はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part120 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第19譜

2019年05月20日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第19譜 指始図≫ 9三角成まで

 指し手  △9四歩


    [The Mirror of Erised(みぞの鏡)]
 天井まで届くような背の高い見事な鏡だ。
  (中略)
 鏡に近寄って透明になったところをもう一度見たくて、真ん前に立ってみた。
 ハリーは思わず叫び声を上げそうになり、両手で口をふせいだ。急いで振り返って、あたりを見回した。本が叫んだ時よりもずっと激しく動悸がした―――鏡に映ったのは自分だけではない。ハリーのすぐ後ろにたくさんの人が映っていたのだ。
 しかし、部屋には誰もいない。あえぎながら、もう一度ソーッと鏡を振り返って見た。
       (『ハリーポッターと賢者の石』J.K.ローリング著 松岡佑子訳 より)



 『ハリーポッターと賢者の石』に登場する魔法の「鏡」は、「みぞの鏡」である。これは訳者の松岡氏がそのように翻訳したもので、原作では「The Mirror of Erised」である。「erised」という英単語はなく、これは「desire」(=のぞみ)を逆さに並べたもの。
 この「鏡」は、のぞいた人の「desire」が映し出される鏡だったのである。

 『ハリー・ポッターシリーズ』は映画化もされていて説明する必要もないほどの有名な人気小説で、そのシリーズの最初の作品『ハリーポッターと賢者の石』は1997年に発表された。内容は少年ハリー・ポッターがホグワーツ魔法学校に入り、そこを舞台とする“戦い”の物語である。
 その“戦い”の相手は姿の見えない敵(人間としての肉体をすでに失っている)ヴォルデモートであり、彼は手下を使ってこの学校に密かに収められている≪賢者の石≫を奪おうとしてきた。ハリーとその仲間はそのことに気づいて戦ったのである。
 この≪賢者の石≫は、ホグワーツ魔法学校の図書室の奥の部屋の「鏡」の中に保管されていた、という設定である。つまりこの場合、「鏡」は、この貴重品を秘密に保管しておく“金庫”のような役割として使われていたのであった。
 この≪石≫は、伝説の錬金術師ニコラス・フラメルがつくったもので、この小説の設定では、フラメルは、この≪賢者の石≫をつかって(不老不死を得て)、今も妻とともに生きていて年齢は665歳になると、ハリーとその仲間たちが調べた学校の図書館の本には書いてあった。

 ニコラス・フラメル(ニコラ・フラメルと表記されることのほうが多い)は、14世紀にパリに実在した人物で、「錬金術師」として有名になった。錬金術に関するあやしい本を出していたというのが第一の理由である。
 本業は出版業者であったが、いろいろなところへ多額の寄付をしていたので「その財産はきっと錬金術が成功して得たものだ」と当時から街ではうわさされていたのだろう。
 年を取ってパリ・セーヌ川の近くの家に妻とともに暮らしていたが、ある日夫婦ともども忽然と消えてしまった。そういう妙な“最後”だったので、その後に「ニコラ・フラメルは賢者の石の創造に成功して不老不死となり今も生きている」などということになったようである。

 錬金術師(アルケミスト)とは要するに、独学で「科学」を研究する人物のことであろう。彼らの多くは、「アラビアの書物」から「科学」の知識を学ぼうとしていたのであった。
 なぜ、「アラビアの書物」なのか。それは、その書の中には、欧州ではもうすっかり失われてしまった「科学」というものへの探求があったからである。

 まず、今から約2500年ほど前に、「科学」が地中海で発達した。いわゆる「古代ギリシャ科学」である。
 有名な人物を何人か挙げれば、タレス(紀元前624-546)、ピタゴラス(紀元前582-496)、デモクリトス(紀元前460-370)、アルキメデス(紀元前287-212)など。
 アリストテレス(紀元前384-322)を師として尊敬していたマケドニアの王アレキサンドロス3世が紀元前338年に「東方遠征」を開始した。わずか10年でペルシャ地方をわがものとし、これによって、地中海で発展していた「科学」は、この「東方の地」すなわちペルシャ地方(今のイランの場所)にも広がった。このときに地中海の「科学」がアラビア語に翻訳され図書館に保存された。
 やがて時が過ぎ、「欧州」では、ギリシャからローマ帝国に受け継がれた「科学」も、だんだんと失われていった。
 ところが「東方」すなわちアラビア地域では、「科学」は受け継がれて発展していったのである。アラビア語の「科学」の知識が、バクダッドの図書館などに蓄積されていった。欧州では失われていった「科学」が、アラビア地域には残されたのである。

 1000年以上の時が過ぎ、十字軍の遠征の歴史などを経て、いわゆる「イタリア商人」などの活動があって、少しづつまたアラビアの図書館に蓄積された知識が欧州へと逆輸入されていく。
 アラビア語で書かれた「科学」が、ラテン語に翻訳され、それを欧州の知識人が読んで、その意味を解読するということがゆっくりと行われ、欧州は徐々に「科学」に目覚めていくのである。
 そうしたことを、個々にやっていたのが、欧州の錬金術師(アルケミスト)たちというわけだ。

 この錬金術師たちの目的はさまざまであった。ある者は文字通りに「金」を創造して富を得たいと考えていたであろう。またある者は純粋に「科学」への好奇心が止まらなくなって突き動かされたのかもしれない。
 16世紀、これ(錬金術の知識)を医術に使おうと研究していたのが、スイスでアルケミストとして有名なパラケルススである。彼は病に効く薬をつくろうとしていた。常人の理解を超えるほどの彼の熱意をもった知識探求の努力行為が、人々の間で「パラケルススは賢者の石を創造しそれを使えば不老不死になるらしい」というようなうわさを巻き起こした。
 他に有名な錬金術師(アルケミスト)を何人か挙げておくと、ヘルメス・トリスメギストス(錬金術の祖とされる紀元以前の人物)、ゲオルク・ファウスト(死後ゲーテの小説の主人公として有名になった16世紀の人物)、カリオストロ(シチリア島生まれの18世紀の人物)など。

 

<第19譜 後手8四金の変化>

≪最終一番勝負 指始図≫ 9三角成まで
 ≪亜空間最終一番勝負≫。 △5五銀引 に、▲9三角成 と進んだ。

 先手を持つ我々終盤探検隊は、後手はここで△9四歩と指すことと想定して、こう進めていた。


≪最終一番勝負 第19譜 指了図≫ 9四歩まで

 そして実際にそのとおり、後手――≪亜空間の主(ぬし)≫――の指し手は、△9四歩 だった。

第20譜に続く



[変化8四金の研究]

 ただし、今回の指始図(9三角成図)では、△9四歩と並んで、△8四金も有力な手であった。

8四金図
 もし、「8四金」(図)と後手が指していたらどうなったのか。
 実は、ここでの8四金を、われわれは“こっそりと恐れていた”のである。

参考図1a(3四銀型)
 過去の≪亜空間戦争≫の中で、3四歩を“同銀”と応じた「3四銀型」での、“8四金”についてはすでに経験済みで、さらなる研究調査によって蓄積されたものもあった。
 しかし、「4二銀型」については、まったく準備がなかった。
 とはいえ、「3四銀型」での経験値の蓄積は、うまく利用すれば役に立つはずである。

 ここではやはり、「3四銀型」と同じ手―――8五金(次の図)―――が最善手と考え、我々(終盤探検隊)はもし「変化8四金図」になればそう指す予定であった。

8五金基本図
 8五金(図)には7四歩とくるだろう。(8五同金、同玉、8四金、同馬、同歩、9四玉は先手良し)
 以下、8四金、同歩、同馬、8三歩(次の図)

8五金図01
 8三歩(図)に同馬なら7五金で後手が勝ち。かといって、5七馬も、7五銀で後手良し。
 先手に、二つの有力手がある。 〔ア〕7四馬 と、〔イ〕8五玉

 〔ア〕7四馬 に、後手としてはそこで8四金と打ちたいが、それはこの場合5二馬で先手良しになる。
 なので、〔ア〕7四馬 に、後手は7五金とするのが最善手。
 以下、同馬、同銀、8五玉(同玉は6四角の王手竜取りがある)、8四銀、9四玉。
 そして、4七角(次の図)

8五金図02
 後手の持駒は桂だけなので先手が良さそうに見え、我々はこれで先手が良いだろうと最初は考えていた。
 しかし調べてみると、実はまだ難しいと判明。 ここから先手が良くなるための明瞭な順が見つからないのだ。

 おそらく、最善手は「9三金」だろうと考え、以下進めていく。
 「9三金」、7四角成(8五銀以下詰めろ)、8五香、6二金(次の図)

8五金図03
 この6二金(図)が好手で、ここからはっきり先手が良くなる手順が発見できない。
 この6二金の手は、この金を動員して先手玉を捕らえようという力強い手で、これは後手が「4二銀型」の陣形だから可能な手だ(4二銀がいなかったら先手5一竜がある)
 ソフトはここで7五歩を推奨する。(他の手ではどうも先手が勝てそうもない)
 7五歩、同馬、4一角、3二歩、3三歩成、同桂、8三玉、9三銀、9二玉、8五歩、同香、3一玉(次の図)

8五金図04
 このタイミングで、3一玉(図)。
 ここで6三歩、4一玉、6二歩成、同銀は、後手良し。
 3一玉には、1一飛が優るようだが…
 1一飛、2一金、同飛成、同玉、8三香成、9四銀、9三金、8三銀、同金、9五飛、9三金打、7二金(次の図)

8五金図05
 後手の攻めもなかなか止められない。しかししっかり受ければ先手玉は捕まることはなさそうだ。といっても先手の持駒にももう余裕はない。
 すると千日手の可能性の高い状況である。
 「千日手」では、我々(先手)としては不満だが、しかしこれ以上の成果のある手順が(後手6二金以後)見つけられなかった。

8五金図06
 ということで、戻って、(〔ア〕7四馬 に代えて)〔イ〕8五玉(図)ならどうか。
 これは後手の8三歩に対し、〔イ〕8五玉 として、8四歩に、9四玉と、馬を取らせるかわりにまっすぐ“入玉”しようという作戦である。
 8四歩、9四玉、7三銀で、次の図。

8五金図07
 9三玉、7二金、8三香、7一桂、8二金、8三金、同金、同桂、7二金、6二金(次の図) 

8五金図08
 ここでもまた、後手“6二金”という手が出てきた。
 形勢は先手やや苦しめの「互角」というところである。

 なんとか“入玉”自体はできるのだが、はっきり先手有利という展開にならない。むしろ苦しいのではないか。

 ――――ということで、この 「8四金」 以下の変化を、我々(終盤探検隊)は密かに恐れていたのであった。
 実際には、後手の≪ぬし≫は「9四歩」を指してきたので――それは予想通りではあったが――その“恐れ”は杞憂に終わった。
 ただ、“好奇心”としては、「8四金ならどうなったのだろう」という気持ちが残っているので、さらに“戦後調査研究”として調べてみた。

