣是安、吐血の一戦」と呼ばれる一局がある。これは名人宗看の香落ち、角落ちの二番勝負で、香落ち番を名人が負け、しかし角落ち番は名人の宗看が勝ったという。もちろん駒を落としたのは名人のほうである。一説には、この角落ち戦を敗れ、檜垣是安は「吐血」して、死んだとか。(実際には、どうやら死んでいないらしい)
 しかし実際のところ、この檜垣是安は相当に強い人だったようで、名人と「平手」の手合いが正当な評価という見かたが多い。

 「御城将棋」の催しが毎年11月の17日に開かれるようになったのがこの頃(1682年か)である。

 芭蕉が上の俳句を詠んだのは、晩年で、「元禄」の時代であったが、その頃に大橋本家の五代目大橋宗桂が四世名人を襲った。
 この五代大橋宗桂、実は伊藤宗看の実子で、血が絶えて廃嫡になりそうな大橋本家に、自分の将棋の強い息子を養子にと差し出したのであった。
 この五代宗桂がどれほどの強さだったのか、よくわからない。その時代に“好敵手”がいなかったせいか、その強さを示す棋譜があまり残っていないのである。
 だが、花村元司は、『将棋大系第4巻』の中で、この人の才能をその残された少ない棋譜によって高く評価している。五代宗桂、二代伊藤宗印(五世名人、伊藤家二代目)、三代大橋宗与(大橋分家三代目)と、この時代の3人の「才能」では、五代宗桂を一番としている。この三人では、一番攻撃的な棋風だったようだ。花村の好みに合っていたということかと思われる。
 また、『五代宗桂日記』などの書物を残している。

 元禄の時代(1690年頃)、次の名人を決める戦いを行っていたのが、二代伊藤宗印と三代大橋宗与であった。
 伊藤宗印は前の名を鶴田幻庵という。伊藤宗看は自分の息子を大橋家に養子に差し出し、鶴田幻庵を伊藤家の養子に迎えた。この人は、年齢がわかっていないが、おそらくは次期名人争いのライバル大橋分家三代宗与より、20歳くらい若かっただろうと見られている。結局、この元禄時代の宗印-宗与の闘いを、宗印が勝ち抜き、五世名人となる。
 しかし、その若い宗印のほうが先に死んでしまったので、三代宗与も結局次の六世名人になったのであった。その時宗与は76歳(数え年)であり、大橋分家初の名人の誕生となった。

 伊藤家二代目の宗印(鶴田幻庵)が名人になったのは1713年だが、それよりも前、1709年10月からのおよそ1年と4カ月のあいだに、息子(長男)の印達と、大橋本家の養子宗銀との間で、またしても“次期名人を決める闘い”が行われていた。ともに10代の少年であった。その勝負は57番行われ、「宗銀・印達五十七番勝負」として有名である。勝ったのは伊藤家の天才児・印達であったが、数年後、この二人はどちらも病気で死んでしまった。

 なお、宗印(鶴田幻庵)の“将棋の才能”は、どういうわけかその“血”に継がれていくようで、長男の印達も才能豊かであったが、二男は三代宗看として家を継ぎ後に七世名人(江戸時代最年少名人)となり、五男は看寿(詰将棋の神本『将棋図巧』の作者である)。そして三男宗寿も八段の力があり、大橋本家の養子になって「宗桂」として大橋家八代目を継ぎ、その息子は後に八世名人になった九代大橋宗桂である。 

図1
 「4二銀」と打ったところ。これで「先手が勝ち」になるのかどうか、それがテーマ。
 これに対し、後手<R>同金を調べている。
 4二同金、3一角、同玉、5一竜、4一銀打、同桂成、同銀(次の図)

図2
 “これで後手良し”と、以前(part32)では結論したが、ここで新たな手が発見され、「先手勝ち」へと、結果が“逆転”したのである。

 その“次の一手”は、「3二歩」。

図3
 上の4一同銀の図を、ソフト「激指13」にかけると、その瞬間(考慮時間0)の評価値は[-1818(後手優勢)]で、「最善手=4二竜」としている。まったく先手に勝ち目はない値だ。
 それが考慮30秒後だと、「最善手=3二歩」に変わり、その評価値は[-750]である。さすが「激指」、30秒で「3二歩が最善手」と見つけている。が、それでもまだ「後手持ち」なのである。
 考慮1分で、「最善手=3二歩」のまま、評価値は[-609]になった。
 考慮3分、ここで「最善手=3二歩」の評価値がついにプラスに転じ、[+289]となった。
 そのあとは、ずっと同じ[+289]である。

 はじめの調査の時、我々はこの「3二歩」を逃したのだ。ソフトに「3分」ほどしっかり調べさせていたら、その時に「3二歩」にたどりついていたことだろう。我々には「この図では勝てそうにない」という先入観がその時あったのかもしれない。

 しかし「激指」も、10分考えても、[+289(互角)]のままだった。それほど、まだはっきりしない形勢ということだ。

 この「3二歩」に、2二玉だと3一角で詰むので、「同玉」が本筋となる。
 変化として、3二同金があるが―――

変化3二金図1
 3二歩を同金と取ると、4一飛成、同玉、6一飛と打って、後手玉が詰む。
 図は6一飛に、“5一桂合”の場合だが(他の合駒だと、5二銀、同玉、6三角から詰む)、5二銀、同玉、5三銀、同玉、7五角(次の図)

変化3二金図2
 6四歩合に、同飛成、5二玉、5三竜以下の“詰み”。

図4
 というわけで、「3二同玉」が正着なのだが、そこで「4二竜」と竜を切る。
 この「4二竜」が先手の指したかった手で、以下、「同玉、7二飛、5二飛」と進むのだが、この「4二竜」を、“同銀”の場合も考えておく必要がある。

図5
 4二竜に、同銀の時に、「3二玉」の位置だと詰む、しかし「3一玉」のままだと詰まない、という差ができる。(4二竜、同銀、3二歩は、“手順前後”というミスで、3二歩に2二玉で詰まなくなる)
 そういうわけで、「3二歩、同玉」として、それから「4二竜」が正解となるわけなのだ。
 「3二歩」には、そういう意味があった。

 4二同銀だと詰む。詰み手順は、4一銀、同玉、6一飛、5一銀合、5二金(次の図)

変化4二同銀図
 「5一銀合」としたのは、5二金に、3一玉と逃げた時の、4二金、同玉、6二飛成からの詰み筋をなくした意味だが、「銀合」でも、5二金、3一玉に、4一飛成、同銀、3二歩以下、やはり詰む。
 図から、5二同玉は、もちろん、6三角から詰み。
 「5一桂合」の場合にも、5二金、同玉、6三角、同桂、6二金、5三玉、6三金以下詰む。

図6
 「7二飛」には、「5二飛」の合いしかない。
 ヨコに利かない駒の合いだと、5一銀、同玉、6二金、4二玉、5二金、同銀、5一角以下、詰んでしまう。そして、後手の持っている“ヨコに利く駒”は「飛」のみ。
 よって「5二飛」だが、そこで先手「6四角」。(この角は6四の限定打で、7五だと先手勝てない)
 この角打ちの王手には、「5三銀」。 これしかない。

図7
 「6四角」に、「5三銀」。 銀合いが最善の応手で、これで後手玉に詰みはない。

 「6四角」に、“5三歩合”の場合は、後手玉が詰んでしまう。
 その詰め手順を示しておくと、5二飛成、同銀、5一銀、同玉、6二金(次の図)

変化5三歩図
 6二同玉は、7三角成から簡単(このときに、5三の歩が「銀」だと不詰。また、先手角の位置が「6四」でなかったら7三に成れないので詰まなくなる。)
 4二玉には、5二金、同玉、6三銀、4一玉、5一飛、3二玉、3一金以下。

図8
 「5三銀合」で後手玉に詰みはない。
 が、それでも先手が勝てるのだ。 「5四銀」が継続手。
 飛と銀とを受けに使わせたので、後手の持ち駒は「角桂桂」だが、これだと先手玉にも詰みはない。なので、5四銀が先手で入るのである。
 しかもこの「5四銀」は、5三角成(銀成)と、4三銀成と、2つの攻めがあるので、後手は受けがないのだ!
 したがって、後手はここで困っている。
 7二飛も、5三角成以下詰み。
 6四銀も、4三銀成、3一玉、3二歩、同銀、4二金以下の詰み。

 こうした“詰み”に、先手の3四玉が、攻め駒として働いている。
 だから後手はここで、3三歩か、または2五角として、先手の玉を移動させて、それから6四銀と角を取るという非常手段に出ることになる。
 「2五角」のほうが優ると思うので、そちらで進めていこう。

図9
 「2五角」には、先手は「2三玉」。(同玉だと、後手が良くなりそう)
 「1四角」に「1二玉」。

図10
 先手は手順に入玉できた。
 後手玉は元々穴熊玉だったので、香車が「1二」に上がっていた。だから「1二玉」とここに入玉ができたわけで、それを考えると、実に面白いことだ。
 後手は自玉の安全のため、先手玉を「1二」に追いやったのだが、先手からすれば、“突然に入玉の道が開け、気がつくと入玉していた”という感じだ。

 ここで後手は「6四銀」と角を取る。 以下、5二飛成、同銀、2二飛、3二飛(次の図)


図11
 このあたりの手は、必然ではなく、有効と思われる手を選んでみた。
 3二同飛成、同角、2二飛、2三角打、同飛成、同角、同玉、2四飛(次の図)

図12
 この一連の手順は、後手がなんとか頑張って、“5四の目障りな先手の銀”を除去するための苦心の手順だ。この手順中、2三角打に1一玉もあるが、そこで2四飛と打たれると、まだたいへん。素直に2三同飛成で駒得するほうが優ると思われるので、そちらを選んだ。
 図の「2四飛」は、取ると2二飛と打たれ、それは先手まずいので、「1二玉」と再突入する。
 以下、5四飛、4五角、5五飛、2三角成、5三玉、4五金(次の図)が予想される。

図13
 こんな感じで、「先手優勢」がどうやら明らかになってきた。

 終盤の勉強のために、もう少し先まで見てみよう。
 ここから後手が頑張るとすると、(d)3二銀と、(e)4五同飛が考えられる。

 (d)3二銀だと、5四香、6三玉、7三歩成、同玉、3二馬、4五飛、5二香成、3九飛、2一馬(次の図)

図14
 この場合、桂馬を入手したのが大きい。次に6六桂がある。
 だから5九飛成の余裕はなく、後手は「3一金」と迫る。
 これには、「同馬」で、以下、「同飛成、2二金」(次の図)

図15
 これも逃げると、6六桂があるので、「同竜」として、以下、「同玉、4四角、3三歩、7四玉、5四角」(次の図)

図16
 先手優勢。 図以下、2五飛には、3一玉でよい。


図17
 (e)4五同飛(図)の変化。
 以下、同馬、5四銀、2三馬、2五飛、3一角(次の図)

図18
 この「3一角」が好手で、後手は対応が難しい。4二桂合には、3二金、5一金、2二飛、のように攻めていく。
 「3一角」に、「6三玉」には、「7三歩成、同銀、7四歩」(次の図) 

図19
 以下は、5三歩、7三歩成、同玉、7一飛となりそうだが、これも先手優勢である。

図20
 3一角と打たれる前に、「3一歩」としてみたのがこの図。(≪亜空間≫の将棋は何度でもやり直しがきく)
 これには、先手「2一玉」(桂馬の入手)とし、「3二金」に、「1二馬」。
 続いて、「4五桂」(先手の馬の利きを止めて入玉の準備)に、「3三歩、同金、3九香、3七桂打、7三歩成」(次の図)

図21
 これを同銀は5一角(両取り)。よって、後手は「4四玉」とする。
 そこで「2二角」と打つ。これで後手、動きが取りにくい。
 「3二歩」に、「3四歩」(次の図)

図22
 以下予想されるのは、5五玉、3三歩成、4四歩、5一飛、という手順。先手は三枚の大駒がよく働きそうだ。
 先手優勢。先手の持駒が増えそうなので、後手玉の入玉は、阻止できる。


 こんな感じの展開になる。「先手勝ちである。


≪4二銀図≫
 この〔十一〕4二銀に対する後手の次の手は、<R>3一歩、<S>3三銀打、<T>4二同金とあって、どれも有力。
 <R>3一歩
 <S>3三銀打
 <T>4二同金  → 先手勝ち

 <T>4二同金は、「後手勝ち」だったのが、「先手勝ち」に、変わった!
 あとの2つは、まだ確定はしていない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part54 ≪亜空間の旅≫

2015年10月24日 | しょうぎ
 4二銀図。 これは、以前、『終盤探検隊 part32』で検討した局面である。
 この手(4二銀)はソフト「激指13」も10個の候補手の内に示してはいなかった。我々(終盤探検隊)が、ネタ切れになり、「これならどうか」と、11番目にひねり出した手だ。
 

≪月の道、基本図≫
  (猪)3一銀  →後手勝ち
  (鹿)2五玉  →後手勝ち
  (蝶)4五玉  →後手勝ち
  (蛙)4一桂成  →後手勝ち
  (燕)9一竜  →後手勝ち
  (雁)6四角  →後手勝ち
  (鶴)7七角  →後手勝ち
  (鶯)3三歩  → 後手勝ち

 この図から、どうやって先手が勝つか、それがこの≪亜空間の旅≫の後半のテーマである。答えがずっと見つからず、我々は暗闇を徘徊している。
 我々がここでの候補手をそれぞれ検討した、その評価は、上の通りである。絶望的に、勝てそうにない、という状況。

 しかし、我々終盤探検隊は、「きっとこれで勝てる!」という道筋を見つけた。(まだ検討途中であるが)

 この図で、「(猪)3一銀」とする。
 以下、「5一歩、2二銀成、同玉」と進んで、次の図になる。

≪月2二玉図≫
 〔一〕4一銀  → 後手勝ち
 〔二〕2五玉  → 後手勝ち
 〔三〕6六角  → 後手勝ち
 〔四〕4五玉  → 後手勝ち
 〔五〕7三歩成 → 後手勝ち
 〔六〕9一竜  → 後手勝ち
 〔七〕8二飛  → 後手勝ち
 〔八〕6四角  → 後手勝ち
 〔九〕3三歩  → 後手勝ち
 〔十〕4二歩  → 後手勝ち
 〔十一〕4二銀  → 後手勝ち  ( → もしかして、これで先手勝ち?)

