はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part99 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2017年01月31日 | しょうぎ
≪6八と図≫

 ここから先手はどうやって勝つか。 正解手順を指せば、先手が勝てる。
 答えは―――


    [映話を“ダイヤル”する近未来]
 彼はロイ・ベイティを撃った。大男はきりきり舞いし、頭でっかちな脆い生き物の集合体のようにぐらりとよろめいた。

  (中略)

「見ないほうがいい」リックはいった。
「もう階段で見ました、プリスを」特殊者(スペシャル)は泣いていた。
「そう思いつめるな」リックはいって、ようやくふらふらと立ちあがった。「映話はどこだ?」
 特殊者(スペシャル)はなにもいわず立っているだけだった。
 しかたなく、リックは自分で映話をさがしにいき、やっとありかを見つけて、ハリイ・ブライアントのオフィスをダイヤルした。 
                         (フィリップ・K・ディック著『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』より )


 フィリップ・K・ディックは1928年生まれのアメリカのSF作家。1968年に発表されたこの小説は、1982年『ブレードランナー』というタイトルで映画化されて有名になった。この原作者は、映画の完成の前に急死したそうである。
 法を犯したアンドロイドを処理(破壊)する仕事人を、映画では「ブレードランナー」と変えているが、原作では「バウンティ・ハンター」(賞金稼ぎの意味)である。また「レプリカント(複製)」と呼んでいるのも映画版の特徴で、原作はアンドロイド(またはアンディ)である。
 映画『ブレードランナー』は、近未来都市をリアルに映像で描く、というのがメインテーマになっているところがあり、それは成功しているように思われるが、小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』のテーマはまったく別のところにあり、アンドロイドとの比較によって、人間の“感情移入”とは何か、というのがテーマであるかと思われる。
 現在のネットの中に、ボーカロイドという種類の“歌手”がいる。まだそれらの存在は、人間とは違う声を持っていることを特徴として人々はそれを楽しんでいるが、やがてその技術が細やかになって進化していき、人間と区別つかないものになっていくだろう。将棋の技術で、コンピュータ・ソフトが人間棋士を凌駕しつつあるように、歌手の分野でも、他の分野でも、ロボットの繰り出す技が人間を超えるのは、もはや不思議なことではなくなってきている。
 だから、いずれは「感情」をもったロボットも登場し、人間と区別がつかなくなるかもしれない。しかし、そうだとしても、ロボットの持つ「感情」は、コピーされてつくられ学習されたものであり、するとオリジナルの“感情”というものを持った人間の、その“感情”とはなんだろう、“感情移入”する人間とはなんだろう、というテーマが浮き上がってくるのである。
 フィリップ・K・ディックの描こうとしていたことは、そのような文学的な試みだったと思われる。

 少なくとも、人間の“感情移入”がなければ、人気商売は成立せず、お金は回らない。“感情移入”をする阿呆な人間がいなければ、小説も映画も歌手も将棋もスポーツも、存在理由がなくなる。
 人間と世の中を活性化させている“感情移入”とは、なんだろうか。

 映画『ブレードランナー』の時代設定は2019年である。(この映画に登場するレプリカントと呼ばれるアンドロイドは2017年生まれで4年の寿命を持つという設定である)
 おそらく小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』のほうの時代設定は、(作中にはっきりとは書かれていないが)2000年頃と思われる。
 すでに「世界最終戦争」が起こり、戦後、そのために放射能で地球は住みにくくなっている。人間以外の生物は大変貴重で高価なものになっており、本物の生物(ペット)と偽物の生物(おもちゃ)との区別は見分けがつかないし、それをむやみに探らないことが御近所マナーになっている世界。
 そして地球が住みにくいので、火星などに移民として出ていく人も多く、その際に必要となるのがアンドロイドで、そうして植民惑星にアンドロイドが増えた。その人間型アンドロイドはすでに1990年には様々な型が生まれていた(これは作中に明記されている)という設定になっている。

 また、この小説の中には「映話」を使うシーンが多く出てくる。つまりこれは「電話」を進化させたヴィジュアル・フォンのことだが、面白いのは、この“未来”には、携帯電話(映話)が存在していないことである。だからたとえば、主人公がアンドロイドを処理する(殺す)ために追ってそれが住む部屋に入って仕事を終えたとき、その後に彼は上司に連絡するために部屋の中の「映話機」を探すのである。自分の携帯電話をもっていないから、“探す”のだ。
 そして、「映話」を見つけた主人公リック・デッカードは、“ダイヤル”を回すのであった。
 空飛ぶ自動車(ホバー・カー)が実用化され、火星移民も実現し、人間と区別の困難なアンドロイドが存在しているというのに、携帯電話がないという世界なのである。フィリップ・K・ディックが小説を書いた1968年には、スパイが「携帯型トランシーバー」を使うというシーンはすでにあったから、発想としては無線の電話機も想像はできたはずだが、それが一般の隅々にまで普及するということは、この作家の想像の範囲を超えていたということなのだろう。

 携帯電話がないのは、1982年に公開された映画版も同じである。 37年後の2019年に、火星移民、アンドロイド、飛行自動車が実現している世界が、「リアルな近未来」として描かれているということが興味深い。
 2017年の私たちから見れば、映画『ブレードランナー』の猥雑な都市風景の代表的な日本的ヴィジュアル広告が、「芸者」(強力わかもと)であって、「少女アイドル」でないことに、逆に違和感(物足らなさ)を覚えてしまう。「少女アイドル」と携帯電話の普及は、40年程前には、想像できなかったようである。


≪6五歩桃太郎図≫
 これが『桃太郎作戦』。 今、終盤探検隊はこの作戦の成否を検討している。
 5九金、6四歩、同銀、9一竜、7五金と進み―――

≪7五金図≫
 この図から、7七玉、6五桂、8八玉に、7六桂と後手が攻めた場合の検討をしている。
 以下、9八玉、7七桂成に、8九金と受け(8九香では先手負けになった)、6八ととして、冒頭の「問題図」である。
 (6八とで6七とでは7九香で先手良しなので、後手は6八ととした)

7六桂図08(6八と図)
 ここで正解手は「3三歩」である。3三同銀に「4五角」
 すなわち、「3三歩、同銀に、4五角」が正解手順。 

7六桂図09 
 これで先手が良し。
 この図の解説をする前に、3三歩を “同銀” としなかった場合について先に見ておく。

7六桂図10
 この図から、3三同桂と取る手と、それから手を抜いて7八とと攻める手を調査する。

7六桂図11
 まず3三同桂だが、これには9五角(図)が絶好手になって、この一手で先手良しが決まる。桂馬を入手して、3四に打てば、後手玉は“詰み”だ。
 9五角に7八成桂なら、やはり同金とそれを取って、3四桂と使えば後手玉は詰み。この手があるのが、8九に香ではなく“金”を打って受けた効果である。
 よって、それを後手が避けるには6七成桂しかないが、それなら5四香でやはり先手が勝ち。

7六桂図12
 先手の3三歩に、7八との場合は、以下、3二歩成、同玉、3八飛(図)と打つ。
 以下、3三歩なら、7八金、同成桂、同飛で先手が良い。 そこで、後手6七歩なら、1五桂と打って、次に7六飛、同金、2四桂の寄せをねらって先手勝ち。
 また3八飛に、3七歩には、3六香がある。

7六桂図13
 しかし後手にも、先手3八飛に、3七銀成(図)という返し技があった。以下どうなるか。
 これを同飛は、3三歩で、これは先手が負ける。
 3七銀成には、7八飛が正着で、以下、同成桂、同金。
 そこで5八飛には、6八歩、同桂成、3三歩(同桂は3四桂で後手玉必至)、4二玉、3四桂、5三玉、3五角、4四歩、6八金(次の図)

7六桂図14
 これで、先手勝ち。(後手が飛車を4八から打った場合には、この6八金に代えて5六香がある)

7六桂図09(再掲)
 というわけで、後手は先手3三歩を、同銀と取り、先手は「4五角」(図)と打つ。以下、この図が「先手良し」であることの証明をする。
 この手の意味は、第一は後手の攻め<w>7八とを「同角」と取る意味。その後は、同成桂、同金、4五角、6七歩、5七銀成が、予想される進行だが、そこで4一角と打つ(次の図)

7六桂図15
 5七銀成のところ、後手は6六歩としたくなるが、それは9二飛と打たれると、後手受けがない。(6二歩と打てないから) それで5七銀成である。
 図の4一角は詰めろではないが、6七成銀なら、3二飛、1一玉、3五香(3四歩には2四桂)と“詰めろ”をかけて、先手勝ち。
 それは後手負けなので、ここで3一歩と受ける。(3二歩だと5二角成、同歩、3一銀、1一玉、4一飛で後手受けなし)
 先手は2六香と打ち、以下、6八成銀、3五桂、3四銀、2三桂成、同銀、同香成、同角、2四飛、3二香、3四銀(次の図) 

7六桂図16
 先手勝ち。

7六桂図(再掲)
 戻って、<w>7八と以外の後手の応手を検討する。
 <x>4四銀は、4一銀、3一歩、3九香で、先手勝ち。
 他に、<y>4四歩、<z>3四歩が考えられる。

 角を追う<y>4四歩が有力だが、これには5四角と逃げた手が、後手玉への“詰めろ”になっている。(先手にとってたいへん都合の良いことだ)

7六桂図17
 3二歩と後手はその“詰めろ”を受けるが、3六香(図)と打てば、これも“詰めろに近い手”になっている。
 7八と、3三香成を、同桂なら詰まない。が、その時、7六角と桂馬を取って、これが“詰めろ逃れの詰めろ”になるのである。(ここも先手に都合よくできている)
 したがって、7八と、3三香成、同玉でどうかとなるが、3四歩(同玉は2五銀、同玉、3六角打以下の詰み)、2二玉、3三銀、同桂、同歩成、同玉、3四銀、2四玉、2五銀、同玉、1七桂以下の“詰み”となる。

 <y>4四歩の変化も、先手勝ちになる。

7六桂図18
 <z>3四歩には、2六香(図)と打てばよい。
 以下7八となら、やはり同角、同成桂、同金で先手良しだし、図で3五銀のような手なら、いきなり2三香成とし、同玉、4一角、3二香、3一飛と攻めていって先手勝ち。


7六桂図08(再掲 6八と図)
 以上の結果、3三歩、同銀、4五角があるので、この図は「先手勝ち」とわかった。


≪7五金図≫
 したがって、前回(報告part98)からここまでの検討により、これで後手7五金としたこの図が「先手良し」であると証明されたと、我々は考える。

 しかし、だからといって『桃太郎作戦』(6五歩作戦)が先手成功とは、まだ言えない。

≪9一竜図≫
 一手手を戻した≪9一竜図≫、ここで[1]7五金が先手にとって一番嫌な手と考えて、終盤探検隊はこの手以降の展開を調べてきたが、この局面はソフト「激指」もいろいろな手を挙げている。
 「激指14」(我々はずっと激指13を使ってきたが今は14を使っている)の候補手を6つめまで書いておくと次の通りである。(考慮時間は10分)
  [1]7五金  [ -388 ]
  [2]3三歩  [ -268 ]
  [3]8四歩  [ -190 ]
  [4]6六歩  [ -158 ]
  [5]5五銀引 [ -118 ]
  [6]7四歩  [ -113 ]
 しかしすでに検討した通り、[1]7五金は、先手勝てると我々は判断している。
 他の手はどうか。我々が警戒する手は[4]6六歩と、[6]7四歩である。
 それ以外の手については、検討の結果、以下の通り「先手良し」とはっきりした。
 [2]3三歩は、5四香、5三桂、8二飛、6二歩、8六玉で、先手良し。
 [3]8四歩は、3三歩、同銀、3四歩で、先手良し。
 [5]5五銀引は、5四香で先手良し。

≪7四歩図≫
 [6]7四歩(図)を調べよう。
 後手が[1]7五金と打った手をやめて、“7四歩”に代えてきたわけだが、この手の意味は、7五銀から、銀を攻めに参加させようという意味である。
 7五金と打つ手は早い攻めだが、結局6四の銀が攻めに参加できずに終わった。6四銀と出るなら、7五銀から活用するのが“筋”というもの。理にかなった手である。


7四歩図01
 先手は 3三歩

7四歩図02
 後手は7五銀とする。この手がやりたくて7四歩と指したのだから。
 これに7七玉だと、6五桂、7八玉、7六桂で先手負けなので、8五玉の一手。
 8五玉には、7四玉から入玉されると後手まずいので、今度は後手が8四金と打つ一手となる。
 先手9六玉に、そこで後手は自陣に手を戻すことになるが、3三桂3三銀がある。
 3三桂は、3四歩、9四歩、3三歩成、同玉(同銀は3四桂以下詰み)、1一角、3四玉、7三角(次の図)

7四歩図03
 この7三角は、後手9五金の一手詰を防ぐとともに、後手の狙いの7三桂打ちも消しているし、攻めては、2五銀、同玉、1五飛以下の“詰めろ”になっている。
 この図は先手優勢。 4四歩(桂)なら、5四銀で先手勝ち。

7四歩図04
 3三桂に代えて、3三銀には、3四歩と打ち、同銀に、4一銀(図)と打つ
 この4一銀に4二金は、7二飛、5二桂に、5一竜として、4一金に、5二飛成以下、後手玉に“詰み”があって先手良し。
 したがってここは3一歩と受ける。
 以下、8二飛、9四金(次の図)

7四歩図05
 先手の狙いは5一飛成だが、ここでそれを指すと8四桂で先手玉が詰むので、ここは8六歩。以下、6二歩に、5二銀成、8四桂、8七玉、7六銀、8八玉が予想される(次の図)
 (8四桂に代えて先に7六銀として先手玉に詰めろをかけるのは、6六角と王手で打ち、5五桂に、そこで5一竜で、先手勝ち)

7四歩図06
 8八玉と逃げるのがこの場合は正着で、9八玉だと、5二歩と後手が銀を取った時に、8七銀打、8九玉、7七桂、7九玉、6九金までの5手詰めが先手玉に生じる。 図の8八玉なら、8七銀打には7九玉として詰まないので、5二歩には、4二角と打って、先手勝ちが決まる。
 この図は、先手勝ち。

7四歩図07
 後手の3三銀に、先手が3四歩と叩いたとき、4二銀(図)と銀を引いた場合。
 これにも4一銀と打ちこみ、3一歩に、7三角と打ち、以下、9四金、8六歩で、次の図。

7四歩図08
 8六歩として後手の8四桂には8七玉と逃げる道をつくり、先手のねらいは4六角成である。(それを防ぐ3五銀には、5二銀成、同歩、4一飛で先手良し)
 後手は厳しく〔A〕7六銀と“詰めろ”で迫る(次の図)

7四歩図09
 我々は最初、これは7九香と打って先手良しなのだと思っていた。(ソフト「激指14」がそのような評価値を示していた)
 ところが、7九香、8四桂、同角成、同歩、7六香は、次に8三桂の好手が後手にあって、どうも先手が勝てそうにないとわかった。
 図で6六角と打ち、5五桂に、7九香も、良い結果は出てこなかった。
 しかしなにかこの図は先手に勝ちがあるはずと予感していた我々が、なんとか見つけた「先手の勝ち筋」は、この図から「6六角、5五桂、6四角成」という手順である(次の図)

7四歩図10
 アマチュア将棋の持時間の少ない終盤では見つけることの難しい手順であるが、この6四角成で先手が勝てる。
 後手がこのままなら、3三歩成として、同玉に、5五角、同銀、3五飛から後手玉は“詰み”。
 6四角成とすることによって、3三歩成を「同玉」に限定させた意味がある。(3三同銀なら、3一馬から詰むし、3三同桂は、5五馬と桂馬を取って、3四桂がある) 
 この図で、後手は<p>8四桂と、<q>5六とが考えられ、以下その2つの手を見ていく。

 <p>8四桂は、同角、同歩、3三歩成、同玉に、3六飛と打つ(次の図)

7四歩図11
 先手玉には、8五角と8七角の“2種の詰めろ”がかかっていて、ふつうならこれを防ぐのは難しいが、後手に角を使わせてしまえば、その“詰み”も2つとも消える。
 しかしこの3六飛に4四玉は4六飛があるので、ここは後手は角合するしかなく、先手勝勢が確定である。3四角なら2六桂。3五角合には、5四馬(3五飛、同銀、2五桂以下の詰めろ)で、先手勝ちだ。

7四歩図12
 後手<q>5六と(図)の場合。
 これにはまず3三歩成。これも同玉しかない。(3三同桂は5五馬と桂を取って3四桂)
 そしてこの場合は3八香と打つ。
 すると今度は後手は、「桂」を合駒に使うしかない。桂を使わせれば先手玉の安全度は高くなる。
 そうしておいて、9三角成とする。(8八角もある)

7四歩図13
 以下、9三同金、同竜となった。
 先手優勢である。

7四歩図14
 「7四歩図07」まで戻って、〔A〕7六銀に代えて、〔B〕6七とを選び、先手の4六角成に、そこで7六銀としたのが、この図。
 先手玉に8四桂の一手詰めがあるので、それを防いで先手は8五香。
 以下、8四桂に、同香、同歩。このとき、また先手玉には9五香の“詰めろ”が続いているが、しかし先手が「桂」を入手したため、今度は後手玉に“詰み”が生じていた。

7四歩図15
 3三銀(図)から後手玉は詰んでいる。同桂、同歩成、同銀、3四桂、同銀、2一飛、同玉、3三桂、2二玉、1一角、同玉、2一金という、華麗な“詰み”である。

7四歩図16
 この図は、≪7四歩図≫まで戻って、先手の3三歩に、7五銀としないで、3三同銀、3四歩、同銀と応じ、4一銀に、3一歩としたところ。
 後手は“7五銀”を保留した。このほうが、先手としては次の手がむつかしい。
 上で示したのと同じ手順で8二飛、6二歩、5二銀成と攻めると、同歩、4二角に、8四桂(次の図)となって―――

7四歩図17
 これは詰まされて、先手負け。 これが“7五銀保留”の後手のねらい。

7四歩図18
 それなら、8二飛ではなく、3九香(図)はどうだろうか。
 感じとしては先手が勝てそうだが、実はこれは先手苦戦となる。
 ここで7五銀と出て、8五玉(7七玉は6五桂、7八玉、7六桂で先手負け)、8四金、9六玉となるが、そこで4二金が好タイミングの手となる。以下、7二飛には、5二桂(次の図)

7四歩図19
 以下、3四香、4一金、8六歩は、9四歩とされ、次に9五金~8六金をねらわれ、これは後手優勢になっている。

7四歩図20
 “7五銀保留”に対しては、8五玉(図)とするのが、正着となる。
 次に9三竜から先手に“入玉”を計られると後手まずいので、ここは8四金の一手になる。(図で7三銀には、6六角~9三角成がある)
 8四金に、9六玉。(8六玉は6七とで先手悪い)
 先手としては、“後手に金打ちを決めさせた”という考えである。
 そこで後手がどうするか。9四歩は、7七角、5五桂、8五香で、先手良し。7三桂も、8六歩、7五桂に、8五香で、後手の攻めがうまくいかない。
 後手9四金(次に8四桂と打つ詰めろ)が有力手だが、先手8六歩として次の図。

7四歩図21
 この図はどっちが良いのだろうか。
 ここで8四桂、8七玉、7五銀は、5二銀成、7六銀、8八玉、5二歩、4二角(次の図)となって―――

7四歩図22
 先手勝ち。 上にもほぼ同じような図(7四歩図06)が出てきたが、これは先手の理想通りの展開だ。

7四歩図23
 戻って、7五桂(図)と、後手は工夫してみる。
 これには8五歩と一手詰めを受け、以下、8四歩に、同歩、7三桂の攻めに、7六角と打って受ける。(8九香でも先手良し)
 後手6五銀に―――

7四歩図24 
 3三歩(図)で、先手勝ち。
 この手は3二金以下の“詰めろ”だが、1四歩としても2六香で状況は変わらない。
 また3三同桂は6四角で、受けがない。4二金には9二竜がある。
 結局、3三同玉しかなさそうだが、それも1一角と打って先手勝ち。4二玉には5二銀成、同玉、4一飛、5三玉、4四金以下、“詰み”。

 どうやら8六歩とした「7四歩図21」は、先手良しのようだ。

 とすると―――

≪7四歩図≫
 [6]7四歩(図)には、3三歩 以下、先手が勝てると結論が出た。


 残るは、[4]6六歩のみ。

≪6六歩図≫
 [4]6六歩には、3三歩も有力ではあるが、我々は8五玉(次の図)のほうがより良いと判断した。
 
6六歩図01
 この場合もやはり9三竜から“入玉”されてはいけないので、後手はそれを防ぐために金を打つことになるが、9四金と、8四金とがある。
 まず9四金は、8六玉と逃げる。
 そこで7四歩以下を見ていくが、8四歩もあって、それは以下9六歩、8五金、9七玉、7六金、7九香、8五桂、9八玉の展開は、先手が良い。
 7四歩、9六歩、7五銀、9七玉、8五桂、9八玉、7七桂成、7九香(次の図)

6六歩図02
 こうなると、先手良し。 6七歩成に、7七香、同と、3四桂があるので。このように後手は桂馬を簡単には渡せない状況なのだ。

6六歩図03
 なので、7七桂成の手に代えて、7六銀としてみた。
 これには、先手6四角と打つ。これは3一銀以下の“詰めろ”。(6四にいた後手の銀がいなくなるとこの手が狙い目になる)
 よって、後手は3一歩と受けるが、3三歩で先手は攻める(次の図)

6六歩図04
 3三同玉なら1一角、3三同桂なら8六角打で先手勝ち。
 3三同銀には、4一飛がある。以下、4二桂に、3四歩で、後手受けなし。これも先手勝ち。

6六歩図05
 戻って、8四金(図)。
 これには9六玉だが、9四歩にどう受けるか。

6六歩図06
 8六銀(図)と受けた。
 先手からの3三歩、同銀、3四歩の攻めがくる前に攻めなければいけない後手は、7五銀とする。
 これには8五香。以下、8六銀、8四香、同歩、8六歩。
 どうもこれで後手の攻めは息切れ模様。
 以下8三桂には、6四角(次の図)

6六歩図07
 後手の銀がいなくなると、やはりこの角打ちがある。
 3一歩の受けに、7三歩成。5五銀打に、8三と、6四銀、9四竜、6七角、9五玉

6六歩図08
 はっきり先手優勢である。

 [4]6六歩も先手勝ちになるとわかった。

≪6四歩図≫
 しかしまだ、この『6五歩桃太郎作戦』が成功とは決められない。
 この図は、後手の5九金に、先手は6四歩と銀を取ったところ。以下、6四同銀、9一竜と進んで、その図を研究し、今、「先手良し」と確定した。
 
 どうやらこの図での6四同銀が後手にとって問題だったかもしれない。
 6四同銀ではなく、7四歩(次の図)が最善手の可能性がある。

≪5三銀型7四歩図≫
 6四銀と出てもこの銀をうまく使えないなら、7四歩として次に7五金をねらっていこうというのが、ここでの7四歩の意味だ。
 ここで<イ>3三歩、<ロ>9一竜は、先手が不利になる。

 <イ>3三歩と攻めたいのだが、ここでその手を指すと、8四桂があって先手いけない。 以下、7七玉、6五桂、7八玉、3三桂、3四歩、7六桂、3三歩成、同銀(次の図)

5三銀型7四歩図01
 この図は後手の勝勢になっている。 後手が金を手持ちにしていなければ、3四桂、同銀、1一角、同玉、3一飛から後手玉に詰みがあったところだが、この場合は3一飛に2一金と受けられて、詰まない。

 そこで≪5三銀型7四歩図≫より、<ロ>9一竜が考えられるわけだが(今度8四桂には8五玉で先手良し)、7五金、7七玉、6五桂、8八玉、6七と、3三歩、7七桂成、9八玉、3三銀、3四歩、同銀と進む(次の図)

5三銀型7四歩図02
 ここで3三香という先手の“狙いの一手”があるのだが、この場合、同玉、1一角、2二桂、3一角(次の図)となって―――

5三銀型7四歩図03
 ここで「6四銀型」と「5三銀型」との違いが表れる。「6四銀型」の場合は、ここで4四玉なら6四角成で先手良しだったのだが、この場合は、4四玉、2二角右成、3三歩で、これは後手玉が捕まらなくなって、後手良しである。

5三銀型7四歩図04
 <イ>3三歩と攻めても、<ロ>9一竜でも先手は勝てないので、第3の手が必要になるが、それがこの図の<ハ>6六角である。これがこの図での先手の最善手になる。
 そしてこれに対する後手の最善手は我々の調べたところ、どうやら3三歩。(4四歩は3三歩がある。5五桂は、9一竜の後、5五角、同銀、3四桂をねらわれる)
 先手は8五玉。(8三竜は6四銀以下、難解な形勢)
 以下、6七と、7四玉、6六と、8三玉と、角を犠牲に、一目散に“入玉”をめざす。

5三銀型7四歩図05
 続けて、4七角、7四歩、9二金、同竜、同香、8一飛、8五飛、9二玉(次の図)

5三銀型7四歩図06
 図以下は、8一飛、同玉、7四角成、8二金、6四馬、7二歩。 どうやら“入玉”は成功した。


 「激指14」は、この図を、[ +6 互角 ]と評価している。
 だが、先手に負けはないので、実際は先手有利は間違いない。
ただ、この後手玉を捕まえそこなうと、“相入玉”からの持将棋引き分けの可能性もあるため、勝てるかどうかははっきりしない図でもある。人間の感覚的には、“先手勝てるのではないか”と思うのだが、確信は持てないといったところである。

 厳密にはそういう微妙な評価ではあるが、『桃太郎作戦』は成功、と結論しておく。


≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   → 3つの「先手勝ち筋」を発見!   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 先手良し(桃太郎作戦) =4つ目の「先手勝ち筋」

                          『終盤探検隊 part100』につづく
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終盤探検隊 part98 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2017年01月25日 | しょうぎ
≪6五歩桃太郎図≫

 終盤探検隊は、≪亜空間の主(ぬし)≫と戦争をしている。≪亜空間≫は狂気の世界であり、≪主(ぬし)≫は、その住人であるが、姿かたちはなく、正体は不明である。
 

    [文房具vs鼬族]
まずコンパスが登場する。彼は気がくるっていた。(以下略)
ナンバリングは人知れず静かに狂っていった。(以下略)
糊が登場する。糊は色情狂だろ思われていたが紙の楮先生に言わせれば性倒錯者ではなく実は単に性欲が人並みはずれて旺盛なだけであった。(以下略)
次に登場するのは日付スタンプである。彼は日付がわからなくなって以来気が狂ってしまっていた。(以下略)
ホチキスが登場する。彼はきちがいだった。誰かれなしに喧嘩を吹っかけた。(以下略)
ここで輪ゴムが登場する。彼は気が狂っていた。(以下略)
ここで二十五種ひと組の雲形定規が登場する。彼ら二十五人は合成樹脂製だったので寒さに強く、そのため冷艦カマキリ号の保全作業を任命されていた。彼らは全員が狂っていた。それぞれ形が違うくせにお互い見わけがつかず、全員が自分を見失っていた。(以下略)
分度器が登場する。彼は完全に気が狂っていた。自分のことをコンピューターによって行動をプログラムされているロボットだと思っていた。(以下略)
次に虫ピンが登場する。誰も知らなかったが彼は気が狂っていた。(以下略)
パンチが登場する。彼はもともと殺人狂だった。(以下略)
ルーペ(むしめがね)は幻視者だった。白昼夢の如く突如眼前にとんでもないものを幻視しそれは必ず実現する。そのことを信じているのはルーペ自身と副船長のメモ用紙だけだった。紙の楮先生はなぜか彼のESPを信じない。(以下略)
清掃要員のチョークは明朗で快活で仕事を手際よくこなし滅多に不満をもらしたことはなく誰からも悪意を持たれていなかった。彼は気がくるっていた。(以下略)
一時的言語障害が癒えると同時に船長赤鉛筆の本来の病気が再発した。(以下略)
戦いが近づくとたいていの者の精神は異常な部分が発生する。精神の異常を訴えてくる者こそが正常なのだと楮先生は思う。だが、楮先生は狂えない。悲しいことだ嘆かわしいことだと楮先生は思う。わしがいちばん異常なのではあるまいか。(以下略) 
                            (筒井康隆著『虚航船団』より )



 “彼ら”は宇宙船団の「文房具船」の乗組員。全員、文房具だ。
 “彼ら”に指令が発せられた。惑星クォールへ行き、そこに住む鼬(イタチ)族を殲滅せよという指令である。
 その戦争の物語『虚航船団』の第一章は、この宇宙船の乗組員である「文房具」が一人ひとり丁寧に紹介される。ところが、一人残らず、気が狂っている。
 この小説を読むのはたいへん苦労をする。なぜなら、登場する全員が狂っており、“感情移入”が難しいからだ。改行もほとんどない。
 第二章は、惑星クォールに住む鼬(イタチ)族の歴史を延々と紹介する章となっている。これも世界史のパロディになっており、知識があれば面白いのだが、しかしやはり“感情移入”をしたくなるような人物が登場しないので、読むのが苦行のようなところがある。
 こういう文章がある。

 960年、グリダイジョ合鼬国はグリソニスに大規模な原子力研究所を作った。所長のオッペンタイラーはグリフォードとゾーアをここに招き、核分裂反応を利用した原子爆弾の研究に従事させた。彼らは963年、原子核の破壊に成功した。

 どうやらイタチ族(もともと流刑された種族だった)の科学がこのように発展しすぎたために、「殲滅せよ」という指令が下ったようである。
 この文章の、オッペンタイラーはオッペンハイマー、グリフォードはラザフォード、そしてゾーアはボーアなのだと、物理学の歴史に興味がある人はわかる。(実際の歴史ではラザフォードは核分裂発見の前に亡くなっているのだが)
 このように一部の人がわかる冗談をいたるところに散りばめ、しかし大部分の人にはそれはわからない。わからないままに放っておく。

 この小説は、このように、読者を簡単には“感情移入させない”という特徴がある。そういう意図で書かれているのだろう。
 筒井康隆の小説で有名なのは、TVドラマ化された『時をかける少女』、『エスパー七瀬シリーズ』、そしてアニメ映画化された『パプリカ』など。これらはみな少女(パプリカは少女ではないがキャラ的には少女っぽい)が主人公になっている。
 だから、“感情移入”がしやすいのである。(SFファンというのは結局“少女”にたいへん弱い人種のようだ)
 筒井康隆の作風は、一言でいえば、「男の狂気を描く」である。狂人であれば、ふつうは“感情移入”ができにくいもので、それをなんとか読ませてしまうというのが、作家の才能である。エスパー火田七瀬のシリーズや『パプリカ』では、そういう“感情移入しやすいキャラ”をつかって、読者を狂気に引き込んだが、これは作家としては“安易なやりかた”であろう。
 筒井康隆は『虚航船団』では、そのような“安易なやりかた”をいっさい使わず、狂気を狂気らしく描いたのだと思われる。とにかく、読みづらい小説である。

 なお、小説タイトルは『虚航船団』であり、「虚構」ではない。(これは特に重要なことではないかもしれないが、たいへん間違えやすいので書いておいた)
 また、文房具登場人物の一人「紙の楮先生」の読み方も意味もわからなかったので、調べてみてそれでわかったが、「楮」は「ちょ」または「こうぞ」と読み、中国ではある故事から「楮先生」(ちょせんせい)と“紙”のことをこう呼ぶのだそうだ。(和紙の材料が「こうぞ」と学校で習ったが、「楮」と書くのである。) この小説の中では、「紙の楮先生」は船医であるが、これも“繊維”にかけた駄洒落なのだろうか。
 さらに、鼬族の住む惑星は「クォール」だが、イタチにちかい動物でそのような呼び名に当てはまるものがないかと調べてみたが、特に見つからず。するともしかしたら、これはヴァン・ヴォークト著『宇宙船ビーグル号の冒険』の有名な宇宙猫「ケアル=Coeurl」から取ったネーミングか。(ケアルは人間の宇宙船を乗っ取って動かすほど知恵がある怪物猫である)


≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   → 3つの「先手勝ち筋」を発見!   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 後手良し

 【お】6五歩は“後手良し”と結論をすでに出している。(報告part82)
 しかし、ほんとうにそうだろうか。我々終盤探検隊は、もう一度ここでの【お】6五歩を再調査してみたいと考えた。
 そのきっかけというのは、前回・前々回の『赤鬼作戦』の成功である。『赤鬼作戦』を成功させたのは、次の参考図の「6五歩」があったからである。 

参考図(赤鬼作戦の6五歩)
 これだ。ここからあまりに鮮やかに先手が勝てた。これほど6五歩が有効とはそれまでは考えなかったのが、これで印象が変わった。


<桃太郎作戦>

≪6五歩桃太郎図≫
 そこで、この【お】6五歩である。 この図での「6五歩」を、『桃太郎作戦』と呼ぶことにした。大将自らが右パンチを放って敵と闘っているようにも見える図である。

 以下、5九金、6四歩、同銀が予想される(次の図) 

≪6四同銀図≫
 ここで3三歩のように攻めていくと、8四桂と打たれ、この手に8五玉や8六玉では詰んでしまうので、7七玉しかない。すると6五桂、7八玉となり、そこで3三桂と手を戻され、これは後手優勢である。以下3四歩は、後手7六桂が決め手になる。3三歩成は同銀で、この場合は後手が金を手に持っている関係で、3四桂としても同銀で後手玉に詰みはない。(後手が金を持っていなければ1一角から詰む。この詰みはあとで出てくる)
 8四桂と打たれてはまずいので、この図では9一竜が先手の正着となる。これなら、8四桂には、8五玉とし、以下9四金、8六玉は、後手に“9四金と打たせた”ことになって、先手良し。
 だから後手は先手の“入玉”をさせないためにも、7五金と打つ(次の図)のが有力となる。

≪7五金図≫
 7七玉、6五桂、8八玉、6七と。(6七とでは7六桂もある)
 ここで先手は3三歩。手裏剣を飛ばす。
 以下、7七桂成、9八玉。そこで後手の手が分かれる。

≪9八玉図≫
   〔L〕3三桂 
   〔M〕3三銀
   〔N〕7八と
   〔O〕7六金

3三桂図01
 〔L〕3三桂(図)と応じたところ。
 前回調査時(報告part82)は、ここで8九香以下、先手負けと結論を出している。
 しかし再調査により、結論が覆ったのである。ここは、「3四歩」または、「7九香」で、先手勝てる、と。
 これによって、新しい希望の道が我々の前に開けてきた。
 やはり「感情移入」は人間にとって重要な要素だ。前回はこの「6五歩で勝つ」という思いが足らなかったから、あっさり“後手良し”と結論を出してしまった。今回それを覆したのは、「6五歩」に対する強い「感情移入」があったからだと思う。

 ここでは「3四歩」(次の図)以下を解説する。 
 
3三桂図02
 「3四歩」(図)には、後手<1>7八とと、<2>7六金とがある。

 <1>7八と以下は、3三歩成だが、これを同銀なら、3四桂がある(次の図)

3三桂図03
 前回調査のときは、終盤探検隊は、この“詰み”を見逃していたのであった。
 3四同銀、1一角、同玉、3一飛、2一角、2二角、同玉、3三銀、3一玉、3二香以下、“詰み”。
 (この詰みは後手が金を持駒に持っていると成立しない。すなわち、3一飛に2一金合なら不詰。後手が7五金と金を使ったためにこの筋が詰みになった)

3三桂図04
 よって、3三歩成には、後手同玉しかないが、先手は1一角(図)と打つ。
 これには4二玉が粘りがあるが、2二桂の場合を先に解説しておく。(3四玉は5六角、4五桂、2五銀以下詰み)

3三桂図05
 2二桂合には、3八飛(図)

3三桂図06
 ここで3五歩や3六歩は、2五桂と打って、それから2二角成で先手良し。
 後手は3七歩とするが、それには3六香。

 “4四玉”と逃げるのは、2二角成、5四玉、7八飛、同成桂、5六銀(次の図)

3三桂図07
 2二の馬が8八に利いていて、先手玉は詰みを逃れている。この図は先手勝ち。

 したがって、前図の3六香には、“4二玉”と逃げるが、それには2二角成(次の図)

3三桂図08
 先手玉は飛車と角とで自玉の“詰み”を逃れており、後手玉は3一角以下の“詰めろ”。
 適当な手のない後手は、図以下、8八成桂から勝負する。同馬、同と、同飛。
 そこで5五角では4五桂で後手勝てないので、4五角と打つ。その手には5四歩、同角、3一角、同玉、3三銀とする(次の図)

3三桂図09
 これで先手勝ちになった。


3三桂図10
 戻って、1一角に、4二玉と逃げる。このほうが紛れが多く先手としては手ごわい。
 これには7九金(図)と打つ。同金なら7七角成で、はっきり先手良しになる。
 ここで<v>3三歩、<w>7六金、<x>7六桂を見ていくことにする。先に結論を書いておくと、いずれも先手良しである。

3三桂図11
 <v>3三歩。これは1一角の利きを遮断する手。次に7九とで金を取るつもり。
 先手は6一飛と打って、これが3一角以下の“詰めろ”になっている。5三玉と先逃げで受けるが、3一角、4二桂、5六香、5五銀上、同香、同銀、4五銀(次の図)

3三桂図12
 以下、6二歩に、7三歩成(6二飛成、同金、5一竜以下の詰めろ)、6四玉、6二と、7九と、5二とと進めば、後手玉は詰んでいる。

3三桂図13
 <w>7六金。先手玉に“詰めろ”をかけた。9六銀や8九香と受けるのでは、7九とで先手負け。
 先手ピンチに見えるが…
 3四桂と打って、5三玉に、5六飛と打つ(次の図)

3三桂図14
 以下、5五銀引、7六飛、同成桂、7八金として、このピンチを脱す。
 続いて、3八飛には、6八香。

3三桂図15
 そして3四飛成には、3五歩(図)と打って、先手が優勢である。
 以下一例は、3五同竜、7三歩成、7五桂、6三と(次の図)

3三桂図16
 6三同金は、5一竜、5二歩、1七角がある。
 よって6三同玉とするが、それには、6一竜として、6二桂に、8五角が狙いの一手(次の図)

3三桂図17
 7六の後手の成桂を取ってしまえば先手に怖いところはなくなり、先手勝勢となる。

3三桂図18
 後手の3つ目の候補手<x>7六桂。これも8八と以下“詰めろ”だ。
 これには8九香と受けておけば、後手の次の攻めがない。7九とには7七角成がある。
 よって後手は3三歩だが、3四桂と打つ(次の図) 

3三桂図19
 同歩なら6一飛と“詰めろ”をかけて先手優勢。
 したがって、3四桂に5三玉だが、これには4五銀と打つ。
 以下、6三玉に、6一竜、6二歩、7三歩成(次の図)

3三桂図20
 7三同玉には7一飛と打って、二枚飛車で寄せていく。
 7三同銀にも7一飛。以下、6四玉には、3一角と打ち、7四玉に、7二竜、6三金、5三角成(次の図)

3三桂図21
 後手受けがなく、先手勝ち。

 先手「3四歩」に<1>7八とは“先手良し”とわかった。

 
 次は、<2>7六金。

3三桂図22
 「3四歩」に、<2>7六金(図)の場合。
 この場合も3三歩成とし、同銀は3四桂の詰みがあるので、3三同玉。
 以下、1一角に、4二玉、8九香(次の図)

3三桂図23
 1一角に2二桂合の場合も同様に8九香で受けておけば問題ない。
 ここで後手は7五桂と攻めてくる。先手は9六銀とこれを受けるが、7八とがまた“詰めろ”である。この攻めを先手はどう凌(しの)ぐか。 
 3四桂と打ち、5三玉に、5六飛(次の図)

3三桂図24
 5五銀上に、7六飛。上でも出てきたこの飛打ちで“詰めろ”を消す。これで“攻守”が逆転する。
 以下、7六同成桂、4五金、6四玉、6一竜、6二歩、3八角と、逆に後手玉を、“詰めろ”で攻める(次の図)

3三桂図25
 単純な受けのなくなった後手は、8七桂成と攻めてくる。以下、同銀、同成桂、同玉、7七飛、9八玉、6五銀と進む。(7七飛で6七飛は7八玉があって後手悪い)

3三桂図26
 そこで5六桂(図)が決め手になる。7五玉なら5五金、同銀、同角成で。5六同銀右は、同角、同銀に、5五銀と打って“詰み”。
 5六同銀直と取って、4六金に、8六桂、同香と犠打を打って、それから3三歩と角の利きを止めて後手は抵抗するが(単に3三歩だと5五銀、7五玉、8六金で詰みだった)、それには―――

3三桂図27
 8七桂(図)とぴったりの手があった。 これで先手勝ちが決まった。

 後手<2>7六金も、先手が勝てる。



 後手の3三桂に「3四歩」以下を解説してきたが、「7九香」(図)でも先手が勝ちになる。これは7七香で桂馬を取ってそれを3四に打てば後手玉が簡単に詰むからである。
 したがって、7九香には、後手は成桂を取らせないで攻めるには7八としかないが、これは同香と取り、同成桂、3八飛、6八歩、5六角、7七成桂、3四歩と、後手玉に"詰めろ"をかける(次の図)


 これで先手が勝ちになる。以下、3七歩には、3三歩成、同銀、3七桂とした図が、また2三角成以下の“詰めろ”になっている。(後の解説は省略する)


≪9八玉図≫
   〔L〕3三桂 → 先手良し
   〔M〕3三銀
   〔N〕7八と
   〔O〕7六金
 〔L〕3三桂は先手良しが確定した。 〔M〕3三銀はどうなるのか。

3三銀図01
 〔M〕3三銀には、3四歩とたたく。
 これには同銀が本筋だが、4二銀と変化してきた場合をまず解説しておく。

3三銀図02(3四歩に4二銀の変化)
 3四歩に4二銀(図)の場合。
 これには4一角とする。
 対して3一歩では、2五香、3二歩、2六飛、1一桂、4五角で、後手受けなしになる。
 よって、4一角には3二歩。

3三銀図03
 しかし3二歩には、3三香(図)があって、後手玉は寄り。
 以下の一例は、3三同桂、同歩成、同銀(同玉は1一角、2二桂、4五金)、5二角成、8七成香、同玉、8四香、8五桂(次の図)

3三銀図04
 先手は“歩切れ”なので、歩の代わりに桂で8五桂と中合いをして、先手玉は詰みを逃れている。
 先手勝ち。


3三銀図05
 というわけで、3四歩のたたきには、後手は同銀(図)と応じるのが本筋となる。
 ここで4一に、飛車や角や銀を打ち込む手が見えるが、それでは先手勝てない。たとえば4一飛は、7六金、8九香、9五桂、9六銀、7八ととなって、後手勝ちになる。(4一飛が詰めろになっていないので攻められてしまう)
 4一角や4一銀は、3一歩と受けられて、5二角(銀)成としても、同歩で、後手玉が詰まないので、やはり先手負けになる。
 
 しかし、この図では、先手に“好手”があって、先手が優勢になる。

3三銀図06
 図の「3三香」が、先手勝利への道をこじ開ける“絶好手”である。
 対して、後手はどう受けるか。考えられる応手は、次の5つ。
   (ガ)3三同桂
   (ギ)3二歩
   (グ)3三同玉
   (ゲ)3一歩
   (ゴ)3二桂

 (ガ)3三同桂は、先手に4一飛と打たれると、これでもう後手は“受けなし”になってしまう。(8七成桂、同玉、8四香には、8五桂で先手玉は詰まない)
 したがって、(ガ)3三同桂はない。

3三銀図07
 (ギ)3二歩が一番ふつうに思える受けだが、これには4一銀と打つ。後手4二金では、3二香成、同金、同銀成、同玉、3一飛から詰むので、後手の応手は3三玉しかない。
 そこで、1一角と打ち、2二桂合に、3一角がある(次の図)

3三銀図08
 この3一角があるので、この攻めが有効になる。
 ここで後手7六金や7八と(先手玉に詰めろをかける)では、2二角左成以下、後手玉が“詰み”となる。2二角左成に2四玉は、2六飛、2五銀、3六桂、3五玉、4四馬、同歩、同角成まで。2二角左成に4二玉は、3一馬、同玉、3二銀成、同玉、2二飛以下。
 といって、図で4四玉と早や逃げするのも、6四角成があるため、後手にこの図では勝ち目はない。

 しかし1一角に2二香合だったら、2二角左成、2四玉のときに桂馬がないので詰まないため、ここで7六金(先手玉への詰めろ)が先手で入り、事情が違ってくる。しかしその場合も結局、先手が勝ちになる。その手順を示しておくと
 7六金、2二角左成、2四玉、2六飛、2五銀、1五金、3五玉、2五金、4五玉、2三馬、5四玉、8九香、7五桂、9六銀(次の図)

3三銀図09
 この図は正しく指せば、先手勝ち。
 7八とには、同馬、同成桂、4六飛。3三桂なら、4六飛、5五銀、6一竜、6二歩、4五銀の要領で。

3三銀図10
 (グ)3三同玉。 これには1一角と打つ。
 後手の応手は、4二玉2二桂(香)合だが、4二玉には次の先手の決め手がある。

3三銀図11
 5四飛である。これで先手勝ちが決まる。次に3一銀、同玉、5一竜以下の“詰めろ”になっており、受けもない。(3一歩には3二金、同玉、5二飛成、同歩、4一銀、4二玉、5二銀成、同玉、4一角以下、“詰み”がある)

3三銀図12
 戻って、1一角に2二香(桂)合の場合は、ここでも3一角と打つ手が有効で、これが“詰めろ”になっている。その詰め手順を示しておくと、後手の7六金に、2二角右成、2四玉、2六飛(図)と打って、2五銀に、2三馬、同玉、2五飛、2四桂、3二銀(次の図)


 先手に「桂」がある場合はここで1五桂から詰んでいた。この場合は桂ではなく「香」なので、この3二銀(図)からの“詰み”になる。3二同玉に、3四香と打ち、2三玉に、2二角成がある。以下、3四玉に、2三銀、2五玉、2六金まで。
 この変化も、先手に3一角の好手があって、これが6四の銀取りになっているために、後手は(4四玉のように)逃げる手が利かなかったのが先手の勝因になっている。

 (グ)3三同玉は先手勝ち。

3三銀図13
 (ゲ)3一歩(図)は、どう攻略するのがよいだろう。
 4一銀は3三玉で息切れする。これは後手良し。
 しかしここで先手にうまい手があった。

3三銀図14
 3一同香成(図)である。
 これは後手同玉しかないが、そこで1一角と打つ。この手は3二銀、同玉、2二飛以下の詰めろになっている。
 なので後手は2二桂と受けるが(4二玉には5四飛)、そこでまた先手に好手が用意されている(次の図)

3三銀図15
 6二飛(図)。 これで後手玉はほぼ受けなしになった。
 4一玉くらいしかないが、それには3一銀と打って、“必至”である。

 (ゲ)3一歩には、同香成で、先手勝ち。 

3三銀図16
 後手最後の手段(ゴ)3二桂(図)。
 妙な受けに見えるが、これは先手の4一銀に、3一歩と受けるという意味。
 それでもやはり先手は4一銀と打ち、3一歩に、3二香成、同歩、そこでいま取った桂馬を2六桂(次の図)と打つのが良い手になる。

3三銀図17
 後手4五銀に、5二銀成が“詰めろ”になっている。(2六桂に2五銀は後で解説)
 これを後手同歩なら―――

3三銀図18
 1四桂で華麗な“詰み”。 派手な手だが、意味は単純で、2六に金や飛車を打つスペースをつくる意味。
 1四同歩に、3一角、3三玉、2二角打、3四玉、2五金、同玉、2六飛、3四玉、2五金まで。

3三銀図19
 5二銀成を放置して後手が攻める――たとえば8四香だと、後手玉は詰む。
 この図の示すように、4四角と打つのである。
 以下の詰め手順は、4四同歩、3一角、同玉、5一竜、2二玉、2一竜、同玉、4一飛、3一角合、1一金、2二玉、3一飛成以下。

3三銀図20
 2六桂に2五銀の変化。この場合は、まず3一角と打って、これを同玉は、4二金、2二玉、3二金、同玉、3一飛、同玉、5一竜以下詰み。
 よって後手は3三玉と逃げるが、そこで―――

3三銀図21
 3五飛(図)がある。 同銀に、2二角打以下、3手詰。
 3四香は、4二角打から。 2四玉には、3四金から“詰み”である。

 (ゴ)3二桂も先手勝ちになり、これで“3三香”で先手が勝てることが証明された。


≪9八玉図≫
   〔L〕3三桂 → 先手良し
   〔M〕3三銀 → 先手良し
   〔N〕7八と
   〔O〕7六金

 つまり、こうなった。

 残るは〔N〕7八と〔O〕7六金だが、これはいずれも先手「3三歩」を手抜きする手である。

7八と図01
 〔N〕7八と。(〔O〕7六金も同じ手順で同じ結果になる)

7八と図02
 〔N〕7八と、3二歩成、同玉、3三歩(図)
 これに同桂は、詰む。 この“詰み”がなかなか難しいのだが。
 詰み手順は、2一銀、同玉、4一飛、3一歩、2二香(次の図)

7八と図03
 2二香に同玉は、1一角、3二玉、3一飛成以下。
 2二香に3二玉に対する手順がまた気づきにくい詰め方で、3一飛成、同玉、3二銀とする(次の図)

7八と図04
 この3二銀に代えて3二歩だと4一玉で詰まない。以下の手順は省略。

7八と図05
 3三歩に、同玉の場合。これには1一角(図)と打つ。
 これに2二桂の場合は、いったん8九香と受けに回る。さらに後手は7六金と“詰めろ”をかけてくるが、これも9六銀と受けておく(次の図)

7八と図06
 これで後手にうまい攻めがない。
 それでも、8九と、同玉、8七金と攻める手はある。それには、同銀、同成桂、3八飛(王手)とする。
 以下、3七歩に、4五金(次の図)

7八と図07
 3八の飛車が先手玉の“詰めろ”を消して、4五金が後手玉の“詰めろ”になっている。2二角成、同玉、3四桂からの詰みである。先手勝ち。

7八と図08
 1一角に、後手4二玉の場合。
 この手には、“詰み”がある。

7八と図09
 3一角(図)と打って、以下、“詰み”。 3一同玉に、3四飛と打って詰みだ。3三歩には、2二銀、4二玉、3三銀成、5三玉、5四銀以下。


≪9八玉図≫
   〔L〕3三桂 → 先手良し
   〔M〕3三銀 → 先手良し
   〔N〕7八と → 先手良し
   〔O〕7六金 → 先手良し

 これで、この図は「先手良し」が確定した。


≪6五歩桃太郎図≫
 しかしそれでこの6五歩作戦(桃太郎作戦)が成功かと言えば、それを宣言するのは早計である。後手にもまだ対抗手段があるからだ。



7六桂図01
 今研究してきた手順で、後手が、6七とに代えて、7六桂(図)とする手がある。以下、9八玉に、7七桂成で、“詰めろ”がかかる。このほうが攻めが早いのだ。(ただし7五の金を7六に進められないという欠点もある。一長一短だ) 

7六桂図02
 ここでどう受けるか。“8九香”が見えるが、どうだろうか。
 以下、6七と、3三歩、7八と(次の図)

7六桂図03
 3二歩成、同玉、3八飛という手はあるが、3三歩と受けられ、その図は、先手に適当な受けがなく、先手不利。
 しかし先手にもまだ手段はあった。3三歩に代えて、9五角(次の図)と打つのである。

7六桂図04
 7八となら、7七角と成桂を取って、同とに、3四桂、3三玉、4五金となって、先手勝ち。これが9五角と打った手の狙い。
 しかし7八とではなく、7八成桂が後手の最善手。
 先手はそこで3三歩と攻め、同銀(同桂は5六飛で先手良し)、3四歩、4二銀(3四同銀は4一飛で先手良し)と進む。
 以下、4一銀、3一歩、5九角(次に1五角と出る手が3三金以下後手玉への詰めろになる)、8九成桂、同玉、7七香(次の図)

7六桂図05
 9八玉、7八香成、9六歩、8八桂成、9七玉、7七と、7九桂、7六金、8六金、9九成香(次の図)

7六桂図06
 ここまで進めてみると、はっきり後手良しになった。先手玉は、8六金、同玉、8四香からの“詰めろ”になっている。ここで7七角、同成香、7六金、同成香という手で勝負するしかないが、正しく応じられると先手は勝てない。
 「7六桂、9八玉、7七桂成」の攻めに、“8九香”では、先手勝てないようである。

7六桂図07
 終盤探検隊の調査では、“8九金”(図)と受けるのが先手最善手で、これなら、先手勝てる。(ただしこの後もそう簡単ではない)。
 8九金に、6七となら、7九香と打つ。これで次に7七香と成桂を取り、取った桂馬を3四に打つことができるので、これはわかりやすく先手良し。

7六桂図08
 しかし、6七とではなく、6八と(図)がある。今度は7九香はない。(同と、同金、6九金で先手悪い)
 図で9五角、7八成桂、同金、同と、3四桂の展開も先手勝てない。

 さあ、では、先手はどうやってこの図から「勝ち」に結び付けていくのか―――。


                          『終盤探検隊 part99』につづく
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終盤探検隊 part97 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2017年01月23日 | しょうぎ
≪6五歩図≫

 我々(終盤探検隊)が闘っている相手、≪亜空間の主(ぬし)≫は、≪亜空間≫と(我々が)名付けた特殊な空間に生きる姿の見えない存在である。
 どうも≪ぬし≫と我々人間とでは、“時間の意味”がまったく違うらしい。
 我々にとって、“時間”はたいへん重要なもので、それは生きる時間が有限だからだ。
 しかし、そこのところが≪ぬし≫は違うようなのだ。≪ぬし≫は無限に生きるのか、あるいは生きてさえいないのかもしれない。彼にとっては、“時間”は有って無きもののような、それほど重要でないものらしいのだ。
 そういうわけで、これから予定している、我々と≪ぬし≫との「一番勝負」、我々の持ち時間は“無制限”なのである。対する≪ぬし≫は、かならず一手5分以内に指す、そういうルールで合意している。(≪ぬし≫にとって5分と無制限とは等価なのだ)


 この苦行のような≪亜空間≫から生還するために、我々はこの「一番勝負」に、必ず勝たねばならない。


    [中性子星生物チーラからの返信]
「彼らは、インディアンの煙火の中性子星版を使って、信号をよこしたんだ!しかも、その原始的なパルスの一つ一つが4マイクロ秒で作られたとは――――たまげたもんだ! ということはこの生物は我々の100万倍ぐらいの速さで生きているにちがいない! そうとも知らずに、1秒で1回ほどの速さでパルスを送っていたとは。彼らにとっては、パルスの間隔が100万秒のように思えたことだろう」
 セイコは、すばやく彼に代って計算した。「つまりパルス間隔は、1週間ぐらいに思えたわけね」
 アブドゥールは、別の怖るべき疑惑に思い当った。「彼らが返事を始めたのは、どれくらい前だった?」
 セイコの手が鍵盤上を躍ると、最初の絵が、上隅に受信時刻を示しながら再び現れた。「最初の絵が到着したのは、1分近く前よ。比率が100万対1とすると、これは2年前ということになるわ」
                               (ロバート・L・フォワード著『竜の卵』より )



 中性子星<竜の卵>を探査した地球からの探査チームは、その星に住むチーラとの“交流”に成功する。
 ところが彼らの信号のパルス間隔の短さからわかったことは、彼らと自分たちとで、時間の流れが比率が100万対1であるということだった。

 彼ら<竜の卵>探査チームが観測準備を整え終えたのが、2050年6月19日8時。7メートルの球形の観測用宇宙船ドラゴン・スレイヤー号を接近させた。観測予定日数は8日間。
 探査チームが、<竜の卵>の地表の不自然な模様に気づいたのが、6月20日6時50分。知的生命がいるんじゃないかという意見も出た。しかし<竜の卵>の地表の重力670億G、表面温度は8200度。そんなところに生物がいるなんて考えられない。しかし彼らは<竜の卵>の地表に向けて、信号を送ってみた。
 <竜の卵>地表から返信が届いていると気づいたのが、6月20日7時58分。信号を送って1時間と10分が経過している。
 これが地球人と“彼ら”との、ファースト・コンタクトであった。(この段階では、“彼ら”の科学はまだ原始的なものであった)
 地球人にとっての1時間10分は、<竜の卵>生物チーラにとっておよそ130年であった。
 これでは普通の会話は不可能だ。 探査チームは6月20日8時42分、百科事典のメモリーを信号として、<竜の卵>の生物チーラに向けて送り続けることを始める。
 6月20日22時30分。地球人にとってはまだ一日が終わっていなかったが、チーラにとっては1600年が経過していた。その間にチーラは、空に浮かぶドラゴン・スレイヤー号から送られてくる知識から学び、それをさらに発展させて、とうとう「宇宙船」をつくり、“彼ら”は、ついにドラゴン・スレイヤー号へと会いに来たのであった。その「宇宙船」は、“彼ら”の生存に必要な「重力」をつくるために、なんと、「超ミニブラックホール」を持っているのであった。
 “彼ら”は、地球人の知識を基礎に飛躍し、地球人の知識を追い越したのである。

 一日後―――つまり“彼ら”にとっては数千年後になるが―――、超光速推進の宇宙船までも完成させ、宇宙の旅を果たしてきたのであった。
 地球の<竜の卵>探査チームの目的は、<竜の卵>をできるだけ詳しく観測することであったが、チーラが送ってくれた<竜の卵>に関する科学観測データによって、もうこれ以上の“観測”は必要がなくなり、こうして探査チームは調査を終了したのである。

 しかし、もしチーラが“極悪”だったら、どうなってしまうのか。気になるところではある。(つくり話だからまあいいか)


≪4一飛赤鬼図≫
 これが『赤鬼作戦』。 これで先手が勝てるかどうかが、前回と今回のレポートのテーマ。
 3三玉、3一飛成、4四玉、6五歩と進んで、次の≪6五歩図≫になる。

≪6五歩図≫
 ここでの「6五歩」が、先手期待の一手。
   〔芋〕7四歩 → 先手良し
   〔苺〕8四桂
   〔茶〕5九金
 これから、〔苺〕8四桂、および〔茶〕5九金の変化を調べていく。


≪苺8四桂図≫
 〔苺〕8四桂(図)には、8六玉が良いようだ。以下、7四歩、6四歩、5九金、8三竜、6四銀。
 そこで先手の手の選択が難しいが、3六銀(次の図)が良いのではないか。

8四桂図01
 この図の「激指」の評価値は[ +417 ]。 ここは先手良しかもしれない。しかしソフト「激指」は95%は正しいが、5%は間違うこともある、そういう印象である。結論はまだ早い。

 ここから、後手[1]7三金、[2]7五銀、[3]3三歩を見ていく。

8四桂図02
 まず[1]7三金。
 先手は8八角と打ち、6六歩、同角、5五銀引、7三竜、同銀、6五金、5三玉、8一角(次の図)

8四桂図03
 先手勝勢。



 [2]7五銀。 これには8五玉だが、次に7四玉とされては後手いけないので6二桂とする手が考えられるが、それには3四竜、同玉、2五角、4四玉、4五金、3三玉に、4四角(次の図)

8四桂図04
 後手玉“詰み”。

8四桂図05
 6二桂では、竜の横利きがあったので詰まされたということで、それならこの6三金打(図)ならどうかと、後手が手を代える。
 しかしこれにも、3四竜から寄せがある。3四竜、同玉に、今度は4五角と打ち、4四玉に、6三竜、同金、同角成(次の図)

8四桂図06 
 これも先手勝勢である。


8四桂図07
 [3]3三歩。 上の例をみてもわかる通り、3一竜の潜在的な力が強烈である。よって、その力を封じる3三歩はどうかという意味である。これが最も粘りのある手のようだ。
 先手は7四竜。そこで後手の8五歩がなかなかの手。以下、同玉(同竜は7六金、9五玉、7五金で形勢不明)、9四金、8六玉、8五歩、7七玉、6五桂、8八玉(次の図) 

8四桂図08
 ここで後手は6四竜以下の“詰めろ”を受けて、5五玉。
 そこで先手は2八角(次の図)

8四桂図09
 この2八角で、どうやら先手が良いようだ。
 ここで後手の有効手がない。6四銀を支える6三歩には、6七歩がある。(同となら4六角以下詰み)
 7六歩、7八歩、5六とには、5七歩、同と、5四金、同玉、4六角で先手勝勢である。

 図では、7三歩が最善手とみられるが、4六角、同玉、3七角、5六玉、6四竜と進む。
 そこで後手から6六角の攻めがあるが、8九玉、7七桂成に、7九銀と受ける(次の図)

8四桂図10
 ここで7六桂と先手玉に“詰めろ”をかけるのは、5四竜、6七玉、7八銀打、同成桂、同銀、5八玉、4八金、6八玉、6九歩、同金、同銀、同玉、7九金、5九玉、5七金(次の図)

8四桂図11
 4九玉に、6六金と角を取って、先手勝勢。

8四桂図12
 また前の図に戻って、6八と(図)。
 ここでは、5七歩がある。同玉なら、4八銀、5八玉、4七銀引、6九玉に、6六竜。
 よって5七歩に、後手6七玉とするが、それには5六銀、5七玉に、6八銀(次の図)

8四桂図13
 6八同玉は6六竜、5八玉も6六竜で、先手勝ち。
 6八同成桂には、5八歩(同成桂なら6七金で詰み)、同玉、6六竜で、やはり先手勝ち。

 これで、〔苺〕8四桂は、先手勝ちになった。


≪6五歩図≫
   〔芋〕7四歩 → 先手良し
   〔苺〕8四桂 → 先手良し
   〔茶〕5九金

 残るは〔茶〕5九金の調査である。これで“先手良し”となれば、『赤鬼作戦』は成功となる。

≪茶5九金図≫
 ここで先手は当然、6四歩と銀を取る。
 そこで、次の5つの後手候補手がある。
   (a)6四同銀
   (b)6六歩
   (c)8四桂
   (d)6二桂
   (e)3三歩
 (なお、7四歩は、すでに調べた〔芋〕7四歩の変化に合流するので除外)

 これらをすべて“撃破”したら、『赤鬼作戦』の作戦成功が証明できる。


5九金図01
 まず(a)6四同銀。
 これには、5四金がある。以下、同玉は3四竜で“詰み”。
 よって、5四金に、4五玉、6四金、8四桂、8五玉、5五銀、8九角、6七歩、5四銀、5六玉、6五金が予想される手順(次の図)

5九金図02
 先手勝勢。


5九金図03
(b)6六歩の場合。これには7二角と打つのが良い。
 以下、5四桂に、7三歩成(次の図)

5九金図04
 ここで後手6七歩成なら、8三角成として、上部を安全にして、“入玉”をねらう。この場合は先手の大駒が四枚ともに犠牲にする必要もなさそうなので、仮に“相入玉”でも先手が「勝ち」になるだろう。
 また6四銀は、5四角成~3四竜で、後手玉が寄っている。
 よって図では、後手は7五歩としてくるかもしれない。これには8六玉。(7五同玉には8四金がある)
 以下、6四銀、8三角成、8四歩、同馬、9四金、7四馬、8五歩(8四歩には9六銀で受かる)、9六玉、5三銀、9五銀(次の図)

5九金図05
 これも、先手勝勢。
 

5九金図06
 (c)8四桂には、7五玉が良い手になる(次の図)

5九金図07
 ここで後手6四銀、同玉、6三金打という手もあるが、以下、7五玉、7四金、8六玉、6六歩は、7九香(次に7四香で金を取るねらい)で、先手良し。
 しかしそれ以外となると、ここでは後手にあまり有効な手がない。先手の7三歩成が入ると後手まずいが、6二金は8三竜でやはり先手良し。
 だからここは6三桂(次の図)が後手の勝負手になるが…

5九金図08
 以下、6三同歩成、同金に、7七角(次の図)

5九金図09
 これを6六歩、同角、5五銀と受けるのは、先手に歩が入ったために、4五歩が生じて、後手玉が詰んでしまう。(4五同玉は3六銀以下)
 だからここで、<イ>5五銀と受ける手と、<ロ>6六歩、同角、5五金と受ける手の、二択。

 まず<イ>5五銀だが、これには8三竜(次の図)とする。

5九金図10
 このとき、先手に「一歩」が入ったので、先手4五歩から後手玉には“詰み”が生まれている。
 だから後手はここで何か勝負しなければいけない。7四金しかないだろう。
 以下、同竜、同歩、8四玉。
 そこで、8三歩、同玉に、8一飛(次の図)

5九金図11
 これには先手8二銀と受け、以下、9二金、7四玉、8二金に、5六桂(次の図)

5九金図12
 5六桂で、後手玉が見事に詰んでいた。この場合先手の「7四玉」が詰みにうまく働いているのであった。
 5六同となら、4五歩、同玉、3六金から詰んでいる。
 また5六桂に4五玉は、3四竜、同玉、4六桂以下である。

5九金図13
 戻って、先手7七角に、<ロ>6六歩、同角、5五金(図)と後手が受けた場合。
 これには7七角と引き、後手に手を渡す。以下、7四金、8六玉、6四銀と迫ってくるが、9六歩がある。さらに7五銀、9七玉、8五金と駒を前進させてくるが…

5九金図14
 7二角(図)が決め手で、先手の勝ち。


5九金図15
 (d)6二桂。 この桂打ちはすぐには意味が分かりづらいかもしれない。これはつまり、7三歩成なら、6四銀と出ようという意味で、その時に先手からの5四金、同玉、3四竜という、後手にとってきびしい攻め筋を6二桂が消しているのである。
 さあ、ここで先手の手番だが、何を指すのが良いだろうか。
 終盤探検隊が選んだ手は、3六金である(次の図) 

5九金図16
 後手6四銀なら、4六金で先手良し。
 ここでは、<1>8四桂と、<2>5六とが後手の有力手になる。

 しかし<1>8四桂は、8五玉、9四金、7五玉、7四歩、6六玉、6五歩、7七玉と進み、先手優勢である。以下4六金と先手に銀を無条件で渡してはいけないので、後手は銀にひもをつけて5四桂と跳ねるが―――

5九金図17
 2六角(図)が決め手になる。3五歩は1一角で合駒がないので後手負け。だからここは5五玉しかないが、以下、3四竜、4四歩に、3五銀と打って、先手勝ちとなる。

5九金図18
 3六金に、<2>5六と(図)の場合。
 これには8三竜として、6四銀に、7三歩成、7五金、7七玉と進む(次の図)

5九金図19
 ここで6六歩は、6二と、6七歩成、8八玉、7六桂、9八玉、7七とに、3四竜(取ると詰み。8三の竜が横に利いている)、5五玉、4五金以下、先手優勢。
 そこで後手は、7六歩、8八玉に、4五銀と勝負する。これを同金は、先手苦戦に陥る。
 4五銀には、6二と(次の図)が良い。

5九金図20
 6二同金には、3五銀、5五玉、4五金(これを同玉のとき4三竜があるのが6二との意味)、6六玉、6八銀で、先手勝勢。
 図以下、3六銀には、5二と、7七歩成、同玉、6六と、7八玉、7七歩、8九玉、7六桂、5三角(次の図)が予想される。

5九金図21
 5三角(図)で、後手玉は“詰み”。 先手が勝った。


 さあ、あとは5番目の候補手(e)3三歩だけだ。

5九金図22
 (e)3三歩。
 以上に見てきた通り、あの“赤鬼”(=3一の竜)に暴れられる筋があっては、後手は勝てそうにない。そこで3三歩として、その“赤鬼”を封じ込めようというのである。
 先手は7三歩成とする。以下、6四銀に、7四金、5五銀引、3六銀(次の図)

5九金図23
 3六銀に代えて8三竜も有力だが、7五歩、8六玉、8四歩、同竜、9四金の展開がちょっと嫌なので、3六銀(図)を選んだ。
 これには後手3五銀が最善手と思われる。これを同銀、同玉となると後手良し。
 なので3五銀には、先手4五歩。以下、5四玉、7二角、6三歩、同と(この手で3五銀は6五銀で先手負け)、6五銀、8六玉と進み、そこで後手に9五金(次の図)の勝負手がある。
 
5九金図24
 これがあるので、後手も簡単には土俵を割らない。(この手の意味は先手玉を9五に行かせて、後手玉の入玉路を広くした意味)
 9五同玉、7四銀、7六角、6五桂、7三と(次の図)

5九金図25
 ここで後手6三銀には、6一竜が好手で、これで先手勝ちになる。
 よって後手は6三歩と受けるが、以下、7四と、3六銀、9一竜、4五玉、9三竜、7七桂成、9四角(次の図)

5九金図26
 どうやら“相入玉”将棋になる。それなら、先手は点数勝ちのためにできるだけ大駒を渡したくない。引き分けではなく、「勝ち」をつかみ取りたい。
 逆に後手は大駒を取りたい。
 7一歩、8一角成、7二銀、7一馬、8一桂、9二竜、9三歩、7二竜、9四歩、同玉、3八角、8三と(次の図)
 
5九金図27
 ついに角を一枚、後手に取られてしまった。
 しかし、まだ大駒は三枚あり、これは先手“入玉点数勝ち”できるだろう。
 つまり、(e)3三歩も、先手勝ちになるとわかった。


 よって、〔茶〕5九金も、先手勝ち。


≪6五歩図≫
   〔芋〕7四歩 → 先手良し
   〔苺〕8四桂 → 先手良し
   〔茶〕5九金 → 先手良し

 これで、この図での後手の有望手をすべて征服したように思う。


≪4一飛赤鬼図≫
 すなわち、『赤鬼作戦』は成功。これが終盤探検隊の発見した3つめの「先手勝ち筋」となった。


                          『終盤探検隊 part98』につづく
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終盤探検隊 part96 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2017年01月19日 | しょうぎ
≪4一飛赤鬼図≫

 我々はついに「先手の勝ち筋」を発見し、しかもその“2つめ”も見つけた。
 第1は『黒雲(くろくも)』、第2は『香車ロケット2号』である。
 さて、4一飛と打ったこの図は『黒雲』に似ているが、それとは違う、もっと早いタイミングでの“4一飛”である。これを『赤鬼(あかおに)』と呼ぶことにする。終盤探検隊は、この図でも「先手勝ち」の可能性があるのではないかと、再考察して気づいたのだった。
 さて、この『赤鬼作戦』は、第3の「勝ち筋」になるのか―――。


    [宇宙船セント・ジョージ号]
 人間たちを<竜の卵>へ運んだ宇宙船は、磁気単極を触媒とする原始的な核融合ロケットだった。基本的な構造は、長さ500メートル、直径20メートルの円筒で、外側に液体デューテリウム燃料の大きな球形タンクがついていた。質量比は約10だった。セント・ジョージ号は0、035Gで加速し、転回点では光速度の0、035倍の速度に達した。中性子星までの総飛行時間は1、94年だった。
                              (ロバート・L・フォワード著『竜の卵』より )


 この小説は1980年に発表された。作者のロバート・フォワード(1932‐2002)は、本業は物理学者で、アメリカ人。
 2020年に、太陽系に近いところに「中性子星」が発見され、それに<竜の卵>と名前が付けられた。その星が地球から見ると、竜座(北斗七星の隣にある)のしっぽの部分にあたる方向にあったからだ。
 そして2050年に人類はこの星を“探査”する。(地球を出発したのはその2年前)
 するとなんと、中性子星<竜の卵>には生物が住んでいたのである! しかも知的生物が!
 という話。

 「中性子星」というのは、ブラックホールになり損ねた星とでも紹介するのがイメージとしてはわかりやすいだろう。質量が圧縮されたような星で、だから重力が強力だ。人間がその星に降りたつなど不可能だろう。再び飛び立つことはできなくなるし、その前に、何も作業ができない。
 この星の直径は20キロにすぎないが、地表の重力場は670億Gである。
 そういう星に、厚さ0、5ミリ、直径5ミリの一円玉のような、12個の目を持ったチーラという生物を描いて、人間との一瞬の交流を描いた物語である。

 このときに人間が観測隊を<竜の卵>まで送った宇宙船セント・ジョージ号が、「核融合ロケットエンジン」を搭載しており、また「磁気単極(モノポール)」(現実にはまだ発見・発明されていない)を使うというのも興味深い。
 SFに出てくる宇宙船はよくこの「核融合エンジン」が使われているが、核融合エネルギーははいまだ現実社会では実用化できていない。1919年にイギリスのラザフォードの実験室で「核融合反応」が確認されたことが発表され、現在までずっと先進国(日本も含む)が研究開発を重ねているにもかかわらず。
 なお、デューテリウムとは、重水素のことで、「液体デューテリウム燃料」というのが、この核融合エンジンの燃料である。


≪亜空間の入口図≫
 終盤探検隊と≪亜空間の主(ぬし)≫は、≪最終一番勝負≫で決着をつけることで合意している。
 その≪最終戦争≫は、この図から始まる。

 今、我々はその≪戦争≫に向けての準備研究をしているところである。

 我々はずっとこの闘いに苦戦を余儀なくされてきたが、やっと「先手の勝ち筋」を発見することに成功した。しかも2つも!

≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   → 調査中 2つの「先手勝ち筋」を発見   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 後手良し

 上の図(亜空間の入り口図)から、先後互いに最善手と思われる指し手をつないで16手進むと、この≪夏への扉図≫に至る。

 ここで【い】3三歩を選び、以下、同銀、3四歩、同銀、と進んで次の図。

≪3四同銀図≫
 ここでは「9一竜」を選ぶ。以下、5九金、6六角、5五銀引、9三角成、9四歩(次の図)

≪9四歩図≫
 ここで、3三歩、3一歩に、4一飛と打っていくのが、『黒雲(くろくも)作戦』で、これが第1に発見した「先手の勝ち筋」。

≪黒雲の図≫
 これが『黒雲作戦』。

 また、≪9四歩図≫から、3三歩、3一歩を決めて、9六歩と指し、後手はそこで8四金とするが、以下、8六歩、5六と、3九香とする―――

≪3九香ロケット2号図≫
 これが、『香車ロケット2号作戦』である。
 この図については、調査十分とは言い切れないが、我々は「先手良し」と結論を出したのであった。これが第2の「先手の勝ち筋」。


〈赤鬼作戦〉

 今回の調査研究対象は『赤鬼(あかおに)作戦』である。

≪3四同銀図≫
 この図は、≪夏への扉図≫から4手進んだところ。(3三歩、同銀、3四歩、同銀)

 ここで3三歩とするのが、今回の新作戦。
 これを同桂や同玉では、先手が優勢になるので、後手は3一歩と受けて、次の図となる。

≪3一歩図≫
 ここで「4一飛」と打つのが、今回の『赤鬼作戦』なのだが、その前に―――

変化4一角図1
 ここで「4一角」(図)はあるのだろうか。
 結論は、「ここでの4一角には4二金で後手良し」である。

 4一角、4二金、5一竜、4一金、同竜、6七角、8六玉、3三玉、1一角、2二桂(次の図)

変化4一角図2
 これで後手が良い。次に5九金で金が入るので、先手玉が受けきれない。
 6六金としても、5九金、6七金、同と、3一竜、4四玉、2二角成、3三歩で、先手負け。

≪4一飛赤鬼図≫
 では「4一飛」でどうか―――というわけでこの図である。
 ここでの4一飛は、我々は前から研究していたが、ちょっと攻めきれないということで、これも“後手良し”と結論していた。(ここには発表していない)
 ところが、改めて調査をやりなおしてみると、新たな有力手が見つかって、おおいに期待のもてる局面だと、評価が変わってきた。
 ここでの「4一飛」を、『赤鬼作戦』と名付けて、再調査することに決めた。“赤鬼”の如く力強く暴れてもらおうという意味を籠めて。

 この「4一飛」は3一飛成、同玉、3二金の“詰めろ”である。
 そして、『黒雲作戦』のときの4一飛と違って、早いタイミングの4一飛なので、ここではまだ後手が5九の金を入手していない。持駒は「桂桂歩三」である。なので、後手の受けが難しい。
 考えられる手は、(1)4二銀、(2)3二桂、(3)3三玉、くらいである。

 まず一番簡単な、(2)3二桂から片づけておこう。

≪3二桂図≫
 この(2)3二桂(図)は、後手苦し紛れの一手に見えるが、しかし同歩成では、同玉で、これははっきり後手優勢になる。
 しかし、“次の一手”がわかっていれば、簡単に先手の勝ちになる。
 “次の一手”とは、1一角である。1一角、同玉、3二歩成、同歩、3一金(次の図)

変化3二桂図
 わずか5手で、先手必勝の局面になった。この局面」、後手にまだ金が入手できていないので、角を渡しても先手がまだ詰まないので、こういう攻めが利くのである。

≪4二銀図≫
 次は(1)4二銀。 この4二銀(図)が一番普通の対応に思える。
 ソフト「激指」は、この局面を[ +80 互角 ]と評価しているが、どうだろうか。
 ここも、先手の“次の一手”が重要である。

変化4二銀図01   
 “6一角”が最善手。これで明解に先手が勝ちになる。
 後手は5九金と金を取るか、3三玉くらいしかない。
 5九金は、5二角成で後手は“受けなし”になり、以下、8四桂、7七玉、6五桂、7八玉(次の図)

変化4二銀図02
 うっかり8八玉と逃げると、7六桂で“トン死”するが、7八玉(図)で大丈夫。
 先手勝ち。

変化4二銀図03
 3三玉。これは先手の攻めのねらい、5二角成、同歩、4二飛成を受けつつ、玉の脱出を計る手。
 これには、5二角成、同歩で金を手に入れてから、1一角と打つ。対して2二桂合は同角成、同玉、4二飛成で意味がないので、後手は2四玉しかない。
 そこで2六金としばる。以下、2五銀に、3七桂(次の図)

変化4二銀図04
 3七桂(図)がぴったりの手で、後手玉は必至になった。
 この変化でも、後手がまだ金を入手できていないので、先手は後手に角を渡してもよいという条件が生きて、このような明解な寄せが生じたのである。

 そういうわけで、(1)4二銀も、(2)3二桂もないので、後手は(3)3三玉しかない。

≪3三玉図≫
 「4一飛(赤鬼作戦)」に対して、(3)3三玉(図)としたところ。
 最初の調査時は、この後を調べて先手の勝ち筋が見つからないとして、あきらめたのだったが…。
 ここで1一角と打ち、2二桂、3一飛成、4四玉、2二角成、3三歩となると、これはどうも先手が勝てない。盤上の三枚の大駒を効率よく使えないからである。
 そこでここは単に3一飛成とする。
 対して後手3二歩だと1一角、2四玉、3六歩で、先手勝ち。
 よって、3一飛成には、4四玉と進む。

 そのときに我々終盤探検隊が調べたのは、(凹)3六金と打つ手であった。まずその手を簡単に紹介する。この手はかなり有力で、たとえば、後手5九金なら、6六角(次の図)で先手が勝てる。

変化3六金図1
 以下、5五桂(5五金は同角以下後手玉詰み)に、4六金。これで後手玉に“詰めろ”がかかっている。
 そこで後手6五金、8五玉、3三桂が粘り強い指し方だが、5七角、6七桂成に、先手の次の手“7六銀”(次の図)が好手である。

変化3六金図2
 “相中段玉戦”を制して、これは先手優勢になっているようだ。
 7六同金は、同玉、5七成桂に、4五歩、同銀、3五金打から、後手玉詰み。
 図で5七成桂は、6五銀で、やはり先手が勝てる将棋だ。

変化3六金図3
 ところが、(凹)3六金には、8四桂と打つ手があって、これが強敵なのだ。8四桂に、8五玉でこの図となる。
 なぜこの「8四桂、8五玉」が後手にとって有利にはたらくかといえば、先手の玉を8五に移動させることで後手玉の詰み筋を逃れているからなのである。それにこの「8五玉」の状態は、後手に金か、角一枚を渡せばそれだけで詰まされてしまう形になっている。
 そして、ここで4五銀という手がまたまた後手の好手で、これでどうやら先手に勝ちがないということで、前回の調査時は、それ以降の調査を中止したのである。
 しかし今回、この後をさらに再調査すれば、まだ“勝負はこれから”であった。(勝負はあきらめたほうが負け、というのはこういうところを言うのだろう)
 図以下、4五銀、8三竜、5九金、8四玉と進む(次の図)

変化3六金図4
 この図の、「激指」の評価は、[ -537 後手有利 ]と出ていた。この評価値をみて、前回我々は「ああ、これは先手は“入玉”できないのだ」と思ってしまってあきらめたのだが、落ち着いてよく調べてみると、どうやら“入玉”は可能である。
 9二金は、同竜、同香、8三玉だ。(激指評価は先手有利になる)
 7一桂は、8二角、8三桂、9一角成で、竜を犠牲にして“入玉”できる。(激指評価は互角)

 ここでは後手3三歩以下の展開を紹介しておく。この3三歩は、次に3六銀と金を取るという意味。
 3三歩、8一竜(4六金同銀と金銀交換をすると入玉が一手遅れ難しくなる)、9二金、7七角、5四玉、9二竜、同香、8一角、6三歩、9二角成、3六銀、9三玉(次の図)

変化3六金図5
 なんとか“入玉”できた。形勢評価のために、もう少し続けてみる。
 7九飛、8六角、7五金、8二玉、8六金、同歩、4七角(次の図) 

変化3六金図6
 これは“入玉”に成功した先手の負けはほぼなくなった。
 といっても、“勝ち”を得るのも難しく、これは“持将棋引き分け”が濃厚である。
 (凹)3六金以降の変化は、そういう結果になった。

 悪くない結果だが、すでに2つの「勝ち筋」を発見している我々終盤探検隊としては、引き分けでは意味がない。同じ“入玉”でも、“勝てる入玉”でないと。

 実は、今回この報告を書いたのは、(凹)3六金に代わる次の有力手を紹介したいからなのだ。

≪6五歩図≫
 後手4四玉に、(凸)6五歩(図)がその手である。これはまだ我々も未調査だったが、「ためしに…」と知らべてみると、やがて、相当に優れた手だとわかったのだ。
 この≪6五歩図≫が、「先手の勝ち」につながっているかどうか、それがこれからの調査テーマとなる。
 さて、手番の後手はここで何を指すか。有力手は3つ。
   〔芋〕7四歩
   〔苺〕8四桂
   〔茶〕5九金
 なお、5五銀上は、5八金、同と、7三歩成で、はっきり先手良し。 また、7五銀、同玉、6三桂という手もあるが、これも先手良し。
 ほかに、6五同銀、同玉、6四歩、7六玉、5九金も、7三歩成で、先手良し。


≪7四歩図≫
 〔芋〕7四歩の図。以下、6四歩、5九金に、6六角(次の図)

7四歩図01
 6六角と打ったところ。対する後手の対応は、5五桂か、5五金の2択。(5五銀は同角以下詰み)

 まず5五桂の場合だが、これには8三竜とし、以下、5六とに、8四角(次の図)

7四歩図02
 次に先手には6三歩成の楽しみがある。
 ここで後手7一桂なら、7四竜、8三金に、3六銀で、先手勝ち。
 後手7五金ならどうか。 以下、同角、同歩、8五玉(次の図)

7四歩図03
 さあ、後手は、先手玉の“入玉”を止められるかどうか。
 9四角が見えるが、これは7四玉で先手良しになる。
 6二銀には、7二角で、先手が勝てる。
 図から後手が、8二歩、同竜、6四銀としてきた場合は、5四金がある(次の図)

7四歩図04
 後手の6四銀にはいつもこの5四金があるのが、後手にとってつらいところ。
 5四同玉、3四竜、4四桂、7四銀(次の図)

7四歩図05
 7四銀がぴったりの手になった。先手勝ち。6七角には、9六玉と逃げておけば問題ない。
 この変化(後手5五桂)は先手良しとわかった。

7四歩図06
 先手6六角に、後手5五桂に代えて、5五金としたところ。
 これには先手は落ち着いて8八角と角を引いておく。後手が金を使ったので、8五玉からの“入玉”がやりやすくなったので、今度はそれを楽しみにする。
 以下、予想手順は、6六歩、8三竜、6四銀、8五玉(次の図)

7四歩図07
 7一桂、7二竜、6三金、7一竜、8三歩、9一竜、7三金(次の図)

7四歩図08
 玉が安全になれば、大駒四枚を有している先手の勝利が確定する。
 7一角(王手)、4五玉、9三角成、7五銀、9四玉、8四銀、5一竜右(次の図)

7四歩図09
 先手優勢がはっきりしてきた。
 もう少し続けてみる。6七歩成、8二銀、9三銀、同玉、6四金、9二玉(次の図)

7四歩図10
 勝ち切るまではまだ慎重を要すが、先手優勢は間違いない。(ただし、相入玉で持将棋引き分けの可能性もある)

〔芋〕7四歩以下は、先手良しが確定した。


≪6五歩図≫
   〔芋〕7四歩 → 先手良し
   〔苺〕8四桂
   〔茶〕5九金

 続きは次回に。
 残す〔苺〕8四桂、および〔茶〕5九金も、「先手良し」になり、すなわち、『赤鬼作戦』は、第3の「先手勝ち筋」になることを、予告しておく。



                       『終盤探検隊 part97』につづく
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終盤探検隊 part95 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2017年01月15日 | しょうぎ
≪8八金図≫  ~香車ロケット2号作戦~ 後手「7六と」の変化

 終盤探検隊は、来るべき≪亜空間最終一番勝負≫に備え、研究準備をしているところ。
 『香車ロケット2号作戦』は、はたして「先手勝ち」につながる作戦なのか?


    [世代宇宙船バンガード号]
――<船>、その歴史、その機械と設備、<船>を建造し、初めて動かした人々、それらの人々の<地球>における歴史――地球とは信じられないほどのものだった。その奇妙な場所では、人々は内がわではなく外がわに住んでいる住んでいるというのだ。
 ヒョウは、なぜかれらが落ちてしまわないのだろうと、ふしぎに思った。

 忘れ去られてしまったほどの昔、ジョーダン財団にやとわれた機械設計技術者たちは、その<旅>が、予定されていた六十年という長さを超えることがあっても、損耗してしまわないような――損耗しようがないような<船>を設計することを求められた。そしてかれらは、求められて以上のことを求められた。主推進エンジンと補助機械を設計するときには、<船>の中で人々が生活していけるようにするため、ほとんどを自動的に動くようにし、(以下略) 
 
 こういった仕事(アクション)においては、摩擦はその意味を失い、摩耗と腐食は姿を消した。そのため、反乱がおこって現場技術員がすべて殺されたあとも、<船>はまだ光をともし、空気は新鮮で温度を保ち、エンジンはいつでも動くように待機しながら、宇宙を突進していたのである。
                             (ロバート・A・ハインライン著『宇宙の孤児』より )


 このハインライン著『宇宙の孤児』の初出は1941年で、ハイラインの小説デビュー3年目、34歳である。 
 現実世界は、まだ日米開戦前の時期で(日米開戦は1941年12月)、まだ「核分裂」のことは物理学者しか知らず、エンリコ・フェルミが中心となって世界初の原子炉シカゴパイル1号(CP-1)の設計・実験の段階であった。

 この小説に出てくる<宇宙船バンガード号>(バンガードは先鋒、前衛の意味)は、「恒星間世代宇宙船」である。どういうことかというと、遠い星(恒星)をめざして、宇宙船の中で生活し、出発した時の乗組員は老いて死んでしまっても、その宇宙船の中で生まれ育った二世代目、三世代目の子供たちが、目的の恒星にたどり着くようにという計画で設計された巨大な<宇宙船>なのである。
 超空間ジャンプ(ワープ航法)などが発明されない世界でどうしても外宇宙へ行きたいなら、現実的にはこういう発想になるだろう。
 おそらく、その全体は円筒形を基本としていて、回転の遠心力によって「重力」をつくり、円筒の外壁の“内側”に人々は住み、そこには「農場」もある。それほどの巨大な“円筒”である。
 推進力ははっきりとは記されていないが、<転換炉>によって、「質量」をすべてエネルギーに変えることができるようだ。
 <宇宙船バンガード号>が地球を出発したのは、どうやら22世紀のことらしい。この巨大宇宙船は宇宙空間において、60年をかけて、ジョーダン財団によって建造された。
 目的地は、「プロキシマ・ケンタウリ」で、これはわれわれの「太陽系」から最も近い距離にある恒星で、その距離は4.25光年。「プロキシマ・ケンタウリ」にある惑星に住めそうだと確信があって、飛び立ったのであろうか。
 ところが、計画通りにいかず、途中、宇宙船内で激しい“内乱”が起き、科学者や技術者など重要人物はほとんど死んでしまう。“中の人”はほとんど科学素人ばかりになり、やがて「科学」は宗教のようなものになっていった。「科学者」という職についた男が、物理学の入門書を解説し、ニュートンは愛を説いたのだ、などと言い出す始末である。
 時が過ぎ、次世代、三世代目になると、もう“中の人々”は、地球を知らず、それどころか自分の住んでいる世界が<宇宙船>であることも知らず、宇宙(星空)を見たこともない人間ばかりになって―――
 それでも<世代宇宙船バンガード号>は「ケンタウリ」をめざして進んでいく。
 という設定の物語。

 面白いことに、現実の2016年8月、恒星「プロキシマ・ケンタウリ」を公転する、“地球に似ている(かもしれない)惑星”が見つかったと、ヨーロッパ南天天文台によって発表されている。 この惑星は、「プロキシマ・ケンタウリ惑星b」と呼ばれる。
 「ケンタウリ座」はどうやら“二重星”であるとわかってきたのが17世紀。これは望遠鏡の発展による。それは「アルファ・ケンタウリ」と呼ばれることになった。
 この「アルファ・ケンタウリ」の近くに、もう一つ恒星が発見された。1915年のことで、発見者はイギリス人ロバート・イネス。(その星は少し温度が低い恒星なのでアルファより暗く、そのために発見が遅れた)
 ということで、この「プロキシマ・ケンタウリ」も加えて、“三重星”であるとみられている。(“みられている”としたのは、異論もあったからだが、今ではほぼ確定的らしい)
 “二重星”の「アルファ・ケンタウリ」から、ずっと離れたところ――太陽と冥王星の距離のおよそ400倍――に、「プロキシマ・ケンタウリ」があって、これが“二重星”の周囲を50万年以上の時をかけてゆっくりとまわっている。そういう状況から、現在では(あと数十万年の間ずっと)、「アルファ・ケンタウリ」(二重星)よりも、「プロキシマ・ケンタウリ」のほうが、地球に近い。よって、地球に最も近い距離にある太陽以外の恒星は、「プロキシマ・ケンタウリ」のほうであり、それを公転する惑星が最近発見されたというこということなのであった。
 つまり「プロキシマ・ケンタウリb」は、“最も地球に近い惑星太陽系外の惑星”なのである。
 念を押しておくが、こっちは現実の話で、小説の話ではない。そして、「ケンタウリ」は、南半球の星座で、日本では見ることができない。

 小説のほう――『宇宙の孤児』の<バンガード号>は、ついに目的地「ケンタウリの惑星」に到着し、“彼ら”はそこに降り立つのであった。


≪7六と図≫
 『香車ロケット2号作戦』の3九香に対し、6六と、9七玉、7六と(図)と進んだところ。
 前回の報告では、「7七と」を探査し、“先手勝ち”の結論を得た。この結論には我々は自信を持っている。
 しかし正直なところ、これから報告する「7六と」以下の展開については、変化が多く、“結論に自信あり”というところまでは、調べきれていない。変化が多いのである。
 だがそれでも、「結論」までは出したいと思う。

 「7六と」に、9八角、8七桂成、同角、同と、同玉、7五桂、9七玉、7八角、8八金と進む(次の図)

≪8八金図≫
 ここまではこれがお互いに最善の応酬と思われ、変化の余地がないところ。
 ここでしかし、後手に選択肢がある。次の2つである。
  5六角成
  6七角成
 (4五角成は、6五歩、同銀、5七桂があって後手悪い)

 この2つの手の後の展開を、探査していく。 


≪5六角成図≫
 5六角成(図)。 我々の考えでは、ここでの最善手は5七歩(次の図)である。
 (7六桂も有力だが、6五銀とされると、その後の先手のよい指し方がわからず、形勢不明)

≪5七歩図≫
 この「5七歩」には、[鷲]4五馬と、[鷹]6七馬とがある。

≪鷲の図≫
 [鷲]4五馬。
 ここで先手は2六桂。それには“3三玉”がおそらく最善と思われるが、まず「3五銀」(次の図)とした場合について、触れておこう。

鷲図01
 3五銀、同香、同馬、4一銀、4二金、5一竜、3三玉、3九飛(次の図)

鷲図02
 先手良し。 (以下、4四玉に、5二銀成、同金、同竜とする)

鷲図03
 2六桂に、“3三玉”(図)としたところ。
 対する先手の次の手が悩ましい。(選択肢が広い。しかしすぐに良くなる手もない)
 我々の選択肢した手は、“8二馬”(次の図)である。

鷲図04
 以下4四玉に、7三歩成とする。
 7六歩、7八歩、6六歩、3七桂、4六馬、3四桂、6七歩成、4五銀(次の図)

鷲図05
 4五同馬、同桂、同玉、7二馬(5四桂なら8三と)、4六玉、3七飛(次の図)

鷲図06
 次に3五角の一手詰。4四銀引で後手はそれを防ぐが、先手は3六馬、5五玉、4七飛と後手玉を追う。
 以下、5四桂と抵抗するも、3七角、6六玉、5九角、5五銀左、4五馬、6五銀、4八角(次の図)

鷲図07
 4八角は、次に5六歩、5七銀、同角、同と、7七金打以下の“詰めろ”。 先手勝ちとなった。
 この変化は、先手の馬が7二馬から使えたのが勝因となった。

鷲図04(再掲)
 先手の“8二馬”まで戻って、ここで7四歩(先手7三歩成を指させない)と手を代えてみる。 
 以下3四桂、4四玉に、4六歩(次の図)

鷲図08
 ここで“4六歩”と打つ。
 さて、後手はこれを、銀で取るか、馬で取るか。

 まず4六同銀には、先手5六銀がある。以下、馬を逃げても勝ち目がないので、後手は5七銀成とし、4五銀、同玉で、“入玉”をねらう。
 先手は3七角(次の図)

鷲図09
 5六玉、5九角、4八銀、6四馬、同銀、2六飛(次の図)

鷲図10
 図以下は、4六角、6一竜、6三歩、6六金、4七玉、4六飛、5八玉、4八角となって、先手勝ち。

鷲図11
 今度は“4六歩”を、同馬(図)の場合。
 これには、4二桂成という手がある。同銀なら3四飛、4五玉、5四銀で後手玉詰み。 なので4二同金と取って、3四飛、4五玉、7二馬、5四桂、3一飛成(次の図)となる。

鷲図12
 このような、後手玉が“入玉”を計ってきたときに、5七に打った歩が、たいへん有効になっているのがわかるだろう。
 さて、この図、後手玉に3四竜までの一手詰がかかっているが、受けが難しい。3三歩は、3四銀、4四玉、4五歩、同馬、同銀、同玉、4二竜で寄ってしまう。3六歩もあるが、3四銀、4四玉、4五歩、3五玉、4三銀成から攻めが続く。
 だから後手はここで、“5六銀”と、非常手段で勝負に出る。
 以下の想定手順は、5一竜左、5七銀成、3七銀(次の図)

鷲図13
 以下2四馬なら、3六竜、5五玉、4二竜で、5六馬には、4二竜左、同銀、3六銀、5五玉、3五竜で、先手勝ち。

 [鷲]4五馬は、先手良しとなった。

≪鷹の図≫
 「5七歩」に、[鷹]6七馬(図)の場合。
 ここは2六桂と打つ。後手は3三玉。
 そこで先手は選択肢が広いところだが、3四香と決めて、4四玉に、7三歩成としてみる(次の図)

鷹図01
 これには同銀が本筋だが、取らずに7六歩と攻めるとどうなるだろうか。

鷹図02
 そこで先手6八歩がある。同馬なら、4八飛で、王手馬取りだ。だからこれは取れない。
 後手は6六馬。
 以下、3七桂、5四銀、7一馬、6二歩、7八歩、(次の図)

鷹図03
 ここで7三銀と手を戻すことになる。 以下、7二馬、6四銀引と進む(6四銀上は4五銀、同銀、同馬、5三玉、5四銀、4二玉、2二飛で後手負けになる。6四銀引なら6六の馬筋が2二まで通って受かる)
 さらに、8五歩、同金、9四竜と先手は攻め、8四金、同竜、同歩、4六飛(次の図)

鷹図04
 先手勝勢。

鷹図05
 よって、7三歩成は、同銀(図)と取る。
 そこで先手は、6一竜とし、後手の応手を見る。
 6二歩には7二竜で銀取りの先手になる、6二銀右は8二馬があって後手損。
 だから、6二銀左引。6筋の歩は攻めに使いたい。
 そこで先手は、6八歩(次の図)

鷹図06
 ここは後手が悩むところで、ここで<p>6六馬と、<q>5八馬とが有力と見て、その2つを調査することにする。
 (他に、<r>7六馬は7七銀で<p>6六馬と同じになる。<s>5七馬は7六歩が打ててで先手良しとみる)

 <p>6六馬には、7七銀と打ち、6五馬に、7六歩。
 そこで後手が何を指すかだが、4五玉(入玉ねらい)が最善と思われるところだが、それには1五飛(次の図)という好手がある。

鷹図07
 この1五飛がなければ、先手は大変だったかもしれない。
 この将棋、先手は8四馬や5二竜という大駒を切る手をどこでどの順で出すかがポイントとなる。
 この1五飛に、4六玉なら、8四馬、同銀、4八金とする(次の図) 

鷹図08
 これでだいたい後手玉は捕まったようにみえる。とはいっても、先手は持駒なし。まだわからない。次に5二竜と金を取るつもり。
 ここで後手はどうするか。3五角くらいしかないようだ。(4七馬には5二竜、同歩、3七金打)
 3五角には、先手は7五歩。 これには7六歩があるが、同銀、同馬、5二竜、同歩、3七桂(次の図)

鷹図09
 以下、6六銀に、4五金、3六玉、3五金、2七玉、2九歩で、先手勝ち。

鷹図10
 1五飛に、5四玉(図)の場合。
 8四馬、同歩、4五金、6四玉、7五歩、2八角、6七桂、7六歩、同銀、同馬、5五金、5三玉、7七銀(次の図)

鷹図11
 以下、7七同馬、同金、1九角成、7四歩、6四銀、3五角、4四銀、同角、同歩、5四銀のような展開が予想されるが、後手玉を下段に落とし、先手勝勢である。

鷹図12
 6八歩に、<q>5八馬とした場合。この手はちょっとぼんやりした手だが、とりあえず先手の7六歩を打たせない意味がある。
 ここで先手7四歩がよい。同銀と同金があるが――
 同銀なら、8二馬、6四歩、5六銀(次の図)

鷹図13
 先手良し。(7四歩に6四銀上も同じように8二馬で先手が好調)  

鷹図14
 7四同金には、3七桂(図)と桂馬を使う。
 ここで3六馬には、3三香成という好手がある。(同桂なら3四飛の王手馬取りがある)
 よってこの図では5三玉くらいだが、以下、8三馬、8七歩、6五銀、6四金、8九金、6八馬、7三馬(次の図)

鷹図15
 7三同銀に、5四銀打(これを同金は、同銀、同玉、4五金、5三玉、5四飛以下詰み)、4二玉、2二飛、3二角、同香成、同歩、3四桂、3三玉、5二竜となって、先手勝ち。

 どうやら8八金に、4五角成は、先手勝てそうだ


≪6七角成図≫
 8八金に、6七角成とするとどうなるだろうか。実はこれが強敵。
 先手は2六桂と打ち、3三玉に、<1>6八歩(次の図)

≪虎の図≫
 ここで後手が何を選ぶか。 6八同馬は、3四香、4四玉に、4八飛があって後手まずい。
 次の3つの手が有力と見る。
  [虎]5六馬、[豹]6六馬、[猿]5七馬

 [豹]6六馬は、3六飛と打つ手がぴったりで先手が良くなる。
 [猿]5七馬は、3四香、4四玉、7三歩成、同銀、7六歩で、これも先手が良さそう。

 [虎]5六馬が最有力(次の図)。

≪虎の図≫
 以下、3四香、4四玉、7三歩成、同銀、7六歩(次の図)と進むと次の図。

虎図01
 6七歩、6一竜、6二銀左、3七桂(次の図)

虎の図 6七歩の変化
 3七桂(図)が好手になる。以下、6八歩成、7五歩、7六歩に、5三歩(次の図)

虎図02
 5三同金は7四歩があるので、5三同玉。
 そこで4五銀。6五馬に、7二飛と打ち、6四馬に、5四桂がきびしい。
 これを後手は同馬と取るしかなく、同銀、同玉、8四馬、同歩、7三飛成(次の図) 

虎図03
 7三同銀は6五角以下詰み。先手勝ちになった。

 ここまでは先手順調だったが―――

虎図04
 戻って7三歩成に、素直に同銀がまずかったのではと、後手が反省し、やり直す。
 7三歩成に、7六歩(図)。
 ここで8三ととしたいのだが、それは8七歩で先手悪い。
 だから<E>3七桂とするが、7七歩成が後手の好手で、同金に、6六銀(次の図)

虎図05
 以下、予想される手順は、6六同金、同馬、9八銀、5五玉、4五飛、5四玉、6一竜、6三歩だが、そこで先手の攻めが止まる。後手には7七馬(詰めろ)がある。後手良し。

虎図06
 7六歩に、<F>8五歩(図)ならどうだ。
 8五同金、9四馬、7七歩成、同金、6六銀(次の図)

虎図07
 これもどうやら後手ペース。6六同金、同馬に、そこで4七飛という手があるが…
 以下、5五玉、8七歩、8八金、9八銀、8四歩(次の図)

虎図08
 まだ勝負はこれからだが、形勢は、やや後手良しと思われる。

 どうやら7三歩成に、7六歩で、後手良しになるようだ。
 これは困った。≪虎の図≫はでは、後手良しなのか?

虎図09
 今度は先手が“やり直し”だ。
 上では4八歩、5六馬に「3四香」としたが、「3四桂」(図)としてどうか。
 これには後手は2九馬と勝負する。以下、4二桂成、同玉、2二飛、3二桂、同香成、同歩、2一飛成(次の図)

虎図10
 “雰囲気”としては先手良しなのだが、ここで後手に4四銀上とされて、どうやら先手苦戦である。
 4四銀上に、6三銀は、6五馬、5二銀成、同歩で、後手良し。
 4四銀上に、7六桂はどうか。以下、
 7四馬、8四桂、同歩、9四馬、9五歩(次の図)

虎図11
 7四馬~9五歩の攻めが厳しい。後手良し。
 9五同馬には、8三桂、9四馬、9五歩があって、受けが利かない。

≪虎の図≫(再掲)
 つまりこの図は、“後手良し”という結論になった。

 すると、『香車ロケット2号作戦』も駄目ということになってしまう―――。
 なんとかならないか。ほんとに≪6七角成図≫は、先手に勝ち筋がないのか。

 ということで、我々は考えた。

≪熊の図≫
 先手はさらに2手手を戻し、<1>6八歩をやめて、<2>4五歩と代えてみる。それがこの≪熊の図≫である。
 このままでは後手は4四玉と出ることができず、それはまずいので、後手は4五同馬と歩を取る。
 そこで7三歩成とする。
 これを 同銀なら、3四香、4四玉に、7四歩と打つ。
 以下、同金、7六歩、6七桂成、8三馬、7七歩、3七桂(次の図)

熊図01
 4六馬に、9四竜、8四歩、4八飛(次の図)

熊図02
 先手良し。

熊図03
 7三歩成を 、素直に 同銀は先手良しになった。そこで今度は、後手は7三歩成に、7七歩(図)とする。
 対して7九歩では、7三銀で後手良し。
 しかし、3四香、4四玉の後、そこで7六銀という手がうまい(次の図)

熊図04
 7三銀なら7五銀がある。
 7八歩成には、同金だ。同馬に4八飛(王手馬取り)がある。6八歩を打たないでおくことで、この7八同金の手が生じたのである。
 そこで後手は、4六銀として、次に7八歩成を狙う。
 先手は7九歩と受け、以下、6七桂成に、8三と、7四金、4八馬(次の図) 

熊図05
 4八馬として、後手玉の“入玉”を許さない。
 5八金、3八馬、6六成桂、8七銀、7五金、8四と、7六成桂、7四と、8七成桂、同金、7六銀、7五と、8七銀成、同玉、7五銀、5六銀(次の図) 

熊図06
 先手優勢だ。

 ついに我々は「解」に辿り着いた。
 2つ目の「解」、すなわち「先手の勝ち筋」である。


≪3九香ロケット2号図≫
 『香車ロケット2号作戦』、成功である! 


                       『終盤探検隊 part96』につづく
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終盤探検隊 part94 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2017年01月11日 | しょうぎ
≪3九香ロケット2号図≫

 今回の研究テーマは、この図、『香車ロケット2号作戦』。


    [外宇宙へ]
 デュケーンはエンジンの燃料室のほうえちらと眼をやった。出発のときは、燃料室には銅シリンダーが一本挿入してあったのだが、今は空っぽである。彼はそれからノートブック、鉛筆、計算尺をとりだし、計算した。数分間かかった。
 (中略)
「どう解釈していいのか見当がつかない」と彼はドロシイのほうへ静かに言った。「動力がぴったり四十八時間全開していたのだから、われわれは太陽から二光日以上は離れていないはずだね。ところが観測してみると、二光日以上離れていることは確かなんだ。太陽から一光年かそこら以内らしい恒星が数個、それから星座がいくつか見えたからね。それでいて、ぼくのよく見知っている恒星も星座も一つも発見できない。だからこの船は四十八時間、たえず加速がついていたのだ。ぼくたちは地球から二百三十七光年ばかり離れたどこかに漂っている。君たち二人は一光年といってもわかるまいが、大体六千兆マイル――六千マイルの百万倍の距離なんだ」
 ドロシイの顔からさっと血が引いた。(中略)
「じゃあたしたち、もう絶対に帰れないわね?」
                                         (エドワード・E・スミス著『宇宙のスカイラーク』より )


 小説『宇宙のスカイラーク』は、SF小説の歴史においては重要な小説で、作者E・E・スミスがこれを書き上げたのは1920年頃だが、そのときはどこもこれを採用してくれる出版社がなく、1928年になって、ヒューゴー・ガーンズバック創設の<アメイジング・ストーリ-ズ>誌上で発表され、SFマニアの間で大評判となった。彼らは、「こんな小説を待っていたんだ」とばかりに狂喜したのである。

 “X金属”の発見によって、それを触媒にして、銅の質量をすべてエネルギーに転換できるとわかった。(すべて、というところが重要で、たとえば核分裂や核融合から取り出すエネルギーは、質量の1パーセントにもならない。) しかも“X金属”は触媒として働くものなので、それ自体はまったく減らない。質量をエネルギーに変換するのは「銅」の質量なのである。100%の変換なので、無駄なもの――つまり放射能――も出ないわけである。
 この小説の主人公リチャード・シートンは、その“すごい発見”を使って何をするか信頼できる友人と考えた結果、「宇宙船をつくろう!」、ということになった。
 いくつかの理由があって、宇宙船を2機つくることにした。一つは偽物で、もう一つは本物(といっても、両方とも宇宙へ飛び立てる)で、本物の宇宙船にはシートンの婚約者が「スカイラーク号」と命名した。「宇宙船」をつくることも秘密裏だったが、「スカイラーク号」をつくることはさらに“極秘”だったというわけだ。
 シートンは天才でスポーツ万能で見た目もよかったが、同じくらいの能力をもつ天才が彼の身近にいて、デュケーンというが、シートンと決定的に違うところは、デュケーンは悪いことも平気でできるというところである。(アンパンマンとバイキンマンみたいなものか)
 その“悪”のデュケーンは、シートンの“X金属”と宇宙船建造のことを知り、うらやましくてしかたがない。
 ある日とうとうデュケーンは、シートンの「宇宙船」を乗っ取り、衝動的に宇宙へ。(なりゆきでその宇宙船内にはシートンの婚約者ドロシイらもいた)
 しかしそれは“偽物”で、本物の「宇宙船スカイラーク号」は別にあったのだ。シートンとその友人は、「スカイラーク号」で、デュケーンとドロシイらの乗った宇宙船を追うべく、飛び立つ。
 ところがなんと、その2つの宇宙船は、「太陽系」を飛び出し、光の速度をも超えて、とんでもない彼方まで。 やがてエネルギー源の「銅」もすべて使い切ってしまう……。
 さあ、たいへん。

 というような話。
 この「宇宙船スカイラーク号」は、SF小説史上、はじめて「太陽系」から飛び出して「外宇宙」を冒険した宇宙船なのである。
 その全体の形は、球体である。 シートンの婚約者のドロシイがこれに「スカイラーク」と名づけたのだが、
  ドロシイ「考えられる名前は一つしかないわね。“スカイラーク”はどう?」
  シートン「それ以外にないよ。完璧な名前だ!」
 なぜ球体ボディの宇宙船に「スカイラーク(ひばり)」で、それが“完璧な名前”なのか、謎である。

 私たちは、この宇宙にはたくさんの「銀河」があって、私たちの「太陽系」を含む円盤型のおおきな「銀河」(天の川銀河)があり、そのとなりに「アンドロメダ星雲」と名づけられた銀河があることを知っている。
 人類がこのことに気付いたのは、約200年ほど前のこと。
 ウイリアム・ハーシェル(1738-1822 天王星の発見者として有名)は、望遠鏡で見えるすべての星について、その明るさと、「星の明るさはその星との距離の2乗に反比例して減少する」という法則とによって、星の位置関係をまとめてみた。もちろん恒星の大きさによって明るさは違うのでもあるが、距離の大きさから考えれば、恒星の大きさの違いなどそれほどのものではない、ということで。
 そうしてわかったことは、私たちは「円盤状」の銀河の中にいるということである。
 また、うすぼんやりとした「星雲(ネビュラ)」の存在はそれ以前から気づかれており研究者もいた。その代表者がフランスのシャルル・メシエで、彼は「星雲」を調べ、その天体マップをつくった。それは「メシエカタログ」と呼ばれており、アンドロメダ星雲(カタログ番号M31)ももちろん記載されている。メシエがこれを発表したのは1774年だが、まだこのときは、私たちの「天の川銀河」自体が発見されていなかったのである。
 どうやら、宇宙の星の分布は均等ではなく、「星々のかたまり」があることがわかってきたのであった。
 やがて望遠鏡が発達し、さらには1838年にドイツのフリードリヒ・W・ベッセルの白鳥座61番星の視差測定のアイデアによって、地球と星との絶対距離の計算方法の突破口が見つかるなどして、「天の川銀河」の大きさなど、19世紀にいろいろと解明されていった。
 とはいえ、実は「アンドロメダ星雲」はずっと「天の川銀河」の内部の星々だという意見のほうがずっと根強く、現在のような“外にある星雲だ”という結論に落ち着いたのは、1929年にアメリカのエドウィン・P・ハッブルが「アンドロメダ星雲」と地球との距離を発表して以後のことである。
 そのころになると、“宇宙(の星々の距離)はなぜ広がっているのか”というのが天文ファンの重大テーマになっていたのであるが。 

 そして『宇宙のスカイラーク』が登場し、以後、宇宙の話は「銀河」にまで物語を広げ、SF小説は1930年代~50年代の(内容的な意味での)黄金期を迎えたのであった。


≪8四金図≫
 前々回終盤探検隊レポートでは、この≪8四金図≫から、4一飛(新・黒雲作戦)、そして前回レポートでは3九香(香車ロケット1号作戦)を調査した結果を発表した。
 しかし結果はどちらも、「後手良し」と出た。
 先手をもっている我々終盤探検隊にとってはこれは残念な結果である。 最良の結果がでれば、後手番を持つ«主(ぬし)»との≪最終一番勝負≫に使うつもりだ。

 この図から、実はもう一つの候補手がある。 8六歩だ。

≪8六歩図≫
 ここで後手の手番。最善手は何か。
 ソフト「激指」は、「5六と」としているし、その後の我々(終盤探検隊)の検討を加えても、それは同じである。
 よってここは「5六と」で進めていくことにする。

 そこで3九香――――

≪3九香ロケット2号図≫
 ここで3九香と打つのが、『香車ロケット2号作戦』である。 この作戦の成否をこれから調べて行きたい。
 以下は、6六と、8七玉、7五桂、9七玉となる。
 “9七玉”とこの位置で頑張るのがこの作戦の特徴で、そこが前回の『香車ロケット1号作戦』との違いである。
 
 さて、そこで後手は2通りの手段がある。 <A>7七とと、<B>7六とだ。
 

≪7七と基本図≫
 <A>7七と(図)。 これに対して、先手は9八金と受ける。(ここは9八角もあるところで、9八金で先手勝てなければ、その後は9八角を検討しなければならない)

7七と図01
 9八金(図)と受けた。
 後手の手番だが、ここは8七桂成(8七と)と行くのが最善と思われるのだが、まず3三桂の変化を確認しておきたい。

変化3三桂図a
 3三桂(図)。 以下3四香、4二銀、3八飛(次の図)となる。
 3八飛に3二歩は、4一銀で、先手良し。

変化3三桂図b
 後手はここで6五銀とする。見た目以上にきびしい手で、次に7六銀とすれば8七に利いて“詰めろ”だ。
 これに対しては、3三香成、同銀、2五桂(4五桂)と攻めるのが最善。
 以下、4四銀引、3三桂成、同銀、3四歩(次の図)

変化3三桂図c
 3四同銀に、同飛だと、逆転負け。8七桂成、同金、同銀成、同玉、7五桂、7八玉、6六桂以下、詰まされる。
 3四同銀に、5五角と打つのが、先手のねらいで、4四桂に、7七角とと金を払う。
 以下、6六歩に、4五銀(次の図)

変化3三桂図d
 4五同銀なら、3三銀、1一玉に、8四馬と金を取って、先手勝ち。
 図からの予想手順は、3二香、3四銀、同香、同飛、3三銀だが、冷静に3八飛で、先手優勢である。


7七と図02
 どうやら、8七桂成(8七と)が後手の最善手である。
 8七桂成、同金、同と、同玉、7五桂、7八玉、6六歩(次の図)

7七と図03
 6六歩に6八歩と受けると、8七金であっさり先手負けが決まってしまう。
 ここは3四香と走る。
 以下、6七歩成に、8九玉(次の図)

7七と図04
 そこで後手がどうするかだが、〔肩〕3三桂は、4五桂で駄目。
 〔脇〕4二金も、5一竜、4一金打、同竜、同金、3七飛、4二飛、6三角(詰めろ)は、先手良し。
 よって、ここは〔腕〕4二金打(次の図)が最善とみられる。

4二金打図01
 以下、8八銀(後手の8七桂成と7七とを受けた)、6六銀、3七飛と進む。
 先手は、3七飛(図)と攻防に飛車を打った。
 ここで後手は緊急を要する。たとえば6五銀のような手だと、8四馬、同歩、3二金で先手が勝つ。
 だから後手は7七銀成、同銀、同と、同飛、6六歩と勝負してくる。と金を消すのはもったいないが、先手の飛車を3筋からそらすため、しかたないのだ。
 6六歩には、先手6八歩。後手は6九金(次の図)

4二金打図02
 6八金~6七歩成が後手のねらい。しかしそれを受けて5七銀では、6五銀で後手良し。
 3七飛と指したいが、この手は詰めろではないので、6八金で後手がよい。以下、3二銀(これが金だったら先手勝ちだったのだが)と攻めても、7八銀、9八玉、8七桂成、同飛、同銀成、同玉、3二歩である。

 だが、ここで先手に“絶好打”がある。

4二金打図03
 6三銀(図)。
 この手が絶好手で、一気に先手が優勢になる。
 次の5二銀成が“詰めろ”になるので、6八金は間に合わない。といって、4一銀と受けても、5二銀成、同歩、3七飛で、先手勝勢になる。(金と銀が入れ替わることで、3七飛が詰めろになっている)
 だから、後手6七歩成、同歩、4一銀なら、(先手3七飛がないので)後手もすぐには負けないが、5二銀成、同金、7八金とすれば、後手のねらいだった6八金の攻めがなくなっており、後手からの有効な攻めがなく、明確に先手優勢となる。

 結局、後手は6三銀を、同金とするくらいしかないのだ。
 すると、5一竜、4一銀、3七飛。 そこで後手1一玉が勝負手だが…

4二金打図04
 ここははっきり先手優勢だが、もう少し続けてみよう。先手がどうやって“勝ち”までたどり着くか、勉強だ。
 後手の1一玉は、早逃げで、“詰めろ”から逃れたところ。
 この手には、7八玉とするのが最も勝ちやすい手だ。金が入れば、2二金、同玉、4二竜以下の“詰み”が後手玉に生じる。
 7八玉、6八金、同玉、6七歩成、5九玉、2二銀、4八玉(次の図)

4二金打図05
 後手は2二銀として、穴熊城を再生させた。
 先手の方針としては、玉を安全な2八まで移動させて、それから3二金のような手で攻めていくことである。
 5六歩、3九玉、5五銀、4七歩、5七歩成、2八玉(次の図)

4二金打図06
 さあ、ここで手番が先手なら、3二金で、先手の勝ちがほぼ決まる。
 後手は非常手段で、4七と。 同飛に、5六歩、3七飛、4六銀。 飛車を目標にしながら、先手を惑わしてきた。3筋で飛車を安定させては、3二金で後手勝てない。
 3六飛、4七銀不成、2六飛(次の図)

4二金打図07
 2六飛として、今度は1五桂が先手のねらいになった。
 4四銀、3二歩成、同歩、1五桂、3三歩、3一金(次の図)

4二金打図08
 2三桂不成、同銀、2一金以下の“詰めろ”をかけて、先手勝勢。

 それにしても、この図は面白い図である。
 もともと、この将棋は「先手三間飛車美濃囲いvs後手中飛車左穴熊」の将棋だった。
 それが闘ううちに、先手玉は3五~4五~5四と遊泳し、9七まで行ったかと思うと、また2八まで戻ってきた。そして後手の穴熊も復活。いわば「相還元玉将棋」である。(しかも総手数は約200手)

 このように、先手が勝った。しかし結論はまだ早い。
 今のことを反省して、後手にも工夫の一手があるからだ。

4一金図01
 〔腕〕4二金打とする手に代えて、この図のように、〔肘〕4一金打とするのである。
 これなら、先ほどと同じように進んだとき、6三銀がないというわけだ。(6三銀には同金と取って続く5一竜がないので)

4一金図02
 「4一金型」に対しては、同じように途中まで進んで、(6三銀に代えて)3五桂(図)と打つ手が最善手とみられる。
 ここで後手の有効手は、(u)6八金と、(v)4四銀とがある。

 (u)6八金が一番指したい手だ。 それには、先手2四銀(図)と攻める。

4一金図03
 2四銀(図)には同歩だが、そこで8四馬。「2三」をこじ開けてから、金を取る。“詰めろ”だ。
 後手は1四銀と受ける。先手は7五馬(次の図)

4一金図04
 “眠っていた馬”が働いてきた。7五馬(図)以下、同銀、同飛、2三銀打、1五歩と進む(次の図)
 (なお、この図では後手6七歩成も考えられるところで、その変化は後で確かめる)

4一金図05
 7五同飛となった瞬間、後手玉には2三銀以下の“詰めろ”になっていた。それを後手は2三銀打と受けたのだが、そこで先手は1五歩(図)と攻めたのである。
 先手はすべての駒が働いてきた感じがあり、感触はとても良い。ただし相変わらずの“裸玉”である。
 6七角、9八玉、3四銀、1四歩、同歩、2六桂(次の図)

4一金図06
 2六桂(図)はやはり“詰めろ”。これを後手2三香と受け、それには7七金。
 以下、5六角成に、5七銀(次の図)

4一金図07
 先手勝勢である。

4一金図08
 今の手順の3四銀に代えて、6四銀としたのがこの図。飛車を攻めてきた。
 これには1四歩(次の図)

4一金図09
 後手がここで7五銀と飛車を取れば、1一銀、同玉、2三桂不成、2二玉、1三歩成、同桂(同香なら1一銀、2三玉、1二角、同玉、2二金まで)、3二歩成、同歩、1一角、2三玉、3三金、同歩、同角成までの、“詰み”。
 よって飛車は取れないので、3四角成(香車を取った)だが、それには1五桂(次の図)

4一金図10
 後手1四銀は、2三銀で詰む。受けがなくなったようだ。
 7五銀、2三桂右成、同馬、同桂成、同玉、5六角(次の図)

4一金図11
 3三玉なら、2二銀、4二玉、3三角以下詰むので、3四桂(香)と受ける手になるが、1一角、2二桂、4五銀とせめて、先手勝勢。

4一金図12
 3四角成に代えて、3四銀(図)の場合。 
 これは1三歩成。 これを同香は、同香成、同玉、1四香、同玉、2六桂以下詰むので、3三玉と逃げる。
 それには2三桂成(次の図)

4一金図13
 これを同銀は、4五桂と打って、以下4四玉に、4六銀で、先手勝ち。
 といって、4二玉と逃げるのは、3三銀、同桂、同成桂、同玉、2二角、4二玉、3三銀、5三玉、4四金(次の図)

4一金図14
 図以下、6三玉には5五桂で、6二玉なら7三歩成、同銀、7一竜以下、後手玉は“詰み”。

 以上のように、この変化は先手勝ちになる。

4一金図15
 手を戻して、途中、7五馬に、(同銀ではなく)、6七歩成(図)とした場合はどうなるのか。
 これには2六桂(詰めろ)とし、2三銀打、1四桂と進む(次の図)

4一金図16
 これを「同歩」と、「同銀」とがある。
 「同歩」には、1一銀と打ち、同玉に、2三桂成、2二桂(2二銀なら3二銀)、4五角(次の図)

4一金図17
 この4五角(図)が、2二成桂、同玉、3二金以下の“詰めろ”になっていて、先手勝勢。

4一金図18
 「1四同銀」(図)の場合は、ここで5六角と打つのがよい。これは3二金以下の“詰めろ”になっている。
 よって後手は1一桂と受けるが…

4一金図19
 それには3二銀(図)とする。
 以下、同歩、同歩成、同金、同香成、同玉、1二角成(詰めろ)、3一銀、3三歩、同桂、2一金(次の図)

4一金図20
 これも“詰めろ”(3一金、同玉、2二銀、4一玉、3二金、同玉、2一馬以下)
 先手勝勢。

 6七歩成の変化は、このように、結局後手は7五の馬も、7七の飛車も、どちらも取る余裕が与えられないまま寄せきられた。

4一金図21
 さらに手を遡(さかのぼ)って、先手の3五桂に(v)4四銀(図)なら、どうなるか。(これまでは後手6八金以下の変化を調べてきた)

 これには、5三歩と打つ。
 対して、<イ>同銀右引と、<ロ>4二金寄が考えられる。

 まず<イ>同銀右引は、8四馬と馬を切り、同歩に、7五飛。(この中段の飛車の位置がとても良い)
 そこで後手がどうするかだが、6八金では、2三桂成、同玉、1五桂から、後手玉が“詰み”。
 よって後手は4五角と王手で打って―――

4一金図22
 9八玉に、3四角として、香車を取る。
 そこで先手4六桂。 5六角と逃げると3四角だし、4五角は3七桂がある。
 したがって後手は3三銀と受け、3四桂、同銀、5六角で、次の図である。

4一金図23
 このラインを制して、先手が優位に立ったようだ。4五香(桂)なら、同飛でよい。
 なので、後手は5六角に3三銀だが、以下、2五銀、3五銀、同飛、4四銀上、3四銀打(次の図)

4一金図24
 3二金の受けは、2三銀成、同金、同角成、同玉、4一角、3二角、2四金、2二玉、3三飛成以下詰み。
 したがって受けるなら1一桂だが、3三銀成、同銀、3四歩、3二香、3三歩成、同香、3四銀打、3二銀、6一竜のように指して、先手勝勢。

4一金図25
 先手の5三歩に、<ロ>4二金寄の場合。
 これには、4三桂成と成捨てて、同金に、9二竜と引く(次の図)

4一金図26
 後手に適当な受けがない。4二桂は6三角で後手困る。
 そこで3二桂と受けるが、6三角、4二金上、3二歩成、同歩、5四桂(次の図)

4一金図27
 先手優勢である。 


7七と図2(再掲)
 『香車ロケット2号作戦』で、<A>7七との後を調べてきたが、この図のように「9八金」と受けて、先手良し、が結論である。
 今回調査した変化は、9筋の先手の竜と馬がよく活躍して、先手にとって気持ちの良い展開が多かった。今のところ、『香車ロケット2号作戦』はたいへん有力という印象である。


 しかしまだ、調査は半分。 後手<B>7六とがある。 

≪7六と基本図≫
 <B>7六とに対して、<A>7七との場合と同じように9八金と受けるのは、先手悪い。それは次のようなわけである。

7六とに9八金の変化図
 <B>7六とに9八金なら、後手は3五桂として有利になる。以下、7三歩成に、6六銀として、この図である。次に7七銀成(不成)がきびしく、後手良し。この図で7八歩としても、7七歩がある。


[参考 7七と型の場合]
7七と参考図01
 なお、<A>7七との場合、先手の9八金に、3五桂(図)と受けるのはこれは後手うまくいかない。それについて以下に述べておく。
 3五桂には、7三歩成とする。これを同銀は、3五香、同銀、3四桂、3三玉、1一角、3四玉、5五角成で、先手良し。
 よって7三歩成は取らず、6六銀と出るが、そこで先手7八歩(次の図)

7七と参考図02
 これを同とは、6三とで先手良し。また8七とも、同金、同桂成、同玉で、この場合次に先手2六桂が急所になるため後手が悪い。
 よって、7八歩には、7六と。
 そこで先手は6三と。後手6七桂成(次に7五銀上とする狙い)には、7二飛(次の図)

7七と参考図03
 この7二飛(図)は、次に5二飛成(詰めろ)が第1の狙いなので、後手6二歩と受ける。
 以下、5二と、7五銀上、8七金打(次の図)

7七と参考図04
 これで、先手勝勢になっている。
 (「7二飛、6二歩」を入れたのが繊細な、大事なところで、これをなしに単に5二となら、同じに進んで、8六銀、同金、同と、同玉、7五銀、9七玉、8六金、8八玉、7七歩、同歩、7六歩以下、先手が悪い。7二飛が打ってあるこの図なら、今の攻めは不発に終わる)

 こういうわけで、<A>7七との場合は、先手9八金に、後手3五桂は無効なのである。


7六と図01
 さて、<B>7六との研究に戻って、つまりここでは先手9八角(図)の一手。
 対して7六のと金を取られてはいけないので、6五銀が考えられるが、それは3四香で、はっきり先手良し。
 また図で8五桂という手もあるが、同歩、同金、8八玉、6六銀、3四香の展開は、やはり先手が良い。

 だからここで後手は8七桂成(8七と)がほぼ必然手になるのである。
 8七桂成、同角、同桂成、同玉、7五桂、9七玉、7八角(次の図)

7六と図02
 つまりここまではほぼ変化の余地がない。問題はこの後だ。
 まずこの図では、先手8八金がおそらく最善手。
 それに対して、後手の候補手は3つ。「4五角成」と、「5六角成」、それから「6七角成」だ。

 しかし4五角成には、6五歩、同銀、5七桂があって、以下、先手良しになる。

 ということで、この図から、先手8八金に、そこで後手は5六角成か、または6七角成、この二択。
 さあ、そこから先の形勢が問題だ。

                       『終盤探検隊 part95』につづく
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終盤探検隊 part93 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2017年01月09日 | しょうぎ
≪3九香ロケット1号図≫

 我々終盤探検隊(先手を持っている)は、来るべき≪亜空間の主(ぬし)≫との「最終決戦一番勝負」に備え、研究を続けている。
 図の「3九香」の「香車ロケット」で勝てるかどうか。それが今回のテーマである。


    [一九九九年一月 ロケットの夏]
 ロケットの夏。人々は、しずくの落ちるポーチから身を乗り出して、赤らんでいく空を見守った。
 ロケットは、ピンク色の炎の雲と釜の熱気を噴出しながら、発信基地に横たわっていた。寒い冬の朝、その強い排気で夏をつくりだしながら、ロケットは立っていた。ロケットが気候を決定し、ほんの一瞬、夏がこの地上を覆った……                                                 (レイ・ブラッドベリ著『火星年代記』より )



 レイ・ブラッドベリ『火星年代記』は、1950年にその初版本が発行された。
 つまりこの小説が書かれたのは1940年代だが、すると「ロケット」はまだ夢物語の時代である。ブラッドベリは20代の青年だった。

 1940年頃、「ロケット技術」が世界で最も進んでいたのは、ドイツ国である。(それまではロシアではツィオルコフスキーが、アメリカではゴダードが個人的に「ロケット」を実現化したいと頑張っていたが)
 世界大戦後、その最先端のドイツの科学者と科学技術を分け合った(取り合った)のが、アメリカ合衆国とソビエト連邦共和国である。ドイツで科学が世界一進んでいた理由は、19世紀後半から物理や化学を「教育」に取り入れて、国民全体で高める政策を進めたからである。19世紀までは、イギリスでもフランスでも、「科学」は時間をたっぷり持っている大金持ちの“趣味”でしかなかった。貧乏人が「科学」を学ぶ体制はドイツ以外では整っていなかったのである。
 ドイツの押し上げた「科学力」を土台に、「ロケット」が実現に向かって進み始めたのが1950年代で、それを進めたのがアメリカとソ連。ソビエト連邦のスプートニクが世界で初めて人工衛星を打ち上げ軌道に乗せることに成功したのは、1958年のことである。
 そのおよそ10年ほど前に、書かれた物語がこの『火星年代記』である。

 この話は、1999年1月から始まっている。この時に出発したアメリカ合衆国の「ロケット」が、火星に初めてたどり着く。
 以後、間をおかず次々と「火星探検隊」が火星に行くが、だいたいは先住民、すなわち火星人に殺されてしまう。
 ところが、探検隊の地球人がもたらした水疱瘡が原因で、火星人はほぼ全滅してしまう。しかし数少ないが生き残った火星人もいた。
 やがて地球人の火星移住が流行となり、火星に地球人の植民市がいくつもつくられ、繁栄する。
 生き残っていた少数の火星先住民たちは、ついに滅びてしまう。
 ところがその地球人の「火星移住ブーム」も一時的で、火星に移住した地球人たちはほとんど地球に戻ってしまう。それが2005年のことである。

 そうして、20年間、火星は忘れられていた。火星は、廃墟の街になった。
 そんな火星に、2026年の10月に、また新たな地球の家族が“火星人”になるために、「ロケット」に乗ってやってきた。――――というところで、この『年代記』は終わっている。
 この設定では、2026年に、「ロケット」は、“家族”でも手に入れられて火星まで乗って行けるような身近なものになっている。キャンピングカーのように。

 「ロケット」に固有の名前をつけず、すべて「ロケット」と呼んでいるのが、文学的に、なんとも面白い効果をつくっている。
 どんな技術をつかった「ロケット」なのかも説明されない。

 にもかかわっらず、年月ははっきり記されている。
 この物語の作者レイ・ブラッドベリは2012年まで生きたようだ。


<香車ロケット1号作戦>

≪8四金図≫
 この図から、前回は4一飛(新・黒雲作戦)を調査した結果は、残念ながら、後手良しと出た。
 今回のレポートは、もう一つの候補手“3九香”についての調査報告である。 

≪3九香ロケット1号図≫
 この作戦を、『香車ロケット1号作戦』と呼ぶことにした。
 ここで、後手がなにを指すかだが、次の3つの候補手がある。
  〔木〕3五桂
  〔林〕4二銀
  〔森〕7五銀

3五桂図01
 〔木〕3五桂には、同香、同銀に、3四飛(次の図)がある。

3五桂図02
 これは先手良しになる。
 以下一例は、3三桂、3五飛、7五銀、7七玉、8五桂、8八玉、7六銀(次の図) 

3五桂図03
 7六銀で先手玉には“詰めろ”がかかったが……
 3四桂、3二玉、2二金、4一玉、8六角(次の図)

3五桂図04
 8六角(図)が“詰めろ逃れの詰めろ”で、先手良し。
 6七となら、3一金、同玉、5三角成、同金、5一竜以下“詰み”。
 角道を遮る7五香はあるが、これは先手玉への詰めろになっていないので、8四馬と質駒になっている金を取って、先手が勝ち。

 この通り、〔木〕3五桂は先手良し。


4二銀図01
 〔林〕4二銀と受けるのはどうか。
 これに対しても3四香は、今度は先手が悪くなる。
 7五銀、7七玉、8五桂、8八玉、7六桂、9八玉、3三銀(次の図)

4二銀図02
 これが後手の狙いで、これは後手良しになる。後手に香車が入ると、9七香、8九玉、7七桂不成以下、先手玉が詰んでしまうのだ。

4二銀図03
 この場合は、すぐの3四香がまずかった。4二銀には、5三歩(図)が正解手である。
 5三歩には、後手は2つの道がある。一つは(1)5三同銀引とする手。もう一つは(2)7五銀から攻める手である。
 
 まず(1)5三同銀引。 これには、3四香と走って良い。銀をバックさせたので、先手の玉がその分安全になったからだ。
 3四香に3三桂と受けた場合は、先手8五銀として、“入玉”ねらいで先手良し。

 3四香に3三銀は、以下、同香成、同桂、3四銀(次の図)となる。

4二銀図04
 6四銀上、4一角、7五銀、7七玉、3二香、2四銀(次の図)

4二銀図05
 これで後手玉は“受けなし”になった。 1一桂には、3三銀直成、同香、3四桂以下、詰みである。

4二銀図06
 先手5三歩に、(2)7五銀と攻めてきた。
 これには7七玉しかないが、後手は8五桂、8八玉、7六桂、9八玉まで決めて、そこで5三金と手を戻す(次の図)とどうなるか。

4二銀図07
 ここで先手は待望の3四香。以下、3三桂には、同香成。
 これを同玉は1一角で先手勝勢になるので、3三同銀だが、そこで先手は6二飛と王手(次の図)

4二銀図08
 3二歩なら、5一竜で、後手玉は"詰めろ"。そして先手玉は6二飛が受けに利いていて、"詰めろ"を逃れている。
 5二金には、同飛成、同歩、3四桂(次の図)

4二銀図09
 3四同銀に、1一角から“詰み”である。先手勝ち。

4二銀図10
 というわけで、後手は攻め方を変える。 6六銀左(図)。
 8八玉に、7六桂、9八玉、7七銀成と“詰めろ”で迫る(次の図)

4二銀図11
 結論から言えば、この図は(正しく指せば)先手勝ち。
 8九金か7九金でも勝てるが、ここは3二歩成からの勝ち方を紹介しておく。
 3二歩成、同歩(同玉は3四香、3三桂打、7九金、5三銀、3三香成、同桂、3四桂で先手良し)に、5五角と打つのである。
 以下、3三銀、7七角、8五桂、5五角(次の図)

4二銀図12
 ここから、[a]4四銀と、[b]5六とを考える。

 [a]4四銀は、3四香、5五銀、3二香成、同玉、3四飛、3三角、4一銀(次の図)

4二銀図13
 詰んだ。先手勝ち。

4二銀図14
 今度は、[b]5六と(図)。
 これには3一銀と打ち、同玉、5二歩成で次の図。

4二銀図15
 9七銀、8九玉、2二玉、3四香。
 そこで5五と(角を取る)は、3一銀以下詰みがあるので、後手は1四歩とする。
 しかしそれも、3三香成、同桂、1一銀(次の図)

4二銀図16
 やはりこれも“詰み”。 1一同玉に、3三角成、同歩、2一金、同玉、3二銀以下。(図で1三玉は、2二銀打、2四玉、3三角成、同歩、2五飛以下)

 以上の調査から、「後手〔林〕4二銀も、先手良し」と結論する。

 ここまで、「3九香」と打った先手の「ロケット」の威力が十分に発揮されている。


7五銀図01
 〔森〕7五銀が、どうやら後手の最強手である。
 7五銀、7七玉、6六銀左、8八玉、7六桂、9八玉、7七銀成。
 そこで上でやったように3二歩成、同歩、5五角で先手良しに思えるが(〔林〕4二銀のときはそれでうまくいったが)、3三歩、7七角、8五桂、5九角、6八との進行は、先手苦戦である。
 だから、7九金(次の図)と受ける。

7五銀図02 
 先手が7九金(図)と受けたとき、手を渡された後手がどうするか。
 <ア>3五桂と、それから<イ>8六桂という手がある。

7五銀図03
 <ア>3五桂(図)と受けたが、この場合、先手がすぐに3五同香、同銀、3四飛と攻めていくのは、金を受けに使ってしまっているため後手玉への詰めろになっておらず、8五香と打たれて、後手優勢となる。
 ではどうするか。

7五銀図04
 ここは5五角と打つのがよい。
 後手6七となら、3二歩成、同玉、2二飛、4一玉、3二歩、同歩、2一飛成、4二玉、8四馬で、これは先手勝ち。
 だから後手は何か工夫をしなければならないが、8八成銀、同金、4四銀が、その“工夫”。 この4四銀に、7七角なら、6七とで、これは後手良しになる。

7五銀図05
 しかし後手の4四銀には、5四飛(図)がうまい切り返し。
 これに対して、後手は適当な手がなく、この図は先手優勢である。
 ソフト「激指」はここで後手最善手は3三銀としているが、その手には3五香で先手が良い。
 図で5五銀なら、どうなるのか。
 それは5二飛成(取ると詰み)、3三玉、5一竜左で、先手勝勢である。

 <ア>3五桂は、先手勝ちになった。

7五銀図06
 戻って、<イ>8六桂(図)で勝負する手がある。以下、同歩、同銀。
 (図で9七玉で先手良さそうにみえるが、8八桂成、同金、同成銀、同玉、7六銀は、先手悪い)
 さて、この“詰めろ”をどう受けるか。8八歩では、同桂成、同金、6七とで、後手勝ち。

7五銀図07
 8九飛(図)と受けるのが正着となる。
 この手に対し、8八桂成は、同飛で受かっている。(同金だと後手勝ち)
 すなわち、8八桂成、同飛、同成銀、同金、6八飛には、2六桂(詰めろ)で、先手優勢だ。
 ここで6九金という手がある。(6八ともあるが、だいたい同じ進行になる)
 6九金には、2六桂(4六桂)と攻め合う。 以下、7九金、3四桂、3三玉、1一角、3二玉、2二角成、4一玉、8六飛(次の図)

7五銀図08
 8八桂成、同飛、同成銀、同馬、6八飛、2二銀(次の図)

7五銀図09
 2二銀(図)と打って後手玉に“詰めろ”をかけて、先手勝ちになった。
 ここから6二金と粘る手があるが、3一銀成、5二玉、6四歩、同飛成、5五桂で、後手玉はたすからない。

 <イ>8六桂には、同歩、同銀、8九飛という受けがあって、先手良し。

 以上により、〔森〕7五銀は、先手良し」と結論が出た―――すると、この『香車ロケット1号作戦』は成功で、終盤探検隊は2つ目の「先手勝ち筋」を得たことになる。
 しかし、ほんとうに「先手良し」なのか。
 我々の調査に、“穴”はないのか―――?

 よく調べた結果、“穴”はあったのである。
 後手の「好手」が見つかった。


6六銀右図01
 〔森〕7五銀、7七玉の後、6六銀左に代えて、「6六銀右」とする手が発見されたのである。“左”ではなく、“右”で行くのだ。
 この手の意味は、「7五」に空間をつくるということである。これによって、7五桂と打つことができるというわけだ。(5五銀を残すことで先手の3二歩成、同歩、5五角の狙いも消している)
 それで、形勢はどうなるだろうか。
 
 6六銀右に8六玉は、8五桂があって、先手悪い。(以下、7六金、7七桂成、同金、同銀不成、同玉、8五桂…)
 よって、6六銀右の後は、8八玉、7六桂、9八玉、7七銀成、9七角(次の図)のように進む。

6六銀右図02
 後手7七銀成に、上と同じように7九金と受けると、7五桂と打たれ、すると7八角くらいしか受けがなく、それには6七とが“詰めろ”(8八桂成以下)で先手負け。
 図は、<カ>9七角と工夫して受けたところ。(ほかに<キ>7九角も有力でこれは後で調べる)
 後手はここでも7五桂だが、これには8六金と受ける(次の図)

6六銀右図03
 先手は良いタイミングで、7五金、同金、同馬を決行したい。それがこの9七角~8六金の受けの狙いである。(ただし、すぐにそれを決行するのは、後手8八金から詰まされてしまう)
 ここで後手は6七と。これは詰めろではないので、先手は3四香とロケットを走らせる。これは3二飛からの“詰めろ”だ。
 よって後手は3三桂とそれを受け、先手は3八飛(次の図)

6六銀右図04  
 (y)3八飛。 これも後手玉への“詰めろ”なので、後手は3二歩とそれを受ける。
 3八飛と打って、「8八」への受けの利きを増やしたので、“ねらいの7五金”を決行する。
 7五金、同金、同馬。
 しかしそれでも後手は8八金と打ってくる(次の図)

6六銀右図05
 8八同角、同桂成、同飛、同成銀、9七玉、7八飛(次の図)

6六銀右図06
 7八飛(図)は、“詰めろ”(8七成銀以下)。
 先手8六玉なら、8七成銀、8五玉、7五飛成、同玉、5七角以下、詰み。
 図で抵抗するなら、7六金だが、それも6八角と打たれて、先手負けである。

 この図で3四の香が盤上から消えれば3四桂から後手玉が詰むのだが…。
 後手玉に詰みはない。しかし図で、3三香成に同歩なら、3一銀、同玉、5三馬から詰みがある。だが、3三香成に同玉で、詰みなしである。

 この順は、先手の負け。

6六銀右図07 
 (z)3六飛。 (y)3八飛と打つ手に代えて、ここに飛車を打った。
 後手3二歩に、8四馬と金を取り、同歩に、3三香成、同歩、3一銀、3二玉、2二金、4一玉(次の図)と、後手玉を追い込む。

6六銀右図08
 先手に後手の「7七の成銀」が手に入れば、それを3二に打って…。しかし現状、角を後手に渡したので、先手玉に後手8九角からの詰みがある。
 そうしたことを踏まえて、この図で先手に2通りの候補手が考えられる。 7六飛と、8九桂だ。
 まず、7六飛は、同成銀、同金、6八飛(次の図)

6六銀右図09
 これは先手玉が詰んでしまった。8八合、8九角、同玉、7八飛成、9八玉、8七桂成まで。また8八角とするのも、8九角、9七玉、8八飛成、同玉、7八角成以下。

6六銀右図10
 戻って、8九桂(図)と受けるのはどうか。
 これには後手8八角がある。7七桂なら、9七角成~7九角で、先手玉詰み。
 よって、8八角に7五金(9七角成~7九角に8六玉と逃げる意味)としてみるも、8六香(次の図)がある。

6六銀右図11
 8六同歩なら9七角成~7九角、8六同角なら、9九角成から“詰み”。
 
 これでどうやら、<カ>9七角以下は、「先手の負け」が確定である。


6六銀右図12
 <キ>7九角と受けた場合。
 やはり後手は7五桂。先手は8六金(次の図)

6六銀右図13
 ここで後手の指し手がむずかしい。
 たとえば6七とは、3四香、3三桂、同香成、同玉、3五飛で、先手良しになる。また、6八とは、3四香、3三桂、3七飛、4二銀、7七飛、7九と、7六飛…、これも先手良し。3三玉は3七飛だし、6六銀は、3四香、3三桂、3六飛がある。
 どうやら後手の最善手は、6九金である。

6六銀右図14
 前図より、6九金、3四香、3三桂と進んだところ。
 ここで9七角と、8四馬が、先手の候補手となる。(3九飛、4四銀引、6九飛は、6八とで、先手敗勢)
 
 9七角に、後手は6八金。(次に7八金が狙い。この手に代えて6八とは3三香成、同玉、3七飛から、7七成銀を取られ、後手悪い)
 先手は3八飛と打つ。
 対して後手3二歩なら、先手が勝てる。8四馬、同歩、3三香成、同歩、3一銀、3二玉、2二金、4一玉、6八飛、同と、4二金まで。
 したがって、後手は4四銀引と受ける。
 以下、先手4五歩に、後手7八金(次の図)

6六銀右図15
 7八金(図)で先手玉に“詰めろ”がかかった。
 7八同飛、同成銀、7六金、8九飛、7九桂、6八と(次の図)

6六銀右図16
 6八と(図)は詰めろではないが、後手玉にも詰めろがかからない。
 4四歩、7九と、8六金打、8五桂、同金右、同金が予想されるが、後手勝勢である。

6六銀右図17
 「6六銀右図14」に戻って、8四馬(図)とする手を検討する。
 以下、同歩、3三香成、同玉、3五飛、3四香、2五桂、4二玉、3三銀、4一玉、5五飛、8八桂成(次の図)となる。途中、3五飛に4四玉は4五金がある。この変化のために、先に8四馬から金を入手したのだ。

6六銀右図18
 5五飛で銀を取り、次に5三飛成が先手のねらいだが、後手は8八桂成(図)。
 これは8八で清算して、6六角の“王手飛車取り”が後手の意図だ。
 それはまずいので、8八同角、同成銀に、9七玉とする。
 しかしその手には、8七桂成、同金に、6四角があった(次の図)

6六銀右図19
 こちらから“王手飛車”である。
 以下、8八玉、5五角、9七玉、6四角打、8六歩、9九角成、9八金、8九馬、2一銀、3二香、2二銀成と進んで、次の図。

6六銀右図20
 後手玉は、3三桂打、同香、3二銀打以下、“詰めろ”がかかっている。
 なので後手は4二銀とそれを受ける。
 以下、7三歩成、6八飛、8八銀(8八桂は7六歩が詰めろで後手良し)、7三角、9四竜、1九角成、3三歩、同香、3二歩、5五馬(次の図)

6六銀右図21
 後手7六歩(詰めろ)が入れば、はっきり後手優勢になる。
 9五竜、6五香、9二竜(5三桂以下の詰めろ)、6二歩、5四桂(3一歩成以下詰めろ)、6三金(次の図)

6六銀右図22
 これで後手勝ちになった。
 この6三金は、“詰めろ逃れの詰めろ”になっており、ここで先手6二桂成には、8八馬引からばらして、7八金、同玉、6七と以下、先手玉が詰む。
 3一歩成には5二玉である。


6六銀右図01(再掲)
 以上の探査の結果、先手の『香車ロケット1号作戦』は、後手の7五銀、7七玉、6六銀右(図)という巧妙な攻め手があって、「後手良し」―――が結論となった。



[補足]  結論は以上の通りなので以下は蛇足になるが、『香車ロケット1号作戦』の調査研究の補足として付け加えておく。

4二銀図03(再掲)
 これは、〔林〕4二銀に、先手が5三歩と歩を打ったところ。
 この場合も、7五銀、7七玉に、6六銀右があるわけだ。この変化はやっていなかった。
 
4二銀図17
 ところが調査の結果、この場合は、6六銀右は不発となる(つまり先手良しになる)とわかった。
 これはその調査結果である。
 ここで8八玉なら、7六桂、9八玉、7七銀成、7九金、7五桂で先手悪い(7七銀成に9七角の受けもやはり7五桂で後手良し)
 また、図で8六玉も、8五桂、7六金、7七銀不成、同金、同桂成、同玉、8五桂で後手良し。
 ところが、図で7六玉として、先手良しになるのである!

4二銀図18
 ここで8五桂は詰めろになっていないので、5二歩成で先手優勢。先手玉には6五~5四という逃走ルートもある。後手の銀が4二にまで引いた形なので、6五~5四の道があるのだ。
 また5三金は考えられる手だが、3四香、3三桂、同香成、同玉、1一角、2二桂、4五桂、4四玉、5三桂成は、先手良し。
 よって、後手はここで6四桂と打つことになる。これには8六玉しかないが、そこで8五桂としばってくる。
 これを先手は7八飛と受けるのだ。

4二銀図19
 これで先手良しというのだから……。これを時間のない実戦で読み切って指せれば達人のレベルである。
 6四に一枚桂を使わせたことで、後手の攻めの力をこの場合は弱くしている。
 ここで6七となら、3四香、3三桂、8四馬、同歩、9四竜、7八と、9五玉と“入玉”作戦で先手良し。
 したがって、この図で後手は、7七銀不成、同飛、同桂成と攻めてくるのが考えられる。
 それには5二歩成とし、以下、7六飛、9七玉、3三銀、5一竜として、後手玉には“詰めろ”がかかっている。

4二銀図20
 しかし後手は適当な受けがないので、9五歩(図)。
 先手3一竜、同玉、3二歩から、後手玉は“詰み”。

 つまり、〔林〕4二銀の変化では、「6六銀右」は有効手とならない

6六銀右図22
 ところで、これは、〔森〕7五銀の変化で、7七玉、6六銀右に、「7六玉」とした場合。
 それには図のように、8五桂で、この場合は後手良しなのだ。「5三銀型」なので、7五銀、6五玉、6四銀左引の“詰めろ”になっているからである。
 したがってこの変化では、「6六銀右」が有効となるのである。


 もう一度結論を示しておく。

≪3九香ロケット1号図≫
  〔木〕3五桂 → 先手良し
  〔林〕4二銀 → 先手良し
  〔森〕7五銀 → 後手良し

 これが結論となる。 後手の手番なので、〔森〕7五銀を選び、7七玉、6六銀右以下、後手良しとなる。


 さて、「1号」があるなら、もちろん、「2号」がある。
 次回は、『香車ロケット2号作戦』を検討調査する。

                       『終盤探検隊 part94』につづく
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終盤探検隊 part92 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2017年01月03日 | しょうぎ
≪8四金図≫

 終盤探検隊は「先手」を持って、そして≪亜空間の主(ぬし)≫が「後手」を持って、我々は≪戦争≫を繰りひろげてきた。この≪亜空間戦争≫は、何度でも手をさかのぼってやり直しができるという、特殊ルールで、そのために「終わりがない」戦いであった。
 我々と≪ぬし≫は、このたたかいに決着をつけるため、≪最終一番勝負≫を行うことと決めた。

 その“決戦の日”はまだ先だ。
 今回の報告は、その決戦に向けての準備としての「研究」である。


    [さすらいの山の古老]
古老は書き、いった。

 もしも はてしない物語が
 自身をその中に含むなら
 この本の中の世界は
 亡びてしまうのだ
 
幼ごころの君は答えた。

 いいえ、もしもかの勇士が、
 わたしたちに加わるなら、
 新たな命が芽生えましょう。
 今こそかれも、心を決めるでしょう!

「まことに、おそるべき方じゃ、君は!」古老はいい、書いた。「最初からまたはなすということは、終わりなき終わりじゃ。われらははてることのないくりかえしの環にはまることになる。そこから逃れるすべはない。」                                                             (ミヒャエル・エンデ著『はてしない物語』より )



 M.エンデ著『はてしない物語』(『ネバー・エンディング・ストーリー』として映画化もされている)は、少年バスチアンが、古本屋で見つけた本を読むうちに(その本のタイトルが『はてしない物語』)、その本の物語の中で必要な人物となって、本の中に入っていく話である。
 上に切り取った場面は、その本を書いた古老と、本の中の物語の“中心”である幼ごころの君との会話であるが、本来出会ってはいけない二人である。そうせざるを得ないほどの大ピンチが本の中の世界(=ファンタージエン)に訪れていて、幼ごころの君は、それを救うのは“かれ(かの勇者)”しかいないと言うのである。
 “かれ”とは、この本を読んでいる少年、バスチアンのことであった。
 バスチアンは“勇者”として迎えられ、ヒーローとして大活躍。前半はそういう話。
 しかし活躍して自信を得たのはよいが、そのうちにバスチアンは自分を見失い(性格も自己肥大してしまい顔も姿も変わる)、本の中の世界(=ファンタージエン)から現実世界に戻れなくなってしまう。
 ある日ハッと気づき、戻りたい、どうしたら現実世界に戻れるのだろう―――というような話が、後半部である。

 何かに“感情移入”することは楽しいことである。しかし夢中になるあまりいつの間にか、帰り道がわからなくなるようなことは、実はだれもが何かしら経験することである。
 時にそれは危険な旅になることもある。

 我々のこの≪亜空間の旅≫も、そういう危険な旅だったようである。
 棋譜の観測者であった終盤探検隊は、“感情移入”して先手番に肩入れしていたら、いつの間にか「先手番」をもって闘う立場になっていて、この≪亜空間戦争≫から抜け出すことはできなくなっていたのである。
 唯一の脱出方法は、「勝つこと」である。


≪夏への扉図≫
 この図から、3三歩、同銀、3四歩、同銀、9一竜、5九金、6六角、5五銀引、9三角成、9四歩と進むのが、我々終盤探検隊が≪亜空間の主(ぬし)≫を相手につくってきた“定跡”である。
 
≪9四歩図≫
 後手の9四歩(図)に、そこで、3三歩、3一歩、4一飛と進めば、これが先に終盤探検隊が成功して勝利の雄叫びをあげた『黒雲(くろくも)作戦』である。この道で「先手勝てる」と信じている。
 
 さて、ここではその道ではなく、この≪9四歩図≫から、「3三歩、3一歩」の後、“9六歩”とし、すると後手は先手の8五玉からの“入玉”を阻止するために8四金(次の図)と金を打つのがほぼ必然手となる。

≪8四金図≫
 ここで我々は、新たな二つの有力手を試したいと考えている。
 一つは、4一飛。 もう一つは、3九香だ。
 (すでに「勝ち筋」を一つ見つけてはいるが、もっとよい道があればそれに越したことはない)


<新・黒雲作戦>

≪4一飛図≫
 『黒雲作戦』は、「3三歩、3一歩」のすぐあとに「4一飛」と敵陣内に飛車を打ち込む作戦であったが、その飛車打ちを保留して、「9六歩、8四金」の後に、“4一飛”(図)はどうだろうか、というのが以下の研究テーマである。
 ここでのこの、“4一飛” を、『新・黒雲作戦』と呼ぼう。

 先手の9六歩に、後手が8四金としたのは、先手の8五玉からの“入玉”を阻止するためだ。先手を持つ終盤探検隊は、この「8四金+9四歩」の後手の壁を見て、どうやら“入玉”は無理と悟り、ここは先手自信なしと以前は一旦あきらめた図なのであった。
 しかし、落ち着いて考えてみると、この場面で8四金と打つのは、後手としてもそれほど嬉しい手ではないだろう。後手も“しかたなく”打ったという面がある。実際、先手の9六歩には、8四金以外の選択肢がない場面なのだ。
 だから、先手も強気に考えて、“後手に8四金と持駒の金を使わせた”として、そこで4一飛から敵を倒す(つまり攻める)という考え方もありなのではないか。あの“8四金”を質駒にする展開がより望ましい。
 『黒雲作戦』のときの4一飛は、“攻めるぞとおどして入玉する”というような意味合いが濃かったが、今度の『新・黒雲作戦』は逆に、“入玉するとおどして金を使わせて敵玉を攻める”という思想の飛車打ちなのである。

 具体的に、指し手を見ていこう。
 図の“4一飛”は、3一飛成以下の“詰めろ”である。したがって後手は何か受けなければいけないが、どう受けるかというところ。
 考えられる手は、次の4つ。
  〔鉄〕4二銀
  〔銅〕3三玉
  〔錫〕3二桂
  〔鉛〕7五銀
 4つめの〔鉛〕7五銀は受けの手ではないが、先手玉をある程度王手で追ってから、後で受けようという意味である。
 我々は、検討の結果、後手の最強手順は「7五銀、7七玉、6六銀左、8八玉、3三玉」であると、判断した。その解説をする前に、〔鉄〕4二銀でどう進むのか、それをまず示しておきたい。これもほぼ互角の闘いである。

≪4二銀図≫
 〔鉄〕4二銀と、後手が指したところ。
 後手としては、理想的には、4一に打った先手の飛車を取って、それを攻めに使いたい。だから、4二銀の後は、3三桂として3二玉~4一玉、または3三銀~3二玉~4一玉、それから3三玉~3二玉~4一玉もあり、この3通りのどれかを実現させたい。いずれにしてもあと3手の手数が必要である。
 それが無理なら、7五銀として、7七玉に、6六銀左や6五桂などで玉を下段に追い込むことをねらいとするのが後手の立場である。 

4二銀図01
 4二銀と引いた場合、5三歩(図)が手筋となる。次の5二歩成が“詰めろ”になるので、ここでは後手は放置できず、しかし取るなら、5三同銀引しかない。
 すると先手は7三歩成とと金がつくれる。
 以下、6四銀引、7四金、7五歩、8六玉、7三銀、同金、7四桂(次の図)

4二銀図02
 7四同金、同金、8五銀(次の図)

4二銀図03
 後手から7六金、9七玉、8五桂と攻められては負けなので、先手8五銀(図)とその攻めを受けた。8四金打なら、7四銀、同金、2六桂、3三銀、6一角と攻めていける。
 しかし8五銀にも、7六金と後手は打ってくる。
 7六金、同銀、同歩。そこで先手は攻めに転じる。
 2六桂、3三銀、5四歩(次の図)

4二銀図04
 この5四歩(図)で、代えて3四桂は、同銀なら3九香で先手勝てるが、3二玉とされるとどうも不利である。
 ここは図の5四歩が最善手と思われる。
 対して後手6四銀と出たいが、それは4二銀で後手玉に“必至”がかかる。6二銀は、3四桂で先手良し。
 よって4二銀右と引く。
 そこで3四桂。これを同銀は、6三銀で先手良し。
 したがって後手3二玉。

4二銀図05
 そこで6一銀(図)が決め手となる。先手優勢。
 4一玉なら、5二銀成、同玉、6二金、同玉、5三金、同銀、7一馬以下“詰み”。
 6二金には、5二金と打つ。この手は、4二金以下の“詰めろ”になっており、5二金を同歩も、同銀成で、先手玉は詰まないので、先手勝ちだ。(5二同銀成を同金なら、3一飛成、同銀、4一角まで) 

 〔鉄〕4二銀は先手良し、と結論したい。


≪4一飛図≫(再掲)
 「〔鉛〕7五銀、7七玉、6六銀左、8八玉、3三玉」がおそらく後手の最善の手順である(次の図)

≪3三玉図≫
 図の3三玉に代えて3三桂は、8四馬と金を取った手が後手玉の“詰めろ”になっていて先手良しになる。
 だから3三玉だ。
 後手は7六桂と打つ手を保留している。これは場合によっては、7六銀と銀を使うことも含みにしている。
 ここで先手は、(1)1一角と(2)3一飛成と2つの手がある。
 (1)1一角とする手をまず見ていくと、これを2二桂と受け、以下3一飛成、4四玉、2二角成、3三歩、6一竜、6二歩、2一竜は、先手良さそう。
 ところが―――

変化1一角図1
 (1)1一角に、3二玉(図)と引かれる手がある。これが好手で、この図は先手不利である。
 先手には、3一飛成、同玉、8四馬という勝負手がある。8四馬を同歩なら、2二金以下後手玉が詰むが、しかし8四馬に2二桂と受けられて、9四馬、7六桂、9七玉、8九飛(次の図)となって―――

変化1一角図2
 先手負けである。(9五歩としても、9九飛成、9八香、8八桂成、9六玉、9八竜、9七金、同竜、同玉、8七成桂となって、以下先手玉は詰み)

≪3三玉図≫(再掲)
 したがって、この図では(2)3一飛成と攻めることになる。後手は4四玉(次の図)

≪4四玉図≫
 この“中段玉”をどう捕まえるか。(「激指」評価値は[-240])
 “中段玉”は捕まえにくいが、しかし先手には四枚の大駒がある。

 <r>4六金、<s>2六角、<t>4六香が候補手。
 以下順に見ていく。


変化4六金図01
 <r>4六金(図)には3三桂(3三歩も有力)。 以下、6一竜、6二歩、3八香(次の図)

変化4六金図02
 後手はここで8五桂。以下、3四香に、7六銀(次の図)

変化4六金図03
 先手玉はまだ詰まないように見えるが、実は“詰めろ”がかかっている。7七銀左成、8九玉、9七桂打、同香、同桂不成、9九玉、9八香、同玉、8七銀成以下。
 よって先手は、3三竜、5四玉として、取った桂馬を7九桂と受けに使う。
 対して後手は7七桂成、9八玉、7五桂(次の図)

変化4六金図04
 後手勝勢。

変化4六金図05
 3八香に代えて、2六角(図)はどうだ。
 3五歩、4五歩、同銀、3五金、5五玉、3三竜、7六桂、9八玉、3四歩(次の図)

変化4六金図06
 後手に金を渡すと先手玉が詰む。なので先手2五金。つらいがここはしかたがない。
 しかし7七銀成、8九香に、8八桂成、同香、7六桂と迫られて―――(次の図)

変化4六金図07
 “受けなし”になった。後手勝ち。

 <r>4六金では、どうやら先手に勝ちはない。


変化2六角図01
 <s>2六角(図)と打って、3五歩に、5九角と金を取るのはどうだろう。
 後手は6五桂と打つ。このままだと、7七桂成、同角、7六桂以下、角がタダ取りされてしまう。
 先手は4九香(次の図)。 王手。

変化2六角図02
 これを4五桂と受けてくれれば、4六歩で先手有望になる。
 後手は持駒の桂馬は攻めに使いたい。よって、4九香には4五銀と受ける。
 以下、6一竜、6二歩、2六角、7七桂成、9八玉、3三桂(次の図)

変化2六角図03
 3五角、5五玉、4五香(3三竜は4四銀がある)、7六銀、8六金、8五桂(次の図)

変化2六角図04
 先手は適当な受けがなくなった。後手勝ち。

 <s>2六角も先手勝てない。


変化4六香図01
 <t>4六香。 どうやらこの手が先手の最強手。
 4五桂と受けるのは、2六角、3五歩、6一竜、6二歩、6五金で、形勢不明(互角)。
 4六香には、後手5五玉で勝負。後手はなるべく二枚の桂馬を攻めに使いたい。
 当然先手は3四竜と銀を取る。
 以下、7六桂、9八玉、7七銀成(次の図)

変化4六香図02
 ここで(1)4五竜とするか、あるいは(2)7九銀と受けるか。

 (1)4五竜、6六玉、5五角、6七玉、7七角、同玉、7九銀、6六桂(次の図)

変化4六香図03
 この図はわずかながら後手が良いようだ。
 8八銀打と打つのは、同桂成、同銀、6八玉、7九金、5八玉、7五竜、同金、同馬、7八銀、6六馬、7九銀不成、同銀、6七歩…、やはり後手良し。 
 8九銀と受けると、5六角、8八金、同桂成、同銀直、6七玉、7五竜、同金、同馬、2九角成(次の図)

変化4六香図04
 やはり少し後手寄りの形勢だ。

変化4六香図05
 戻って、一旦(2)7九銀(図)と受けてみる。 

変化4六香図06 
 後手は6六玉(図)が最善手と思われる。
 そこで先手がどうするか。
 3五竜と、4三香成を考えていく。(4五竜は6七玉で後手良しがはっきりする)

 3五竜は、5五角や6五金を狙うと同時に、場合によっては3八竜のような活用を考えている。6七玉なら3八竜だ。
 とりあえず6五金と打つ手がきびしいので、後手は6四銀上とそれを受ける。
 以下、6一竜、6二歩、4三香成、同金、5一竜、8五桂(次の図)

変化4六香図07
 8五桂(図)と打たれて後手優勢になった。 後手玉に対する有効な攻めがありそうで、ない。
 今の手順、4三香成のところで他に良い手があればというところだが、形勢を先手に引き寄せるほどの手はないようだ。例えば6七歩、同玉、3八竜は、6八桂成と応じて、やはり後手が良い。

変化4六香図08
 戻って、4三香成(図)が有効な攻めで、同金、同竜は、次に4六竜と引く手を見て、先手有望となる。
 よって、後手は8五桂。これでどうなるか。
 対して先手5二成香は、同歩で、その時に8八桂成以下、先手玉が“詰めろ”になっていて、後手良し。

変化4六香図09
 なので、先手は8九角と勝負手を放つ。
 対して6七となら、3六竜、5七玉、4七金、5八玉、5六竜となって、これは先手良しになる。
 後手は4三金が正着。同竜は9七香の一手詰。
 なので先手は3六竜だが、5六香、6一竜、6四歩、4七金(次の図)

変化4六香図10
 4七金(図)で、後手玉に“詰めろ”をかけた。これが先手8九角のねらいだが…
 8八桂成、同銀、同成銀、同玉、7七桂成、9八玉、7八銀(次の図) 

変化4六香図11
 7八銀(図)で、逆に“詰めろ”をかけられた。これは後手優勢がはっきりした。
 それにしても、四枚の飛車角に囲まれても、それに負けないこの後手玉の強靭さよ。「参りました」と言うしかない。

 <t>4六香も先手は勝てなかった。


≪4一飛図≫(再掲)
 この「9六歩8四金型」での「4一飛」(新・黒雲作戦)は、7五銀、7七玉、6六銀左、8八玉、3三玉と対応され、先手が勝てないようだ。
 8四金と後手がここに金を打った後の4一飛は、先手の9三馬を5七馬と引く手がなくなっているので、後手3三玉から“中段玉”にされると捕まえるのが難しくなる。後手としては、なるべく持駒の桂馬を受けに使わないで、玉を捌いてかわすのが最良の応手となった。

 『新・黒雲作戦』は不発に終わった

 
 次回は、上図の4一飛に代えて、“3九香” と打つ攻めを調査してみよう。


                       『終盤探検隊 part93』につづく
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