 すると面白い手が出現してきた。次の手である。

8五飛基本図
 8五金 に代えて、8五飛(図)と打つのである!!
 金よりも飛車が良いなんてことがあるのだろうか!? もしそうだったら面白いが。
 (コンピューターソフト「激指14」も元々この手を有力として示していた。瞬間的には4~5位の候補手だったが、30分ほど考慮させると1~3位に上がってきた)

 図以下、(A)7四歩、8四飛、同歩、8六玉、8五飛(次の図)

8五飛図01
 9六玉(後手の攻め駒が金ではなく飛なのでこう逃げる手が可能になる)、6五飛、7五歩、同飛、8四馬、9五歩、8六玉、6五飛、7六歩(次の図)

8五飛図02
 先手良し。先手玉の“入玉”を後手が阻止することが難しい。

8五飛図03
 8五飛 には、(B)9四歩(図)のほうが優るようだ。
 以下、8四飛、同歩、同馬(次の図)

8五飛図04
 ここで [8三歩][6五飛] とが後手の有力手。

 [8三歩] には、8五玉。 以下8四玉、同玉、4七角(次の図)

8五飛図05
 4七角(図)に、9三玉、7七飛が進行の一例だが、そこで“4一角”と打って、以下3二歩 に、3三香(次の図)

8五飛図06
 ここで“例の攻め”(4一角~3三香)が炸裂。 先手の攻めが成功しているようだ。
 以下、3一銀には、5二角成、同歩、1一金(次の図)

8五飛図07
 先手勝勢。

8五飛図08
 上の攻めは成功したが、実は、“4一角”に、3二歩 に代えて、3一歩 と受けられると、形勢はまだ難しい。(そこで2六香と打っても3二桂または1一桂で攻めが止まり先手つまらない)
 だが、“4一角”、3一歩 には、3七桂(図)が好手で、形勢はバランスを保っていてこの図は、「互角」。

8五飛図09
 “4一角”と打った手をやめて、代えて、“8四金” としたのがこの図。
 これなら、わずかに先手リードの形勢のようである。(最新ソフトの評価値は+250くらい)

8五飛図10
 戻って、後手 [6五飛](図)を調査しよう。
 以下、8三金、7四歩に、8六玉(次の図)

8五飛図11
 ここで後手(1)7五銀なら、8五玉、8四銀、同玉で、“入玉”できる。それは先手良し。
 (2)6六銀は7六歩がある。
 また(3)7三桂には、9四馬とし、以下6七とに、7五歩、同飛、7六歩、6五飛、7五香から、“入玉”を計って、先手良し。
 他に有力な後手の手は(4)6二銀と、(5)6三金。 以下この2つの手を見ていく。

8五飛図12
 (4)6二銀には、5三歩(図)
 以下、5三同銀左、3三歩成、同玉、1一角、2二桂、3七桂、4四銀引、7六歩(次の図) 

8五飛図13
 先手良し(最新ソフトの評価値は+476)

8五飛図14
 (5)6三金(図)の場合。これは9四馬なら7三金とする狙いで、それだと後手良しになる。
 (4一角は、3二歩、6三角成、7五銀、8五玉、6三飛で、後手のワナにはまる)
 ここでは、7五歩とするのが良いようだ。(同飛なら今度は4一角で先手優勢)
 7五同銀に、8五玉、8四銀、同玉、6六角、7五歩(次の図)

8五飛図15
 7五同角、9四玉、6二銀、7六銀(次の図)

8五飛図16
 7三金、7五銀、同飛、8六香(次の図)

8五飛図17
 まだたいへんだが、形勢は少し先手良し。


8五飛基本図(再掲)
 以上、調査の結果、8五飛 は、先手が「互角以上に戦える」という評価となった。
 (少なくとも、先手にとって都合の悪い変化はなかった)


8五金基本図(再掲)
 さて、もう一度 8五金 に戻る。
 ここで後手7四歩だが、そこで上では「8四金、同歩、同馬」以下を考えてきた。
 その順で難局になると予想されたわけだが、7四歩に、「8六玉」が有望なのではないか―――というのが、次のテーマだ。

変化8六玉基本図
 この 「8六玉」 である。
 この手は、次に、「8四金、同歩、9五玉」を狙っている。
 だから後手はそれを防ぐ意味で、7五銀 と来る(次の図)

変化8六玉図01
 以下、9六玉 に、9二歩(次の図)

変化8六玉図02
 9二歩(図)がここでの後手の好手である。
 同竜、8五金、同玉、8四金、同馬、同銀、9四玉、7一桂(次の図)

変化8六玉図03
 先手の9一の竜を9二に動かしたことで、この図の7一桂が打てた。
 これは先手が悪い。

変化8六玉図04
 先手は、後手の7五銀 を、同金(図)とするのが正着だった。
 以下、同歩に、8四馬、同歩、9五玉、4七角(次の図)

変化8六玉図05
 さあ、これで先手後手どちらが勝っているか。
 この4七角(図)が後手にとって良さそうな感触の手。
 だが、ここで先手に「8二飛」と打つ手がある(次の図)

変化8六玉図06
 ここで6二歩(先手5二飛成を受けた)なら9四玉で先手良し。
 後手の指したい手は、8三金だ。それでどうなるか。
 しかし8三金には、5二飛成がある。 さあ、どっちが勝っているか。
 5二飛成以下、9四歩、8六玉、8五歩、7七玉、7六歩、8八玉(次の図)

変化8六玉図07
 これは、「先手の勝ち」になった。

変化8六玉図08
 上の変化をふまえて、「8二飛」に、“6二銀”(図)が後手工夫の手。
 もし9四玉なら、7三銀と出て後手良しになる、という意味。7三銀に5二飛成は、9三歩(同玉は8三金以下詰む)、同竜、5二歩で、後手良し。

 この手(6二銀)には、「5三歩」がある(次の図)

変化8六玉図09
 ここで7四角成は、9四玉、7一桂、8三銀で先手優勢。 
 「5三歩」(図)に、同銀左には、3三香(次の図)

変化8六玉図10
 3二歩なら、1一銀、同玉、3二香成で寄る。(3三同桂は3一銀、同玉、3三歩成)
 なので3一歩が考えられるが、それにも、1一銀、同玉、3一同香成といく。
 以下2二金(代えて4二金は、2一成香、同玉、5一竜で寄る)に、3三角(次の図)

変化8六玉図11
 先手勝ち。

変化8六玉図12
 「5三歩」に、9三歩(図)
 これは放っておくと8五金で詰まされてしまうので、9三同竜と取るが、そこで7一桂。この手がまた次に8三桂打とする手があって、実はこれも“詰めろ”。
 なので先手は8四竜とする。そこで後手8三金(次の図)

変化8六玉図13
 ここで5二歩成と金を取り、以下8四金、同飛成、5二歩。
 そこで1五角(次の図)

変化8六玉図14
 この1五角(図)が、3三銀以下の“詰めろ”。
 それを防ぐ2四桂には、同角、同歩、3五桂。 また2四歩には、3五金と打って、これも“詰めろ”。
 この角打ちで先手は「勝ち」をたぐり寄せた。

 どうやら、この変化(8六玉に後手7五銀)は先手が良い。「8二飛」が先手を勝ちに導く好着手だった。


変化8六玉図15
 さて、「8六玉基本図」に戻って、そこで後手 7三銀(図)を見ていこう。
 この手は、7五銀 に比較すると、王手にはなっていないので先手に“手番”が来る。だから感覚的には先手がやれそうだが、具体的に何を指すかが問題である。(8四金は同銀、同馬、同歩、9五玉でこれが後手の狙い。形勢は「互角」)
 我々の見つけた“答え”は、次の一手だ(次の図)

変化8六玉図16
 「2五香」(図)と打って攻めの準備。
 ここで後手6六銀なら2六飛と打ってこれが詰めろ銀取りで先手良しになる。
 6四銀左上が有力だが、それは4一角、3二歩、5二角成、同歩、4一飛、3一角、7六歩のような展開で、これも先手が良い。
 「2五香」には、3二歩と先受けするのが最善のがんばりかもしれない。その手には、3七桂が好手(次の図)

変化8六玉図17
 この桂跳ねで敵陣上空を押さえ、次に8四金、同銀、同馬、同歩で、金銀二枚を入手すれば、2三香成、同玉、2四銀以下、後手玉を詰ますことができる。
 なので後手は3一桂とさらに受けることになるが、以下4五桂、6四銀、3三歩成、同桂、同桂成、同銀、4一飛(次の図)

変化8六玉図18
 4一飛(図)と打って、1一角の寄せを狙う。(8四の金を取って、3四桂、同銀、1一角、同玉、3一飛成以下詰み)
 2四歩、3五桂、1一桂、6一角(次の図)

変化8六玉図19
 4二金、5一飛成、6六銀、2四香、2三歩、2三桂成、同桂左、8三角成(次の図)

変化8六玉図20
 先手優勢。(以下、7五銀引、9六玉、4一桂が予想されるが、8四金、同銀上、同馬左、同銀、同馬、と清算して、次に3四歩を狙う)


 以上の研究調査の結果、「8五金、7四歩、8六玉」 の手順で「先手良し」とわかった。これなら先手が勝てそうだ。
 

8五金基本図(再掲)
 さらに、もう一つ、先手にとって有望な手が見つかった。
 8五金(図)までまた戻って、ここから7四歩に「8四金」以下の変化で、8四金、同歩、同馬、7四馬、8五金、同馬、同銀、8五玉、8四銀、9四玉と進んだ時、「8二角」 が有望ではないかということに気がついたのだ。

8五金図09
 この図である。(上では9三金を最善手と考えて進めていたがそれでは先手不満となった)
 「8二角」 以下は、7四角成、8六香、6四銀引が想定される。
 そこで7五歩があった。以下、同銀左に、7一飛と打って、それで「先手良し」なのではないか。(実際最新ソフトの評価も+500くらいになった)


8四金図(再掲)
 見てきたように、いくつかの先手良しになりそうな順が発見され、どうやら後手 「8四金」(図)は先手が勝てそうだとわかった。
 ただし、「最終一番勝負」で後手の≪ぬし≫が 「8四金」 と指してきたとき、はたして我々終盤探検隊がそれらの順を発見できたかどうか、それはわからない。



≪最終一番勝負 第19譜 指了図≫ 9四歩まで

 実戦の後手の指し手は △9四歩 だった。




<参考>

参考図1a(再掲、3四銀型の8四金)
 「3四銀型」の8四金(図)の場合どうなるかを参考のために書いておく。
 先手はやはりここで「8五金」と打って―――
 8五金、8四金、同歩、同馬、7四馬、8五金、同馬、同銀、8五玉、8四銀、9四玉、9三金(次の図)

