はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part101 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2017年05月23日 | しょうぎ
≪夏への扉図≫

 ≪亜空間の主(ぬし)≫との決戦(一番勝負)がいよいよ始まる。
 今回はそのための最終準備である。


   [クローン体]
「気分はどう? アデラド・リー」
「ふつうです」
「記憶ははっきりしていますか」
「はい」
「では、もちろんおわかりでしょうが、ここはカナダ・オタワ市の“クローン研究所”です。複製人間をつくって冷凍保存しておくところです」
「……わたしはクローン体ですか……」
「そうですアデラド・リー。あなたの本体はつい1か月前にプロキシマで死んだのです」
(プロキシマ……! 死んだ……?)
「アデラド・リーは3年前にプロキシマ計画のスタッフに選ばれて、スタッフは全員が万が一の事故にそなえて地球を発つ前にクローン体をつくっていたのですよ。未開の地に行くのですから」
(思い出した。わたしはアデラド・リー、16歳、コンピューター技師。ここでわたしは自分の細胞と記憶を記録した……。医師は16歳のアデラド・リーがもうひとり生まれるのだといった。そのクローンがわたし。わたしが16歳のままで冬眠していたあいだに、その3年のあいだに、本体のアデラド・リーは、プロキシマへ出かけて――、そして死んだ――16歳で――)
「目覚めるとき――なにか夢でも見ていましたか」
「…別に」
「でも泣いていましたよ」
                      (萩尾望都作漫画『A-A’』より)


 メンデルの遺伝の法則が発表されたのは1865年だが、それよりも20年ほど前に細胞学の分野で「染色体」が発見されていた。その「染色体」が、遺伝と大きく関係があるのではないかという説が20世紀になって生まれ、どうやらそれが正しそうだということになっていった。
 さらに、その「染色体」は、「タンパク質」と「核酸(DNA)」によって構成されているとわかり、もし「染色体」が遺伝子ならば、その遺伝情報を伝達するのは、おそらく「タンパク質」であろうと思われていた。遺伝情報という膨大な情報を伝えるには、より複雑な「タンパク質」がふさわしいであろうという、科学者たちの勘であった。
 ところが、“遺伝の伝達を担うのは「核酸(DNA)」である”という証拠を、1944年にアメリカ・ロックフェラー研究所のオズワルド・エイブリーの研究チームが発表した。それでも、この遺伝子核酸説は、すぐには受け入れられなかったが(そのせいでエイブリーはノーベル賞を受賞していない)、1953年にDNAの構造が二重らせんであることが発見されるとこの分野の研究は加速し、生物の遺伝伝達の仕組みが明らかになっていった。そして1960年代には、この遺伝情報を部分的にカットしたり、コピーしたり、加工したりする技術も発展したのである。(本来はこれをクローニングという)
 こうした生物化学の発展の結果、1970年代に、「クローン」という言葉が一般の人々の中にも知られるようになっていった。一般の理解する「クローン」というのは、生物の一個体のまるまる全体のコピー体のことをイメージしている。
 そして当然、「クローン」はSF小説の中に登場したのである。
 
 上に紹介した萩尾望都の短編漫画は、1981年に少女漫画雑誌プチフラワーに掲載されたものだが、この作品の中では、近未来の生活の中に、このように人間のコピー体としての「クローン」が登場している。
 また同じ1981年に、SF作家大原まり子はまだ新人作家だったが、その未来宇宙を舞台にした作品の中に人間の「クローン」を登場させた物語を書いている。シノハラという名の超能力者を登場させ、彼は自分のクローン体を多数つくって育て、シノハラ軍団、すなわち超能力者集団をつくるのである。
 この1981年に、初めて哺乳類のクローン体(ヒツジ)がつくられたのであった。「ついに哺乳類のクローンが…!」というようなインパクトが日本にまで伝わって、その波が、萩尾望都や大原まり子に影響を及ぼしたのかもしれない。
 アメリカでは、1973年から、遺伝子組み換え実験の進歩によるバイオハザード(生物災害)を懸念する声が出て、社会問題化してきていた。
 そういうわけで、アメリカでのSF小説上での「クローン」の登場は、もちろん日本よりもずっと早かったのである。
 たとえば、1977年発表のジョン・ヴァーリィの長編作『へびつかい座ホットライン』の中では、主人公をはじめとするメイン登場人物たちは、なんども死んで、そして新たなクローン体として復活し、その人物たちが活動する宇宙物語になっている。
 この『へびつかい座ホットライン』の中でも、萩尾望都『A-A’』の中でも、同じように成人のクローン体の中に、オリジナルの人格が持っていた「記憶」をインプットさせるという技術が成立しているのだが、そのようなことが(仮に倫理的にも許されて研究が十分に進んだとして)、実現可能なのであろうか。
 そもそも、人間の持つ「人格」とか、「記憶」を、記録することはできるのだろうか。ふつうなら、“できない”と思うところだが、しかし、人間の遺伝情報も解明されてみれば、完全にコピー可能な、すなわち数値化できるデジタル情報だったのである。(人間のヒトゲノム解読計画は2003年に完了している。) それなら、人間の「人格」および「記憶」も、同様にコピー可能なデジタル情報だったとしても、不思議ではない。
 ただ、現在、人間の脳は、その記憶のしくみはまだほとんど解明できていないようだ。倫理的に、人間の脳を“実験研究”するわけにはいかないからである。