 そこで、〔十一〕4二銀。 この手を選ぶ。
 これはすでに検討して「後手勝ち」と結論を出しているのだが、そのときの検討を見直して、新たな発見があったのである。


 〔十一〕4二銀について、『終盤探検隊 part32』では、次のように検討経過を報告している。

〔十一〕4二銀
 〔十〕4二歩は発想は良かったが後手“3一歩”の応手があって先手が敗れた。
 それなら、〔十一〕4二銀(下図)ならどうか。歩を銀に代えてみた。(この手も「激指」の候補手群の中にはない)

≪4二銀図≫
 この〔十一〕4二銀に対する後手の次の手は、<R>3一歩、<S>3三銀打、<T>4二同金とあって、どれも有力。
 <R>3一歩、<S>3三銀打、この2つはいずれも調査はまだ十分とは言えないが、「互角」にちかい微妙な形勢となり結論ははっきりしないところがあるも、“先手良しの可能性あり”と我々は手ごたえを感じている。
 しかし最も気になるのは<T>4二同金である。これで駄目なら他の変化を調べてもしかたがないし、後手にとってもおそらくは<T>4二同金が一番指したい手のはずである。だから<T>4二同金をまず調べていく。 



 そうして、<T>4二同金以下の変化を検討し、「後手勝ち」と出たのであった。

 先を見ていこう。
 「4二同金」には、「3一角」とする(次の図)

≪3一角図≫
 「同玉」に、「5一竜」。
 そこで4一桂合は、4二竜、同玉、7二飛から詰む。(7二飛に、5二飛なら、同飛成、同玉、6二金、同玉、6一飛以下。5二銀合や歩合などなら、5一角、同玉、6二金以下)
 よって、後手は「4一銀合」とする。以下、「同桂成、同銀」で、次の図。


≪4一同銀図≫
 この図、先手玉には2五銀以下の“詰めろ”がかかっている。
 そしてここで先手に良い手(勝てる手)がない、ということで、「後手良し」と以前は判断したのであった。

 だが、それは我々の検討不足だったのである。

 この図では、先手に、「勝つ手」がある。 さて、その“次の一手”とは―――?


      part55につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part53 ≪亜空間の旅≫

2015年10月23日 | しょうぎ
≪月6二桂図≫
 「6二桂」。 これは希望を道を遮る“悪魔の一手”である。


    [悪い穴]
 月が後ろの山頂に沈んで、わたしを影のなかに置き去ったとき、わたしはすでに丘の裾野まで来ていた。背後で、荒あらしく気味わるい叫びがあがった。まるで満たされない欲望に駆られたような声が――これは、死んだ蝶が地面に落ちて以来、いちども聞かなかった物音だった。そして物音は、風にはためく旗みたいにわたしの心を揺すぶった。振りむいて、目を見ひらいた。黒い影がいくつも、わたしを追いかけてくる。とたんに、わたしは月の消え残った丘の頂き目ざして走りだした。月が、まるでわたしに自衛力を与えるように、頂きのふちで踏みとどまってくれていた。ほどなくして、月の姿が見えた。わたしの足がいっそう早くなる。
 岩の影を横切るとき、生きものたちの吐く息をすぐ後ろで感じた。しかし、いちばん先を走ってきた生きものが、恐ろしい憎しみの吠え声をあげて飛びかかったとたん、わたしたちはもつれるように月光のなかに滑りこんだ。月が怒りの光をひらめかせた。すると生きものは、かたちのない液体となって、わたしからずり落ちた。力が戻ってきた。わたしは残りの生きものを降りかえった。一匹、また一匹、生きものたちは次つぎに月光のなかに飛びこんできたが、みんな悲鳴をあげて地面に落ちた。そのとき、頭上にある丸い顔に奇妙な笑みが浮かぶのを見た、いや見たような気がした。
 わたしは丘のてっぺんに登った。低い地平線に沈みかかった月が、遠くで輝いていた。空気は純粋で、しかも濃い。少し丘を降りてみると、あたりが少し暖かくなっていた。わたしは腰を降ろして、夜明けを待った。
 月が沈んで、世界はふたたび闇に包まれた。 
                                  (ジョージ・マクドナルド『リリス』より)
 


≪月4五玉図≫
 「激指」評価値は、 最善手 3一銀→ -574 、 次善手 6二桂→ -94   (考慮時間7分)

 ソフトの評価は、こうなっていたし、だからまず「3一銀」から我々(終盤探検隊)は調査したのだ。


3一銀基本図
 評価値「 -574 」では、あまり気乗りしない変化ではあったが、調べてみると、「これは先手勝てるかもしれない」という手ごたえに変わった。
 そして実際に本格調査を終えて、結論は「先手良し」である。(part50、51、52)

6二桂基本図
 ということで、次は「4五玉」に対し、後手「6二桂」の調査である。
 あとはこれを破れば、この4五玉で、輝かしい「先手勝利!」の時が訪れることになるだろう

 が、これが厳しいのだ。
 「6二桂」は、先手玉の行進(5四からの入玉ルート)を阻む、憎たらしい手である。
 我々はもちろん、この手があることは承知していたし、簡単にそれを調べてもいた。
 その時のおおまかな調査では、この図から、「“8八角”で先手良し」という判断だった。 

6二桂変化図1
 “8八角”と打つ。以下、3三歩に、4八歩(次の図)

6二桂変化図2
 4八以下は、4四歩、同角、3一銀、4七歩、3五銀打、6一桂成、4四銀、4六玉が考えられる変化。
 まだまだ形勢ははっきりしないが、この順を選んで先手が良さそうだというのが我々の“感触”だった。

 ところが、「大問題」が浮上してきたのだ。

6二桂変化図3
 “8八角”には、「3三桂」があるのだ! これをなぜか我々は完全に見落としていたのである。
 “魔”は、ここにも待ちかまえていたのである。
 「3三桂」で後手良しなら、上の図を調べても無意味である。まずこれに先手が勝てるのか勝てないのか、それが問題だ。
 「3三桂」には、これを同角成としてもダメなので、3四玉か3六玉しかないが、3四玉はそこで3一銀と銀を取られて、先手アウトである。 3四玉、3一銀に、3三角成としても、同銀、同玉、7七角以下、詰まされる。
 だから先手は3六玉と逃げて、後手3一銀に、2六玉とするしかない。(銀をタダで取られてしまったのは痛い)
 後手はそこで3七銀打が狙い筋になるが、すぐにそれをするのは、ちょっと後手も怖い。(その変化は形勢不明)
 そこで後手6六歩(次の図)が工夫の一手である。

6二桂変化図4
 先手の角の利きを止めた手。これを同角は、5四桂とし、8八角に、もう一度6六歩と打って、それから3七銀打と攻める意図である。それは後手良し。
 よって、先手はここで3四歩と勝負。(代えて1五歩では、4八とで先手勝てない)
 以下、3七銀打、1七玉(同桂、同銀不成、3五玉は、5三金で、先手悪い)、2五桂、1八玉、3八金。
 3八金は“詰めろ”だが、先手は6六角と“王手”して、3三歩に、3九角という受けがある(次の図)

6二桂変化図5
 白熱の終盤である。
 この角を、同金と取れば、3三歩成で先手勝ち。
 しかし後手2九金という手がある。これが詰めろになっていなければ、3三歩成で先手勝ちだが、2九金は、次に2八金以下の“詰めろ”になっている。(詰め手順は2八金、同角、同銀成、同玉、3七銀成、1八玉、2六桂、同歩、1七桂成、同玉、3九角、1八玉、2八角成まで)
 だから、先手はこれを同玉(次の図)

6二桂変化図6
 ここで後手は先手玉をどう寄せるか。雰囲気は“後手勝ち”だが、具体的には難しい。
 4七とは詰めろになっていないので、後手負ける。
 4七桂や4八とで後手勝てそうに思えるが、それも先まで進むと、先手勝ちになるようだ。
 おそらくは唯一の手が、3八銀成(不成)である。銀を捨てるのだ。同玉に、3七桂成。つまり「生の銀」を「成桂」にチェンジしたのだ。こうして、2九玉に、2七成桂とする。(4九玉には4七銀成、9八飛、4六桂)
 これで次は3七桂までの“詰めろ”。
 以下、1七角、4七と、9八飛、5四桂、7七角、2五桂(次の図)

6二桂変化図7
 この2五桂はおもしろい手だ。第一の意味は1七桂で角を取って5六に打つねらいだが、先手が3三歩成とすれば、3筋の歩が切れたので、3七桂不成、3九玉、3八歩で詰むというしくみになっている。
 図以下、2八歩には、1七桂不成、同香、3八と、同飛、同成桂、同玉、5六角となって、後手勝勢。
 
 こんなふうに、結局、先手は勝てないのだった。
 6二桂に、8八角は、3三桂で、後手優勢である。


6二桂基本図(再掲)
 そういうわけで、「6二桂」には、2二銀成、同玉とするしかないようである。

≪2二同玉図≫
 するとこの図になる。
 ここで先手に良い手があるかどうかが、この勝負ポイントになる。
 考えられる候補手は、【1】8八角、【2】4二銀、【3】3四玉だ。


6二桂変化図8
 まず【1】8八角から。
 この場合は、3三桂はない。3三桂なら、同角成で、後手玉が詰むから。
 後手の有力手としては、“4四銀”だが――

6二桂変化図9
 “4四銀”には、3四玉。
 この図がどうやら先手良しのようなのだ。(とてもそうは見えないが)
 3五銀引(次に3三歩以下の詰めろ)なら、3一銀、同玉、4一飛、同銀、同桂成、同玉に、2三玉~1二玉と入玉をねらって先手良しになるのである。
 だから図では3一歩が考えられるが、3一歩には4五歩で、これも先手やや良し。
 奇跡的に“先手勝ち”があるのかと思ったが――、そう甘くなかった。

6二桂変化図10
 【1】8八角には、“3三歩”がある。
 平凡に歩を打たれてみると、先手は困った。
 次に3四銀から詰まされてしまうし、それを3五歩と防いでも、4四銀があるので受けになっていない(3五歩、4四銀、同角、同歩、3六玉、4五角が、王手竜取り)
 その両方を受けるには、3五銀しかなさそうだ。3五銀には、後手は4四銀打がどうやら“この一手”。
 以下、同銀、同歩、同角、4三歩(4三銀は3一銀以下後手玉詰み)、1七角(次の図)

6二桂変化図11
 角を右に引いた。(こうしないと3四銀、3六玉、3五銀引で詰まされていた)
 ここで3四歩が、後手の好手(次の図)

6二桂変化図12
 次に3三桂、3四玉、2五銀までの“詰めろ”。
 これを6五飛のように受けても、3三桂、3四玉、4四歩とされて、受けがない。
 7七角も、3三桂、同角成、同銀、3一銀、1一玉で詰まず、後手勝ち。

 【1】8八角は“3三歩”で後手勝ち、と確定した。


6二桂変化図13
 【2】4二銀という手もある。
 これを同金なら、3一角、同玉、5一竜、4一銀打、同桂成、同銀、6二竜(次の図)

6二桂変化図14
 6二の桂馬を除去したので、先手玉にまた5四への入玉ルートが復活した。
 どうもこれは先手がやれる変化のようである。
 以下、一例を示すと、6七角、5四玉、5三銀、同竜、同金、同玉、5二飛、6三玉、4五角成、7三玉(次の図)

6二桂変化図15
 先手良し。7二馬、6四玉となれば入玉はできないが、3四桂が打てる形になるので先手の持駒が生きる。後手玉はもう穴熊ではないので、先手玉が寄らなければ、形勢は持駒の多い先手に傾く。

6二桂変化図16
 しかし、現実はそう甘くない。
 4二銀は取ってくれず、3一歩と打たれると、先手勝てない。こうしておいて後で銀を取られて、後手優勢。


6二桂変化図17
 【3】3四玉。これでだめなら、もう「4五玉では勝てない」とするしかない。
 3四玉のねらいは何か? 入玉である。
 たとえば、ここで後手が2四銀のような手なら、3一銀、同玉、4一金から清算し、2三玉で、これは一気に“先手勝勢”になる。
 3三歩、2五玉、3五銀打、1五歩の展開は、形勢不明(後手の勝ち筋が見つからないので先手良しの可能性もある)
 この図では、“3一歩”(次の図)が、後手の最善の応手かもしれない。 

6二桂変化図18
 ここで先手、うまい手があるか。
 攻めるなら4一銀。同銀、同桂成となれば、先手有望。しかし、4一銀に、4二金とされると、以下、5一竜に、その時に3三桂で、これは後手大優勢。
 4一銀では勝てないので、2五玉としてみる。(3四玉のままでは後手から3三桂とされて苦しい)

 そこで後手には、いくつかの選択肢がある。
 有力手は、「3八金」と、「4八と」、それから「1一玉」。(5三金は5一竜、4四金の時に、3一竜から詰む)

 「3八金」で調べてみよう。対して、先手3四歩が好手である。
 以下、2九金、6四角、3五銀打、1五歩と進む(次の図)

6二桂変化図19
 以下、2四歩、1六玉、1四歩、4一桂成(同銀は3三銀で先手勝ち)、1五歩、1七玉、4一銀、1八玉(次の図)

6二桂変化図20
 ここで3七桂なら、4五角で、先手良し。
 したがって、後手は1六歩と端歩を突く。先手は2九玉。
 以下、3七桂、3八玉(次の図)

6二桂変化図21
 この先手玉は詰まないが、後手は何が正解手だろうか?
 4七銀成、3九玉、3六桂が見えるが、それだと3三金以下、後手玉が詰まされる。つまり先手勝ちになる。
 ここでうまい寄せがなければ、この図ですでに先手勝ちかもしれない…、そんな図である。
 
6二桂変化図22
 上の図から、「4七と、3九玉、1七桂」が正しい寄せ。 これで「後手勝ち」。
 4六銀を動かさず、5五に利かせておけば、後手玉に詰みは生じないのだ。

 【3】3四玉の最後の手も、潰された。 頑張ってはみたが、先手は勝てないようだ。


≪月4五玉図≫ (再掲)
 結局、ここでの「4五玉」は、後手「6二桂」があって、先手が負けになる ようだ。



 残念!!! またしても、先手の“希望の矢”は粉砕されてしまった。

 しかしまだ、我々は“次の矢”を用意している。前に進もう。
 今度こそは、待望の「勝利」は我々の手の内に入るであろう。


     part54につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part52 ≪亜空間の旅≫

2015年10月22日 | しょうぎ
≪月6三金図≫
 これがこの局面での後手の“最強手”か? ヒタッとちかづいてくる「6三金」。
 だがこれを破れば、我々の望む「先手の勝利」は近づいてくる。

   [さあ、絵にしてごらん]
 ある晩うつうつとして窓際に立っていた。窓を開け外をのぞいた。いや、うれしいのなんのって! 見知ったひとつの顔を見た、円いにこやかな顔、空を見下ろしている最愛の友を。月だった。愛すべき昔ながらの月だった。相も変わらず、そのまんまそっくり、沼地の柳の木々の間からわたしをのぞいていたときとおんなじの。
                                   (アンデルセン『絵のない絵本』より)
 


≪月8六玉図≫
  (か)5五角 → 先手優勢  (激指評価値= -160 )
  (き)6七角 → 先手優勢  ( 同上 = -238 )
  (く)3三歩 → 先手優勢  ( 同上 = + 30 )
  (け)6七と → 先手優勢  ( 同上 = -120 ) 
  (こ)5三金 → 先手優勢  ( 同上 = -120 )
  (さ)6三金         ( 同上 = -433 )
   ( 注:激指の評価値は調べるつどに毎回違う)

 この≪亜空間≫の将棋は、先手玉が「2五」や「2六」で遊泳する場面が多かったが、今、先手玉は「8六」にいる。面白いことだ。この「先手玉」は、単身で空中を遊泳してきている。

 今まで見てきたように、「8六玉」としたこの図は、先手からの「3三歩からの攻め」と、「入玉狙い」との2つの手段が有効で、ソフト「激指」の評価は少し後手持ちなのだが、調べて行くと最終的には「先手良し」となることが多かった。やはり入玉しやすい状況というのが、ソフトの形勢評価に困難をもたらしているのではないか。

 (さ)6三金。 ひたっと近づいてきた敵の不気味な金である。
 これを今から調べていく。これは「激指13」も、ここでは最善手とみている手。

 前回報告の終わりに、「(さ)6三金も先手良し」と我々は予告した。
 だが、それは変更しなければならなくなった。1日の間に、検討がすすんで、結果が変わったのだ。


(さ)6三金
6三金変化図1
 先手のここでの最善手は、この場合もやっぱり、3三歩。 これを同銀だと先手ペースになるが、6八角(次の図)が好手。これが大変な変化になる。(6八角以外の手は先手良しになると思う)

6三金変化図2
 先手3二歩成が入ると、その手が後手玉の“詰めろ”になる。(2一と以下)
 だからここで7七歩として、6七とに、3二歩成と勝負するのも考えられる。しかし、それは7七角成、7五玉、3二銀となったその図が、どうも後手良しかと思われる。
 したがって、図の6八角の王手に、先手は7五玉が最善のようだ。以下、7四歩、8五玉、7三桂、9六玉、5三金(桂馬をとった)、8六歩(次の図)

