はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part112 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第11譜

2018年03月25日 | 次の一手
≪亜空間最終一番勝負 第11譜 指始図≫

 指し手  ▲4二銀 


    [鏡と大鴉]
 わたしは、その鏡に、覗きこむというより面と向かいあって、部屋も自分の姿もそこに映っていないことを知った。壁が融けこんでしまうのを見るような気分だった。でも、その次に起こった出来ごとが、鏡を見て感じたわたしの不安定な気分を、充分に伝えてくれるだろう――わたしは思わず、あるすばらしい絵を保護しているガラスを鏡と見間違えたのだろうか、と目を疑ったほどだったのだから。
 目の前に原野が広がっていた。見渡すかぎり緑一色のヒースの大原野。
  (中略)
 近眼だったわたしは、すぐ手近に見える石の状態をしらべるために、一、二歩近づいた。すると、そのとたん大きくて年取った鴉(レーブン)が一羽、横柄な態度でぴょこんと目の前に跳びだした。鴉の羽根は紫がかった黒をしており、あちこちが灰色にはげていた。
     (『リリス』ジョージ・マクドナルド著 荒俣宏訳 ちくま文庫)



 『リリス』(Lilith)は、ジョージ・マクドナルド(1824-1905)が晩年に書いた大人向けのファンタジー小説(1895年)
 主人公はどうやら物理学者かそれに興味を持つ大人の男で、彼(「わたし」)は先祖が持っていたオックスフォードにある古い屋敷と土地を相続した。その大きな屋敷には奇妙な「図書室」があり、そこで科学書を読みふける日々を過ごしていると、時々人の気配を感じた。いや、“気配”のみならず、<黒い外套の背の高い老人>の姿をたしかに図書室の中で見かけたのだ。どうやらその人物は、「レ―ヴン氏」と呼ばれる、この世のものではない何かであるらしい。「レーヴン」とは「大鴉(おおがらす)」を意味する。今は見たものはほとんどいないが、昔からその図書室に現れるという話があったという。
 ある日、「わたし」は、また現れたその「レ―ヴン氏」を追いかけていった。するといつのまにか「わたし」は屋根裏部屋にいて、古い<鏡>の前に立っていた。
 そして、「わたし」は、<鏡>をくぐりぬけて、あちらの世界へ―――。
 そこには“緑一色のヒースの大原野”が広がっており、大鴉がいて、鴉は、「わたし」に話しかけてきたのである。

 「ヒース」(heath)とは何だろうか。
 イギリスの古い小説には、よくこの「ヒースの野」というような場所が登場する。たとえば『嵐が丘』(エミリー・ブロンテ1847年)や、『秘密の花園』(バーネット1911年)の中で、この「ヒースの野」は重要な意味を持って登場している。
 画家安野光雅のエッセイ付き画集『イギリスの村』の中で、安野氏はこの「ヒ―ス」がどういうものであるかを歩いて確かめ、文章で描写している(絵の描写がないのは残念)
 「ヒース」は、ある特定の植物を指す場合と、イギリスの原野風景全体のことを指す場合とがあるようだ。(『嵐が丘』の中のヒースは、カルーナ・ブルガリスというツツジ科の植物らしい)
 またイギリス・ロンドンには「ヒースロー(Heathrow)」という名の空港があるが、これは「ヒースの並木道」とか「ヒースの街」の意味である。

 “鏡の向こうの世界”で、「わたし」はヒースの原野を、そして森の中を歩く。天に「満月」を見ながら。この世界では、月はいつも「満月」だった。“奇妙な世界”なのである。
 森の中で「女の死体」に出会う。「わたし」は、この死体はまだ生きているのではないか、蘇る可能性があるのではないか、と思った。この“奇妙な世界”では、そういうことも起こり得ると。
 「わたし」は、ずっと「女の死体」の傍らにいて、毎日水浴びさせ、一粒の葡萄を口に入れた。
 そうして、ある日、その「死体」は、両目を開け、蘇ったのである。
 その美女は、「リリス」という名の、「女王」であり、この世界に不幸をふりまく<魔女>でもあった。“猫の女”と呼ばれることもあり、黒い斑点のある雌豹の姿に変わって鳴くこともあった。

 「鏡」をくぐりぬけて向こうの世界に行くこと、そして、「女王」=「猫」であり扱いにくいキャラであること――――『鏡の国のアリス』との共通項である。

 「鏡」は、多くの作家に“魔法の道具”のイメージを湧き起こさせるようで、古くは『白雪姫』の魔女が使っているし、昭和時代では『ひみつのアッコちゃん』が使っていた。
 しかし、「鏡をくぐり抜けて向こうの世界へ行く」という話は、案外そう多くはないように思われる。『鏡の国のアリス』(1871年、原題Through the Looking-Glass, and What Alice Found There)よりも前に、そういう話は、あっただろうか? 



<第11譜 研究に落とし穴はないだろうか>


≪亜空間最終一番勝負 第11譜 指始図≫ 3四歩まで

 ≪最終一番勝負≫は、この図の通り、「3四歩」まで進んでいる。


3四同銀図
 以下、3四同銀と進んで、この図になる。(これが「亜空間定跡」の進行)
 ここで先手の有力手はこの5つ。
  〔1〕7三歩成
  〔2〕9一竜 
  〔3〕3三歩  
  〔4〕6五歩  
  〔5〕5八金     

 ≪最終一番勝負≫で、我々(終盤探検隊)はすでに〔2〕3三歩を選ぶことを決めている。以下、3一歩に、4一飛と打つのだ。(これが『赤鬼作戦』)
 
 であるから、以下は参考でしかないが、今回は〔4〕6五歩と〔5〕5八金について述べておきたい。(〔1〕、〔2〕、〔3〕についてはすでに紹介している)



 まず、〔5〕5八金から。(こちらのほうが簡単に済ませられるので)

変化5八同金図1
 〔5〕5八金(図)である。 似た形を前に報告しているがこの「後手3四銀型」での「5八金」というのは、新しい報告になる。
 5八金以下、同と、9一竜、7五金、7七玉、8五桂、8八玉、6八と(次の図)

変化5八同金図2
 これでどうやら「後手良し」のようだ。
 この図で放っておくと7六金~7七桂成と来られるし、ここで7九香は、7六桂と打たれる。
 だが、ここで先手の有効手がないのだ。
 この図で3三香はあるが、同玉と取られ、以下1一角、2二香、3一飛、4四玉と応じられて、以下2二角成としても3三歩で飛車角の活動が同時に止められてしまい、後手が指せる。


3四同銀図(再掲)
 次に、〔4〕6五歩について確認をしておきたい。これもかなり有力な手で、『桃太郎作戦Ⅱ』と名付けたが、「先手勝ち」という我々の研究結果がある。

 その『桃太郎作戦Ⅱ』の前に、『桃太郎作戦』があるので、まずそちらから。

夏への扉図
 「後手3二銀型」での先手6五歩である。つまり、この図、「夏への扉図」(すなわち後手3二銀型)からの「6五歩」(次の図)である。

桃太郎図A-1
 これが、『桃太郎作戦』。 「玉」が右腕のパンチを繰り出すような勇敢なイメージから、これを『桃太郎作戦』と名付けた。(→報告9899
 「6五歩」が有力な手と気づくのが遅れたのは、最初我々の意識が“入玉しなければ勝ちはない”と思い込んでいたということがある。それに、6五歩と指したこの図でのソフト「激指」の評価値は[ -487 ]で、パッとしない数値なのだ。(しかしそれでも6五歩は、第1候補の3三歩に続く2番目の候補手だったのだが)
 終盤探検隊がこれが有力かもしれないと気づいて調査した後の結論としては、ここで6五歩と打つ先手の作戦は、「先手良し」。
 以下に、その代表な変化を、示しておこう。

桃太郎図A-2
 「6五歩」に、5九金、6四歩、同銀、9一竜、7五金と進んで、この図。
 以下、7七玉、6五桂、8八玉、6七となら、3三歩、7七桂成、3三銀、3四歩、同銀、3三香(次の図)

桃太郎図A-3
 3三香(図)。 これで「先手の勝ち」となる。 
 3二歩なら、4一銀、3三玉、1一角、2二香(桂)、3一角(2二角右成と6四角成の両狙い)。
 3三同玉も、1一角、2二香(桂)、3一角。
 3三同桂は、4一飛。
 3一歩には、同香成、同玉、1一角(2二桂なら6二飛が決め手になる)、4二玉、5四飛。

桃太郎図A-4
 今の手順を、後手6五桂に、先手8八玉のところまで戻って、(6七との手に代えて)7六桂としたのがこの図。このほうが6七とよりも一歩攻めが早くなる。
 図以下、9八玉、7七桂成に―――

桃太郎図A-5
 8九金(図)と、(香車ではなく)「金」で受けるのが大事なところ。
 そして6八とに、3三歩と反撃する。3三同銀に、そこで4五角が攻防の絶好手(次の図)

桃太郎図A-6
 4五角の“受け”の意味は、後手の7八とに、同角、同成桂、同金として「先手良し」というもの(この形をつくるための8九金打ちだった)
 そして4五角の“攻め”は、次に2六香と打てば、後手は3四歩くらいしか受けがないが、そこで4一角と打って、後手は“受けなし”である。
 この図から後手4四歩という手があるが、それには5四角として、この手が後手玉への“詰めろ”になっているので、やはり「先手勝ち」になる。

