はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part117 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第16譜

2019年04月27日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第16譜 指始図≫ 5九金まで

 指し手  ▲6六角


    [鏡鏡鏡鏡] 

   岩手軽便鉄道の一月

ぴかぴかぴかぴか田圃の雪がひかってくる
河岸の樹がみなまっ白に凍ってゐる
うしろは河がうららかな火や氷を載せて
ぼんやり南へすべってゐる
よう くるみの木 ジュグランダー 鏡を吊し
よう かはやなぎ サリックスランダー 鏡を吊し
はんのき アルヌスランダー ≪鏡鏡鏡鏡≫をつるし
からまつ ラリクスランダー 鏡をつるし
グランド電柱 フサランダー 鏡をつるし
さはぐるみ ジュグランダー 鏡を吊し
桑の木 モルスランダー   鏡を……
ははは 汽車こっちがたうとうなゝめに列をよこぎったので
桑の氷華はふさふさ風にひかって落ちる
                      (宮沢賢治『春と修羅 第二集』より)


 この宮沢賢治の詩は、1926年(大正15年)1月に記されたもの。
 この「岩手軽便鉄道の一月」の詩が、『春と修羅 第二集』として世に出す予定だった詩集の最後尾の詩になっている。
 岩手軽便鉄道の列車の車窓から見た木々の氷華(ひょうか)がキラキラしてとても面白かったのだろう、それを「鏡」として表現している。
 宮沢賢治は、有名な『やまなし』や『銀河鉄道の夜』でもわかるように、“光”の見え方が常人よりとても繊細な人だったようだ。
 ≪鏡鏡鏡鏡≫の部分は、原稿では、実際には存在しない、「鏡」の字を4つ2×2の配置に重ねて置いた漢字として表記されているらしい。
 しかしなぜ、「はんのき」だけが ≪鏡鏡鏡鏡≫ なのだろう。特別に「はんのき」の氷華がゴージャスに輝いていたのかもしれない。



<第16譜 やはり、勝ちがあったんだ!!>


≪5九金図≫
   <1>2五香 → 後手良し
   <2>4一角 → 後手良し
   <3>6六角
   <4>8六玉
   <5>8五玉

 我々終盤探検隊は、「ここで何か勝ちがある」と感じて、<1>2五香と<2>4一角とを読んだが、結局、「勝ちはない」と判断した。その読み筋の内容を前譜では紹介した。

 そして、我々は、<3>6六角 を選択したのであった。
 これは「激指14」が、この場面での第1候補手として示していた手であった。(評価値 -370)


≪最終一番勝負 第16譜 指了図≫ 6六角まで

 この続きは、次譜で。



 さて、今回の第16譜では、以下、上の≪5九金図≫から、<4>8六玉 および、<5>8五玉 の2つの手について、先手に勝ち筋があるかどうかの確認をした結果を書いていこうと思う。
 ただし、今回記す調査は、≪亜空間一番勝負≫の勝負中ではなく、対戦後に最新ソフトを使用して調べたものである。


 <4>8六玉

変化8六玉基本図
 この <4>8六玉 (図)の手は、ソフト群がよく推してくる手で、「激指14」ではこの手も(<3>6六角と同じ評価値-370で)第1候補手としている。
 しかし、我々としては気乗りのしない変化で、実戦――≪亜空間最終一番勝負≫――では、ほとんどこれを考えなかった。(気乗りがしないというのは、我々の相棒である「激指」をもってしても、手が広くてよいのかわるいのか、その手の先の見通しが立たないからである)

 <4>8六玉 の意味は、7六玉のままだと後手に7五金を打たれて7七玉と下がらされるのが嫌なので、それをあらかじめかわしたという意味で、ここで7五金なら9五玉で、先手がいきなり大優勢になる。
 先手の手番なら、6六角、5五銀引、9三角成として、次に9五玉からの“入玉”を狙う。

 ここで後手がどう指してくるか。それが問題だ。

 後手 「7四歩」 なら、6六角、5五銀引、9三角成、7五銀、9五玉として、“入玉”作戦はおおむね成功。
 だからそれを指させない意味で、「8六玉基本図」で 「8四金」 が有力手だが、その手には7三歩成が効果的。以下、7五銀、9六玉、9四歩、7七角、4四歩、8五香と進むと先手良し。

 だからその途中、9四歩に代えて、6七とが考えられる手だが、それには8三と(次の図)

変化8六玉図01
 これで先手が良い。 8三同金には、6一角と打って攻防に利かす。

 「8六玉基本図」では、他の手でもだいたい先手良しになるが、立ちはだかるのが、「8四歩」である。

変化8六玉図02 
 <4>8六玉 には、後手「8四歩」(図)。 この手がここでの後手の最善手と思われる。
 このままでは次に後手9四桂がある。(8五金もある)

 だから先手9五金が考えられるが(9四桂には9六玉とするつもり)、それには8三桂が後手の好手で、先手が悪い。

 ここで「4一角~3三香」ではどうなのだろう。
 4一角、3二歩、3三香に、そこで9四桂がある。
 以下7七玉、3三銀、同歩成、同桂、5二角成、7五香(次の図)

変化8六玉図03
 これで先手が負け。後手7五香(図)に、7六に打つ適した合駒がないので8八玉と逃げるが、7六桂で詰まされる。
 この場合は「4一角~3三香」は勝てなかった。後手には9四桂と打つ手があって、「金」を手持ちに温存できたまま先手玉を7七に追い込めたのが勝因になっている。
 
変化8六玉図04
 なので、後手の「8四歩」に対して、ここは先手は「6六角」(図)と打つのが最善か。

 ここで後手の手として、3つの手が選択肢としてある。
 △5五銀引△4四歩△4四銀の3つであるが、最も良さそうにみえる△5五銀引が、この場合は悪い手になって、先手良しになる。

 △5五銀引、「8四角、9四金、8二飛」と進んで、次の図。

変化8六玉図05
 この「8二飛」(図)は、次に5二飛成を狙っている。5二同歩は後手玉詰み。(8四金、同飛成は先手良し)
 ここで後手に、(8五歩、9六玉として)“7二桂”という手がある。しかしその手には、この場合は、同飛成と取って、8四金に、5二飛成で―――(次の図)

変化8六玉図06
 先手が勝ちとなる。

 ところが、先の△5五銀引に代えて、△4四歩ならば、結果が逆になる。その場合は、5二飛成を同歩と取られ、後手玉が4四歩と突いてある効果で、後手玉がひろくなっていて詰まないから、後手勝ちになるのである。

変化8六玉図07
 そういうわけで、先手の「6六角」には、この場合は△4四歩(図)が正解だったのである。
 図以下、「8四角、9四金、9五金」(次の図)

変化8六玉図08
 「9四金」に、8二飛では上に述べた理由で“7二桂”で後手良しなので、「9五金」(図)とするのが最善手。
 以下は、「9五同金、同角、8三桂」と進む(次の図)

変化8六玉図09
 以下、「9三竜、9五桂、同玉、6六角」(次の図)

変化8六玉図10
 「互角」に近いが、先手がやや苦しいとみられる展開。(「激指14」評価値は-253)

 このような調査結果から、<4>8六玉 は、8四歩で後手良し が結論となった。

(ところがその結論がくつがえる。それについてはまた後で)



 <5>8五玉

 この手は、「激指14」が第4位の候補手として挙げている手(評価値-611)

変化8五玉基本図
 <5>8五玉 (図)。
 ここで先手の手番なら、6六角として、以下5五銀引、9三角成で、先手玉の“入玉”が確定して、先手良しとなる。
 後手はそれを防ぐために、ここでは 9四金 または 8四金 と、金を打つことになる。

変化8五玉図01
 9四金 は「激指14」がここでの後手最善手として推す手(なんと評価値-832もある)だったが、その先を調査してみると、これには8六玉、6七と、4一角、3二歩、3三香として―――(次の図)

変化8五玉図02
 これで先手優勢になるとわかった。(どうも「激指」にはこの3三香の手がほとんど見えていないように思える)

 <5>8五玉には、8四金 がおそらくはベストの手。
 対して、先手「9六玉」(次の図)

変化8五玉図03(9六玉図)
 「激指14」の評価値はこの図では[-195]で、推奨手は(A)6七と
 他にここでは、(B)9四歩 が有力手と思われる。

 先に(B)9四歩(図)から見ていこう。
 (B)9四歩 には、先手は「7七角」と打つ。
 後手は4四歩5五銀引が有力手。

変化8五玉図04
 4四歩(図)に、「3三歩成」とする。これを同銀は、9二飛と打って、この変化は先手良し。
 よって、「3三同玉」だが、先手は3六飛(次の図)

変化8五玉図05
 3四歩(代えて3四桂は3五歩がある)、4六飛、5八金(次に6七とをねらう)、1一角、2二桂、4一銀、6七と、8五香、7五金、8六角(次の図)

変化8五玉図07
 これは先手が良い。

変化8五玉図08
 「7七角」に、後手5五銀引(図)の場合。
 やはりここでも、「3三歩成」とする(次の図)

変化8五玉図09
 これを“同玉”は、1一角、2二桂、3七桂(詰めろ)、4四歩、8五香(次の図)

変化8五玉図10
 先手が良い。

 ゆえに、“3三同銀”が本筋となる。 その手には「9二飛」とする(図)

変化8五玉図11
 以下、〔あ〕6二歩に、8五香、6六銀、8四香、7七銀不成、8三香成、6七角、8五角(次の図)

変化8五玉図12
 こうなると、これも先手優勢。


変化8五玉図13
 戻って、先手「9二飛」に、〔い〕7四金(図)という手がある。(8四桂以下の先手玉への詰めろ) 対して5二飛成で勝てればよいがそれは3二歩で、これは後手優勢。

 図では、「9四飛成」が正着で、以下、7五銀、8六香が想定手順(次の図)

変化8五玉図14
 これも先手が良い。 図で6六銀左には8八角と引いておく(5九角でも先手良し)

変化8五玉図15
 もう一度「9二飛」と打ったところに戻って、そこで後手〔う〕9三桂(図)としてきた場合。これも先手玉への“詰めろ”なので、「同飛成」と取る。つまり後手はこの桂を犠打として一手を稼いできたわけだ。
 以下、6六銀、5九角、6八歩(次の図)

変化8五玉図16
 6八歩(図)で、角の利きを止めて、先手玉にまた“詰めろ”(9五金)がかかっている。
 先手は8四竜と、竜と金とを差し違えてその“詰めろ”を解除。
 8四同歩、9四竜、8二桂、3四歩(次の図)

変化8五玉図17
 先手玉はこの瞬間、ゼット(絶対に詰まない状態)になっていて、攻めるチャンスだ。
 3四歩(図)に、同銀なら、3三歩、3一歩、2六桂と攻めていって調子が良い。

 3四歩に、後手が4二銀と引く場合を以下に見ていくが、予想手順は、1五桂、5五飛、9五金、9四桂、2四香(次の図)

変化8五玉図18
 先手優勢である。


変化8五玉図03(9六玉図)(再掲)
 以上の通り、(B)9四歩 は7七角と打って、3三歩成の筋で先手が良いという結果が出た。
 (A)6七と がもう一つの後手有力手である。

 それ以外の手――たとえば(C)5五銀引(D)7四歩 は、「4一角、3二歩、3三香」と攻めていって先手が良い。
 また(E)7五銀 なら、後手に香車が入ったときに詰まされる形なので、いったん8六歩と受けておき、以下9四歩に、そこでやっぱり「4一角、3二歩、3三香」(次の図)

変化8五玉図19
 という、後手4二銀型に対するおなじみのアタックで、先手が勝てる。
 (といっても我々が「4一角~3三香」が有効と知ったのは後日のことだったのだが)


変化8五玉図20
 ということで、(A)6七と(図)を調べていく。これを破れば、この作戦は「先手良し」が確定と言っていい。  
 この場合、例の「4一角、3二歩、3三香」だと、後手は「香」を手にするので、9四香と打たれて先手玉が詰まされて負けになる。
 そして、先手7七角の手も消しているので、次に9四歩とされると受けに窮する。だからここで先手8五香(8六香)が考えられるが、それには9四金が好手で、以下8三香成も、8四桂、同成香、同金で、後手が良い。(以下9三竜には9四香がある)

 ということで、先手が苦しく見えるこの図だが、好転させる“一手”があった(次の図)

変化8五玉図21
 「4一角、3二歩」を入れた後、「 2五飛 」(図)と打つ手である。(単に2五飛でもよい)

 対する後手の指し手が問題だ。
 ここで〔は〕9四歩、〔ひ〕7五銀、〔ふ〕6五桂、〔へ〕3一桂が考えられる後手の候補手。
 (さらに〔ほ〕6五歩がありその調査結果は末尾の[追記]にて)

 〔は〕9四歩と〔ひ〕7五銀には、「3三香」と打ちこんでいって、先手が勝ちになる。

変化8五玉図22
 まず〔は〕9四歩の場合から。
 「 2五飛 」が先手玉を守っている、後手9五金には同飛で先手良し。そして香車を渡しても、9五香には8六玉と逃げてまだ詰まない。

 さて、後手はこの「3三香」をどうするか。取るか、あるいは3一銀として受けるか。
 3三同桂は、2一金、同玉、2三飛成で詰むので選べない。
 3三同銀は、同歩成、同玉、3四歩、同玉(4二玉は5二角成以下詰む)、4五銀、3三玉、3四金、4二玉、3二角成(次の図)

変化8五玉図23
 3二同玉に、2三飛成、4二玉、3三角、4一玉、5一角成、同金、4三竜以下の詰み。

変化8五玉図24
 なので後手3一銀(図)と引いて受けた場合。
 これには、3二香成、同銀、5二角成とする。これを5二同歩とはできないので、後手は7五桂と打つ。先手の「 2五飛 」の横利きを止めて、先手玉に詰めろ(9五金の一手詰)がかかった。
 しかし後手玉を詰めれば先手の勝ちがはっきりする。
 3一角、同玉、5一竜、2二玉、3三金、同桂(同銀なら3二金以下)、2一金(次の図)

変化8五玉図25
 2一同銀、同竜、同玉、2三飛成、2二合、4三馬、1一玉、2二竜、同玉、3三歩成以下、“詰み”。
 「 2五飛 」と「9一竜」2枚の飛車が働いて、即詰みに打ち取った。