6三金変化図3
 ここでのソフト「激指」の評価値は、「 -553 後手有利 」。 そして最善手は7七角成だという。
 しかし、ここで「7七角成」なら、9一竜、9九馬、9三竜、3三馬、6一飛、6二歩、9五玉、6六馬、8三竜(次の図)が予想される。

6三金変化図4
 9三歩には、9四香とする。これで入玉確実だ。先手良し。

6三金変化図5
 というわけで、「7七角成」ではなしに、「8四桂」が後手の正着になる。
 以下、8七玉に、3三銀。
 この3三銀で、6七とでは、3二歩成が“詰めろ”なので、一旦自陣に手を戻した。

6三金変化図6
 3三歩を打った後、ここまで、先手に選択肢はほとんどなく、この図は避けることができない。 ここで、やっと先手に手番がきた。 先手は5一竜。
 これを4二銀引きなら、4一飛と打って、先手が勝てる。4二銀上にも4一飛だ。2二銀引なら、6一飛と打って、これも先手が良い。
 だから後手は6七とがこの一手。
 6七とに3一竜は、7七角成、9八玉、2二銀、9一竜、7八とで、後手勝ち。
 よって、先手は3一竜とはここでは取れず、8八金と受ける。

6三金変化図7
 終盤探検隊の研究は、この図は「先手良し」というものであった。
 ここで6五桂は7八歩で先手良し。4二銀引は6二竜で、次に3二歩の攻めがある。4二銀上も6二竜で、3四歩を狙いにする。
 また、図で7七と、同金、同角成、同玉、6五桂、8八玉も、先手がやれる。
 もちろん7九角成も考慮の内だったが――、ここに問題が生じた。検討が甘かったのだ。

6三金変化図8
 7九角成にはこのように8九銀(図)と受けてなんとか大丈夫、というのが我々の当初の読みだった。ソフトがここで8八馬と切る手を推奨するので、それには同玉で先手良し、と。
 ところが、ここで5七銀不成という好手があるのだった。これがあるので、結論が翻(ひるがえ)ってしまったのだ。

6三金変化図9
 以下、3一竜、6六銀成(7七と以下の詰めろ)、7八歩、8九馬、同金、7六成銀、8八玉、8七銀、7九玉、6八歩(次の図)

6三金変化図10 
 先手負け。(後手玉に2一竜からの詰みがあればよいのだが、この場合はない)

6三金変化図11
 さて、7九角成に、では“8九金打”ならばどうか。
 これは8九同馬、同金、7六金、9八玉、7七と以下、やはり寄せられてしまう。(以下の解説は省略する)

6三金変化図12
 8八に受ける駒を「銀」に代えるとどうなるのか。これなら7九角成とはできないが…、「銀」の場合はその“腹”に弱点がある。
 これには6五桂と跳ねて、7八歩と受けるが、それを同とと取る。この時に8八の駒が金ならこの攻めは同金で受かっていたが、「銀」なので、同玉しかないのである。そこで、7六桂(次の図)

6三金変化図13
 先手は6六角と受けるが、8八桂成、6八玉、5七銀成、同角、同桂成、同玉、8四角(次の図)


 きれいに“王手竜取り”。
 先手は持駒がたくさんあるので、何が起こるかわからない実戦ならまだ頑張るところだが、形勢ははっきり後手良し。
 こうなると、先手の「裸玉」と後手の「穴熊」の差が大きく、実戦でも、先手はとても勝てそうにない。

 ということで、(さ)6三金の変化は、後手良し、となった。


 するとこういうことになる。

≪月8六玉図≫
  (か)5五角 → 先手優勢
  (き)6七角 → 先手優勢
  (く)3三歩 → 先手優勢
  (け)6七と → 先手優勢 
  (こ)5三金 → 先手優勢
  (さ)6三金 → 後手優勢

 手番は後手なので、後手が(さ)6三金をここで選び、先手は勝てないというわけだ。
 この≪月8六玉図≫は、「後手勝ち」を結論とする。(ああ、なんてことだ)

 
 我々(終盤探検隊)が、めでたくこの狂気の≪亜空間≫世界から脱出するための条件は、「先手の勝ち筋を見つけること」である。
 ≪月8六玉図≫が先手勝ちなら、これがその「勝ち筋」になったかもしれないところだったが、(さ)6三金にやられてしまった。我々はつい昨日まで、この図は「先手勝ち」と思っていたのである。
 しかし、落ち込むことはない。
 我々は、同時に、明るい希望も見出すことに成功したのだ。それを次に説明する。


≪月の基本図≫
 この図から出発する。これが≪亜空間、月の道≫の入口となる。
 ここから、3一銀、5一歩に、4五玉(次の図)

≪4五玉基本図≫
 このタイミングの「4五玉」が、新しく試みている“希望の手”である。これで「先手の勝ち筋」となるかどうか。
 以下、3一銀、5四玉、6三銀、6五玉、7四銀、7六玉、5八金、7五歩、5九金、7四歩、同歩、6四角、7五金、同角、同歩と進む(次の図)

≪月7五歩図≫
 〔P〕7五同玉 → 千日手  
 〔Q〕8六玉 → 後手勝ち
 
 これが、今までの検討の結果から得られた結論である。上で調べたのが〔Q〕8六玉の図だ。それは残念にも、「後手良し」になってしまった。
 だが、この手を指すのは「先手」だから、〔P〕7五同玉を選べば、最悪でも、「千日手」で引き分けとなるわけである。

 しかもグッドニュース! 我々のこの数日間の再検討の結果、〔P〕7五同玉の検討に進展があり、なんと、
  「千日手」 → 「先手良し」
と、結論が変わったのである!


 それをこれから示そう。
 7五同玉には、後手6三金が最善手で、それに対して先手「7四金もどうやらこの一手」(以下5二角、7三金打で千日手)と、前の報告(part50)には書いたのだが、ここで「3三歩」があったのだ!

変化7五同玉図1
 これだ! ここでも、「3三歩」があったのだ。
 (ここでの3三歩に気づいたのも、〔Q〕8六玉の検討で“3三歩”が有効になる場合が多いと学んだからだった)
 ここで攻めて、相手に手を渡すのは怖い。後手から“6四角”や“7四歩”があるからだ。
 その心配な“6四角”、“7四歩”でどうなるかをまず見ておこう。

 “6四角”は、8五玉、7三桂、9六玉、5三角、9一竜(次の図)が予想される。

変化7五同玉図2
 これは先手良しではないか。7四金なら、6三角と打って先手良しがはっきりする。
 3三銀には、4一角、6二歩、7四歩。 3三桂には、3四歩で、後手の指し手が難しい。
 やはり、先手良しで間違いない。

変化7五同玉図3
 「3三歩」の図から、“7四歩”と後手が打って、8六玉、6四金、7六歩、6八角で、この図となる。
 6八角には7七銀(8五玉もあるようだ)と打つ。これには9四桂が後手の狙いなのだが、以下8五玉、7七角成、8三竜(次の図)

変化7五同玉図4
 以下、9九馬なら、3二歩成、同銀、6一飛、9二銀、8四玉。
 3三銀なら、8四玉、6二銀、8二竜、6三金、9一竜。
 まず入玉を確定させて、その後に攻めていけばよい。これも先手優勢。

変化7五同玉図5 
 ということなので、先手の「3三歩」は同銀(図)と取ることになりそうだ。
 (3三同桂の時には、6一飛と打って、6四角、7六玉、7四金に、5一飛成が後手玉の詰めろ)
 図以下、4一桂成、2二銀引、6一飛、5二角(次の図)

変化7五同玉図6
 6一飛には、5二角という手がある。
 図以下、5一飛成、7四金、7六玉、8四桂、7七玉、7六歩、8八玉、4一角、同竜、6七と、7八歩、7七歩成、同歩、7六歩、同歩、7七歩(次の図)

変化7五同玉図7
 こうなると、先手負け。
 6一飛が悪かったのである。

変化7五同玉図8
 戻って、6一飛に代えて、8三竜が正解である。
 7一桂なら、6三竜、同桂、6四玉、7九飛、7四歩で入玉できる。
 したがって、後手はここで7四歩。8四玉とすると、7五角で先手玉は捕まる。7六玉には9四角がある。
 正着は8六玉。
 8五歩には、9六玉とかわす。(7三桂と打たせない方が優る。6三の金取りになっているので後手忙しい)
 以下、9四歩に、8四銀で、次の図。

変化7五同玉図9
 以下、7三桂には、8二角で、先手優勢。


≪月7五歩図≫
 というわけで、この図で、7五同玉とこの歩を取って、先手優勢になるとわかった。


 ということは、つまり―――

≪月4五玉図≫
 この4五玉で「先手勝ち」――――と、言いたいのだが、まだ早い。

 4五玉に3一銀を調べてきたのだったが、後手に他に有力な手はないか?
 あるのだ。

6二桂図
 4五玉に、6二桂と打つ手がある。
 今度はこれを粉砕しなければならない。 まったく、≪亜空間要塞≫の魔の手は、しつこい。


   part53につづく



[追記] 研究が進んで、少し結果に変更があるので追記しておく。

追記図1
 この図は(さ)6三金の変化だが、ここから5一竜以下を解説した。(結果は後手勝ち)

 しかしここで、8八銀とすれば、先手も頑張れるかもしれない。
 6七とに、6二飛と打つ(次の図)

追記図2
 ただし、これは前から我々の研究範囲で、6二飛に、5七角成が好手(次に6六馬の狙い)で、これで“後手良し”と判断していた。
 この図から、5七角成、5一竜、6六馬、同飛成、同と、3一竜、6七飛、9八玉、7六桂(次の図)と進み――

追記図3
 後手玉に詰みはなく、先手玉の受けが難しいということで、“後手良し”としたのだった。
 しかしこの図をさらに研究すれば、そう簡単ではないとわかった。つまり後手良しともかぎらない、と。
 ここで8九銀と受けて、8八桂成、同銀となる。
 そこで後手が7七銀と攻めれば、7九金で、これは「千日手」かもしれない。
 だからふつうは、7七とである。すると、同銀、同竜となる。
 ――そこで2二金、同銀、同竜、同玉、3四桂、3三玉、1一角(次の図)

追記図4
 と、このようになって、3四玉に、7七角成と、後手の竜が素抜けるのである。
 といって、それで先手有利ということでもなく、これは「形勢は不明」とするしかない。

 ということで、(さ)6三金の変化は、「後手勝ち」ではなく、「千日手または形勢不明の変化となる」に変更したい。
 (ただし、後手の応手は他にもあるかもしれず、結論はまだ流動する可能性もある)

7五同歩図
 よって、≪7五同歩≫のこの図で
  〔P〕7五同玉 →「先手良し」
  〔Q〕8六玉  →(さ)6三金で、「千日手または形勢不明の変化になる」(千日手の権利は後手)
 が、新たな結論となる。
 
 しかし、この変更によって、大勢の結果に影響はしない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part51 ≪亜空間の旅≫

2015年10月21日 | しょうぎ
≪月8六玉図≫

   [月人壮士]
 夕星(ゆふづつ)も通ふ天道(あまぢ)をいつまでか仰ぎて待たむ月人壮士(つきひとをとこ)
                                  (『万葉集』より)



≪4五玉基本図≫
 4五玉で先手が勝てるかどうか、それが今の我々の研究テーマである。 

図1
 後手は3一銀と、銀を取る。

図2
 進んでこの図になる。
 ここで、〔P〕7五同玉と、〔Q〕8六玉と2つの道があるが、〔P〕7五同玉だと千日手なりそう。つまり「引き分け」である。(前回の報告を参照のこと)

 〔Q〕8六玉を研究探査中である。(次の図)

≪月8六玉図≫
  (か)5五角 → 先手優勢
  (き)6七角 → 先手優勢
  (く)3三歩 
  (け)6七と 
  (こ)5三金
  (さ)6三金


(く)3三歩
3三歩変化図1
 これまで見てきたように、この形は先手からの3三歩が有効手になる場合が多い。
 それなら、後手がここで(く)3三歩とそのキズを消しておくとどのようになるか。それを見ておこう。
 3三歩(図)に、9一竜、5五角、9三竜、9九角成、8五玉、5五馬、9二銀、9一歩、同銀成、7三馬、8二角、6二金、9四玉(次の図)

3三歩変化図2
 先手入玉確実。8二角、同竜、7三角には、8三玉と突進する。

 (く)3三歩の変化は、後手がその手に一手をかけたので、9一竜という手が先に入り、9筋に玉が進行することができるようだ。
 (く)3三歩は先手勝ちになる。


(け)6七と
6七と変化図1
 (け)6七と。 ここでもやはり、先手3三歩と攻める手があるのだ。これには「同銀」と「同桂」とがある。
 「同銀」に、4一桂成とするが、そこでまた“2二銀上”と“2二銀引”とがある。

 “2二銀上”には、3二銀(次の図)

6七と変化図2
 ここで後手に有効手がない。6三金だと、2一銀成以下詰んでしまうので、それはできない。
 また5五銀は、3四歩、同銀、3一成桂、同銀、同銀不成。5七銀不成には、6四角(詰めろ)である。
 後手5五角が含みの多い手。これには、8五玉とする。(3一成桂は先手不利になる)
 以下、3一歩。(この手で9九角成なら、6四角がある。) これで紛れを求めてきた場合を、以下見てみよう。
 3一同成桂、同銀、同銀不成、6二桂、8三竜、8二歩、7二竜、9九角成、3二飛(次の図)

6七と変化図3
 8三香、8四銀、9二桂、6二竜、同金、同飛成(次の図)

6七と変化図4
 先手優勢だ。後手玉に“詰めろ”がかかっている。(2二で清算して3四桂)
 4四馬、8二竜、8四香、7四玉、3二歩、8三玉、5二飛、9一竜(次の図)

6七と変化図5
 先手勝ち。

6七と変化図6
 “2二銀引”(図)の場合。これには、3一成桂、同銀、4一飛(次の図)

6七と変化図7
 後手「角桂桂」の持駒では、まだ先手玉に詰めろをかけるのは難しい。
 よって、後手は「2二銀」とするのがまず考えられるところだ。
 そこで先手は、5三歩。 6三金に、8三竜、7三桂、3三角(次の図)

6七と変化図8
 3三角を同銀なら、3二金で、後手受けがない。先手玉も詰まない。
 したがって、ここでは7七角とするが、同角成、同と、3二銀(次の図)

6七と変化図9
 7七との形にすることで、後手から7七角と王手で打つ手を消した。
 ここで3二銀と打って、後手“受けなし”である。3一歩と受けても、2一銀成、同玉、3二角、同玉、4二金、3三玉、4三金以下詰みとなる。この時に、後手が7七角と打てる形の時には、4四に角の利きがあって詰まなかったわけだ。
 先手の勝ち。

6七と変化図10
 戻って、4一飛に、「7七角」だとどうなるだろうか。
 しかしそれは、8五玉、6三金、8三竜、7一桂、6三竜、同桂、7四玉と進んで――

6七と変化図11
 これで入玉できる。先手良し。

6七と変化図12
 今度は「6二桂」と打つ変化。
 これに3一飛成は、7七角、9六玉、9四歩で、それはおそらく後手勝ち。

6七と変化図13
 先手はここで、3三歩とするのが良い。これは2二銀以下の“詰めろ”になっている。
 後手は、7七角と打って、9六玉に、3三角成とその詰みを消す。(他に手段がなさそう)
 そこで先手は3一竜。これで銀が取れた。
 後手は適当な受けの手もないので、9九馬と香車を取る。
 先手は6四角(次の図)

6七と変化図14
 この6四角の手で、3二金なら、先手が負けている。9四香、8五玉、7三桂、8六玉、7七馬、7五玉、7四歩、6四玉、5五馬までの“詰み”。
 つまりこの6四角は、後手の7三桂と打つ手を防ぐというのが第1目的だったのだ。
 ねらいを防がれて、後手にはもう手がない。後手玉には2一竜以下の“詰めろ”がかかっている。それを受ける手は2二馬しかないが、同竜、同玉、3一銀、3二玉、1一角で先手勝ち。