 萩尾望都『A-A’』は、恋人(女性A)が事故で死んで、そのクローン体である女性(A’)が元の職場に復帰する話である。同じDNAを持ち、同じ記憶をもっていても、“別人”であると、クローン体本人も、元恋人だった男性もそれはわかっている。だから恋人同士の関係に戻るつもりはないが、それでもお互いが同じ職場で働く相手を強く意識する。さて、この二人、その後どうなるか―――というような話。


≪亜空間の入口≫
 この図が、≪亜空間≫の出発点。 ≪最終決戦一番勝負≫も、この図から始まる。
 我々終盤探検隊は、先手を持って闘うことに決まっており、ソフト「激指」も我々の戦力である。
 この図から、我々と≪ぬし≫との間で≪はてしない戦争≫を繰りかえしてきたが、その結果、次の手順が「最善ルート」とわかってきた。

 3四同玉、5二金、3一銀、5一歩、2二銀成、同玉、4二銀、3三銀打(次の図)

≪3三銀図≫
 4五玉、4二銀、5四玉、5三銀、6五玉、6四銀打、7六玉、5八金
 そうして、次の≪夏への扉図≫になる。

≪夏への扉図≫
 ここから先手(終盤探検隊)は何を選択するか。今回のテーマはそれである。

  【あ】5八同金  → 後手良し
  【い】3三歩   → 4つの「先手勝ち筋」を発見!!
              (黒雲作戦、香車ロケット2号作戦、赤鬼作戦、桃太郎作戦Ⅱ)   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 「先手勝ち筋」あり!!(桃太郎作戦)
  【か】8六玉   → 後手良し

 我々は、研究探査を重ね、その結果、「5つの先手勝ち筋」を発見した。
 その研究が正しいとは限らないのだが。だからこそ、その「5つ」の中からどれを選ぶか、それを慎重に計りたい。

 ここで我々が選ぶ手は2つしかない。
 【い】3三歩、または、【お】6五歩である。


≪6五歩桃太郎図≫
 【お】6五歩。これが『桃太郎作戦』である。

 また、【い】3三歩を選択し、以下、同銀、3四歩、同銀に、そこで(1)6五歩とするのが――

≪対3四銀型6五歩図≫
 『桃太郎作戦Ⅱ』である。
 我々の研究は、『桃太郎作戦』よりも『桃太郎作戦Ⅱ』のほうが、さらに先手が勝ちやすいと結論を出している。


≪3四同銀図≫
 ≪夏への扉図≫から、【い】3三歩、同銀、3四歩、同銀のところで、(1)6五歩以外の有望な選択肢があり、(2)9一竜と、(3)3三歩とがある。

 (2)9一竜を選んで、以下5九金に、6六角、5五銀引、9三角成、9四歩と進んで、次の図。

≪9四歩図≫
 ここで、先手にまた二つの有望な道筋がある。
 まず一つは、〔a〕3三歩、3一歩に、4一飛と打っていく手段。これが、『黒雲(くろくも)作戦』である。
 この作戦は、4一の飛車を打っていくことで、敵陣に“爆弾”を仕掛け、この飛車は敵に召し捕られてしまうことになるが、その間に先手玉を“入玉”させるという作戦である。敵をじわっと威圧するような飛車打ちで、これを「黒雲」と名付けた。

≪黒雲の図≫
 これが『黒雲作戦』。


 また、≪9四歩図≫から、〔b〕3三歩、3一歩を決めて、9六歩と指し、後手はそこで8四金とするが、以下、8六歩、5六と、3九香とする―――

≪3九香ロケット2号図≫
 これが、『香車ロケット2号作戦』である。


 もう一つ、『赤鬼(あかおに)作戦』がある。
 ≪3四同銀図≫まで戻って―――

≪3四同銀図≫
 (3)3三歩と指し、後手3一歩に、そこで4一飛と飛車を打ち込む(次の図)

