≪最終一番勝負 第49譜≫ 6七とまで
[闇からうまれた追跡者=グモルク]
それは、そこからずっとずっと離れた、まっ暗な夜の荒れ野で起こった。闇(やみ)が凝集(ぎょうしゅう)し、大きな影のような姿になった。その暗きものはしだいに濃くなり、ついに荒れ野の夜の光一つない闇の中でさえ見わけられるほどになって、暗黒からなる恐ろしい体を現した。輪郭(りんかく)はまだはっきりしなかったが、四本脚で立ち、大きな毛深い頭にある目に緑の火が燃えていた。と、その暗きものは鼻をつきあげ、空気中のにおいを嗅(か)いだ。だいぶ長い間そのまま立っていたが、突然、さがしていたにおいを嗅ぎあてたらしく、低い、勝ちほこったうなりが喉(のど)をついてあがった。
そして、走り出した。音もなく地面をけって大きくとびながら、その影の生きものは、星一つない夜を駆(か)けていった。
* * * *
これと時を同じくして、まっ暗な荒れ野の闇から形をなして現れ出たあの影の生きものが、アトレーユのにおいをつきとめ、憂(うれ)いの沼への道をたどりはじめた。この追跡をさまたげることは、ファンタージエン国のいかなるものにもできなかったであろう。
* * * *
アトレーユをつけていたのは、かれが探索(たんさく)の旅にたつと同時に闇から出てきた、あの生き物だった。時がたつうちにその姿はすっかり濃く固まり、輪郭がはっきりわかるようになっていた。それは牡牛(おうし)ほどもある大きなまっ黒な狼(おおかみ)だった。
(中略)
追われているとは露知らぬアトレーユは、注意ぶかくゆっくりと道をさがして進んでいた。
* * * *
わずかの差でその場に走りついた狼が見たのは、巨大なくもの巣だけだった。ほかにはもぅだれもいなかった。そこまでついていた臭跡(しゅうせき)はぷつりととだえ、どこへいったのか、どうしても見つからなかった。
(『はてしない物語(Die unendliche Geschichte)』ミヒャエル・エンデ著 佐藤真理子訳 より)
ミヒャエル・エンデ作『はてしない物語』の原題は『Die unendliche Geschichte』である。(英訳は『The NeverEnding Story』になる)
これは<ファンタージエン>の世界の物語である。<ファンタージエン>はドイツ語で「Phantasien」になるが、これを日本語に直すと「想像力の国」となるだろうか。人間が想像力でつくった本の中にある架空世界である。
『はてしない物語』は、人間世界の少年バスチアンが『本』のなかに呼び寄せられて入っていく物語となっている。
<ファンタージエン>に、この世界が消滅してしまう危機が訪れているという描写から、この『本』の物語は始まっている。<ファンタージエン>の中心的存在である「女王(幼ごころの君)」は病気に伏し、その世界のいたるところに“虚無”が広がっていて、すべてのものが“無”になっていく。
なぜこういうことになっているのか。この“世界の滅亡”を止めるには何をどうすればいいのか。
それを探索するための勇者に選ばれたのが、少年アトレーユであった。つまりこの『本』の主人公がこの少年である。アトレーユは大草原に住む狩猟の民の一員で、わずか10歳くらいの、濃い緑色の肌と黒髪をもつ少年だった。
「女王=幼ごころの君」の居る中央から遠く離れた大草原の村に住むアトレーユのところに、突然、使者(ケンタウロス)がやってきて、この世界の運命を託される「勇者」に任命されたと知らされたのだった。「女王」に一度の面識さえないアトレーユはびっくりしたが、「女王」に任命されたからには、それを受けるしかない。「女王=幼ごころの君」は、この使命を果すことのできる者は、アトレーユしかいないというのだ。“世界の中心”である「女王」がそういうのだから、そうなのであろう。
アトレーユは世界の滅亡を止めるための“探索の旅”へと出発した。
「グルモク」は、その瞬間に闇の中から誕生した。
「それ」ははじめ影のような存在だったが、やがて「牡牛ほどもある大きなまっ黒な狼」の姿になった。
アトレーユはまず、北をめざした。ずっと北の「憂(うれ)いの沼」に住んでいるという太古の媼(おうな)に会って、その知恵を借りるために。
闇から生まれた「グルモク」はそれを追跡する。
目的は何だろうか。アトレーユを殺して食べるためか。
しかし、<ファンタージエン>はこの世界の全体である。この狼が、アトレーユのこの探索の旅を邪魔する理由がわからない。「グルモク」もまた<ファンタージエン>の中の存在だというのに。
それとも、世の中には、自分の住んでいる“世界の滅亡”を喜ぶ者も存在するということなのだろうか。
<第49譜 「6七と図」 調査結果のまとめ>
今回の譜では、終盤探検隊が、ここまで熱中して調べてきた「6七と図」の調査がついに完了したので、これをまとめておこうと思う。
6七と図
この図について、21個の候補手を調べてきた。その結果、ここから先手勝ちになる道は「14.5通り」発見された。
これに含まれる15の手を、最新ソフトを使って調べてきた我々(終盤探検隊)の“感覚”で、「先手が勝ちやすい順」に1位~15位に並べてみた。次の通りの順になる。
1. 〔橘〕3三香
2. 〔栗〕8九香
3. 〔楓〕2五飛
4. 〔柳〕7八歩
5. 〔桃〕2六香
6. 〔桜〕9七玉
7. 〔杉〕5四歩
8. 〔桐〕9八玉
9. 〔柊〕3七桂
10. 〔柏〕2六飛
11. 〔松〕3三歩成
12. 〔桑〕3七飛
13. 〔楢〕7六歩
14. 〔竹〕5二角成
15. 〔梅〕2五香
以下、この順番で、各手について、「先手の勝ち筋」をなるべく簡略してまとめてみる。
3三香基本図
〔橘〕3三香(第1位) 第38譜(くわしくはこちらで)
この〔橘〕3三香を同桂や同銀と取るのは、あっさり先手が良くなる。たとえば3三同桂、同歩成、同玉(同銀には5二角成)なら、3五飛が決め手になる。以下3四香に、2五桂、2四玉、5五飛で、先手勝勢。
したがって後手は3一銀と応じる。
そこで先手は「5二角成」である。
以下、〈A〉5二同歩 には、4一飛と打つ。これに対する良い受けが後手にない。4二銀引は同飛成で無効だし、4二角と受けても、3一飛成、同角、3二香成、同玉、4一銀、2二玉、3二金、1一玉、2一金以下、後手玉は詰んでしまうのだ。
研究3三香図03
よって、5四角(図)と受けるが…
9七玉に、8一桂、同竜、同角、同飛成、4二銀引(受けないと後手玉は詰む)、3二香成(好手)。
3二香成を同玉は2四桂から後手玉詰み。なので3二同銀だが、先手は5四桂(次の図)
研究3三香図05
5四桂(図)と打って、後手玉は3一角以下の“詰めろ”。 先手優勢である。
後手には4一飛と受けるような手しかないが、同竜、同銀、4二桂成、同銀、4一飛で、攻めが続く。
研究3三香図10
「5二角成」に、〈B〉7五桂を選ぶと、9七玉、7七と、4三馬(図)となる。
後手玉は、3二香成、同銀、3三金以下の詰めろになっているため、ここで後手7六歩のような馬筋を遮断する手が利かない。
だから、8七桂成、同馬、同と、同玉と馬を消す変化を選ぶことになる。
以下、6六銀(代えて4二銀引には4三歩が有効手になる)に、5一竜(次の図)
研究3三香図13
5一竜(図)は、3二香成、同銀、3三金、同銀、同歩成、同玉、5三竜以下の“詰めろ”になっている。
先手優勢である。
以上のように、〔橘〕3三香は、先手にとって難しい変化が少なく、この道が最も先手勝ちやすいと判断した。
というわけで、この〔橘〕3三香が、「勝ちやすさランキング」の1位。
しかし「激指」はこの手にまったく気づいていないようだし、他のソフトもそれほど上位の評価ではない。なぜなのか、わからない。
「3三香」の筋は、強烈だ。この筋は、この調査研究の中に、いろいろなところに出現して、先手の決め手になっている。
人間としては、一度この手を見ておくと、別の場所でも応用できる(実戦中、終盤探検隊はこの3三香の攻め筋を知らなかったために、後手陣攻略に苦労したといえる)
相手にわたす駒が「香」なので、うすい先手玉だが、香車ではすぐには詰ませられないというのが、この香打ちの攻めの有効性をつくりだしている。
8九香基本図
〔栗〕8九香(第2位) 第34譜 第39譜
この手には(1)7六歩、(2)7五桂(以下9七玉、7七と)、(3)6六銀という手が考えられる。
(3)6六銀については、5四歩、同銀、5二角成で、先手が勝てる。
問題は、(1)7六歩だった。以下、7八歩、7五桂、7八と(次の図)
研究8九香図06
これで「後手良し」ということで、「〔栗〕8九香では勝てない」と実戦中に我々は判断して、この手をそれ以上考えなかった。この判断は“うかつ”だった。
(1)7六歩に、7八歩と受けたのが悪手だった。代えて「3三歩成、同銀、5二角成」と攻めていけば先手が勝てる将棋だったのだ。
研究8九香図08
(1)7六歩に、3三歩成(図)としたところ。
以下、同銀、5二角成、同歩、3一飛と打つ。このとき、後手が7六歩を打っているために8一桂、同竜、5四角の王手竜取りの筋がない。
以下、7七歩成、9七玉、7九角には、9八玉とかわして―――
研究8九香図09
先手勝ちの図になっている。
研究8九香図02
(2)7五桂は、以下9七玉、7七とに、7八歩と打つ。
7八同とまたは7六となら、「3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛」の攻めが成立する(後手7九角が詰めろにならないから)
よって後手は7六歩と応じるが、それには8五歩(図)が好手になる。
7四金なら、やはり「3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛」が成立する。7九角に8六玉と逃げるスペースができているから。
よって後手は8五同金とするが、それでも「3三歩成、同銀、5二角成」を決行する。5二同歩に、この場合は7五馬(次の図)だ。
研究8九香図03
7五馬と桂を取って、先手玉にかかっていた“7九角以下の詰めろ”を消した。同金に、3一飛、4二銀左、2一飛成、3三玉に、4五金と打って、先手勝勢(この変化のときに「7八歩、7六歩」の手交換がないと先手負けになる)
「(1)7六歩に3三歩成」の発見と、「(2)7五桂、9七玉、7七と」に対する「7八歩、7六歩、8五歩」の発見が、この勝ち筋にたどりつくカギになっている。
2五飛基本図
〔楓〕2五飛(第3位) 第41譜
7五桂、9七玉、7七と、9八金と進んで、そこで6六銀は2六香で先手が勝てる。
よって、6二金だが―――
研究2五飛図06(3三香図)
3三香(図)と打って、後手陣を攻略できる。以下3三桂、同歩成、同玉のときに、5五飛と、ここで「銀」を補充できるのが、(2六飛でなく)「2五飛」の利点である。この攻めは成功している。
研究2五飛図17(9七玉図)
〔楓〕2五飛に、6六銀の場合は、9七玉(図)とする手が好手となる。
この手は、後手が「7七銀成」と来るのか、「7七と」と来るのか、あるいは「その他の手」なのか、後手の次の手を見て、指し方を決めることができる、という意味である。
「7七と」なら、3三香と打ちこんで、3一銀、8四馬で、攻略できる。その時、4二金という手があるが、6六銀が浮いているので、6六馬と取ることができて、先手が勝ちになる(これが7七銀成型の場合は後手良しになる)
また、「その他の手」として、たとえば3一桂には、3七桂とはねて、7七銀成に4五桂として、先手良しになる。
なので、後手は「7七銀成」が本筋となる。しかし、「7七銀成」には、5二角成がある。
研究2五飛図19(8九香図)
「7七銀成」、5二角成、7五桂、8九香(図)と進んだところ。
ここで後手5二歩なら、3三金と打って後手玉が詰む(これを狙って8九香と受けて金を温存した)
他に指すとすれば、8七成銀、同香、7七とくらいしかないが、3三歩成で、先手が勝ちになる(同銀は3一銀以下詰み。同桂は7五飛~3四桂。同歩にも7五飛とし、同金、同馬で、先手勝ち)
〔楓〕2五飛は、こうしてみると、かなり“勝ちやすい指し方”である。勝ち筋が明快だし、変化も多くない。
ということで、〔楓〕2五飛を3位とした。(ソフト群がこの手を上位に評価しないのは不思議である)
7八歩基本図
〔柳〕7八歩(第4位) 第43譜
「勝ちやすさランキング」の第4位は、〔柳〕7八歩である。これは、後手が(A)7六歩なら、そこで3三香や2五飛で上の〔橘〕3三香や〔楓〕2五飛に実質的に合流するので、「勝ちやすさ」としては、ほぼ同じである。
後手が変化するとすれば、(B)7七歩か(C)7五桂があるが、(B)7七歩はこの瞬間に、「3三歩成、同銀、5二角成」か、「3三香」か、「2五香」で、先手が勝てる。7七歩と後手が打ったその瞬間、後手からの先手玉への攻め筋が7八歩成しかないので、いずれも先手が勝ちやすくなっている。
研究7八歩図15
また、(C)7五桂は有力だが、2五飛(図)と打って、先手が勝てる。
以下、7七と、9八金、6二金、3三香と進み、次の図になる。
研究7八歩図16
こう進んで、上の第3位〔楓〕2五飛に示した図(研究2五飛図06)にほぼ合流している。実際には先手の持ち歩が一歩少なくなっているのだが、この場合、そのことが影響を与えず、「先手良し」である。
2六香基本図
〔桃〕2六香(第5位) 第40譜 第41譜
7五桂と打てば、9七玉、7七と、9八金、6二金という進行になる。これは、〔梅〕2五香の場合と同じ。
しかしこの〔桃〕2六香の場合には、明確に先手良しになる順がここである。
3三歩成(次の図)とするのである。
研究2六香図03
〔梅〕2五香と打った場合には、3三歩成に、同桂が香取りになるので、この手はなかった。
この場合は「2六香型」なので、この手がある。以下3三同桂に、3四歩と打って、先手良しになる。
研究2六香図X1(2四桂図)
しかし、〔桃〕2六香 と打ったときは、7六歩(または6六銀)の場合が大変になる。〔梅〕2五香のときは7六歩には、2六飛と打って簡単に後手陣を攻略できたのだが。
7六歩、7八歩、6六銀、9七玉、7七歩成、同歩、同銀成、2五飛、2四桂(図)と進む。香車と飛車がいわゆる“逆形”になっており、2四桂で先手の攻めが止められてしまう(この桂を打つために後手は7五に桂を打たずに温存したわけである)
これは先手苦戦の図。
ということで、一旦は「後手良し」という結論で終えかけていたこの道の調査が、しかし、次の手に気づいて、また別の展開をみせた。
すなわち、〔桃〕2六香、7六歩、7八歩、6六銀、9七玉、7七歩成、同歩、同銀成のときに、「2三香成」という手があった。
以下、「2三同香」に、「1一飛」と打つ(次の図)
研究2六香図X4
以下、3四玉、2一飛成、7五桂、7九桂、4五玉、2六竜と進めて、その図を調べてみると、どうやら「先手良し」である。先手が金を持っているので、この後手玉は捕まえることができる。
つまり、後手が7五桂を打たず7六歩から6六銀とするこの指し方に対して、この「2三香成~1一飛」が見えていれば、先手が勝てるというわけである。
この攻め筋が見えていない場合には、逆に後手良しになる。つまりこの「2三香成~1一飛」が見えているかどうかが、勝利への関門になっているのである。
9七玉基本図
〔桜〕9七玉(第6位)
〔桜〕9七玉 は、実戦で先手番をもつ我々終盤探検隊が指した手 で、詳しく見ていくのはこの先の譜でということになる。
少し予告しておくと、この手には「千日手」の懸念がある。
〔桜〕9七玉、7七と、7八歩、7六歩と進むと―――
変化9七玉図(千日手図)
以下、7七歩、同歩成、7八歩、7六歩なら、「千日手」となる。
最新ソフト群の評価の中で、「市販版やねうら王2018版」と「dolphin1/Kristallweizen」と「dolphin1/水匠改」が、評価値「9七玉(-1)」と示すのだが、それはこの変化があるからで、つまりそれを選ぶ場合は「千日手やむをえず」と覚悟せよ言うということでもあるのだ。
しかし、今、我々は「千日手回避の順」(もちろん勝つ道だ)があることを知っているので、「先手勝ち筋」の手の中にこれを入れている。
実戦では、どうなったか。それは、これから先のこの物語の楽しみの要素なので、ここでは言えない。
5四歩基本図
〔杉〕5四歩(第7位) 第34譜 第37譜
後手の応手は4通りだが、そのうち、[A]5四同銀、[B]6二銀左、[C]4四銀上は、「5二角成、同歩、4一飛」で、先手良しになる。
[D]7五桂が大変な変化になる。
[D]7五桂、9七玉、7七と、9八金、7六桂、8九香と進む(次の図)
研究5四歩図25
ここで後手は手を戻し、先手の打った5四歩に対応することになる。
(タ)4四銀上、(チ)5四銀、(ツ)6四銀左上 → 「7一飛」で先手良し
(テ)6二銀左 → 「6三歩」で先手良し
というのが、調査結果の結論である。
このうち、(ツ)6四銀左上と(テ)6二銀左のそれぞれの代表的な変化を紹介しておく。
(ツ)6四銀左上には、「7一飛」と打って、そこで後手の手がいろいろあるので変化が広い。
6二金 なら、8五歩と攻め、以下3一玉、5三歩成、同銀右引、5二歩、6一歩、5一歩成、同銀、8四歩、4一玉、8三歩成は先手良し。
他に、6一歩 や 1四歩 が有力手。
(ツ)6四銀左上、「7一飛」、6一歩(同飛成は6二金で後手良し)、7八歩(好手)、同と、5二角成、同歩、6一飛成、7九角、8八香、1四歩、2一飛成、1三玉に、1五桂(次の図)
研究5四歩図46
先手良し。1五同歩なら、1二竜、同玉、1四香以下、後手玉詰み。
研究5四歩図48
「7一飛」に、1四歩 の変化も手強い。これには1五歩とする。
1五歩、6一歩、1四歩、9五歩、同歩、8八桂成、同香、9六歩、同玉、9四歩、9七玉、9五歩、5二角成、同歩、8四馬(次の図)
研究5四歩図56
先手良し。9六歩には同竜と応じ、以下8四銀に、6一飛成が、1三金以下後手玉への“詰めろ”になっているので、先手が勝てる。
研究5四歩図63
(テ)6二銀左(図)の場合。これには「6三歩」と打って先手良しというのが、我々の“戦後研究”の成果だ。
「6三歩」に、同銀は、3三歩成、同銀、5三歩成、9五歩、4三と で、先手良し。
「6三歩」に、同金なら、3三歩成、同銀、4七飛(次の図)がある。
研究5四歩図74(4七飛図)
この図の研究も、「先手良し」の結論となった。
よって、〔杉〕5四歩は先手良しと、これではっきりしたのだが、この調査は変化が多くて大変だった。
しかしソフトの評価値的には、どの変化も+400くらいを維持していて、先手が良さそうな感触はずっとあった。
9八玉基本図
〔桐〕9八玉(第8位) 第44譜
ここから考えられる後手の手は、【1】7七と、【2】7五桂、【3】7六桂
研究9八玉図02
【1】7七とには、「7八歩」(図)と打つのが良い。
7六と なら、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛で、先手良し(後手5四角が王手にならないのでこの攻めが成立する)
7八同とには、2五香(次の図)と打ち、以下6二金、2六飛、1一桂、3三歩成、同玉、3七桂(次の図)