 (け)6七とは、先手勝ちになる。


(こ)5三金
5三金変化図1
 (こ)5三金と、金で桂馬を取った。
 ここで先手5一竜が目につくが、それは7四桂で、7五玉、6三金となると先手勝てない。
 ここは8三竜が正着である(次の図)

5三金変化図2
 ここで、後手「6三歩」と、「6七角」が候補手である。
 「6三歩」には、3三歩、同銀、3二歩と攻撃する(次の図)

5三金変化図3
 3二歩に4二銀なら、3一金と打ちこみ、4一飛を狙う。(今なら金を敵に渡しても大丈夫)
 後手3二同銀に、3一金。
 以下、2二玉、3二金、同玉、7三角。この手が4一銀以下の“詰めろ”。
 後手は5二金とするが――

5三金変化図4
 5三歩。これも4一銀以下の“詰めろ”である。4二金には5一馬がやはり“詰めろ”になっている。
 先手優勢。

5三金変化図5
 8三竜に、「6七角」(図)。
 7五玉、7三歩、6一飛、5五銀、6五歩、6三金(次の図)

5三金変化図6
 6三金は後手の勝負手だが、これは素直に同飛成と取るのが良い。そこで7一桂の竜の両取りが後手の狙いだが、竜と金を交換して、それで入玉ができるのならわるくない取引だ。
 すなわち、6三同飛成、7一桂、8四玉、6三桂、7三玉、9四角成、7四銀(次の図)

5三金変化図7
 入玉した後、後手の玉を攻めるのに、できれば飛車(竜)は一枚残しておくのが望ましいが、そう贅沢は言っていられない。
 8三馬、同銀成、7九飛、8二玉、7一桂、9一玉、8三桂、8二金(次の図)

5三金変化図8
 これで入玉は確定した。あとは後手玉をどう攻略するか、だが。
 2二銀打、7二歩、4四銀、8三金(敵陣を攻めるのに桂馬が有効)、5五桂、3四桂、9九飛成、7一歩成、7九飛、8一と、7四飛成、8二金打、5八金、2二桂成、同銀、6四角、6五竜、3一角打(次の図)

5三金変化図9
 こんな感じで戦う。先手は入玉した玉をしっかり固めたので、あとは安心して攻めていける。
 図では、後手5三香くらいだが、4二銀とし、3一銀、同銀成、2二玉、4二金、4一銀、3四香と攻めていって、先手が勝ちきれる。

 (こ)5三金は、先手優勢になる。


≪月8六玉図≫
  (か)5五角 → 先手優勢
  (き)6七角 → 先手優勢
  (く)3三歩 → 先手優勢
  (け)6七と → 先手優勢 
  (こ)5三金 → 先手優勢
  (さ)6三金

 さて、こういう結果になっている。
 あとは(さ)6三金の場合が“先手良し”ならば、この図の「先手優勢」が確定する。
 予告しておくと、「(さ)6三金も先手良し」というのが我々の研究結果である。

     part52につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part50 ≪亜空間の旅≫

2015年10月20日 | しょうぎ
≪月4五玉図≫

 このタイミングで4五玉とするのは、これまで考えてこなかった変化。 この手にわれらの“希望”はあるか。

   [月読]
 次に右の御目を洗ひたまふ時に、成れる神の名は、月読命(つくよみのみこと)。
                                  (『古事記』より)
 


≪月5一歩図≫
 ≪亜空間、月の道≫を終盤探検隊は進んでいる。探検は袋小路に入り、戻ったり、また進んだり…。
 我々の課題は、「先手の勝ち筋を見つけること」である。
 ここでの「4五玉」に期待してみよう。

 ふつうここでは2二銀成だし、「激指」もそれを最善手としている。
 そういうわけで、我々(終盤探検隊)も2二銀成以下を調べてきたのだが、それで(先手が)勝てないと出たので、この4五玉を調べてみようと思ったのだ。
 ちなみに、この2手前、「3一銀、5一歩」の2手を交換する前の4五玉は検討済み(後手勝ち)。だからいっそう、このタイミングでの4五玉で先手良しになるとは考えにくい。それでも、“藁をもすがる思い”で、やってみる。

 この図の4五玉の局面の、「激指」の評価値は、「 -574 (後手有利)」(考慮時間5分)と出た。


≪4五玉基本図≫
 後手は3一銀(銀をとった)。
 先手は5四玉。3一に銀を打って、それを取らせる間に、入玉をしようということだが、しかし5四玉に、6三銀と打たれて入玉はできない。
 6五玉に、7四銀、7六玉(次の図)

図1  
 ここで後手は二択。
 <ア>5八金とするか、<イ>8四桂、8六玉として、それから5八金とするか。
 結論から言うと<ア>5八金の方が優るが、<イ>8四桂、8六玉、5八金の変化を確認しておこう。
 以下、7五歩、6五銀、3三歩(次の図)

変化8四桂図1
 このタイミングで3三歩と叩いておく。同桂は6一角(5二角成と8三角成の両狙い)があるので、3三同銀とするが、先手は4一桂成(次の図)

変化8四桂図2
 そこで「5九金」なら、3一成桂、7六銀、9五金(次の図)

変化8四桂図3
 これで後手の攻めは続かない。先手勝ち。

 したがって、戻って、4一桂成には、後手は2二銀上。
 以下、7二角で、次の図。

変化8四桂図4
 以下、5九金、8三角成、7六銀、8四馬、8五金(次の図)

変化8四桂図5
 8五同馬、同銀、同竜。
 先手は入玉をしたいが、この8五同竜で、焦って8五同玉とすると6三角で竜をタダ取りされてしまう。
 続いて、6七と、8二竜、8三歩、8五玉、7七角、6一角(次の図)

変化8四桂図6
 これで先手の入玉は確定的。後は、8三角成~8四玉~9一竜~9三玉という感じ。
 安全に入玉できるなら、先手は大駒を一、二枚渡してもこの場合は問題ない。後手の穴熊玉がこれから入玉をめざすのはほぼ不可能なので、「相入玉」の場合の駒数の点数など気にする必要はない。

 <イ>8四桂、8六玉、5八金の変化は、先手が勝てる。

図2
 本筋の<ア>5八金に戻る。
 この場合は7五歩で、7四の銀が取れる。6三銀なら先手は安全になるので、もう入玉など必要もなく、攻めていって勝てる。3三歩、同銀、4一桂成、2二銀、3四歩、同銀、3二金という要領だ。
 よって7五歩には5九金だが、7四歩、同歩、6四角と進む(次の図)

図3
 図の6四角はおそらくここでの最善手である。これ以外の手では先手見込みがないと、我々の検討では出ている。
 これに対して、6三金なら9一角成、6三歩には4六角として、それらの変化は大変だが、なんとか、先手良しになるようだ。
 また、5六とのような手では、4一桂成で、先手良しにはっきり傾く。
 なので、この図での後手の最善手は、7五金であろう(次の図)

図4
 7五同角、同歩

図5
 ここで分岐がある。
 〔P〕7五同玉と、〔Q〕8六玉、この二択である。(8五玉だと6三角の王手竜取り)
 「激指」の評価値は、〔P〕7五同玉 → 「‐85 (互角)」
            〔Q〕8六玉 → 「‐201(互角)」
 先手は入玉できるならしたい、そうすれば先手勝ち、という将棋なので、〔P〕7五同玉として安全ならそう指したいところだ。


 〔P〕7五同玉から調べよう。
 〔P〕7五同玉には、6三金が最善手。これ以外の手だと先手がはっきり優勢になる。
 これには先手7四金(次の図)

図6
 先手の7四金(図)もどうやらこの一手。
 これを同金、同玉だと入玉されてしまうので後手は5二角。
 対して、先手6三金は、同角と金を取り返した手が、王手竜取りになるのでまずい。
 したがって、先手は7三金打と打つ(次の図)

図7
 この7三金打は6四に打っても同じだが、図以下、後手から7四金、同金、6三金、7三金打…、つまりこの繰り返しで「千日手」となる。

 つまり結論として、先手が〔P〕7五同玉を選択すれば 千日手 、となる。

 「 千日手 」とは、これは予期しない事態になってきた。
 実戦の将棋ならそれなりの「千日手規定」があるが、これは≪亜空間の闘い≫である。「千日手」だと、どうなるのか。

 しかしこれで、我々終盤探検隊は、少なくとも先手は「負け」ではなく、「引き分け」の権利ができた!

 「引き分け」だと、我々の≪亜空間の旅≫はどうなるのか。我々は≪亜空間≫を希望どうり脱出できるのか?
 重大な問題だが、それを考えるのはここでは脇に置いといて、局面を戻して〔Q〕8六玉以下の変化を検討しよう。
 

図8
 さて、〔Q〕8六玉としたところ。これは今の〔P〕7五同玉(千日手が結論)に優るのか劣るのか。先手はこれで勝てるのかどうか。
 ここは手の広いところで、形勢判断が難しい。後手の有力手は、(か)5五角、(き)6七角、(く)3三歩、(け)6七と、(こ)5三桂、(さ)6三金、などがある。
 これらを順に調べていこう。

5五角図1
 まず、(か)5五角。ソフト「激指」もこれを上位(1~4位)の候補手として推している。
 5五角には、3三歩と攻めていく手がある(次の図)

5五角図2
 これを放置するのでは後手勝てないので、後手の手は、「同銀」、「同角」、「同桂」のうちの三択。

5五角図3
 「同桂」の場合は、8五玉とするのが良い。入玉ねらいだ。
 8五玉の時に、3三桂と桂馬を跳ねさせた効果で、後手は6三金とできないのだ。(5一竜で後手困る)
 8五玉に、6二桂は、6三歩だ。
 したがって、8五玉に後手は9九角成くらいだが、7四玉、5五馬、6一飛で、次の図となる。

5五角図4
 先手玉の入玉はもう防げない。先手優勢。

5五角図5
 「3三同銀」の場合。4一桂成に、そこで“2二銀引”と、“2二銀上”とがある。
 “2二銀引”は、同成桂、同銀、4一飛でよい(次の図)

5五角図6
 以下、2二銀に、5三歩で、先手優勢。5三歩に6三金は、3二金、3一歩、5一竜で、後手玉は受けなしである。
 図で、9九角成、3一飛成、6六馬には警戒が必要だが、8三竜で、やはり先手が良い。

5五角図7
 “2二銀上”には、6一飛。この飛打ちは、後手の6三金をけん制したもの。
 2二銀上、6一飛、9九角成に、5三歩、同金、8五玉(次の図)

5五角図8
 このタイミングで、やはり入玉をめざす。ここで6二桂と打たせないために、5三歩と叩いておいた。
 図で7三香なら、8三竜でよい。
 図から5五馬、7四玉、8二香なら、7一銀で、やはり入玉できる。
 8二桂、同竜、5五馬なら、7三金、同馬、同竜、8四金、同竜、同歩、7四玉。
 いずれにせよ、先手玉の入玉は確定的である。先手良し。
 
5五角図9
 3三歩に、同角ならどうなるか。
 これには8五玉と入玉をめざす。後手6三金に、先手は8三竜。
 そこで7一桂があるが、6四歩という好手が用意されている(次の図)

5五角図10
 竜は取らせて、入玉を優先させるのである。
 ただし、図で6四同金なら、8一竜として、8三歩に、6一飛と打って、次に7一飛成からじっくり入玉体制をつくっていく。
 図から、9九角成、6三歩成、8三桂、7四玉、6二歩、8三玉(次の図)

5五角図11
 図以下、5五馬や6八飛なら、7三と。6三歩には、7一飛と打って、5五馬に、7三銀で入玉確定となり、先手優勢である。

 3三歩からの攻めと、入玉ねらいとを組み合わせる先手の手順が絶妙で、(か)5五角の変化は、先手優勢と結論する。


変化6七角図1
 (き)6七角を次に検討しよう。
 先手玉に7六角成からの“詰めろ”がかかっている。なので、先手は7五玉。
 以下は5六角成、6一飛と進みそう(次の図)

変化6七角図2
 ここでしかし6二桂という手があって、簡単には入玉させてはもらえない。

変化6七角図3
 だが、ここでも3三歩がある。先手玉は7四馬とされても、8六玉で、まだすぐには寄せられない。
 3三同銀、4一桂成、2二銀上、3四歩、同銀、3二金(次の図)

変化6七角図4
 3二金が“詰めろ”で、先手良し。
 以下、もう少し続けると、7四馬、8六玉、3一歩、同成桂、同銀、3三銀、6四馬、7五角(次の図)

変化6七角図5
 図以下、7五同馬、同玉、5三角、7六玉、2二桂、3一金、同角、3二銀打で、後手玉は“必至”。

変化6七角図6
 今の手順の途中、4一桂成に、“2二銀引”(図)の変化を見ていく。これは手強い。
 ここで3一成桂、同銀は、あとの指し手が難しい。では、どうするか。3三歩はあるが、6七とで、次の手がはっきりしない。8六玉が最善手かもしれない。形勢は先手が良さそうではあるが、実戦だと間違えやすい場面。
 ここは怖いが、5三歩で勝負に行って先手勝てるのではないか。その変化を研究したので以下、紹介する。
 5三歩には、6三金。先手は5一飛成(次の図) 

変化6七角図7
 これで先手玉が寄せられてしまったら、5三歩、6三金は、“やぶ蛇”だったことになるが…
 この図で7四金は、8六玉、6六馬、7六金で受けきれる。この順では後手の攻め駒が足らない。
 だから、図では、6四金と工夫する。以下、8六玉、6六馬(この時に7六金は今度は7四桂があるので無効)、9六玉、7五金、9一竜、7六馬、9五金、7四桂、8九香(次の図)

変化6七角図8
 これで受けきった。もう後手に攻める手がない。6七となら、3一成桂で先手勝ち。
 図で後手9四歩なら、同竜、同馬、同金、9五歩、同金、7六飛、8六銀、同桂、3一成桂、同銀、同竜、2二銀、3三角、9八桂成、8六歩で、先手勝ち。

変化6七角図9
 7四金や6四金では後手勝てないので、6七と(図)とする。
 ここで3一桂成は、同銀、同竜、6六馬、8六玉、7七馬、9六玉、8四桂で詰まされて先手負け。
 といって、9一竜も、6六馬、8六玉、7四金、9六玉、9九馬、9三竜、9五歩、同玉、6六馬で、先手悪い。
 しかし図で、先手に好手がある。

変化6七角図10
 「5二角」が好手である。これは“受け”の角なのだが、つまり図から、6六馬、8六玉、7四金と迫ってきた時に、7六金と受けて、この時に7六同馬、同玉、6六歩という寄せが嫌なのだが、そこで7四角成があるので、それは大丈夫というわけだ。もちろんこのままなら6三角成と金を取られるので、後手も攻めなければいけない。
 6六馬、8六玉に、7四桂で、どうか。
 以下は、9六玉に、9五歩が“詰めろ”だが、それを受けて8三竜(次の図)

変化6七角図11
 先手優勢。7五馬なら、9一竜で良い。

変化6七角図12
 「5二角」に、7四金。
 これには8六玉だが、そこで6六馬なら、7六金で受かる。(同馬、6六歩には、7四角成があるので先手良し。これは上でも述べた)
 6六馬、7六金に、9九馬と香車を取ってどうなるか。
 これには、3一成桂、同銀、7四角成とする(次の図) 

変化6七角図13
 後手の馬が9九に行ったので、この瞬間が入玉のチャンスなのだ。
 7四同桂に、7五玉として、入玉と、3一竜の攻めとの両ねらいで、先手の勝ち将棋。
 8四角が王手竜取りだが、7四玉、5一角、同竜、5五馬、6三玉で、入玉確定だ。