桃太郎図A-7
 どうやら、後手は6四銀と出た手がまずかった。だからその6四銀に代えて、7四歩としたのがこの図。
 ここで先手3三歩と攻めるのは、以下8四桂、7七玉、6五桂、7八玉、3三桂(または3三銀)で、後手勝ちになる。
 また図で9一竜は、7五金以下、先ほどの変化と同じように進んだ時、こんどは「後手良し」になる。先ほどは“6四銀”と後手の銀が浮いていたので、3一角と打つ手が銀取りになって先手有利になったが、「5三銀型」だとそれがないからだ。
 
 ということで、この図での最善手は「6六角」である。
 以下、我々の研究手順は、3三歩、8五玉、6七と、7四玉(次の図)

桃太郎図A-8
 先手は、角を犠牲に、“入玉”を計る。
 6六と、8三玉、6七角、7四歩、9二金(次の図)

桃太郎図A-9
 後手9二金に、7二玉と逃げると3六角成で先手悪い。なので9二同竜、同香となるが、その後は変化が多い。8二金、または8一飛が候補手だ。
 この図からは、たぶん、“入玉”はできるだろうし、だから先手の負けはないだろう。そしておそらく、この先、後手玉を捕まえて、「先手勝ち」となりそうだとは思ったが、しかし絶対にそれができるという確信までには至らなかった。95パーセント、大丈夫だろうという感覚だった。
 しかし残りの5パーセントの「持将棋引き分け」の可能性があると感じたことが、我々は気に入らなかった。大駒二枚(飛車角)を後手に渡したのが気になるところ。
 この『桃太郎作戦』は優秀な作戦で、先手がこれで勝てるだろうとは思ったが、それでも我々終盤探検隊が選んだのは、この作戦ではなく、『赤鬼作戦』だった。選ばなかった理由は、この“入玉”の変化に含まれる「5パーセントの不安」である。

 しかしまた改めてここから、今、「9二同竜、同香、8二金」以下を研究してみたが、どうやら「先手勝ち」は確実なように思われる(98パーセントの自信に増大した)
 だが、もうそれは「一番勝負」には、影響しない。我々はこの作戦を選ばなかったのだから。「一番勝負」はすでに、先を進んでいる。(我々は「夏への扉図」で3三歩を選択した)


 ところで、今、後手の“妙手”を発見した。参考までに紹介しておこう。

桃太郎図A-10
 今の手順をさかのぼって、この図は先手が「6六角」と角を打ったところ。
 ここで後手“3三歩”が上の進行だったが、代えて“4四歩”なら、そこで先手3三歩がある。以下同桂(または同銀、3四歩、同銀)に、8三竜とし、5六とに、8四角で「先手良し」。(後手が“3三歩”と受けたのはその筋を避けるためだった)

 しかし、「6六角」に“5五銀”という後手の妙手があるのではないか、というのが新研究。もしもこの変化で「後手良し」が出れば、『桃太郎(6五歩)作戦』で先手勝てる、という結論がくつがえる。さあ、どうだろう? 
 後手5五銀、これは、“銀のタダ捨て”だ。 意味としては、銀捨てで一手を稼ぐ、ということ。
 5五同角、4四銀、6六角、5六と、3九角、4九金が想定される進行(次の図)

桃太郎図A-11
 この場合は5六とに8五玉~7四玉では勝てない。さっきの変化より一手遅いので駄目だ。
 だからここは3九角とするが、それにはこの図のように、4九金がある(代えて3八歩は4八角~1五角があって先手良し)
 なおも逃げる1七角には、7五金と打たれる手が嫌だが…、どうする?
 6五玉、6二桂、6三歩成(次の図)

桃太郎図A-12
 6五玉~6三歩成が好手順になっていて、先手はピンチを脱したようだ。6三歩成を同金は、3一銀以下、後手玉に“詰み”がある。この図から3九金は、5二と、5四角、5六玉で先手優勢。
 この図ははっきり「先手良し」。
 後手の6二桂は結局無駄手になったので、その手に代えて3九金(角を取る)のほうが後手にとっては優るが、その場合は先手7四玉に、6二金、7三銀のような展開が予想されるが、これも研究の結果は「先手良し」。 盤上から後手の銀が一枚消え、それが先手の駒台上にあるのだから、こうなると先手が勝てる。
 
 「6六角」に対する“5五銀捨て”は、ハッとする手だったが、結果的には、先手が勝てるとわかった。
 しかし、この例のように、将棋の終盤には何が潜んでいるかわからない。研究し尽くして結論を出していても、それが覆る可能性もいつだって起こり得るのだ。だからこそ“その研究手順に落とし穴はないか”と慎重に調査を重ねるのだ。


3四同銀図
 さて、後手“3四同銀”としたこの図、後手の守備の銀を歩の連打で叩いて吊り上げた。こうしておいて〔4〕6五歩とする。これが『桃太郎作戦Ⅱ』。(報告part100
 どうやらこうすることで、ほとんどの変化は先手にとって得になる。マイナス面は、後手が3三玉から4四玉と入玉めざして進出してそれが効果的だった場合にのみ生じそうだ。 

桃太郎図B-1
 〔4〕6五歩(図)。 
 我々の研究調査の結論は、すでに述べた通り、「先手勝ち」。
 なお、ソフト「激指14」の評価では、この図での「6五歩」は、4番目の手である。

 図以下、5九金、6四歩、7四歩、6六角、5五桂、4一銀で、次の図になる。

桃太郎図B-2
 「5九金、6四歩、7四歩」の展開は、今度は「4一」に打ちこむ手が生じた。この場合は銀が良いようだ。
 4一銀に4二金打は、5二銀成、同金に、6三歩成(同金は5一竜)、6七と、3九角、5七銀不成、5三とで、先手勝ち(後手が持駒の金を手放すと先手玉が安全になるので攻め合いがしやすくなる)
 なのでこの図では後手3一歩と金を使わないで受けるが、先手は5二銀成。同歩なら、4一飛、4二銀打、8五玉、6七と、7四玉、6六と、6三歩成で、「先手優勢」。
 よって5二銀成に、6七とが考えられ、以下、5三成銀、6六と、同玉、6七桂成、6五玉、7五金、5六玉(次の図)

桃太郎図B-3
 この図は、「先手良し」。 ここで後手4五角は4六玉と銀を取った手が後手玉の“詰めろ”になるので、先手の勝ちになる。よってこの図で後手の最善の頑張りは5五角。以下、7二竜、5二桂と進み、そこで以前の研究(本報告part100)では、4二飛、1一玉、6七玉以下を調べたが、新しく単に6七玉を調査してみた。
 6七玉に、後手9九角成としたいところだが、それは4二飛、1一玉、7七歩と角の利きを遮断する手がある。以下、2二香に、7九金(後手の8九馬を指させない)で、先手優勢。
 よって、6七玉に、6六金が有力だが、以下は、6八玉、6七歩、5九玉、5七金、3三歩(次の図)

桃太郎図B-4
 ここで4七銀成は、3二金、同歩、3一銀以下後手玉詰み。
 1一玉は、4二角がこれも詰めろで先手勝ち。
 また、7七角成、4九玉、3三馬は、4二銀で、先手勝ち。
 よってこの図では「3三同角」とするが、そこで2六桂が決め手級の一手。
 以下、6八歩成、4九玉、2五銀に、5二竜(次の図)

桃太郎図B-5
 これで、“詰み”。 5二同歩に、3四桂打と打つ。 1一玉に、2二銀、同角、同桂成、同玉、3二金、同歩、3一角、3三玉、4二角成、4四玉、4三馬―――以下は省略。


 こうして、4番目に発見した「先手の勝ち筋」が『桃太郎作戦』、そして5番目が『桃太郎作戦Ⅱ』となった。
 『桃太郎作戦Ⅱ』では、『桃太郎作戦』の時にはあった、「持将棋引き分けの不安」が一掃され、自信をもって「勝てる」といえるほどの調査結果が得られたのであった。


3四同銀図(再掲)
  〔1〕7三歩成  
  〔2〕9一竜   → 『黒雲作戦』、『香車ロケット2号作戦』
  〔3〕3三歩   → 『赤鬼作戦』
  〔4〕6五歩   → 『桃太郎作戦Ⅱ』
  〔5〕5八金   

 もう一度この図に戻る。「夏への扉図」から、3筋の銀の頭を歩で連打して「3四銀型」になったこの図以降は、発見された「先手の勝ち筋」はこのとおり4つある。
 
 ところで、この図での候補手はほかにもある。
  〔6〕4一角 (3一歩、3三歩、4二金以下、後手良し)  
  〔7〕8八角 (5五桂などで効果がなく、後手良し)
  〔8〕8六玉 (互角に近いが、5九金、9一竜、8四金は、我々の研究では“先手自信なし”)
  〔9〕8五玉 (5九金、9一竜、8四金、9六玉となって、〔3〕8六玉に合流) 
  〔10〕8三竜 (入玉狙いだが入玉は無理なので、後手良し)     
  〔11〕7二飛 (6二歩に、7三歩成が狙いだが、先手苦戦という感触)
  〔12〕3二歩 (5九金、3一角、3二玉の時に歩切れなので先手の攻めは続かない)

 この中で、〔8〕8六玉、〔9〕8五玉、〔11〕7二飛は、「激指」評価値的にも、わずかに後手に傾いている程度(-100~-500くらい)になるので、先手の勝ちが存在する可能性はゼロではない。
 しかし他は、ハッキリ「後手勝ち」というのが、我々(終盤探検隊)の結論。

 さて、我々がいま、驚いているのは次の手である。
 
  〔13〕8二飛

 これまで軽視していたこの手が、有力手として新たに浮上してきたのであった。
 この図(3四同銀図)を、「激指14」よりも強いとされているコンピューターソフト「elmo」で調べてみると、この「〔13〕8二飛」を第1候補手として示していたのである!!
 そして「激指14」でも確認しなおしてみると、この手を第2候補手に挙げている(第1は3三歩)
 我々は、すでに〔10〕8三竜を調べ、〔11〕7二飛も調べてダメだった経験がある。それでその2つに似た「8二飛」という手を軽視していたのだが(8二飛は6二歩で駄目だろうと)…、ところが、それがどうやら、「elmo」や「激指14」の主張が正しかったのだ!