≪4一飛赤鬼図≫
 このタイミングで3三歩、3一歩、4一飛と行くのが、『赤鬼作戦』。
 この場合は『黒雲』の場合と違って、持駒に角が二枚あるぶん、攻めに破壊力があり、4一の飛車は暴れまわることになる。
 だから後手は3三玉~4四玉と上へ逃げだすことになるのだが、その中段玉を先手がどうやって捕まえるかというのが、この作戦のテーマとなっていた。終盤探検隊はこれを捕まえる手段を発見したのだ。


 以上が、「5つの先手勝ち筋」となる。
 この5つを、発見した順に並べると、『黒雲作戦』、『香車ロケット2号作戦』、『赤鬼作戦』、『桃太郎作戦』、『桃太郎作戦Ⅱ』となる。
 このうち、『香車ロケット2号作戦』については、一応先手良しと結論は出したが、細部まで研究が行き届いているかどうかということになると、おおいに不安がある。よって、『香車ロケット2号作戦』は、重大な本番の闘いで選ぶことはできそうにない。
 だが、残りの4つの作戦については、かなり自信をもっている。
 4つのうち、どれを選ぶか。

 この4つなら、どれでも「勝てる」と思っているが、しかし、自信過剰は禁物だ。本番では、≪敵(ぬし)≫は我々の想像しなかった手を繰り出してくるかもしれない。とはいえ、「想像もできない手」を研究するのは無理なことだから、それはもう防ぎようがない。そうなったらそうなったで、頑張るしかないのだ。
 ここはもう、“覚悟”を決めるしかない。こうなるともう、4つのうちどれを選ぶかは、理屈ではなく、感性の問題である。


 『赤鬼作戦』で行こう。

 我々はそう“覚悟”を決めたのであった。

≪4一飛赤鬼図≫(再掲)
 『赤鬼作戦』をもう一度点検しておこう。
 図の4一飛に、後手4二銀には、6一角と打って5二角成をねらえば、後手に受けがなくはっきり先手優勢。
 よって4一飛に、後手は3三玉が最善の手と思われるが、以下3一飛成、4四玉に、6五歩(次の図)

≪赤鬼6五歩図≫
 ここで6五歩で先手が勝てる―――というのが、我々の研究である。
 以下、5九金、6四歩に、6六角と打つ。

赤鬼変化図01
 先手の6六角に、“5五桂”なら、8三竜、5六と、8四角、7五金、同角、同歩、8五玉となるが、この変化は先手が勝てると我々は自信を持っている。
 よって、後手は6六角に“5五金”と受けたのがこの図である。
 これにはいったん8八角と引き、以下6六歩、8三竜、6四銀、8五玉と、やはり先手は“入玉”をねらう展開になる。
 さらに想定手順を続けると、7一桂、7二竜、6三金、7一竜、8三歩、9一竜、7一角、4五玉、9三角成、7五銀、9四玉、8四銀、5一竜右(次の図)

赤鬼変化図02
 このように進んで、先手優勢と結論したのがこれまでの我々の研究調査。
 しかし、ここから“相入玉”で持将棋に持ち込まれてしまう危険性がないわけでもない。というのは、先手の2つの角――9三馬と8八角――が相手の手に渡ってしまう可能性がこの図にはあるからだ。
 この流れ、先手が「優勢」なのは確かだと思われるので、これを「持将棋引き分け」ではもったいない。
 
 もっとよい手はないものかと再度検討してみた。
 「赤鬼変化図01」から「赤鬼変化図02」にいたる手順で、9一竜と指したところを、「7二角」としてどうか(次の図)

赤鬼変化図03
 ここで、“6五金”(先手玉への詰めろ)には、6六角(次の図)とする。

赤鬼変化図04
 以下、同金に、6三角成となって、先手勝勢。

赤鬼変化図05
 「赤鬼変化図03」では、“8四歩”(図)という手が後手の有力手。
 これを同玉は7三金で後手勝ちになる。よって、先手は9六玉と逃げる。
 さあ、どうなるか。
 以下、5四金上(7三金は3六桂以下後手玉詰み)、5一竜左、5三歩、9一竜、4五玉、9三竜、6七歩成、9五玉、7六桂(次の図)

赤鬼変化図06
 やはり持将棋模様になってきた。後手は7六桂(図)で、大駒(角)を取りに来た。
 5五角、同玉、8四玉、7五角、8三玉、9三角、同玉、4五銀、8二玉、8九飛、9四角成(次の図)