変化6七角図14
 少し戻って、6六馬、7六金の時に、“5五銀”(7六馬以下の詰めろ)という手があるが、それは―― 

変化6七角図15
 4三角成(図)で先手勝ちになる。“詰めろ逃れの詰めろ”である。

変化6七角図16
 ここまで見てきて、「5二角」が、7四金からの後手の攻めを受けきっていることが分かってきた。
 その攻めで、6六馬に代えて、“5五馬”と、後手が工夫してみたのがこの図である。6六馬だと7六金があったが、ここで7六金なら6六ととすればよい。
 3一成桂から、後手に桂馬を渡すと、7七馬、9六玉、8四桂からの詰みが先手玉に生じる。
 しかしそれでもここは3一成桂と行く。以下、同銀に、7四角成、同桂、8五玉(次の図)

変化6七角図17
 これで先手優勢。
 図で7三馬なら、2二銀から後手玉が詰む。(このために3一成桂、同銀としておいた)
 7三歩なら、どうなるか。3一竜、9四角、9五玉、2二馬、7五金(次の図)

変化6七角図18
 ここで後手に7六角という手がある。9四歩以下の、“詰めろ”だ。
 これには、2二竜、同玉、8三竜と対処して、やはり先手勝ちである。

変化6七角図19
 3一成桂に、7七馬。これも後手の狙い筋で、先手としても警戒しておくべき筋。
 9六玉に、3一銀と桂馬を取って、8四桂の一手詰の“詰めろ”が先手玉にかかった。
 先手はだから7四角成だが、8四桂、同馬、同歩。そこで先手は8六銀と受ける。
 後手は6三角。王手竜取り。

変化6七角図20
 この王手竜取りは先手も承知の上だ。7四歩(同角なら9五玉でよい)、9九馬、3一竜、8一角、3二金(次の図)

変化6七角図21
 これで先手の勝ちが確定した。
 9四香には9五桂と受けて、2二飛の受けには、3三歩。

 以上の検討により、(き)6七角は、先手良し、と結論される。


図8(再掲)
  (か)5五角 → 先手優勢
  (き)6七角 → 先手優勢
  (く)3三歩 
  (け)6七と 
  (こ)5三金
  (さ)6三金

      part51につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part49 ≪亜空間の旅≫

2015年10月18日 | しょうぎ
≪月5一歩図≫


≪月の基本図≫
  (猪)3一銀  →後手勝ち
  (鹿)2五玉  →後手勝ち
  (蝶)4五玉  →後手勝ち
  (蛙)4一桂成  →後手勝ち
  (燕)9一竜  →後手勝ち
  (雁)6四角  →後手勝ち
  (鶴)7七角  →後手勝ち
  (鶯)3三歩  → 後手勝ち

 ここから、先手の勝ち筋を見つけることが、我々(終盤探検隊)の≪亜空間≫からの脱出のための条件である。
 前回までは、この図で“8番目の手”(鶯)3三歩が、窮地に陥っている我々を救ってくれることを期待して調査した手だったが、願い叶わず、その手もやはり「後手勝ち」となった。

 別の手を探そう。
 この≪月の基本図≫から、(猪)3一銀とする。対して後手は5一歩。

≪月5一歩図≫
 それでこの図になる。
 我々は、ここで当然のように「2二銀成」としたのだが、この手を疑ってみよう。
 ここで「2二銀成」以外の手はないのか、ということである。 “その手”とは?


 ちなみに、ソフト「激指13」の「2二銀成」の評価値は、「 -168 (互角) 」で、やはりこれをこの図での最善手と見ている。
 我々がこれから調べようという“その手”の評価は4番目で、評価値は「 -738 (後手有利) 」である。
                 (考慮時間は10分)

 ソフトが正しいとは限らない。ソフト4番目の手が、実は真の最善手ということだってあるのである。

         part50につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part48 ≪亜空間の旅≫

2015年10月17日 | しょうぎ
≪月4一桂成図≫
 この局面が「先手勝ち」なら、ずっと苦戦を続けてきた≪亜空間の旅≫は、先手勝利でハッピーエンドとなるが――さて、結果は?

     [ぬばたまの]
 あかねさす日は照らせれどぬばたまの夜渡る月の隠らく惜しも
                         (『万葉集』より 柿本人麻呂作)
 


3三歩図
  [A]3三同銀左  → 先手勝ち
  [B]3三同銀直
  [C]4二桂    → 先手勝ち
  [D]5三金    → 先手勝ち
  [E]3一歩    → 先手勝ち

 今、[B]3三同銀直の変化を調べているところ。これが「先手勝ち」なら、≪亜空間戦争≫は先手勝利で確定となる。(今までの結論はひっくり返るのである)

図1
 この図から、3三同銀直、2五玉、5一歩。
 そこで、先手、3二銀や3二歩、または3四歩などの手は先手勝てないと前回調べてわかった。
 そこで「4一桂成」としたのが次の図。

図2
 さあ、この図である。この図が「先手勝ち」なら、≪亜空間の旅≫はめでたく終わる。
 先手は「飛角角金銀歩歩」と持駒があり、後手陣には3二にスキができている。後手の持駒は桂と歩だけ――先手が勝てそうではある。
 ただ、手番は後手である。後手の候補手は次の通り。
  〔ナ〕3四桂
  〔ニ〕3一歩
  〔ヌ〕4八と
  〔ネ〕5八と


〔ナ〕3四桂

変化A図1
 〔ナ〕3四桂から調べよう。
 先手は1五歩。この3四桂と1五歩の一手ずつの交換がどう出るか。
 そこで後手が5八と。金を取りにきた。
 先手は3二銀(それがこの図)
 ここで3一歩なら、同成桂、同銀、同銀成で、後手は次に金を取って「金桂」と手駒を持つことになるが、それでも先手玉は詰まないので先手良しの変化になる。この変化は「3四桂、1五歩」の交換が先手に有利にはたらいた。
 したがって、後手は5九と(金を取った)とするが―― 

変化A図2
 そこで先手は6四角(図)
 これは先手優勢。

変化A図3
 少し戻って、後手5八との手に代えて、3一歩と指したのがこの図。3二銀と打たせない、というわけだ。
 ここは3二歩と、3五歩とが有力手。どちらも「先手良し」になるというのが、我々の検討結果だ。
 ここでは3五歩を紹介しておこう。
 3五歩、2四歩、1六玉、3五銀、8五飛(次の図)

変化A図3
 3六銀、3五歩、4六桂、5四角、2五銀、1七玉、1四歩、2六歩(次の図)
 (3六銀に代えて4四銀引の変化は、3五歩、4六桂、8六角以下先手良し)

変化A図4
 1五歩、2五歩、3八桂成、3一成桂、同銀、1三歩(次の図)

変化A図5
 この変化は後手の「2三」の空間が弱点になっている。
 図で1三同香は、2三銀、1六歩、2六玉、2五歩、同玉、1二桂、4五角、3四歩、同歩、2四銀、2六玉で、先手玉も危なく見えるが、後手の後続手がなく、先手優勢である。
 図以下、1三同桂には、2三銀、2九成桂、4五角で次の図となる。

変化A図6
 先手優勢。

 以上、〔ナ〕3四桂は先手勝ちと結論する。


〔ニ〕3一歩

変化B図1
 3一歩は、あらかじめ後手のキズ(3二の空間)を消した手。
 しかしこれには、3二歩が好手。同歩に、2六玉(次の図)

変化B図2
 2六玉は、次に3四歩とするつもりだ。
 ここで後手は4八とか、3七桂が有力だが、どちらにしても、3四歩、同銀、3一銀と先手は指す(次の図)

変化B図3
 これで先手勝ち。3一銀は“詰めろ”で、後手は適当な受けがない。
 3一同銀、同成桂、3五銀上、1七玉、2五桂、1八玉、3八金と迫っても、2一成桂、同玉、4一飛、3一桂、2二銀、同玉、1一角、同玉、3一飛成で“詰み”。


〔ヌ〕4八と

 ここまでは先手にとって順調に勝ちとなった。
 しかしヤマはこの〔ヌ〕4八との変化である。この手が後手の本命なのだ。

変化C図1
 〔ヌ〕4八とに、同金はなさそうだ。
 ここはどうやら<a>2六玉か、<b>6八金の二択である。というのは、それ以外の手――たとえば3二歩――だと、2四銀、2六玉、2五桂で先手玉が一気に攻略されてしまうからだ。もう3一歩成が間に合う展開にはならないまま、先手が負けてしまう。
 しかし、<a>2六玉も、先手にとってうれしい結果にはならないようだ。

変化C図2
 <a>2六玉に、5九とでこの図。
 ここで先手に手番がきたが、3二銀や3二金は3一歩とされて、先手が悪い。3一歩に同成桂から後手に桂馬を渡すと、3四桂、1七玉、2五桂と攻められるのだ。
 だから他の候補手――3二歩や3四歩や8六角など――になるが、それには後手“2五桂”があるのだ。
 8六角、2五桂の展開でその内容を確認しておこう。

変化C図3
 先手の8六角は、この手自体はなかなか有力な手である。対して後手3八金なら、3五歩としていい勝負である。しかし“2五桂”で、先手いけない。
 これで先手玉は3五金までの一手詰。3六歩とすると3七桂成で先手敗勢。
 そこで3六銀としてみる(3七桂成に4七銀とするつもり)が、後手は3四銀。この3四銀は、2四銀だと3二飛がある(それでも後手勝ちだが)ので、3四に上がったのだが、これで後手の穴熊玉はうすくなる。しかし後手は、先手玉を“詰めろの連続”で仕留めるつもりなのだ。
 先手6五飛に、3七金(次の図) 

変化C図4
 以下、2五銀、同銀、同飛、3六金打、1七玉、2八銀、1八玉、2九銀不成、同玉、2七金上(次の図)

変化C図5
 8六の角が働かないままに、先手玉は捕まってしまった。

 このように、<a>2六玉では先手が勝てない。

変化C図6 6八金
 したがって、後手の4八とには、<b>6八金(図)が先手の最善と目される。
 金を渡さない、という手だ。
 ここで後手3八となら、3二銀で先手有望となる。しかしその銀打ちを打たせない「3一歩」(次の図)が、今度は後手の最善手と思われる。

変化C図7
 さあ、勝負どころだ。ここを勝てば、≪亜空間戦争≫は先手の勝利となる。
 ここで先手はどう攻めていくか、それが問題だ。
 〔w〕3二歩はどうか。同歩に、3四歩、2四銀、2六玉、3八と、6六角、4四桂(次の図)

変化C図8
 どうもここからうまい攻めがないようだ。


変化C図9
 〔x〕5三歩ならどうだ。同金、5一竜、4四金、2六玉、3五金、1七玉、2五桂、1八玉、3七銀打、3一成桂、同銀、3八と(次の図) 

変化C図10
 3三角成には、2二桂で、後手玉に詰みはない。どうやら後手の攻めが一歩早いようだ。
 〔x〕5三歩も先手勝てなかった。


変化C図11
 では、〔y〕6四角。
 これには後手一旦6三歩と打つ。先手は8六角。
 そこで後手がどうするかだが、2四銀、2六玉、3五銀引、1七玉、3七桂、7七角、4四歩、3一成桂(次の図) 

変化C図12
 やった! これは先手優勢。この変化は有望だとわかった。
 しかし、この手順で後手が変化する場合をすべて調べなければ“確定”とは言えない。

変化C図13
 〔y〕6四角に、6三歩、8六角に、“4二桂”と受けたのがこの図。
 5三歩と攻略するのがぴったりに見える。5三歩、3八と、5二歩成、2四銀、2六玉、3四桂、1七玉、2九と(次の図)

変化C図14
 この図は、先手の負け。〔y〕6四角は有力だったが、“4二桂”と受けられて後手優勢。
 それが結論である。


変化C図15
 〔z〕5一成桂。 これも有力で期待できる手である。
 5一成桂以下、同金、同竜、3八と、6二飛が予想される手順(次の図)

変化C図16
 ここで2九となら、先手良しになる。
 2九と、3六玉、4四歩、6五角で、次の図となるが、2九とに3六玉が好手である。3六玉は次に4五玉からの入玉が狙いだが、それを防ぐにはこの場合は4四歩しかない(5三桂は同竜)

変化C図17
 4四歩と後手がこの歩を突けば、図の6五角がある。これは2一角成以下の“詰めろ”であり、4七の金取りになっている。
 3二桂、4七角、3四桂、2九角、4五桂(詰めろ)、3八歩で、先手優勢。
 また、図で2四桂、2五玉、3二桂には、3四歩でやはり先手良し。

変化C図18
 6二飛と打った「変化C図16」に戻って、そこでこの図のように、「4二桂」がおそらく後手の最善手。
 これが好手で、どうもここで良い手がない。(3二桂なら6四角で先手もチャンスがありそうだったが…)
 図で先手3二歩なら、2四銀、2六玉、3四桂、1七玉、2五桂、1八玉、3七銀成で、後手勝ち。
 代えて先手6四角には、後手は2九とで桂馬をとり、これが2四銀、2六玉、3四桂、1七玉、2五桂、1八玉、2六桂打以下の“詰めろ”である。
 「5三角」と打ってみる。以下、2四銀、2六玉、2九と(次の図)

変化C図19
 今度は、3七銀不成からの“詰めろ”。後手には桂馬と歩しかないが、この図は先手に適当な受けがなく、後手勝ちといってよい局面のようだ。先手の大駒(飛角)が「4二桂」の一枚の桂馬で止められてしまっている。
 〔z〕5一成桂も先手勝てない。

 残念ながら、「変化C図7」からの先手の後手陣(亜空間要塞)の攻略手段が見えず、先手勝利は掴めなかった。
 「変化C図7」(4一桂成に3一歩の局面)はすでに先手負けと考えるしかない。


〔ネ〕5八と

変化E図1
 〔ヌ〕4八とで後手勝ちと確定したので、〔ネ〕5八とを調べる意味はなくなったのだが、一応我々の調査した“感触”を述べておくと、〔ネ〕5八とには、同金、同金、2六玉が、先手の最善手順。
 しかしそこで4八金が、好手(次の図)

変化E図2
 ここから、先手がどう指すか、というのが課題である。ここで良い手があれば――というところだが、3二歩が有力手だが、これはわずかに届かなかった。
 代えて3四歩が良さそうに思える。同銀なら6六角があるので、3四歩には後手は3八金。そこで(3三歩成は後手良しだが)4五金とすれば、その局面は先手が良いのでは――? というのが我々の今のところの“感触”。



 “先手の勝ち筋”がみつからない。困った…

 だが、まだ“希望”はある。

 
図3
 局面を前に戻す。
 ここで【一】4一桂成としたのであるが、〔ヌ〕4八とで、先手の勝ちが発見できなかった。この桂成は甘かったのかもしれない。
 では、【二】2六玉ならどうだろうか。

変化D図1
 この手には、3七桂(次の図)が筋の攻め。 

変化D図2
 3七桂を同桂は、同銀不成で先手はっきり悪い。そして次に2九桂成とした手が先手玉への“詰めろ”になる。
 先手は攻める。3四歩、同銀、3二飛、3五銀上、1七玉、2九桂成、3四銀(次の図)

変化D図3
 3一歩、2二飛成、同玉、4一角(次の図)

変化D図4
 穴熊玉を引っ張りだすことに成功したが、さて、形勢はどうだろう。
 図の4一角は2三角成からの“詰めろ”。 先手玉は3四の銀がいなかったら2五桂で詰まされているところだ。ギリギリの終盤である。
 4一角に、3二桂なら、先手が勝つ。(6六角、4四歩、5二角成で。6六角に4四銀なら、2四銀で。)
 しかしここでは2四飛という受けがあり、それよりもさらに鮮やかな手が後手にある。2六銀だ。
 2六銀に同歩は、3七飛~3四飛成。なので、2六同玉とするが――