参考図1b
 9三金と打つ。以下、7四角成、8六香。
 ここまでは「4二銀型」と同じ。「4二銀型」の場合はそこで6二金があって先手不満(形勢は互角)だった変化であるが…
 ところが、この「3四銀型」の場合はその手がない(6二金には5一竜がある)ので、「先手良し」になる。
 指すとすれば、6二銀だ(次の図)

参考図1c
 ここで5三歩が“手筋”だが、この場合は5三歩に7三銀上とされ、以下5二歩成は8二桂があって、後手良しになる。
 しかし、“次の一手”ならば、先手が勝てる(次の図)

参考図1d
 「5四飛」(図)だ。
 7三銀上には7四飛、同銀、8四香で先手勝勢。 6四銀には、5五角がある。
 また、6三馬には、4一角、3二桂、3四飛、3三歩、8四飛で先手が良い。
 「5四飛」に、7三馬以下を、進行の一例として見ておこう。
 以下、3四飛、3三歩、8四飛、9一馬、8三飛成、7一桂、3二歩(次の図)

参考図1e
 以下、3二同玉に、1一銀と打つ。 こんな感じで、5四飛以下ははっきり「先手良し」。

終盤探検隊 part119 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第18譜

2019年05月11日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第18譜 指始図≫ 5五銀引まで

 指し手  ▲9三角成


    [ 八咫鏡(やたのかがみ)]

故(かれ)ここに天照大御神(あまてらすおおみかみ)見畏みて、天石屋戸(あまのいわやと)を開きて、さし籠りましき。ここに高天原皆暗く、葦原中國(あしはらのなかつくに)悉に闇(くら)し。これに因りて、常夜往きき。ここに萬の神の聲(こえ)は、さ蠅なす満ち、萬の妖(わざわひ)悉におこりき。ここをもちて八百萬神、天の安の河原に神集ひ集ひて、高御產巢日神(たかみむすびのかみ)之子、思金神(おもいかねのかみ)を思はしめて、常世長鳴鳥(とこよのながなきどり)を集めて鳴かしめて、天安河の河上の天堅石を取り、天金山の鉄(まがね)を取りて、鍛人天津麻羅(かぬちあまつまら)を求ぎて、 伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)に科せて を作らせしめ、玉祖命(たまのおやのみこと)に科せて、八尺勾璁(やさかのまがたま)の五百津之御須麻流之珠(いほつのみすまるのたま)を作らしめ、天兒屋命(あめのこやねのみこと)、布刀玉命(ふとだまのみこと)を召して、天香山の真男鹿(まおしか)の肩を内抜きに抜きて、天香山の天の波波迦(ははか)を取りて、占合(うらなひ)まかなはしめて、天香山の五百津真賢木(いほつまさかき)を根こじにこじて、上枝に八尺勾璁の五百津之御須麻流之珠を取りつけ、中枝に八咫鏡(やたのかがみ)を取り繋(か)け、下枝に白丹寸手、青丹寸手を取り垂でて、この種種の物は、布刀玉命、布刀御幣(ふとみてぐら)と取り持ちて、天兒屋命、布刀詔戸言祷き白して、天手力男神(あめのたぢからお)、戸の掖に隠れ立ちて、天宇受賣命(あめのうずめのみこと)、天香山の天の日影を手次(たすき)に繋けて、天の真拆(まさき)をかづらとして、天香山の小竹葉を手草に結いて、天石屋戸にうけ伏せて踏みとぐろこし、神懸(かむがかり)して、胸乳をかき出で、裳緖を陰(ほと)に押し垂れき。高天の原動みで、八百萬の神共に咲(わら)いき。         (『古事記』天石屋戸神話より)
                      


 日本神話のなかの「天石屋戸(あまのいわやと)神話」である。
 この中に、「鏡」が出てくる。三種の神器の一つ「 八咫鏡(やたのかがみ)」である。『古事記』のこの記述によれば、この時に、鍛人天津麻羅(かぬちあまつまら)と伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)がつくったことになっている。
 天照大御神(あまてらすおおみかみ)が天石屋戸に閉じこもってしまったので、その女神を笑わせようと、ありとあらゆる手立てを講じたのだが、その一つの手が、「鏡」による魔術だったというわけだ。
 この女の神様を笑顔にするために、みんなで全力を尽くすという、ユニークな神話であるが、最後に「八百萬の神共に咲(わら)いき」となって、みんなで笑うという素晴らしい結末になっている。
  
 『古事記』の成立は天武天皇の時代であるから7世紀。つまり今から約1300年前。
 しかし様々な“神話”を一つにまとめたのがこの時ということで、この「天石屋戸神話」自体は、もっと前からずっと語り継がれてきたのだろう。



<第18譜 まぼろしの「2五飛戦法」>


≪最終一番勝負 第18譜 指始図≫ 5五銀引まで

 先手「6六角」に、後手は「5五銀引」(図)と応じてきた。
 まあ、予想通りだ。



≪最終一番勝負 指了図≫ 9三角成まで

 先手を持っている我々――終盤探検隊――は、予定通り、「9三角成」(図)。

 ここで後手に、“8四金”と“9四歩”の選択肢がある。


第19譜につづく



 以下は、“戦後研究”である。 
 数手前に戻って――――

≪5九金図≫
   <1>2五香 → 先手良し
   <2>4一角 → 先手良し
   <3>6六角  = ≪一番勝負≫で我々が選択した手
   <4>8六玉 → 先手良し
   <5>8五玉 → 先手良し
   <6>2五飛 → ?

 我々はこの将棋の“戦後研究”の中で、ここで <6>2五飛 がある可能性を発見した。
 コンピューターソフト「激指14」はこの2五飛を7番目の候補に挙げていた。とはいえ、評価値は-707で「後手有利」としている。
 しかし我々は、<4>8六玉や<5>8五玉の調査研究の中で“2五飛”と打つ手ががこの後手の「4二銀型」の陣形に対して有効であることに気づき、それならこの局面で「2五飛」もあるのではないかと思ったのだった。

2五飛基本図
 この「 2五飛 」 の狙いは、受けては後手の指したい7五金をけん制している。
 そして、攻めては、4一角、3二歩に、“3三香”の攻めを狙っている。「2五飛」と「4一角」と「9一竜」の3つの大駒が、「3三香」を加えることで、爆発的な破壊力のある攻めを生む可能性を持っているのである。その攻めに大いに期待したい。
 そしてその攻めを封じる手段が後手にあるかどうかがポイントである。

2五飛基本図(再掲)

 ここで考えられる後手の有力な応手は、次の9つ。
  【1】7四歩
  【2】5五銀引
  【3】6五歩
  【4】4四歩
  【5】6三桂
  【6】6五桂
  【7】8四歩
  【8】3五金
  【9】3二歩

 このように指し手の広い局面だが、一つ一つ調査結果を以下書いていく。
 どれか一つでも、「後手良し」の結論に固まれば、その時点でこの「2五飛戦法」は終了となる。


変化7四歩図01
 【1】7四歩(図)は、後手の狙いとしては次に7五銀である。
 この 7四歩 は、最新ソフトが最善手として示した手で評価値は[ -432 ]で後手有利と示しているが、終盤探検隊がさらに先を調査した結果を先に言えば、この手には「4一角」と打って先手が勝てる。

変化7四歩図02
 「4一角」に、「3二歩」(図)。
 ここで「5二角成」と「3三香」の2通りの攻めがあり、この場合はどちらを選んでも、先手が有利になる。
 この攻めが今回の先手の「2五飛戦法」の基本となる攻めなので、ここでは両方その内容を確認しておく。

 まず「5二角成」から。
 「5二角成」を同歩と応じると、3三金以下後手玉が詰むので、取れない。(この即詰みがあるのも「2五飛」の効果)
 そこで後手は7五銀と攻めてくる。これには8五玉(7七玉は先手悪い)
 以下、8二桂、8六歩(次の図)

変化7四歩図03
 後手玉はまだ詰まないので、先手玉に後手が“詰めろ”で攻めてくれば、それを受けなければいけない。
 ここで後手は9四歩。これも詰めろだ。
 そこで7三角と打つ好手があった。8四歩(この歩を突かせることで後手の8四桂が消えた)、9六玉、7六金(次の図)

変化7四歩図04
 部分的には先手がピンチ。8九香と受ける手が見えるが、9五歩、同玉、8三桂、9六玉、9五歩、同竜、5二歩で、先手負け。
 ところが、ここで7三角を打った手の真価を発揮する手順が現れる。2三飛成と、攻めに転じるのである。以下、同玉、2四金、同玉、4六角成、3五金合、4二馬(次の図)

変化7四歩図05
 後手玉は詰んでいた! 4二同銀、2五銀、同玉、2六銀以下、持駒の香車が威力を発揮して“詰み”となる。(7三角は“詰めろ逃れの詰めろ”だったのだ)

変化7四歩図06
 先手の「5二角成」に、3五金(図)と打ってきた場合。
 これにも切り返しがある。

変化7四歩図07
 4四角(図)である。
 これを同銀は4二馬だし、同歩は、2三飛成、同玉、2四金、同玉、1五金、2三玉、2四香までの“詰み”。
 なので3三桂打のような手になるが、2六香、3一桂、3三歩成以下、先手が勝てる。

変化7四歩図08
 もう一つの攻め筋が「3三香」(図)。
 この攻めは後手に「香」が渡ったとき、そして場合によっては「角」を渡したときに、先手の玉が大丈夫かどうか、そこが重要な要素になる。
 「2五飛」と設置しておいてこの「4一角~3三香」の攻めは、かなりの破壊力がある。
 これを“同桂”と取るとその瞬間に2一金、同玉、2三飛成から後手玉が詰むので、“同桂”がない。これが後手の応手を限定している。
 桂で取れないので、この「3三香」を取るとしたら、3三同銀しかない。以下、同歩成、同玉に、3四歩(次の図)

変化7四歩図09
 これで詰んでいる。3四同銀に、4五銀、3三玉、3四金、4二玉、3二角成、同玉、2三飛成、4二玉、3三角、4一玉、5一角成、同金、4三竜以下。

変化7四歩図10
 「3三香」に、3一銀(図)。
 これには、5二角成。(同歩なら3二香成以下後手玉詰み)

変化7四歩図11
 そこで 3三歩 と後手は「香」を入手。
 ここで5一竜で勝てればわかりやすいが、それは後手の“思うつぼ”。 7五銀で先手玉が先に詰んで負けになる。
 しかし“5一馬”があった(次の図)

変化7四歩図12
 5一馬(図)は、“詰めろ逃れの詰めろ”。 3三馬、同桂、1一角からの後手玉の“詰み”を狙いつつ、この5一馬は8四に利かせている。
 以下は、7五銀、8五玉、8四金、同馬、同銀、7四玉、4七角(王手飛車)、6五歩、2五角成、8三玉(次の図)