研究9八玉図04
3六飛以下の詰めろ。先手勝勢。
研究9八玉図05
戻って、「7八歩」に、7六歩(図)の変化。
7六歩と打たせたので、角を渡したときの5四角の筋がない。なので、3三歩成、同銀、5二角成と攻める筋が成立する(5二同歩なら、3一飛で先手良し)
以下、7五桂、8九香(次の図)
研究9八玉図06
「9八玉型」なので、5二歩で角を取られても、7九角の王手がないのが大きい。
図以下、4二銀右、4一馬、7八と、3四歩が予想され、先手の一手勝ちになる。
研究9八玉図16
【2】7五桂には、3三香と打つ手があって、これで後手陣を攻略できる。
3一銀なら、5二角成、同歩、4一飛で、先手良しになる。
3三同銀、 同歩成、同玉の場合が難しい。
調査の結果、6一竜が好手である(次の図)
研究9八玉図17(6一飛図)
6一竜(図)は、後手の4二玉とする筋を無効にした意味と、6筋に竜を移動することでこの竜を戦場に近づけた意味がある。次に6五金と打つのが先手のねらいである。
ここで後手は7七とと指したいが、それには3七飛(王手でと金を抜く)がある。
5四銀が考えられるが、その手にも3七飛(後手7七とをけん制している)と打って、以下3四香、3五歩、4六銀、3四歩、4四玉、4八香が予想され、「先手良し」である。
研究9八玉図38(3七飛図)
【3】7六桂 には、3七飛(図)と打つ(この場合は3三香は3一銀、5二角成、7七とで先手負け)
次に3三香とすれば後手陣はだいたい寄りである。
4四銀引と受けると寄らないが、その場合は6七飛とと金を払い、以下の攻防は長くなるが、この戦いも「先手良し」である。
〔桐〕9八玉は、以上のようにして先手が勝てるが、しかしこれで勝てると見極めるのはなかなかに難しい。とくに、【2】7五桂に対する「3三香」と、その後の「6一竜」の発見はできるかどうか。「6一竜」の後の変化も、たしかに先手が良いのだが、後手中段玉のややこしさがある。
好んで飛び込む道ではないように思う。
3七桂基本図
〔柊〕3七桂(第9位) 第42譜
〔柊〕3七桂に、考えられる後手の手は、A.7五桂、B.7六歩、C.6六銀、D.4四銀引がある。
B.7六歩には、3三香と打って、先手良しになる。
D.4四銀引は2六香(2三香成、同玉、1一飛の狙い)、7五桂、9七玉、7七と、9八金、6二金、5二歩で先手が勝てる。
変化7五桂図02(9八金図)
A.7五桂は、9七玉、7七と、9八金(図)と進み、そこで
[1]6六銀、[2]4六銀、[3]7六桂、[4]9五歩 が候補手。
変化7五桂図04
[1]6六銀 には、2六飛と打つ。以下6二金に、3三香(図)で、先手が勝てる。3三同桂、同歩成、同銀、6六飛、4二銀右、2五桂、6一歩、4五桂で、先手が勝てる。
変化7五桂図10
[2]4六銀には、4五桂とし、以下9五歩、8九香、9六歩、同玉、9五歩、9七玉、4四銀に、7一飛(図)で、先手良し。
変化7五桂図22
[3]7六桂には、8九香と受け、そこで後手7八歩には、8五歩で先手良しになる。
9五歩(図)が厳しい迫り方だが―――
これにも8五歩と応じ、8八桂成、同香、同と、同金、8五金、1五桂(図)
変化7五桂図23
先手良し。
8四銀なら2六飛、8四香なら同馬、同銀、2六飛で先手が勝てる。9六歩や9六金も、9八玉以下、先手が勝てる。
変化7五桂図35(7八歩図)
[4]9五歩 に対しては、7八歩(図)と打って、先手良しになる。
7八同となら2六飛。7六歩には2六香。7六とには5二角成と応じて先手良し。
変化6六銀図02
C.6六銀には、4五桂(図)と桂をはねる。以下7七銀成、9七玉、7五桂、8九香、7八とが予想され、そこで―――
変化6六銀図08
3七飛(図)と飛車を打って、先手良し。
このように〔柊〕3七桂とはねて、相手の手を見てから飛車と香車の使い方を決めるこの指し方はたいへんに優秀である。実際、飛車を2六に打ったり、3七に打ったり、8一に打ったりする手が変化に現れるし、香車も、3三香、2六香、8九香と多様な使い方ができている。
〔柊〕3七桂は、先手が攻め手に困るような変化がなく、どれも勝ち切れる。
しかしそれは、研究上の先手の攻めが「正確」だからである。実戦での“勝ちやすさ”を考えるとき、対局者がその「正確な攻め」を指せるかどうか、それが実際的な問題になる。
理論上は先手がはっきり勝ちになるが、先手の手段が多様な分だけ、変化もまた多くなるのが難点ではある。
(変化が多すぎて、ソフトもこの3七桂の手の優秀さを読み切れていないので、それで候補手に挙がらないのだと思われる)
2六飛基本図
〔柏〕2六飛(第10位) 第34譜 第38譜
〔柏〕2六飛 に、後手7六歩では攻めが遅く、2五香以下先手勝ちになる。
よって、〔柏〕2六飛に、7五桂、9七玉、7七と、9八金と進む。先手に金を使わせたのである。
(9八金に代えて8九香もあるところで、その変化は難解。研究上の結果は先手良し)
そこで後手から「8七桂成、同金、同と、同玉、3五金」(次の図)という手段がある。
研究2六飛図16
先手の2六飛が捕まってしまった。これがあるために、ソフトもこの〔柏〕2六飛 の手をあまり評価せず、避ける傾向があるようだ。
しかしさらに深く読めば、ここから5二角成として実は先手良しになるとわかる。
研究2六飛図21
「〔柏〕2六飛、7五桂、9七玉、7七と、9八金」に、「6二金」とする変化が難しい。
以下、「6三歩、7六桂」でこの図である。
ここから、8九香、3一玉、8五歩、4一玉、8四歩、7四銀と進むと後手良しになるようだ。実戦では、我々はこれを読んで、〔柏〕2六飛 では先手勝てないと判断したのだった。
後の研究で、この評価をひっくり返す手が発見された。
研究2六飛図25(7九歩図)
後手7六桂に、8九香に代えて、「7九歩」(図)と打つ受けの妙手があった。
この手は3一玉~4一玉で角を取られたときの7九角を消している。そして8八桂成以下の攻めにも対応しているのである。
このままなら2五香、3一玉、6二歩成で先手が勝てる。
そして3一玉は、2三飛成、4一玉、6二歩成、同銀右、6一竜で先手良し(「7九歩」のおかげでこのときに7九角と打たれない)
よって、後手は8八桂成から攻めてくる手が考えられる。以下同金、同と、同玉、8七金、8九玉と進んだとき、「7九歩」と先受けしてある効果がここで明らかになる。ここで“詰めろ”をかける手段がないのだ。7七歩と打つ(次に6九金を狙う)くらいしかないが、そこで1五桂(または2五香)と打つ手が後手玉への“詰めろ”になり、これで先手が勝てるのである。1五桂に3一玉も、6二歩成、4一玉、5二金、3一玉、4二金以下、後手玉詰み。
〔柏〕2六飛 は、後手に3五金と打たれたとき5二角成で先手良しになるということと、6二金以下の変化の「7九歩」の受けの手が発見できるかどうかが、「勝ち」への道へ進むカギとなる。この2つの難所がクリアーできれば、〔柏〕2六飛 で先手が勝てる。
3三歩成基本図
〔松〕3三歩成(第11位) 第34譜 第35譜
〔松〕3三歩成 は、同銀に、5二角成と攻める意味。角を切る決断の攻めである。
この手は、我々終盤探検隊が、「6七歩図」で最も期待をかけていた手で、できればこの手で勝ちたかった。しかし結局、「勝ち筋」を見つけられず、この道を行くことは断念したのであった。
“戦後”の調査研究で、やはり「先手勝ち筋」があったことがわかった。
〔松〕3三歩成、同銀、5二角成、同歩に、「3一金」(次の図)と打つのがこの場合は正解だったのである。
3一金図
実戦中、我々は「3一飛」と「4一飛」で勝つ道を探していた。しかし、この「3一金」(図)は読まなかった手である。
「3一金」は“詰めろ”だが、ここから後手1四歩の後、どうやって後手玉を捕まえるか("入玉"を阻止するか)が難しい。
1四歩、2一金、1三玉、2五桂、2四玉、3三桂成、3五玉、4八香(次の図)
変化3一金図16
4八香(図)と打ったところ。
これを4六桂は、2五飛、同玉、3四銀、3五玉、3六歩以下詰みがある。ここで「後手4六桂がない」というのが重要なポイントで、これでどうやら先手が良くなる可能性が出てきた。
この変化を見極めていないと、「3一金」は打てない金だったわけである。
ここで後手にはまだ7七との技があり、同となら6六角があるので9八玉と逃げるが、6五角に、7六歩と応じて―――
変化3一金図19
先手玉は詰まず、ここで後手は「4七桂」か、「7六同角、8九玉、6七角成、9八玉、4六桂」を選ぶことになるが、どちらの変化も、調べていくと、「先手良し」になるとわかった。
〔松〕3三歩成 はこのように、先手の勝ち筋があることが“戦後調査”で確認された。しかし、3五玉に「4八香で勝っている」と前の段階から見極めるのは難しく、実戦でこの筋を発見できなかったのはしかたがないとも思える。
(なお、〔松〕3三歩成、同銀、5二角成、同歩に、「4一飛」あるいは「3一飛」でも、「先手勝ち筋」は存在することが、“戦後調査”ではわかった。ただし、それは超難解な手順になる)
3七飛基本図
〔桑〕3七飛(第12位) 第47譜
〔桑〕3七飛 と3筋に飛車を打つ手。次に3三香と打つと、後手陣はほぼ崩壊する。
だから後手は7五桂、9七玉、7七とと詰めろを先手玉にかけて金や香を受けに使わせたいのだが、この場合は、7七とを同飛と取るがあって7七とは指せない。
こうしてみると、3七飛は相当に優れた手に見えるが、ここで3一銀と受けられたときの手がむずかしい(こんどは3三香は4二金で、後手良しになる)
研究3七飛図31
しかし、我々の研究調査の結果、3一銀に、2五香(図)で、先手良しになることがわかった。香の打ち場所は「2五」でなければいけない。これは後手に4六銀と来られた時に、3六飛とするが、そこで4四銀なら2六飛で先手が指せるという意味である(4六飛は先手負け)
2五香に、4二銀引なら、9七玉とし、以下7五桂に、そこで先手の指し手が難しかったが―――
研究3七飛図42
我々の研究は、7一竜(図)を発見し、これで先手が勝てることがわかった。
〔桑〕3七飛 は優れた手であるが、3一銀と受けられた時の応手が難しい。「2五香」と「7一竜」の発見はたいへん。
というわけで、12位。
7六歩基本図
〔楢〕7六歩(第13位) 第48譜
〔楢〕7六歩、6六銀、9七玉、7七銀成は、こう進むところ。
そこで、2六飛 を最初に研究したが、それは後手良し となった。
もともと「7六歩では勝てそうにない」という先入観があったので、後手良しを結論としかけていたが、念のためにとさらに調べて、次の手を発見した。
研究7六歩図17(3七桂図)
「3七桂」(図)と指して、飛車と香車を持駒として温存しておく。この手が“正解”だった。
「3七桂」に、7六成銀や7六桂(これらが後手の指したい手なのだが)なら、3三香で、先手が勝てる。以下3一銀には8四馬が後手玉への詰めろ(3三金以下)になる。
よってここは、「3一銀」が後手最強の応手となるが、「2五香」(次の図)と打って攻略できる。
研究7六歩図40(2五香図)
「2五香」(図)がベストの手。4二金の手には6三馬~4五馬を用意し、また、後手の狙いの7六成銀(7六桂)には、8四馬(2三香成以下後手玉への詰めろ)で、先手が勝てる。また4二銀引なら、2六飛がある。
ここで後手の最強手は、「4四銀」である。こんどは2六飛だと、1一桂で、そう進むと先手勝てない。
この場合は、「5三歩」と打って、以下「4二金、6三角成」と進む。
そこで「7八と」(次の8八とが見かけ以上に厳しくそう進むと"受けなし"になる)には、「3三歩成」(次の図)と指す。
研究7六歩図74
「3三歩成」が好手である。同玉は5一竜が4二竜以下詰めろになる。同歩も、5一竜が、4二竜、同銀、2三香成、同玉、2四金以下の“詰めろ”。そして、3三同桂は、5一竜が、2一金、同玉、1一飛以下の“詰めろ”になっている(この詰み筋を残しておくために、2六飛と打ってはいけないのだった)
よって「3三歩成」には「同銀」しかない(先手にとって同銀に限定できたことが大きい)
そこで、「4五馬」(詰めろ)と指せる。以下3四桂、2三香成、1一玉に、5五馬
研究7六歩図77
5五馬(図)として、後手の狙いの8八とを受け、以下2二歩(この一手)、1二成香、同玉に、1五歩として1筋の攻めをねらいにする。先手良し。
こうして、〔楢〕7六歩には、3七桂とはねる手が優秀で、これで先手良しになると確定したのであった。
「3七桂とはねる手」、(2六ではなく)「2五香と打つ手」、そしていまの「3三歩成」のタイミング、どれも気づきにくい、選択の難しい手である。よってこの勝ち筋を見つける難易度は高いと思い、13位とした。
5二角成基本図
〔竹〕5二角成(第14位) 第36譜
「6七と図」についての我々の調査研究で確定した「先手勝ち筋」の中で、最も難易度の高い手と考えているのが、この〔竹〕5二角成である。
〔竹〕5二角成 は、同歩なら、3三歩成で先手に勝ち筋が存在する。同銀に、3一金と打つ。
つまりこの変化は「〔松〕3三歩成、同銀、5二角成」の変化に合流している。その変化を、「先に5二角成と指した」ということになり、この場合、3三歩成に銀以外の駒で取る手は先手勝ちになるので、この手順前後は成立するようである。
問題は、5二角成に、7五桂の場合で、以下9七玉、7七と、9八金、5二歩と進む。こうなるともう3三歩成は入らない。
以下の研究手順は、7一飛、7九角、8八香、1四歩、8九金(次の図)
研究5二角成図09
研究調査では、以下、先手良しとなった。しかし、これは変化も広く、難解な図である。
もともと、「5二角成、同歩、3三歩成、同銀、3一金」という〔松〕3三歩成と合流する変化も(上に書いたとおり)難解さを含んでいる変化なので11位と低順位に置いているのだが、その上にこの変化も克服しなければ勝ちが見えないとなれば、これはそうとう高い壁が目の前に立ちはだかっているようなものである。
というわけで、〔竹〕5二角成 は、「先手勝ち筋」の一つとはしているが、その道筋をを実戦で見つけるのはハードルが多く、難易度は最高ランクに位置付けた。
2五香基本図
〔梅〕2五香(第15位) 第34譜 第36譜 第40譜
〔梅〕2五香 については、「先手の勝ち筋」が具体的に見つかっていない。
ただし、全体的には、先手が勝てそうな感じはある。
しかし、具体的な手順を特定できないのである。先手後手どちらも手が広く、それで「勝ち筋」を絞れ切れないところがある。
想定されるのは次の手順である。
〔梅〕2五香、7五桂、9七玉、7七と、9八金、6二金、2三香成、同玉、2五飛、2四歩、5五飛、6九金(次の図)
変化2五香図03
ここからの、正しい先手の指し方がわからない。
なので、「形勢不明(互角)」としている。 (「dolphin1/Kristallweizen」 評価値は +86)
変化の一例を示すと、3三歩成、同玉、5七飛、6七歩、7八歩、7六と、3七飛、4四玉(次の図)
変化2五香図03b
こう進むと、感覚的には先手良しに思えし、ソフトの評価もプラスになっているのだが、さらに調べていくと、「そうでもない」と変わってくる。
ここで「3二飛成」、「6五歩」、「6三歩」、「7七歩(同とに4六銀と打つ)」などが候補手だが、どれも「互角」で、それ以上にはなかなかならない。
最新ソフト「dolphin1/Kristallweizen」のこの図の評価値も +503 だから、これを見ても先手が良さそうに思える。このソフトの推す手は「3二飛成」である。
しかし、3二飛成、3三桂、7七歩、同と、4六銀、5四銀、7八歩、5五銀と進んで、やはり「互角」としか言えない。先を進めてみると、ソフトの評価値もゼロに近い値になる。
「勝ち筋」があるかもしれないが、「いまだ見つかっていない」というのが、この〔梅〕2五香 の道である。ここまで頑張って「勝ち筋」を特定できないということは、あるいは本当は先手が悪いのかもしれないとも思う。
〔梅〕2五香 の手は、各コンピューター・ソフトが上位に挙げている。
にもかかわらず、このように実際に精査して調べてみると、「限りなく互角」というような結論になっているのである。
実戦では、我々も、〔梅〕2五香 は、「9七玉の次に有力」と見ていて、もしも「激指14」が〔桜〕9七玉 の手を第一候補手としていなかったら、〔梅〕2五香を選んだ可能性が高い。そして、これを選んでいたら、この“勝てるかどうかわからない互角の勝負”を余儀なくされていたであろう。
6七と図(再掲)
終盤探検隊的「勝ちやすさランキング」をもう一度示しておく。
そして付け加えたカッコ内の数値は、調査を終えたあとの終盤探検隊による主観的感覚的評価値。
1. 〔橘〕3三香 (+1200)
2. 〔栗〕8九香 (+600)
3. 〔楓〕2五飛 (+500)
4. 〔柳〕7八歩 (+450)
5. 〔桃〕2六香 (+300)
6. 〔桜〕9七玉 (+250)
7. 〔杉〕5四歩 (+150)
8. 〔桐〕9八玉 (+100)
9. 〔柊〕3七桂 (+90)
10. 〔柏〕2六飛 (+80)
11. 〔松〕3三歩成 (+50)
12. 〔桑〕3七飛 (+40)
13. 〔楢〕7六歩 (+30)
14. 〔竹〕5二角成 (+1)
15. 〔梅〕2五香 (-40)
なお、「最終戦争一番勝負」の実戦中に出した我々の結論は、次のようなものであった。参考までにもう一度掲げておく。(読みの内容は第34譜で)
6七と図
〔松〕3三歩成 → 後手良し
〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い)
〔栗〕8九香 → 後手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 形勢不明
〔柏〕2六飛 → 形勢不明
〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
〔桐〕9八玉 → 「激指14」は第2位の候補(評価値-417)に挙げていたが、実戦中は調査しなかった。
戦闘中、頼りにしていた我々の相棒は、「激指14」であった。
そして我々が最も指したいと思っていた手は〔松〕3三歩成だったが、この手で「勝ち筋」が見つけられなかった(後で調べてみても実際難しい手順になる)
そして次なる期待は〔梅〕2五香、および〔桜〕9七玉であった。「どちらを選ぶか」という選択になった。
我々の読みでは、一応、「〔梅〕2五香で先手良し」という読みにはなっていたが、後の変化に自信が持てなかった。
〔桜〕9七玉の読みも不十分ではあったが、「激指14」が“一推し”だということで、それにこの手も“感覚的”にも、指したい手であったので、それで結局、〔桜〕9七玉を選んだ のである。
(〔梅〕2五香では、“戦後調査”では、「先手の勝ち筋」を発見できなかった。この手を選ばなかったのは運がよかったかもしれない)
また、〔桐〕9八玉は、「激指14」は第2位の候補(評価値-417)に挙げていたが、これは指す気がしなかったので、実戦では調べなかった。“戦後”に調べて、これも良しになるとわかった。
第50譜につづく
[闇からうまれた追跡者=グモルク]
それは、そこからずっとずっと離れた、まっ暗な夜の荒れ野で起こった。闇(やみ)が凝集(ぎょうしゅう)し、大きな影のような姿になった。その暗きものはしだいに濃くなり、ついに荒れ野の夜の光一つない闇の中でさえ見わけられるほどになって、暗黒からなる恐ろしい体を現した。輪郭(りんかく)はまだはっきりしなかったが、四本脚で立ち、大きな毛深い頭にある目に緑の火が燃えていた。と、その暗きものは鼻をつきあげ、空気中のにおいを嗅(か)いだ。だいぶ長い間そのまま立っていたが、突然、さがしていたにおいを嗅ぎあてたらしく、低い、勝ちほこったうなりが喉(のど)をついてあがった。
そして、走り出した。音もなく地面をけって大きくとびながら、その影の生きものは、星一つない夜を駆(か)けていった。
* * * *
これと時を同じくして、まっ暗な荒れ野の闇から形をなして現れ出たあの影の生きものが、アトレーユのにおいをつきとめ、憂(うれ)いの沼への道をたどりはじめた。この追跡をさまたげることは、ファンタージエン国のいかなるものにもできなかったであろう。
* * * *
アトレーユをつけていたのは、かれが探索(たんさく)の旅にたつと同時に闇から出てきた、あの生き物だった。時がたつうちにその姿はすっかり濃く固まり、輪郭がはっきりわかるようになっていた。それは牡牛(おうし)ほどもある大きなまっ黒な狼(おおかみ)だった。
(中略)
追われているとは露知らぬアトレーユは、注意ぶかくゆっくりと道をさがして進んでいた。
* * * *
わずかの差でその場に走りついた狼が見たのは、巨大なくもの巣だけだった。ほかにはもぅだれもいなかった。そこまでついていた臭跡(しゅうせき)はぷつりととだえ、どこへいったのか、どうしても見つからなかった。
(『はてしない物語(Die unendliche Geschichte)』ミヒャエル・エンデ著 佐藤真理子訳 より)
ミヒャエル・エンデ作『はてしない物語』の原題は『Die unendliche Geschichte』である。(英訳は『The NeverEnding Story』になる)
これは<ファンタージエン>の世界の物語である。<ファンタージエン>はドイツ語で「Phantasien」になるが、これを日本語に直すと「想像力の国」となるだろうか。人間が想像力でつくった本の中にある架空世界である。
『はてしない物語』は、人間世界の少年バスチアンが『本』のなかに呼び寄せられて入っていく物語となっている。
<ファンタージエン>に、この世界が消滅してしまう危機が訪れているという描写から、この『本』の物語は始まっている。<ファンタージエン>の中心的存在である「女王(幼ごころの君)」は病気に伏し、その世界のいたるところに“虚無”が広がっていて、すべてのものが“無”になっていく。
なぜこういうことになっているのか。この“世界の滅亡”を止めるには何をどうすればいいのか。
それを探索するための勇者に選ばれたのが、少年アトレーユであった。つまりこの『本』の主人公がこの少年である。アトレーユは大草原に住む狩猟の民の一員で、わずか10歳くらいの、濃い緑色の肌と黒髪をもつ少年だった。
「女王=幼ごころの君」の居る中央から遠く離れた大草原の村に住むアトレーユのところに、突然、使者(ケンタウロス)がやってきて、この世界の運命を託される「勇者」に任命されたと知らされたのだった。「女王」に一度の面識さえないアトレーユはびっくりしたが、「女王」に任命されたからには、それを受けるしかない。「女王=幼ごころの君」は、この使命を果すことのできる者は、アトレーユしかいないというのだ。“世界の中心”である「女王」がそういうのだから、そうなのであろう。
アトレーユは世界の滅亡を止めるための“探索の旅”へと出発した。
「グルモク」は、その瞬間に闇の中から誕生した。
「それ」ははじめ影のような存在だったが、やがて「牡牛ほどもある大きなまっ黒な狼」の姿になった。
アトレーユはまず、北をめざした。ずっと北の「憂(うれ)いの沼」に住んでいるという太古の媼(おうな)に会って、その知恵を借りるために。
闇から生まれた「グルモク」はそれを追跡する。
目的は何だろうか。アトレーユを殺して食べるためか。
しかし、<ファンタージエン>はこの世界の全体である。この狼が、アトレーユのこの探索の旅を邪魔する理由がわからない。「グルモク」もまた<ファンタージエン>の中の存在だというのに。
それとも、世の中には、自分の住んでいる“世界の滅亡”を喜ぶ者も存在するということなのだろうか。
<第49譜 「6七と図」 調査結果のまとめ>
今回の譜では、終盤探検隊が、ここまで熱中して調べてきた「6七と図」の調査がついに完了したので、これをまとめておこうと思う。
6七と図
この図について、21個の候補手を調べてきた。その結果、ここから先手勝ちになる道は「14.5通り」発見された。
これに含まれる15の手を、最新ソフトを使って調べてきた我々(終盤探検隊)の“感覚”で、「先手が勝ちやすい順」に1位~15位に並べてみた。次の通りの順になる。
1. 〔橘〕3三香
2. 〔栗〕8九香
3. 〔楓〕2五飛
4. 〔柳〕7八歩
5. 〔桃〕2六香
6. 〔桜〕9七玉
7. 〔杉〕5四歩
8. 〔桐〕9八玉
9. 〔柊〕3七桂
10. 〔柏〕2六飛
11. 〔松〕3三歩成
12. 〔桑〕3七飛
13. 〔楢〕7六歩
14. 〔竹〕5二角成
15. 〔梅〕2五香
以下、この順番で、各手について、「先手の勝ち筋」をなるべく簡略してまとめてみる。
3三香基本図
〔橘〕3三香(第1位) 第38譜(くわしくはこちらで)
この〔橘〕3三香を同桂や同銀と取るのは、あっさり先手が良くなる。たとえば3三同桂、同歩成、同玉(同銀には5二角成)なら、3五飛が決め手になる。以下3四香に、2五桂、2四玉、5五飛で、先手勝勢。
したがって後手は3一銀と応じる。
そこで先手は「5二角成」である。
以下、〈A〉5二同歩 には、4一飛と打つ。これに対する良い受けが後手にない。4二銀引は同飛成で無効だし、4二角と受けても、3一飛成、同角、3二香成、同玉、4一銀、2二玉、3二金、1一玉、2一金以下、後手玉は詰んでしまうのだ。
研究3三香図03
よって、5四角(図)と受けるが…
9七玉に、8一桂、同竜、同角、同飛成、4二銀引(受けないと後手玉は詰む)、3二香成(好手)。
3二香成を同玉は2四桂から後手玉詰み。なので3二同銀だが、先手は5四桂(次の図)
研究3三香図05
5四桂(図)と打って、後手玉は3一角以下の“詰めろ”。 先手優勢である。
後手には4一飛と受けるような手しかないが、同竜、同銀、4二桂成、同銀、4一飛で、攻めが続く。
研究3三香図10
「5二角成」に、〈B〉7五桂を選ぶと、9七玉、7七と、4三馬(図)となる。
後手玉は、3二香成、同銀、3三金以下の詰めろになっているため、ここで後手7六歩のような馬筋を遮断する手が利かない。
だから、8七桂成、同馬、同と、同玉と馬を消す変化を選ぶことになる。
以下、6六銀(代えて4二銀引には4三歩が有効手になる)に、5一竜(次の図)
研究3三香図13
5一竜(図)は、3二香成、同銀、3三金、同銀、同歩成、同玉、5三竜以下の“詰めろ”になっている。
先手優勢である。
以上のように、〔橘〕3三香は、先手にとって難しい変化が少なく、この道が最も先手勝ちやすいと判断した。
というわけで、この〔橘〕3三香が、「勝ちやすさランキング」の1位。
しかし「激指」はこの手にまったく気づいていないようだし、他のソフトもそれほど上位の評価ではない。なぜなのか、わからない。
「3三香」の筋は、強烈だ。この筋は、この調査研究の中に、いろいろなところに出現して、先手の決め手になっている。
人間としては、一度この手を見ておくと、別の場所でも応用できる(実戦中、終盤探検隊はこの3三香の攻め筋を知らなかったために、後手陣攻略に苦労したといえる)
相手にわたす駒が「香」なので、うすい先手玉だが、香車ではすぐには詰ませられないというのが、この香打ちの攻めの有効性をつくりだしている。
8九香基本図
〔栗〕8九香(第2位) 第34譜 第39譜
この手には(1)7六歩、(2)7五桂(以下9七玉、7七と)、(3)6六銀という手が考えられる。
(3)6六銀については、5四歩、同銀、5二角成で、先手が勝てる。
問題は、(1)7六歩だった。以下、7八歩、7五桂、7八と(次の図)
研究8九香図06
これで「後手良し」ということで、「〔栗〕8九香では勝てない」と実戦中に我々は判断して、この手をそれ以上考えなかった。この判断は“うかつ”だった。
(1)7六歩に、7八歩と受けたのが悪手だった。代えて「3三歩成、同銀、5二角成」と攻めていけば先手が勝てる将棋だったのだ。
研究8九香図08
(1)7六歩に、3三歩成(図)としたところ。
以下、同銀、5二角成、同歩、3一飛と打つ。このとき、後手が7六歩を打っているために8一桂、同竜、5四角の王手竜取りの筋がない。
以下、7七歩成、9七玉、7九角には、9八玉とかわして―――
研究8九香図09
先手勝ちの図になっている。
研究8九香図02
(2)7五桂は、以下9七玉、7七とに、7八歩と打つ。
7八同とまたは7六となら、「3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛」の攻めが成立する(後手7九角が詰めろにならないから)
よって後手は7六歩と応じるが、それには8五歩(図)が好手になる。
7四金なら、やはり「3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛」が成立する。7九角に8六玉と逃げるスペースができているから。
よって後手は8五同金とするが、それでも「3三歩成、同銀、5二角成」を決行する。5二同歩に、この場合は7五馬(次の図)だ。
研究8九香図03
7五馬と桂を取って、先手玉にかかっていた“7九角以下の詰めろ”を消した。同金に、3一飛、4二銀左、2一飛成、3三玉に、4五金と打って、先手勝勢(この変化のときに「7八歩、7六歩」の手交換がないと先手負けになる)
「(1)7六歩に3三歩成」の発見と、「(2)7五桂、9七玉、7七と」に対する「7八歩、7六歩、8五歩」の発見が、この勝ち筋にたどりつくカギになっている。
2五飛基本図
〔楓〕2五飛(第3位) 第41譜
7五桂、9七玉、7七と、9八金と進んで、そこで6六銀は2六香で先手が勝てる。
よって、6二金だが―――
研究2五飛図06(3三香図)
3三香(図)と打って、後手陣を攻略できる。以下3三桂、同歩成、同玉のときに、5五飛と、ここで「銀」を補充できるのが、(2六飛でなく)「2五飛」の利点である。この攻めは成功している。
研究2五飛図17(9七玉図)
〔楓〕2五飛に、6六銀の場合は、9七玉(図)とする手が好手となる。
この手は、後手が「7七銀成」と来るのか、「7七と」と来るのか、あるいは「その他の手」なのか、後手の次の手を見て、指し方を決めることができる、という意味である。
「7七と」なら、3三香と打ちこんで、3一銀、8四馬で、攻略できる。その時、4二金という手があるが、6六銀が浮いているので、6六馬と取ることができて、先手が勝ちになる(これが7七銀成型の場合は後手良しになる)
また、「その他の手」として、たとえば3一桂には、3七桂とはねて、7七銀成に4五桂として、先手良しになる。
なので、後手は「7七銀成」が本筋となる。しかし、「7七銀成」には、5二角成がある。
研究2五飛図19(8九香図)
「7七銀成」、5二角成、7五桂、8九香(図)と進んだところ。
ここで後手5二歩なら、3三金と打って後手玉が詰む(これを狙って8九香と受けて金を温存した)
他に指すとすれば、8七成銀、同香、7七とくらいしかないが、3三歩成で、先手が勝ちになる(同銀は3一銀以下詰み。同桂は7五飛~3四桂。同歩にも7五飛とし、同金、同馬で、先手勝ち)
〔楓〕2五飛は、こうしてみると、かなり“勝ちやすい指し方”である。勝ち筋が明快だし、変化も多くない。
ということで、〔楓〕2五飛を3位とした。(ソフト群がこの手を上位に評価しないのは不思議である)
7八歩基本図
〔柳〕7八歩(第4位) 第43譜
「勝ちやすさランキング」の第4位は、〔柳〕7八歩である。これは、後手が(A)7六歩なら、そこで3三香や2五飛で上の〔橘〕3三香や〔楓〕2五飛に実質的に合流するので、「勝ちやすさ」としては、ほぼ同じである。
後手が変化するとすれば、(B)7七歩か(C)7五桂があるが、(B)7七歩はこの瞬間に、「3三歩成、同銀、5二角成」か、「3三香」か、「2五香」で、先手が勝てる。7七歩と後手が打ったその瞬間、後手からの先手玉への攻め筋が7八歩成しかないので、いずれも先手が勝ちやすくなっている。
研究7八歩図15
また、(C)7五桂は有力だが、2五飛(図)と打って、先手が勝てる。
以下、7七と、9八金、6二金、3三香と進み、次の図になる。
研究7八歩図16
こう進んで、上の第3位〔楓〕2五飛に示した図(研究2五飛図06)にほぼ合流している。実際には先手の持ち歩が一歩少なくなっているのだが、この場合、そのことが影響を与えず、「先手良し」である。
2六香基本図
〔桃〕2六香(第5位) 第40譜 第41譜
7五桂と打てば、9七玉、7七と、9八金、6二金という進行になる。これは、〔梅〕2五香の場合と同じ。
しかしこの〔桃〕2六香の場合には、明確に先手良しになる順がここである。
3三歩成(次の図)とするのである。
研究2六香図03
〔梅〕2五香と打った場合には、3三歩成に、同桂が香取りになるので、この手はなかった。
この場合は「2六香型」なので、この手がある。以下3三同桂に、3四歩と打って、先手良しになる。
研究2六香図X1(2四桂図)
しかし、〔桃〕2六香 と打ったときは、7六歩(または6六銀)の場合が大変になる。〔梅〕2五香のときは7六歩には、2六飛と打って簡単に後手陣を攻略できたのだが。
7六歩、7八歩、6六銀、9七玉、7七歩成、同歩、同銀成、2五飛、2四桂(図)と進む。香車と飛車がいわゆる“逆形”になっており、2四桂で先手の攻めが止められてしまう(この桂を打つために後手は7五に桂を打たずに温存したわけである)
これは先手苦戦の図。
ということで、一旦は「後手良し」という結論で終えかけていたこの道の調査が、しかし、次の手に気づいて、また別の展開をみせた。
すなわち、〔桃〕2六香、7六歩、7八歩、6六銀、9七玉、7七歩成、同歩、同銀成のときに、「2三香成」という手があった。
以下、「2三同香」に、「1一飛」と打つ(次の図)
研究2六香図X4
以下、3四玉、2一飛成、7五桂、7九桂、4五玉、2六竜と進めて、その図を調べてみると、どうやら「先手良し」である。先手が金を持っているので、この後手玉は捕まえることができる。
つまり、後手が7五桂を打たず7六歩から6六銀とするこの指し方に対して、この「2三香成~1一飛」が見えていれば、先手が勝てるというわけである。
この攻め筋が見えていない場合には、逆に後手良しになる。つまりこの「2三香成~1一飛」が見えているかどうかが、勝利への関門になっているのである。
9七玉基本図
〔桜〕9七玉(第6位)
〔桜〕9七玉 は、実戦で先手番をもつ我々終盤探検隊が指した手 で、詳しく見ていくのはこの先の譜でということになる。
少し予告しておくと、この手には「千日手」の懸念がある。
〔桜〕9七玉、7七と、7八歩、7六歩と進むと―――
変化9七玉図(千日手図)
以下、7七歩、同歩成、7八歩、7六歩なら、「千日手」となる。
最新ソフト群の評価の中で、「市販版やねうら王2018版」と「dolphin1/Kristallweizen」と「dolphin1/水匠改」が、評価値「9七玉(-1)」と示すのだが、それはこの変化があるからで、つまりそれを選ぶ場合は「千日手やむをえず」と覚悟せよ言うということでもあるのだ。
しかし、今、我々は「千日手回避の順」(もちろん勝つ道だ)があることを知っているので、「先手勝ち筋」の手の中にこれを入れている。
実戦では、どうなったか。それは、これから先のこの物語の楽しみの要素なので、ここでは言えない。
5四歩基本図
〔杉〕5四歩(第7位) 第34譜 第37譜
後手の応手は4通りだが、そのうち、[A]5四同銀、[B]6二銀左、[C]4四銀上は、「5二角成、同歩、4一飛」で、先手良しになる。
[D]7五桂が大変な変化になる。
[D]7五桂、9七玉、7七と、9八金、7六桂、8九香と進む(次の図)
研究5四歩図25
ここで後手は手を戻し、先手の打った5四歩に対応することになる。
(タ)4四銀上、(チ)5四銀、(ツ)6四銀左上 → 「7一飛」で先手良し
(テ)6二銀左 → 「6三歩」で先手良し
というのが、調査結果の結論である。
このうち、(ツ)6四銀左上と(テ)6二銀左のそれぞれの代表的な変化を紹介しておく。
(ツ)6四銀左上には、「7一飛」と打って、そこで後手の手がいろいろあるので変化が広い。
6二金 なら、8五歩と攻め、以下3一玉、5三歩成、同銀右引、5二歩、6一歩、5一歩成、同銀、8四歩、4一玉、8三歩成は先手良し。
他に、6一歩 や 1四歩 が有力手。
(ツ)6四銀左上、「7一飛」、6一歩(同飛成は6二金で後手良し)、7八歩(好手)、同と、5二角成、同歩、6一飛成、7九角、8八香、1四歩、2一飛成、1三玉に、1五桂(次の図)
研究5四歩図46
先手良し。1五同歩なら、1二竜、同玉、1四香以下、後手玉詰み。
研究5四歩図48
「7一飛」に、1四歩 の変化も手強い。これには1五歩とする。
1五歩、6一歩、1四歩、9五歩、同歩、8八桂成、同香、9六歩、同玉、9四歩、9七玉、9五歩、5二角成、同歩、8四馬(次の図)
研究5四歩図56
先手良し。9六歩には同竜と応じ、以下8四銀に、6一飛成が、1三金以下後手玉への“詰めろ”になっているので、先手が勝てる。
研究5四歩図63
(テ)6二銀左(図)の場合。これには「6三歩」と打って先手良しというのが、我々の“戦後研究”の成果だ。
「6三歩」に、同銀は、3三歩成、同銀、5三歩成、9五歩、4三と で、先手良し。
「6三歩」に、同金なら、3三歩成、同銀、4七飛(次の図)がある。
研究5四歩図74(4七飛図)
この図の研究も、「先手良し」の結論となった。
よって、〔杉〕5四歩は先手良しと、これではっきりしたのだが、この調査は変化が多くて大変だった。
しかしソフトの評価値的には、どの変化も+400くらいを維持していて、先手が良さそうな感触はずっとあった。
9八玉基本図
〔桐〕9八玉(第8位) 第44譜
ここから考えられる後手の手は、【1】7七と、【2】7五桂、【3】7六桂
研究9八玉図02
【1】7七とには、「7八歩」(図)と打つのが良い。
7六と なら、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛で、先手良し(後手5四角が王手にならないのでこの攻めが成立する)
7八同とには、2五香(次の図)と打ち、以下6二金、2六飛、1一桂、3三歩成、同玉、3七桂(次の図)
研究9八玉図04
3六飛以下の詰めろ。先手勝勢。
研究9八玉図05
戻って、「7八歩」に、7六歩(図)の変化。
7六歩と打たせたので、角を渡したときの5四角の筋がない。なので、3三歩成、同銀、5二角成と攻める筋が成立する(5二同歩なら、3一飛で先手良し)
以下、7五桂、8九香(次の図)
研究9八玉図06
「9八玉型」なので、5二歩で角を取られても、7九角の王手がないのが大きい。
図以下、4二銀右、4一馬、7八と、3四歩が予想され、先手の一手勝ちになる。
研究9八玉図16
【2】7五桂には、3三香と打つ手があって、これで後手陣を攻略できる。
3一銀なら、5二角成、同歩、4一飛で、先手良しになる。
3三同銀、 同歩成、同玉の場合が難しい。
調査の結果、6一竜が好手である(次の図)
研究9八玉図17(6一飛図)
6一竜(図)は、後手の4二玉とする筋を無効にした意味と、6筋に竜を移動することでこの竜を戦場に近づけた意味がある。次に6五金と打つのが先手のねらいである。
ここで後手は7七とと指したいが、それには3七飛(王手でと金を抜く)がある。
5四銀が考えられるが、その手にも3七飛(後手7七とをけん制している)と打って、以下3四香、3五歩、4六銀、3四歩、4四玉、4八香が予想され、「先手良し」である。
研究9八玉図38(3七飛図)
【3】7六桂 には、3七飛(図)と打つ(この場合は3三香は3一銀、5二角成、7七とで先手負け)
次に3三香とすれば後手陣はだいたい寄りである。
4四銀引と受けると寄らないが、その場合は6七飛とと金を払い、以下の攻防は長くなるが、この戦いも「先手良し」である。
〔桐〕9八玉は、以上のようにして先手が勝てるが、しかしこれで勝てると見極めるのはなかなかに難しい。とくに、【2】7五桂に対する「3三香」と、その後の「6一竜」の発見はできるかどうか。「6一竜」の後の変化も、たしかに先手が良いのだが、後手中段玉のややこしさがある。
好んで飛び込む道ではないように思う。
3七桂基本図
〔柊〕3七桂(第9位) 第42譜
〔柊〕3七桂に、考えられる後手の手は、A.7五桂、B.7六歩、C.6六銀、D.4四銀引がある。
B.7六歩には、3三香と打って、先手良しになる。
D.4四銀引は2六香(2三香成、同玉、1一飛の狙い)、7五桂、9七玉、7七と、9八金、6二金、5二歩で先手が勝てる。
変化7五桂図02(9八金図)
A.7五桂は、9七玉、7七と、9八金(図)と進み、そこで
[1]6六銀、[2]4六銀、[3]7六桂、[4]9五歩 が候補手。
変化7五桂図04
[1]6六銀 には、2六飛と打つ。以下6二金に、3三香(図)で、先手が勝てる。3三同桂、同歩成、同銀、6六飛、4二銀右、2五桂、6一歩、4五桂で、先手が勝てる。
変化7五桂図10
[2]4六銀には、4五桂とし、以下9五歩、8九香、9六歩、同玉、9五歩、9七玉、4四銀に、7一飛(図)で、先手良し。
変化7五桂図22
[3]7六桂には、8九香と受け、そこで後手7八歩には、8五歩で先手良しになる。
9五歩(図)が厳しい迫り方だが―――
これにも8五歩と応じ、8八桂成、同香、同と、同金、8五金、1五桂(図)
変化7五桂図23
先手良し。
8四銀なら2六飛、8四香なら同馬、同銀、2六飛で先手が勝てる。9六歩や9六金も、9八玉以下、先手が勝てる。
変化7五桂図35(7八歩図)
[4]9五歩 に対しては、7八歩(図)と打って、先手良しになる。
7八同となら2六飛。7六歩には2六香。7六とには5二角成と応じて先手良し。
変化6六銀図02
C.6六銀には、4五桂(図)と桂をはねる。以下7七銀成、9七玉、7五桂、8九香、7八とが予想され、そこで―――
変化6六銀図08
3七飛(図)と飛車を打って、先手良し。
このように〔柊〕3七桂とはねて、相手の手を見てから飛車と香車の使い方を決めるこの指し方はたいへんに優秀である。実際、飛車を2六に打ったり、3七に打ったり、8一に打ったりする手が変化に現れるし、香車も、3三香、2六香、8九香と多様な使い方ができている。
〔柊〕3七桂は、先手が攻め手に困るような変化がなく、どれも勝ち切れる。
しかしそれは、研究上の先手の攻めが「正確」だからである。実戦での“勝ちやすさ”を考えるとき、対局者がその「正確な攻め」を指せるかどうか、それが実際的な問題になる。
理論上は先手がはっきり勝ちになるが、先手の手段が多様な分だけ、変化もまた多くなるのが難点ではある。
(変化が多すぎて、ソフトもこの3七桂の手の優秀さを読み切れていないので、それで候補手に挙がらないのだと思われる)
2六飛基本図
〔柏〕2六飛(第10位) 第34譜 第38譜
〔柏〕2六飛 に、後手7六歩では攻めが遅く、2五香以下先手勝ちになる。
よって、〔柏〕2六飛に、7五桂、9七玉、7七と、9八金と進む。先手に金を使わせたのである。
(9八金に代えて8九香もあるところで、その変化は難解。研究上の結果は先手良し)
そこで後手から「8七桂成、同金、同と、同玉、3五金」(次の図)という手段がある。
研究2六飛図16
先手の2六飛が捕まってしまった。これがあるために、ソフトもこの〔柏〕2六飛 の手をあまり評価せず、避ける傾向があるようだ。
しかしさらに深く読めば、ここから5二角成として実は先手良しになるとわかる。
研究2六飛図21
「〔柏〕2六飛、7五桂、9七玉、7七と、9八金」に、「6二金」とする変化が難しい。
以下、「6三歩、7六桂」でこの図である。
ここから、8九香、3一玉、8五歩、4一玉、8四歩、7四銀と進むと後手良しになるようだ。実戦では、我々はこれを読んで、〔柏〕2六飛 では先手勝てないと判断したのだった。
後の研究で、この評価をひっくり返す手が発見された。
研究2六飛図25(7九歩図)
後手7六桂に、8九香に代えて、「7九歩」(図)と打つ受けの妙手があった。
この手は3一玉~4一玉で角を取られたときの7九角を消している。そして8八桂成以下の攻めにも対応しているのである。
このままなら2五香、3一玉、6二歩成で先手が勝てる。
そして3一玉は、2三飛成、4一玉、6二歩成、同銀右、6一竜で先手良し(「7九歩」のおかげでこのときに7九角と打たれない)
よって、後手は8八桂成から攻めてくる手が考えられる。以下同金、同と、同玉、8七金、8九玉と進んだとき、「7九歩」と先受けしてある効果がここで明らかになる。ここで“詰めろ”をかける手段がないのだ。7七歩と打つ(次に6九金を狙う)くらいしかないが、そこで1五桂(または2五香)と打つ手が後手玉への“詰めろ”になり、これで先手が勝てるのである。1五桂に3一玉も、6二歩成、4一玉、5二金、3一玉、4二金以下、後手玉詰み。
〔柏〕2六飛 は、後手に3五金と打たれたとき5二角成で先手良しになるということと、6二金以下の変化の「7九歩」の受けの手が発見できるかどうかが、「勝ち」への道へ進むカギとなる。この2つの難所がクリアーできれば、〔柏〕2六飛 で先手が勝てる。
3三歩成基本図
〔松〕3三歩成(第11位) 第34譜 第35譜
〔松〕3三歩成 は、同銀に、5二角成と攻める意味。角を切る決断の攻めである。
この手は、我々終盤探検隊が、「6七歩図」で最も期待をかけていた手で、できればこの手で勝ちたかった。しかし結局、「勝ち筋」を見つけられず、この道を行くことは断念したのであった。
“戦後”の調査研究で、やはり「先手勝ち筋」があったことがわかった。
〔松〕3三歩成、同銀、5二角成、同歩に、「3一金」(次の図)と打つのがこの場合は正解だったのである。
3一金図
実戦中、我々は「3一飛」と「4一飛」で勝つ道を探していた。しかし、この「3一金」(図)は読まなかった手である。
「3一金」は“詰めろ”だが、ここから後手1四歩の後、どうやって後手玉を捕まえるか("入玉"を阻止するか)が難しい。
1四歩、2一金、1三玉、2五桂、2四玉、3三桂成、3五玉、4八香(次の図)
変化3一金図16
4八香(図)と打ったところ。
これを4六桂は、2五飛、同玉、3四銀、3五玉、3六歩以下詰みがある。ここで「後手4六桂がない」というのが重要なポイントで、これでどうやら先手が良くなる可能性が出てきた。
この変化を見極めていないと、「3一金」は打てない金だったわけである。
ここで後手にはまだ7七との技があり、同となら6六角があるので9八玉と逃げるが、6五角に、7六歩と応じて―――
変化3一金図19
先手玉は詰まず、ここで後手は「4七桂」か、「7六同角、8九玉、6七角成、9八玉、4六桂」を選ぶことになるが、どちらの変化も、調べていくと、「先手良し」になるとわかった。
〔松〕3三歩成 はこのように、先手の勝ち筋があることが“戦後調査”で確認された。しかし、3五玉に「4八香で勝っている」と前の段階から見極めるのは難しく、実戦でこの筋を発見できなかったのはしかたがないとも思える。
(なお、〔松〕3三歩成、同銀、5二角成、同歩に、「4一飛」あるいは「3一飛」でも、「先手勝ち筋」は存在することが、“戦後調査”ではわかった。ただし、それは超難解な手順になる)
3七飛基本図
〔桑〕3七飛(第12位) 第47譜
〔桑〕3七飛 と3筋に飛車を打つ手。次に3三香と打つと、後手陣はほぼ崩壊する。
だから後手は7五桂、9七玉、7七とと詰めろを先手玉にかけて金や香を受けに使わせたいのだが、この場合は、7七とを同飛と取るがあって7七とは指せない。
こうしてみると、3七飛は相当に優れた手に見えるが、ここで3一銀と受けられたときの手がむずかしい(こんどは3三香は4二金で、後手良しになる)
研究3七飛図31
しかし、我々の研究調査の結果、3一銀に、2五香(図)で、先手良しになることがわかった。香の打ち場所は「2五」でなければいけない。これは後手に4六銀と来られた時に、3六飛とするが、そこで4四銀なら2六飛で先手が指せるという意味である(4六飛は先手負け)
2五香に、4二銀引なら、9七玉とし、以下7五桂に、そこで先手の指し手が難しかったが―――
研究3七飛図42
我々の研究は、7一竜(図)を発見し、これで先手が勝てることがわかった。
〔桑〕3七飛 は優れた手であるが、3一銀と受けられた時の応手が難しい。「2五香」と「7一竜」の発見はたいへん。
というわけで、12位。
7六歩基本図
〔楢〕7六歩(第13位) 第48譜
〔楢〕7六歩、6六銀、9七玉、7七銀成は、こう進むところ。
そこで、2六飛 を最初に研究したが、それは後手良し となった。
もともと「7六歩では勝てそうにない」という先入観があったので、後手良しを結論としかけていたが、念のためにとさらに調べて、次の手を発見した。
研究7六歩図17(3七桂図)
「3七桂」(図)と指して、飛車と香車を持駒として温存しておく。この手が“正解”だった。
「3七桂」に、7六成銀や7六桂(これらが後手の指したい手なのだが)なら、3三香で、先手が勝てる。以下3一銀には8四馬が後手玉への詰めろ(3三金以下)になる。
よってここは、「3一銀」が後手最強の応手となるが、「2五香」(次の図)と打って攻略できる。
研究7六歩図40(2五香図)
「2五香」(図)がベストの手。4二金の手には6三馬~4五馬を用意し、また、後手の狙いの7六成銀(7六桂)には、8四馬(2三香成以下後手玉への詰めろ)で、先手が勝てる。また4二銀引なら、2六飛がある。
ここで後手の最強手は、「4四銀」である。こんどは2六飛だと、1一桂で、そう進むと先手勝てない。
この場合は、「5三歩」と打って、以下「4二金、6三角成」と進む。
そこで「7八と」(次の8八とが見かけ以上に厳しくそう進むと"受けなし"になる)には、「3三歩成」(次の図)と指す。
研究7六歩図74
「3三歩成」が好手である。同玉は5一竜が4二竜以下詰めろになる。同歩も、5一竜が、4二竜、同銀、2三香成、同玉、2四金以下の“詰めろ”。そして、3三同桂は、5一竜が、2一金、同玉、1一飛以下の“詰めろ”になっている(この詰み筋を残しておくために、2六飛と打ってはいけないのだった)
よって「3三歩成」には「同銀」しかない(先手にとって同銀に限定できたことが大きい)
そこで、「4五馬」(詰めろ)と指せる。以下3四桂、2三香成、1一玉に、5五馬
研究7六歩図77
5五馬(図)として、後手の狙いの8八とを受け、以下2二歩(この一手)、1二成香、同玉に、1五歩として1筋の攻めをねらいにする。先手良し。
こうして、〔楢〕7六歩には、3七桂とはねる手が優秀で、これで先手良しになると確定したのであった。
「3七桂とはねる手」、(2六ではなく)「2五香と打つ手」、そしていまの「3三歩成」のタイミング、どれも気づきにくい、選択の難しい手である。よってこの勝ち筋を見つける難易度は高いと思い、13位とした。
5二角成基本図
〔竹〕5二角成(第14位) 第36譜
「6七と図」についての我々の調査研究で確定した「先手勝ち筋」の中で、最も難易度の高い手と考えているのが、この〔竹〕5二角成である。
〔竹〕5二角成 は、同歩なら、3三歩成で先手に勝ち筋が存在する。同銀に、3一金と打つ。
つまりこの変化は「〔松〕3三歩成、同銀、5二角成」の変化に合流している。その変化を、「先に5二角成と指した」ということになり、この場合、3三歩成に銀以外の駒で取る手は先手勝ちになるので、この手順前後は成立するようである。
問題は、5二角成に、7五桂の場合で、以下9七玉、7七と、9八金、5二歩と進む。こうなるともう3三歩成は入らない。
以下の研究手順は、7一飛、7九角、8八香、1四歩、8九金(次の図)
研究5二角成図09
研究調査では、以下、先手良しとなった。しかし、これは変化も広く、難解な図である。
もともと、「5二角成、同歩、3三歩成、同銀、3一金」という〔松〕3三歩成と合流する変化も(上に書いたとおり)難解さを含んでいる変化なので11位と低順位に置いているのだが、その上にこの変化も克服しなければ勝ちが見えないとなれば、これはそうとう高い壁が目の前に立ちはだかっているようなものである。
というわけで、〔竹〕5二角成 は、「先手勝ち筋」の一つとはしているが、その道筋をを実戦で見つけるのはハードルが多く、難易度は最高ランクに位置付けた。
2五香基本図
〔梅〕2五香(第15位) 第34譜 第36譜 第40譜
〔梅〕2五香 については、「先手の勝ち筋」が具体的に見つかっていない。
ただし、全体的には、先手が勝てそうな感じはある。
しかし、具体的な手順を特定できないのである。先手後手どちらも手が広く、それで「勝ち筋」を絞れ切れないところがある。
想定されるのは次の手順である。
〔梅〕2五香、7五桂、9七玉、7七と、9八金、6二金、2三香成、同玉、2五飛、2四歩、5五飛、6九金(次の図)
変化2五香図03
ここからの、正しい先手の指し方がわからない。
なので、「形勢不明(互角)」としている。 (「dolphin1/Kristallweizen」 評価値は +86)
変化の一例を示すと、3三歩成、同玉、5七飛、6七歩、7八歩、7六と、3七飛、4四玉(次の図)
変化2五香図03b
こう進むと、感覚的には先手良しに思えし、ソフトの評価もプラスになっているのだが、さらに調べていくと、「そうでもない」と変わってくる。
ここで「3二飛成」、「6五歩」、「6三歩」、「7七歩(同とに4六銀と打つ)」などが候補手だが、どれも「互角」で、それ以上にはなかなかならない。
最新ソフト「dolphin1/Kristallweizen」のこの図の評価値も +503 だから、これを見ても先手が良さそうに思える。このソフトの推す手は「3二飛成」である。
しかし、3二飛成、3三桂、7七歩、同と、4六銀、5四銀、7八歩、5五銀と進んで、やはり「互角」としか言えない。先を進めてみると、ソフトの評価値もゼロに近い値になる。
「勝ち筋」があるかもしれないが、「いまだ見つかっていない」というのが、この〔梅〕2五香 の道である。ここまで頑張って「勝ち筋」を特定できないということは、あるいは本当は先手が悪いのかもしれないとも思う。
〔梅〕2五香 の手は、各コンピューター・ソフトが上位に挙げている。
にもかかわらず、このように実際に精査して調べてみると、「限りなく互角」というような結論になっているのである。
実戦では、我々も、〔梅〕2五香 は、「9七玉の次に有力」と見ていて、もしも「激指14」が〔桜〕9七玉 の手を第一候補手としていなかったら、〔梅〕2五香を選んだ可能性が高い。そして、これを選んでいたら、この“勝てるかどうかわからない互角の勝負”を余儀なくされていたであろう。
6七と図(再掲)
終盤探検隊的「勝ちやすさランキング」をもう一度示しておく。
そして付け加えたカッコ内の数値は、調査を終えたあとの終盤探検隊による主観的感覚的評価値。
1. 〔橘〕3三香 (+1200)
2. 〔栗〕8九香 (+600)
3. 〔楓〕2五飛 (+500)
4. 〔柳〕7八歩 (+450)
5. 〔桃〕2六香 (+300)
6. 〔桜〕9七玉 (+250)
7. 〔杉〕5四歩 (+150)
8. 〔桐〕9八玉 (+100)
9. 〔柊〕3七桂 (+90)
10. 〔柏〕2六飛 (+80)
11. 〔松〕3三歩成 (+50)
12. 〔桑〕3七飛 (+40)
13. 〔楢〕7六歩 (+30)
14. 〔竹〕5二角成 (+1)
15. 〔梅〕2五香 (-40)
なお、「最終戦争一番勝負」の実戦中に出した我々の結論は、次のようなものであった。参考までにもう一度掲げておく。(読みの内容は第34譜で)
6七と図
〔松〕3三歩成 → 後手良し
〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い)
〔栗〕8九香 → 後手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 形勢不明
〔柏〕2六飛 → 形勢不明
〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
〔桐〕9八玉 → 「激指14」は第2位の候補(評価値-417)に挙げていたが、実戦中は調査しなかった。
戦闘中、頼りにしていた我々の相棒は、「激指14」であった。
そして我々が最も指したいと思っていた手は〔松〕3三歩成だったが、この手で「勝ち筋」が見つけられなかった(後で調べてみても実際難しい手順になる)
そして次なる期待は〔梅〕2五香、および〔桜〕9七玉であった。「どちらを選ぶか」という選択になった。
我々の読みでは、一応、「〔梅〕2五香で先手良し」という読みにはなっていたが、後の変化に自信が持てなかった。
〔桜〕9七玉の読みも不十分ではあったが、「激指14」が“一推し”だということで、それにこの手も“感覚的”にも、指したい手であったので、それで結局、〔桜〕9七玉を選んだ のである。
(〔梅〕2五香では、“戦後調査”では、「先手の勝ち筋」を発見できなかった。この手を選ばなかったのは運がよかったかもしれない)
また、〔桐〕9八玉は、「激指14」は第2位の候補(評価値-417)に挙げていたが、これは指す気がしなかったので、実戦では調べなかった。“戦後”に調べて、これも良しになるとわかった。
第50譜につづく