変化D図5
 2四飛。
 これに2五銀打なら、同飛で詰む。2五金なら詰まないが、3七銀不成、1七玉、3四飛で、後手勝ちだ。
 
 この変化は惜しかったが、結局これも後手勝ちとなった。


変化D図6
 飛車を打つところで、8八角と打ってみる。これは2二角成以下“詰めろ”。
 これを3三歩の受けなら、3二金で先手が勝てる。また3五銀上、1七玉、4四歩と受けるのは、3二金で、先手がやれそう(以下3一歩、2一金、同玉、6五角、3二金、2五桂で、次に3三歩を狙う)
 しかし、8八角に、3一歩という受けがある。これなら2二角成では詰まない。
 以下、6六角打に、3五銀上、1七玉、4四歩。そこで先手は3七桂、同金、3四桂(次の図)

変化D図7
 2五桂、1八玉、3三銀、4一飛、3八歩(次の図)

変化D図8
 この3八歩は、放置すると先手玉は2七金、同玉、3七銀成、1八玉、2六桂以下詰んでしまうので、それを受けたものだが、3八同金なら、“詰めろ”が解除されるので、3一飛成で先手が勝てる。
 また、2六桂、同歩、同銀は、4四角がある。(後手玉は詰み)
 しかしこの図では“4七と”が後手の正着。これも“詰めろ”である。
 よって3七歩と金を取るが、同銀成。まだ“詰めろ”は解除されていない。先手3九金と受ける。
 しかし――

変化D図9
 5三金(図)。 桂馬をもう一枚補充して、これまた“詰めろ”である。詰め手順は、2七成銀、同玉、3七と、1八玉、2六桂、2九玉、1七桂打、同香、同桂不成、1九玉、1八香まで。
 後手勝ち。

 以上の検討により、【二】2六玉、これも「後手勝ち」と結論が出た。

 
 結局、(鶯)3三歩は、[B]3三同銀直で、先手が勝てないようだ。 


【まとめ】

3三歩図
  [A]3三同銀左  → 先手勝ち
  [B]3三同銀直  → 後手勝ち
  [C]4二桂    → 先手勝ち
  [D]5三金    → 先手勝ち
  [E]3一歩    → 先手勝ち

 (鶯)3三歩(図)でも、勝てなかった。ここで後手が[B]3三同銀直を選べば後手が勝ちになるようだ。
 この一手前に図面を戻すと―――


≪月の基本図≫
  (猪)3一銀  →後手勝ち
  (鹿)2五玉  →後手勝ち
  (蝶)4五玉  →後手勝ち
  (蛙)4一桂成  →後手勝ち
  (燕)9一竜  →後手勝ち
  (雁)6四角  →後手勝ち
  (鶴)7七角  →後手勝ち
  (鶯)3三歩  → 後手勝ち

 つまり、こういう結果なる。 我々の苦行はまだ続く…

      part49につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part47 ≪亜空間の旅≫

2015年10月16日 | しょうぎ
≪月3三歩図≫

 “8番目の手”は、(鶯)3三歩。 玉自らが“頭突き”で攻める凄い手だ。


    [ぬばたまの]
 ぬばたまの夜渡る月をおもしろみ吾が居る袖に露ぞ置きにける
                          (『万葉集』より 作者不詳)



≪月の基本図≫
  (猪)3一銀  →後手勝ち
  (鹿)2五玉  →後手勝ち
  (蝶)4五玉  →後手勝ち
  (蛙)4一桂成  →後手勝ち
  (燕)9一竜  →後手勝ち
  (雁)6四角  →後手勝ち
  (鶴)7七角  →後手勝ち

 ここで“8番目の手”、(鶯)3三歩があった。
 これで先手が勝てるだろうか。

≪月3三歩図≫
 この(鶯)3三歩は、「激指13」もちらちらと候補手には示すことがあったが、それよりも(猪)3一銀や(蛙)4一桂成、(雁)6四角などが有力と見られていて、我々も調査を怠っていたのである。
 だが、あらためて調べてみると、これは相当に有力である。軽視してきたのが間違いだった。
 この手は、もしかすると、先手を勝たせたい我々(終盤探検隊)にとっての救世主となるかもしれない! そういう重要な手になってきたのである。
 面白い物語にありがちな、「重要ではないと思っていたキャラクターが最後にヒーローになる」という展開だ。素晴らしい!!! (うまくいけば、だが。あわてるな、ここは冷静になろう)

 ここで3三歩と打つ意味は、後手に同銀(直または左)と取らせて、後手の陣形を乱すということである。

 さて、後手のこの図での候補手は、次の5つが考えられる。
  [A]3三同銀左
  [B]3三同銀直
  [C]4二桂
  [D]5三金
  [E]3一歩

 我々は、「先手勝利」を勝ち取るために、この5つの手すべてを撃破していかなければならない。


[A]3三同銀左

 まず、この手から。

3三同銀左図1
 [A]3三同銀左、2五玉、5一歩、3一飛(次の図)

3三同銀左図2
 ここで2二玉だと、詰んでしまう。その手順を確認しておくと、2二玉、3二飛成、同玉、4一銀、2二玉、3二金、1一玉、2二銀、同銀、同金、同玉、3一銀、同玉、3二歩(次の図)

3三同銀左図3
 二枚の角を最後まで残しておくのがポイントで、図以下は、4二玉に3一角、3三玉、2二角打で“詰み”となる。

3三同銀左図4
 そういうわけで、先手3一飛には、(銀を取らせないとすれば)4二金しかない。

3三同銀左図5
 そこで3四歩と打つ。
 これには「2四銀」と「2二銀」とがあるが、先手としては「2四銀」が怖いところである。
 「2四銀」以下は、2六玉、2五桂と進む。これで先手玉に“詰めろ”がかかった。
 ここで先手は7七角。王手。
 後手は3三歩と受けるが、そこで2二角と捨てて、同玉に、2一飛成(次の図)

3三同銀左図6
 後手玉は詰んでいたのだ。(2二角と捨ててから、2一飛成が素晴らしいところで、これを単に2一飛成だと同銀で詰まないところだった)
 図以下は、同玉なら、2二銀、同玉、3三歩成、同銀、3四桂以下簡単。したがって2一同銀だが、それも3三歩成、同銀、3四桂、3一玉、5一竜(次の図)

3三同銀左図7
 “詰み”である。

3三同銀左図8
 よって、3四歩に「2二銀」と引く。
 これには5一飛成。以下、3一歩には、4二竜、5八と、3三銀(次の図)

3三同銀左図9
 これは先手の勝ちになっている。3三同銀直には、3二銀と打つ(次の図)

3三同銀左図10
 以下、4二銀に、2一銀成、同玉、3二角、同玉、4一角、3三玉、2五桂、4四玉、4五金、5三玉、5四金まで“詰み”。

 [A]3三同銀左は「先手勝ち」。


 次は[B]3三同銀直の番だが、これはややこしい変化が多いので後回しにして、飛ばして、[C]4二桂以下から先に見ていこう。 

[C]4二桂

4二桂図1
 [C]4二桂は、2五玉、3三銀左と進む。
 3三銀左のところを3三銀直だと、2一竜から詰んでしまうのでこれはほぼ必然の手順である。

4二桂図2
 3三銀左には、3一飛(図)。
 「先手優勢」である。


[D]5三金

5三金図1
 [D]5三金は、桂馬を入手しながら、次に4四金までの先手玉への“詰めろ”になっている。それだけをみれば好手だが、後手玉は一気にうすくなる。
 5三金、2五玉、4四金、1五歩、3五金、1六玉、3三銀直、5一飛、3一歩、3二金(次の図)

5三金図2
 この3二金は2一金以下の“詰めろ”であり、受けもない。
 「先手勝ち」である。


[E]3一歩

3一歩図1
 [E]3一歩と受ける手。以下、3二歩成、同歩。銀を取らせて、それでどうかという手。
 そこで、先手3一銀(次の図) 

3一歩図2
 図の3一銀は“詰めろ”である。
 これに3三銀は、2三玉と、ここに突進する。以下、2二歩には、3二玉で、もう先手玉は捕まらない。これは先手優勢。
 なので、3一銀に、同銀としてみよう。それもしかし、同竜で、2二銀の受けなら、同竜、同玉、3一銀、同玉、4一飛以下“詰み”。
 よって、3一銀、同銀、同竜に、3三銀とするが――

3一歩図3
 はやり2三玉で、「先手勝ち」となる。


≪月3三歩図≫(再掲)
  [A]3三同銀左  → 先手勝ち
  [B]3三同銀直
  [C]4二桂    → 先手勝ち
  [D]5三金    → 先手勝ち
  [E]3一歩    → 先手勝ち

 先手好調だ。いよいよ待望の「先手勝利」が見えてきたか。
 あとは[B]3三同銀直だけである。


[B]3三同銀直

 だが、この[B]3三同銀直の変化が広く難しいのだ。

3三同銀直図1
 [B]3三同銀直には、2五玉。
 後手は5一歩と受けるのが最善だろう。それで次の図となる。

3三同銀直図2
 ここで先手の手番がきた。さあ、どう指すか。次の5つが考えられる候補手である。
 【一】4一桂成、【二】2六玉、【三】3二銀、【四】3二歩、【五】3四歩

 有力手は【一】4一桂成と【二】2六玉である。
 あとの3つははっきり先手が勝てないようだが、まずはそれを確認しておこう。

3三同銀直図3
 【三】3二銀(図)。 これは3一歩と打たれる。以下2一銀成、同玉(次の図)

3三同銀直図4
 銀を早く渡してしまったので、次に後手から2四銀、2六玉、3七銀打という攻めが生じて、後手良し。1五歩としても、2四銀、1六玉、1四歩で、先手勝てない。
 先手の【三】3二銀は、3一歩で逆用されてしまうのだ。3二銀は先手の狙い筋ではあるのだが、この場合はタイミングが早すぎるようである。

3三同銀直図5
 それなら、【四】3二歩(図)はどうか。
 後手は5八と。以下、3一歩成、同銀、4一桂成、5九と(次の図)

3三同銀直図6
 後手は5九とで金を入手した。これで先手玉に3五金の一手詰が生じているので、それを回避しなければならない。「2六玉」と、「1五歩」が考えられる。
 「2六玉」には、後手2二銀上とする。
 そこで先手3二銀なら、3一歩と打って、同成桂、同銀不成(または成)となるが、その時に後手は「金桂桂」と持っているので、3四桂、1七玉、2五桂、1八玉、3八金と先手玉を追いこんで、後手優勢。
 だから後手の2二銀上に、7七角と打ってみよう。それには、後手3六歩(次の図)

3三同銀直図7
 次に3七歩成とした手が“詰めろ”であるが、それよりも早い攻めが先手にあれば、先手も有望な局面である。が、残念ながら、後手玉に“詰めろ”をかける手がない。3二金と打っても、“詰めろ”ではないので、3七歩成で先手負けである。

3三同銀直図8
 「2六玉」では勝てないとわかったので、それなら「1五歩」(図)ならどうか。
 これには、後手は3二銀とする。(2二銀よりもこの場合は優る)
 以下、3一成桂、2四銀、2六玉(1六玉には1四歩がある)、3五銀上、1七玉、2五桂、1八玉、3八金(次の図)

3三同銀直図9
 こうなって、後手優勢。
 6六角、4四歩、3九金と頑張ってみても、2九金という手がある。以下、同玉に、3七桂打、2八玉、4九桂成(次の図)

3三同銀直図10
 以下、3八歩に、3九成桂、同玉、3七歩で、後手勝ち。

3三同銀直図11
 
 【五】3四歩と打つ手。
 これには、後手は2四銀。以下、2六玉に、2五桂。これは次に3五銀引までの一手詰なので、先手は3六金と受ける(次の図)

 3三同銀直図12
 ここで5三金と桂馬を取った手がまた“詰めろ”(1四桂の一手詰。1五歩と受ける手には4四金と出る)
 5三金以下、2五金、同銀、1七玉、3六銀(次の図)

3三同銀直図13
 この3六銀で、また先手玉に“詰めろ”がかかっている(2五桂、1八玉、2七銀成以下)
 2六銀とこれを受けて、3五桂には、3九桂と受けてみる。
 後手はそこで3八歩(次の図)

3三同銀直図14
 この3八歩が間に合うのだ。次に3九歩成となれば先手はもう受けようがないので、攻めるしかないが、5一竜としても、3二角としても、後手玉は詰めろにはなっていない。
 よって、後手勝ち。

 以上のように、【三】3二銀、【四】3二歩、【五】3四歩は、「後手勝ち」とわかった。

3三同銀直図2(再掲)
 この図では、やはり、【一】4一桂成と指したいところである(次の図)

3三同銀直図15
 さあこれで、先手勝てるか?

 この図が「先手勝ち」なら、≪亜空間戦争≫は、我々の大逆転勝利となる。


          part48につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part46 ≪亜空間の旅≫

2015年10月15日 | しょうぎ
≪月の基本図≫


 ≪月の基本図≫は、先手の手番である。
 頑張ってきたが、今のところ、先手の勝てる道がまだ見つかっていない。
   (猪)3一銀  →後手勝ち
   (鹿)2五玉  →後手勝ち
   (蝶)4五玉  →後手勝ち
   (蛙)4一桂成  →後手勝ち
   (燕)9一竜  →後手勝ち
   (雁)6四角  →後手勝ち
   (鶴)7七角  →後手勝ち

 しかし我々(終盤探検隊)は、“8番目の手”に期待している。
 さて、その“8番目の手”とは?