変化7四歩図13
 “王手飛車”を食らっても、先手が優勢。(以下3四歩、5四歩、同銀、5一角が予想される手順)

変化7四歩図14
 「5二角成」に対し、すぐ 7五銀(図)としたらどうなるか。
 8五玉、8四金、9六玉―――ここまで先に決めておいて、そこで3三歩と「香」を取る。先手玉に“詰めろ”(9五香まで)がかかり、これは受けにくいが…(次の図)

変化7四歩図15
 この場合は3二金(図)から、後手玉に“詰み”があるのだ。
 後手の6四銀が7五銀と出てきて、5三の銀が“浮き駒”になっているので、この場合は“詰み”が生じている―――というからくりである。
 3二同銀、3一角、同玉、5三馬以下。

変化7四歩図16
 「3三香」に、3一金(図)。
 この金打ちには、2通りの勝ち方があり、先手が勝てる。
 一つは、3二香成、同金、1一角、同玉、3二角成という攻め方。

変化7四歩図17
 以下、5八角に、8六玉(図)と逃げて、8四香には9六玉として、先手勝勢。
 「2五飛」がしっかり受けに働いている。もしこの「2五飛」の存在がなかったら、7五銀、7七玉、6七角成、8八玉、6六馬、9八玉、2二香で、後手玉が受かって、後手勝勢になっているケースである。

変化7四歩図18
 もう一つは、3二香成、同金に、5二角成(図)という攻め方。
 5二同歩は、3三金、同銀、同歩成、同玉、3四歩、同玉、4五銀以下“詰み”がある。
 (3三金に1一玉には、2一竜、同玉、2三飛成)

 なのでこの馬は取れないが、後手6二桂と頑張る手でどうなるか。
 先手は4一馬。この手は次に後手玉が詰むわけではないが、3三歩成、同銀、3一角からの寄せを狙っている。
 以下、予想される手順は、7五銀、7七玉、8五桂、8八玉、7六銀、7八歩、3一歩、4五角(次の図)

変化7四歩図19
 後手の攻め足が先手7八歩の受けで止まった。(攻めを続けるなら8四香だが8六金で受かる)
 先手からは3三歩成、同銀(同金は2三飛成、同金、3二金以下詰み)、3一角、1一玉、3二角成の攻めがある。
 なので後手は3一歩と受けに回ったのだが―――
 4五角(図)と打って、「2三」を狙えば、後手はもう受けがない。(2四香としても、同飛、同歩、3三歩成以下詰み)
 先手の勝ちが決まった。

変化5五銀引図01
 【2】5五銀引(図)。
 この手に対しても、やはり4一角と打って、3二歩に、「3三香」と「5二角成」と、どちらの攻めでも先手がやれる。
 ここでは、「5二角成」を見ておこう(次の図)

変化5五銀引図02
 「5二角成」の後、7五金、7七玉、6六銀、8八玉、7六桂、9八玉、7七銀成、8九香、9五桂、7九金と進めて、この図になった。
 これで先手玉への“詰めろ”は続かないので、後手が攻めるとすれば6七と~7八とだが、6七とには、ここでも4五角がある。これでもう後手に受けがない。
 4四歩と先に受けてその手を消すなら、4一馬と入り、6七とに、5一竜で、先手勝ち。

 それなら、開き直って5二歩と馬を取って「詰ませてみろ!」と勝負してきたとき、どうやって詰ますか。(金香を受けに使ったため持駒が減っている)
 “答え”は、3三角と打って、同銀、同歩成、同玉、3四歩、同玉、3五金、3三玉、2三飛成(次の図)

変化5五銀引図03
 これで、“詰み”。

変化6五歩図01
 【3】6五歩(図)。
 これも、「4一角、3二歩、5二角成」でも、「4一角、3二歩、3三香」でも、どちらも先手良しになるというのが調査結果。
 (ただしこの場合は、「4一角、3二歩、3三香」に、後手“3一金”以下の変化が難しく、「4一角、3二歩、5二角成」を選んだほうが、わかりやすく勝てる)
 この手に関しての調査の内容は省略する。

変化4四歩図01
 【4】4四歩 は、先手の狙い筋を先受けした手で、この図は、4四歩 に「4一角、3二歩」まで進んだところだが、ここで5二角成は、同歩と取られ、先手失敗する。「4三」のスペースがある関係で、後手玉が詰まないからだ。
 しかしここで「3三香」の攻めならば、調べたところ、どうやら成立している。

 「3三香」に、同銀 なら、(同歩成を保留して)5二角成とするのがよい。(次の図)

変化4四歩図02
 これでわかりやすく「先手勝ち」になっている。
 先手玉は詰まないので、後手は4二銀左引くらいしかなさそうだが、それには3三歩成とし、同銀(同桂は2三飛成以下、同歩は3二金以下詰み)に、5一竜で、先手勝勢である。

変化4四歩図03
 「3三香」に、3一金(図)の場合、注意すべきことがある。
 ここでも「5二角成」や「3二香成、同金、5二角成」は、“同歩”と取られて先手負ける。
 そうなるとここは、「3二香成、同金、1一角」の攻め筋で勝つしかないのだが、単純にそれをやると、以下1一同玉、3二角成に、4三角と王手で打つ手があって、つくった馬を消されてしまう(以下形勢は不明)
 ということで、それを見越して、正解手順は「3二香成、同金、5四歩」になる(次の図)

変化4四歩図04
 5四同銀に、それから狙い筋の「1一角、同玉、3二角成」を決行すれば、後手はほぼ受けがなく、先手の勝ち。
 なので、後手は5四同銀とはせず、3一歩と粘る。以下、5三歩成、同銀上。
 そこでどうするか―――6一角が良いようだ。以下、7四歩に、8三角成(次の図)

変化4四歩図05
 先手優勢。後手は先手玉を捕まえるのが難しいし、先手に桂馬の一枚でも入れば、途端に後手玉が(先手1五桂などがあって)ピンチになる。

変化6三桂図01
 【5】6三桂(図)に対しても、「4一角、3二歩、3三香」と攻める。
 (この場合、「4一角、3二歩、5二角成」は形勢不明の戦い)

変化6三桂図02
 3三同銀 は、同歩成、同玉、5二角成で、先手優勢になる。
 3一銀 も、5二角成が、次に3二香成以下“詰めろ”で、先手優勢。

変化6三桂図03
 3一金(図)。
 この場合、「3二香成、同金、5二角成」は、7五銀、7七玉、8五桂、8八玉、2四香以下、後手良しになる。
 正着は、「3二香成、同金、1一角」のほう(次の図)

変化6三桂図04
 以下1一同玉、3二角成に、5八角なら、8六玉。
 先手玉は詰まず、後手玉は“受けなし”なので、先手勝勢。

変化6三桂図05
 他に、「3三香」に、後手7五銀(図)という手がある。
 これは、同飛と取る。(7七玉は先手悪い)
 飛車が2筋からそれたこの瞬間に、後手3三桂。ひねった手順だ。
 これには、3三同歩成、同銀、3一金と、ゆるまず攻める(次の図)

変化6三桂図06
 3一同玉には、5二角成。4二金なら、5一竜でよい。
 先手勝勢。

2五飛基本図(再掲)
【1】7四歩 → 先手良し
【2】5五銀引 → 先手良し
【3】6五歩 → 先手良し
【4】4四歩 → 先手良し
【5】6三桂 → 先手良し
【6】6五桂
【7】8四歩
【8】3二歩
【9】3五金

 【1】【5】 については、4一角と打ち、3二歩に、「5二角成」か「3三香」のどちらかの攻めで先手が勝てるとわかった。
 他に、5六と5五桂の手に対しても、この攻めで、先手が勝てる。
 しかし、次の手からは、そういうわけにはいかない。

変化6五桂図01
 【6】6五桂(図)は、先手の打った「2五飛」の横利きを止め、そして先手玉の下への退路(7七)を封じた手。先手玉に7五金の“詰めろ”がかかった。これではさすがに4一角と攻める余裕はないわけである。
 先手は8六玉とする。(他に6六角~9三角成もある)
 後手は8四歩とさらに“詰めろ”で迫る。
 先手は9五金と応じる(次の図)

変化6五桂図02
 後手の攻め、先手の受けという展開になったが、先手が次に8四金とすれば、もう先手玉は捕まらなくなるので、後手も甘い手は指せない。
 なので、後手6三金。後手の勝負手である。6三金には、しめたとばかりに4一角と打ちたくなるが、それは後手の仕掛けた“わな”で、8五金、同金、同歩、同玉、7四金、同角成、9四金、9六玉、7四歩で、後手優勢となる。
 6三金には、7九香と受ける。
 それでも後手は7四金。以下、同香に、8五金、同金、同歩、9六玉、8四桂、8五玉、9四金、8六玉、7四歩(次の図)

変化6五桂図03
 先手玉にまた“詰めろ”がかかっている。しつこい攻めだ。
 先手は9六歩と逃げ道をつくる。(実はここで3三角と打てば後手玉は詰んでいるようだがその詰み筋は難しい。9六歩が実戦的だ)
 9六歩、7五銀、9七玉、8五金、4一角、9六金、9八玉、3二歩打、3三金(次の図)

変化6五桂図04
 3三同銀、同歩成、同玉、3四歩、同玉、4五銀、3三玉、1一角以下、“詰み”

変化8四歩図01
 【7】8四歩(図)は、かなりの“強敵”である。
 というのも、例の「4一角、3二歩、3三香」も、「4一角、3二歩、5二角成」もこの“敵”には通用しないのである。
 それをまず確認しよう。

変化8四歩図02
 4一角、3二歩と進めて、この図である。
 ここで「3三香」は、後手に「3一銀」と応じられ、5二角成に、3三歩(次の図)

変化8四歩図03
 後手が「香」を取った手が、次に7五香から先手玉への“詰めろ”になっており、この瞬間は後手玉は詰まない。これは先手まずい。(以下は、ほぼ互角のきわどい戦いになるが調査では最終的には後手良しになった)

変化8四歩図04
 この図は、【7】8四歩 に、「4一角、3二歩、5二角成」の攻めを行った場合。
 対して後手は6五桂(図)だ。
 どうもこれで、先手が困っている。先手玉には、7五金と8五金の2つの“詰めろ”がかかっているが、それを受けるために6六角、4四歩、7三歩成としても、7五歩、同角、5二歩と応じられて、先手が勝てない図になっているようだ。(4四歩と受けた時に後手5二歩が可能になった)

 ということで、4一角からの攻めはこの場合通用しないのか―――と思えたが、我々は新たな工夫を発見した。

変化8四歩図05
 「4一角、3二歩」として、そこで「6五歩」(図)と打つのだ。
 5五銀上なら、5二角成で、先手勝てる。
 このまま無条件に6四歩~6三歩成となっては後手はいけないから、7五金、7七玉、6五銀 が考えられる応手。
 そこで先手3三香。

変化8四歩図06
 これで先手が勝ちになっている。3三同銀、同歩成、同玉には、5二角成で先手良しだ。
 また、3一銀には、5二角成だ。このとき、6四の銀がいなくなったために、ここで後手が3三歩と香車を取ると、今度は――――(次の図)

変化8四歩図07
 3二金(図)、同銀、3一角、同玉、5三馬から、後手玉は詰んでしまうのである。(これが“6五歩”の効果だ)

変化8四歩図08
 というわけで、6五銀 の手に代えて、8五桂 と打ち、8八玉に、7六金と攻めてきたのがこの図。先手玉はまだ“詰めろ”ではないが、持駒に「香」が加わると詰む。
 なので、ここで3三香は、(6四銀が生きていることも関係して)先手が負けになる。

 しかしこの図では、別の勝ち筋が生じている。

変化8四歩図09
 “4五角”と打つ手だ。 次に3三歩成から2三角成がある。
 1一桂と受けても、2六香(図)と打てば、“数の攻め”で、先手の勝ちが確定する。

 ということで、【7】8四歩 は、「4一角、3二歩、6五歩」で、先手良しとする。

変化3五金図01
【8】3五金(図)も考えられる手だが、これには4一角、3二歩、1一角という返し技がある。1一同銀に、3二角成。
 そこで後手に手があるかどうか(次の図)

変化3五金図02
 8四桂(図)に、8六玉、6八角、8五玉、7七角成、5五歩(次の図)

変化3五金図03
 7七角成で後手は馬を自陣に利かせてかかっていた“詰めろ”を凌いだ。
 しかし5五歩(図)とすれば、「先手良し」がはっきりする。同馬なら、自玉が安全になり、香を渡しても大丈夫なので、3三香として先手勝ち。
 といって、他の手もない。7六馬は、9五玉、9四馬、8六玉で、もう一度7六馬は9五玉――これは“連続王手の千日手”の反則になるので、続けることはできない。

変化3二歩図01
 さあ、この手、【9】3二歩 が最後の強敵―――つまり、“ラスボス”である。
 ここで4一角は、3一桂と受けられると、継続手がない。(3一金も形勢不明)
 
 どうやら 【8】3二歩 に対しては、「8六玉」が最善手ではないかと思われる(次の図)

変化3二歩図02(8六玉図)
 「8六玉」の狙いは、第一は“入玉”である。
 そう簡単に“入玉”できないが、ここで先手の番なら6六角~9三角成~9五玉で、ほぼ“入玉”できる。

 ここから後手が何を指すか。それが問題だ。
 有力手は、〔U〕5五銀引、〔V〕7四歩、〔W〕8四金。 それを順次見ていく。

変化3二歩図03
 〔U〕5五銀引(図)は先手の「2五飛」の横利きを止めつつこの銀を活用しようという手。
 この手には、9三竜が良いのではないかと思う。
 対して、後手8四金なら、同竜、同歩、9五玉とし、以下7一桂には4五角(次の図)

変化3二歩図04
 これで先手良し。3一桂には、2六香、6二金、4一金(後手玉を3一に逃がさない)と攻めていく。 
 またこの図で9二飛には、9四香と返す手がある。
 この先手の4五角以下の攻めが有効になるのは、後手が桂を一枚7一に使ったからで、“入玉”と見せて桂を使わせ、その瞬間に“攻め”に転じるという戦略である。

変化3二歩図05
 なので9三竜には7四歩(図)が本筋の手。
 以下、7六歩、9四歩、9六歩とする。9六歩に代えて、9四同竜は、8四金、同竜、同歩、9五玉が想定されるが、これは先手自信なし。7三銀と引かれて活用される手があって、“入玉”は容易でない。
 よって9六歩(次の図)

変化3二歩図06
 ここで7三桂には、9四竜とし、8四金、同竜、同歩、9五玉―――今度は、先手成功の図となる。後手の7三桂が無駄手になったばかりか、7三銀と引く手を消しているために“入玉”がしやすい。
 また、図で6七となら、8三竜以下、先手がやれる―――という研究結果になった。(この内容は省略する)

 ということで、この図で「8四金」を本筋の手として見ていく。
 ここで先手に6五歩という好手があった(次の図)

変化3二歩図07
 6五同銀なら、5五飛ではなく、8五香として8四金を除去するのがねらいである。
 6五歩に代えてすぐ8五香と打ちたいところだがそれは7五銀、同歩、同金から、打った香車が取られてしまうから先手が悪くなる。なので、6五歩、同銀に、8五香というわけである。
 それなら先手成功だが、ここで後手も7五銀としてくる。(代えて6六銀もあるが6四歩、6七と、4五角、1一桂、2六香で、先手が勝てる)

 7五銀以下、同歩、同金、9七玉、8五桂、9八玉、4四銀引(次の図)

変化3二歩図08
 4四銀引(図)では、6六銀と前に出たいところだった。だがそれは4五角、1一桂、2六香で、後手に受けがなくなって、先手勝ちが決まってしまう。 それで4四銀と引いた。
 先手は7九香。
 後手は6七ととしたいが、それだと5六角(詰めろ「と金」取り)と打たれてしまう。
 なので5六と。これは次に6六とと活用する意図。

 そこで7五香(同歩に8六銀)という手が考えられる進行でそれもあるが、ここでは8三竜から先手がリードできるので、その筋を紹介しておく。
 8三竜、6六と、8五竜(次の図)

変化3二歩図09
 竜で桂馬を食いちぎる。
 8五同金に、2三飛成、同玉、1五桂、2四玉、6八角(次の図)

変化3二歩図10
 1五桂と打って、2四玉となったとき、3六銀と打てば、後手玉はだいたい受けがない。ところがこの場合、3八飛(王手銀取り)で、その銀を抜かれてしまう。
 だからその前に、6八角と王手で打っておくのである。これで3五銀(桂)なら3六銀と打って、それで先手勝ちというわけだ。ここまで読み切っての、二枚の飛車切りである。
 図で2五玉には、4五銀と縛って、先手勝ち。

変化3二歩図11
 〔V〕7四歩(図)には、6六角と打つ。以下、5五銀引、9三角成、7五銀、9五玉、8四金、同馬、同銀、9四玉(次の図)

変化3二歩図12
 ここまでは必然の手順。
 ここで5八角の“王手飛車取り”があった。
 5八角、8三玉、2五角成、8四玉、3六馬、8三香(次の図)

変化3二歩図13
 先手良し。先手玉はまだ安全とは言えないので、実戦的には気を抜けない“これからの勝負”となるが、先手がリードしているのは確かだろう。(最新ソフトの評価値は+370)

変化3二歩図14
 〔W〕8四金。 「入玉は許さないよ」という手。
 これには7三歩成が有効手になる(次の図)

変化3二歩図15
 ここで6七とや5六とは、4五角と打つ筋でと金を抜かれてしまう。
 「7三同銀」を本筋として考えていくが、“5五銀引”という銀の活用も後手の有効手に見える。
 それには―――(次の図)

変化3二歩図16
 7六歩(図)と受けておき、以下、7五歩、4五角、3一桂、2六香、1一桂、7二角成が予想される。
 次に8三との狙いがあり、先手良し。

変化3二歩図17
 「7三同銀」に、先手は「4一角」と打つ。
 後手は3二歩を先受けしてあるが、次に5二角成がある。同歩なら3三金以下“詰み”
 ここで7四桂と打つ手はどうか。これには7七玉。
 そこで3一桂と受ける。先手は2六香。次に4五角と打てれば先手勝ちになる。
 なのでこれも4四歩とそれを受けるが、その手には6五角(次の図)

変化3二歩図18
 これで後手に受けがなくなった。4三銀には、5二角成、同銀、5一竜。(4三金には5一竜、同銀、4三角成)

変化3二歩図19
 7四桂と早く打ってしまうと、後手の受け駒がなくなって後手は負けてしまうとわかった。
 それではと、3一桂(図)と単に受ける。(5二角成は同歩と取れる)
 手番は、先手。 何を指すか(次の図)

変化3二歩図20
 4七歩(図)。 4七同銀不成なら、5五角と打てる。
 では、〈い〉4七同と ならどうなるか。 その場合、先手はいったん9六歩としておく。
 以下、6六歩に、3三香(次の図)

変化3二歩図21
 3三同桂、同歩成、同玉(同銀は5二角成がある)、1一角、3四玉、3六金(次の図)

変化3二歩図22
 先手勝ち。

変化3二歩図23
 4七歩に同とではさすがにまずかった。後手は何か攻めなければ勝てない。
 ここで〈ろ〉7四桂(図)と桂を打ってみる。
 先手は9六玉(7七玉もあるかもしれない)
 以下、9四歩、4六歩(9五金、同飛、同玉は先手良し。以下8四銀、9四玉、9五飛、8三玉、9一飛には、5五角がある)、6四銀右、3六香(3三銀以下の詰めろ)、4四銀、1一角(次の図)

変化3二歩図24
 1一同玉に、3二角成。 「2五飛」が受けに利いているので角を渡しても詰まない。
 2二角に、4一銀(次の図) 

変化3二歩図25
 先手勝勢になった。

変化3二歩図26
 〈は〉7四銀(図)ならどうなる。
 4六歩、7六歩、3六香(3三銀からの詰めろ)、4四銀。
 ここで先と同じように1一角とすると、同玉、3二角成に、6八角から(9六玉、9五金、同飛、8四桂となって)先手玉が詰まされてしまう。
 
 ここは5三歩の手裏剣がある。 同金に、1五角と打つ(次の図)

変化3二歩図27
 ここで後手5二金は、同角成、同歩に、2三飛成、同桂、3一銀、同銀、同竜、同玉、4二金以下、後手玉詰み。
 よって、2四桂と受ける。
 2四桂、9六歩、1四歩(5九角と引かせて3六桂と香車を取るつもりだが)、3三歩成、同銀引、同香成(次の図)
 (3三歩成を同桂は、2四飛、同歩、3四桂、1三銀、2二銀、2三玉、4二桂成と寄せる)

変化3二歩図28
 3三同銀なら、5一竜で“受けなし”になる。
 といって、3三同玉は、3五飛、3四香、同飛、同玉、3九香で、先手勝ち。
 ということで同桂としてみるが、それには1一銀がある。1一同玉に、3二角成(次の図)


変化3二歩図29
 先手勝ち

 〔W〕8四金には、先手の「2五飛」の横の利きが絶大で、7三歩成以下、先手優位に展開できる。

変化3二歩図02(再掲8六玉図)
 〔U〕5五銀引、〔V〕7四歩、〔W〕8四金 はいずれも「先手良し」となった。
 他に考えられる後手の手として〔X〕6七と、〔Y〕4四銀、〔Z〕9四歩がある。
 以下、それらの手に対する先手の対応を簡単に書いておく。

変化3二歩図30
 〔X〕6七と には、4五角と打って、3一桂に、7二角成(図)とする。以下7四歩に8三馬とすれば、“入玉”はほぼ確定。先手良し。

変化3二歩図31
 〔Y〕4四銀 は、次に後手3五銀引のような手を狙っている手。
 しかしこれには、5三歩(図)がある。
 5三同金に、8二竜、5二金、7三歩成で、先手優勢。

変化3二歩図32
 〔Z〕9四歩 には、8五金(図)とする。9四金から、やはり“入玉”をめざして上部開拓をする方針。これも先手が良い流れ。

変化3二歩図02(再掲8六玉図)
 【8】3二歩 には、「8六玉」(図)で、先手良しが結論。





2五飛基本図(再掲)
【1】7四歩
【2】5五銀引
【3】6五歩
【4】4四歩
【5】6三桂   → すべて先手良し
【6】6五桂
【7】8四歩
【8】3五金
【9】3二歩


 すなわち、こういうことになる ↓

≪5九金図≫
   <1>2五香 → 先手良し
   <2>4一角 → 先手良し
   <3>6六角  = ≪一番勝負≫で我々が選択した手
   <4>8六玉 → 先手良し
   <5>8五玉 → 先手良し
   <6>2五飛 → 先手良し

 つまりこの≪5九金図≫の局面で、先手は少なくとも5つの「勝ち筋」があったということである。
 我々が実戦で選択した<3>6六角は、さて、「勝ち筋」がある道だったのかどうか。
 それは、これから明らかになるであろう。


 ところで、この図の2手前の局面―――すなわち、次の図(4二銀左図)で―――

≪4二銀左図≫
 ここで「2五飛」としたらどうなるだろうか。
 対して後手の指し手は5九金。
 そこで先手が9一竜と指せば(たぶんそれが最善手)―――

 今回の図、すなわち「2五飛基本図」に合流するのである。
 つまり、この≪4二銀左図≫での「2五飛」も、「先手良し」となるのである。

 また、上の≪4二銀左図≫から“7三歩成”とした変化も前に研究したが、その場合にも「2五飛」が出てきた。

参考図
 この図である。この場合も「2五飛」があったので、“7三歩成”以下の変化もこの後手の「4二銀型」に対しては成功となったのであった。(その内容はこちらで)

 「4二銀型」に対しては、「2五飛」が有効であることがわかっていると、この後手の陣形を攻略しやすくなる。
 とはいえ、それも“闘いを経験した後”に、いろいろ調査研究してやっとわかったことなのだが。

終盤探検隊 part118 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第17譜

2019年05月06日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第17譜 指始図≫ 6六角まで

 指し手  △5五銀引


    [枕草子 二十六段 心ときめきするもの]

雀の子飼(こがひ)。
ちご遊ばする所の前わたる。
よき薫物(たきもの)たきて、一人臥したる。
唐鏡(からかがみ)の少し暗き見たる。
よき男の車とどめて案内し問はせたる。
頭(かしら)洗ひ化粧じて、香ばしうしみたる衣など着たる。殊(こと)に見る人なき所にても、心のうちはなほいとをかし。
待つ人などある夜、雨の音、風の吹きゆるがすも、ふと驚かる。
                      (清少納言『枕草子』より)



 清少納言は西暦でいうと966年~1025年頃を生きた女性で、この随筆『枕草子』によってたいへんに有名である。

 この「二十六段 心ときめきするもの」には、「唐鏡(からかがみ)の少し暗き見たる」として、「心ときめきするもの」の一つとして挙げている。
 しかしなぜ鏡が暗くなると心がときめくのか。「鏡が暗くなる」とはどういうことなのか。――――謎である。
 「鏡」をのぞいて、なにか通常と異なる変化(暗くなる)があったとき、何かが起こるという言い伝えがあったのかもしれない。

 また、そもそも『枕草子』の「枕」の意味が謎なのである。この書のあとがきに本人による説明があるのだが、その説明の中の「枕」の意味がわかっていないのだ。



<第17譜 再調査による評価の逆転>

≪指始図=6六角図≫

 ≪亜空間最終一番勝負≫、我々終盤探検隊は、6六角(図)を選択した。
 これは我々としては“Bプラン”であった。いわば保険のようなつもりで残していた道であるが、他の手――4一角や2五香――がうまくいかないとわかった以上はしかたがない。

 しかしコンピューターソフト「激指14」的には、これがベストの手である。

 「6六角」は、相手が5五銀引や4四歩と受けて、9三角成とするのが予定である。
 敵――≪亜空間の主(ぬし)≫――はどう受けてくるだろうか。(他に4四銀もある)


≪最終一番勝負 第17譜 指了図≫ 5五銀引まで

 ≪ぬし≫は5五銀引と引いた。
 予想通りだ。これが一番いやな応手だ。


 この続きは第18譜で―――



 さて、今回の譜では、以下、前回に続き、次の図の“事後検証”の内容を記していく。
 すなわち、今回の指始図(6六角図)の一手前の局面についての研究である。

≪5九金図≫
   <1>2五香 → 後手良し
   <2>4一角 → 後手良し
   <3>6六角  = ≪一番勝負≫で我々が選択した手
   <4>8六玉 → 先手良し
   <5>8五玉 → 先手良し
   <6>2五飛

 今回の譜では、<1>2五香と、<2>4一角について、“再検証”をしたいと思う。
 この手はどちらも、戦闘中に「後手良し」と結論を出したのであったが、“ちょっと気になる手”があって、再調査の必要があると考えるからである。


[再調査 <1>2五香]

2五香基本図
 この <1>2五香 に「2五香ロケット砲」として期待をかけたのだったが、後手「3一桂」の手があって、先手の継続手がないということで、「後手良し」と結論を下し、この「ロケット砲」は捨てざるを得なかった。(そのことは前々回第15譜で記した)

2五香図01
 この「3一桂」である。
 
 ところが、「ここで8六玉なら先手もチャンスがあるのではないか」と、今回の調査を経験して、思うわけである。
 ここでの「8六玉」は、その後の展開がはっきり読めず、見通しが立たないので、戦闘中は“考えたくなかった”というのが本音である。
 しかし前譜での研究(2五香を打たずにすぐ<3>8六玉)を経験値として蓄積した今、この図を見ると、「8六玉」で勝てるような気がしてきたのだった。
ほんとうのところはどうなのだろう? ―――ということで、調査したい。

2五香図02
 「8六玉」として、この図である。
 2五香と3一桂との手を交換し、後手の持駒から一枚「桂」が消えた。そのことを先手にとってプラスとして、この図から先手は勝てるのではないか。
 実は、「2五香、3一桂」とした上の図でのソフト「激指」の示す最善手は「8六玉」で、戦闘中もそれはわかっていた。わかってはいたが、“気がすすまない”という理由でその先を考えなかったのである。(「激指14」のこの図の評価値は-177)

2五香図02(再掲)
 ここで後手の有力な候補手は、〔壱〕8四歩〔弐〕7四歩〔参〕8四金〔四〕6七と〔五〕5五銀引〔六〕4四歩

 図で先手の手番なら、6六角と打って、以下5五銀引、9三角成として、次に9五玉から“入玉”をねらう。そこで8四金は、同馬、同歩、9五玉で先手成功の図となる。
 これが「8六玉」作戦の狙いの一つで、それを後手は簡単に許してはいけない。
 上の六つの候補手は、それを阻止するということが含まれている。

 まず、〔壱〕8四歩 から。
 これは以下、6六角、5五銀引、8四角、9四金となるが、そこで8三飛と打つのが良い(次の図)

2五香図03
 8三飛(図)。 妙な手に見えるかもしれないが、これで次の9三角成を見せて、先手の“入玉”は防げないから、先手成功なのだ。
 ただし、もしも後手が桂馬を二枚持っていたら、先手失敗となっていた。つまりこの図で後手8五歩、9六玉とした後、“7二桂”と打たれ、この図では9三角成で問題ないが、後手の手に桂馬がもう一枚あれば、9三角成に“8四桂打”とつなぎ桂があり、それで先手が悪いというわけなのだ。
 この図、先に「2五香、3一桂」の交換で、後手の桂馬が持駒から一枚消えたことで、この8三飛が有効になったのである。

 〔壱〕8四歩 は先手良し。

2五香図04
 次に 〔四〕6七と を片付けていこう(比較的説明がかんたんなので)
 これには、8二飛と打つのが良い(次の図) 

2五香図05  
 この飛車打ちには2つの狙いがあり、5二飛成と、8三飛成である。
 5二飛成を防げば、8三飛成から竜をつくって、“入玉”作戦。6二銀、8三飛成、9四金などと抵抗しても、同竜、同歩、8五玉で、“入玉”を計って、先手良し。
 だからといって、この図で8四金と打って“入玉”を防ぐと、5二飛成である。以下、3二歩に、4一角(次の図)

2五香図06
 後手は“受けなし”で、先手勝ちが確定。

2五香図07
 次は 〔五〕5五銀引(図)。
 これは前回の報告でほぼ同じような図のときに説明したが、この場合は8二飛ではなく、6一角と打つのが優る。
 重複になるがその理由をあらためて示しておくと、8二飛だと、6六銀(詰めろなので5二飛成とはいけない)、8三飛成、8四歩、同竜、7五銀上、9五玉に、7二桂と打たれ―――(次の図)

2五香図08
 以下、9三竜右に、8四金、同竜、同銀、9四玉、9五飛と打たれて、先手まずい。この図は、先手失敗の図である。
 もしも取られる駒が「竜」ではなく、「馬」なら、9五飛がないので、先手成功だったわけである。これが「8二飛より6一角が優る理由」である。

2五香図09
 というわけで、〔五〕5五銀引 には、6一角(図)と打つ。
 図で6二金や3二歩などの受けなら、8三角成と馬をつくってやはり“入玉”狙いだ。
 ここでは、後手8四歩の場合を見ておこう。
 8四歩には、5二角成。 攻め合いだ。
 この角は同歩とは取れないし、このままでも3二金、同玉、4一角から後手玉は詰む。
 よって、3二歩と打って受ける。今度は後手から5二歩と角を取られる手があるので、先手は4一馬と入る。だがこの4一馬の瞬間は少し甘く、後手玉への“詰めろ”にはなっていない。
 なので後手は6六銀と出て、これで先手玉のほうに“詰めろ”がかかった。
 先手は7三歩成(次の図)

2五香図10
 7三歩成(図)で、4一馬の利きを8五に通し、先手玉の詰みを消している。
 手番の後手は何を指すか。 8五金 は、同馬、同歩、9五玉―――これは先手良し。
 7四桂、同馬、7三銀という手順もあるが、4一馬で、やはり先手が良い。
 ここはどうやら「先手良し」のようだ。

 5二桂、それから7三同銀 でどうなるかを書いておこう。

2五香図11
 5二桂 で、また先手玉に“詰めろ”(8五金)が復活したが、対して、先手は3三金(図)と攻めていく。
 以下、同桂、同歩成、同玉(代えて同銀は3一馬、同玉、5一竜以下詰み)、3六飛、4四玉、4五歩(次の図)