赤鬼変化図07 
 これはどうやら先手が勝てそうだ。
 “相入玉”は避けられないが、先手は大駒(飛角)が3枚あるのが大きい。「持将棋ルール」の点数で、先手勝てる。大駒3枚(5点×3)と持駒の小駒(1点×9)で、合計24点をすでに先手は確保している。
 この将棋の持将棋ルールは24点法ルールなので、後手の点数を24点未満に確定させれば先手が勝ちとなるが、それには先手は31点を確保する必要がある。つまりこの場合、先手はあと小駒を8枚確保する必要があるわけだが、おそらくそれはほぼ実現可能である。場合によっては1七桂から2五桂や、9六歩~9五歩というような小駒確保の手段もある。
 (これを後手の立場に立って考えてみれば、入玉を果たしつつ相手に駒をなるべく取らせないで、先手の左右にある小駒をすべてひろっていくのは至難のわざだ) 
 
 「7二角」(赤鬼変化図03)の発見により、“相入玉”になっても、先手は確かに勝てるとわかった。
 これで『赤鬼作戦』にあったわずかな不安要素も解消された。


 ≪最終決戦一番勝負≫への、最終準備は整った。

 さあ、闘いだ。



≪4一飛赤鬼図≫(再掲)

 『赤鬼作戦』で、勝つ !!!!


                 終盤探検隊part102へ続く
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終盤探検隊 part100 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2017年05月15日 | しょうぎ
≪桃太郎作戦Ⅱ基本図≫


    [極小宇宙へのワンダーな旅]
 グラントは指さされたほうへ目をむけた。小さな棒状のものや、細かい破片のような浮遊物が、とりわけ赤血球をつぎつぎに押しのけてくるのが見える。やがてマイクルズが指さしているものが見分けられた。
 それは巨大な乳白色のもので、脈打っていた。表面は粒状で、その乳白色の内側に黒くキラキラするものがある。その黒い小さな核のひらめきは非常に強烈なので、全体が光ならぬ光で目のくらむほど輝いているようだ。
 その塊りの中に、もっと黒っぽい箇所があり、周囲の乳白色をすかして薄黒く見え、そこだけはまたたかず一定した形をたもっている。
 (中略)
「あれは、一体なんだったんですか」
「もちろん、白血球だ」 
                         (アイザック・アシモフ著『ミクロの決死圏』より )


 “ミクロ”(マイクロ)とは、1mmの1/1000の大きさを表す単位であるが、細胞や細菌の大きさがだいたい1~10μm(マイクロメートル)である。血液中の赤血球は8μmくらいで、白血球はそれよりも数倍大きい。
 この“ミクロ”の世界は、ふつうの顕微鏡、すなわち光学顕微鏡でなんとか見ることができる。
 顕微鏡で細菌を発見・観察することで、医学に貢献してきた巨人がコッホ(ドイツ人)やパスツール(フランス人)である。彼らが活躍したのは1860年~1890年頃のこと。病原菌の発見は画期的な医療科学の前進であった。
 その後も、彼らに続けと「病原菌」の研究が盛んになったが、日本人野口英世もその一人。野口英世は1900年にアメリカに渡った。野口は最終的には黄熱病の研究をし、そして1928年、自身がその黄熱病に罹って死んでしまうことになる。野口は熱心に黄熱病の「病原菌」を追い、それを見つけたと発表し、「野口ワクチン」をつくったのだが、結局その研究は間違っていた。
 黄熱病の正体は、「細菌」ではなかったのだ。光学顕微鏡では見ることのできないもっと微小なもの――「ウイルス」――それが病気をもたらすものの正体だったのである。だが、「ウイルス」とはなんだろう? 
 「ウイルス」も、さまざまであるが、おおむね、「細菌」の1/100ほどの大きさである。すなわち、1×10のマイナス8乗m程度ということになる。
 生物学の定義では、「細菌」は生物であるが、「ウイルス」は非生物ということになっている。その理由は、「細菌」は「細胞」であり、その中央には細胞核があって、自分自身の力によって増殖する能力をもつからである。「ウイルス」も増殖するのだが、自力では増殖できない。「ウイルス」は「細胞」の中に侵入し、そのコピー能力を利用して、自分の複製をつくらせて増殖するのである。このような理由で一応定義としては「ウイルス」は非生物とされているのだが、結果的には生物のようにふるまっている。
 物理学の分野で1900年頃に「電子」が発見され、その性質が研究されたが、それによって1930年代に電子顕微鏡が発明された。光に代えて、「電子」を標本に当てるのだ。これによって、「ウイルス」の姿が人類の前に姿を現したのであった。
 ところで「ウイルス」よりさらに極小な世界、1×10のマイナス9乗mの単位を“ナノ”と呼ぶ。すなわち“ミクロ(マイクロ)”の1/1000が“1nm(ナノメートル)”で、これは「分子」の世界である。このレベルになると、電子顕微鏡でも昔は技術的に見ることができなかった。では科学者はこの分子結晶の世界をどうやって研究したかというと、X線を結晶サンプルに当て、それによって出てくる平面的な光の「像」を何枚も見て解析するのである。数学による“計算”とひらめきとによって、きっと本体はこういう姿だろうと想像していたのである。有名なDNAの二重らせんも、このようにして発見された。
 “ナノ”からさらに1/10の極小世界に、「原子」がある。すなわち1×10のマイナス10乗mの世界だが、これを“Å(オングストローム)”という単位で表すこともある。
 なお、「素粒子」になると、さらにずっと小さな世界になる。たとえば、素粒子の一つである「電子」は、1×10のマイナス15乗mほどであり、「原子」に比べると塵ほどもないほどの小ささとなる。「原子」が野球のボールだとすると、「電子」は細菌レベルの大きさになる。
 そして、「原子核」も「電子」と同様のレベルの小ささである。「原子」の中は、実は“すかすか”の空間なのだ。
 20世紀、「原子核」や「電子」の発見、およびその研究が、「科学」のすべての分野に驚異的な進展ををもたらしてきたのであった。

 映画『ミクロの決死圏』は1966年に公開された映画だが、まず映画の企画があって、脚本がつくられ、その宣伝のための小説として、人気SF小説家であり化学博士でもあるアイザック・アシモフが起用された。アシモフはほぼ忠実に元の脚本通りに小説を書いたが、結末のところで宇宙船(正しくは潜航艇)を人体の中に放置して脱出するのは、どう考えてもまずいと思い、そこは変更した。映画も変えたほうが良いと提案したが…

    [映画『ミクロの決死圏』の試写会にてアシモフと娘の会話]
 映画が終わったとき、宇宙船は白血球に包まれてあとに残されたが、ロビンは即座に私の方を向いて訊ねた。「あれだと、宇宙船が大きくなって、あの人は死ぬんじゃないの、おとうちゃん?」
「そうだよ、ロビン」と私は説明した。「だが、おまえにそれがわかるとは、ハリウッドの平均のプロデューサーより頭がいいよ。おまえは11歳だというのにな」
                         (アイザック・アシモフ著『アシモフ自伝』より )


 アシモフは映画の試写会に家族ぐるみで招待された。アシモフは46歳、妻と一男一女の4人家族であった。結末の宇宙船のところは結局アシモフの提案も受け入れられていなかったが、映画は楽しめ、内容にはおおむね満足していたようだ。

 “人間を含むすべての物質を縮小する”という技術は、ちょっと無理がありすぎてとても実現可能とは思えないが、しかし映画としては、人体の内部を旅するというアイデアは、娯楽作品として秀逸であった。
 人間の縮小化は無理としても、将来、“人体内部を旅する超小型探査機”が開発される可能性は十分にありそうだ。赤血球、白血球が飛びかう内宇宙を、私たちもバーチャル体験できるかもしれない。



≪6五歩桃太郎図≫
 これが『桃太郎作戦』。 終盤探検隊はこの作戦の成否を検討してきたが、どうやら「先手良し」とわかった。


≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   → 3つの「先手勝ち筋」を発見!   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 先手良し(桃太郎作戦)

 ここで【お】6五歩が『桃太郎作戦』だが、これから我々終盤探検隊が調べたいのは、ここで「【い】3三歩、同銀、3四歩、同銀」を入れて、そこで「6五歩」とする、『桃太郎作戦Ⅱ』である。


<桃太郎作戦Ⅱ>

≪対3四銀型6五歩図≫
 これが『桃太郎作戦Ⅱ』の基本図。『桃太郎作戦』とどういう違いが出るだろうか。
 図以下、5九金、6四歩、7四歩、6六角と進む(次の図) 

≪対3四銀型6六角図≫
 3二銀型の『桃太郎作戦』のときは、後手はここで3三歩が最善手だったが、この場合3三歩は、4一銀で先手が勝つ。以下、4二金打も、5二銀成、同金、4一飛、4二銀、6三歩成、3二銀、5二とである。
 また4四銀は、4一銀、3一歩、5二銀成で、先手良し。
 4四歩は、やはり4一銀と打って、3一歩、5二銀成、5六と、3九角、5二歩、4一飛、4二銀打、6三歩成で、先手優勢。6三歩成が効果的に入っては後手まずい展開だ。
 この≪6六角図≫での後手の最善の応手は、5五桂。 

桃太郎Ⅱ図1
 5五桂に対しても、先手は4一銀(図)と攻めていく。この攻めがあるのが、後手の守備銀を3四まで吊り上げた効果である。(この手で6三歩成は、5六と、3九角、5七銀不成で、後手ペース)
 4一銀に3一金は、5二銀成、同歩、6一飛、4二銀、6三歩成、で先手良し。
 4二金打は、5二銀成、同金、8五玉、6七と、3九角、6二銀、7四玉で、これも先手良し。金と銀とが入れ替わると、8五玉から先手は“入玉”がしやすくなるのだ。
 したがって、4一銀には、「3一歩」か、「4二金」しかないが、4二金には、もちろん先手は5一竜とする(次の図)

桃太郎Ⅱ図2
 以下、3一金、9一竜、4一金寄、8五玉、7五銀、7四玉、6六銀、6三歩成(次の図)

桃太郎Ⅱ図3
 先手優勢。 この場合も、後手が金を投入して受けたので、先手玉の“入玉”が可能になった。

桃太郎Ⅱ図4
 つまり、4一銀には、後手「3一歩」(図)しかない。
 先手は5二銀成とする。対して後手5二同歩は、6一飛、7五銀、8五玉、8四金、9六玉が予想されるが、これは後手玉に受けがない状況になり、先手勝ちがはっきりする。
 したがって後手は6七と。
 以下、5三成銀、6六と、同玉で、次の図となる。

桃太郎Ⅱ図5
 ここで後手にうまい手があるかどうか、という局面だ。ありそうに見えるが、どうも、ないようだ。3八角なら、7二竜、5二桂、同竜、同歩、4二飛、3二金、同飛成、同玉、3三歩、同玉、4二銀以下、後手玉は詰んでいる。
 したがって、終盤探検隊の調べでは、ここは先手良し。
 図で6七桂成が、後手の勝負手。同玉なら、4五角(王手竜取り)なので、6五玉とかわす。以下、7五金には、5六玉と逃げる。
 そこで後手4五角があるが、4六玉、8一角には、3二金、同歩、3一銀以下、後手玉を詰ますことができる。
 したがって後手は5五角(4六の銀を取らせない)とするが、7二竜、5二桂、4二飛(次の図)

桃太郎Ⅱ図6
 後手は1一玉。 まだ先手勝ちとは言えない。ソフト「激指14」の評価値は[ +172 互角 ]である。
 先手も冷静に6七玉。「激指」の評価値はパッとしないが、ここは正しく指せば先手勝ちというのが我々の調査結果だ。(もしも先手の手番なら、4四歩、同角、2六桂、2五銀、4三成銀で、先手勝ちが決まる)
 6六金、6八玉、5七銀成、5九玉、6七金。後手は“詰めろ”で迫ってくる。
 これには4八金と受ける。
 以下、9九角成に、先手待望の2六桂(次の図) 

桃太郎Ⅱ図7
 4五銀に、4三成銀。 “詰めろ”。 どうやら先手の勝ちが近づいてきた。
 以下、3二香の粘りには、3三歩、同馬、同成銀、同桂、5八歩(次の図)

桃太郎Ⅱ図8
 4八銀成、同玉、4六歩、3八銀、4七銀、同銀、同歩成、同玉、3六銀打、3八玉、4六歩、4八歩、5八金、5二竜(次の図)

桃太郎Ⅱ図9
 最後は、5二竜で、桂馬を入手して、先手勝ちが決まった。同歩に、後手玉は、2二金、同玉、3四桂打以下の“詰み”となる。


≪対3四銀型6五歩図≫
 『桃太郎作戦Ⅱ』は先手勝てる、とわかった。

 前回、前々回に検討した『桃太郎作戦』(3二銀型での6五歩)よりも、ずっと勝ちやすくなっていることがはっきりした。 3三歩、同銀、3四歩、同銀と、後手の守備銀を吊り上げた効果だ。


≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   → 4つの「先手勝ち筋」を発見!!
              (黒雲作戦、香車ロケット2号作戦、赤鬼作戦、桃太郎作戦Ⅱ)   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 「先手勝ち筋」あり!!(桃太郎作戦)

 これで我々終盤探検隊は、「先手の勝ち筋」を5つ見つけたことになる。
 我々はこの図からなんとか「先手の勝ち筋」が発見できることを望んで、その道を“夏への扉”と名付けたのであったが、5つも見つかったのは望外の成果である。
 もう“先手の勝ち筋探し”は十分だろう。
 問題は、来るべき≪ぬし≫との「一番勝負」で、どの作戦を使うかだが、それは次回に考えることとする。

 ここでは、以下、この図――≪夏への扉図≫――をもう一度眺めて、【い】3三歩、【お】6五歩以外の手段について、触れておきたい。

 一つは【あ】5八同金について。これはまだ深く調べていなかった。

 また、もう一つ、新たに【か】8六玉という手があることを、紹介しておきたい。


<5八同金作戦>

≪5八同金図≫
 【あ】5八同金と金を取る。以下、同とに、9一竜(次の図)
 (9一竜で3三歩は8四桂で後手良し)

5八同金図01
 ここから、後手7四歩、3三歩、同銀、3四歩、同銀、6六角、5五桂、9三角成、7三桂(次の図)まで進めて、“形勢不明”としたのが以前の調査であった。(ただし深くは調べていない)

5八同金図02
 しかし、あらためてこの図を見てみると、これは先手も勝ちがあるかもしれないと感じる。以前の調査時には、“これは入玉は無理だ”と思ったので、あまり先手に可能性を感じなかったが、ここは入玉をめざすのではなく、“攻め合い”に活路を見いだすのが正しい考え方ではないだろうか。(どうやら先手の勝ち筋がいくつか見つかったことで心の余裕ができ、“視野”が広がったようだ)

5八同金図03
 とりあえず、8六歩(図)とする。 竜と馬ができており、そして持駒は「飛角金金香歩2」である。先手に勝ちがありそうな気配がする。
 ただし「激指14」の評価は[ -107 互角 ]である。
 この図から予想される手順は、9五歩、8八金。 そこで<f>6八とと、<g>7五銀が有力手。

 <f>6八とには、3三歩と打つ。3一歩なら3九香が有効手となるので、後手はこれを同桂と取るが、以下9二竜、6二歩、8七玉、6七桂成、3二歩(次の図)

5八同金図04
 3二歩を同玉は、1一飛で先手優勢。
 4二銀には、4一飛と打ち、以下3一歩、同歩成、同銀、5四香で先手良し。
 また2一金には、3一金、4二銀、2一金、同玉、4一飛である。
 <f>6八との分かれは先手良し。

5八同金図05
 戻って、<g>7五銀は、8七玉、7六金、9八玉、6七桂成、3九香(図)。
 これも先手が勝てるようだ。


5八同金図06
 さらに手を戻して、先手の6六角に、5五銀引(図)とするほうが後手にとって優るかもしれない。以下、9三角成、7三桂(図)となるが、そこで先ほどと同じように8六歩では、後手が桂馬を持駒として一枚持っているので、後手良しになる可能性がある。(我々の調査の範囲では形勢は不明)
 だから、この図の7三桂に、6七玉でどうか(次の図)

5八同金図07
 これもまだ結論までは出せないが、今のところは“先手良し”が我々の調べである。我々のその研究を示しておく。
 と金を取られては後手はおしまいなので、6六桂とする。
 そこで先手の手番だが、3三歩では、3一歩で、これではどうも先手が勝てない。(3一歩に3九香は、7五銀で先手負けがはっきりする)

5八同金図08
 ところが、3三香(図)という手がある。 3三同玉は3一飛、3三同桂は4一飛で先手が良い。
 よって3一歩と受けるが、これを同香成と取れるのが、香車を打った意味。以下、同玉に、3二歩、同玉、3三歩、同桂、1一飛(次の図)

5八同金図09
 これで先手良しと言いたいが、脱出口を開く4五桂があるのでまだわからない。以下、1二飛成に、2二香。
 そこで、先手に3一角という決め手があった(次の図)

5八同金図10
 先手勝ちになった。

5八同金図11
 しかし、さらに前に戻って、先手9一竜とした「5八同金図01」から、7四歩ではなく、7五金(図)とする手があるのだ。(前回調査時は「激指」の推奨第1候補が7四歩だったのでその先を調べ、この手は未調査だった)
 以下、7七玉、8五桂、8八玉、7六桂、9八玉、7七桂成、8九金、6八と、3三歩、同銀、2六香(次の図)

5八同金図12
 7八と、2三香成、同玉、4五角、3四銀、4一角、3二歩、7八角、3三玉(7八同成桂」、同金は後手悪い)、3二角成、同玉、3四角(次の図)

5八同金図13
 これも途中、複雑な変化をいくつも含んでいて安易な結論は出せないが、このように進めば、先手良しである。
 図以下、2二歩に、3三歩と打って、同玉なら、1二角成、同桂には、1一飛である。 

5八同金図14
 だから後手も修正して、この図のように途中で「3三歩」とキズを消しておく手が有力だ。(7六桂と打った手が後手のまずい手だったのだ)
 この局面の「激指14」の評価は、[ -502 後手有利 ]。
 先手は3四歩から攻める。同歩、3三歩、同桂(同銀は2六香で先手有望)、7二飛、6二歩、6一角、4二金、5四歩、6八と、(次の図)

5八同金図15
 この図は、“後手有利”。 以下、5三歩成は、同銀と取っておく。このままなら後手7六桂、9八玉、7八とで、後手の勝ちが決まる。 
 6八とと迫るのが後手の攻めのポイントで、これに代えて7六桂を打ってしまうと、9八玉、7七桂成、8九金、6八と、5三歩成、同銀、7九香で、逆に先手良しになるところだ。
 図で8九金の受けなら7六金がある。この7六金の選択肢があるのが、“7六桂を打たないで6八と”の意味である。
 だから図では、5三歩成、同銀、8九香(8七にも利かす)が考えられる先手の受けだが、それも7六金、9八玉、7七桂成と迫られて、先手勝てない。 

 
≪5八同金図≫
 よって、先手【あ】5八同金の手は、同と、9一竜に、7五金、7七玉、8五桂、8八玉、3三歩で、“後手良し”、というのが我々の現在の評価である。


≪夏への扉図≫(再掲)
  【あ】5八同金  → 後手良し
  【い】3三歩   → 4つの「先手勝ち筋」を発見!   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 「先手勝ち筋」あり!

 この≪夏への扉図≫で、さらに6番目の手として、【か】8六玉も有力かもしれない。これをこれから考えてみる。


<8六玉作戦>

≪8六玉図≫
 【か】8六玉。 この手はぼんやりしているので、調査が難しいのだが。(激指評価は[-768])
 先手のねらいとしては、9一竜~9三竜~9五玉というような“入玉”のねらいである。
 図以下、5九金、9一竜。
 そこで後手がどう指してくるのかがよくわからない。

 〔A〕7四歩は、6六角、5五銀引、9三角成、7五銀、8五玉、8四金、同馬、同銀、9四玉以下、なんとか先手は“入玉”できそうだ。先手良し。
 〔B〕6七とは、3三歩、同銀、3四歩、同銀、3三歩、3一歩、9三竜、8四金、同竜、同歩、9五玉で、これも“入玉”できそう。

 他に〔C〕8四歩と〔D〕8四金があって、どちらも有力だ。

 〔C〕8四歩は、6六角、5五銀引、8四角、9四金、9五金、同金、同角、9四金、3三歩、同桂、8二飛、6六銀、7九香(次の図)

8六玉図01
 形勢不明である。「激指」は後手有利の評価値を出しているが、後手のはっきりした決め手は見つかっていない。決め手がなければ、先手良しの可能性もある。

8六玉図02
 〔D〕8四金(図)は、先手を持っている我々(終盤探検隊)が、もっとも強敵と思っている手である。
 ここで最善と思われる手順は、3三歩、同銀、3四歩、同銀、9六玉。
 以下、9四歩、7七角、4四歩(この場合は5五銀引よりも4四歩が優る)、8五香で次の図となる。

8六玉図03
 8五香で(入玉できそうなので)先手良さそうに見えるが…
 7四金、9四竜、8二桂、8三竜、8四歩、同香、7五銀(次の図)

8六玉図04
 8二桂以下、後手に巧妙に立ち回られている。9五玉には、8四銀、同竜、9四歩、同竜、同桂で、先手まずい。
 3三歩、4三銀、8二竜、8四銀、8六歩、7五桂。 8六歩として、先手は下に逃げようとするが、7五桂でその道も封じられた。
 以下、9四金に、9五歩、同金、8三歩、同竜、9一香(次の図)

8六玉図05
 これは先手勝ち目がなくなった。
 
≪8六玉図≫
 【か】8六玉は、5九金、9一竜、8四金で、“後手良し”、と結論しておく。



≪夏への扉図≫(再掲)
  【あ】5八同金  → 後手良し
  【い】3三歩   → 4つの「先手勝ち筋」を発見!!
              (黒雲作戦、香車ロケット2号作戦、赤鬼作戦、桃太郎作戦Ⅱ)   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 「先手勝ち筋」あり!!(桃太郎作戦)
  【か】8六玉   → 後手良し


 さて、≪亜空間の主≫との最終決戦(まったなし一番勝負)が迫っている。
 ここまで調査してきて、我々終盤探検隊は、先手を持って勝てるという自信の裏付けを得てきた。この図になれば、「5つの先手勝ち筋」があるとわかったのだ。
 しかし、“一番勝負”であるから、使う作戦はただ一つ。どれを選ぶかという問題になる。

 次回は、それを決める作戦会議である。


                          『終盤探検隊 part101』につづく
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