                          part47につづく





 参考までに、ソフト「激指13」にこの図での候補手を聞くと、次のような結果になった。

  最善手 ▲3一銀  (評価値 -47)
  次善手 ▲6六角  (同 -442)
  3   ▲8六角  (同 -445)
  4   ▲4一桂成 (同 -475)
  5   ▲6四角  (同 -491)
  6   ▲8八角  (同 -504)
  7   ▲2五玉  (同 -527)
  8   ▲7七角  (同 -531)
  9   ▲7五角  (同 -564)
  10  ▲8二竜  (同 -741)
 
 これは8分考慮した途中結果。
 考慮時間10分過ぎになると、「激指」は、候補手を、「▲3一銀 (評価値 -47)」で一本化するため、その他の候補手はもう示さなくなった。また、途中結果は、なぜか調べるたびに別の結果となっている。毎度同じではない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part45 ≪亜空間の旅≫

2015年10月14日 | しょうぎ
 ≪亜空間入口図≫

     [月な見給ひそ]
 翁、
「月な見給ひそ。これを見給へば、物思す気色はあるぞ」
と言へば、
「いかで月を見ではあらむ」
とて、なほ月出づれば、出で居つつ嘆き思へり。夕闇には、物を思わぬ気色なり。月の程になりぬれば、なほ時々はうち嘆き、泣きなどす。
                             (『竹取物語』より)


 月を眺め続けることは危険だ、と日本最古のこの物語は言っている。



山田久美-甲斐智美
 昨年2014年11月に行われた倉敷藤花戦三番勝負の第1局、その93手目までの局面。
 実戦では、後手山田女流が次に3五飛成と指し、先手甲斐女流が5四玉と逃げ、以下入玉して甲斐智美が勝利した。そして三番勝負は2-1で甲斐女流が「倉敷藤花位」を防衛する結果となった。
 我々終盤探検隊は、ここで「 3四飛成 」という変化を研究探査することにした。この冒険を我々は≪亜空間≫と名付けた。
 思えば、“≪亜空間≫と名付けた”このワル乗りがまずかったのである。我々は≪亜空間≫から脱出できなくなってしまった。
 脱出のための条件は、「先手の勝ち筋を見つけること」である。

 しかし、残念ながら、この「 3四飛成 」以下の変化、我々の研究では、「後手優勢」という結論が出てしまった。

≪亜空間3四同玉図≫
 前の図より、3四飛成、同玉で、この図である。
 ここで4つの道がある。 後手の手番だが、
  〔花〕3三桂
  〔鳥〕4二桂
  〔風〕4二金
  〔月〕5二金
 この4つの道である。
 我々終盤探検隊の結論としては、〔花〕〔鳥〕〔風〕は先手勝ち。
 しかし〔月〕5二金で、「後手勝ち」である。この手の選択権は後手にあるので、「後手勝ち」が結論となるのである。


〔花〕3三桂


 〔花〕3三桂は、後手の第1のねらいは4二桂(一手詰めだ!)と打つこと。
 それは4一桂成ですぐ防がれるが、そこで3一銀(図)と銀を引く。
 今度は2二桂のねらいができた。ここで3一成桂なら、2二桂(4二桂)で先手玉は“詰み”というわけである。


 ところが、そこで2一金という手が先手にある。
 これで「先手勝ち」。

〔鳥〕4二桂

 〔鳥〕4二桂は、有力な手。しかし正確に指せば先手が優勢のようである。
 4二桂に、2五玉、5八とと進む(次の図)


 研究の結果、ここで4一桂成としたくなるが、それだと先手の勝ちがはっきりしない。(形勢不明)
 正着はいったん5八同金である。
 以下、同金、2六玉、3四桂、1七玉、3三歩、同銀、3一金(次の図)


 これで「先手勝ち」。
 5八同金が、敵の金を5八とそっぽに行かせることで、後手の攻めを遅らせる効果となっている。そして3三歩がうまい攻めだった。


〔風〕4二金

 〔風〕4二金は(先手にとって)手強い手。
 しかし研究探査の結果は、この4二金には、3一銀(次の図)で先手が勝てる。


 この3一銀(図)には、3三銀直が一番有力な手だが、それには4五玉(次の図)と逃げて、入玉をねらう。


 そこで5三金で先手負けのようだが、金が上がったその瞬間に、2二銀成、同銀、2一竜以下、後手玉に“詰み”があるのだった。
 図で4四銀や6二桂という手もあるが、それも先手勝ちになる。

 「〔風〕4二金は3一銀で先手勝ち」が結論。


〔月〕5二金

 問題の〔月〕5二金。
 これがどうやら先手の勝ち筋がなく、「後手勝ち」という結論となっている。

 が、我々はこれをなんとか「先手勝ち」にひっくり返して、≪亜空間の旅≫を終わりにしたい。
 ≪亜空間≫は特殊空間で、実戦の将棋と違って、何度でもやり直しのきく世界である。とはいえ、実戦の93手目以前に戻ることはできない。本当に≪亜空間入口図≫(3四飛成)が後手勝ちなら、それは後手勝ちで動かない。
 しかし上の結論を下したのは、我々自身である。我々の結論が間違っていたという可能性もあるではないか。
 とうわけで、我々終盤探検隊は、“勝利”のために、自分たちのこれまでの調査の“穴”を見つけるために、再調査をしたいと思うのである。
 その望みはいくらかある、と感じている。

 問題は、〔月〕5二金、“月の道”なのだ。

≪月の基本図≫
 この図の〔月〕5二金がその“月の道”への入口である。
 この5二金は、5一歩の“底歩”を用意した手である。
 これまで調査してきた結果は次の通り。
  (猪)3一銀  →後手勝ち
  (鹿)2五玉  →後手勝ち
  (蝶)4五玉  →後手勝ち
  (蛙)4一桂成  →後手勝ち
  (燕)9一竜  →後手勝ち
  (雁)6四角  →後手勝ち
  (鶴)7七角  →後手勝ち

 ご覧の通り、ずらりと「後手勝ち」の結果が並んでいる。
 (猪)3一銀が最有力手だが、しかし5一歩で、以下の調査結果は「後手勝ち」である。

 ここではこの7つの手を調べてきたが、これ以外にもう手はないのだろうか

≪月5一歩図≫
 上の図から、(猪)3一銀、5一歩と進んだところ。
 以下、2二銀成、同玉(次の図)として、その図を徹底調査してきたが、この図で、2二銀成以外の手はないのだろうか。これはまだ、調べていない変化である。

≪月2二玉図≫
 〔一〕4一銀  → 後手勝ち
 〔二〕2五玉  → 後手勝ち
 〔三〕6六角  → 後手勝ち
 〔四〕4五玉  → 後手勝ち
 〔五〕7三歩成 → 後手勝ち
 〔六〕9一竜  → 後手勝ち
 〔七〕8二飛  → 後手勝ち
 〔八〕6四角  → 後手勝ち
 〔九〕3三歩  → 後手勝ち
 〔十〕4二歩  → 後手勝ち
 〔十一〕4二銀  → 後手勝ち

 そして、この図。 もう一度この図を調べる価値があるかどうか。
 我々の調査に穴はなかったか?

 とにかく、我々が≪亜空間戦争≫で“逆転勝利”するためには、どこかで「後手勝ち→先手勝ち」と、結論をひっくり返すしかないのである。


             part46につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part44 升田幸三 “南海の月”

2015年10月04日 | しょうぎ
 1946年「升田幸三-木村義雄戦」。 「木村・升田五番勝負」の第3局、104手目の図。
 戦時中、南海の島で「月が連絡してくれるなら~」と願った升田の望みが叶い、升田幸三は生きて日本に帰り、名人木村義雄との対局が実現した。

     [なにしやがるんでえ]
 番付将棋の決勝が昭和十八年、そのすこしあとに、こんなことがありました。
 大阪の掘抜(ほりぬき)芳太郎という、将棋好きのメリヤス職人がおった。阪田三吉さんの弟子の藤内金吾さんと親しかったんですが、この人が目抜き帽子というのを発明した。頭からすっぽりかぶり、目のところだけあいとるやつです。外国の銀行強盗とか、そうそう、プロレスの悪役がよくかぶっとる覆面みたいなもんですな、これが掘抜帽子と呼ばれて大当たりし、シルクハットの流行などもあって大儲けをした。
 成金がまず考えることといえば、豪勢な家を手に入れると相場が決まっておる。掘抜ダンナもご多分にもれず、六甲山にある下村海南の別宅を買い取った。家には芭蕉の句碑があり――(中略)――将棋指しでは藤内さんのほか、木村さんと私も招待された。
 玄関を入ると、せまいくり抜き廊下がある。木村さんのあとを私が歩くんですが、和服姿の木村さんは、例によって状態をそらせ、もったいぶってゆったりと歩く。
「なにを格好つけやがって」
 と、内心で舌打ちしとったら、うしろから軍人さんがやってきた。軍人さんだから歩くのが早い。だが前が木村さんで詰まっておる。追いついた軍人さんは、私の背にくっつくようにし、いらいらしとるのが手に取るようにわかるんだが、木村さんは知らん顔。いよいよそっくり返ってソロリ、ソロリと行く。
 やがて小さな太鼓橋にさしかかった。階段をのぼるのに、木村さんがあんどんバカマをたくし上げ、くだりにかかって手を離す。ハカマのスソが、階段を引きずるようになる。それを見た私は、エイッとばかりスソを踏んづけた。ヨロヨロッとよろけた木村さんが、キッとなって振り向いた。
「なにしやがるんでえ」
 顔にそう書いてあったが、私は天井を見上げて知らんぷりです。私の背後にはいら立った軍人さんの顔がある。それで木村さんも気がついたとみえ、そっくり返るのをやめて足を早めた。
                              (『名人に香車を引いた男』から)


 升田幸三は、1941年から1945年までの6年間の間、将棋が指せたのは1年間だけである。軍務に就いていた期間はおよそ5年間。弟弟子の5歳年下の大山康晴ほ軍務はおそらくは1年くらいのものである。そうしてみると升田幸三は、戦争でいちばん損をした将棋指しなのかもしれない。
 もし戦争がなければ、20代の升田幸三は木村名人を倒して天下を獲っていたのではないか。
 ただ、20代で名人になったとしても、升田幸三の性質と将棋と体力は、名人位を何年も維持することには向いていなかった気はする。
 だが、なにはともあれ、戦争を生き延びた。生きていれば、将棋が指せる。

〔 太平洋戦争が終わり、私は南洋の孤島ポナペから、やせ衰えた姿で帰国した。よく生きて帰れたと思う。とにかく、将棋を指せるようになったのはうれしかった。もちろん食っていくのは大変だったが、それはなにも棋士ばかりではなかった。〕 (『升田将棋撰集』)

〔 いつかは死ぬものと観念し、死ぬ前にもう一度、ぜひ木村名人と戦いたいと心に念じ、それを支えにして生きのびてきた。打倒木村の執念が、私の闘志をさかんにし、将棋をおとろえさせなかったんだと思う。〕(『名人に香車を引いた男』)

 戦争が終わり、升田幸三は生きて日本へ戻った。
 しばらく広島の田舎で疲れきった身体をやすめ、1946年から新たに創設された「順位戦」に参加した。八段にまだなっていなかった升田はB級リーグへの参加だった。
 B級リーグを勝ち抜いて、A級リーグで上位になり、名人挑戦者決定戦を勝ち、それでやっと木村義雄名人に挑戦できる。どんなに勝ち続けても2年はかかる。
 「待っちゃあおれん」と、升田幸三は『新大阪新聞』という新聞社に行き、木村と闘わせてくれ(スポンサーになってほしい)と頼み込んだ。それが受け入れられ、「木村・升田五番勝負」が企画されたのだった。おあそびの花将棋ではない、持ち時間9時間二日制、旅館で行う本格的な勝負将棋である。3年ぶりの対決となる。升田28歳、木村41歳。


 升田の、“月への願い”が叶ったのである。

 南海の戦場の孤島で、明日は死ぬかと覚悟をする中、夜、月を見上げて、名人木村義雄のことを思う。
 これはまるで、恋人のようではないか。
 月に、もう一度木村と将棋を指したい、と願った。月はその升田青年の願いを叶えてくれたのである。


【1946年 木村・升田五番勝負】

[第1局]
第1局30手
 第1局は「香落ち」局。
 この五番将棋をを、木村名人は受けた。ただし手合いは「香平」(半香)という条件でと、木村が条件を出した。「香落ち」と「平手」を交互に、という手合いである。順位戦創設では「総平手」を推し進めた木村義雄名人だったが、ここではなぜか“格”にこだわった。木村名人は「香落ち」の上手が得意だったということもある。

 名人は「四間飛車」。 対して下手の升田は「棒銀」。
 〔 振り飛車に対して棒銀というのは、今でこそ常識的な対策のひとつだが、当時はまったく考えられていない手法であった。対木村戦に備えて用意していた新手である。〕(升田将棋撰集)

 下手2六銀に木村名人は1二飛。下手3五歩と仕掛け、木村名人は4二角と引いた。
 升田は、上手の木村名人のこの応手は意外だったと述べている。4二角に、3八飛で、この図。
 図以下は、5四歩、3四歩、6四角、3三歩成、同桂、同飛成、1九角成、2三竜、4二飛、3四歩、3二歩、3七桂、1八馬、3五銀、3六馬(次の図)と進む。

第1局 45手
 こういうところは、ソフトで調べてもさっぱりどの手が良くてどの手が悪かったのかわからない。
 3六馬としたこの図は、後手もやれるように見えるが、“序盤の天才”升田幸三に言わせれば、この辺りで「先手良し」のようだ。

 図からの手順は、2四銀、3七馬、3三歩成、同歩、同銀成、2二歩、1三竜、4七馬、5八金右、4六馬、1一竜、6四馬、9七角(次の図)

 この将棋は結局、升田にも木村にも失着のような手が出なかった。そしてそのまま下手の升田が押し切った。――ということは、このあたりか、もっと前に、“勝負どころ”があったのである。
 こういうのが、升田幸三の理想の将棋なのだ。この面白さは、天才升田にしか、わからない。

 「香落ち」の将棋は、序盤研究が大事である。のほほんと指していると、だいたい上手のペースになる。そうならないように、「作戦」をしっかり組み立てておく必要があるのだ。
  そういう意味では、「香落ち」の下手は、序盤巧者の升田幸三にピッタリ合う将棋といえるだろう。

第1局58手
 〔 ▲9七角が好手。全局を引き締めている馬と、半ば遊んでいる角を交換しようというわけだ。
  名人の顔色が変わったのを見た。もう負けないと思った。〕(升田将棋撰集)

 9七角成、同桂、6四角、8六角、同角、同歩、6四角、6六歩、5一香、7七銀、3二歩、4二成銀、同金、6五歩、3七角成、2一飛と進む。

第1局74手
 〔 ▲2一飛と二丁飛車で攻めて勝ちはもうすぐそこ。〕(同上)
 2一飛は74手目。上手は5二金左としたが、4二歩があった。以下、90手で下手快勝となった。
 この将棋は、升田にも、木村にも、失着といえる手が一つもない。
 
 升田幸三が、升田幸三らしい将棋を指して勝った将棋――つまり升田の理想とする将棋――というのは、アマ将棋ファンからすれば、“面白くない将棋”かもしれない。(ポカのない升田将棋なんて…)
 この将棋、「序盤」のどこかで勝負を分けたのだが、それがどこかよく判らないのだ。升田幸三だけが、わかっている。
 というか、升田は元々「香落ちは下手必勝」と言っている。それを証明した形となった。「序盤」から下手に与えられた微差のリードを、ゆるむことなく攻めて拡げ、完勝したのである。
 これが升田の理想の将棋であった。たぶん升田幸三は、「序盤」を、我々が想像するものをはるかに超える情熱をもって、指しているのである。

 さあ、「半香」の手合いで、まず「香落ち」では勝った。
 次は「平手」戦だ。升田はまだ「平手」ではまだ木村に勝ったことがない。(あの、痛恨の2一飛…)


[第2局]
第2局 32手
 昭和初期の木村・花田の時代は、「5筋を突きあう相掛かり」が主流だった。先手なら5七銀、後手なら5三銀が、銀の理想の位置だったからだ。ところがたまに、どちらかが5筋を突かないとなると、すかさず5五歩の位(くらい)を取られることになる。そうすると「5筋位取り」になり、その位をがっちり守るために飛車を中央に、という展開によくなった。(参考棋譜→『木村義雄、花田長太郎をふっ飛ばす』)
 この図が、そういう将棋である。木村名人は飛車先の歩を切るよりも「5五歩の位」を取ることを優先させた。
 先手の升田が2六飛と浮き飛車に構え、右銀を3七~4六と繰り出して、3五歩と仕掛けた。
 対して、後手木村名人は、4四角。それがこの図。

 この図から、6八銀、5一金、3六飛、3五歩、同銀、4五銀、3八飛、6二角、4六歩、5四銀、3四銀(次の図)
 途中、6二角と引く手に代えて、3五角、同飛、3六銀打には、升田は1八角のつもりであった。

第2局43手
 ここで後手の木村義雄は、7四歩と突いた。
 升田幸三、2八飛。
 それを見て木村名人は小声で「あっ」と言った。なんと、2八飛を見落としていたのだという。
 2三銀成を受ける手がない!(7四歩では3三歩と一旦受けるしかなかった)
 7四歩(44手目)が“ポカ”だった。将棋は「ミスをしないように頑張るゲーム」のようである。名人レベルの人でも、持ち時間9時間の将棋でこういう見落としをするのだ。
 
 名人は3三銀とし、2三銀成に、2六歩とした。以下、2四歩、4二金右、5六歩(次の図)

第2局 51手
 5六歩から升田が“決め”に行った。実戦は、以下3五角、5五歩、6五銀、5四歩、同銀、3四歩、4四銀、4七金、7五歩、3六金、7六歩と進んだ。形勢不利とみた後手木村名人が、角をおとりにして7五歩~7六歩と勝負にきた。
 ミスはしたが、木村名人には「二枚腰」がある。勝負はこれからだ。