2五香図12
 2手前の手で、先手の3六飛こ対して3四金合なら、後手玉に詰みはなかったが、1一角、2二金、4五金で、先手の勝ちがあっさり決まってしまう。
 よって、ここは4四玉と逃げたのだが、それは4五歩(図)からの“詰み”がある。
 4五同玉に、6三角と打って、5四銀、3五金、5五玉、4七桂、同と、5六歩、6五玉、7四角成まで、持駒をすべて使ってピッタリと詰んだ。7三のと金も働いた。

2五香図13
 もう一つの手、7三同銀 は、もしも後手の手番なら、7四桂で後手勝ちだ。
 しかし手番は先手。 3三歩成(図)から寄せがある。
 3三同玉の形は、先ほどと同じように3六飛と打って寄ってしまう。
 3三同銀は、3一馬、同玉、5一竜、4一桂、同竜、同玉、6三角、5二歩、6一飛、5一角、5二角成以下“詰み”。
 3三同桂も、3一馬から“詰み”がある。
 3三同桂、3一馬(これを同玉は2二金、同玉、3四桂)、同銀、3四桂、1一玉、2一金(次の図)

2五香図14
 2一同玉、2二金、同銀、4一飛、3一桂合(代えて3一銀は同飛成、同玉、5一竜)、2二桂成、同玉、1一角以下の“詰み”。

2五香図15
 〔六〕4四歩 は、先手の第1の狙い6六角と第2の狙い8二飛の両方に対応している。
 ここで8二飛なら、8四金で後手良しになりそう。5二飛成には、同歩と取れる。4三が開いたことで、後手玉がこのときに詰まないからだ。
  〔六〕4四歩 は、見た目は地味だが、なかなかの手なのだ。
 先手はどう指すか。

2五香図16
 5四歩(図)と叩きの歩を入れ、5三の銀を動かす。
 同銀には、7一角と打って、5三銀左に、9三角成とする狙いで、こう進むと先手が良い。
 なので6二銀とするが、先手は6六角と打つ。これを5五銀引などでは9三角成で結局馬をつくられて、それでは後手おもしろくないので、8四歩と勝負する。
 そこで4一角(次の図)

2五香図17
 ふつうは3二歩と受けるが、この場合はそれは4四角で後手困る。3三桂打のような受けは、同歩成、同銀、3四桂で無効だから。
 ということで、3二桂と受ける。こうして4四角には3三歩と受けるつもり。
 ここで8四角として、9四金に8三飛―――これでも先手が良いが、4四角からきれいな寄せがあるので、そちらを紹介する。
 4四角、3三歩、そこで4三歩(次の図)

2五香図18
 これがかっこいい手。同桂は2六飛で先手勝ち。同金は6二角成。
 なので4三歩を取るなら、同銀だが、それには、3三歩成、同桂、1一飛という寄せがある。以下、1一同玉、3三角成、2二金、3四桂で、寄っている。

 というわけで、この図で、後手は5五銀引で頑張る手が考えられる。
 5五銀引、4二歩成、同金、3三歩成、同桂(同金は6二角成)、2三香成、同桂(同玉は2四金以下詰む)、4三金(次の図)

2五香図19
 これで先手勝ち。
 4三同金、3二角成、同玉、2四桂、4一玉、3二銀、5二玉、6二角成、同玉、6一飛以下“詰み”。
 このままなら3三角成、同金、3四桂から詰む。4四銀と角を取る手も、3二角成、同金、3四桂から詰みがある。3一金と受けても、3三金、同金、3四桂、2一玉、3三角成で、先手勝ち。

 先手としては、2五香をしっかり捌いての寄せがとても心地よい寄せであった。

2五香図02(再掲)
 ここまでの検討で、〔壱〕8四歩〔四〕6七と〔五〕5五銀引〔六〕4四歩 は、「先手良し」と決まった。

 残るは 〔弐〕7四歩 と、〔参〕8四金 だが、この二つの手が手強い手なのである。

2五香図20
 〔弐〕7四歩(図)には、7六歩もあり有望な手だが、この後の変化が多く、我々はまだ調べ切れておらず形勢不明としか言えない。(つまり、「互角」だが勝ち筋がまだみつからない)
 最有力手は、「6六角」である。これを見ていこう。
 6六角、5五銀引、9三角成、7五銀、9五玉、8四金(次の図)

2五香図21
 以下、8四同馬、同銀、9四玉。ここまではほぼ一本道。
 しかしそこで7二角と打って、後手は先手をやすやすとは“入玉”させてくれない。
 以下、7三歩、9三歩、同竜、7三銀、7一飛、6二金(この手で8二桂なら同竜、同銀、7二飛成となる)、8二金(次の図)

2五香図22
 まだ先手玉は安全とは言えず、まだまだ実戦的にはたいへんであるが、ここは、少しながら、確かに「先手良し」と言える図になっていると考える。最新ソフトの評価値も[ +500 ]くらいで先手に傾いている。
 (「激指14」の評価は[ +184 ]。 入玉に辛い評価を出す傾向が「激指」にはあるので、プラスなら先手良しと見てよいと判断する)

 これにて、〔弐〕7四歩 も先手良し、とする。

2五香図23
 後手最後の候補手は、〔参〕8四金
 先手の2五香と後手3一桂との手の交換で、お互いに持駒を一枚少なくしているわけだが、2五香を手放したことで、この8四金を8五香のような手で取り除く手がなくなっている。
 そういう意味でも、“強敵”なのがこの 〔参〕8四金 である。
 ここで9六歩として、後手が6七ととした場面をずっと調べてみたが、どうも先手が悪いようだ。
 ということで、この図は「先手が勝てない」と、いったんはそう結論付けたのであったが、しばしの時を経て、ここで「7三歩成」が有望であると気がついた(次の図)

2五香図24
 7三歩成(図)としたところ。
 これを後手同銀なら、先手が指しやすくなる。具体的には、いったんは9六歩と懐を広くしておき、それから1五歩~1四歩のような攻めが間に合う。(9六歩に8五桂なら9五金と対応して先手良し)
 他に5五銀引や6七となら、8三と、同金、6一角、8四金、5二角成で、先手が勝てる。

 だから後手は、図で、7五銀と前進させてくるのが本筋の手。 これには、9六玉。
 以下、9四歩に、7七角、6六歩、8二飛(次の図)

2五香図25
 8二飛(図)は、次に8三とが狙いである。
 6七と、8三と、8一歩、同飛成(同竜だと後で損をする)、7七と、8四と、6三角(次の図)

2五香図26
 “王手龍取り”。 8一の竜を取られて9五飛と打つと先手玉が詰む。
 それを避けて、先手は8五金と受ける。
 以下、7六銀、9四と、8五銀、同竜、7五金、7四歩、同金(次の図)

2五香図27
 もしも先ほどの後手の8一歩を9一の竜で取っていたら、いまだに8一で竜が“角の当たり”になって残っていたところだった。それにしても、後手はしぶとくつないでくる。
 この図で、先手は8三竜が正着。後手のねらう8四金に6三竜と切り返す意図である。
 それでは後手おもしろくないので、8四桂とひねってくる。以下、同と、同金、6三竜、9五歩(次の図)

2五香図28 
 素直に6三同金では、3三歩成、同銀、8二竜で先手勝ち。ということで後手は9五歩(図)。
 8六玉、8五歩、7七玉と、先手玉を下に落としてから、6三金と手を戻す。
 以下、4一角、3二歩、8二竜、5七飛、8八玉、6七歩成(次の図)

2五香図29
 図の6七歩成に代えて5八飛成なら7八歩で問題ない。続いて6七歩成に8九銀とし、後手は持駒がなく、速い攻めがないので先手がやれる。
 よって6七歩成(図)だが、これで先手玉に5八飛成以下の“詰めろ”をかけた。 

 しかしここは、先手がどう勝つかという場面になっている。
 3三歩成とする。同玉しかないが、1一角、3四玉、4八金(次の図)

2五香図30
 4八金(図)。 5八飛成さえ防げば、怖いところはない。(7七とは同角成)
 以下は、5四飛成に、3六銀と縛って、先手の勝ち。


2五香図02(再掲)
 以上の調査研究の結果、この図は「先手良し」と結論する。


2五香基本図
 すなわち、<1>2五香 戦法成功である。(結論がひっくりかえった!!)


[再調査 <2>4一角]

4一角基本図
 <2>4一角
 この手についても、再調査したい理由がある。

4一角図01
 後手は「3二歩」(図)だが、ここで3三歩成として、同銀に、3六香というのが、「3六香ロケット砲」として我々が期待していた攻め筋だったが、それは3一桂という受けで勝てないと判って、それで<2>4一角からの攻めはあきらめた―――というのが、戦闘中の“読み”。 その内容は前々回第15譜で報告した。

 ここであらためて考えたいのは、この図で、「 3三香 」と打ちこむ手は成立するかということである。
 (「激指14」は10コの候補手の中に「3三香」を入れていない。最新ソフトでは3番目の候補手になっていて、評価値-206)

参考図A1
 我々(終盤探検隊)がこの「4一角~3三香」に攻めが後手「4二銀型」に対して有効と知ったのは、“戦後”の研究調査の中でのことだった。最初に気づいたのが、この参考図である。
 この図は、先手の「3四歩」に対し、後手が「4二銀引」と応じた手に対して、すぐに「4一角」と角を打ちこみ、「3二歩、5八金、同と、9一竜」と進めたところである。
 5八金で「金」を補充し、9一竜で「香」を補充する。そして「飛角金金香歩」という持駒が先手にはある。この豊富な持駒があってこその「3三香」の攻めだと、この攻め筋を知った時には思っていた。
 実際、上の図(4一角図01)とこの参考図とを比べてみると、上の図での持駒は「飛角金香歩」で、たしかにこの「参考図A1」のほうが「金」が一枚多い。
 しかし手番がちがう。上の図では手番は先手にある、この参考図では手番は後手である。
 だからこの図で後手が“詰めろ”以上に速い攻めをしてくれば、先手は「3三香」と攻めていく余裕はない。実際、7五金、7七玉、6五桂、8八玉、7六桂、9八玉、7七桂成とくれば、“詰めろ”なので、8九金と受ける(次の図)

参考図A2
 「3三香」と打ちこみたいので、「金」で受ける。これを逆にして「香」で受けて「3三金」と攻めると相手に金が渡ってしまうために負けになる。けれども「3三香」なら勝てるのだ。
 8九金と受けて、後手からの“詰めろ”はもう続かない。先手玉に迫るとすれば、6八とになる。
 でもこれは“詰めろ”ではないので、ここで「3三香」と攻めて勝てることを、最新ソフトを使って、我々は発見したのだった。(発見したのが対戦中でなかったことが残念だ。「激指」はこの攻めを教えてくれなかった)

 この攻め筋―――「4一角~3三香」は、後手の「4二銀型」のこの玉型に対して、いろいろな場面で有効になることが、調べれば調べるほど明らかになってきた。
 そしてよく考えてみれば、この図で「3三香」と打ちこむ直前、先手の持駒は(金を一枚受けに使っているので)「飛角金香歩」―――つまり―――

4一角図02
 この図とまったく同じ持駒なのである! 
 それなら、ここでも「3三香」で勝ちになる可能性は大いに考えられるのではないだろうか―――と、遅ればせながら、気づいたのであった。

 「 3三香 」(図)と打ちこんで、さあ、どうなるか。検討していこう。
 後手の応手は、この香を取る手、それから、3一銀と引いて受ける手、そして3一金と打つ手の3通り。
 3三香を取るなら、同桂 だろう。そして先手「同歩成」。
 そこで「同玉」か、「同銀」か。
 (しかしいずれにせよ後手は「金桂桂香」と持ってもまだ先手玉を詰ませることはできない)

 「同玉」の場合は、「1一角」と打って―――(次の図)

4一角図03
 「1一角、3四玉」に、「3六金」(図)と縛ったところ。
 「これで先手勝ち」と言いたいところだが、本当にそうなのかしっかりと確認しておこう。
 (ここで後手3五金なら、2六桂、2四玉、5二角成で先手勝ち)

 後手は8四桂と打って、7七玉に、6五桂、7八玉。 そこまで決めて、3五銀(次の図)

4一角図04
 3五銀(図)で勝負する手がある。これが実戦で時間のないところだったら先手も焦るかもしれない。
 金銀交換になれば、後手の持駒が「金金香」となり、先手玉も詰まされる状況になる。

 この手には、4六桂で良い。
 同銀、同金に、後手は8六桂。なかなかこういう手までは予測できないものだが、「勝ちを読み切る」とは、それをやることだ。8六桂は、同歩で大丈夫。
 以下、7七金(次の図)

4一角図05
 7七金(図)。
 対して8九玉なら、8七香がある。さっき8六桂と捨てたのはこの香打ちの空間をつくるためだった。
 よって、ここは7七同馬しかない。以下、同桂成、同玉。
 さらに後手5五角。 同金、同銀―――そして、3六銀(次の図)

4一角図06
 3六銀(図)ともう一度“縛(しば)り”を入れて、これで先手の勝ちが確定した。

4一角図07
 「3三同銀」(図)。(先手「3三香」に、「3三桂、同歩成、同銀」と応じたところ)
 これには、先手は「5二角成」とする。
 さて、後手は―――「8四桂」(次の図)

4一角図08
 「金桂桂香」の持駒で、この先手玉を詰ますことはできないが、「8四桂」(図)と打てば、先手玉を下に落とすことができる。
 8四桂、7七玉、6五桂、7八玉、4二銀右。
 4二銀右は、後手玉の“詰めろ”を受けた手。

 この局面は、先手の勝ちになっている。決め手がある(次の図)

4一角図09
 ここは5一竜で、先手の勝ち。
 3一金と受けたとしても―――

4一角図10
 3四桂と打てば決まっている。 同銀に、4二馬で、後手“受けなし”。 

 「3三香」を取る手は先手勝ちという結論だ。

4一角図11
 3一銀(図)と引いて受けるのは?
 これにも、「5二角成」(次の図)

4一角図12
 これを同歩は、3二香成からわりと容易に詰む。よって取れない。
 後手はここで3三歩と香を取って勝ちたいところだが、香車を手にしてもまだ先手玉は詰まないので、3三歩には5一竜で、後手の負けがはっきりする。

 後手「7五金」から攻めてみる。以下7七玉(後手8四桂でも7七玉と逃げる)
 6五桂、8八玉、7六桂、9八玉に、7七桂成で、“詰めろ”がかかったが―――(次の図)

4一角図13
 後手玉は、3二香成以下の“詰み”になっている。
 その詰手順を確認しておこう。3二同銀、3一角、同玉、5一竜、2二玉、2一竜(次の図)

4一角図14
 2一同玉なら、3三桂と打って、同銀に、3一金、同玉、5一飛以下。
 2一同銀には、3三金、1一玉、2二金、同銀、2一飛、同玉、4三馬以下の“詰み”である。

4一角図15
 「3三香」に、3一金(図)。
 この「4一角~3三香」の攻め筋は「激指」の眼中にはまったくないようで、まるでこの攻め筋を評価しない。 それはおそらく、この 3一金 の応手があるからではないかと思われる。
 (この図の「激指14」の評価値は-451)

 この図で「3二香成、同金、1一角」は、この場合は先手が悪くなる。1一同玉、3二角成のときに、5八角と打たれ、以下8六玉、8四香、7七玉、6七角成、8八玉、6六馬、9八玉、3一歩で後手良し。
 また「3二香成、同金、5二角成、同歩、7一飛」で勝てればよいが、5八角、7七玉、6七角成、8八玉、3一歩で、後手勝勢になる。

 しかし、まだ、“最後の手段”があった。 

4一角図16
 「3二香成、同金」に、「8五玉」(図)である。
 後手が「金」を受けに使ったこの瞬間、“入玉”のチャンスが生まれている。
 ここで8四香には、9五玉として、次に9三竜とすればいい。

 この局面で、「激指14」と最新ソフトとの評価が大きく分かれることとなった。「激指14」は後手良し(評価値-543)、「dolphin1/orqha1018」は先手良し(同+542)  評価値に1000点の開きがある。

 もう少し進めてみよう。
 3一金、6六角、5五銀引、9三角成、4一金、9四玉、3八角、8三玉、2九角成、8一竜、3五桂、8二玉、6二銀、8六歩、7四歩、7二歩(次の図)

4一角図17
 先手は「角香」を犠牲に“入玉”したので、この時点では後手が駒得になっている。
 しかし「dolphin1/orqha1018」(以下「orqha」)の評価値は先手優勢で[+1255]。 一方、「激指14」は[-665]。 
 4四銀、7一歩成、1九馬、9一玉、7三銀引、7二と、8四銀(次の図)

4一角図18
 8二馬、7三銀引、8三馬(千日手を回避)、2七桂成、9六歩、3六歩、9六歩(次の図)

4一角図19
 これはもう「相入玉」が避けられない展開。
 「orqha」は評価値[+1501]、「激指14」評価値[-371]と、なんとここにきてもまだ「激指」は後手良しを主張している! (おそらく「激指」はどちらの玉が攻略できるかという比較のみで評価値を出しているのだろう。後手玉を先手が攻略する見込みはほとんどゼロ、先手玉を後手が攻略する見込みはわずかながらあるという判断かと思われる)

 こうなると後手玉を寄せることは困難で、ここからは入玉の点取りゲームになってくる。
 この闘いのルールは「24点法」である。
 現状は、先手の確保できている点数は20点くらい。しかし後手玉が“入玉”する間に駒が取れるはずなので、24点以上をクリアーするのは確実。よって、先手の負けはない。
 しかし「入玉24点法」ならば、「勝ち」を得るためには、“31点”が必要になる。(そうすれば相手の点数が23点以下になる)
 先手がここから“31点”を得ることができるかどうかは微妙である。
 
 そうすると、これは「持将棋」すなわち、「引き分け」の可能性も濃厚な将棋になっている。

4一角図20
 途中まで戻って、この図は先手8五玉に、後手3一金の場面。
 ここで6六角以下を調べたが、その前に、「5二角成、同歩」と角金交換をし、それから6六角はどうだろうか。以下、5五銀引、9三角成、5八角、9五玉(次の図)

4一角図21
 ここからの指し手はお互いに難しい。
 9二歩、同竜、7四歩、7二飛(次の図)

4一角図22
 「9二歩、同竜」は竜を移動させることで、先手が8三馬とすれば7一桂と打とうという意味がある。
 そして先手の7二飛は、その手を消しながら、後手の7三銀を許さないという受けの手。(同じ意味で7一飛もあるが、それだと後手9一歩が気になる。同飛成は7三銀があるし、同竜は6二銀がある)
 しかし7二に飛車を打つと、それを狙う手が生じてくる。後手3六角成が、飛車に当たる。
 3六角成、8二飛成に、7三銀、同竜、8一桂(大駒の両取り)、8三竜右、9三桂、9四玉(次の図)

4一角図23
 この図をどう見るか。
 この図も先手有利は間違いないところだが、実戦的にはたいへんである。ここから後手に8一歩とか、6六角、あるいは6四銀など、手段が多くあるから。
 ただし、この図なら、後手の“入玉”も阻止できそうである。「正しく指せば先手が勝ち」という図になっていると判断する。

 この結果から、3一金 も、「3二香成、同金、8五玉、3一金、5二角成 」以下、「先手良し」を結論としたい。

4一角基本図(再掲)
 さて、最後に、もう一度先手が「4一角」と打ったところ(4一角基本図)まで戻って、ここで 「3一金」 という手について触れておこう。つまり先手が「3三香」と打ちこむ前に、3一金と打つのだ(次の図)

4一角図24
 これには、5二角成、同歩、7一飛と打って、先手が優勢になる。
 7一飛と打ったときに、後手玉に、3三金、同桂、1一角からの“詰めろ”がかかっている。それを5一桂と受ければ7三歩成で先手良し。8一桂(同竜なら5四角)という受けもあるが、8六玉としておいてからその桂を取って、これも先手が良い。
 桂を受けに使うのでは勝てない―――ということであれば、“詰めろ”を消すには後手は1四歩が考えられる。
 それには、先手は7三歩成で―――(次の図)

4一角図25
 これでまた後手玉に“詰めろ”が新たに生じている。3一飛成、同銀、3三金、同桂(代えて1三玉は2四角、同玉、2五金、同玉、2六金、2四玉、2五香)、同歩成、同玉、3一竜以下。
 それを防ぎつつ攻防に4七角と打つ手が後手にあって、まだ先手の勝ちは決まらない。
 先手は8六玉とする。以下、6五角成、7六歩、7五歩、9五玉(次の図)

4一角図26
 こんな感じで、先手が優勢に進められる。と金の存在が大きい。

4一角図02(再掲)
 「 3三香 」 の攻めは成功しているようだ!!


 つまりは、こういうことになった(↓)

≪5九金図≫(再掲)
   <1>2五香 → 先手良し
   <2>4一角 → 先手良し
   <3>6六角  = ≪一番勝負≫で我々が選択した手
   <4>8六玉 → 先手良し
   <5>8五玉 → 先手良し
   <6>2五飛

 なんということだ。闘い中、有望と思って期待をかけた(でも勝てないとあきらめた) <1>2五香<2>4一角―――そのどちらも「勝ち」へと続く道だったのである。

 <3>6六角 もそうであると良いのだが。


第18譜につづく