変化8五玉図26
 〔は〕9四歩に代えて〔ひ〕7五銀の場合。図は、先手「3三香」に、3一銀と引いたところ。
 先ほどと同じように、3二香成、同銀、5二角成だと、この場合は9五香で先手玉が“一手詰め”で負けになる。
 なのでこの場合は、単に5二角成が正解である。後手玉は、次に3二香成以下、“詰めろ”。
 対して後手は4二銀引としたが―――(次の図)

変化8五玉図27
 この手に代えて、後手は3三歩と指したい(香を入手したい)ところだったが、それは3二金、同銀、3一角、同玉、5三馬以下、後手玉に詰みがあった。
 ということで4二銀引と指したのだが、これは受けになっていなかった。同馬と取って、同銀に、3二香成、同玉、3三金(次の図)

変化8五玉図28
 変化はいろいろあるが、これで後手玉は詰んでいる。この詰み筋も、「2五飛」と「9一竜」と2つの飛車を目いっぱい働かせての詰み筋である。

変化8五玉図29
 〔ふ〕6五桂(図)は、先手の「3三香」に対応して工夫した手。
 ここで3三香なら、ワナにはまって先手不利になる。
 3三香、同銀、同歩成、同玉と取り、3四歩に、4二玉と逃げて、このとき、後手玉は(5二角成に同玉で)ギリギリ詰まない。そして先手玉は、9四香、8六玉、7五金で詰まされる。

 そうすると、この図で先手はどう指せばよいか。
 明快な“答え”がある(次の図)

変化8五玉図30 
 5六角(図)と打つ手である。
 この手は次に3三歩成~2三角成の“詰めろ”だし、先手玉は香を渡さなければまだ詰まない。なので後手は3一桂(1一桂)と受けるしかないが、2六香と打って「2三」への利きを増やせば、持駒のない後手はもう受けがなく、先手の勝ちが確定する。
 ただし、5六角ではなく、2六香を先に打つと、2四桂でまぎれてしまう。(5六角に2四桂には、同飛、同歩、3三歩成で後手玉詰み)

変化8五玉図31
 先手の「 2五飛 」には、〔へ〕3一桂(図)が実際的には後手の最善手かもしれない。
 これも3三香などと攻めると暴発になって悪くなる。

 ここは8六香が正解手。以下、9四金、8三香成、8四桂、同成香、同金、9三竜(次の図)

変化8五玉図32
 ここで9四香には、8六玉として、先手が良い。以下8三歩には、7六桂だ。
 しかしもし「 2五飛 」がいなかったら、9四香、8六玉に7五銀で先手玉は詰むので、9四香で負けになっているケース。「 2五飛 」が打ってあったから「8六香」が良い手になった。

 図で、7五銀には、同飛、同金、7三歩成として、先手玉は“入玉”確定で、先手良し。

変化8五玉基本図(再掲)
 以上の調査から、<5>8五玉 は、先手良し と結論する。
 先手に勝ち筋は、ここにも存在していた!!



 さて、今の調査研究から学んだことがある。後手のこの陣形に対して「2五飛は有力」ということである。
 そこで、この「2五飛」を、先ほど調べた <4>8六玉 に応用してみたらどうだろう、と我々は考えた。



 <4>8六玉 (追加調査)

変化8六玉図11
 すなわち、ここで「 2五飛 」(図)はどうだろう、ということである。(上の調査では6六角としていた)
 この図は、先手の <4>8六玉 に、後手8四歩 の場面である。この手が打ち破れず、「後手良し」と上で結論したわけであったが。この図で先手良しになれば、その結論を覆せる。
 「 2五飛 」は、次に「4一角、3二歩、3三香」という攻めを狙っている。この攻めを、「2五飛」と打っておいて決行すると、きわめて破壊力があることは上のケースでわかった。
 たとえば図で〔S〕5五銀引に「4一角、3二歩、3三香」で勝てるのではないか、というのが今回の“勝利の構図”(ただし勝てるかどうかはこの後の調査次第)である。

 しかしその調査の前に、気になる手がある。まず後手〔P〕8五金とすぐに打つ手である。
 この手には、同飛、同歩、同玉となるが、それで先手が良いのかどうか。
 そこで7二桂が後手最強の手。これには、6六角と打つ。5五銀引なら、9三角成で先手優勢がはっきりするが、5五飛という返し技がある。

変化8六玉図12
 以下、同角、同銀引、9三竜、8一桂、9二竜、9三歩、2六香、8四歩、9六玉、8五角、8六玉、6七角成、9六歩(次の図)

変化8六玉図13
 こう進んで、これは先手優勢になった。
 先手玉の“入玉”は後手の二枚の桂によって阻止されたが、手番がまわれば8一竜とその桂馬を拾って1五桂と打つ攻めが厳しい。

変化8六玉図14
 〔Q〕3五金(図)という手も気になる手だ。これで先手の飛車は捕まっている―――ように見えるが、実はそうではない。
 ここで4一角、3二歩を決め、1一角と打ちこむと―――(次の図)

変化8六玉図15
 以下、1一同玉に、3二角成で、先手勝勢。後手が「金」を不用意に手放すと、この攻めが有効になるのである。

変化8六玉図(再掲) 
 というわけでこの図に戻る。
 この「 2五飛 」に代えて先手9五金(次に8四金として入玉を狙う)という手があるのだが、それは後手8三桂という対応で、先手が悪い。まずそれを知ってもらった上で、次の解説を読んでもらいたい。

変化8六玉図16
 「 2五飛 」に対し、後手が〔R〕6五桂(図)としてきた場合。
 この手は先手玉の7七の退路を塞いで“詰めろ”(8五金まで)になっており、先手「 2五飛 」に対するうまい切り返しに見える。

 その場合、先手は、次の手で切り返す―――

変化8六玉図17
 9五金(図)である。
 “詰めろ”を受けた。これでこの場合は「先手良し」になるのである。
 理由は、後手の“持駒の桂馬が一枚だから”という理由である。もし後手に桂馬が“二枚”だったら逆に「後手良し」になるところだったのだ。
 9五金に、8三桂と打たれ、それに対して先手は9三竜と応じる。何度も言うがすんなり“入玉”できればだいたい先手が良くなる。
 8三桂、9三竜――以下7五銀、9六玉、9四歩、8三竜、9五歩、同玉と進むのが想定手順だが、そのときに、後手“7一桂”と打つ「桂馬」があれば後手がやれる。
 ところがこの場合はそれがない(後手はその「桂馬」を6五に打ってしまっている)ため、先手玉の“入玉”が確実。それでこの図での8三桂では「先手良し」というわけ。

 9五金には8五金が気になるが、同金、同歩、9六玉とし、以下9四金には8三金と打って、先手良し(さらに8四桂は、同金、同金、6六角が王手金取り)
 
 9五金と打ったこの図は「先手良し」。

変化8六玉図18
 では、〔S〕5五銀引。
 これに対して、「4一角、3二歩、3三香」が我々の期待を乗せた攻め。
 「2五飛」と「4一角、3二歩、3三香」の組み合わせの攻めは、先ほどの場合はうまくいったが、この場合は後手の持駒に「金」がある。それでもこの攻めがうまくいくかどうか、そこが最大の注目点である。

変化8六玉図19
 前の図(5五銀引)から、4一角、9四桂、7七玉、3二歩、3三香と進んで、この図になる。この攻めが成功しているかどうか。
 3三同銀は、上でも出てきた通りの攻め(同歩成、同玉、3四歩、同玉、4五銀、3三玉、3四金)で後手玉が詰む。

変化8六玉図20
 「3三香」に、3一銀(図)と引いた場合。
 この場合、後手が「香」を入手した場合、後手7五香、8八玉、7六桂という攻めで、先手玉は仕留められてしまう。なのでここで5二角成は、(同歩なら後手玉が詰むが)その瞬間に3三歩と香を取られて後手勝ちになる。
 
 だから先手は他の攻め筋があるかだが、「3二香成、同銀、3三歩成」という攻め筋があった。
 これを同桂は、3二角成、同玉、2一角から詰むので、後手は「3三同玉」。
 先手は「1一角」と王手する。

変化8六玉図21
 この攻め筋は、後手が4六銀を5五銀引とした形で有効になる。1一角に3四玉の場合に、3五金が打てるからだ。また、1一角に4二玉は、3二角成、同玉、3三歩以下詰み。
 なので先手1一角には“2二合”だが何を合するか。「桂」だと、同角成と取って、同玉に、3四桂、3三玉、3二角成、同玉、3三歩以下、後手玉が詰んでしまう。

 よって、後手は“2二香合”になるが、そうなると「香」を使ってしまったので、後手からの7五香以下の先手玉への詰みはなくなった。これが大事なところで、すると先手は後手玉に“詰めろ”で迫って行けばよいという条件になる。

変化8六玉図22 
 先手は「3四歩」(図)と王手。
 ここで“同玉”と、“4二玉”とがある。

 “同玉”には、3五金、3三玉、5二角成、同歩、2三飛成(次の図) 

変化8六玉図23
 2三飛成(図)から後手玉を詰め上げた。

変化8六玉図24
 「3四歩」に“4二玉”には、すぐには詰みはないので、「2二角成」とする。
 以下、「4四銀、3二角成、5三玉、6一竜、6二歩、2一馬右」と進めば、この図になる。
 先手優勢である。後手玉は、5二竜以下の“詰めろ”がかかっている。

 これで後手の3一銀を攻略できた。

変化8六玉図25
 「3三香」に対する後手最後の手段は、3一金(図)である。
 この手には、「3二香成、同金」。 これで後手には「香」が入ったが、「金」を受けに使ったので先手玉はまだ大丈夫だ。
 そこで「1一角」があった!!
 「同玉」に、「3二角成」(次の図)

変化8六玉図26
 「角桂香」の持駒では先手玉は詰まない。
 2二角が攻防の手だが、それには、3三歩成(同角なら2一馬以下即詰み)で、以下6六銀、同玉、3三角の反撃はあるものの、5七玉で届かない。
 先手勝ち。

 以上の結果、どうやら後手5五銀引には、「4一角~3三香」で、先手が勝てるとわかった。

変化8六玉図27
 しかしまだ「 2五飛 」で先手が勝てるとまで結論するのは早い。
 〔T〕6五歩(図)ならどうなるだろう。(この手は先手の飛車の横利きを止めただけの手だが)

変化8六玉図28
 結論を言うと、同じように「4一角~3三香」と攻めるが、今度は先手の攻めが「失敗」に終わる。
 後手に「3一金」と対応され、以下先ほどと同じく、3二香成、同金、1一角、同玉、3二角成と進め、そこで後手は6六角と打つ。
 以下、7八玉に、3一香と進んで、この図。
 後手の角筋が利いて「2二」を守っているために、この3一香で受かる。この図は、後手良し。つまり後手は5五銀引としないほうが、6六角の角筋が受けに利くのでこの先手の攻めが受かるわけなのだ。

 「3一金」に対する他の攻め方(5二角成など)も調べてみたが、先手が勝てそうな道は発見できなかった。

 そういうことで「6五歩で先手勝てない」と結論を、我々は一旦は下したのだったが――― 

変化8六玉図29
 その後再度考えて、先手打開策が見つかったのだ!
 〔T〕6五歩には、「9五金」(図)と打つのがよい。

 「桂馬が二枚あるときは9五金は8三桂で先手悪い」と上で述べたが、この場合、「2五飛」と飛車をあらかじめ打ってあるために、その状況が変えられるのだ。
 「8三桂」に、「4五角」(次の図)と打つのである。

変化8六玉図30
 この手は“詰めろ”(3三歩成、同銀、2三角成以下)になっている。だから後手は3一桂(1一桂)と受けるが、これで後手は桂馬を一枚使ったので、持駒の桂は一枚に減った。
 よって、そこで9三竜とすれば、今度は先手にとって“入玉”しやすい条件になっているという仕組みだ。
 この図から、3一桂、9三竜、7五銀、9六玉、9五桂、同玉と進み―――(次の図)

変化8六玉図31
 先手優勢。

変化8六玉図32
 では最後の手。「 2五飛 」に〔U〕7四歩。
 この手には、例の「4一角~3三香」で楽勝に思えるが、それは実は3一金でたいへんとわかった(我々の調べでは優劣不明である)
 ここは飛車の横利きが通っていることを利用して、「9三竜」からの“入玉”作戦が良い判断。
 以下、「9四歩」にも、「同竜」と取って、後手「8二桂」に―――(次の図)

変化8六玉図33
 そしてここでも「4五角」がある。「3一桂」と受けに桂馬を使わせる。
 続いて、2六香、2四金、8一角成(次の図)

変化8六玉図34
 9四桂、7五飛、同歩、9四玉、6九飛、7三歩、6一飛成、7一銀(次の図)

変化8六玉図35
 二枚の飛車を後手に渡したが、“入玉”はほぼ確定で先手優勢である。


 後手 8四歩 には、「 2五飛 」で先手が勝てる、と以上の調査でわかった。

変化8六玉基本図(再掲)
 ということで、<4>8六玉 は先手良し、である。

 この調査報告では、この図で後手「8四歩」をどう攻略するかということを記してきた。
 他の手については、はじめから「先手良し」と考えてきたから。 その評価については今も変わっていない。
 「7四歩」「8四金」については、上ですでに簡単に触れているが、その他の手――「6七と」および「5五銀引」――にどう対応するかについて書いておこう。

 「6七と」にはどうするか。

変化8六玉図36
 「6七と」には、8二飛(図)と打つ手がある。
 ここでたとえば7四歩なら、先手は5二飛成で勝てる。(取ると3二金以下詰み)
 なので後手は3二歩とか、6二歩のように受けることになるが、先手は8三飛成とする。こうして二枚の竜をつくって、“入玉”をねらっていく。これで先手良し。

変化8六玉図37
 「5五銀引」(図)もある。
 これに対しても同じように8二飛で良さそうに見えるが、この場合は6一角と角を打つのが良い。(その理由は後で示す)
 6一角に、これも後手が8四歩のような手なら、5二角成で金を取れる。
 しかし6一角には、6六銀があって、この場合は5二角成では、7五銀上から先手玉が詰んでしまうから負けになる。この銀の攻めは意外に攻め足が早いのだ。
 よって、後手6六銀には、先手は8三角成だ。ここに馬をつくって上部を開拓していく。
 以下、8四歩、同馬、7五銀上(引もある)に、9五玉とする(次の図)

変化8六玉図38
 これで先手優勢。大駒一枚は後手に献上して、“入玉”をめざす。

 ところで、もし先手が6一角ではなく8二飛と打って「竜」を作っていたら、この8四の「馬」が、「竜」になっている。
 その場合は、ここで後手に7二桂と打たれ、逆に先手劣勢の図になっていたのである(失敗図)

失敗図
 7二桂と打たれた図だが、9三竜右に、8四金、同竜、同銀、9四玉としたときに、「9五飛」と打たれて、先手が悪くなる。もしも取られる駒が「角(馬)」ならば、逆にはっきり先手良しの図になるというわけ。



≪5九金図≫(再掲)
   <1>2五香 → 後手良し
   <2>4一角 → 後手良し
   <3>6六角  = 我々が選択した手
   <4>8六玉 → 先手良し
   <5>8五玉 → 先手良し

 以上が <4>8六玉 および <5>8五玉 についての調査結果で、どちらの手も、「先手勝ち筋」があると判明した。
 しかし実戦でこれらを発見できたかというと、それは難しかったと思う。我々の闘いは「激指」に頼るものであったので、それにはちょっと荷の重い局面であった。
 「最新ソフト」と「激指14」の一手の評価の能力の“差”はわずかであっても、手が広く選択肢の多い終盤の局面を、10手20手となると、その“差”が累積されて、調査に使う時間に“圧倒的な差”ができてしまうのだ。


 さて、今回のこの調査研究で、我々はさらに、次の局面を「再調査すべき」と感じることとなった。

先手2五香図A
 これは≪5九金図≫で、<1>2五香 を選んだ場合の変化で、先手の2五香に、後手が3一桂と受けた場面である。
 この後手の3一桂で、先手負けると判断し、我々はこの道をあきらめたのであった。(前譜参照)
 
 ところが、「ここで8六玉なら先手もチャンスがあるのではないか」と、今回の調査を経験して、思うわけである。

変化2五香図B
 「8六玉」として、この図である。
 2五香と3一桂との手を交換し、後手の持駒から一枚「桂」が消えた。そのことを先手にとってプラスとして、この図から先手は勝てるのではないか。
 実は、「2五香、3一桂」とした上の図でのソフト「激指」の示す最善手は「8六玉」で、戦闘中もそれはわかっていた。わかってはいたが、“気がすすまない”という理由でその先を考えなかったのである。(「激指14」のこの図の評価値は-177)


2五飛図
 また、≪5九金図≫で、「2五飛」(図)があるのではないか。
 あらためて確認してみると、「激指14」はこの「2五飛」を、7番目の候補手として示していた。(評価値-707)


第17譜につづく




[追記] <5>8五玉についての補足

8五玉図33
 うっかり <5>8五玉 の変化で、先手「 2五飛 」に対しての後手〔ほ〕6五歩(図)の手について調べることを怠っていた。(後手にとってはこの手は〔ふ〕6五桂よりも有力な手で当然調べておくべき手であった)
 もしもこれで先手が勝てないとしたら結論が覆る。
 が、結果から言うと、先手が勝てるとわかった。よって、結論は変わらない。

 以下、その〔ほ〕6五歩に対し、先手がどう攻略するのかは重要なので、それを追記として書いておく。

 まず5六角と打って、3一桂、2六香、1一桂、6七角(次の図)

8五玉図34
 後手に持駒の桂をすべて使わせて「6七のと金」を払った。
 以下、5七銀成、8九角、9四歩、8六歩、7五銀、8七玉、6九金、3七桂、7九金(次の図)

8五玉図35
 先手の3七桂は、次に3三歩成、同銀、5二角成のような攻めを狙っている。しかしこの場面でそれを決行するのは、8九金と角を取られて負ける。
 よって、この図では4五角と角を逃がし、後手は4四歩とする。
 ここで5二角成と勝負。以下、4五歩に、3三歩成でどうなっているか(次の図)

8五玉図36
 3三歩成(図)を同桂は、2三飛成以下後手玉が詰む。
 同銀は5一竜で、先手勝てる。(角一枚ではまだ先手玉は詰まない)
 同玉には3五飛、2二玉、4一馬とし、以下は7六角、8八玉、6六歩、4三歩、同角、3四金が予想手順だが、先手良し。
 よって、後手は3三同歩が最善手。 これには、5三馬。
 以下、同銀、8二竜、3二角、4一銀、7六角、8八玉、6六歩、3二銀成、同角、6五角(次の図)

8五玉図37
 5四銀打なら、同角、同銀、4二金で、先手勝勢。
 4一銀も、3四歩、5二歩、4五桂、6五角、3三歩成、同桂、同桂成、同玉、3四歩、同玉、4六桂で、先手成功。

 図以下、他の想定手順は、7八金、同玉、6七歩成、8九玉、6二歩、3二角成、同玉、6五角、4三角、同角成、同玉、4五飛、4四歩、6五角(次の図)

8五玉図38
 5四銀打に、同角、同銀、5三金、同玉、4二銀、同玉、6二竜以下、後手玉は詰んでいる。
 攻略できた!
 
 ということで、「 2五飛 」に対しての後手〔ほ〕6五歩の変化も先手良し。

終盤探検隊 part116 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第15譜

2019年04月20日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第15譜 指始図≫ 5九金まで



    [ナルニア国物語]
 「もっといそげ! はやくいたせ!」と魔女はいいました。
 もはや霧のなごりもありません。空はいよいよ青くすみ、ときどき白い雲があわただしく走りすぎるばかりです。森の打ち開けた草地には、サクラソウが咲いていました。そよ風がおこって、ゆれる枝から雪どけのしずくをちらし、歩く三人の顔に、すがすがしいかおりを吹きつけました。
   (中略)
 「これは、雪どけではありません。」
 小人が立ちどまってふと、いいました。「これは、春でございます。どういたしましょう。あなたさまの冬は、たしかにほろぼされましたぞ! アスランのしわざでございます。」
 「きさまたちのどちらでも、その名をもういちど申してみい。そくざに殺してくれるぞ。」
と魔女はいいました。
   (C.S.ルイス著 『ライオンと魔女』 瀬田貞二訳 岩波少年文庫より)



 1898年にアイルランドに生まれ、オックスフォード大学で学んだ文学者のC.S.ルイスが、全7冊からなる「ナルニア国物語」のシリーズの、その最初の本を書いて発表したのは、1950年。
 それが『ライオンと魔女』で、これは「ナルニア国」の王である<アスラン>という名のライオンと、その国に力づくで「冬」をもたらして支配している<白い魔女>との、戦争の物語である。

 この<白い魔女>のせいで、「ナルニア国」は長い間ずっと「冬」のままであった。
 「冬」は、わるいばかりのものではなく、美しい側面、楽しい側面も持っているが、しかしいつまでもずっと「冬」の中で暮らさなければいけないとしたら、「春」や「夏」や求め、それに恋焦がれるのは、住民の当然の思いだろう。
 「ナルニア国」に、この長い長い「冬」をもたらしているのは<白い魔女>の力が強かったからだが、それを追い払ったのが、ライオンの姿の王<アスラン>であった。
 しかしその戦いのきっかけとなったのは、「人間」の世界から、4人のこどもが「ナルニア国」にやってきたからである。そして勝利できたのは、彼らが、<アスラン>とともに戦ってくれたからである。
 ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシィ、の4人のことで、彼らは、この「ナルニア国」の、王と王女になって、闘いの後も過ごしたことになっている。

 そう、スーザンとその妹ルーシィ―――この二人の女の子は、“王女”になったのである。
 別世界に行って、闘いに参戦し、そして“王女”になる――――これは、『鏡の国のアリス』と同じではないか。

 ただし、この4人きょうだいが「ナルニア国」にやってきたのは、この場合は「鏡」は一切関係がなく、彼らは古い屋敷の古い「衣装だんす」を通って、この国にやってきたのである。(別の話で明らかになるが、この「衣装だんす」はもともとナルニア産のリンゴの木からつくられたたんすだった)
 この『ライオンと魔女』の原題は『The Lion, the Witch and the Wardrobe』―――つまり、「ライオンと魔女と衣装だんす」であった。

 『鏡の国のアリス』と『ライオンと魔女』との“共通項”をほかにも探してみよう。

 『鏡の国のアリス』の場合は、こちらの世界は「冬」で、向こう側の世界は「夏」だったが、『ライオンと魔女』は逆で、こちらが「夏」で、向こうが「冬」。 しかし、“季節が逆”というくくりで、同じといえる。
 また、<アスラン>はネコ科の動物であることを考えれば、“猫が重要キャラ”という共通項もある。



<第15譜 新型香車ロケット砲2種>

5九金図
 さて、この図である。 我々終盤探検隊が、「ここが勝負所」と設定していた場面が、ここだ。
「ここで何か先手が勝てる道があるのではないか」と、我々は考えていた。半分以上は、“勘”であるが。
 先手は、9一竜として、「香車」を手にした。持駒はこれで「飛角角金香歩」。
 特に「香」は攻めに有効な駒となり得る。ここで有効な「香車ロケット」が使えないだろうか。

 そうして編み出したのが2つの新しい「香車ロケット砲作戦」である。

 一つは、ここですぐ 2五香 と打っていく『2五香ロケット』。
 もう一つは 4一角 の手から始まる『3六香ロケット』である。

 その2つの「ロケット砲」についての、我々の“読み筋”とその“結果”について、今回はそれをレポートしていく。


 <1>2五香

先手2五香(2五香ロケット)基本図
 2五香(図)と打って、後手の弱点「2三」に狙いをつける。
 もしここでさらに先手の手番なら、2六飛、3一桂、4一角、3二歩、4五角、1一桂、2三香成、同金、2四金と、「ロケット砲」が炸裂する。

 しかし現実の手番は、後手。 ここか後手がどう指してくるか。それが問題だ。

 (この図の「激指14」の評価値は[-929]で推奨手は7五金。なあに、評価値など覆せばいいのだ)

 まず、7五金、7七玉、8五桂(6五桂)と攻めてきたらどうなるか。
 以下、8八玉、7六桂、9八玉、7七桂成、8九金。
 これで後手の攻めは止まったので、次は2六飛や4五角と打てば先手が勝てる。
 先手にその2六飛を打たせないよう、3五銀としても―――(次の図)

先手2五香図01
 4五角(図)と打てば、先手の勝ちが確定、次の、3三歩成、同銀、2三角成の攻めが受からない。2四歩と受けても、4一角、3二歩、3三歩成、同銀(桂)、2三飛、3一玉、5二角成で、“必至”
 
 こうなったのも、後手が持駒をすべて攻めに使って、「2三」を守ることができなかったからである。

先手2五香図02
 というわけで、今の後手の7六桂の手を代えて、7六金(図)とした場合。これなら一枚桂馬を持っていて受けに使えるし、仮に後手に何か――たとえば香車が入れば、7七桂成、8九玉、8八香から、先手玉を詰め上げることができる。

 しかし図から、4一角、3二歩、4五角、1一桂、2六飛とすれば(次の図)

先手2五香図03
 これも後手受けがない。 先手勝ち。

先手2五香図04
 それなら、8五桂(6五桂)を打つ前に、3五銀(図)ならどうだ。桂馬が二枚受けに使えるし、2六飛打ちも消している。

 これには、2三香成、同玉、4五角とする。これが3三歩成以下の“詰めろ”なので、後手は3四の地点を受けて、2二桂とするが―――(次の図)

先手2五香図05
 先手1一飛(図)。 これで先手の勝ちが決まった。

先手2五香図06  後手7四歩の変化
 今のところ、順調に「2五香作戦」が、その効果を存分に示している。
 この図は、後手が7五金という手をやめて、代えて7四歩としたところ。
 たとえばここから先手が、4一角、3二歩、4五角、3一桂、2六飛、1一桂、2三香成、同桂左(右)、2四金のように攻めたらどうなるか。
 それは、7五銀、7七玉、7六香、8八玉に、1一玉が好手で、後手勝勢になる。

 なので、先手は、攻めの手順を慎重に組み立てる必要がありそうだが―――“解”はあった。
 2六飛と打つのが良い。3一桂に、4六飛と銀を取っておく(次の図) 

先手2五香図07
 ここから8四歩(8五に逃がさないという意味=ソフトの示す最善手)、4一角、3二歩、5二角成(同歩なら3三銀から後手玉詰み)、7五銀、7七玉、8五桂、8八玉、7七金、9八玉、7六銀で、先手玉に“詰めろ”がかかったが―――(次の図)

先手2五香図08
 2三香成(図)から、後手玉は詰んでいる。
 2三同玉は、2四銀、同玉、1五角以下。
 なので図からは、2三同桂だが、そこで、3三銀と打ちこんで、以下、同歩、同歩成、同玉(同桂なら3二金、同玉、4三飛成、同銀、4一角以下)、3四歩、2二玉、3三角(次の図)

先手2五香図09
 3三同桂、同歩成、同玉、2四金(次の図)

先手2五香図10
 以下、2四同玉、3四金、2五玉、3七桂、1四玉、1五歩までの“詰み”
 図で3二玉には、4三飛成、同銀、3三歩、2二玉、2一金、同玉、4三馬以下。

先手2五香図11 
 それでは、7五金、7七玉に、3一桂(図)
 このように先に桂馬で「2三」を強化しておくのはどうか。これなら、2六飛には3五銀、4五角には4四歩とすぐに対応していける。4五角、4四歩、8九角なら、8五桂、8八玉、7六金が、先手玉への“詰めろ”になっているので、こうなれば後手優勢。
 「これで後手良しか…」といったんはあきらめたが、さらに粘り強く調べていくと、先手良しになる手順が見つかったのである。

 まず、「4五角」と打つ。
 「4四歩」に、「4一角、3二歩」。
 ここで「3三歩成」とするのが苦労して発見した順。これを「同桂」は、2三香成、同桂、2一金、同玉、2三角成。(この金香捨てての寄せはなかなか思いつかない) 以下、2二金には、同馬、同玉、2四飛、2三歩、3四桂、3一玉、5二角成となって、後手玉は“必至”である。先手玉は詰まない。

 よって、「3三歩成」には「同銀」を本筋として見ていくこととするが、そこで先手は「5二角成」とする。(5二同歩なら2三香成、同桂、4一飛で先手勝ち)
 後手は「4五歩」で角を取るが、角を取られてもまだ先手玉は詰めろにはなっていない。
 そこで――――(次の図)

先手2五香図12 
 「5一竜」(図)とすれば、次に3一竜以下の“詰めろ”になっている。4二銀右と受けても、3一竜、同銀、2三香成、同玉、1五桂から詰むので受けは利かない。先手勝ちである。
 (見たか! 「激指」推奨の「7五金」をついに完全攻略!)

 以上のように、『2五香ロケット作戦』はたいへんに有力で、ほとんどの形を攻略できる。
 「激指14」の示す第2候補手は「2五香」に「6六歩」(評価値[-766])だが、それも8六玉で先手が勝てる。

 ところが、後手の最善の受けが見つかったのだ!!(次の図)

先手2五香図13 
 先手「2五香」に、すぐに「3一桂」と打つ。これが“正解手”だったのである。(7五金を打たずに3一桂と受ける)
 これで先ほどと同じように進めたとき―――すなわち、4五角、4四歩、4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成、4五歩、5一竜―――
 このときに、後手は「角金桂」と持駒があるので、この「7六玉型」ならば、5八角から(または8四桂から)先手玉は詰んでしまうのである。

 「3一桂」と受けられたここでどうも、先手に有効手がない!! (2六飛は3五銀と応じられる)
 この図の後手玉の他の攻略手順は見つからず、この図は「後手良し」と言わざるを得ないわけである。

 
 かくして、残念ながら、『2五香ロケット作戦』は不発に終わった―――。

 <1>2五香 では先手勝てない とわかった。


 <2>4一角

先手4一角基本図

 もう一つの新型ロケット砲の作戦は、まず「4一角」(図)から始まる。
 これには後手「3二歩」(次の図)

先手4一角図01
 ここで2五香は、先ほどの『2五香ロケット砲』と同じ変化に合流する。
 すなわち、すぐに3一桂と受けられ、その展開は先手に勝つ道が見つからない。

 それなら、ここで「3三歩成」で勝てないか。
 これが、我々が新たに編み出した手だ(次の図)

先手4一角図02
 3三同歩はもちろんない(3二飛以下詰み)
 3三同桂は、5二角成で先手が勝つ。
 あとは「同玉」と「同銀」だが、「3三同玉」は、3六飛と先手は飛車を打つのが良い。
 以下、3五金に、3九飛と引いておく(次の図)

先手4一角図03
 これで、先手が優勢。
 ここで後手が4八となら、1五角と王手で打って、このと金を除去しておく。
 先手は次に指したい手が色々あり、6六角から9三角成、8五玉と逃げておく手、4五金と攻めていく手など。

先手4一角図04(3六香ロケット図)
 そういうわけで、先手の「3三歩成」に、後手は「同銀」が最善手になる。
 そこで図のように、「3六香」 と打つのが、狙いの“新型ロケット砲”。

先手4一角図05(3六香ロケット図)
 だが、ここから先を読むのが困難を極める道。 後手の応手がたくさんあり、何を指してくるかわからない。
 我々が予測し考慮した後手の候補手は次の8つ。
  【A】3四桂
  【B】3五桂
  【C】7五金
  【D】4二金
  【E】4二金打
  【F】6五桂
  【G】4二銀右
  【H】3一桂  

 とはいえ、後手に選択肢が多いということは、逆に考えれば、“後手の間違えやすい局面”でもある。後手の選べる手は一つだけ、そしてこれは「一番勝負」だから、やり直しはきかない。
 
 我々の考えはだいたいこうだ。
 まず【A】3四桂は3五歩で調子良さそう。【B】3五桂が気になるが、これは3四歩と打って、なんとか先手良しになりそうだ。
 気になるのは、【C】7五金と【E】4二金打である。これで負けではどうにもならない。
 他に【G】4二銀右が有力で、これも調査が必要だ。【H】3一桂なんて手もある。

 (ソフト「激指14」の推す手は【G】4二銀右。そしてこの図の評価値は[-872]で、ずいぶん先手にとって厳しい評価ではある) 

 以下、この「一番勝負」の戦闘中、我々終盤探検隊が考えた“ここからの読み”を記していく。

先手4一角図06 後手7五金の変化
 我々は、まず一番気になる【C】7五金から読んで行くことにした。
 これは先手の「3六香」に手抜きして攻めてくる手だが、これでどっちが勝っているのか。(これで負けならこの作戦はもともと駄目だったということだ)
 「7五金、7七玉、8五桂、8八玉、7六桂、9八玉、7七桂成」―――そこで、「3三香成」(次の図)

先手4一角図07
 このタイミングでの「3三香成」が好タイミングで、これを見送って7九金では、後手6九金で先手負けになる。
 ここでの「3三香成」に、同玉と取ると、1一角と打って、3四玉には7七角成で、先手良しになる。
 だから後手は、ここは「3三同桂」と取るしかないのである。

 そこで、「7九金」と受ける。(代えて8九銀では8四香で先手困る。7九金に8四香には7八銀と受けて先手良し)

 以下、「4二金、6三角成、6七と、5一竜、4一香、3四歩」(次の図)

先手4一角図08
 これで先手優勢。7八とには、3三歩成以下、後手玉は詰んでいる。


先手4一角図09 後手4二金の変化
 「3六香」に、【D】4二金(図)も気になる手。
 6三角成でも先手が勝てるかもしれないが、我々が調査した手は、「3三香成」。
 これを後手同玉は1一角で、同桂は5一竜で、先手が良くなる。
 なので後手は「3三同歩」。

 ここでも6三角成で先手が良くなる道があるようだが、それよりも明快な決め手があると我々は発見した。
 次の手がそれだ(次の図)

先手4一角図10
 「5二飛」(図)。 鮮烈なる決め手である。
 5二同歩なら、3一銀、同玉、2三角成で詰む。
 3一金と受けても、3二金、同金上、同角成、同玉、4一角、同玉、5一飛成以下の、“詰み”。


先手4一角図11 後手4二金打の変化
 では、【E】4二金打(図)。 金を打つ手。
 これにも「3三香成」と行く(次の図)

先手4一角図12
 これを後手同桂は、5二角成、同金に、4一飛と打って、先手優勢。
 後手の選択肢は、「3三同玉」か、「3三同歩」になる。
 「3三同玉」には、「1一角」。以下、「2二桂、3四歩、同玉、2二角成(後手玉は2五銀以下詰めろ)、4四歩、3八桂(4六桂以下詰めろ)、3五銀、3七飛」(次の図)

先手4一角図13
 これで後手玉は仕留められている。
 「3七飛」(図)に、3六香は、2五金、同玉、2六銀以下寄り。4一金(角を取る)は、4六桂、4三玉、3五飛。
 図では他に後手3三香もあるが、それには2五銀(同玉は2三馬)、4三玉、3四金で、やはり寄っている。

先手4一角図14
 「3三同歩」の場合は、「3一銀」(図)と打つ手がある。 「同玉」に、「2三角成」とする。
 後手は受けなければならないが、ここは「2二銀」しか受けがない。(2二歩では1一角で寄せられる)
 「2二銀」には、「1二馬」。 これで先手優勢である。

 【E】4二金打も先手良しになった。


変化4一角図15  後手6五桂の変化
 【F】6五桂(図)には、「8六玉」とする。
 そこで後手がどう指すか。甘い手を指していると、先手5二角成がある。
 8四歩には、9六歩とし、以下4二金打なら、9五玉で“入玉”を狙う。

 「6五桂、8六玉」に、そこで「4二金打」が後手工夫の手順になる。
 単に4二金打の場合は、先手はすぐ3三香成とした。その場合、同歩には3一銀、同玉、2三角成の用意があったが、「6五桂、8六玉」としたこの場合は、「4二金打」にその順だと、後手に「銀香」と渡してしまうと先手玉が詰まされて負けになる。よってこの場合は、先手は他の手段をひねり出さなければならない。(これが後手の狙いだ)
 「4二金打」に、先手は、「5二角成、同金」に、「4一飛」(次の図)

先手4一角図16
 次に3一角から後手玉は“詰めろ”だ。
 これを4二銀右と受ける手があるが、それには、3四歩、4四銀、6一角と指して先手良し。
 後手6六角(攻防の角打ち)には、先手3一金と打って、それも先手が良い。

 なので、後手は粘り強く「3一桂」と桂馬を投入して受ける。
 そこで先手は「7二角」。 後手は「5八角」。 お互いに“好角”を打つ。
 先手玉が安全に“入玉”できれば先手が勝ちになるが後手の「5八角」がそれを食い止めている。

 「9三竜、9四歩、8三竜、6七角成、7三歩成、7一歩、8一角成、7七桂成、6三と、7六馬、9六玉」(次の図)

先手4一角図17
 こう進んで、どうやら先手が勝てる形勢になっている。

 後手【F】6五桂は、うまく指せば先手が勝てるようだ。


変化4一角図18  後手4二銀右の変化
 【G】4二銀右。 この手は。3三香成を、同銀と受けようという意味。
 これには、「3四歩」と指す。(3三香成、同銀の展開は、この場合は先手まずい)
 後手「4四銀」と逃げて、どうなるか。

 先手は「5二角成」で勝負する。 後手「同歩」に――――(次の図)

変化4一角図19
 「3三金」(図)で、先手勝ち。 後手玉は詰んでいる。
 3三同歩に、3二金、同玉、4一角、2二玉、2三角成、同玉、2一竜、2二歩、1五桂(次の図)

変化4一角図20
 1四玉に、2四飛以下、“詰み”。

 この詰みがあるので、先手「3四歩」に、実は後手「2四銀」(次の図)と逃げる手が、後手の正解手となる。

変化4一角図21
 これなら、上の“詰み”の、「先手1五桂」を、同銀と取れるので後手玉は詰まない。
 だからこの「2四銀」(図)に対しては、5二角成~3三金とは行けない。
 
 なので、ここからは、「8六玉」として、以下7四歩、6六角、5五銀引、9三角成、7五銀の展開が想定されるが、この先は形勢不明である。

 というわけで、先手は【G】4二銀右を粉砕することはできなかった。
 しかし先手がはっきり悪くなる変化もなく「互角」に戦えるとわかった。


先手4一角図22 後手3一桂の変化
 7番目の手【H】3一桂は、なぜこれを調べる気になったのか覚えていないが(「激指14」が4~6番目くらいの候補に挙げていた手)、なんとなく調べ始めてみると、この手が実に“難敵”だったのである。 スルーするわけにはいかない手だとわかってきた。
 以下は、この手についての、我々の苦闘と驚きの記録である。(驚きというのは、次々と驚きの手順が現れてきたからだ)

 この【H】3一桂は妙な手だ。先手は「3六香」と3筋を狙って香車ロケットを設置したのに、3一桂は3筋を守っていない。
 この桂打ちは、まず、「3一」を埋めて、先手の狙いの5二角成にあらかじめ備えたという意味がある。
 それだけでなく、次に“4二金”とするひそかな狙いもあるのだ。この図で後手の手番なら、4二金とし、5一竜には、4一金、同竜に、5八角から先手玉は詰まされてしまう。
 
 先手の最善手は「3三香成」。 後手はこれを「同桂」と取る(次の図)

先手4一角図23
 香を一枚渡して、後手の持駒は「金桂香」になった。まだ先手玉に詰みはないが、攻め続けないといけない。
 攻めるなら、“3四歩”か、“5二角成”。

 “5二角成”とすると、後手は「8四桂」。以下、「7七玉」に、「7五銀」と、銀が玉頭に出てくる。
 これは何気なく見えて、実は“詰めろ”なのである。次に、7六銀、8八玉、7七金から、先手玉は詰む。
 だから5三馬(銀を取りながら後手玉に詰めろをかける手)では、先手は負けてしまう。
 それならと「4三馬」としたが―――(次の図)

先手4一角図24
 馬を自陣に利かせて詰みを防いだが、後手は「7六香」(図)と打って、この図は先手の負けになっている。

先手4一角図25
 “5二角成”では勝てないとわかった。なので、“3四歩”(図)。 この手に期待しよう。
 「8四桂、7七玉、4二金、3三歩成、同歩」と進む。
 4二金と寄って、3三歩成を同歩と取るのが、3一桂を打ったことと関連した後手の予定の受けである。

 「これはうまくやられたか」と思ったが、しかし、先手にここで好手が存在した(次の図)

先手4一角図26
 「1五角」(図)と打つ手である。
 この手は後手玉への“詰めろ”になっている。3四桂と打って、同歩とさせて3三に空間をつくり、3二飛から駒を清算して詰ます狙いである。
 そしてこれを3二香と受けると、6三角成として、その図は先手良しになるのだ。手駒を使うと先手玉への攻めが甘くなる。後手は駒を使わずに受けたい。
 というわけで、「2四歩」。 この手があった。後手の最善手。
 2四同角としても、今度は「2三」に脱出路があるので、後手玉は詰めろにならないのだ。
 
 なので、先手は「6三角成」。
 そこで後手は「7五銀」。 先手は「5九角」(金を取りながら7七を受けた)。

先手4一角図27
 さて、手番は後手に渡った。後手はどう攻めるか、という場面。

 以下、「7六銀、8八玉、6七と」―――これが普通の攻めだろう(次の図)

先手4一角図28
 ところが、ここで先手は「1一銀」!! まるで“やけくそ王手”のような手に思えるが…
 「同玉」に、「2三桂」(次の図)

先手4一角図29
 なんと、後手玉はこれで詰んでいるのだ!!
 「同桂」は、2一金、同玉、3一金、同玉、4一竜、4一合、同馬、同金、2一飛以下。

 では「2二玉」は? それには、2一金、同玉、1一飛、2二玉、3一飛成、2三玉、4五馬、3四合、2二金、1四玉、1五歩、2五玉、1七桂、1六玉、2八桂(次の図)

先手4一角図30
 長いが、一本道の順でピッタリの“詰み”。 示されてみれば、難しい手順ではない。

先手4一角図31
 「7六銀、8八玉」(図)の場面まで手を戻してみたが、ここで後手玉に詰みがあるということなら、もっと前に後手は対処すべきではなかったか。
 4手前に戻って、そこで6二歩(図)なら後手が勝ちなのではないか。

先手4一角図32
 これで先手の6三の馬を移動させる。 そこで7五銀~7六銀と迫って行けば、先ほどの“詰み”の筋は消える。だから6二歩(図)である。
 以下、4五馬、7五銀。

 そこで先手5九角に6七とで後手勝ち―――というのが、後手の目算だが、それを上回る手が先手にあった。
 5九角と金を取る手ではなく―――(次の図)

先手4一角図33
 1四桂(図)と打つ。 これまた“思い出王手”のたぐいの手と思いきや、そうではなかった。
 1四同歩に―――(次の図)

先手4一角図34
 1三銀(図)と打つ!! おそろしい筋があったものだ。
 この手には、1三同玉と、3二玉の2つの応手がある。

 まず1三同玉には、2四角がある。これを同玉は2三飛があるので、この角は取れない。2二玉。
 以下、1二馬、3二玉、そこで3三角成!! これも取ると詰んでしまうので、4一玉。
 先手は、3二金(次の図)

先手4一角図35
 なんと後手玉は詰んでしまっている。
 5二玉、4二金、同銀、5四飛以下。

先手4一角図36
 戻って、後手3二玉(図)の場合。
 これには2二金、4一玉と決め、5九角と金を補充する。
 以下、6六銀、7八玉、7六桂で、先手玉に“詰めろ”がかかった。
 しかし、3一金、5二玉(図)と追って―――

先手4一角図37
 後手玉に“詰み”がある。

 6一竜、同玉と、まず竜を捨て、7一飛と打つ。(詰将棋に現れる駒の“打ち換えの手筋”がここで出た)
 5二玉に、そこで6三金(次の図)

先手4一角図38
 6三同歩に、7二飛成から“詰み”。

 このような華麗な切り返しがあって、後手の6二歩は、4五馬で先手勝ちとなることがわかった。
 では、この将棋は、「先手勝ち」になるのか。
 いやいや、こんなにうまくいくはずがない。浮かれず、慎重になってよく調べなければ。

先手4一角図39
 先手が「1五角」と打って、後手「2四歩」に、先手「5九角」のところまで戻って、そこで6二銀(図)と銀を引くシャレた技があった。これも“先手の6三の馬を移動させる”という意味であるが、それ以上の意味も持っている。
 同馬なら、上で見てきた“1一銀以下の詰み”がなくなるので、6七とで後手勝ちになる。
 そして、このままでもその詰みは防いでいる。6二銀が5一に利いていて5一竜を許さないからだ。
 4五馬とするのも、6七とで、後手の勝ちになる。

 これはいい手だ、これで後手有利が確定かと思いきや、先手にはまだ“返し技”があった。

先手4一角図40
 2三金(図)と放り込む!!
 これを同玉なら2一飛、2二香、1五桂、1四玉、3六馬、2五金、4五馬で、先手勝ちになる。
 よって、2三金には、同桂。
 そこで先手6一飛と打つ(次の図)

先手4一角図41
 3一に空間ができたので、この6一飛(図)が、3一銀以下の“詰めろ”になっている。
 これを3二金打のように受けても、また6二飛成とした手が、3一銀、同金、4二竜以下の“詰めろ”になっている。
 図で6三銀も詰みがある。1一銀から打つ詰み筋だ。 1一銀、同玉、2一金、同玉、5一飛成以下、これまた示されてみればそう難しくない詰み筋だ。(3一銀から入ると詰まないところがおもしろい)
 そして、この図は、後手の受けが難しいのだ。

 だが、正確にはどうやら「後手勝ち」の図になっているようだ。
 正解手は、7七金。 以下、同角、同銀成、同玉、6八角、6六玉、5六と、同玉、5七角成以下、先手玉に詰みはないのだが、玉を追いながら、後手が勝ちになる順がある。(その解説は省略)

 しかしもっとわかりやすい後手の勝ち方があるのでそちらを紹介しておく。次の図がそれである。

先手4一角図42
 やっぱり、6二銀(図)である。
 ただしこの図は、先に示した6二銀とタイミングが2手早い。つまり後手は(7六銀としないで)「7五銀」の状態のまま、6二銀としたのである。
 これなら、もしも先手が2三金から襲ってきたとしても、そのとき、後手持駒が「金金香」となるので、7六香からあっさり詰めることができるというわけ。
 
 実戦では、先手の2三金以下の強襲をわかっているのでなければ、「7六銀、8八玉」を決めてしまいがちだ。でもそれをすると、かえって勝つのが難しくなる。
 将棋に強いということは、細心の読みと用心深さがあるということでもある。


 以上の考察によって、【H】3一桂の手によって、我々(先手)の『3六香ロケット』からの勝利への道ははっきりと途絶えた。
 これはあきらめるしかないだろう。残念だが。


先手4一角図43  後手3四桂の変化1
 さて、【A】3四桂(図)には、3五歩できっと勝てるだろう―――と、戦時中は、そう考えていた。だからこの手の調査は後回しにして深くは読まなかったのだが、戦後の今、これを調べてわかったことは、3五歩以下、先手が苦戦する、という事実である。

 図より、3五歩、同銀(このあっさり同銀が我々の意表を突いた一手)、同香、7五金、7七玉、8五桂、8八玉、7六金(次の図)

先手4一角図44
 銀をもらって、後手の持駒は歩だけ。ところがこの図になってみると、先手は香車を3筋に使ってしまっているので、7九香の手がなく、受けが難しいではないか。
 9六銀、6七と、3四香、同銀、9八玉、7七桂成、4六桂、4五銀、5二角成(次の図)

先手4一角図45
 こう進むと、「先手優勢」になる。5二同歩なら、2一竜、同玉、3三桂で、後手玉詰み。
 なので後手7八と(または8四香)と攻める手が考えられる。しかしそれは、3一角(同玉は4一飛以下寄り)、3三玉、3五飛、4四玉、5三角成、同銀、同馬以下、後手玉は“詰み”となる。(この変化のために桂馬を2六ではなく4六に打った)

 しかし先手が良くなったのは、後手が対応を間違えたから。正確に指せば、逆に「後手優勢」になる。
 先手の4六桂に、4五銀と逃げたのが、後手の失着であった。

先手4一角図46
 先手の4六桂に、銀取りを放置して、後手7八とと修正した場合。
 以下、3四桂、3三玉と進んで、この図。
 今度は「後手優勢」になっている。(先手1一角、3四玉に、3八飛などの手はあるが届かない)

 【A】3四桂には、戦闘中は「先手勝てる」と思っていたが、実際は正しく指されると負けだったのである。

 また、【B】3五桂についても、「勝てる」と思ってはいたが、実際はそう簡単ではない。それでも一応は「先手良し」の結果が得られた。(内容は省略)



先手4一角図04(3六香ロケット図)(再掲)
  【A】3四桂  → 後手良し
  【B】3五桂  → 先手良し
  【C】7五金  → 先手良し
  【D】4二金  → 先手良し
  【E】4二金打  → 先手良し
  【F】6五桂  → 先手良し
  【G】4二銀右  → 互角
  【H】3一桂  → 後手良し

 我々(終盤探検隊)は、【H】3一桂で勝てない、と結論を出した。(【A】3四桂でも負けていた可能性が高い)
 かくして、この『3六香ロケット作戦』の採用を断念したのである。

 つまり、<2>4一角 では勝てない


≪5九金図≫(再掲)
   <1>2五香 → 後手良し
   <2>4一角 → 後手良し

 先手(終盤探検隊)が実戦で選んだ手は、別の手である。


第16譜につづく

終盤探検隊 part115 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第14譜

2019年04月11日 | しょうぎ
 指し手  △5九金


    [鏡と、鏡のかけらのこと]

 あるところに、ひとりのわるい小人の魔ものがいました。それは魔ものの中でも、いちばんわるいほうのひとりでした。つまり、「悪魔」です。ある日のこと、悪魔は、たいそういいごきげんになっていました。というのは、この悪魔は、まことにふしぎな力をもつ、一枚の鏡をつくったからでした。つまり、その鏡に、よいものや、美しいものがうつると、たちまち、それが小さくなり、ほとんどなんにも見えなくなってしまうからです。ところが、その反対に、役に立たないものとか、みにくいものなどは、はっきりと大きくうつって、しかもそれが、いっそうひどくなるというわけです。たとえようもないほど美しい景色でも、この鏡にうつったがさいご、まるで、煮つめたホウレンソウみたいになってしまうのです。どんなによい人間でも、みにくく見えてしまいます。さもなければ、胴がなくなって、さかさまにうつってしまうのです。(中略) 「こいつは、とてつもなくおもしろいや」と、悪魔はいいました。たとえばですよ、なにか信心深い、よい考えが、人の心の中に起こってきたとしますね、すると、鏡の中には、しかめっつらがあらわれてくるのです。小人の悪魔は、自分のすばらしい発明に、思わず、吹き出してしまいました。
   (中略)
 そして、それが、人間の目の中にはいると、そこにいすわってしまうのです。そうすると、その人の目は、なにもかもあべこべに見たり、でなければ、物のわるいところばかりを、見てしまうようになるのです。なにしろ、一つ一つの、ほんの小さな鏡のかけらでも、鏡ぜんたいと、同じ力を持っているのですからね。

     (『雪の女王』ハンス・クリスチャン・アンデルセン著 矢崎源九郎訳 新潮文庫)


 ハンス・クリスチャン・アンデルセンは19世紀、デンマーク生まれの作家。
 そして『雪の女王』は、アンデルセンのよく知られている作品である。しかしその物語の中の「鏡」のことまで覚えている人はどれくらいいるだろう。

 アンデルセンの作った『雪の女王』という物語は、女の子ゲルダが、<雪の女王>の虜(とりこ)になってしまった男の子カイを救出に行く物語である。
 しかし<雪の女王>はカイを強引にさらっていったというわけでもない。いつのまにか、ふらふらと<雪の女王>のそりの中に座って、おとなしく<女王>の城まで連れ去られてしまった。
 「諸悪の根源」という言葉があるが、この場合、<雪の女王>がそれだったというわけではない。

 根本の原因は「鏡」だった。
 悪魔が面白がってつくった「鏡」が、あるとき粉々に割れてしまった。それが小さな小さな破片となって世界中にばらまかれることとなった。
 その「鏡」のとても小さな破片の一つが、男の子カイの目にたまたま入ったので、その瞬間からカイは何かが変わってしまった。それがこの事件の始めにあった原因だ。

 しかし、この物語は、女の子ゲルダが、見事に「カイ救出の旅」をやりとげ、「鏡」のかけらの災いを消し去ることに成功する。女の子の一途な気持ちと行動がもたらしたハッピーエンドの物語である。



<第14譜 まぼろしの勝ち筋があとになって次々と…>

4二銀左図
 先手の「3四歩」に、図の「4二銀左」が、後手の≪亜空間の主(ぬし)≫の用意していたであろう“勝負手”であった。
 この手に意表をつかれた我々(終盤探検隊)は、動揺し、しかし同時に、冷静になれと自分たちに言い聞かせ、「▲9一竜」を選択したのであった。

 だが、後でこの図を調査研究してみると、ここで「4一角、3二歩、5八金、同と、9一竜」、あるいは、「5八金、同と、9一竜」と指せば、はっきり先手が良くなる順が存在することがわかった。(前回の譜で紹介した)

 そしてさらにこの図を精査していくと、他にも先手勝てるかもしれないというほどの有力手が浮上してきたのだ。

 ▲6五歩、それからもう一つ、▲7三歩成である。

 その調査結果を、今回の譜で以下報告していきたい。 


6五歩 の調査研究]

 なぜ、我々は後手「4二銀型」に対しての▲6五歩について、本番の戦いにおいて考えることをしなかったのか、まったく不思議である。
 我々はこの「最終一番勝負」の直前に、「3二銀型」と「3四銀型」に対しての6五歩の攻め(これをそれぞれ『桃太郎作戦』、『桃太郎作戦Ⅱ』と名付けて)研究調査していたのである。タイミングは違うが『赤鬼作戦』でもこの6五歩の攻めは出てきていて、有効だと知っていた。
 それなのになぜかこの時には「6五歩」の攻めがあることをすっかり忘れてしまっていたのである。
 ≪ぬし≫のもたらすなんらかの魔法にかかっていたのであろうか。それを考えても、≪ぬし≫の勝負手「4二銀左」の一手は、たしかに成功していたと、後からみても思えるのである。

後手6五歩図1
 この「6五歩」(図)に、5五銀上と逃げると、7三歩成で、これははっきり先手が良い。
 だからここは後手「5九金」と、金を取る。
 以下、「6四歩、同銀」(次の図)

後手6五歩図2
 結論を先に述べておくと、この「6五歩」の作戦は成功で、先手が勝てる。
 ここで2つの手があり、一つは「▲2五飛」であり、もう一つは「▲9一竜」である。どちらも先手良しというのが我々の戦闘後の調査研究の結論である。
 「▲2五飛」は、後手陣の弱い「2三」に利かせつつ、後手の7五金をけん制する(打ってくれば同飛と取って優勢)というもの。

 その手もあることをここで指摘しておき、以下は、「▲9一竜」(次の図)からの指し方を明らかにしておきたい。 

後手6五歩図3
 「9一竜」(図)と進め、後手7五金を打たせて勝つという方針を取る。

 手番の来た後手の有力手は、(1)7五金 と、他に (2)6六歩 と、それから、(3)6三桂

変化7五金図01
 まず7五金(図) から。
 7七玉、8五桂、8八玉と進む(次の図)

変化7五金図02
 ここで7六桂、9八玉、7七桂成で、先手玉に“詰めろ”がかかる。
 しかしそこで8九金と香車を温存して受け、6八とに、4一角、3二歩、3三香(次の図)

変化7五金図03
 と攻めるのが、前譜でも学習した後手「4二銀型」の陣形の攻略法で、この図は「先手勝ち」。

変化7五金図04
 7六桂ではダメなので、代えて7六金(図)とする。
 これには7九香。この展開も前譜で出てきたが、その時は、「5八と型」だった。今回は「5七と型」なので、ここで“6七と”がある。
 6七と、7六香、7七桂成、9八玉、7八とに、8九銀と受ける(次の図)

変化7五金図05
 さあ、先手は勝てるだろうか。
 ここから<a>8九同とと、<b>6六歩が考えられる。
 <a>8九同とは、6六角、5五銀引、7七角で、成桂を抜く。
 しかしまだ8五桂からからみついてくる。
 そこで―――

変化7五金図06
 3三桂(図)という痛快な手があった。
 同桂は、1一角、同玉、3二金で、先手の勝ちが決まる。放っておけば、3二金、同玉、4一角以下後手玉詰み。
 なので後手3二歩だが、4一飛、3一銀打、2一桂成、同玉、5九角と進めれば、後手に持駒の銀を自陣に使わせたので後手の攻めが細くなり、はっきり先手良し。
 なおも9九と、同玉、9七桂成という攻めはあるが、それには1五角(次の図)

変化7五金図07
 この手は2二金、同玉、3三金以下の“詰めろ”になっており、その詰みを4四銀と防いでも、4二角成で“受けなし”。
 だから後手は2四桂でがんばるしかなさそうだが、3五桂、2二香に、9八金といったん受けて、先手勝勢である。

変化7五金図08
 8九とだと、6六角で成桂を抜かれてしまう――ということであれば、6六歩(図)が当然有力手として考えられる。次に8九とや6七歩成が入ると先手玉は受けが厳しくなる。
 しかし、ここは先手が勝てる図になっている。一例として、3八飛からの攻防を紹介しておこう。
 3八飛(3三角以下の詰めろ)、3二歩、7八銀、同成桂、同飛、6七歩成、3八飛(次の図)

変化7五金図09
 ここで後手6五銀は、3三歩成、同銀、4一金があって、先手勝勢になる。
 なので、4七銀不成と、先手は飛車を攻めて移動させる。先手は3五飛。
 以下、7八と(詰めろ)、9六歩、7七銀(次の図)

変化7五金図10
 後手の7七銀(図)は攻めとともに、先手6六角を防ぐ意味もある。
 しかしここはもう手番の先手が「どう決めるか」という場面で、手はいろいろある。1五桂からの攻めを示しておく。
 1五桂(1一角、同玉、2三桂不成以下の詰めろ)、3一桂、4一角、5六銀成、2三桂成、同桂、2四金(次の図)

変化7五金図11
 これで先手の勝ちが決まった。2三金、同玉、1五桂から詰ます狙いだが、それを3一桂と受けても、3三角以下の詰みがある。


変化6六歩図01
 後手(1)7五金の手に代えて、(2)6六歩(図)だとどうなるだろう。 
 7五金をすぐ打たないところが後手の工夫したところで、もし先手が4一角、3二歩、3三香とやってくれば、後手は香車を入手することになるので、“8四桂”と打って先手玉を詰ます狙いである。7五金を保留することで8四桂からの攻めも選択できるわけだ。
 といってこの6六歩をうっかり同玉と取ると、8五桂としばられて、先手は負けになってしまう。

 ではどうするか。4一角は、とりあえず打つ(次の図)

変化6六歩図02
 後手は3二歩。 (代えて3一金は、5二角成、同歩、6一飛で、先手良し)
 3二歩に、先手5二角成とする。 これを同歩は、3三角以下詰みがある。
 5二角成以下、7五金、7七玉、6七歩成、8八玉、7六桂、9八玉、7八と、8九香(次の図)

変化6六歩図03
 後手陣に受けはもうないので、後手は先手玉に“詰めろ”でせまるしかない。だから、8九と。
 それには、7七角と王手で打って、後手6六歩。これでこの瞬間、先手玉の“詰めろ”は解除された。
 よって、4二馬で、先手勝ちになる。

 ではこの図から、8八桂成、同香、7六桂の“詰めろ”にはどうするか。
 8九銀と受けても勝ちはあるが、まだたいへん。それより、後手玉に“詰み”が生まれている。

変化6六歩図04
 4四角から“詰み”。(他の詰まし方もある)
 この詰み筋が生まれたのは先手に「桂」が入ったから。
 4四同歩、3三歩成、同銀(同桂の変化のときに桂が必要になる)、3四桂、同銀、3一銀、同玉、5一竜、2二玉、3三金(次の図) 

変化6六歩図05 
 以下、詰み。

 このようにして、(2)6六歩 の変化は、4一角~5二角成の攻めで先手勝てる。


変化6三桂図01
 さらに「後手6五歩図3」(先手9一竜)まで戻り、そこで後手 (3)6三桂(図)以下の攻防を見ておこう。
 6三桂は、次に7五銀とする狙い。

 調査の結果、ここで、先手の勝ちへとつながる道筋が2つあるとわかった。
 7三歩成と、4一角である。
 どちらも、簡単に勝ちになる道ではないが、我々の研究では確かに先手勝ちになったのだ。

 ここでは7三歩成から続く道のほうを示しておく。
 以下、7五銀、8五玉に、9四金(次の図)

変化6三桂図02
 後手の9四金(図)もこれが最善で、代えて8四金、9六玉は、先手良し。
 9四金には、7四玉しかない。(9六玉だと8四桂の一手詰め)
 7四玉に、8四金、6五玉で、次の図。

変化6三桂図03
 ここで〔ア〕5三金で、先手玉は絶体絶命に見える。
 他に〔イ〕4四歩、〔ウ〕5三桂もあり、先手の受けがあるのかどうか。
 (〔エ〕6四歩、5四玉、5三金、4五玉は、後手の4六銀が浮いているので後手負けになる)

変化6三桂図04
 まず〔ア〕5三金(図)から。
 先手玉はたしかに“絶体絶命”を思わせるのだが、ここで3三角と打ってどうなるか(次の図)

変化6三桂図05
 すなわち、3三角(図)以下、後手玉が詰んでいれば先手が勝つのである。
 3三同桂、同歩成(次の図)

変化6三桂図06
 ここで3三同銀は、3四桂と打つ手があって、同銀、1一角、同玉、2一金、同玉、5一竜以下、後手玉は詰んでいる。
 したがって、図から後手は3三同玉。
 そこで3六飛、3五角(最善と思われる応手)、4五桂(次の図)

変化6三桂図07
 厳密には後手玉は詰んではいなかった。しかし、4四玉、5三桂成となって、あの金を取って先手玉も“詰めろ”を解除できた。5三桂成は後手も同銀しかなさそうだ。
 そこで3四金と打ち、同玉、2五角、同玉、2六金(次の図)

変化6三桂図08
 2六同角、同飛、3四玉、2五銀、3三玉、3四香、2二玉、3三角(次の図)

変化6三桂図09
 詰んだ!!

 つまり、後手〔ア〕5三金は3三角以下「先手勝ち」となる。

変化6三桂図10
 〔イ〕4四歩(図)にはどうすればよいか。この手は、次に後手6四歩、5四玉、5三金の詰みがあり、6三ととしても、5三桂、同と、6四歩、5四玉、5三金で意味がない。
 これまた先手“絶体絶命”を思わせるが、ここで3三歩成という技がある。

変化6三桂図11
 3三同銀だと、先ほどの6四歩以下の先手玉の詰めろが解除されるというのがポイントで、それは4一飛で先手が勝ちになる(以下△4二銀には6二角、△3一歩には6三と同金3四桂)
 また3三同玉も3四香から後手玉が詰む。
 したがって、3三同桂と後手は取ることになる。

 そこで先手はどうするか。次の手がある(次の図)

変化6三桂図12
 5四銀(図)と打つ手である。
 これで、後手は6四歩が(打ち歩詰めの反則になるので)打てない。うかうかしていると先手6三と(桂馬を取って3四に打つ)があるし、先手4一角(詰めろ)もある。
 なので後手は5三桂と打ち、同銀不成と応じ(これで桂馬を入手したので後手玉に3四桂からの詰みが生じている)、6四歩、同銀成、同銀、7六玉、6五銀、7七玉、2五桂(後手玉の懐を広げ詰めろを解除)、4一角(次の図)

変化6三桂図13 
 4一角と打って先手勝ち(3二歩には、5二角成)

変化6三桂図14
 この図は、第3の手〔ウ〕5三桂に、5四玉としたところ。
 ここで5六とという手がある。またここで4四歩にはどうすればよいのだろう。

変化6三桂図15
 5六とには、5七香で受かっている。

変化6三桂図16
 では4四歩にはどうするか。この手は次に後手4三銀が狙いなので、その手を受ければよい。3三歩成、同桂、4一飛を紹介しておく(次の図)

変化6三桂図17
 4一飛(図)が“詰めろ逃れの詰めろ”である。3一歩と詰みを防げば、6一角で、次に5二角成を狙う。
 4一飛に、後手は有効手がなくなった。
 4三銀、同飛成、同金、同玉くらいしかないが、飛車一枚ではどうにもならず、先手勝ち。


 以上の調査により、「後手6五歩図3」から後手 (1)7五金 と、 (2)6六歩 、および、(3)6三桂 以下は「先手良し」となった。

後手6五歩図1
 よって、▲6五歩 で先手勝てる、と結論したい。



4二銀左図
 そしてここで、さらに7三歩成でも勝てそうだとわかってきたのであった。


▲7三歩成 の調査研究]

 以前、≪亜空間戦争≫において、我々は「7三歩成」に、『白波作戦』と名前を付けて、これで勝てるのではないかと試してみた。

5八金図(夏への扉図)
 「3二銀型」。 ここで7三歩成は先手勝てなかった。  

3四同銀図
 「3四銀型」(上の図から3三歩、同銀、3四歩、同銀と進めたところ)
 ここで7三歩成もチャレンジしたが、先手敗れた。

 こういう体験が蓄積されて、ここでも、「7三歩成では勝てない」と、先入観が出来上がってしまっていたようである。

7三歩成図1
 さて、今回直面した新型――「4二銀型」――ここでの7三歩成は、どうだろう。

 ▲7三歩成 (図)に、同銀は、8三竜で先手良しになる。
 よって後手は5九金と金をとるが、先手はそこで7四ととする(次の図)

7三歩成図2
 「3四銀型」の場合、ここで「8四桂」があるので、先手負けになっていた。(「3二銀型」も同じ)
 ところがこの「4二銀型」の場合は結論が逆になるのである!(ここが最重要ポイント)

 8四桂、同と、7五金、7七玉、6五桂、8八玉、6七と、4一角、3二歩、3三桂(次の図)

7三歩成図3
 この攻めがあるので、先手が勝ち。
 以下は、3三同桂、同歩成、同銀に、3四桂と打つ手がある。続いて同銀、1一角、同玉、3一飛(次の図)

7三歩成図4
 2一角に、3二角成で、後手玉は“必至”である。

7三歩成図5
 今の一直線の攻め合いでは後手が負けになる。なのでこの図は、途中で後手が3二歩(図)と受けた場合。
 これには4一角がわかりやすい。このままならやはり3三桂と打ちこめば先手の勝ちだ。

7三歩成図6
 なので、後手はさらに4四銀と「3三」を強化する。
 これには、5二角成、同歩、4一飛、3一角、5四桂と攻めていく。
 以下、5三銀右引、4二桂成、同銀、6四角、5三銀引(代えて5三歩には5二金)、4六角(次の図)

7三歩成図7
 次に3三銀以下の“詰めろ”になっている。後手受けもない(5一桂は、同竜、同銀、3三銀から詰む)ので、先手勝ちが確定した。

7三歩成図8
 「7三歩成図2」まで戻って、先手7四とに対して、7三桂(図)とする有力手がある。
 これには先手8三竜。以下、5五銀引に先手の指し手が難しい。
 どうやら8六歩が好手のようだ。先手はどこかで7三の桂を取って、4一角、3二歩、3三桂が実現すれば勝ちになる。
 後手は9五桂(7三となら7五金で後手勝ち)
 先手は8五歩と8六に空間を作る。8六~9五という逃走ルートができた。
 形勢は難しく、ソフト「激指」はむしろ後手持ちだが、最新のソフトを使った研究では先手が良くなる。
 以下、5六と、6七歩(次の図)

7三歩成図9
 とはいえ、この局面は最新ソフトでも評価値的には先手が苦しい。ところがこの後を研究していくと、どうやら先手が良くなる。それほど“難しい局面”なのだ。
 この図で「6七同と」も後手の有力手で、以下6四と、同銀上、6七玉、6五桂、7六玉は先手厳しい戦い。しかし6四と、同銀上、1五角(詰めろ)、3二歩、6七玉で、続いて6五桂には5九角と金を取る手があるので、先手良しになる。

 この図から「7五歩、同と、6六歩」の展開を見ていく。
 後手7五歩――これを8六玉とかわしたくなるが、それだと9四歩とされ、次に後手7六金、9六玉、8七桂成を狙われて、先手が悪い。
 だから7五歩は同とと取り、後手6六歩には、2五飛と打つ(次の図)

7三歩成図10
 これが攻防の飛車打ちで、ここで先手に“希望の道”が開けてきた。後手の「4二銀型」のこの陣形は「2三」が弱点で、いつもこの2五飛があるのだ。
 次に先手4五角が狙いでそれを打たれると後手まずい。かといって金を受けに使うようでは後手勝てない(2四金は、同飛、同歩、3三歩成、同銀、4五角、3四歩、4一角)
 なので後手4四歩と受けるが、8六玉、9四歩、6四と、同銀引(同銀上だと5四角があった)、5四歩(同銀に5三歩が狙い)、7五金、9六玉、6二銀、8二角(次の図)

7三歩成図11
 9一の香を取って、2六香と打てれば先手勝ち。
 6五銀、9一角成、7四銀、2六香、8五銀、同竜、同金、同飛、同桂、同玉(次の図)

7三歩成図12
 先手勝勢。
 きわどかったが、後手の「4二銀型」の弱点の「2三」を狙った2五飛の好手が、先手を勝ちに導いた。


7三歩成図1
 以上の調査結果から、▲7三歩成 も先手勝ち筋と認定する。




4二銀左図(再掲)
 さらにもう一つ、この図から先手を勝ちに導く「新たな手」が発見された。


8二飛 の発見]
 
8二飛図
 ▲8二飛(図) である。
 以下、6二歩に、8三飛成で先手良し、というもの。(詳しい解説は省略する)
 
 なぜ我々がこの手を調べる気になったかというと、それは次の参考図の手を知っていたからなのだ。

参考図(3四銀型での8二飛)
 「3四銀図」において、コンピューターソフト「elmo」が一推ししていた手が「8二飛」(図)である。
 それ以前に我々はこの「3四銀図」での勝ち筋を探しているときに、7二飛(6二歩に7三歩成)や、8三竜の手を調べ、それらはどうやら先手勝てないという結果になっていた。
 だからそれに類似している「8二飛」という手は盲点になっていて、「激指」も一応この手をいくつかの候補手の中に挙げていたのに、我々は気に止めなかった。
 それを「elmo」が第1番手の候補手として「8二飛」を挙げていたので、我々は急いでこれを調べ、これも「先手勝ち筋の一つ」と認識できたのだった(これは『終盤探検隊part112』で紹介している)
 
 ところがその「elmo」も、「4二銀左図」においては、▲8二飛 は有力手としては示していなかったし、ほかの最新ソフト群でも目立たない手だった。
 けれど念のためにと我々が調べてみれば、確かにこれは「先手良し」になる手なのだとわかったのだった。そのような「人間」+「ソフト」の知恵の積み重ねがあって、上の ▲8二飛 は発見できたのである。




 以上は、本番の戦いの後に、最新ソフトなどを使って調査した結果であり、つまり、出現することのなかった “まぼろしの勝ち筋” 群である。


第14譜指始図(▲9一竜)
 「亜空間戦争最終一番勝負」の実戦は、それらの“まぼろしの勝ち筋”の群れを捕らえることなく、「▲9一竜、△5九金」 (指了図へ)と進行した。

 我々は、いくつもの“まぼろしの勝ち筋”を逃したようだ。

 だからといって、「終盤探検隊は失敗した」とは思ってほしくない。


第14譜指了図(△5九金まで)

 我々は、▲9一竜 で勝つ道 を選んだのだ。


第15譜につづく

終盤探検隊 part114 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第13譜

2019年04月08日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第13譜 指始図≫ 4二銀左まで

 指し手  ▲9一竜


    [雪白姫 Schneewittchen]

 おきさきは、御殿へかえると、鏡の前に立って、

  「ががみや、かべのすがたみや、
   お国じゅうで、いちばんきりょうのよい女はだあれ」

と言いました。そうすると鏡は、せんとおんなじように、

  「おきさきさま、ここでは、おきさきさまがいちばんきりょうよし、
   けれども、お山のお山のそのむこうの
   七人の一寸ぼうしのうちにいるゆきじろひめは
   おきさきさまより千ぞう倍もうつくしい」

と、返事をしました。鏡がこんなふうにべらべらしゃべるのをきいて、腹が立って腹が立って、おきさきは、ぶるぶる、がたがた、ふるえました。

   (『完訳グリム童話集2』 金田鬼一訳 岩波書店より)



 訳者の金田鬼一氏は、原作にこだわって(白雪姫ではなく)「雪白姫(ゆきじろひめ)」としている。「スノーホワイト」は“雪のように白い”であって、“白い雪ではない”というのである。
 調べてみると、明治時代にこの話を翻訳されたときには、「雪姫」だったり「小雪姫」だったり「雪子姫」だったりしている。
 グリム童話は、ドイツのグリム兄弟によって集められた童話集で、その初版は1812年に発行された。
   “鏡がこんなふうにべらべらしゃべるのをきいて”
 グリム童話はほんとうは怖い話なのだというのはもうよく知られているが、この『白雪姫(雪白姫)』も確かに怖い。
 鏡がしゃべるのがまずこわいし、初版本ではこの鏡にむかって自分の美しさをしつこく問いかけている女は、白雪姫の「継母」ではなく、「実母」なのだという。(この岩波の本では継母) そうすると白雪姫が年をとって、美しさがおとろえてきたら、この母と同じになるのではないかと思うと、それが一番怖い。王子様は結婚後、幸せに過ごしたのかどうか、架空の話しながらも心配にもなってくる。

 それにしても、この童話の中の、「鏡」とは、いったい何だろうか。



<第13譜 4一角から勝ちがあった!>

 「亜空間戦争最終一番勝負」が進んでいる。
 闘っているのは、我々終盤探検隊(=先手)と≪亜空間の主(ぬし)≫(=後手)である。
 ≪亜空間の主(ぬし)≫は我々がこの姿の見えない敵に対して、とりあえず付けた名前である。
 また、「終盤探検隊」は、人間とコンピューターソフト「激指」の混成チームである。
 この泥沼のような≪亜空間≫から脱出するために、我々はこの「最終一番勝負」に勝たねばならない。
 (負けたらどうなるのかって? 知ったことか!)

≪最終一番勝負 3四歩図≫
 この図の先手3四歩を、後手が「3四同銀」と取って、そこで3三歩、3一歩、4一飛が我々の慎重に用意した“秘策”であった。我々はこの作戦に自信を持っており、それを『赤鬼作戦』と名付けていたのだった。
 いよいよその作戦を使う時が近づいてきたと、胸をときめかせて構えていたのである。

 ところが――――

4二銀左図
 ところが、敵である後手番の≪ぬし≫は、「4二銀左」 と、銀を引いたのだ。
 まるで、我々の作戦を見透かしているように。(我々のチーム中にスパイがいたのだろうか。いや、そんなことを考えるようではいけない)

 もちろん、我々もこの「4二銀左」の手は知っていた。だが、いつのまにかこの手を軽視して、相手がこの手を指してくることを想定から外してしまっていたのだ。
 そもそもずっと≪ぬし≫を相手に≪亜空間戦争≫を戦ってきて、≪ぬし≫は毎度かならず「3四同銀」と応じてきたのである。(いま思えば、それがこの本番に向けての長い前振りだったか)
 ソフト「激指」が「3四同銀」を第1候補手に推していたことで、「4二銀左ならなんとこなる」と我々は思い込んでいた。
 そういうこともあって、具体的にこの「4二銀左」に対してどう攻略していくか、それを調査していなかったのだった。その我々の調査準備の「空白」を≪ぬし≫が的確に突いてきたのである。

 だが、「4二銀左への攻略」を発見すれば問題ない。
 「激指」も、これは攻略できるということで、この手の評価を高くしていないはずなのだから、“何か”あるはずだ。

 (ところが戦後時間を経過してもう一度「激指」で調べなおしてみると、「4二銀左」の評価のほうが高く評価値-198、「3四同銀」の評価値は-41で2番目。いったいどういうことだ!! 我々は「激指」という味方にあざむかれていたのか!?)


変化4一角図1
 我々は、まず「4一角」に期待した。ここで4一角(図)と打って勝てないか。

 これは“詰めろ”なので、3二歩と後手は受けるのが正しい応手である。
 3一歩という受けもあるが、「2三」への角の利きが通っている分、明らかに後手にとっては3一歩では損である。

変化4一角図2
 後手3二歩(図)に、ここで先手の継続手があるか。それが問題だ。
 我々(終盤探検隊)は、ここで3三歩成、同銀、5二角成の筋に期待していて、それで勝てないかと長く時間を使って考えてみたのだ。
 だが結論は、5二同歩、4一飛に、5四角(次の図)となって……

参考図a
 “王手竜取り”だ。 これで先手負けになる。
 (以下8六玉、8一角に、3一金はあるが、後手からの6六飛の返し技があって、7六角、同飛、同玉、5四角、8六玉、4二銀左以下、後手勝ちになる)

 というわけで、我々(=終盤探検隊)は4一角以下の攻め見送り、9一竜を選択した のであった。
 9一竜と香車を補充し、チャンスをとらえて4一角を狙っていこうと決めたのである。(9一竜なら王手飛車もくらわないし)

 だが、4一角、3二歩の後、実は明快な「先手勝ち筋」があったのだ!!(わかったのは戦いの後だったけれども)

 今回の譜では、我々の捕まえられなかったその「幻の先手勝ち筋」を、以下、詳しく紹介しておこうと思う。

変化4一角図3
 「4一角、3二歩」の後、そこで「5八金」(図)と、ここで「金」を一枚補充するのである。
 (「4一角」と「5八金」のこの組み合わせを我々は思いつかなかった!!)

 後手「5八同と」(次の図)

変化4一角図4
 「5八金、同と」のあと、ここで“5二角成”とする手がある。それを“同歩”なら、先手勝ちになるのだ。3三金と打ちこんで、後手玉が詰むのである。
 だから先手がそれで勝てそうなのだが、残念ながらそうではない。5二角成を放置すれば、後手玉にはまだ“詰みがない”状態なので、逆に先手玉に“詰めろ”をかけつづけていけば、後手の勝ちになってしまうのである。
 具体的には5二角成に、後手“8四桂”と打つ(次の参考図) 

参考図b
 以下、6七玉に、5七銀成、7八玉、6八と、8九玉、3一金と進めば、(まだ難解ながらも)後手にとって有望な闘いとなる。
 つまり先手をもつ我々にとっては面白くない結果である。

 それで他に手がなければ先手の進路は閉ざされるのだが、ここで「9一竜」(次の図)があって、これが“本手”になる。

「課題図」
 すなわち、「4二銀左図」から、「4一角、3二歩、5八金、同と、9一竜」と進んだ。
 これを「課題図」としよう。この図が先手後手どちらが勝っているかが、以下の“課題”となる。

 先に「金」を補充し、今度は9一竜で「香車」を補充した。 これで先手の持駒は「飛角金金香歩」となった。
 「5八金、同と」の手順を逃して、単に9一竜だと後手5九金と進んで、その場合は「金」が一枚少ない状態となる。これが大きな違いだったのだ。

 ただし、手番は後手にまわった。
 後手は何を指すか。手の広い場面である。

 第一の候補手は〔A〕7五金(次の図)。まずその手から解説する。

変化7五金図01
 先手が9一竜として後手の香車を取ったので、先手には“入玉”の目ができてきている。具体的には、そこで先手番ならば6六角と王手で打って9三角成とし、それから8五玉と入玉していくのである。
 だからそれを阻止する意味でも、ここですぐに〔A〕7五金 と打つのは、後手にとって最も有力に見える指し手である。先手にとっても嫌な手だ。

 以下、7七玉、6五桂、8八玉、7六桂、9八玉、7七桂成と進むと、先手玉に“詰めろ”がかかっている。
 それを先手は、“8九金”と受ける(次の図)

変化7五金図02
 8九香ではなく、「金」で受けるのがとても大事なところ(理由は後でわかる)
 さて、これでもう先手玉には“詰めろ”はかからない。しかし後手6八ととすれば、次の7八とが“詰めろ”になる。
 その手がまわる前に、今度は先手が後手玉を攻める手があるかどうかの勝負となるが――あるのだ。

 「3三香」(次の図)と打ちこむ手がその答えである。

変化7五金図03
 この鮮やかな「3三香」という攻め方が、(戦闘中には)我々の意識にはなかった。この手は、この「戦争」の後で調べて発見できた手である。

 重要なことは、ここで先手が後手玉を攻めるとき、「香」を後手に渡しても、“先手玉は詰まない”ということである。だが、渡す駒が「金」ならば、先手玉は8八金と打たれて詰んでしまう。
 だから「3三」に打ちこむ駒は金ではいけないのだ。もし先ほどに香車を8九に打って受けに使ってしまっていたら、「3三香」とできなかったから、その場合は先手は負けになっていたのである。

 「3三香」と打ちこんだこの図は、鮮やかに、“先手勝ち”になっている。 以下、それを確認していこう。
 
 ここでの後手の応手は(ア)3三同桂と(イ)3一銀が考えられる。(3三同銀は同歩成、同玉、1一角で先手勝ち)

変化7五金図04
 (ア)3三同桂、同歩成、同銀、5二角成、4二銀右、5一竜、3一香、3四桂と進むとこの図になる。
 これを3四同銀は、3三金以下詰んでしまうので、後手は1一玉と逃げるが、それでもやっぱり詰んでしまう。2二金、同銀、同桂成、同玉に、3三銀(次の図)

変化7五金図05
 3三同歩は、3二金以下、3三同玉なら4二馬以下の“詰み”。

変化7五金図06
 というわけで、それならと後手(イ)3一銀(図)ならどうか。
 これには先手5二角成とする。後手は同歩。
 そこで4一飛打のような手なら、逆に先手が負ける。先手玉が8八桂成、同金、同成桂、同玉、7八金、9八玉、8九角で詰まされてしまうから。
 でも大丈夫。5二角成、同歩の時に、3二香成で、先手が勝てるのだ(次の図)

変化7五金図07 
 これで後手玉が“詰み”。
 図以下、3二同玉、4一角、2二玉、3二金、1一玉、2一金、同玉、3三桂、1一玉、2一飛まで。

変化7五金図08
 さて、戻って、後手6八とのところで、代えて3一銀(図)とここで先に受けておくのはどうか。
 これには5二角成とする。以下、同歩に、6一飛。(この場合は角を後手に渡しても先手玉はまだ詰まない)
 後手は4二銀引と“詰めろ”を受けるが、そこで3三歩成(次の図)

変化7五金図09
 3三同桂は、1一角以下詰み。 3三同玉は、1一角、2二銀、3八香、3四角、6四飛成で先手勝ちが確定。
 よってここでは3三同歩だが、それには3二歩が決め手となる。これを同玉は4一飛成以下詰みである。

 ということで、この後手の桂馬二枚での一直線の攻めは先手勝てるとわかった。

変化7五金図10
 もう少し戻って、後手7六桂の手に代えて、7六金としたのがこの図。
 これはまだ詰めろではないのだが攻めに厚みがある。そして後手に香車が入るとその瞬間に先手玉は詰んでしまうから、今度は先手は3三香とは攻められないのだ。
 7八金と受けるのも、6六桂があってこれが“詰めろ”なので、先手悪い。 

変化7五金図11
 だからここでは、7九香(図)と受ける。
 後手はどうするか。(カ)6八とは、5二角成(同歩なら3三金以下後手玉詰み)、7九と、5一竜として先手勝ちになる(5一同銀もやはり3三金以下後手玉詰み。先手玉は後手7七桂成に8九玉で詰まない)
 (キ)6六歩に対しても同じく5二角成~5一竜で先手が勝てる。

 なので(ク)8五桂が後手の残された手段となる。以下、7六香、7七桂左成、9八玉となって次の図。

変化7五金図12
 ここで後手は6五銀と、銀を援軍として送る。次に7六銀が“詰めろ”になる。
 そこで“2五飛”(次の図)が先手の攻防の絶好手。

変化7五金図13
 “2五飛”(図)が素晴らしい手で、後手7六銀には、3三金以下、後手玉が詰んでいるのだ。
 同桂なら2一金、同玉、2三飛成で簡単な詰み。よって、3三金には同銀だが、以下、同歩成、同玉、3四銀、同玉、4五金、2五玉、4七角、同銀成、3五金打以下(途中、4五金に後手3三玉には、2三飛成、同玉、3四角)
 というわけで、後手はこの“詰めろ”を受けなければならないが、歩以外の持駒のない後手は受ける手段が限られる。4四銀が有力だが、それには、1一角、同玉、3二角成(次の図)

変化7五金図14
 これで先手が勝ち。先手玉は「角」を後手に渡しても詰まないからだ。

 しかしもしも、後手が6五銀に代えて、6八とだったら、その場合は同じように進めた場合、角を渡せない。8九角以下先手玉が詰んでしまうから。だから1一角の攻めは利かない。

変化7五金図15
 けれども、6八とに対しても、先手は“2五飛”と進めてよい。以下4四銀に、その場合はこの図のように“5六角”と打って“詰めろ”をかける。持駒のない後手は、もう受けがない。これで先手勝ち。

変化7五金図16
 6五銀でも6八とでもなく、第3の手7六成桂(香車を取る)なら先手はどうするか。
 その場合もやはり“2五飛”(図)だ。この飛車は、8五の桂馬の取りにもなっている。後手は「2三」の地点を強化しにくい形なのだ。
 今までと違うのは、この場合は後手が「香」を持っているということだ。しかしここで2四香と受けるのは、8五飛で桂馬を取られて攻めがなくなって後手困る。
 では、5四銀ならどうか。これは4五に利かせて後手玉にかかっている“詰めろ”を解除しつつ、同時に6五銀のような攻めに使う可能性を持たせた手だ。
 しかしそれでも先手が良い。8五飛もあるが、ここは1一角から決めに出る手を紹介しておく。
 5四銀、1一角、同玉、3二角成、2二角、3三歩成(次の図)

変化7五金図17
 3三歩成(図)が落ち着いた手で、この手でうっかり2三飛成は、8八角成以下、後手の逆転勝ちとなる(つまり後手の2二角は“詰めろ逃れの詰めろ”だったのだ!!)
 この3三歩成はそれを見切った手で、同角なら、2一馬、同玉、2三飛成からの詰みがある。だから3三同銀しかないが、2三飛成で、これで先手勝ちが確定する。

 以上の結果、後手〔A〕7五金以下は「先手勝ち」とみてよいようだ。


課題図(再掲)
  〔A〕7五金 → 先手良しが確定
  〔B〕7四歩
  〔C〕3一金
  〔D〕6二金
  〔E〕6三桂

 この「課題図」では、その他にもここに示す〔A〕~〔E〕の後手の有力手が考えられる。
 最新コンピューターソフトはこれらの中で6三桂を最有力と見ていることを参考として伝えておく。


変化7四歩図01
 〔B〕7四歩(図)は、次に7五銀と、銀を攻めに使う意味。
 これには、5二角成とする。これを同歩なら、3三金以下後手玉は詰む。しかし放っておくと、まだ詰みはない、という状態。
 後手は予定の7五銀(次の図)

変化7四歩図02
 7七玉と下がると先手が負けになるが、8五玉または6五玉とかわせば、先手が優勢に進められる。
 6五玉がわかりやすい。以下6四金、5六玉、5五金、6七玉、6六金(次の図)

変化7四歩図03
 5八玉とと金を取るのが普通だが、それだと5七銀成、4九玉、3六桂の“詰めろ”がかかる。
 ここは7八玉のほうが勝ちがはっきりする。先手玉に“詰めろ”がかからないからだ。
 以下7六銀と迫るが、先手玉は詰めろになっていない。

変化7四歩図04
 そこで5一竜(図)として、先手が勝ちになった。同銀は3三金から後手玉“詰み”。


変化3一金図01
 〔C〕3一金(図)と、ここに金を投下するのはどうか。
 この手に対しては、▲8五玉や▲6六角という、“入玉”ねらいの作戦もあり、最強ソフトはそれを推奨しているが、▲5二角成で先手勝てそうなので、ここではその順を示しておく。
 5二角成、同歩、6一飛(次の図)

変化3一金図02
 ここで後手の指したい手は<u>4八角とこのラインに角を打つ手なのだが(次の図)

変化3一金図03
 それだと3三歩成(図)が良い手になる。3三同歩なら3二金から詰みがあるので同玉とするが、以下、1一角、3四玉(代えて2二桂合は4五金で先手勝ち)、3八香、3七桂、5六金(次の図)

変化3一金図04
 先手勝勢。

変化3一金図05
 それでは、受けに回る<v>5一桂(図)ならどうなるだろう。

変化3一金図06
 それには6五歩(図)がある。5五銀上なら7三歩成で先手優勢となる。
 6五歩に、5五銀引が粘り強い手だ。
 以下、6四歩、同銀上、8五玉、5七角、9六玉、7五角成、8六銀、7六馬、8五金(次の図)

変化3一金図07
 先手優勢である。
 ここから後手が6八と~6七とのようなゆるい攻めをしてくれば、先手は2六香~4五角と設置して「2三」を狙っていけば後手玉を攻略できる。1一桂の受けには、同香成、同桂、2四金である。


変化3一金図08
 再び戻って、<v>5一桂に代わる手として、<w>8一桂(図)という受けがあった。
 同竜なら、5四角と打って、竜を取ろうという意図だ。
 この<w>8一桂にも、先手は6五歩でよい。以下、5五銀引、6四歩、同銀上、2六香(次の図)

変化3一金図09
 先手の次の狙いの手は4五角だ。
 なので後手は先に5四角と打つ。8六玉に、7四歩(これくらいしか手がない)
 そこで先手には、2三香成、同玉、3五金というもう一つの手の用意があった。
 以下、2四歩(詰みの防ぎ)、8一竜、1四歩(先手1五桂の防ぎ)、2五金打となって―――(次の図)

変化3一金図10
 先手勝ちがはっきりした。

変化3一金図11
 少し戻って、先手の6五歩に、後手5四角(図)という手もある。これだとどうなるだろうか。
 これには、8六玉とかわすのが良い。5四角は好位置だが、後手が角を使ったので、先手はやりやすくなった意味がある。
 8六玉、6五銀に、3三歩成とする。

 そこで後手には、3三同玉3三同歩が考えられる。

 3三同玉には、8一竜、同角、1一角(次の図)

変化3一金図12
 以下、2二金、3九香、3五桂、6五飛成となって、先手勝勢。
 なお、ここまでの手順中、8一竜を取らないという選択もあるが、それでも後手に勝ち目はなさそう。先手には金が3枚あるので、3三にむき出しになった後手玉は、あっさりと包囲されてしまうのだ。

変化3一金図13
 というわけで、後手は3三同歩のほうがよさそうだが、これには先手7三歩成(図)で先手十分の形勢。
 以下、5五銀、3二歩、同玉、6三と、6六銀左、8一竜(詰めろ)、5一桂、5三とのような展開が予想される(次の図)

変化3一金図14
 後手はここで8一角で竜が取れるが、それは4二と、同金、1一銀で、先手勝ちとなる。
 したがって、図では5三同歩が後手の最善手だろうが、8三竜として、先手勝勢は間違いない。


変化6二金図01
 〔D〕6二金(図)は相手の読みを外すような怪しい手だ。持ち時間のないときにこんな手を指されたら困る。
 2六香は、3一玉で後手が有望になる。
 簡単には勝ち筋が見つからなかったが、先手はここで3三歩成(次の図)が良いようだ。

変化6二金図02
 これには、後手[同銀]と[同桂]がある。(同玉は3九香、3五桂、1一角以下後手すぐ負ける)

 まず[同銀]は、5一竜、3一金、3九香、3四桂、2五金で、次の図となる。
 
変化6二金図03
 次の狙いはもちろん3四香だが、後手それを受けて4二桂では受け一方で後手に希望がない。具体的には、4四歩、同歩、4三金で、受けなしになる。
 良い受けがないので後手は6八と。この手には狙いがある。角を手にして6七角と打つ筋だ。
 しかしそれでも、3四香と先手は走る。同銀、同金で、そこで後手は4一金と角を取る。

変化6二金図04
 4一同竜に6七角と打つ“王手金取り”の狙いだが、先手は4一竜のつもりはない。
 ここでは2三金と突進して、後手玉に“詰み”があるのだ。2三金、同玉、2五飛、2四金、1五桂(次の図)

変化6二金図05
 以下、どこへ逃げても、“詰み”。


変化6二金図06
 戻って、3四桂に代えて、3五桂(図)とした場合。
 先手は4五金と打つ。▲3五香、▲4六金、▲3四歩という3つの狙いがある。
 駒が足らず良い攻めのない後手は6一歩。先手4六金なら、4二銀右、5八竜、4一金の角取りが狙いだ。
 しかし先手は4六金とせず、3四歩と攻める。4二銀左に、3三金(次の図)

変化6二金図07
 後手玉は詰んでいる。
 3三金を同歩は3二飛から簡単。同銀も、同歩成、同桂に、3二角成、同玉、2一銀、同金、4一角、2二玉、2三角成以下。
 同桂には、同歩成、同銀、3四桂、同銀、3二角成、同玉、3三飛(次の図)

変化6二金図08
 途中、後手が変化する手はいろいろあるが、どれも詰んでいる。

変化6二金図09
 さらに「変化6二金図02」の3三歩成まで戻って、そこで後手[同桂]の場合。
 それには3四金(図)と打つ。
 以下、7四歩に、2四香と打つ。7五銀に、7七玉。
 後手3一桂と受ければ、2三香成、同桂、2四飛(次の図)

変化6二金図10
 1一桂、2三飛成、同桂、3二角成、同玉、2四桂、4一玉、3二金、5二玉、4一角(次の図)

変化6二金図11
 ぴったり詰んだ。

 〔D〕6二金も先手勝ちになるとわかった。


変化6三桂図01
 〔E〕6三桂。これが後手最後の手段。
 この6三桂のような少しひねった手は人間だと一通り考えた後に浮かんでくる手だが、こういう手をコンピューターはすぐに思いつくようだ。
 先手の手番だが、ここでは5二角成がある。これを同歩だと3三金で詰む、という〔B〕7四歩の時にも出てきた状況。そして次に5一竜で後手はほぼ“受けなし”になるので、攻めるなら“詰めろ”で先手玉に迫らなければいけない。 

変化6三桂図02
 5二角成に、7五銀(図)。 これが後手の指したかった手で、7四歩~7五銀の場合は、6五玉や8五玉と逃げられる手にも対応しなければいけない。実際、〔B〕7四歩の時には、6五玉で先手の勝ちになった。
 ところが、6三桂~7五銀だと、今度は6五玉や8五玉ではすぐ詰んでしまうから、下に引くしかない。6三桂の意味はここにあった。
 というわけで、先手は7七玉。
 以下、8五桂、8八玉、7七金、9八玉、7六銀、8九香、8七金、同香、7七桂成、8八歩、7五桂(次の図)

変化6三桂図03
 後手は6三に打った桂馬を活用して攻めてきた。
 しかしこの図は、先手の勝てる局面になっているようだ。ここは8六金と受けても先手が良い。
 だが、ここで6六角がよりわかりやすい決め手。これで後手は受けがないのだ。
 6六角に、4四歩、3三金で、次の図。

変化6三桂図04
 5二の馬の利きが3四まで通ったので、3三金(図)で後手玉は“詰み”となった。
 3三同桂、同歩成、同歩、3二金、同玉、4三金、同銀、3一飛、同玉、5一竜以下。

変化6三桂図05
 一直線の攻めだと後手勝てなかったので、途中で後手がいったん受ける展開を考える。7七金、9八玉としたところで、そので1四歩(図)でどうなるか。
 これで後手玉は広くなったので、詰みにくくなっている。なのでここで5一竜は、同銀で後手優勢になる。ここで後手の手番なら5二歩がある。
 先手はどうするか。
 しかしこの図もやはりすでに「先手良し」の図のようだ。6三馬とすれば、問題ない。
 だがここでは3三歩成がよりスマートな勝ち方になる。この瞬間に、3三歩成を決めて後手の応手を限定するのである。
 3三歩成を「同銀」は5三馬だし、「3三同玉」は3六飛がある。よって後手の応手は桂か歩だが、「同桂」なら、そこで6三馬と桂馬を取る手がピッタリはまる。次に3四桂(1三玉、2二角、2四玉、2六飛、2五桂、同飛以下)から“詰み”をみている。
 残った手は、3三歩成を、「同歩」。 これには2六飛(次の図)が決め手。

変化6三桂図06
 2六飛(図)と打って、後手玉の上部脱出を許さない。3二金以下の“詰めろ”。受けもない。

 〔E〕6三桂でも「先手良し」と決まった。

 ――――ということで、

課題図(再掲)
  〔A〕7五金 
  〔B〕7四歩
  〔C〕3一金   すべて「先手良し」
  〔D〕6二金
  〔E〕6三桂

 この「課題図」は、後手の5つの有力手についてすべて「先手良し」と確定した。

指始図 4二銀左図

 すなわち、この本譜「4二銀左」の図から、4一角、3二歩、5八金、同と、9一竜として、「先手良し」となるのである。

 また、この手順を変えて、5八金、同と、9一竜としても、後で「4一角」と打てば後手はほぼ「3二歩」なので、同じ図に合流して、やはりそれでも先手が良い。

 ポイントは「5八金、同と」だった のである。我々はその手を見逃してしまった。 なぜか? 先入観があったからだと思う。

5八金図(夏への扉図)
 もともと、後手の陣形はこのような「3二銀型」であった。
 これを攻略しやすいように、3三歩、同銀、3四歩、同銀と歩で銀の頭をたたいて吊り上げる。すると次の図になる。  

3四同銀図
 これが≪亜空間戦争≫で繰り広げられてきた手順で、いわば「亜空間定跡」であった。
 だから我々終盤探検隊は、この「3四銀型」を想定局面としていた。
 この「最終一番勝負」の中でも、しっかりとこの図での「5八金、同と」も事前研究していたのである。
 その研究では、この道は「後手良し」と結論を出した。(→『終盤探検隊 part112』)
 そのために我々の意識には、「5八金では勝てない」という先入観が入ってしまっていたのである。

 だから今回の「4二銀型」でも、「5八金」の手は考えようとしなかった…

参考図c
 具体的には、上の「3四銀図」から、5八金、同と、9一竜、7五金、7七玉、8五桂、8八玉、6八とで、この参考図になるのだが、この図から先手の勝ちが発見できず「先手負け」という結論になり、「5八金では勝てない」となったのだった。
 (これが「4二銀左型」の場合は今見てきたように「4一角~3三香」という好手が変化の先にあって先手が勝てるというわけである)




≪最終一番勝負 第13譜 指了図≫ ▲9一竜まで

 ともかく、我々の選んだ手は、単に、▲9一竜 である。


第14譜につづく