 この形、先手はこのままだと7七の角が使えないので、どこかで5六歩と先手から突くか、または9五角と使う手になる。どちらも、そのタイミングが大事である。アマにはちょっとそこが難しい。

 5六歩に、同歩なら、どうなるのだろう? 『升田将棋選集』にはその解説がないが、アマとしては興味があるところだ。それを研究してみた。
 5六同歩、3四歩、4四銀、3二成銀、同金、2六飛、2二歩、2五飛(この手では2三金も有力)、7三桂(次の図)

参考図A1
 ここでどうやるか。升田幸三はどう指す予定だったのだろう?
 「激指」は、7二金や、6六歩、9五角、5五歩などが候補手である。だが7二金は、5一角、6一金、4二角、9五角、6四角となると逆転模様。7二金、5一角に、4四角、同歩、6一銀という攻めはあるが、これは決めそこなうと負ける。6六歩(後手6五桂を消した)は、5五銀直で、先手あまり面白くない。
 検討の結果、ここはどうやら、5五歩が良さそうだ。
 5五歩、同銀左に、5三歩。 これを同角なら5五角なので、後手5三同飛。
 そこで6一金がある。

参考図A1
 6五桂、6二金、7七桂不成、同桂、4九銀、6五桂打(次の図)
 7七桂不成に同桂として、この桂馬を攻めに使う。

参考図A2
6五桂打(図)。これで先手勝ち。
 後手玉は2二歩としてむこうに逃げられないような形になっているので、5三の地点を攻めるのがこの場合はきわめて有効な攻めとなるのだ。

 こうなっては後手まずいので、先の5五歩に対しては6五銀が考えられるが、その場合は4五歩と攻める。対して3六銀なら、2八飛と引いて、4五銀引、9五角となる(次の図)

参考図A3
先手は4五に打った歩をタダで取られてしまったが、「一歩を犠牲に銀を使わせた」と思えばよい。
 9五角(図)と角を出て、次に6一金(または7二金)をねらいとする。適当な受けがない。先手成功。
 
第2局 69手
 実戦は、木村名人が逆転をねらってより複雑な順を選んだが、升田に決め手が出た。やはり実戦でも9五角が実現し、9四歩、8四角、8二飛に、5一金(図)
 3一玉なら、7五角で、角がたすかる。なので名人は勝負と4二玉(7五角なら5一玉で金が取れる)としたが、そこで3五金、同銀に、5三歩が“決め手”。 以下、3一玉、5二歩成、8四飛、5三角、2二玉、3五角成。

〔 ▲3五角成に、しばらく盤上を見つめておった名人は、「時間がない…。もう駄目だ」といって投了された。平手での初勝利だった。〕(升田将棋選集)

 「5筋を突きあう相掛かり」は、戦後、流行らなくなった。4筋を突いて5六銀の腰掛銀型や、「棒銀」が流行りはじめたからで、これは別に、「5筋を突く相掛かり」が分のわるい戦法となったからではない。またそれが流行ることが未来にあるかもしれない。
 


[第3局]

 第1局、第2局は1946年9月に、間を開かずに実施された。ところが第3局が実施されたのは3か月後の12月。
 升田幸三が2連勝したので、将棋大成会(今の日本将棋連盟)の幹部たちから「待った」がかかった。その番勝負、中止せよ、というのである。10年近く名人位を守ってきた木村義雄が七段の升田にこのまま3連敗したらどうする、名人の権威が~、というわけだ。
 予定では、「半香」という手合いで指し、仮にどちらかが2連勝すれば手合いを変える、という事前の決まり事で始まったこの五番勝負であった。木村名人が2連勝なら「香」という手合いになるし、升田が2連勝なら「平手」となる。実際は升田2連勝だったので、「平手」になるはずだが、このケースをもともと想定していなかったらしい。「おれが連敗するわけがない」と、あの無敵の木村義雄名人が言っているわけだし…ということで。プロ棋士の駒落ち戦が廃止される前後のこの時期まで、将棋指しにとっては、「手合い」と段位いうものが、いちいちこのようにもめるほどに重要な事項だったのである。
 木村名人も升田も成行きを見守って静観していたが、五番勝負が途中で終わるのもみっともないことである。やがて木村名人が口を開いた。
「約束通りあとを指しましょう。半香で二番負けたのだから、次からの手合いは平手でよろしい」
 木村義雄のこうしたところを、升田幸三も手離しで称賛する。
〔 「てめえに都合のいいことだけをいっちゃなんねえ」というんで、江戸っ子気質なんですな。〕(名人に香車を引いた男)

47手
 戦型は「相掛かり」。当時5筋の歩を突かない(4筋を突く)相掛かりは珍しかったので、これを専売特許のようによく指していた小堀清一の名を冠して「小堀流」とこの当時は呼ばれていた。
 後手木村名人の「棒銀」が、戦中・戦前にはめずらしい指し方。5四歩として、中央に銀を構える形で大事な勝負をこれまで“常勝”してきた木村名人だったが、木村も“新しい時代”の風を感じて、それに乗って動いてきているようだ。

〔 いつも羽織ハカマの名人が、国民服を着とるんです。これは名人が名人というカミシモをかなぐり捨て、ハダカの勝負をしようというんじゃないか。小柄な体に生気がみなぎり、なにかピリピリするものを発散させておる。〕(名人に香車を引いた男)

 図は、先手の升田幸三が「攻め」を決断して、3筋と1筋の歩を突き捨てた後、2四歩と合わせ、2四同歩、同飛、2三歩、6四飛、6三歩、3四飛と進んだところ。
 (この将棋の全棋譜はこちらの記事で→『端攻め時代の曙光1』)

第3局68手
 升田が攻めて開戦し、「中盤」の勝負どころになった。先手の升田幸三が工夫を凝らして攻めているが、後手の木村義雄名人の対応が的確で、先手の攻め筋が細くなってきている。
 図で1五歩なら、後手は3二玉と指し、1四歩、同銀となると、先手は攻めあぐんでいる。

 2五桂と升田は指した。同桂と取らせて、2二角成、同銀、3二金、5一玉、2二金、6一玉、3一飛成、5一香と進む。強引な攻めだが、升田は「これでやれる」と思い、後手木村も「無理攻めだ、自分が良い」と思っている。実際は升田の攻めが細く、しかし、これしかなかった。
 すでに木村名人の術中にハマッている――木村がこのまま勝てば、そういう描き方になっていただろう。
 そこで升田は、4四歩と突いた。これで攻めは切れない、やれる、と。
 木村は3七桂成。升田、5六銀。
 そこで打った2五角が木村義雄の“失着”だった。

第3局82手
〔かまっちゃおれんと名人は△3七桂成だが、▲5六銀に△2五角が失着。私の俗手▲3四銀を見て顔色が変わった。悪くても▲4四歩を同歩と取り、私の3二金から4三歩にはじっと耐えるよりなかったのである。△5八角成と切って、△4四歩と手が戻るようでは調子がおかしかろう。〕 升田幸三は『升田将棋選集』の解説でこう言っている。
 どうやら名人は2五角に対しての升田の次の手3四銀が見えていなかった。この手では升田解説の通り、4四同歩がよかった。解説で升田幸三はそれで先手良しというふうに言っているが、4四同歩と取れば、どうやらその局面は後手の木村名人ぺースの将棋になる。
 4四同歩には、先手は「4三歩」と「3二金」が指したい手だが、この2手を両方指さないと攻めにならない。だから、たとえば4三歩には、そこで後手2五角と打って――(次の図=参考図B1)

参考図B1
 このタイミングでの2五角なら、次の後手の4八成桂が厳しく、先手の3二金から4二歩成の攻めは一歩遅い。2五角に5八玉としても、6四桂で、先手が悪そうだ。
 図で2六銀には3六角だし、どうもここで先手に良い手がないのである。図で最善のがんばりは、3五竜だろう。以下、2四歩、同竜、3六角が予想されるが、後手ペースの将棋である。

 実戦は、木村名人の(3四銀の)見落としがあって、「後手有利」だった形勢の針が「互角」ちかくに戻されたという将棋。
 升田幸三の攻めの迫力が、木村義雄を間違わせたのかもしれない。

 とにかく、ギリギリの勝負将棋となって、終盤突入である。
 木村は5八角成と切って、攻め合いに。

第3局94手
 進んで、こうなった。
〔 ▲4一歩成で勝ちが見えたと思ったが、△4八馬にひょいと▲6八玉とやったのがひどい落手だった。△5八金を見落としていた。△6七玉なら勝ちである。〕(升田将棋撰集)

 升田幸三に“ポカ”が出た。これは負けてもしかたないような単純なミスである。
 6八玉としたがそれが失着で、正着は6七玉だという。
 この将棋、持ち時間は各9時間。最終的に升田は1時間を残しているので、時間は十分にあったはず。

 6七玉以下はどうなるのだろうか。それを研究してみた。(ほんとうに先手が勝つのだろうか)
 6七玉、4七成桂、5一と、同金、7七玉(次の図)

参考図B2
 はたしてこれで「先手良し」なのだろうか。
 この7七玉が好手である。5七成桂なら、5二歩という手が生じて一気に先手優勢がはっきりする。
 だからここは、5九馬、6八香、そこで7五歩でどうなるか。
 以下、7九銀、7六歩、8八玉、8六歩、4三角、5二金打、同角成、同玉、8六歩、8七歩、9八玉(次の図)

参考図B3
 こうなると先手が良いようだ。次に7四歩がある。
 我々のソフトを使った研究でも、一応、升田幸三のいう通り、確かに先手良しとなった。(他の変化もあるので先手勝ちとまで断定することはできないけれど)

第3局95手
 実戦は6八玉とした。升田の“ポカ”。
 以下、5八金(この単純な手をうっかりしたという)、7七玉、5九馬に、6八角(角で「合い」をしなければならなくなった!)
 同金、同金、4九角。
 
〔一分で△4九角。こう打たれてはたしかに負けなんだが、対局中はなぜか負ける気がしなかった。もし弱気になっていたら負けていたろう。〕(升田将棋撰集)

 升田、7九銀。木村、8八歩(次の図)

第3局手104手
〔残り五分――名人△8八歩。ここで初めて私は香を取って、▲8六香。「あっ」と言った名人。△8八歩はポカのお返しだったのである。〕(升田将棋撰集)
 なんというミス!
 5一と、同金と、升田は香車を取って、8六香(次の図)

第3局107手
 図以下、8九歩成、8二香成、同銀、3二飛まで、111手で木村義雄名人が投了。
 升田幸三七段の勝ちとなった。

 かくして、「木村・升田五番勝負」は、升田幸三の3連勝で幕を閉じた。

参考図B4
 ところで、104手目の8八歩(木村のポカ)で、代えて7五歩なら、この将棋はこの後、どのようになっていたのだろうか。
 最後にその研究結果を示しておく。
 升田幸三は「4九角。こう打たれてはたしかに負けなんだが―」と言っているが…
 7五歩に、6九金打(7八金打には7六桂がある)、同馬、同金、7六歩、8八玉、7七歩成、同桂(同玉は7六金があって先手負け)、7六歩、4三角、5二金打、8三香(次の図)

参考図B5
 7七歩成、同玉、7六歩、8八玉、7二飛、7八歩、6七角成、3二金、6六馬、9八玉(次の図)

参考図B6
 これは先手良し。9五歩なら、4二金で、先手の攻めの方が早い。そして後手の受けも難しい。
 ということは、先手がそれでも勝っていたのか?、ということにもなるが――

 ところが、この手順を途中(参考図B5=先手8三香)まで戻って、7七歩成、同玉、7六歩、8八玉の後に、8三飛と香車を素直に取る手が正着だった。(この手順はソフト「激指」も警戒して最後に考える順のようだ)
 以下、先手は5二角成、同玉、4三銀成、6一玉、5一竜、7二玉(次の図)となる。

参考図B7
 ここから7一金、8二玉、8一金、9三玉と追っても、どうやら先手が勝てない。先手玉に“詰めろ”がかかっており(7七歩成、同玉、6七馬、同玉、7五桂以下)、したがって図で5三成銀もない。5二竜も6二銀で、先手は受けにまわらなければならない。5二竜、6二銀、7四金が7五桂を防いで一応攻防の手だが、7七歩成、同玉、6七角成、同玉、8七飛成から、7七歩合に5五桂からの詰め手順もあって、やはり先手負けだ。

 ということで、104手目(8八歩に代えて)7五歩は、我々の研究でも、やはり升田解説にあるように「後手良し」という結論に辿り着いた。(調べつくしたわけではないので、とりあえずの結論であるが、8三香が利かないのであれば先手が勝つのは難しそうだ)


 それにしても、やはり将棋は「ミスした方が負けるゲーム」なのだと思う。
 この木村名人の“ポカ”。これが勝負を決めた。

 1943年の「升田-木村戦」の時は、不利な木村名人が、逆転するような仕掛けをつくり、その網に升田が入っていき、それを仕留めて逆転したような将棋だった。升田幸三が心理的に焦ってしまったために、勝ちを逃してしまった。升田は「2一飛のポカで負けた」ということにしているが、実際はそうではなく、木村将棋の持つ終盤の逆転術に力負けしたのである。
 この「五番勝負」では、逆に、木村義雄名人の“ポカ”が目立つ結果となった。
 これは升田の攻めの迫力に、木村名人が気圧されたのかもしれない。そういう印象の、木村名人の“ポカ”だった。戦場を体験した升田幸三には、将棋の技術にプラスして、何か迫力が身についたのかもしれない。
 同じ逆転するにしても、迫力で押す升田と、泰然自若として余裕を見せて相手を転ばせる木村、逆転の技も人それぞれである。逆転するためには、相手にミスをしてもらわなければならない。そうなると、それは将棋の技術だけではなく、「何か」がさらに必要なのである。



 あらためて、この図を見て、思う。
 プロ棋士の将棋で、これほどに、さわやかな“ポカ”も、めったにない気がする。わかりやすくてよい。
 我々素人にとっては、“ポカ”こそ、将棋の華である。


 青年升田幸三の、木村義雄名人との対決の物語はこれでおしまい。
 続いて、将棋界は「木村・塚田・升田・大山」の四強時代となる。
 木村・升田に関しては、全日本選手権戦(1949年、竜王戦のルーツとなる棋戦)、名人戦(1951年)、王将戦(1952年)での番勝負の闘いがあるが、それはまた別の物語。

 升田幸三は1946年度の順位戦(B級)を12勝2敗の成績をおさめ、翌年度はA級八段になった。


 最後に余談を。升田幸三は碁を打つのが好きだったが、それにまつわる1946年のエピソード。

〔 定跡通と呼ばれた平野さん(平野信助のこと)は、碁も強かった。ある時、松浦卓造さんが「七子でどうですか」と手合わせを申し込んだ。「下手ごなし」は自信があったとみえ、即座に「目碁で打とう」と話が決まった。つまり賭け碁である。と言ってもお金ではない。平野さんが負けたらリンゴ。当時は食料難の時代だからめったに手に入らないものだ。平野さんは青森に住んでいた。
 徹夜で打って松浦さんは四子まで追い上げ、抱え切れないほどのリンゴを貰った。私もそのおすそわけをいただいたものだ。ちなみに当時私は、平野さんに定先だった。〕(升田将棋撰集)

 平野信助は丸田祐三の師匠。1946年度を持って現役を引退した。(→『平野流(真部流)』)
 また松浦卓造は広島出身の棋士でこのエピソードの年はまだ31歳。升田幸三も広島出身である。
 升田幸三の弟子に桐谷広人(最近はキャラがユニークということでTVに出て顔が知られるようになった引退棋士)がいて、この人も広島出身だが、松浦卓造の紹介で升田の弟子になったらしい。「この子は口が達者だ。升田幸三に合うかもしれない」と思って、松浦が、升田に縁を結んだのではと想像する。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする