≪亜空間最終一番勝負 第11譜 指始図≫
指し手 ▲4二銀
[鏡と大鴉]
わたしは、その鏡に、覗きこむというより面と向かいあって、部屋も自分の姿もそこに映っていないことを知った。壁が融けこんでしまうのを見るような気分だった。でも、その次に起こった出来ごとが、鏡を見て感じたわたしの不安定な気分を、充分に伝えてくれるだろう――わたしは思わず、あるすばらしい絵を保護しているガラスを鏡と見間違えたのだろうか、と目を疑ったほどだったのだから。
目の前に原野が広がっていた。見渡すかぎり緑一色のヒースの大原野。
(中略)
近眼だったわたしは、すぐ手近に見える石の状態をしらべるために、一、二歩近づいた。すると、そのとたん大きくて年取った鴉(レーブン)が一羽、横柄な態度でぴょこんと目の前に跳びだした。鴉の羽根は紫がかった黒をしており、あちこちが灰色にはげていた。
(『リリス』ジョージ・マクドナルド著 荒俣宏訳 ちくま文庫)
『リリス』(Lilith)は、ジョージ・マクドナルド(1824-1905)が晩年に書いた大人向けのファンタジー小説(1895年)
主人公はどうやら物理学者かそれに興味を持つ大人の男で、彼(「わたし」)は先祖が持っていたオックスフォードにある古い屋敷と土地を相続した。その大きな屋敷には奇妙な「図書室」があり、そこで科学書を読みふける日々を過ごしていると、時々人の気配を感じた。いや、“気配”のみならず、<黒い外套の背の高い老人>の姿をたしかに図書室の中で見かけたのだ。どうやらその人物は、「レ―ヴン氏」と呼ばれる、この世のものではない何かであるらしい。「レーヴン」とは「大鴉(おおがらす)」を意味する。今は見たものはほとんどいないが、昔からその図書室に現れるという話があったという。
ある日、「わたし」は、また現れたその「レ―ヴン氏」を追いかけていった。するといつのまにか「わたし」は屋根裏部屋にいて、古い<鏡>の前に立っていた。
そして、「わたし」は、<鏡>をくぐりぬけて、あちらの世界へ―――。
そこには“緑一色のヒースの大原野”が広がっており、大鴉がいて、鴉は、「わたし」に話しかけてきたのである。
「ヒース」(heath)とは何だろうか。
イギリスの古い小説には、よくこの「ヒースの野」というような場所が登場する。たとえば『嵐が丘』(エミリー・ブロンテ1847年)や、『秘密の花園』(バーネット1911年)の中で、この「ヒースの野」は重要な意味を持って登場している。
画家安野光雅のエッセイ付き画集『イギリスの村』の中で、安野氏はこの「ヒ―ス」がどういうものであるかを歩いて確かめ、文章で描写している(絵の描写がないのは残念)
「ヒース」は、ある特定の植物を指す場合と、イギリスの原野風景全体のことを指す場合とがあるようだ。(『嵐が丘』の中のヒースは、カルーナ・ブルガリスというツツジ科の植物らしい)
またイギリス・ロンドンには「ヒースロー(Heathrow)」という名の空港があるが、これは「ヒースの並木道」とか「ヒースの街」の意味である。
“鏡の向こうの世界”で、「わたし」はヒースの原野を、そして森の中を歩く。天に「満月」を見ながら。この世界では、月はいつも「満月」だった。“奇妙な世界”なのである。
森の中で「女の死体」に出会う。「わたし」は、この死体はまだ生きているのではないか、蘇る可能性があるのではないか、と思った。この“奇妙な世界”では、そういうことも起こり得ると。
「わたし」は、ずっと「女の死体」の傍らにいて、毎日水浴びさせ、一粒の葡萄を口に入れた。
そうして、ある日、その「死体」は、両目を開け、蘇ったのである。
その美女は、「リリス」という名の、「女王」であり、この世界に不幸をふりまく<魔女>でもあった。“猫の女”と呼ばれることもあり、黒い斑点のある雌豹の姿に変わって鳴くこともあった。
「鏡」をくぐりぬけて向こうの世界に行くこと、そして、「女王」=「猫」であり扱いにくいキャラであること――――『鏡の国のアリス』との共通項である。
「鏡」は、多くの作家に“魔法の道具”のイメージを湧き起こさせるようで、古くは『白雪姫』の魔女が使っているし、昭和時代では『ひみつのアッコちゃん』が使っていた。
しかし、「鏡をくぐり抜けて向こうの世界へ行く」という話は、案外そう多くはないように思われる。『鏡の国のアリス』(1871年、原題Through the Looking-Glass, and What Alice Found There)よりも前に、そういう話は、あっただろうか?
<第11譜 研究に落とし穴はないだろうか>
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≪亜空間最終一番勝負 第11譜 指始図≫ 3四歩まで
≪最終一番勝負≫は、この図の通り、「3四歩」まで進んでいる。
3四同銀図
以下、3四同銀と進んで、この図になる。(これが「亜空間定跡」の進行)
ここで先手の有力手はこの5つ。
〔1〕7三歩成
〔2〕9一竜
〔3〕3三歩
〔4〕6五歩
〔5〕5八金
≪最終一番勝負≫で、我々(終盤探検隊)はすでに〔2〕3三歩を選ぶことを決めている。以下、3一歩に、4一飛と打つのだ。(これが『赤鬼作戦』)
であるから、以下は参考でしかないが、今回は〔4〕6五歩と〔5〕5八金について述べておきたい。(〔1〕、〔2〕、〔3〕についてはすでに紹介している)
まず、〔5〕5八金から。(こちらのほうが簡単に済ませられるので)
変化5八同金図1
〔5〕5八金(図)である。 似た形を前に報告しているがこの「後手3四銀型」での「5八金」というのは、新しい報告になる。
5八金以下、同と、9一竜、7五金、7七玉、8五桂、8八玉、6八と(次の図)
変化5八同金図2
これでどうやら「後手良し」のようだ。
この図で放っておくと7六金~7七桂成と来られるし、ここで7九香は、7六桂と打たれる。
だが、ここで先手の有効手がないのだ。
この図で3三香はあるが、同玉と取られ、以下1一角、2二香、3一飛、4四玉と応じられて、以下2二角成としても3三歩で飛車角の活動が同時に止められてしまい、後手が指せる。
3四同銀図(再掲)
次に、〔4〕6五歩について確認をしておきたい。これもかなり有力な手で、『桃太郎作戦Ⅱ』と名付けたが、「先手勝ち」という我々の研究結果がある。
その『桃太郎作戦Ⅱ』の前に、『桃太郎作戦』があるので、まずそちらから。
夏への扉図
「後手3二銀型」での先手6五歩である。つまり、この図、「夏への扉図」(すなわち後手3二銀型)からの「6五歩」(次の図)である。
桃太郎図A-1
これが、『桃太郎作戦』。 「玉」が右腕のパンチを繰り出すような勇敢なイメージから、これを『桃太郎作戦』と名付けた。(→報告98・99)
「6五歩」が有力な手と気づくのが遅れたのは、最初我々の意識が“入玉しなければ勝ちはない”と思い込んでいたということがある。それに、6五歩と指したこの図でのソフト「激指」の評価値は[ -487 ]で、パッとしない数値なのだ。(しかしそれでも6五歩は、第1候補の3三歩に続く2番目の候補手だったのだが)
終盤探検隊がこれが有力かもしれないと気づいて調査した後の結論としては、ここで6五歩と打つ先手の作戦は、「先手良し」。
以下に、その代表な変化を、示しておこう。
桃太郎図A-2
「6五歩」に、5九金、6四歩、同銀、9一竜、7五金と進んで、この図。
以下、7七玉、6五桂、8八玉、6七となら、3三歩、7七桂成、3三銀、3四歩、同銀、3三香(次の図)
桃太郎図A-3
3三香(図)。 これで「先手の勝ち」となる。
3二歩なら、4一銀、3三玉、1一角、2二香(桂)、3一角(2二角右成と6四角成の両狙い)。
3三同玉も、1一角、2二香(桂)、3一角。
3三同桂は、4一飛。
3一歩には、同香成、同玉、1一角(2二桂なら6二飛が決め手になる)、4二玉、5四飛。
桃太郎図A-4
今の手順を、後手6五桂に、先手8八玉のところまで戻って、(6七との手に代えて)7六桂としたのがこの図。このほうが6七とよりも一歩攻めが早くなる。
図以下、9八玉、7七桂成に―――
桃太郎図A-5
8九金(図)と、(香車ではなく)「金」で受けるのが大事なところ。
そして6八とに、3三歩と反撃する。3三同銀に、そこで4五角が攻防の絶好手(次の図)
桃太郎図A-6
4五角の“受け”の意味は、後手の7八とに、同角、同成桂、同金として「先手良し」というもの(この形をつくるための8九金打ちだった)
そして4五角の“攻め”は、次に2六香と打てば、後手は3四歩くらいしか受けがないが、そこで4一角と打って、後手は“受けなし”である。
この図から後手4四歩という手があるが、それには5四角として、この手が後手玉への“詰めろ”になっているので、やはり「先手勝ち」になる。
桃太郎図A-7
どうやら、後手は6四銀と出た手がまずかった。だからその6四銀に代えて、7四歩としたのがこの図。
ここで先手3三歩と攻めるのは、以下8四桂、7七玉、6五桂、7八玉、3三桂(または3三銀)で、後手勝ちになる。
また図で9一竜は、7五金以下、先ほどの変化と同じように進んだ時、こんどは「後手良し」になる。先ほどは“6四銀”と後手の銀が浮いていたので、3一角と打つ手が銀取りになって先手有利になったが、「5三銀型」だとそれがないからだ。
ということで、この図での最善手は「6六角」である。
以下、我々の研究手順は、3三歩、8五玉、6七と、7四玉(次の図)
桃太郎図A-8
先手は、角を犠牲に、“入玉”を計る。
6六と、8三玉、6七角、7四歩、9二金(次の図)
桃太郎図A-9
後手9二金に、7二玉と逃げると3六角成で先手悪い。なので9二同竜、同香となるが、その後は変化が多い。8二金、または8一飛が候補手だ。
この図からは、たぶん、“入玉”はできるだろうし、だから先手の負けはないだろう。そしておそらく、この先、後手玉を捕まえて、「先手勝ち」となりそうだとは思ったが、しかし絶対にそれができるという確信までには至らなかった。95パーセント、大丈夫だろうという感覚だった。
しかし残りの5パーセントの「持将棋引き分け」の可能性があると感じたことが、我々は気に入らなかった。大駒二枚(飛車角)を後手に渡したのが気になるところ。
この『桃太郎作戦』は優秀な作戦で、先手がこれで勝てるだろうとは思ったが、それでも我々終盤探検隊が選んだのは、この作戦ではなく、『赤鬼作戦』だった。選ばなかった理由は、この“入玉”の変化に含まれる「5パーセントの不安」である。
しかしまた改めてここから、今、「9二同竜、同香、8二金」以下を研究してみたが、どうやら「先手勝ち」は確実なように思われる(98パーセントの自信に増大した)
だが、もうそれは「一番勝負」には、影響しない。我々はこの作戦を選ばなかったのだから。「一番勝負」はすでに、先を進んでいる。(我々は「夏への扉図」で3三歩を選択した)
ところで、今、後手の“妙手”を発見した。参考までに紹介しておこう。
桃太郎図A-10
今の手順をさかのぼって、この図は先手が「6六角」と角を打ったところ。
ここで後手“3三歩”が上の進行だったが、代えて“4四歩”なら、そこで先手3三歩がある。以下同桂(または同銀、3四歩、同銀)に、8三竜とし、5六とに、8四角で「先手良し」。(後手が“3三歩”と受けたのはその筋を避けるためだった)
しかし、「6六角」に“5五銀”という後手の妙手があるのではないか、というのが新研究。もしもこの変化で「後手良し」が出れば、『桃太郎(6五歩)作戦』で先手勝てる、という結論がくつがえる。さあ、どうだろう?
後手5五銀、これは、“銀のタダ捨て”だ。 意味としては、銀捨てで一手を稼ぐ、ということ。
5五同角、4四銀、6六角、5六と、3九角、4九金が想定される進行(次の図)
桃太郎図A-11
この場合は5六とに8五玉~7四玉では勝てない。さっきの変化より一手遅いので駄目だ。
だからここは3九角とするが、それにはこの図のように、4九金がある(代えて3八歩は4八角~1五角があって先手良し)
なおも逃げる1七角には、7五金と打たれる手が嫌だが…、どうする?
6五玉、6二桂、6三歩成(次の図)
桃太郎図A-12
6五玉~6三歩成が好手順になっていて、先手はピンチを脱したようだ。6三歩成を同金は、3一銀以下、後手玉に“詰み”がある。この図から3九金は、5二と、5四角、5六玉で先手優勢。
この図ははっきり「先手良し」。
後手の6二桂は結局無駄手になったので、その手に代えて3九金(角を取る)のほうが後手にとっては優るが、その場合は先手7四玉に、6二金、7三銀のような展開が予想されるが、これも研究の結果は「先手良し」。 盤上から後手の銀が一枚消え、それが先手の駒台上にあるのだから、こうなると先手が勝てる。
「6六角」に対する“5五銀捨て”は、ハッとする手だったが、結果的には、先手が勝てるとわかった。
しかし、この例のように、将棋の終盤には何が潜んでいるかわからない。研究し尽くして結論を出していても、それが覆る可能性もいつだって起こり得るのだ。だからこそ“その研究手順に落とし穴はないか”と慎重に調査を重ねるのだ。
3四同銀図
さて、後手“3四同銀”としたこの図、後手の守備の銀を歩の連打で叩いて吊り上げた。こうしておいて〔4〕6五歩とする。これが『桃太郎作戦Ⅱ』。(報告part100)
どうやらこうすることで、ほとんどの変化は先手にとって得になる。マイナス面は、後手が3三玉から4四玉と入玉めざして進出してそれが効果的だった場合にのみ生じそうだ。
桃太郎図B-1
〔4〕6五歩(図)。
我々の研究調査の結論は、すでに述べた通り、「先手勝ち」。
なお、ソフト「激指14」の評価では、この図での「6五歩」は、4番目の手である。
図以下、5九金、6四歩、7四歩、6六角、5五桂、4一銀で、次の図になる。
桃太郎図B-2
「5九金、6四歩、7四歩」の展開は、今度は「4一」に打ちこむ手が生じた。この場合は銀が良いようだ。
4一銀に4二金打は、5二銀成、同金に、6三歩成(同金は5一竜)、6七と、3九角、5七銀不成、5三とで、先手勝ち(後手が持駒の金を手放すと先手玉が安全になるので攻め合いがしやすくなる)
なのでこの図では後手3一歩と金を使わないで受けるが、先手は5二銀成。同歩なら、4一飛、4二銀打、8五玉、6七と、7四玉、6六と、6三歩成で、「先手優勢」。
よって5二銀成に、6七とが考えられ、以下、5三成銀、6六と、同玉、6七桂成、6五玉、7五金、5六玉(次の図)
桃太郎図B-3
この図は、「先手良し」。 ここで後手4五角は4六玉と銀を取った手が後手玉の“詰めろ”になるので、先手の勝ちになる。よってこの図で後手の最善の頑張りは5五角。以下、7二竜、5二桂と進み、そこで以前の研究(本報告part100)では、4二飛、1一玉、6七玉以下を調べたが、新しく単に6七玉を調査してみた。
6七玉に、後手9九角成としたいところだが、それは4二飛、1一玉、7七歩と角の利きを遮断する手がある。以下、2二香に、7九金(後手の8九馬を指させない)で、先手優勢。
よって、6七玉に、6六金が有力だが、以下は、6八玉、6七歩、5九玉、5七金、3三歩(次の図)
桃太郎図B-4
ここで4七銀成は、3二金、同歩、3一銀以下後手玉詰み。
1一玉は、4二角がこれも詰めろで先手勝ち。
また、7七角成、4九玉、3三馬は、4二銀で、先手勝ち。
よってこの図では「3三同角」とするが、そこで2六桂が決め手級の一手。
以下、6八歩成、4九玉、2五銀に、5二竜(次の図)
桃太郎図B-5
これで、“詰み”。 5二同歩に、3四桂打と打つ。 1一玉に、2二銀、同角、同桂成、同玉、3二金、同歩、3一角、3三玉、4二角成、4四玉、4三馬―――以下は省略。
こうして、4番目に発見した「先手の勝ち筋」が『桃太郎作戦』、そして5番目が『桃太郎作戦Ⅱ』となった。
『桃太郎作戦Ⅱ』では、『桃太郎作戦』の時にはあった、「持将棋引き分けの不安」が一掃され、自信をもって「勝てる」といえるほどの調査結果が得られたのであった。
3四同銀図(再掲)
〔1〕7三歩成
〔2〕9一竜 → 『黒雲作戦』、『香車ロケット2号作戦』
〔3〕3三歩 → 『赤鬼作戦』
〔4〕6五歩 → 『桃太郎作戦Ⅱ』
〔5〕5八金
もう一度この図に戻る。「夏への扉図」から、3筋の銀の頭を歩で連打して「3四銀型」になったこの図以降は、発見された「先手の勝ち筋」はこのとおり4つある。
ところで、この図での候補手はほかにもある。
〔6〕4一角 (3一歩、3三歩、4二金以下、後手良し)
〔7〕8八角 (5五桂などで効果がなく、後手良し)
〔8〕8六玉 (互角に近いが、5九金、9一竜、8四金は、我々の研究では“先手自信なし”)
〔9〕8五玉 (5九金、9一竜、8四金、9六玉となって、〔3〕8六玉に合流)
〔10〕8三竜 (入玉狙いだが入玉は無理なので、後手良し)
〔11〕7二飛 (6二歩に、7三歩成が狙いだが、先手苦戦という感触)
〔12〕3二歩 (5九金、3一角、3二玉の時に歩切れなので先手の攻めは続かない)
この中で、〔8〕8六玉、〔9〕8五玉、〔11〕7二飛は、「激指」評価値的にも、わずかに後手に傾いている程度(-100~-500くらい)になるので、先手の勝ちが存在する可能性はゼロではない。
しかし他は、ハッキリ「後手勝ち」というのが、我々(終盤探検隊)の結論。
さて、我々がいま、驚いているのは次の手である。
〔13〕8二飛
これまで軽視していたこの手が、有力手として新たに浮上してきたのであった。
この図(3四同銀図)を、「激指14」よりも強いとされているコンピューターソフト「elmo」で調べてみると、この「〔13〕8二飛」を第1候補手として示していたのである!!
そして「激指14」でも確認しなおしてみると、この手を第2候補手に挙げている(第1は3三歩)
我々は、すでに〔10〕8三竜を調べ、〔11〕7二飛も調べてダメだった経験がある。それでその2つに似た「8二飛」という手を軽視していたのだが(8二飛は6二歩で駄目だろうと)…、ところが、それがどうやら、「elmo」や「激指14」の主張が正しかったのだ!
8二飛作戦図1
3筋の後手の銀を上に吊り上げたので、8二飛は後手は無視できない。といって、3二歩は3三歩があるので先手良し。
よって後手は6二歩と受ける。以下、8三飛成、5九金、8五玉(次の図)
8二飛作戦図2
2つの竜が、“玉の道”をつくっているわけだ。上の竜は、9一の香車を払い、下の竜が玉を護衛する。
ここで後手8二歩が地味な好手だが、これは同竜引と上の竜で取る。
そして後手6三金(次の図)
8二飛作戦図3
先手は大駒四枚を有しているので、“入玉”さえして玉が安全になれば、即勝ちが決定である。
それは許さじと、後手は6三金(図)で勝負するしかない。もし先手の上の竜が8一のままなら、ここで8四玉と進んで、7四金に、同竜、同歩、8三玉で、「大駒三枚」を保持して入玉できた。ところが、「8二歩、同竜引」の効果で、この場合はそこで9二金で、二枚目の竜も取られてしまう。入玉できても、それでは不満だ。
よってここは別の手を指す。4一角。
3二歩の受けに、9一竜。 そして後手の7四金に、9五玉(次の図)
8二飛作戦図4
大駒一枚なら、敵に渡してもよいが、そう簡単には渡したくはない。
さて、この図から、次に先手が指したい手は、6六角~9三角成である。
その手を許さない意味もあって、後手は、8二歩、同竜左、7五銀とする。
以下、8五金、6三桂、7五金、同桂、9三竜引、6三桂、5二歩、4二金、5一歩成、4一金、同と、5八角、8四金、3三玉、7四金、4四玉、7三金(次の図)
8二飛作戦図5
こんな感じの闘いになる。後手も“入玉”をめざしてきたが、それを防ぐのは、先手玉もまだ安全になっていないので難しいかもしれない。しかし、後手に駒を渡さなければ、確実に先手玉は“入玉”できるだろう。だから“相入玉”が濃厚だが、すると持将棋の点数計算勝負になるが、大駒三枚を持っているので、先手が勝てるはず――――そういう形勢だ。
『8二飛作戦』成功!!!
この作戦にも名前を付けよう。『双竜(そうりゅう)作戦』と呼ぶことにする。
比較的すんなり勝てたが、本当にこれ(『双竜作戦』)で「先手勝ち」と決めてよいのだろうか。“落とし穴”はないだろうか?(将棋の研究で大事なのは実はその落とし穴のチェックなのである)
8二飛作戦図6
先手の「8二飛」に、(6二歩ではなく)6二銀(図)と銀を引いて受ける手が、後手にとって有力だとわかった。この図の調査を始めよう。
これには、6五歩が良いようだ。以下、5九金、6四歩、7四歩。
そこで先手は6六角と打って、後手5五桂に、8三竜とする。
以下、6七と、8四角、7一桂(次の図)
8二飛作戦図7
この7一桂の手に代えて後手7五金は、同角、同歩、8五玉、7一桂、同竜、同銀、4四角(同歩だと後手玉が詰む)、3三歩、7一角成で、先手優勢(図は省略)
この7一桂(図)が手ごわい手で、「激指14」の評価値は[ -8 互角 ]。
図以下、7四竜、7三歩、8五竜。そこで、9四金。
9四金に代えて7四金は、同竜、同歩、9一竜で、先手良し(7四歩とさせた形のほうが後手7九飛~7四飛成がないので先手玉が入玉するのに都合が良い)
また、9四金に代えて8三歩もあるが、3九角以下、先手良し。
後手9四金には、6五竜とし、8四金、同竜、6六角、3二歩となって、次の図である。
8二飛作戦図8
「3二歩」という攻めがあるので、先手良しになる。(代えて8二竜では9九角成で後手良し)
後手に持駒が歩以外にないことと、先手の持駒が「角金金銀歩二」なのとで、ぴったり3二歩が有効になった。この3二歩は、3一銀、3二玉、3三歩以下の“詰めろ”である。(この3三歩の“一歩”があることが大事)
よって、3二同玉としたいが、それには1一角で、先手優勢。
だからこの図の後手の最善手は1四歩と思われるが、対して先手3一歩成。8四角(竜を取る)なら、2一と、同玉、3三金で、先手勝ち。3一同玉には、1一角と“詰めろ”をかけ、詰みを逃れる4五銀には、3三銀で、後手玉は“必至”となる。
『双竜(8二飛)作戦』も、「先手の勝ち筋」と認定したい。
3四同銀図(再掲)
〔2〕9一竜 → 『黒雲作戦』、『香車ロケット2号作戦』
〔3〕3三歩 → 『赤鬼作戦』
〔4〕6五歩 → 『桃太郎作戦Ⅱ』
〔13〕8二飛 → 『双竜作戦』
つまり、我々終盤探検隊は、また一つ、新しい「先手勝ち筋」を発見したのである。
しかし、我々の意思は揺らいでいない。
≪最終一番勝負≫は、『赤鬼作戦』で勝つ!
それはすでに、決めたことなのであるから、変えるつもりはない。(ここで3三歩、3一歩に、4一飛と行くのが『赤鬼作戦』)
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≪最終一番勝負 第11譜 指始図≫ 3四歩まで
ところが――――“大事件”が我々を待ち構えていたのだった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/7e/92cd7e1fc34c61c3c8659501115e15af.png)
≪最終一番勝負 第11譜 指了図≫ 4二銀左まで
≪最終一番勝負≫、≪主(ぬし)≫は、「4二銀」と指したのである。
これは、我々の“想定外の一手”だった。 つまり敵――≪ぬし≫――が、“落とし穴を仕掛けてきた” のであった。
第12譜につづく
指し手 ▲4二銀
[鏡と大鴉]
わたしは、その鏡に、覗きこむというより面と向かいあって、部屋も自分の姿もそこに映っていないことを知った。壁が融けこんでしまうのを見るような気分だった。でも、その次に起こった出来ごとが、鏡を見て感じたわたしの不安定な気分を、充分に伝えてくれるだろう――わたしは思わず、あるすばらしい絵を保護しているガラスを鏡と見間違えたのだろうか、と目を疑ったほどだったのだから。
目の前に原野が広がっていた。見渡すかぎり緑一色のヒースの大原野。
(中略)
近眼だったわたしは、すぐ手近に見える石の状態をしらべるために、一、二歩近づいた。すると、そのとたん大きくて年取った鴉(レーブン)が一羽、横柄な態度でぴょこんと目の前に跳びだした。鴉の羽根は紫がかった黒をしており、あちこちが灰色にはげていた。
(『リリス』ジョージ・マクドナルド著 荒俣宏訳 ちくま文庫)
『リリス』(Lilith)は、ジョージ・マクドナルド(1824-1905)が晩年に書いた大人向けのファンタジー小説(1895年)
主人公はどうやら物理学者かそれに興味を持つ大人の男で、彼(「わたし」)は先祖が持っていたオックスフォードにある古い屋敷と土地を相続した。その大きな屋敷には奇妙な「図書室」があり、そこで科学書を読みふける日々を過ごしていると、時々人の気配を感じた。いや、“気配”のみならず、<黒い外套の背の高い老人>の姿をたしかに図書室の中で見かけたのだ。どうやらその人物は、「レ―ヴン氏」と呼ばれる、この世のものではない何かであるらしい。「レーヴン」とは「大鴉(おおがらす)」を意味する。今は見たものはほとんどいないが、昔からその図書室に現れるという話があったという。
ある日、「わたし」は、また現れたその「レ―ヴン氏」を追いかけていった。するといつのまにか「わたし」は屋根裏部屋にいて、古い<鏡>の前に立っていた。
そして、「わたし」は、<鏡>をくぐりぬけて、あちらの世界へ―――。
そこには“緑一色のヒースの大原野”が広がっており、大鴉がいて、鴉は、「わたし」に話しかけてきたのである。
「ヒース」(heath)とは何だろうか。
イギリスの古い小説には、よくこの「ヒースの野」というような場所が登場する。たとえば『嵐が丘』(エミリー・ブロンテ1847年)や、『秘密の花園』(バーネット1911年)の中で、この「ヒースの野」は重要な意味を持って登場している。
画家安野光雅のエッセイ付き画集『イギリスの村』の中で、安野氏はこの「ヒ―ス」がどういうものであるかを歩いて確かめ、文章で描写している(絵の描写がないのは残念)
「ヒース」は、ある特定の植物を指す場合と、イギリスの原野風景全体のことを指す場合とがあるようだ。(『嵐が丘』の中のヒースは、カルーナ・ブルガリスというツツジ科の植物らしい)
またイギリス・ロンドンには「ヒースロー(Heathrow)」という名の空港があるが、これは「ヒースの並木道」とか「ヒースの街」の意味である。
“鏡の向こうの世界”で、「わたし」はヒースの原野を、そして森の中を歩く。天に「満月」を見ながら。この世界では、月はいつも「満月」だった。“奇妙な世界”なのである。
森の中で「女の死体」に出会う。「わたし」は、この死体はまだ生きているのではないか、蘇る可能性があるのではないか、と思った。この“奇妙な世界”では、そういうことも起こり得ると。
「わたし」は、ずっと「女の死体」の傍らにいて、毎日水浴びさせ、一粒の葡萄を口に入れた。
そうして、ある日、その「死体」は、両目を開け、蘇ったのである。
その美女は、「リリス」という名の、「女王」であり、この世界に不幸をふりまく<魔女>でもあった。“猫の女”と呼ばれることもあり、黒い斑点のある雌豹の姿に変わって鳴くこともあった。
「鏡」をくぐりぬけて向こうの世界に行くこと、そして、「女王」=「猫」であり扱いにくいキャラであること――――『鏡の国のアリス』との共通項である。
「鏡」は、多くの作家に“魔法の道具”のイメージを湧き起こさせるようで、古くは『白雪姫』の魔女が使っているし、昭和時代では『ひみつのアッコちゃん』が使っていた。
しかし、「鏡をくぐり抜けて向こうの世界へ行く」という話は、案外そう多くはないように思われる。『鏡の国のアリス』(1871年、原題Through the Looking-Glass, and What Alice Found There)よりも前に、そういう話は、あっただろうか?
<第11譜 研究に落とし穴はないだろうか>
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≪亜空間最終一番勝負 第11譜 指始図≫ 3四歩まで
≪最終一番勝負≫は、この図の通り、「3四歩」まで進んでいる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/54/c4c51262a34b9ef548445bb17caa1c9b.png)
以下、3四同銀と進んで、この図になる。(これが「亜空間定跡」の進行)
ここで先手の有力手はこの5つ。
〔1〕7三歩成
〔2〕9一竜
〔3〕3三歩
〔4〕6五歩
〔5〕5八金
≪最終一番勝負≫で、我々(終盤探検隊)はすでに〔2〕3三歩を選ぶことを決めている。以下、3一歩に、4一飛と打つのだ。(これが『赤鬼作戦』)
であるから、以下は参考でしかないが、今回は〔4〕6五歩と〔5〕5八金について述べておきたい。(〔1〕、〔2〕、〔3〕についてはすでに紹介している)
まず、〔5〕5八金から。(こちらのほうが簡単に済ませられるので)
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〔5〕5八金(図)である。 似た形を前に報告しているがこの「後手3四銀型」での「5八金」というのは、新しい報告になる。
5八金以下、同と、9一竜、7五金、7七玉、8五桂、8八玉、6八と(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/29/4e4ce0cc6ce4e17d850f7252aa14a5f3.png)
これでどうやら「後手良し」のようだ。
この図で放っておくと7六金~7七桂成と来られるし、ここで7九香は、7六桂と打たれる。
だが、ここで先手の有効手がないのだ。
この図で3三香はあるが、同玉と取られ、以下1一角、2二香、3一飛、4四玉と応じられて、以下2二角成としても3三歩で飛車角の活動が同時に止められてしまい、後手が指せる。
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次に、〔4〕6五歩について確認をしておきたい。これもかなり有力な手で、『桃太郎作戦Ⅱ』と名付けたが、「先手勝ち」という我々の研究結果がある。
その『桃太郎作戦Ⅱ』の前に、『桃太郎作戦』があるので、まずそちらから。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/0d/7ac4a9ecdf9e8c25f2710fa5ed1c8e40.png)
「後手3二銀型」での先手6五歩である。つまり、この図、「夏への扉図」(すなわち後手3二銀型)からの「6五歩」(次の図)である。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/0a/63a50ef486383bb2ca4e613debfa5a5b.png)
これが、『桃太郎作戦』。 「玉」が右腕のパンチを繰り出すような勇敢なイメージから、これを『桃太郎作戦』と名付けた。(→報告98・99)
「6五歩」が有力な手と気づくのが遅れたのは、最初我々の意識が“入玉しなければ勝ちはない”と思い込んでいたということがある。それに、6五歩と指したこの図でのソフト「激指」の評価値は[ -487 ]で、パッとしない数値なのだ。(しかしそれでも6五歩は、第1候補の3三歩に続く2番目の候補手だったのだが)
終盤探検隊がこれが有力かもしれないと気づいて調査した後の結論としては、ここで6五歩と打つ先手の作戦は、「先手良し」。
以下に、その代表な変化を、示しておこう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/2d/c4bb931cd486236fcc7a58edb8529d6c.png)
「6五歩」に、5九金、6四歩、同銀、9一竜、7五金と進んで、この図。
以下、7七玉、6五桂、8八玉、6七となら、3三歩、7七桂成、3三銀、3四歩、同銀、3三香(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/d5/d3c8bea0635f02d83025585535582919.png)
3三香(図)。 これで「先手の勝ち」となる。
3二歩なら、4一銀、3三玉、1一角、2二香(桂)、3一角(2二角右成と6四角成の両狙い)。
3三同玉も、1一角、2二香(桂)、3一角。
3三同桂は、4一飛。
3一歩には、同香成、同玉、1一角(2二桂なら6二飛が決め手になる)、4二玉、5四飛。
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今の手順を、後手6五桂に、先手8八玉のところまで戻って、(6七との手に代えて)7六桂としたのがこの図。このほうが6七とよりも一歩攻めが早くなる。
図以下、9八玉、7七桂成に―――
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/42/1a/b929ddd5c00b1dcbe3ccb4f468e4e602.png)
8九金(図)と、(香車ではなく)「金」で受けるのが大事なところ。
そして6八とに、3三歩と反撃する。3三同銀に、そこで4五角が攻防の絶好手(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/f7/973655997da534626cc62d687da8c5b9.png)
4五角の“受け”の意味は、後手の7八とに、同角、同成桂、同金として「先手良し」というもの(この形をつくるための8九金打ちだった)
そして4五角の“攻め”は、次に2六香と打てば、後手は3四歩くらいしか受けがないが、そこで4一角と打って、後手は“受けなし”である。
この図から後手4四歩という手があるが、それには5四角として、この手が後手玉への“詰めろ”になっているので、やはり「先手勝ち」になる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/36/6929f5e297b3dbb5d9949d21b9ded8fd.png)
どうやら、後手は6四銀と出た手がまずかった。だからその6四銀に代えて、7四歩としたのがこの図。
ここで先手3三歩と攻めるのは、以下8四桂、7七玉、6五桂、7八玉、3三桂(または3三銀)で、後手勝ちになる。
また図で9一竜は、7五金以下、先ほどの変化と同じように進んだ時、こんどは「後手良し」になる。先ほどは“6四銀”と後手の銀が浮いていたので、3一角と打つ手が銀取りになって先手有利になったが、「5三銀型」だとそれがないからだ。
ということで、この図での最善手は「6六角」である。
以下、我々の研究手順は、3三歩、8五玉、6七と、7四玉(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/52/d7322519463744021dc9cb31b1ae3898.png)
先手は、角を犠牲に、“入玉”を計る。
6六と、8三玉、6七角、7四歩、9二金(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3e/ab/cf5caad3b951855f3ac309ad57cdab9d.png)
後手9二金に、7二玉と逃げると3六角成で先手悪い。なので9二同竜、同香となるが、その後は変化が多い。8二金、または8一飛が候補手だ。
この図からは、たぶん、“入玉”はできるだろうし、だから先手の負けはないだろう。そしておそらく、この先、後手玉を捕まえて、「先手勝ち」となりそうだとは思ったが、しかし絶対にそれができるという確信までには至らなかった。95パーセント、大丈夫だろうという感覚だった。
しかし残りの5パーセントの「持将棋引き分け」の可能性があると感じたことが、我々は気に入らなかった。大駒二枚(飛車角)を後手に渡したのが気になるところ。
この『桃太郎作戦』は優秀な作戦で、先手がこれで勝てるだろうとは思ったが、それでも我々終盤探検隊が選んだのは、この作戦ではなく、『赤鬼作戦』だった。選ばなかった理由は、この“入玉”の変化に含まれる「5パーセントの不安」である。
しかしまた改めてここから、今、「9二同竜、同香、8二金」以下を研究してみたが、どうやら「先手勝ち」は確実なように思われる(98パーセントの自信に増大した)
だが、もうそれは「一番勝負」には、影響しない。我々はこの作戦を選ばなかったのだから。「一番勝負」はすでに、先を進んでいる。(我々は「夏への扉図」で3三歩を選択した)
ところで、今、後手の“妙手”を発見した。参考までに紹介しておこう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/ba/492ecfb5f0d81c51de9d72cc476973cb.png)
今の手順をさかのぼって、この図は先手が「6六角」と角を打ったところ。
ここで後手“3三歩”が上の進行だったが、代えて“4四歩”なら、そこで先手3三歩がある。以下同桂(または同銀、3四歩、同銀)に、8三竜とし、5六とに、8四角で「先手良し」。(後手が“3三歩”と受けたのはその筋を避けるためだった)
しかし、「6六角」に“5五銀”という後手の妙手があるのではないか、というのが新研究。もしもこの変化で「後手良し」が出れば、『桃太郎(6五歩)作戦』で先手勝てる、という結論がくつがえる。さあ、どうだろう?
後手5五銀、これは、“銀のタダ捨て”だ。 意味としては、銀捨てで一手を稼ぐ、ということ。
5五同角、4四銀、6六角、5六と、3九角、4九金が想定される進行(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/e1/847282200147151b963fee075732a4d0.png)
この場合は5六とに8五玉~7四玉では勝てない。さっきの変化より一手遅いので駄目だ。
だからここは3九角とするが、それにはこの図のように、4九金がある(代えて3八歩は4八角~1五角があって先手良し)
なおも逃げる1七角には、7五金と打たれる手が嫌だが…、どうする?
6五玉、6二桂、6三歩成(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/a2/e340f329750898262665ccbc44c3c82d.png)
6五玉~6三歩成が好手順になっていて、先手はピンチを脱したようだ。6三歩成を同金は、3一銀以下、後手玉に“詰み”がある。この図から3九金は、5二と、5四角、5六玉で先手優勢。
この図ははっきり「先手良し」。
後手の6二桂は結局無駄手になったので、その手に代えて3九金(角を取る)のほうが後手にとっては優るが、その場合は先手7四玉に、6二金、7三銀のような展開が予想されるが、これも研究の結果は「先手良し」。 盤上から後手の銀が一枚消え、それが先手の駒台上にあるのだから、こうなると先手が勝てる。
「6六角」に対する“5五銀捨て”は、ハッとする手だったが、結果的には、先手が勝てるとわかった。
しかし、この例のように、将棋の終盤には何が潜んでいるかわからない。研究し尽くして結論を出していても、それが覆る可能性もいつだって起こり得るのだ。だからこそ“その研究手順に落とし穴はないか”と慎重に調査を重ねるのだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/54/c4c51262a34b9ef548445bb17caa1c9b.png)
さて、後手“3四同銀”としたこの図、後手の守備の銀を歩の連打で叩いて吊り上げた。こうしておいて〔4〕6五歩とする。これが『桃太郎作戦Ⅱ』。(報告part100)
どうやらこうすることで、ほとんどの変化は先手にとって得になる。マイナス面は、後手が3三玉から4四玉と入玉めざして進出してそれが効果的だった場合にのみ生じそうだ。
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〔4〕6五歩(図)。
我々の研究調査の結論は、すでに述べた通り、「先手勝ち」。
なお、ソフト「激指14」の評価では、この図での「6五歩」は、4番目の手である。
図以下、5九金、6四歩、7四歩、6六角、5五桂、4一銀で、次の図になる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/9f/fb420f5e401a07ee926dd127c064db76.png)
「5九金、6四歩、7四歩」の展開は、今度は「4一」に打ちこむ手が生じた。この場合は銀が良いようだ。
4一銀に4二金打は、5二銀成、同金に、6三歩成(同金は5一竜)、6七と、3九角、5七銀不成、5三とで、先手勝ち(後手が持駒の金を手放すと先手玉が安全になるので攻め合いがしやすくなる)
なのでこの図では後手3一歩と金を使わないで受けるが、先手は5二銀成。同歩なら、4一飛、4二銀打、8五玉、6七と、7四玉、6六と、6三歩成で、「先手優勢」。
よって5二銀成に、6七とが考えられ、以下、5三成銀、6六と、同玉、6七桂成、6五玉、7五金、5六玉(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/de/ceeceac22b160b3f83d2055195cc848c.png)
この図は、「先手良し」。 ここで後手4五角は4六玉と銀を取った手が後手玉の“詰めろ”になるので、先手の勝ちになる。よってこの図で後手の最善の頑張りは5五角。以下、7二竜、5二桂と進み、そこで以前の研究(本報告part100)では、4二飛、1一玉、6七玉以下を調べたが、新しく単に6七玉を調査してみた。
6七玉に、後手9九角成としたいところだが、それは4二飛、1一玉、7七歩と角の利きを遮断する手がある。以下、2二香に、7九金(後手の8九馬を指させない)で、先手優勢。
よって、6七玉に、6六金が有力だが、以下は、6八玉、6七歩、5九玉、5七金、3三歩(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/82/57763c60a130441c58bd318a4190ca11.png)
ここで4七銀成は、3二金、同歩、3一銀以下後手玉詰み。
1一玉は、4二角がこれも詰めろで先手勝ち。
また、7七角成、4九玉、3三馬は、4二銀で、先手勝ち。
よってこの図では「3三同角」とするが、そこで2六桂が決め手級の一手。
以下、6八歩成、4九玉、2五銀に、5二竜(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/e1/e7008e0de250a006b076d9e8177e6aa9.png)
これで、“詰み”。 5二同歩に、3四桂打と打つ。 1一玉に、2二銀、同角、同桂成、同玉、3二金、同歩、3一角、3三玉、4二角成、4四玉、4三馬―――以下は省略。
こうして、4番目に発見した「先手の勝ち筋」が『桃太郎作戦』、そして5番目が『桃太郎作戦Ⅱ』となった。
『桃太郎作戦Ⅱ』では、『桃太郎作戦』の時にはあった、「持将棋引き分けの不安」が一掃され、自信をもって「勝てる」といえるほどの調査結果が得られたのであった。
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〔1〕7三歩成
〔2〕9一竜 → 『黒雲作戦』、『香車ロケット2号作戦』
〔3〕3三歩 → 『赤鬼作戦』
〔4〕6五歩 → 『桃太郎作戦Ⅱ』
〔5〕5八金
もう一度この図に戻る。「夏への扉図」から、3筋の銀の頭を歩で連打して「3四銀型」になったこの図以降は、発見された「先手の勝ち筋」はこのとおり4つある。
ところで、この図での候補手はほかにもある。
〔6〕4一角 (3一歩、3三歩、4二金以下、後手良し)
〔7〕8八角 (5五桂などで効果がなく、後手良し)
〔8〕8六玉 (互角に近いが、5九金、9一竜、8四金は、我々の研究では“先手自信なし”)
〔9〕8五玉 (5九金、9一竜、8四金、9六玉となって、〔3〕8六玉に合流)
〔10〕8三竜 (入玉狙いだが入玉は無理なので、後手良し)
〔11〕7二飛 (6二歩に、7三歩成が狙いだが、先手苦戦という感触)
〔12〕3二歩 (5九金、3一角、3二玉の時に歩切れなので先手の攻めは続かない)
この中で、〔8〕8六玉、〔9〕8五玉、〔11〕7二飛は、「激指」評価値的にも、わずかに後手に傾いている程度(-100~-500くらい)になるので、先手の勝ちが存在する可能性はゼロではない。
しかし他は、ハッキリ「後手勝ち」というのが、我々(終盤探検隊)の結論。
さて、我々がいま、驚いているのは次の手である。
〔13〕8二飛
これまで軽視していたこの手が、有力手として新たに浮上してきたのであった。
この図(3四同銀図)を、「激指14」よりも強いとされているコンピューターソフト「elmo」で調べてみると、この「〔13〕8二飛」を第1候補手として示していたのである!!
そして「激指14」でも確認しなおしてみると、この手を第2候補手に挙げている(第1は3三歩)
我々は、すでに〔10〕8三竜を調べ、〔11〕7二飛も調べてダメだった経験がある。それでその2つに似た「8二飛」という手を軽視していたのだが(8二飛は6二歩で駄目だろうと)…、ところが、それがどうやら、「elmo」や「激指14」の主張が正しかったのだ!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/36/90e42fb2aff0d118320bb7a6c1d3038f.png)
3筋の後手の銀を上に吊り上げたので、8二飛は後手は無視できない。といって、3二歩は3三歩があるので先手良し。
よって後手は6二歩と受ける。以下、8三飛成、5九金、8五玉(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/e4/e453f930476b25b70173059262236443.png)
2つの竜が、“玉の道”をつくっているわけだ。上の竜は、9一の香車を払い、下の竜が玉を護衛する。
ここで後手8二歩が地味な好手だが、これは同竜引と上の竜で取る。
そして後手6三金(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/ca/b2b57f1bce79653d9abb247b61e4eb59.png)
先手は大駒四枚を有しているので、“入玉”さえして玉が安全になれば、即勝ちが決定である。
それは許さじと、後手は6三金(図)で勝負するしかない。もし先手の上の竜が8一のままなら、ここで8四玉と進んで、7四金に、同竜、同歩、8三玉で、「大駒三枚」を保持して入玉できた。ところが、「8二歩、同竜引」の効果で、この場合はそこで9二金で、二枚目の竜も取られてしまう。入玉できても、それでは不満だ。
よってここは別の手を指す。4一角。
3二歩の受けに、9一竜。 そして後手の7四金に、9五玉(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/af/74923eece6bc3130a8289c0663fd7cd4.png)
大駒一枚なら、敵に渡してもよいが、そう簡単には渡したくはない。
さて、この図から、次に先手が指したい手は、6六角~9三角成である。
その手を許さない意味もあって、後手は、8二歩、同竜左、7五銀とする。
以下、8五金、6三桂、7五金、同桂、9三竜引、6三桂、5二歩、4二金、5一歩成、4一金、同と、5八角、8四金、3三玉、7四金、4四玉、7三金(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/fc/8d5635302827c92c33b9b12f01c258dc.png)
こんな感じの闘いになる。後手も“入玉”をめざしてきたが、それを防ぐのは、先手玉もまだ安全になっていないので難しいかもしれない。しかし、後手に駒を渡さなければ、確実に先手玉は“入玉”できるだろう。だから“相入玉”が濃厚だが、すると持将棋の点数計算勝負になるが、大駒三枚を持っているので、先手が勝てるはず――――そういう形勢だ。
『8二飛作戦』成功!!!
この作戦にも名前を付けよう。『双竜(そうりゅう)作戦』と呼ぶことにする。
比較的すんなり勝てたが、本当にこれ(『双竜作戦』)で「先手勝ち」と決めてよいのだろうか。“落とし穴”はないだろうか?(将棋の研究で大事なのは実はその落とし穴のチェックなのである)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/23/c5592a0fbd6427d5028973ebfd9186e6.png)
先手の「8二飛」に、(6二歩ではなく)6二銀(図)と銀を引いて受ける手が、後手にとって有力だとわかった。この図の調査を始めよう。
これには、6五歩が良いようだ。以下、5九金、6四歩、7四歩。
そこで先手は6六角と打って、後手5五桂に、8三竜とする。
以下、6七と、8四角、7一桂(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/f6/6c6d342c00d3e4797f3b8b13ff0ae6f6.png)
この7一桂の手に代えて後手7五金は、同角、同歩、8五玉、7一桂、同竜、同銀、4四角(同歩だと後手玉が詰む)、3三歩、7一角成で、先手優勢(図は省略)
この7一桂(図)が手ごわい手で、「激指14」の評価値は[ -8 互角 ]。
図以下、7四竜、7三歩、8五竜。そこで、9四金。
9四金に代えて7四金は、同竜、同歩、9一竜で、先手良し(7四歩とさせた形のほうが後手7九飛~7四飛成がないので先手玉が入玉するのに都合が良い)
また、9四金に代えて8三歩もあるが、3九角以下、先手良し。
後手9四金には、6五竜とし、8四金、同竜、6六角、3二歩となって、次の図である。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/99/895b82caa725b7f1446c0e4b33bf9ef0.png)
「3二歩」という攻めがあるので、先手良しになる。(代えて8二竜では9九角成で後手良し)
後手に持駒が歩以外にないことと、先手の持駒が「角金金銀歩二」なのとで、ぴったり3二歩が有効になった。この3二歩は、3一銀、3二玉、3三歩以下の“詰めろ”である。(この3三歩の“一歩”があることが大事)
よって、3二同玉としたいが、それには1一角で、先手優勢。
だからこの図の後手の最善手は1四歩と思われるが、対して先手3一歩成。8四角(竜を取る)なら、2一と、同玉、3三金で、先手勝ち。3一同玉には、1一角と“詰めろ”をかけ、詰みを逃れる4五銀には、3三銀で、後手玉は“必至”となる。
『双竜(8二飛)作戦』も、「先手の勝ち筋」と認定したい。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/54/c4c51262a34b9ef548445bb17caa1c9b.png)
〔2〕9一竜 → 『黒雲作戦』、『香車ロケット2号作戦』
〔3〕3三歩 → 『赤鬼作戦』
〔4〕6五歩 → 『桃太郎作戦Ⅱ』
〔13〕8二飛 → 『双竜作戦』
つまり、我々終盤探検隊は、また一つ、新しい「先手勝ち筋」を発見したのである。
しかし、我々の意思は揺らいでいない。
≪最終一番勝負≫は、『赤鬼作戦』で勝つ!
それはすでに、決めたことなのであるから、変えるつもりはない。(ここで3三歩、3一歩に、4一飛と行くのが『赤鬼作戦』)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/cd/150ec66402e876079c235cd9b3fc5999.png)
≪最終一番勝負 第11譜 指始図≫ 3四歩まで
ところが――――“大事件”が我々を待ち構えていたのだった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/7e/92cd7e1fc34c61c3c8659501115e15af.png)
≪最終一番勝負 第11譜 指了図≫ 4二銀左まで
≪最終一番勝負≫、≪主(ぬし)≫は、「4二銀」と指したのである。
これは、我々の“想定外の一手”だった。 つまり敵――≪ぬし≫――が、“落とし穴を仕掛けてきた” のであった。
第12譜につづく