8二飛作戦図1
 3筋の後手の銀を上に吊り上げたので、8二飛は後手は無視できない。といって、3二歩は3三歩があるので先手良し。
 よって後手は6二歩と受ける。以下、8三飛成、5九金、8五玉(次の図)
 
8二飛作戦図2
 2つの竜が、“玉の道”をつくっているわけだ。上の竜は、9一の香車を払い、下の竜が玉を護衛する。
 ここで後手8二歩が地味な好手だが、これは同竜引と上の竜で取る。
 そして後手6三金(次の図) 

8二飛作戦図3
 先手は大駒四枚を有しているので、“入玉”さえして玉が安全になれば、即勝ちが決定である。
 それは許さじと、後手は6三金(図)で勝負するしかない。もし先手の上の竜が8一のままなら、ここで8四玉と進んで、7四金に、同竜、同歩、8三玉で、「大駒三枚」を保持して入玉できた。ところが、「8二歩、同竜引」の効果で、この場合はそこで9二金で、二枚目の竜も取られてしまう。入玉できても、それでは不満だ。
 よってここは別の手を指す。4一角。
 3二歩の受けに、9一竜。 そして後手の7四金に、9五玉(次の図)

8二飛作戦図4
 大駒一枚なら、敵に渡してもよいが、そう簡単には渡したくはない。
 さて、この図から、次に先手が指したい手は、6六角~9三角成である。
 その手を許さない意味もあって、後手は、8二歩、同竜左、7五銀とする。
 以下、8五金、6三桂、7五金、同桂、9三竜引、6三桂、5二歩、4二金、5一歩成、4一金、同と、5八角、8四金、3三玉、7四金、4四玉、7三金(次の図)

8二飛作戦図5
 こんな感じの闘いになる。後手も“入玉”をめざしてきたが、それを防ぐのは、先手玉もまだ安全になっていないので難しいかもしれない。しかし、後手に駒を渡さなければ、確実に先手玉は“入玉”できるだろう。だから“相入玉”が濃厚だが、すると持将棋の点数計算勝負になるが、大駒三枚を持っているので、先手が勝てるはず――――そういう形勢だ。

 『8二飛作戦』成功!!!

 この作戦にも名前を付けよう。『双竜(そうりゅう)作戦』と呼ぶことにする。

 比較的すんなり勝てたが、本当にこれ(『双竜作戦』)で「先手勝ち」と決めてよいのだろうか。“落とし穴”はないだろうか?(将棋の研究で大事なのは実はその落とし穴のチェックなのである)

 8二飛作戦図6
 先手の「8二飛」に、(6二歩ではなく)6二銀(図)と銀を引いて受ける手が、後手にとって有力だとわかった。この図の調査を始めよう。
 これには、6五歩が良いようだ。以下、5九金、6四歩、7四歩。
 そこで先手は6六角と打って、後手5五桂に、8三竜とする。
 以下、6七と、8四角、7一桂(次の図)

8二飛作戦図7
 この7一桂の手に代えて後手7五金は、同角、同歩、8五玉、7一桂、同竜、同銀、4四角(同歩だと後手玉が詰む)、3三歩、7一角成で、先手優勢(図は省略)
 この7一桂(図)が手ごわい手で、「激指14」の評価値は[ -8 互角 ]。
 図以下、7四竜、7三歩、8五竜。そこで、9四金。
 9四金に代えて7四金は、同竜、同歩、9一竜で、先手良し(7四歩とさせた形のほうが後手7九飛~7四飛成がないので先手玉が入玉するのに都合が良い)
 また、9四金に代えて8三歩もあるが、3九角以下、先手良し。

 後手9四金には、6五竜とし、8四金、同竜、6六角、3二歩となって、次の図である。
 
8二飛作戦図8
 「3二歩」という攻めがあるので、先手良しになる。(代えて8二竜では9九角成で後手良し)
 後手に持駒が歩以外にないことと、先手の持駒が「角金金銀歩二」なのとで、ぴったり3二歩が有効になった。この3二歩は、3一銀、3二玉、3三歩以下の“詰めろ”である。(この3三歩の“一歩”があることが大事)
 よって、3二同玉としたいが、それには1一角で、先手優勢。
 だからこの図の後手の最善手は1四歩と思われるが、対して先手3一歩成。8四角(竜を取る)なら、2一と、同玉、3三金で、先手勝ち。3一同玉には、1一角と“詰めろ”をかけ、詰みを逃れる4五銀には、3三銀で、後手玉は“必至”となる。

 『双竜(8二飛)作戦』も、「先手の勝ち筋」と認定したい。


3四同銀図(再掲) 
  〔2〕9一竜   → 『黒雲作戦』、『香車ロケット2号作戦』
  〔3〕3三歩   → 『赤鬼作戦』
  〔4〕6五歩   → 『桃太郎作戦Ⅱ』
  〔13〕8二飛   → 『双竜作戦』
 つまり、我々終盤探検隊は、また一つ、新しい「先手勝ち筋」を発見したのである。


 しかし、我々の意思は揺らいでいない。

 ≪最終一番勝負≫は、『赤鬼作戦』で勝つ! 

 それはすでに、決めたことなのであるから、変えるつもりはない。(ここで3三歩、3一歩に、4一飛と行くのが『赤鬼作戦』)



≪最終一番勝負 第11譜 指始図≫ 3四歩まで

 ところが――――“大事件”が我々を待ち構えていたのだった。



≪最終一番勝負 第11譜 指了図≫ 4二銀左まで

 ≪最終一番勝負≫、≪主(ぬし)≫は、「4二銀」と指したのである。
 
 これは、我々の“想定外の一手”だった。 つまり敵――≪ぬし≫――が、“落とし穴を仕掛けてきた” のであった。


 第12譜につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part111 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第10譜

2018年03月20日 | しょうぎ
≪亜空間最終一番勝負 第10譜 指始図≫

 指し手  ▲3四歩 

 
    [ The Light Princess ]
姫が倒れ落ちる音を聞いて、乳母はよろこびの声をあげながら、姫のところに走りよって叫んだ――
「お姫さま! お姫さまに重力ができました!」
  (中略)
なにしろ、姫には赤ん坊の歩き方しかできなかったのだから。たえずころび、たえずけがをするという始末であった。
「これがみんなあれほど大切にしていた重力なの?」
     (『かるい姫』ジョージ・マクドナルド著 吉田新一訳 筑摩書房)



 ジョージ・マクドナルド著『かるい姫(The Light Princess)』(かるいお姫さま、ふんわり王女など邦訳タイトルは色々)は1862年に発表された童話である。

 『不思議の国のアリス』(1865年)、『鏡の国のアリス』(1871年)の作者ルイス・キャロル(チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン)は、オックスフォード大学クライストチャーチ・カレッジの教職に就いていたが、生涯そこに住み続けた。ドジソンがこの二つの『アリス』本を書いた頃、どうやらジョージ・マクドナルドもオックスフォードに近い場所に住んでいたようで、この二人は親しい友人関係だった。
 『不思議の国のアリス』の元になる話は1862年7月4日の学長の三人娘とのピクニックの船旅の最中に生まれたが、その5日後の7月9日にドジソンはマクドナルドに会っている。マクドナルドに道でばったり出会って、一マイルほど歩きながら話をしたと、ドジソンの日記に記されているそうだ。そしてこの時、マクドナルドは『かるい姫』の原稿を脱稿し、出版社に持って行こうしているところだったのである。
 数年後にドジソンが『地下の国のアリス』を学長の娘(アリス・リデル)のために書いたとき、マクドナルドにそれを見せると、マクドナルドはぜひこれを出版社に持って行って活字にせよ強くと勧めたのであった。それを手直しして、『不思議の国のアリス』が出版された。
 またドジソンは、写真撮影を趣味としていて、数千枚の写真作品を残しているが、その中にはマクドナルドの子供たちもモデルとして写っているのである。ジョージ・マクドナルドは11人の子だくさんであった。一方、ルイス・キャロル(ドジソン)は生涯独身であったが、彼自身はこれも偶然に11人きょうだいであった。

 『かるい姫』は、王に恨みをもった魔法使い(マノムケイト王女=王の姉)が、王夫妻に呪いをかけ、その結果“重力を持たない女の子”が生まれてしまった、という話。
 彼女は「かるい」ので、ほおっておくとふわふわ浮かんでしまうし、それだけでなく、頭の中も「かるい」。どんなことがあっても深刻に考えることがないし、母が泣いていても、父が怒っていても、面白い面白いと笑い転げるのであった。
 それにしても、この魔法使いマノムケイトも、よくこんな変な魔法を思いついたものだ。
 結局、この「かるい姫」は、年頃になって王子様に出会い、王子の協力によって魔法を解く――つまり、「重力」を取り戻す――のであった。めでたしめでたし。


 余談だが、以下は物理学の話。
 アイザック・ニュートン(イギリス人1642-1727)が「万有引力」を発見したことは有名な話で、リンゴが落ちるのを見てニュートンは万有引力を発見したなどと言われているが(ニュートンの実家は農業を営んでいた)、実際には、「ケプラーの法則」など、惑星の動きを学び考察し、それが土台となって生まれ出たものであろう。
 夜空の星々は、北極星を中心として、ほとんどが同じペースで歩調をそろえて回転をしているが、「惑星」(金星、火星、木星など)だけは珍妙な動きをしている。あまりに妙なので、古来からずっと人間の興味を引いてきたわけである。
 これをすっきり説明するために、「太陽」を中心にこれらの「惑星」が円運動(正確には楕円運動)をして巡っていて、「地球」も「惑星」のうちの一つであるという、「地動説」が生まれたのであった。そしてドイツの天文学者ヨハネス・ケプラー(1571-1630)は、こうした惑星の動きを正確に観察記録し、その楕円運動の「法則」も編み出したのであった。この「ケプラーの法則」を使えば、「惑星」のその楕円運動での周回のその速度まで計算できるので、何年の何月何日にこの「惑星」はこの位置に見えるだろう、などという予測ができるようになったのである。
 こうなると、この「地動説」が正しいと感じるのは、科学を学ぶ者には当然のことであるが、アイザック・ニュートンの生んだ「力学」は、さらにふみこんで前進した。「なぜ、惑星は楕円運動するのだろう」ということを考え、それに明快な「答え」を与えることに成功したのである。

 「質量m」を持っている物質と、同じく「質量M」を持っている物質の間には、「引力」が働いているというのだ。ニュートンは、とにかく、そのように定義したのである。すると、月が地球の周りを回っていることも、地球がまるくて地表の人間は逆さまになってもだれも困らないということも、すべて“すっきり説明できた”のである。
 これが本当なら、ここにいる「わたし」と、目の前にある「コーヒーカップ」との間にも、「引力」は働いていることになる。本当だろうか? もちろん、働いている。「重さ(質量)」をもつすべての物の間に、「引力」は働く。だから「万有引力」なのである。
 「わたし」が、「コーヒーカップ」との「引力」をとくに感じないのは、それが“微力”だからで、この「引力(重力)」という力は、じつはたいへんに弱い力なのであるが、「地球」のように「巨大な質量」になった時、その力が感じ取れるわけである。両者間に「引力」が働いているのに「コーヒーカップ」が「わたし」の周りを楕円運動しないのは、それに比べると「地球」と「コーヒーカップ」、そして「地球」と「わたし」との「引力(重力)」のほうが、圧倒的に強力だからで、そのために「わたし」も「コーヒーカップ」も固定されて動けないというわけなのだ。
 二つの物体に働く「万有引力」は、次の式で表すことができる(とニュートンは発表した)

  F(引力)=GMm/r² (Gは万有引力定数、rは2つの物体間の距離)

 この話、あと少し続けたいのだが、それは「本編」が終わってから、末尾にて。
 


<第10譜 より勝ちやすい作戦を求めて>



≪最終一番勝負 第10譜 指始図≫ 3三同銀まで

 我々終盤探検隊と≪主(ぬし)≫との戦い―――≪亜空間戦争 最終一番勝負≫―――は、3三同銀ままで進んでいる。これはまだ我々の「研究範囲」である。
 以下、3四歩、同銀で、次の図。

3四同銀図
 ここで6六角と角を打ち、以下、5五銀引、9三角成、9四歩と進め――(次の図)

9四歩図
 そして、ここで「3三歩、3一歩」とし、「4一飛」と打ちこむのが、我々の編み出した『黒雲作戦』。 この作戦は苦労しながらも、我々(先手番)が勝利となった。
 ここで≪亜空間戦争≫は、“最終ステージ”に突入することとなった。すなわち、今進行している≪最終一番勝負≫である。≪亜空間の入り口図≫から、“待ったなし”の一番勝負で決着をつけるのである。つまり、これまでの闘いは、「練習将棋」のようなものだったことになる。
 その“最終決戦”の前に、我々は、考えたいこと、準備しておきたいことがあった。
 それは、「黒雲作戦はベストな作戦なのか」ということである。『黒雲作戦』は確かに先手の勝利となった。けれどもこれは“入玉”作戦であり、どうしてもすべての変化を調べつくすというわけにはいかない。これを選んだ時、後手番の≪ぬし≫が、我々の思いもよらない“秘手”を用意している可能性もある。だいたい、≪一番勝負≫を提案してきたのは、≪ぬし≫のほうである。『黒雲作戦』に対しては、何か、秘策を後手は用意しているのではないか。他に手段がなければこれしかないが、他にもっと優れた指し方があれば、そのほうが良い、と我々は考えた。
 そういうことで、我々終盤探検隊は、≪最終一番勝負≫のための準備として、新たな「先手勝ち筋」探しの研究の旅を始めたのであった。

 我々は、発想を切り替えて局面を見ることを行った。(3三歩、3一歩の後)4一飛とここで打ったのは、この飛車を囮にして、“入玉”をするという、“入玉作戦”であった。我々はこの「7六玉」の図は、“入玉しなければ勝てない”と思っていた。それでここで4一飛と打つ『黒雲作戦』を思いついたのである。
 しかし、その発想を変えて、「攻め勝つ」ということを柱に置いてみた。すると新たな道が開けていったのである。

9四歩図(再掲)
 まず、ここで「3三歩、3一歩」を入れる。ここまでは『黒雲作戦』と同じだ。
 そこで「9六歩」とするのが、新展開の一手。 そしてこれには、後手は8四金の一手。(放置して8五玉、8四金、同馬、同歩、9四玉なら、先手の望み通り“入玉”できて、先手優勢)
 なお、細かいところだが、「3三歩、3一歩」を先に入れないで先に9六歩だと、9六歩、8四金、3三歩の時に後手に(3一歩ではなく)7五銀と変化の余地を与える。

8四金図
 で、この図になる。我々は、『黒雲作戦』の成功で少し心の余裕ができたのか、同じ局面でも新たな感覚で見ることができるようになった。
 最初この局面に出会ったとき、これは入玉は無理だ、勝てない、と感じていたが、今は逆に「これは先手の勝ちがあるのではないか」という感覚に変わってきている。この図の後手の「8四金」を、「後手に金を使わせて質駒にした」と考えればよい。後手としても、しかたなく8四金と打った、と見えなくもないではないか。

 すると、ここで「先手勝ち筋」を見つけるための、新たな3つの候補手が見えてきた。
  【天】4一飛
  【地】3九香
  【人】8六歩

新黒雲の図1
 8四金と打たせてから、【天】4一飛と打ちこむ、『新黒雲作戦』。
 これはもう“入玉”はできないので、「攻めて勝つ」というのが芯となる方針だ。
 だが、これは上手くいかないことがわかった。ここで後手4二銀のような手なら、5三歩、同銀引、7三歩成で、先手やれるのだが…。
 この図では、後手7五銀、7七玉、6六銀左、8八玉、3三玉が後手最善の対応。 以下、3一飛成、4四玉(次の図)

新黒雲の図2
 この図は、先手悪い。この図から、2六角と打てば5九の金は取れるが、結局先手の勝ちは出てこなかった。
 
 (『新黒雲作戦』の研究→報告part92

香車ロケット1号の図1
 【地】3九香。 これはたいへんに有望に見える。実際、かなり有望だった。3九香に対し、後手3五桂なら先手が勝てる(3五同香、同桂、3四飛以下)し、4二銀でも先手が勝てる(4二銀に5三歩以下)とわかった。
 しかし、3九香に、7五銀、7七玉、6六銀右という手があったのだ(次の図)

香車ロケット1号の図2
 6六銀左だったら、先手が勝てるのだが、この“6六銀右”が好手で、先手が負けになる。
 この“銀右”の効果は2つあって、7五に空間をつくってあとで7五桂と打てるようにしたことが一つ、あと一つは、5五の銀を移動させないことで、先手から5五角と打つような攻防の角打ちの筋を消したことである。
 『香車ロケット1号』と名付けたこの作戦は、惜しくも実らなかった。

 (『香車ロケット1号』の研究→報告part93

香車ロケット2号の図1
 3番めの候補手【人】8六歩。 この歩を突いて、8七玉~9七玉のような退路スペースをつくった。
 以下、5六と(おそらくこの手が後手の最善手)に、3九香と打つ(次の図)

香車ロケット2号の図2
 『香車ロケット2号作戦』である。以下の進行は、6六と、8七玉、7五桂、9七玉、7六と、9八
角(次の図)

香車ロケット2号の図3
 上の手順中、7六とに代えて7七ともある。その場合は先手は9八金と打つ。その順は、難解ながら研究では先手良しになった。
 7六とには9八角と打つのが正解手(9八金は先手悪い。理由はここでは省く)
 9八角以下は、8七桂成、同角、同と、同玉、7五桂、9七玉、7八角、8八金(次の図)

香車ロケット2号の図4
 この図は、ほぼ「互角」。 しかしここから先をできる限り我々は研究し、どうにか「先手良し」の結論に辿り着いたのであった。
 『香車ロケット2号作戦』、成功である。終盤探検隊はついに、2つ目の「先手勝ち筋」を得たのであった。
 ただし、これが≪最終一番勝負≫で使えるかとなると、考えてしまう。まだ『黒雲作戦』のほうが、研究が行き届いている感じがある。

 (『香車ロケット2号作戦』の研究→報告part9495


 我々はさらに、「先手の勝ち筋探しの旅」を続けた。そして、3つ目の「先手勝ち筋」を発見できたのである。

3四同銀図
 「亜空間定跡」をこの図まで戻る。
 ここで9一竜としたのが“定跡手順”だったが、代えてここで「3三歩」とする。
 以下、「3一歩」に――――

赤鬼の図1
 ここで「4一飛」と飛車を打ちこむ。これが新発見の「勝ち筋」である。
 この時、先手は「角角金」と持駒を持っている。これが強力で、しかも後手はまだ5九の金を取り切っていないので、受けが難しいのだ。(4一飛に代えて4一角もあるがそれは4二金以下後手良し)
 4一飛に、4二銀は、6一角で先手が勝てる。
 この図での後手の最善手は、3三玉。 “ここは逃げる一手”なのだ。 以下、3一飛成に、4四玉(次の図)

赤鬼の図2
 ここで3六金が最有力に見え、それを調べていった。
 しかしそれは、8四桂、8五玉、4五銀が後手にとっての好手順である(次の図)

赤鬼の図3
 これでどうも、すっきりした先手の勝ちが見つからない。
 この図から8三竜と指し、5九金に、8四玉以下、“入玉”をめざせば、なんとか入玉はできるので、「持将棋引き分け」には持ち込めそうだが、「先手の勝ち筋」を探している我々にとっては、もはや「引き分け」ではなく、「勝利」が欲しいのだ。
 「勝利が欲しいのだ」という我々の願いが天に通じたのか、“新しい手”が我々のもとに降ってきた。

赤鬼の図4
 後手4四玉とした「赤鬼の図2」まで戻り、そこで6五歩と打つ手が、その手だ。
 この6五歩は、今見るとはソフト「激指14」が第1候補手として挙げている手ではないか(評価値は[ -24 ])。我々はしかしなぜか3六金にこだわって、それしかないと最初は思い込んでいたようである。(3六金は第3候補手で評価値[ -223 ])
 なお、まったく調査はしていないが、「激指14」のこの図での第2候補手は5八金である。もしかしたら、ここでの5八金は、「先手の勝ち」につながる可能性を持っているかもしれない。

 なんにせよ、我々は第3の「先手勝ち筋」を見つけた。
 そしてこれを、『赤鬼作戦』と名付け、≪ぬし≫との≪最終決戦一番勝負≫で使うと決定したのである。

 (『赤鬼作戦』の研究→報告part9697101



≪最終一番勝負 第10譜 指了図≫ 3四歩まで

 『赤鬼作戦』を使うその場面はもうじきに現れる。

 第11譜につづく




【ジョージ・マクドナルド『かるい姫』と重力(物理学)の話のつづき】

  F(引力)=GMm/r² (Gは万有引力定数、rは2つの物体間の距離)

 この式が、ニュートンの編み出した万有引力を表す式だが、その時点では「G」は何らかの比例定数であるとし、具体的には特定されてはいなかった。

 さて、この引力についての式を、「人間(体重ⅿキログラム)」と「地球(質量Mキログラム)」の場合に当てはめて考えると、地球上の人間が感じる「引力(=重力)」は、次のようになる。

  F(重力)=GMm/R² (Rは地球の半径)  ……… ①

 厳密には、「距離」は、“2つの物体のその重心から重心までの距離”なので、「地球の半径R+人間の身長の約半分」となるが、地球の半径に比べれば人間の身長などほとんど無視してもかまわないほどなので、Rだけでよいのだ。

 しかし、人間はこの「地球の半径」、すなわち「地球の大きさ」をどうやって知ったのだろう?
 「地球の大きさ」については、地球が“きれいな球形”であることを前提とすれば、北極星の見える角度を、緯度の違う2つの離れた場所(距離が大きいほどよい)から調べ、あとはその角度の違いから数学的に計算することができる。この方法で、日本では伊能忠敬が最初にそれを計測した(1800年)。
 欧州ではその100年~200年前に、同じようにして「地球の大きさ」は計測されていた。
 実は紀元前3世紀に、北極星を調べるのとは別のやり方であるが、「地球の大きさ」を調べ算出した人物がいて、エジプトのアレクサンドリアに住んでいたギリシャ人エラトステネスである。つまりギリシャ文明の科学は、すでに「地球が球形である」ということに一部の学者は気づいていて、その半径さえも突きとめていたのである。
 そのようにして計測・計算された「地球の半径」は、およそ次の通り。

 地球半径 R= 6.4✕(10の6乗) メートル 

 さて、もう一つ、ニュートン力学の基本となる式を次に登場させよう。

  F=ma (Fは力、mは質量、aは加速度)

 また、地球上で、落下する物体は下向きの一定の加速度で落下する。これはその物体の質量に寄らず、同じ速度、同じ加速度である。(綿毛などの軽い物体がゆっくり落下するのは空気抵抗があるからで、このニュートン力学では空気抵抗が全くない場合を考えている)
 その落下物の加速度を「重力加速度」という。 その値は実験すれば明らかになるが、次の通り。

  重力加速度 g= 9.8 メートル/秒² 

 そうすると、「a」を「g」に置き換えれば、重力を表すもう一つの式が現れる。すなわち

  F(重力)= mg   ……… ② 

 この式は、たとえば地表のある人間が体重mキログラムだったとして、その人間にかかる「重力」を表している。
 さて、これで、地球のもたらす「重力F」を表す式が2つ出現した。その2つの式①、②をつなぎ合わせると、次のようになる。

  GMm/R² = mg

 これを整理すると、 GM = gR²   ……… ③  という式ができあがる。

 欧州で、18世紀の段階で、わかっていたのは「地球の半径R」と「重力加速度g」である。
 わかっていないのが、GとMであるが、Gは「万有引力定数」(重力定数ともいう)、Mは「地球の質量」である。
 巨大な「地球の重さ(質量)」など、計りようがないが、「万有引力定数G」が判明すれば、「地球の質量M」が、この式を使って計算できるとわかるのである。

 ヘンリー・キャベンディッシュ(イギリス人1731-1810)がここで登場する。
 1798年、キャベンディッシュは、巧妙な実験装置を考案し、その実験によって得られた「万有引力定数G」を発表したのである。
 キャベンディッシュの行った実験は、「質量0.73キログラムの小鉛玉」と「質量157.85キログラムの大鉛玉」との間に働く、「引力」を導き出すもので、それによって「万有引力定数G」が得られたのである。(この実験から、地球の重力以外の2つの「物質」の間でも、たしかに「引力」は存在するのだということがわかる)

 さて、「万有引力定数G」が判ったので、その「万有引力定数G」を、式 ③ に当てはめて計算すれば、「M」の数値もあらわれる。
 こうして、「地球の質量M」も明らかになったのであった。
 「G」と「M」とは、およそであるが、それぞれ次の値になる。
  万有引力定数 G = 6.7×(10のマイナス11乗)
  地球の質量 M = 6.0×(10の24乗) キログラム 

 ヘンリー・キャベンディッシュはまた、最も軽い元素である「水素」の発見者としても、化学・物理学の世界に名を残している。
 「水素」はたいへんに「かるい」ので、軽やかに活動し、反応しやすい元素であるし、宇宙に最も多く存在している元素でもある。核融合エネルギーとして研究されているのも、「水素」や、2番目に軽い元素である「ヘリウム」である。


 ところで、「重さ」を表す英語の表現は、おもに、「 weight 」と「 gravity 」とがあるが、物理学で用いられるのは「 gravity 」の方で、この単語が「重力」、「引力」、「重力加速度」の意味を持つ。だから数式に「G」や「g」の文字を使う。(「gravity」には、「重大さ」とか「まじめさ」という意味もある)
 ほかに物理学で使われるのは、「質量」を意味する「 mass 」がある。
 「 weight 」は、「重さ」「体重」「おもり」などの意味だが、一応こちらも、「重力」の意味で使うことも一般の記事ではあるようだ。 また、「重い」という意味の形容詞に「 heavy 」があるが、私たちには「 weight 」や「 heavy 」のほうがなじみがあるだろう。

 ジョージ・マクドナルドのこの『 The Light Princess 』の中で、「重さ」として使われている英単語は、「 gravity 」である。
 上で紹介した吉田新一氏の訳は、これをしっかり「重力」と訳しているのがよい。(「重さ」と訳してしまうと何か意味が足らない感じがある)
 この童話は、つまり、「こうしてかるいお姫様に Gravity が戻りました、めでたしめでたし」という結末の話である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part110 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第9譜

2018年03月12日 | しょうぎ
≪亜空間最終一番勝負 第9譜 指始図≫

 指し手 △3三同銀 


    [怪物ガラスでもきてくれないかなあ]
「じゃあ二人とも、戦うのをやめにしたら?」アリスは仲直りをさせるいいチャンスだと思ってね。
「戦わねばならんのだよ、ちょっとはね。だがあんまり長びくのはごめんだな」ソックリダム。
「いま何時だい?」
  (中略)
「怪物ガラスでもきてくれないかなあ」とアリスは思ったね。
「いいかい、剣は一本きりだよ」ソックリダムが弟にいってる、「おまえは傘でやるんだな――十分とがっているもの早いとこ始めよう。どんどん暗くなっちまう」
「ぐっと暗くなっちまって」とソックリディー。
 あんまり急に暗くなってきたので、」アリスはてっきり嵐がくるのだと思った。「あら、なんて濃い黒雲! すごい勢いじゃないの! わあ、翼が生えているとしか思えない!」
「カラスだ! びっくりして金切り声をあげたのはソックリダムだ。二人の兄弟はいっさんにかけだして、たちまち見えなくなった。   
       (『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル著 矢川澄子訳 新潮文庫)



 4マス目。
 アリスは「名なしの森」にいた。ここは恐ろしい森で、いつのまにかアリスは自分の名前さえ忘れてしまっている。
 そのアリスのピンチを救ってくれたのが子ジカで、子ジカは、アリスが自分の名前がアリスであると思い出すことができる場所までつれて行くと、そこで走り出して消えてしまった。

 さて、アリスはこの森を抜け出して「次のマス」に進みたいのだが、道がわからない。
 そこで出会ったのが、ソックリダムとソックリディーの兄弟。
 この兄弟は、これから「決闘」をはじめるところだった。原因は弟のソックリディーが兄の新品のおもちゃ(ガラガラ)をこわしたからというのがその理由だが、どうやら二人ともけがをすることにビビッているようなので、「じゃあ二人とも、戦うのをやめにしたら?」と言った。しかしそういうわけにはいかないらしい。
 そこでアリスは「怪物ガラスでもきてくれないかなあ」と心の中でつぶやいたのだ。化け物のように大きな鴉(からす)のことである。アリスはマザーグースの歌の中の歌詞に、そういう話があったことを知っていたからそう思ったのだった。それがやってくればこの決闘は中止になるだろう。
 すると、実際に、アリスの願いのとおり、「怪物ガラス」はやってきたのである。周りは暗くなり、その黒い大きな翼で風を巻き起こす。ソックリダムとソックリディーは逃げて行った。

 アリスは逃げずにとどまっていたが、するとその風に吹かれてショールが飛んできて、アリスがそれをつかむと、次にそのショールの持ち主が現れた。持ち主は「白の女王さま」だった。
 「白の女王」と話しながら、アリスは森を通りぬけ、「5マス目」に進んだのであった。


 矢川澄子氏は「ソックリダムとソックリディー」と翻訳しているが、ほとんどの訳者はこの兄弟を「トゥイードルダムとトゥイードルディー」のように英語の原文そのままの表現を採用している。これはマザーグースの歌に登場する兄弟で、イギリスでは「そっくりな二人」を意味する表現として今も使われるそうだ。英語原文では「Tweedledum and Tweedledee」。 矢川氏の「ソックリダムとソックリディー」はずいぶんと思い切った訳し方である。



<第9譜 “黒雲”が希望への扉をひらいた>


≪最終一番勝負 第9譜 指始図≫ 3三歩まで

 我々終盤探検隊(先手)と≪主(ぬし)≫(後手)との戦い――≪亜空間戦争≫――は、最終段階である。マッタなしの一番勝負だ。
 その勝負は、この図の「3三歩」まで進んでいる。

 ここは3三同銀と取るところで、以下、3四歩、同銀となる(次の図)

3四同銀図
 ここで「9一竜」が有力手だ。
 以下、5九金、6六角、5五銀引、9三角成、9四歩(次の図)

9四歩図
 ≪亜空間戦争≫(第三次)では、この闘いが主戦場となったのだった。
 「先手番」として我々はこの時、苦しさを感じていたが、そこで編み出したのが『黒雲作戦』である。
 作戦に名前を付けるのはちょっと子供っぽい行為であるが、きびしい勝負にはどこかで“奇跡”のような場面が訪れるもので、それを呼び込むには何か、魔法のような、祈りのような思いが必要になることもあるのだ。「名前をつける」というのは、そうした“祈り”の表れでもあるのだ。
 その、勝ちを欲する“祈り”が通じたのか、我々は「先手の勝ち筋」をついに発見したのである。『黒雲作戦』は希望(先手の勝利)へとつながるドア(夏への扉)だったのだ。
 (『黒雲作戦』の闘いの内容の詳細は報告part8889にて)

3三歩図
 『黒雲作戦』は、まず、ここで3三歩と打つ。
 「3一歩」と受けさせて、「4一飛」と打つのが、我々が「黒雲作戦」と名付けてこれに賭けた作戦だった。(指した時は、これでダメだったらもう勝てないと思っていた)
 なお、単に4一飛と打ちこむのは、8四桂と打たれて先手負けになる。

黒雲基本図
 「4一飛」と打ちこみ、この図を「黒雲作戦基本図」とする。
 3三歩~3四歩で銀を吊り上げて打ちこみの隙をつくった効果がここに現れたわけだ。(4一飛に代えて4一角は、4二金で後手良し)
 今度は、後手8四桂なら、同馬、同歩、3一飛成、同玉、3二金で、先手勝ち。
 この「黒雲作戦」のねらいは、攻める手に見えるが、実はそうではなく、ほんとうのねらいは“入玉”である。「4一飛と打ってそれを囮にして入玉する」という作戦なのである。だから基本、4一に打った飛車は取らせるつもりなのだ。

 さて、4一飛は“詰めろ”なので、後手としても放置することはできない。では後手はどうするか。ここで後手には次の四つの候補手がある。

  〔東〕3三玉
  〔西〕4二金打
  〔南〕4二銀
  〔北〕3三桂

 〔東〕3三玉は玉を中段に逃げる手。あとの三つはいずれもあの飛車を捕獲する意図がある。どれも有力である。

変化3三玉図01
 〔東〕3三玉 。 
 ここで1一角だと、3二玉で先手不利に陥る。なのでここは3一飛成の一手。
 その3一飛成に、4四玉には、4五歩があって先手優勢がはっきりする。5四玉なら3四竜だし、4五同玉には3六角で、ぴったり寄っている。(我々にとってこの順があるのは幸運だった)
 したがって、3一飛成には、3二歩だが、以下、1一角、2四玉、5七馬(次の図)

変化3三玉図02
 と金を払いながら王手のこの5七馬(図)がまたまたぴったりの手で、先手勝勢。


変化4二金打図01
 〔西〕4二金打 。 4一飛を召し取るには、この手が一番早い。
 この手に対し、我々の選択した手は、(4二同飛成ではなく)8五玉だ。以下、4一金に、9四玉。一直線に“入玉”をめざして進む。
 さらに7七飛、8三玉、7四飛成、9二玉で、次の図。

変化4二金打図02
 「飛車を囮に入玉」という『黒雲作戦』のねらい通りの展開だが、形勢はどうなっているのか。
 実はここから後手にあまり有力な手がない。この図は、すでに『黒雲作戦』の術中にハマっているのだ。
 一応、この先具体的にどうなるかを見ておこう。

 後手4六銀(次の先手の5七馬と3九香に備えた手)に、3九香、3五桂、7二歩、4二銀、7一歩成、3三銀、7二と、5八金、6二歩(次の図) 

変化4二金打図03
 と金攻めが十分に間に合う。
 7九竜、3五香、同銀引、6一歩成、2九竜、6二と寄、3二金、5二と、同歩、6二と、9九竜、5二と、1九竜、4二歩(次の図) 

変化4二金打図04
 一例は、こんな感じ。先手玉はすでに入玉しているので、後手の持駒の桂香が全く怖くない。あとは「と金」で、後手の金銀を削っていき、後手玉がうすくなって隙ができれば寄せていけばよい。


変化4二銀図01
 〔南〕4二銀(図)は考えられる手だが、4一の飛車を取りきるには、3三玉~3二玉~4一玉と、「3手」かかる。その間に先手は“入玉”をしたい。しかし後手は「金」を持駒に持っているので、ここで8五玉だと9五金があって、先手悪い。
 ここは8二竜が良い。(次は4二飛成、同金、同竜がある)
 以下は、3三玉、7三歩成(代えて8三竜も有力)、同銀、1一角、2二桂、7三竜、8一桂(次の図)

変化4二銀図02
 大駒に両取りがかけられて、先手失敗したようにも見えるが…。(大丈夫、想定内だ)
 8五玉、7三桂、9四玉、9二歩、同馬、3二玉、4二飛成、同金、8三玉、6七飛、7四歩、3三桂、7三歩成、2一玉(次の図)

変化4二銀図03
 後手は飛車を二枚取り、さらに角も捕獲。 大駒三枚を取られたが、先手はこれで勝てるのだろうか。
 2二角成、同玉、2六桂、8七飛成、8四歩、5六角、7四歩、4五銀、3九香、8九飛、8二玉、8四竜、8三銀、9九飛成、3四桂打(次の図)

変化4二銀図04
 実はすでに先手ペースの闘いになっているのであった。
 3四同銀、同桂、同角、同香、9七竜、5三銀(次の図)

変化4二銀図05
 どうやら、後手玉は寄ったようだ。
 4一金打、4二銀成、同金、3三香成、同玉、6二角(次の図)

変化4二銀図06
 先手勝勢になった。

 以上、見てきたように、〔東〕3三玉〔西〕4二金打〔南〕4二銀はいずれも先手有利に進められる。


変化3三桂図01
 〔北〕3三桂
 これが後手の最後の手段だ。これなら後手は次に3二玉~4一玉の「2手」で飛車を取れるし先手の入玉を止めるための「金」を持駒にキープしてもいる。
 これには、先手は「9六歩」とする。やはり8五玉からの“入玉”が先手の真のねらいだ。
 対して後手8四金なら同馬、同歩、1一角以下、後手玉が詰む。
 また「9六歩」に後手8四歩もあり、同馬、7二桂、5七馬、6五桂、3九馬、4九金、9三馬、8四歩、8六玉、7五銀、9七玉の変化は、きわどいが先手良しとみる。

 だから先手「9六歩」に、後手「3二玉」と進み、そこで「8五玉」と“入玉”をめざす(次の図)

変化3三桂図02
 単純に入玉させては後手まずいので、そこで8四金と抵抗。先手の馬との交換になる。
 8四同馬、同歩、9四玉、4一玉、9三玉、5四角、3九香(次の図)(次の図)

変化3三桂図03
 この将棋では、後手陣を攻めるとき、またしてもこの3筋の香車が有効手になる。後手に3一歩と打たせた効果だ。
 ただし、この図はまだ先手玉は安泰ではない。
 ソフト「激指」の評価値はわずかに後手に傾いている(-350くらい)が、この「激指」は入玉を過小評価する傾向があるのでそのまま信じて悲観する必要はない。

 図以下、7四歩、8三金、8一桂、9二玉、7一桂、7二歩、8三桂、8一竜、6二金、8二金以下、先手玉周辺の攻防が続き、その後約20手ほど進んで(指し手は省略する)、次の図に至った。

変化3三桂図04
 先手の玉の“入玉”はどうやら確定した。後手は飛車を二枚とも手に入れたが、玉は逃げ遅れている。ここでは少し先手有利に傾いていると思われる。(「激指」の評価値は[+56 互角])
 ここからもう少し進めてみる。
 5八金、2二銀、2一香、3一銀成、同竜、同馬、同玉、6三歩、同金、4五歩、9六竜、9三歩、3三銀、5五桂(次の図)

変化3三桂図05
 「激指」の評価値は[+474 先手有利]に。
 8二銀、同と、5四角、6三桂成、同角、5五角、4二銀打、1二飛(次の図)

変化3三桂図06
 はっきり先手優勢になった。 やはり“入玉”を果たした玉は強いのである。


黒雲基本図(再掲)
 この図から、〔東〕3三玉〔西〕4二金打〔南〕4二銀〔北〕3三桂、後手の四つの有力手を全て撃破することができた。
 こうして、『黒雲作戦』は成功した。変化が膨大にあるので絶対的確定とまでは断定できないが、いまのところ、先手に都合の悪い順は見当たらない。
 ついに終盤探検隊は、≪亜空間戦争≫において、希望(先手の勝ち筋)に辿り着き、「勝利」に限りなく近づいたのであった。

 ―――とそのときは思ったが、それは錯覚だったのであった。

 ≪亜空間≫の戦いは、時間を遡って何度でもやり直せるという特殊ルールである。
 これではどんなに有利に立っても、つまり何度勝利しても、この≪戦争≫には、“果てがない”ということに我々はやがて気づかされたのであった。
 実は『黒雲作戦』の闘いのさ中、“姿の見えない敵将”である≪亜空間の主(ぬし)≫の声を我々は聞いた。≪ぬし≫(我々が勝手につけた名前)が“接触”してきたのである。彼は、この≪戦争≫の決着を、「一番勝負」で行うことを提案してきたのであった。
 はじめ我々はこの提案を拒否しようとしたが、よくよく考えればこの提案は、我々にとってありがたい提案だと気づいた。このままでは、どんなに有利になっても、死ぬまでこの戦争は泥沼化して続いてしまう…。
 考え直して、この「最終一番勝負」の提案を受け入れたのである。

 ≪ぬし≫が、その提案をしてきたのも、きっと我々ががんばって「先手の勝ち筋」(=黒雲作戦)を発見できたからなのではないか。よくここまで来たな、それでは最後に「一番勝負」でこの戦争を終わりにしようではないか―――そういう≪ぬし≫の、祝福の意味をこめた提案なのかもしれない。≪ぬし≫の、父性的な“やさしさ”なのかもしれない。そんなことを感じた。
 『鏡の国のアリス』での、アリスに対する「赤の女王」のように、≪ぬし≫の正体はもしかしたら身近な、我々の知っている誰か、なのかもしれない。

 ただし、勝負の冷徹な一面は忘れてはならない。我々は勝たねば終わり、あくまでそれが「現実」なのだ。



≪第9譜 指始図≫(再掲) 3三歩まで

 その≪亜空間戦争最終一番勝負≫は、この図の「先手3三歩」まで進んでいる。

 この「3三歩」を 同玉 だと、1一角以下、すぐに後手玉は寄る。
  同桂 は考えられる手だが、その道は我々は体験済みで、結論は「先手良し」である。
 その変化を書いておこう。
  3三同桂 には、「3四歩」(次の図)とするのがわかりやすい。(この場合は7三歩成でも先手良しになると思われる)

参考図1
 以下、5九金、3三歩成、同銀、9一竜、7五金、7七玉、6五桂、8八玉、7六金、3四桂(次の図)

参考図2
 3四桂で後手玉が詰んでいる。詰み手順は、3四同銀、1一角、同玉、3一飛以下。
 この“詰み”は、後手持駒に「金」があると成立しない。つまり後手が7五金としてきたために生じた詰みの変化なのである。

 というわけで、それでは後手が金打ちをせず別の手を選んだ場合はどうなるか。具体的には、7五金に代えて、7四歩ならどうなるか。
 その場合には、7四歩に―――

参考図3
 2五桂(図)で先手勝ちになる。この桂打ちは、2一金以下の“詰めろ”になっている。



≪最終一番勝負 第9譜 指了図≫ 3三同銀まで

 ということで、後手の≪ぬし≫は、「3三同銀」。


 第10譜につづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤探検隊 part109 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第8譜

2018年03月09日 | しょうぎ
≪亜空間最終一番勝負 第8譜 指始図≫

 指し手  ▲3三歩 


   [夏への扉を探す猫]
 彼は、その人間用のドアの、少なくともどれか一つが、夏に通じているという固い信念を持っていたのである。これは、彼がその欲求を起こす都度、ぼくが十一ヵ所のドアを一つずつ彼について回って、彼が納得するまでドアをあけておき、さらに次のドアを試みるという巡礼の旅を続けなければならぬということを意味する。そして一つ失望の重なるごとに、彼はぼくの天気管理の不手際さに咽喉を鳴らすのだった。
  (中略)
 だが彼は、どんなにこれを繰り返そうと、夏への扉を探すのを、決して諦めようとはしなかった。
 そして一九七〇年十二月の三日、かくいうぼくも夏への扉を探していた。
     (『夏への扉』ロバート・A・ハインライン著 福島正実訳 ハヤカワ文庫)



 「彼」とは、この物語の主人公である「ぼく」(ダニエル・デイヴィス)と9年間ずっと一緒に暮らしている猫のことで、名前を護民官ペトロニウスという。愛称はピートで、性別はオス。しかしその体毛の模様はどうなのかまでは描かれていない。

 猫好きで有名な作家といえば、アーネスト・ヘミングウェイ、ポール・ギャリコなどがあがるが、この小説の作者ロバート・A・ハインラインも大の猫好きで猫に囲まれた生活していた人である。

 “六週間戦争”の前に、猫ピートと「ぼく」とで暮らしていたコネティカットの農家の家にはなんと「十一のドア」があって、寒い冬が大嫌いなこの猫は、その「十一のドア」のうちのどれか一つは、必ず「夏」へと通じていると固く信じ一つ一つ開けてまわる―――という説明からこの小説は始まる。
 飼い猫は、ドアの前に立って行儀よく座り、飼い主を呼ぶものである。このドアを開けてくれ、と。それにいちいち付き合う飼い主の「ぼく」の、または作者ハインラインの、猫への愛情がこの描写で見えてくる。

 この小説は1957年に発表されたもので、小説の舞台となった時代は主として1970年なのだが、この“未来”はわれわれの知っている1970年よりもはるかに科学産業の進んだ世界である。すでに「冷凍睡眠装置(コ-ルド・スリープ)」が実用化され、そのための営利会社が存在していて、これがこのSF小説の重要な小道具になっている。
 主人公(=ぼく)は30歳男性。
 親友マイルズとともに会社と工場を立ち上げ、「ハイヤード・ガール」というわかりやすくいえば“お掃除ロボット”を作った。これがヒット作品となって、たいへんに売れた。製作者は「ぼく」で、マイルズが経営部門を担当する。社長はマイルズだが、株の51パーセントを保有したのは「ぼく」だ。会社の名前は「ハイヤード・ガール株式会社」。
 そんな順調な生活に、“悪女”が入りこむ。「ぼく」は、その女の美貌(とりわけ大きなバスト)に目がくらみ、この“悪女”と婚約してしまう。この女ははじめからこの会社を乗っ取るために近づいてきていて、そのためならどんな“悪”をも飲みこむ女だった。“悪女”はマイルズを味方に取り込み、自分の思うように動かない主人公を排除しようという暴挙に出る。
 “悪女”は猫のことを好きなふりをしていたが明らかに猫嫌いだったし、ピートもまたこの女を嫌っていた。女の性根に気づいていたのであろう。
 ピートをずっとかわいがってくれていた少女リッキイ(11歳)もまた、大好きだった「ぼく」がこの“悪女”と婚約したことを深く悲しんでいた。リッキイは友人マイルズの娘だが、血のつながりはなく、マイルズと結婚した女性の連れ子だったが、その少女の母は死んでしまったので、「ぼく」とマイルズとで育てていたのであった。少女は忙しく働く「ぼく」の愛猫ピートの世話を喜んでしてくれた。
 “悪女”のために順調な生活の日々が破壊された「ぼく」は、その女との戦いの結果、油断をして敗北し、30年後の未来――西暦2000年――まで飛ばされてしまう。「ぼく」の心が冷え切って弱っていた時になんとなく契約してしまっていた「冷凍睡眠装置(コ-ルド・スリープ)」に入って。“悪女”は「ぼく」を殺してしまうより、そのほうが犯罪にもならないので都合がよいと考えたのだった。(その冷凍睡眠の契約がこの主人公の命を救ったともいえる)
 その“未来”での暮らしは悪いものではなかったが、1970年への心残りは、猫と少女である。どうやら少女の養父であるマイルズは1972年には死んでしまったらしい。では、リッキイはどうなったのだ。“悪女”と戦闘していた愛猫ピートはどうなったのか。
 「30年間」の自分の周辺に関して調べていくうちに、「ぼく」はある物理学者が偶然思いついて製作し、今は研究中止となり“機密”として扱われているポンコツタイムマシンの存在を知る。「ぼく」はその物理学者に近づき、強引にそのポンコツタイムマシンに乗って、1970年へ――――

 そんな話である。 「猫」と「少女」、そして物語の始めが「冬」であることが『鏡の国のアリス』との共通項である。

 
 このSF小説を、我々(終盤探検隊)がこのたび再読して面白いと感じたことは、猫ピートが「十一のドア」のうちの一つは夏につなっがていると固く信じている、というところである。

2二同玉図
 我々と≪ぬし≫との戦いで、もっとも我々が苦しかったのがこの図であるが、ここで我々は「十一」の手を考えて、いったんはすべてだめだと降伏し、しかし再起してやっと、一つだけ生き残る道を見つけたのであった。その「十一番目の手」が、4二銀であった。(だからこの図を「夏への扉図」と名付けるべきだったかもしれない)

 そこから、3三銀打、4五玉以下、進んで、次の図に至る。


<第8譜 「夏への扉図」をめぐる攻防>

≪第8譜 指始図≫ 夏への扉図
 我々が、「夏への扉図」と名前をつけたのがこの図である。
 小説『夏への扉』のように、ハッピーな結末になればよいと思い、そう名づけてみたのである。
 逆に言えば、この図からの「正解」(=先手の勝ちへつながる扉)が、見つかりそうな可能性が小さいと感じていたからでもある。見つからなければ、“終わり”なのだ。祈るような思いをこめて、「夏への扉図」としたのである。

 そして、実戦と研究と祈りの結果、我々が得た結論は次の通り。

  【あ】5八同金  → 後手良し
  【い】3三歩   → 「先手勝ち筋」あり!!   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 「先手勝ち筋」あり!!
  【か】8六玉   → 後手良し

 つまり、「夏への扉図」での先手の勝ちへつながる手は、【い】3三歩と、【お】6五歩と、二つある。(先手の勝ち筋が見つかったのだ!!!)
 しかし今回はマッタなしの≪最終一番勝負≫である。もう“お試しの手”は指せない。選ぶ道は一つ。
 我々はここでそのどちらを選択するか、すでに決めていた。(報告part101
 選んだ手は――――

≪第8譜 指了図≫ 3三歩まで
 選んだ手は、「【い】3三歩」だ。
 この手は、もともと「激指」が推奨していた手であるし、この手に我々は命運を賭けた。


 
 さて、≪最終一番勝負≫のその後の進行は次回に―――ということにして、ここでは、なぜ【あ】5八同金、【う】7三歩成、【え】9一竜、【か】8六玉がだめだったのかについて、簡略に、以下に示しておこう。

白波図1-a
 まず、【う】7三歩成(図)。
 この手は、≪亜空間戦争≫で、真っ先に我々がためした手である。(報告part83
 図以下、5九金、7四金、7三銀、同金、6四銀と進み、そこで7四金は、8四桂、同金、同歩、同竜、7二桂(次の図)で―――

白波図1-b
 7二桂(図)で、「後手良し」になる。

 今の手順中、7四金に代えて、7四飛もある(次の図)

白波図1-c
 以下、≪亜空間戦争≫では、次のように進んだ。
 7五歩、8五玉、9四金、同飛、7三銀、5四飛、6二桂(次の図)

白波図1-d
 8三竜、8四歩、同飛、同銀、同玉、8二歩、7二竜、8三金、同竜、同歩、同玉、8一飛、8二銀、8四飛(次の図)

白波図1-e
 以下、後手勝ち。


≪第8譜 指始図≫(再掲) 夏への扉図
 このようにして、【う】7三歩成の結果は、我々(先手)の負けになった。
 しかし、ここで3三歩として、以下、同銀、3四歩、同銀と後手陣を乱しておいて、それから「7三歩成」なら、どうだろうか。(報告part87

白波図3-a
 すなわち、この図であるが、以下の進行は、5九金、7四金、5五銀引となった(次の図)

白波図3-b
 この後手の“5五銀引”(図)をどうしても破ることができず、我々は敗北したのだった。(たとえば8三竜としても、7一桂、8二竜、8四歩、同竜、8三歩、同と、9四金で後手良し)


≪第8譜 指始図≫(再掲) 夏への扉図
 「夏への扉図」に戻って、ここで【あ】5八同金や【か】8六玉も有力である。
 しかし、我々の研究(これらは主との実戦ではためさなかったので、“研究”である)では、【あ】5八同金は、同と、9一竜、7五金、7七玉、8五桂、8八玉、3三歩(次の図)で―――

変化5八同金図
 これで先手自信がない。持ち駒は豊富にあるが、“3三歩”と受けられて、攻めの糸口が作れない。

変化8六玉図
 また、【か】8六玉は、けっこうソフトが有力視している手なのだが、これも研究結果はあまり先手面白くない。「夏への扉図」から、8六玉、5九金、9一竜、8四金となって、この図だ。 
 以下、3三歩、同銀、3四歩、同銀、9六玉、9四歩、7七角(王手)、4四歩、8五香と頑張る手はあるのだが、7四金、9四竜に、8二桂が後手の好手で、うまくいかない。


≪第8譜 指始図≫(再掲) 夏への扉図
 さて、【う】7三歩成(白波作戦)で敗れた我々は、次に【え】9一竜(草薙作戦)に期待した。(最初我々はこの先手玉を勝たせるには“入玉”しかないと考えていたのだった)
       →報告part84

草薙図1-a
 【え】9一竜(図)と香車を取ったところ。
 以下、5九金に、6六角と王手で打ち、5五銀引に、9三角成(次の図)

草薙図1-b
 ここで<g>8四金が有力手。以下、8五金、7四歩、8四金、同歩、同馬に、8三歩が好手(次の図)

1-c
 後手は8三歩(図)に代えて7五銀が目につくけれど、それは8五玉、8四銀、同玉で、先手良し。
 8三歩(図)に、7四馬とするのは、7三桂(または8四金)で後手良し。

 なので、8三歩に、8五玉とし、8四歩、9四玉(次の図)と、馬をタダで差し出して、“入玉”をめざすのが最善の道となる。

1-d
 後手にも持ち駒が増えてきたので、ここから正確に指さないとつかまってしまう。それでも、正確に指せば、なんとか“入玉”できると、試行錯誤の末にわかった。
 以下の指し手は省略するが、次のような図になる。

1-e
 なんとか“入玉”できた。しかし図のように後手も4四玉から“入玉”を計れば、これはどうやら「持将棋引き分け」が濃厚である。いや、持将棋のための先手の点数が足らないという可能性もある。

 しかも、この道は、さらに“後手にとっての好手”が他にあった。

草薙図1-f
 9三角成とした「草薙図1-b」まで戻って、<g>8四金の手に代えて、<h>9四歩(図)があった。
 この手が“好手”で、ここから先手に勝つ手が見つからないのだった。
 5七馬は6五桂で後手優勢。6五歩には、8四桂がある。
 <h>9四歩に9六歩には、8四金だ。そこで8五金も、7四歩、8四金、同歩、同馬に、今度はそこで7三桂がある。<h>9四歩の効果で、8六玉~9五玉のような入玉ルートがあらかじめ阻止されているのである。 

 結論としては、この図は「後手勝ち」。

 変化の一例を挙げておこう。図から、9六歩、8四金、8六歩として、入玉はあきらめて、攻めのチャンスをうかがう指し方がけっこう有力だ。(報告part85
 先手としては、8四に打った後手の金を質駒にしたい。 以下は、7五銀、8七玉、6六銀左、3三歩、同銀、7九香、6七と、3四歩、4二銀、6八歩、7七と(次の図)
 
草薙図1-g
 6八歩を同とと取ってくれたら、7五香、同金、4一角以下、勝負になっている(先手勝ちの可能性もある)のだが、図のように6八歩に、「7七と」で、先手が悪い。7七同香に、6五桂、7五香、7七桂成、9七玉、7五金、4一角、3二歩、9四馬、8四香と進んで、これは後手優勢。
 この変化は先手にとっても惜しい変化だったが、結局は勝てなかった。
 一般に、「大駒四枚」と「金銀七枚」では、後者のほうが有利(の場合が多い)とされているが、このケースもそういうことか。

草薙図2-a
 この図は、「夏への扉図」から、「3三歩、同銀、3四歩、同銀」を入れてから、9一竜以下、同じ手順で、9三角成としたところ。後手陣にスキができているが、それでチャンスが生まれるかどうか。
 この場合も、<y>8四金と<z>9四歩の2つの手が後手の有力手となる。

 <y>8四金は、8五金、7四歩、8四金、同歩、同馬、8三歩、7四馬と進む(次の図)

草薙図2-b
 後手陣が「3二銀型」の場合だと、この7四馬(図)はなかった。7四馬に7三桂や8四金で後手良しになるからだが、しかしこの場合は7三桂や8四金には、この場合“5二馬”で逆に先手勝ちになるのだ。同歩なら、3二金、同玉、3一飛から後手玉に“詰み”があるから。
 したがって、ここで後手は7五金と打ってくる。同馬、同銀、8五玉(7五同玉は6四角が王手竜取り)、8四銀、9四玉、4七角、9三金、7四角成、8六香、6二銀、3三歩、同玉、1一角、2二桂、3五歩(次の図)

草薙図2-c
 これで、先手優勢。 まだまだ大変ではあるが、しっかり指せば、先手が勝てる。

草薙図2-d
 ということで、<z>9四歩(図)が、ここでもやはり後手最善手とみられる。
 ≪亜空間戦争≫では、我々終盤探検隊は、ここからとにかく、頑張ったのである。


 第9譜へつづく

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする