≪風6六角図≫
[亜空間要塞の逆襲]
やがて岸辺に近づいた時、山本麟太郎は、四人を代表するように、今はもう消えてしまった亜空間の浜に向かってつぶやいた。
「きっとある。このままですむわけがない。亜空間要塞の逆襲があるはずだ。」
(半村良『亜空間要塞』から)
我々(終盤探検隊)は≪亜空間≫を旅している。
前回の報告part7で我々はこの上の図の6六角から後手の穴熊(=亜空間要塞)を攻略する手段を見つけた。
その手順はたいへんに素晴らしいもので、我々も思わず熱中した。
だが、「亜空間要塞の破壊」によって、その住人である怪人たちの反撃を覚悟せねばならなくなった。
この時点ではまだ我々は事の重大さの自覚が少なかったのであるが、我々の立場はすでに「調査隊」から、「プレイヤ-」へと変わってしまっていたのである。
元々、我々は、「甲斐-山田戦」の94手目でもし後手が“3四飛成”としていたら、(実際の対局では負けた)後手にどれくらいの勝ちのチャンスがあったのか、そのことに興味を持って調査していたのである。それは「調査」であって、特に先手にも後手にもどちらにも気持ちの思い入れはまだなかった。
ところが、「亜空間要塞の破壊」という、「6六角以下」の変化から、我々は“先手に感情移入をして”その攻撃を応援加勢したのだった。
このことによって、それまでは“傍観者”であり、“客人”であった我々「終盤探検隊」は、この≪亜空間≫世界の住人として認められてしまったのである。
【4番目の刺客との闘い】
先手の「6六角」に対して、5五歩、4八金、同金、同角、5三金と進んで、次の「5三金図」である。
5三金図
この手が、“亜空間要塞を一度は爆破した我々に対して送りこまれた4番目の新たな刺客”であった。我々はすでに「調査人」ではない。この手と闘わなければ、そして知恵を絞って勝たねばならないのだ。
そして、こいつは、「強敵」だった。
4つの手を我々は有力候補に挙げた。次の手である。
〔東〕7五角
〔南〕4二銀
〔西〕3三歩
〔北〕3六金
〔東〕7五角
東7五角図1
7五角には4四金と出てきた。
こう指されてみると、すでに“先手が悪い”とわかった。先手の有効な次の手がないのだ。
駒を何か一つ後手に渡すと途端に先手玉は詰んでしまいそうだ。たとえば3一角成から攻めていけば、その角を使って「△3五角」で“詰み”だ。 3六歩は2五桂で捕まる。
もしここで先手が6九角と(後手の2五桂などの手を)受けたとしたら、後手はどう指すのだろう?
東7五角図2
それは3六桂とするのがよい。これを同角なら3五金で角を取られてしまうし、このままなら打った6九角が無駄駒である。
〔東〕7五角は、先手勝てない。
〔南〕4二銀
南4二銀図1
後手の攻めは「金桂桂」の持駒と、盤上の「銀」と「金」。 小駒だけの攻めだが、この攻めは切れることは考えにくい。
とすれば、先手は、「いかに敵陣を攻めるか」という問題となる。受けだけでは勝てないのだ。
で、「4二銀」だ。 これは次に3一銀成(または不成)がねらいだ。
南4二銀図2
後手は2五桂。 この手がある。
後手は「金桂桂」と持っているので、この手がある。これは同玉と取ると3五金で詰んでしまうし、1五歩(次に2五玉と桂馬を取る意味)でも、やはり3五金、1六玉、2四桂で“詰み”だ。このままでも、詰む。
だから先手は「4五金」。
対して、後手は「4七銀不成」。(角取りだ)
「1五歩に、4四金」。
その進行を我々は本筋と考えているが、1五歩ではなく、“2五玉”とそこで桂馬を取ったらどうなるかをやってみよう。
すなわち、「南4二銀図2」から、4五金、4七銀不成、2五玉、4四金、同金、同歩となる。そこで先手7五角とすると…(桂馬を取った先手は、7五角と角を逃がしつつ攻めに使おうとした。めいっぱい欲張ってみた指し方だ。)
南4二銀図3
2四歩(図)で先手玉が詰んでしまう。2四同玉、2三銀、1五玉、1四歩、2六玉、3六金、1七玉、2七金、同玉、3五桂、2六玉、3六金、2五玉、1三桂と、
南4二銀図4
こういう詰みだ。
後手4四金からの金交換は後手のこんなふうな狙いがある。
先手としては、7五角はまずかったので、その手で他の手を考えてみたいが、たとえば3六歩のような受けだが、それは4八銀成と角を取られてやはり後手の優勢ははっきりしている。
ということで、本線に戻る。
「南4二銀図2」から、4五金、4七銀不成、1五歩、4四金。
南4二銀図5
ここで(L)3一銀不成と、(M)4四同金を考えたい。
(L)3一銀不成だと、4五金となる。(先手は金をタダで取らせる代わりに攻める一手を選んだ)
対して4二角と先手は“詰めろ”で後手玉に迫る。 だが、ここで後手は3五金!
南4二銀図6
この金は取ってもよいのかだめなのか?
まず、取ってみよう。3五同玉、3六金、2五玉、3三桂打。
南4二銀図7
後手の持駒は「金歩」。これではまだ先手玉は詰まない。
が、3一に銀が一枚落ちている。1六玉に、1六金、1八玉、3一銀で後手勝ちだ。
南4二銀図8
取るのはだめだった。では次は1六玉と逃げてみよう。
「南4二銀図6」(後手3五金)から、1六玉、2四桂、同角成、同歩、6二飛(詰めろ)、3一銀、同竜、1七桂成となって、この図である。
この1七桂成で先手玉は詰んでしまっている。あとは簡単な並べ詰みである。
ということで、(L)3一銀不成は先手に勝ちがないとわかったので、(M)4四同金に移ろう。
南4二銀図9
「南4二銀図5」から、4四同金、同歩、3五金、4八銀不成、そして、3一銀成、3七角と進んだところ。(3一銀成では“不成”もあるが、どちらも結果的には同じになる)
3七同桂、同銀不成、1六玉、2四桂、同金。
(3七同桂としないで1六玉は1五角成があって後手良し)
南4二銀図10
2四桂と後手が打った手に先手は同金(2五玉だと3三桂で詰みなので同金しかない)としたところ。
これをしかし後手同歩だと、“先手勝ち”で、これは先手のねらい筋にハマる。すなわち、2四同歩には、“2三桂”があるのだ!
南4二銀図11
2三桂、同銀直に、3三角(図)。 後手は金合か桂合だが、どちらでも2一成銀、同銀、同竜、同玉、3一金、同玉、4二銀、3二玉、5四角、4三合、3一飛までの詰みとなる。
が、しかしこううまくは進まない。2四桂、同金に、(南4二銀図10からは)3一銀、同竜、1七金、同香、同桂成、同玉、2五桂とするのが後手の老獪な、予定の攻め手順だ。
南4二銀図
これで“詰み”。 1六玉に、1七金、2五玉、2四歩、同玉、3三銀打以下。
だから、少し戻って、「南4二銀図10」から、3一銀に、2五金とする手が考えられる。
しかしこれも、結局先手に勝ちは出ない。以下、3六金(次に2六金打の詰み)、2九飛、2四桂。
南4二銀図
しつこくしつこく桂馬で攻められ、先手いけない。2四同金に、同歩となるが、そこで3四角、3五金、3三角(同銀なら2三桂で先手勝ちだが)、2二銀打で、後手の勝ちは決定的である。
〔西〕3三歩
第3候補手の〔西〕3三歩を検討する。
≪亜空間≫は特殊空間である。現実の世界の対局と違って、何度でもやり直せるのが特殊なのである。
しかしそれは相手も同じことで、お互いに何度も何度もやり直し、体力を消耗していく。それでもやはり、「勝ち」と「負け」とに最後には分かれる。“終わり”はあるはずなのだ。
西3三歩図1
5三金と、金が守りから離れた瞬間に3三歩と爆弾を投下するのは理にかなった攻めである。
そしてこの場合、先の〔南〕4二銀に対して有効だった「すぐここでの“2五桂”」は、ここでは微妙な効果となるようだ。
西3三歩図2
3三歩に2五桂だと、4五金、3三桂、4六金、3四桂、3六玉、4六桂、同玉、5六金、3六玉、4四金、2六歩、3五金、2七玉(図)と、こうなりそうだが、これはどうも“先手良し”かもしれない。後手としては失敗。
西3三歩図3
だから、3三歩(西3三歩図1)には、いったん同銀直と取るのが(後手としては)良いようだ。
そこでどうも、先手にうまい手がないのである。指したい手は3二歩か、5一飛だが…
西3三歩図4
3二歩に、そこで2五桂だ!
こうなってみると、もはや先手に勝ち目がゼロである。
この図から、指すとすれば先手4五金だが、3四桂、同金、同銀、1五歩、3六金、1六玉、1四歩の展開となり、やはり後手必勝である。後手はその場合「銀一枚」のみの穴熊なのだが、いわゆる“ゼット”になっていて、とん死の心配もない。
西3三歩図5
「西3三歩図3」の後手3三同銀直に戻って、先手のいちばん粘りのある手はこの図の「3六歩」かもしれない。しかしこれも、4四金でも、3八金でも、図のように2五桂でも後手ペースの将棋である。先手は苦しい。
この図の2五桂以下、進めてみると、2五同玉、3四桂、1五歩、1四歩、1六玉、4七銀成、5九角、1五歩、1七玉、1六歩、2八玉(1八玉には1七金)、3八金、1八玉、1七歩成、同桂、1六歩、1三歩、同香、1四歩、同香、1五歩、3七成銀、同角、同金、2八銀、1七歩成、同銀、2六桂打。
西3三歩図6
2六同銀、同桂、1七玉、2五銀で“必至”となる。 後手の勝ち。
こんなふうに、「西3三歩図3」以下、先手はひたすら敵の「小駒」の攻めを受ける展開になり、それで結局は負けてしまうつまらない将棋となるようだ。
さあ、困ったことになった。
この後手5三金のこの図が「先手負け」だとすれば、本記事の最初の図≪風6六角図≫の「6六角」が成り立たないことになる。そうするともう先手の勝ちの手段がなく、“風”の道、すなわちこの≪亜空間≫の入口の「4二金」の手で、この変化は「後手勝ち」という最終結論が出てしまうのだ!
しばらく前ならそれでも「調査隊」である我々にはなんの影響もなかった。なるほどと納得して結果が得られたとして、それを“宝”として帰途につくだけであった。
ところが、我々はいったん先手に加担してしまった。もはや傍観者ではいられない。
この闘いに負けることは、我々の身が心配されるということである。
この特殊な世界、≪亜空間≫には、「死」は存在しないようだ。いや、あるにはあるのだが、何度死んでも、また“やりなおし”が利く。
いや、だからこそ怖いのだ。
我々は「先手勝ち」という結果を見つけなければならない。そうしないと、永遠に≪亜空間世界≫に囚われ、答えをいつまでも探し求めてさまようはめになってしまう…。
〔北〕3六金
北3六金図1
とにかく、先手を勝たせなければならない我々は、“藁をもすがる思い”で次の第4の候補手〔北〕3六金の調査を始めた。
これは見た目あまりに平凡な手で、そしてこれには4七銀不成という後手の応手がすぐ見えるので、正直、あまり気のりしない手でもあった。(が、もうこれしか残っていないのだ。)
しかし、「3六金、4七銀不成」、そこで「3三歩」が検討され始めると、思った以上の手ごたえが得られたのである。
「3三歩」に、「3四桂、1七玉、3六銀成」として――
北3六金図2
これではもう先手勝てないように見える。(図で3二歩成は2七成銀、同玉、3五桂以下先手玉詰み)
ところが、ここで「 3五金 」という手が発見されたのだ!
北3六金図3
こんな手が隠されていた!
この 3五金 の意味は、同成銀と取らせることで先手玉にかかっている“詰めろ”を解除して、3二歩成の攻めを有効にしようという手である。
進めてみよう。3五同成銀、3二歩成、同歩、6一飛、3一金、3八銀。
北3六金図4
「この図は先手が勝っているかもしれない!」ということがわかって、我々は湧いた。
さあ、慎重に検証だ。
ここで後手の4六桂という攻め手がすぐに見える。
そこで3一飛成は成立するのか!? これが重要な分かれ目だ。
結果は、「成立する」だった!!
4六桂、3一飛成、同銀、同竜、2二金、4二銀。 「先手勝ち」。 やったぞ。
北3六金図5
だから「北3六金図4」から後手はいったん受ける必要がある。
〔N〕4一金打と、〔O〕4一桂とがある。
〔N〕4一金打には、同飛成、同金、同竜だ。そこで4六桂なら――
北3六金図6
3一金! どうやらこれも「先手勝ち」。
同銀、同竜、2二金、4二銀、6一飛、4一金で、それ以上後手に受けはない。
だから後手の4六桂では3一金と受けるところだろうが、それは9一竜、4六桂、3九金のようになるが、これは「互角」か。 持駒は先手が多いので、希望はかなりある。
とりあえずここはここまでにして、〔O〕4一桂の変化を見ておこう。
北3六金図7
我々の研究は、ここで4二歩、同金としておいて、それから9一竜とするのが良さそうということになった。
以下、4六桂、4七銀打、3八桂成、同銀、3六金、1八玉、4七銀、同銀、同金、9三角成が変化の一例だ。
北3六金図8
「互角」だろうが、これは正確にやれば先手が勝てそうな気がする。先手は大駒を四枚すべて持っているので、後手からの「小駒の攻め」を受けきることができれば勝ちになる。なかなかそれがむつかしいのだが、この場合は、図で3八金打なら「3九歩」で、3八銀打には「3九香」として、なんとか先手勝ちへの希望の光の道筋が細いながらも見つかっている。
この変化も報告は一応ここまでで止めておこう。
気になる変化が別にあるのでそちらを見ておく必要がある。
北3六金図9
「 3五金 」に、「2五桂」(図)と返す手だ!
「北3六金図3」(先手3五金)まで戻って、そこで「3五同成銀」とはせずに、「2五桂」(図)という手、これが“気になる手”だ。
2五同金に、3三桂。 続いて3四金、2五桂、2八玉、4七金、6一飛、3七金打、同桂、同桂成、同角、同金、3九玉、7五角。(次の図)
北3六金図10
この後手7五角の手で5七角なら、それは2九玉で先手勝ちに。次に3一飛成があるから。でもこの7五角に2九玉は、4四金で、これは後手勝ち。(角が3一を守っている)
7五角には、6六歩、4四金、3八歩、3四金、3七歩、同成銀、2八金。(次の図)
北3六金図11
ここで後手(P)2五桂と(Q)4七金がありそうだ。
(P)2五桂には、3八歩、4八金、2九玉、2八成銀、同玉、3九金打、2九銀。(次の図)
北3六金図12
なんとか受け切ったか。
北3六金図13
「北3六金図11」から(Q)4七金は、2六銀、2八成銀、同玉、3六桂、1七玉、5三角、3九銀、2一銀、6三角(この図)でどうだ。
また、この手順中2一銀の手で、2一金と持駒の金を打って穴熊玉を固める手もある。
その変化は、2一金、8九角、3五金、5四金、2六金、同歩、2八銀、同銀、同桂成、同玉、2六角、2九桂、4八角成、3四桂。
北3六金図14
3四桂が入ったこの図になれば、これは先手が良くなったと思う。
しかし途中の変化もまだまだ色々とあって、こう進むとは限らないが。
とにかく変化が広大で、まだまだ細部の検討までは行き届いていないが、先手の勝ちへの希望はなんとか切れないでつながっている感じがある。
しかしこの変化は、途中、まだ後手の選択肢も多い。先手は、それらの手、すべてに対応して「勝ち筋」を見つけていかなければならない。
後手の対場に立って、「最善の手段」を考えてみよう。
北3六金図1(再掲)
先手「3六金」まで戻って、ここで「4七銀不成、3三歩、3四桂」を想定してきたのだが、3三歩を素直に「同銀直」や、「同桂」はないだろうか。
北3六金図15
これは、「4七銀不成、3三歩」に、「同桂」とした図である。
以下、3四歩、2五金、同金、同桂、5七角、1四桂、1五玉。(次の図)
北3六金図16
この図は、なんと「先手良し」のようなのである。
たとえばここで後手5六銀成や4四金なら、3三銀と打ち込んで先手勝ち。2一桂なら、4二金で寄せられる。2一金なら、2五玉として、次に1五歩を狙う。
では、2四金には――?
北3六金図17
2四同角、同歩、3三歩成で先手が勝つ。(このための“5七角”だったというわけ)
さて―――
最後に、後手にとっての「正解」を示さねばならない。
これまで、「もしかしたら先手やれるかも」という甘い夢を見てきたが、ここで「現実」を直視する覚悟を持とう。
北3六金図1(再掲)
もう一度この図に戻って、後手の「正解手順」(先手にとって困る応手)は、これである。
「 4七銀不成、3三歩、3四桂、1七玉、3三桂、5一飛、2一金 」(次の図)
北3六金図18
これは、先手勝つ自信がない。 3六銀成とせず、3三桂と歩を払うのが「正解」だった。
この先を進めてみると、3五歩、3六銀成、3四歩、2五桂、1八玉、3七桂打(次の図)が一例。
北3六金図19
3三金(これは詰めろだが…)、同銀左、同歩成、同銀、1五角、2九桂成、3三角成、2二桂。(次の図)
北3六金図20
2九玉には、2七成銀で、先手玉は“必至”となる。
先手、変化する手もあるにはあるが、どうも勝てない…。
というわけで、〔東〕7五角、〔南〕4二銀、〔西〕3三歩、〔北〕3六金、4つの手は全て「後手良し」、これが結論となった。
「亜空間要塞」から放たれた<4人目の刺客>に、我々の用意した4つの矢はへし折られてしまったのである。
それはすなわち、冒頭の図、≪風6六角図≫の先手「6六角」が敗れ去ったことを意味する。
それはまた、この≪亜空間≫の勝利者は後手の側なのだという最終決定へとそのままつながりそうだ。
ということは、“我々”は負け組となったのである。
いや、ほんとうに負けなのだろうか。
「隠された妙手」はもうどこにもないのだろうか。
【追加レポート: 4五金は?】
5三金図
ここで〔東〕7五角、〔南〕4二銀、〔西〕3三歩、〔北〕3六金、の4つの手の調査報告を書いたが、もう一つの手〔白〕4五金について追加報告しておく。
結果から言えば、この図では〔白〕4五金でも、先手は勝てない。
白4五金図1
4五金とすれば、後手は3四桂とは打たないだろうし、4七銀不成も両取りにならない。
〔北〕3六金よりもこの手のほうが良さそうに見えるのだが…。
白4五金図2
後手は4七銀不成。
ここで先手の考えられる手は、(a)3三歩、(b)3七銀、(c)7五角。
まず(a)3三歩だが、3六金、1七玉、2五桂、1八玉、4八銀不成、3二歩成、2六桂。(次の図)
白4五金図3
2六同歩、2七角、2八玉、3七銀成以下“詰み”。 3二歩成は間に合わない。
(b)3七銀は、1四桂、1七玉、2五桂、1八玉、3八金で次の図。
白4五金図4
後手優勢。 ここで3三歩なら、同銀直、3二歩、3七金で後手勝ち。
3五飛という手が先手にあるが、4四金、同金、同歩、2五飛、4八銀不成、同銀、2八金打、1七玉、3三桂が予想される。(次の図)
白4五金図5
5五飛に、2九金直(詰めろ)で後手優勢がはっきりした。
白4五金図6
3番目の手(c)7五角。 これで勝つのが一番スマートだが…
白4五金図7
7五角には、3六金、1七玉、4四金と後手は応じるのが好手順。これは4四同金に、3五桂と打つつもりである。
ここから、(ア)4四同金、(イ)3七歩、(ウ)2八銀、の先手3つの手を見ておこう。
白4五金図8
(ア)4四同金、3五桂と打ったところ。
これは2八銀と受けても、2五桂、1八玉、3八銀不成で先手勝てない。2八金と受ければ、2七桂成、同金、同金、同玉、3五桂、2六玉、3六金、2五玉、4四歩で、やはり先手負け。どうやら3五桂と打たれては勝ち目はないようだ。
白4五金図9
で、(イ)3七歩(図)に先手としては期待をかける。
4五金、3六歩、2五桂、1八玉、3六金、2八金、3八金、3九銀、同金、同角、3八銀打、5七角、1七桂打。(次の図)
白4五金図10
これで先手玉は寄ってしまっている。1七同桂に、3七桂成だ。
後手は「小駒五枚」で攻めているのだが、これを切らすのはむつかしい。この形は攻め合える展開に持ち込めない。
白4五金図11
(ウ)2八銀(図)も、受けているだけの手なので、結局は押し切られてしまう。
図以下、4五金に、3七歩が、いちおうこの場合の先手の期待の手。しかし、2五桂、1八玉、3七桂成、同桂、3五桂、3九桂、3八銀成と攻めてくる。4八金の受けに4七金。(次の図)
白4五金図12
4七同金、同桂成、同桂、3七金、同銀、2五桂、2八金、3七桂成、3八金、同成桂、3九金、3七金、2八銀、3六金行。(次の図)
白4五金図13
結局、「小駒五枚の攻め」はいつまでも切れずに続くのである。
この図は、先手玉への“詰めろ”になっており、後手必勝の図である。
どうやら、「5三金」は後手最強の手段のようで、これがタイミングよく有効になる形になると、先手にもう勝ちはないのかもしれない。
「5三金図」で〔白〕4五金も後手勝ち。
[亜空間要塞の逆襲]
やがて岸辺に近づいた時、山本麟太郎は、四人を代表するように、今はもう消えてしまった亜空間の浜に向かってつぶやいた。
「きっとある。このままですむわけがない。亜空間要塞の逆襲があるはずだ。」
(半村良『亜空間要塞』から)
我々(終盤探検隊)は≪亜空間≫を旅している。
前回の報告part7で我々はこの上の図の6六角から後手の穴熊(=亜空間要塞)を攻略する手段を見つけた。
その手順はたいへんに素晴らしいもので、我々も思わず熱中した。
だが、「亜空間要塞の破壊」によって、その住人である怪人たちの反撃を覚悟せねばならなくなった。
この時点ではまだ我々は事の重大さの自覚が少なかったのであるが、我々の立場はすでに「調査隊」から、「プレイヤ-」へと変わってしまっていたのである。
元々、我々は、「甲斐-山田戦」の94手目でもし後手が“3四飛成”としていたら、(実際の対局では負けた)後手にどれくらいの勝ちのチャンスがあったのか、そのことに興味を持って調査していたのである。それは「調査」であって、特に先手にも後手にもどちらにも気持ちの思い入れはまだなかった。
ところが、「亜空間要塞の破壊」という、「6六角以下」の変化から、我々は“先手に感情移入をして”その攻撃を応援加勢したのだった。
このことによって、それまでは“傍観者”であり、“客人”であった我々「終盤探検隊」は、この≪亜空間≫世界の住人として認められてしまったのである。
【4番目の刺客との闘い】
先手の「6六角」に対して、5五歩、4八金、同金、同角、5三金と進んで、次の「5三金図」である。
5三金図
この手が、“亜空間要塞を一度は爆破した我々に対して送りこまれた4番目の新たな刺客”であった。我々はすでに「調査人」ではない。この手と闘わなければ、そして知恵を絞って勝たねばならないのだ。
そして、こいつは、「強敵」だった。
4つの手を我々は有力候補に挙げた。次の手である。
〔東〕7五角
〔南〕4二銀
〔西〕3三歩
〔北〕3六金
〔東〕7五角
東7五角図1
7五角には4四金と出てきた。
こう指されてみると、すでに“先手が悪い”とわかった。先手の有効な次の手がないのだ。
駒を何か一つ後手に渡すと途端に先手玉は詰んでしまいそうだ。たとえば3一角成から攻めていけば、その角を使って「△3五角」で“詰み”だ。 3六歩は2五桂で捕まる。
もしここで先手が6九角と(後手の2五桂などの手を)受けたとしたら、後手はどう指すのだろう?
東7五角図2
それは3六桂とするのがよい。これを同角なら3五金で角を取られてしまうし、このままなら打った6九角が無駄駒である。
〔東〕7五角は、先手勝てない。
〔南〕4二銀
南4二銀図1
後手の攻めは「金桂桂」の持駒と、盤上の「銀」と「金」。 小駒だけの攻めだが、この攻めは切れることは考えにくい。
とすれば、先手は、「いかに敵陣を攻めるか」という問題となる。受けだけでは勝てないのだ。
で、「4二銀」だ。 これは次に3一銀成(または不成)がねらいだ。
南4二銀図2
後手は2五桂。 この手がある。
後手は「金桂桂」と持っているので、この手がある。これは同玉と取ると3五金で詰んでしまうし、1五歩(次に2五玉と桂馬を取る意味)でも、やはり3五金、1六玉、2四桂で“詰み”だ。このままでも、詰む。
だから先手は「4五金」。
対して、後手は「4七銀不成」。(角取りだ)
「1五歩に、4四金」。
その進行を我々は本筋と考えているが、1五歩ではなく、“2五玉”とそこで桂馬を取ったらどうなるかをやってみよう。
すなわち、「南4二銀図2」から、4五金、4七銀不成、2五玉、4四金、同金、同歩となる。そこで先手7五角とすると…(桂馬を取った先手は、7五角と角を逃がしつつ攻めに使おうとした。めいっぱい欲張ってみた指し方だ。)
南4二銀図3
2四歩(図)で先手玉が詰んでしまう。2四同玉、2三銀、1五玉、1四歩、2六玉、3六金、1七玉、2七金、同玉、3五桂、2六玉、3六金、2五玉、1三桂と、
南4二銀図4
こういう詰みだ。
後手4四金からの金交換は後手のこんなふうな狙いがある。
先手としては、7五角はまずかったので、その手で他の手を考えてみたいが、たとえば3六歩のような受けだが、それは4八銀成と角を取られてやはり後手の優勢ははっきりしている。
ということで、本線に戻る。
「南4二銀図2」から、4五金、4七銀不成、1五歩、4四金。
南4二銀図5
ここで(L)3一銀不成と、(M)4四同金を考えたい。
(L)3一銀不成だと、4五金となる。(先手は金をタダで取らせる代わりに攻める一手を選んだ)
対して4二角と先手は“詰めろ”で後手玉に迫る。 だが、ここで後手は3五金!
南4二銀図6
この金は取ってもよいのかだめなのか?
まず、取ってみよう。3五同玉、3六金、2五玉、3三桂打。
南4二銀図7
後手の持駒は「金歩」。これではまだ先手玉は詰まない。
が、3一に銀が一枚落ちている。1六玉に、1六金、1八玉、3一銀で後手勝ちだ。
南4二銀図8
取るのはだめだった。では次は1六玉と逃げてみよう。
「南4二銀図6」(後手3五金)から、1六玉、2四桂、同角成、同歩、6二飛(詰めろ)、3一銀、同竜、1七桂成となって、この図である。
この1七桂成で先手玉は詰んでしまっている。あとは簡単な並べ詰みである。
ということで、(L)3一銀不成は先手に勝ちがないとわかったので、(M)4四同金に移ろう。
南4二銀図9
「南4二銀図5」から、4四同金、同歩、3五金、4八銀不成、そして、3一銀成、3七角と進んだところ。(3一銀成では“不成”もあるが、どちらも結果的には同じになる)
3七同桂、同銀不成、1六玉、2四桂、同金。
(3七同桂としないで1六玉は1五角成があって後手良し)
南4二銀図10
2四桂と後手が打った手に先手は同金(2五玉だと3三桂で詰みなので同金しかない)としたところ。
これをしかし後手同歩だと、“先手勝ち”で、これは先手のねらい筋にハマる。すなわち、2四同歩には、“2三桂”があるのだ!
南4二銀図11
2三桂、同銀直に、3三角(図)。 後手は金合か桂合だが、どちらでも2一成銀、同銀、同竜、同玉、3一金、同玉、4二銀、3二玉、5四角、4三合、3一飛までの詰みとなる。
が、しかしこううまくは進まない。2四桂、同金に、(南4二銀図10からは)3一銀、同竜、1七金、同香、同桂成、同玉、2五桂とするのが後手の老獪な、予定の攻め手順だ。
南4二銀図
これで“詰み”。 1六玉に、1七金、2五玉、2四歩、同玉、3三銀打以下。
だから、少し戻って、「南4二銀図10」から、3一銀に、2五金とする手が考えられる。
しかしこれも、結局先手に勝ちは出ない。以下、3六金(次に2六金打の詰み)、2九飛、2四桂。
南4二銀図
しつこくしつこく桂馬で攻められ、先手いけない。2四同金に、同歩となるが、そこで3四角、3五金、3三角(同銀なら2三桂で先手勝ちだが)、2二銀打で、後手の勝ちは決定的である。
〔西〕3三歩
第3候補手の〔西〕3三歩を検討する。
≪亜空間≫は特殊空間である。現実の世界の対局と違って、何度でもやり直せるのが特殊なのである。
しかしそれは相手も同じことで、お互いに何度も何度もやり直し、体力を消耗していく。それでもやはり、「勝ち」と「負け」とに最後には分かれる。“終わり”はあるはずなのだ。
西3三歩図1
5三金と、金が守りから離れた瞬間に3三歩と爆弾を投下するのは理にかなった攻めである。
そしてこの場合、先の〔南〕4二銀に対して有効だった「すぐここでの“2五桂”」は、ここでは微妙な効果となるようだ。
西3三歩図2
3三歩に2五桂だと、4五金、3三桂、4六金、3四桂、3六玉、4六桂、同玉、5六金、3六玉、4四金、2六歩、3五金、2七玉(図)と、こうなりそうだが、これはどうも“先手良し”かもしれない。後手としては失敗。
西3三歩図3
だから、3三歩(西3三歩図1)には、いったん同銀直と取るのが(後手としては)良いようだ。
そこでどうも、先手にうまい手がないのである。指したい手は3二歩か、5一飛だが…
西3三歩図4
3二歩に、そこで2五桂だ!
こうなってみると、もはや先手に勝ち目がゼロである。
この図から、指すとすれば先手4五金だが、3四桂、同金、同銀、1五歩、3六金、1六玉、1四歩の展開となり、やはり後手必勝である。後手はその場合「銀一枚」のみの穴熊なのだが、いわゆる“ゼット”になっていて、とん死の心配もない。
西3三歩図5
「西3三歩図3」の後手3三同銀直に戻って、先手のいちばん粘りのある手はこの図の「3六歩」かもしれない。しかしこれも、4四金でも、3八金でも、図のように2五桂でも後手ペースの将棋である。先手は苦しい。
この図の2五桂以下、進めてみると、2五同玉、3四桂、1五歩、1四歩、1六玉、4七銀成、5九角、1五歩、1七玉、1六歩、2八玉(1八玉には1七金)、3八金、1八玉、1七歩成、同桂、1六歩、1三歩、同香、1四歩、同香、1五歩、3七成銀、同角、同金、2八銀、1七歩成、同銀、2六桂打。
西3三歩図6
2六同銀、同桂、1七玉、2五銀で“必至”となる。 後手の勝ち。
こんなふうに、「西3三歩図3」以下、先手はひたすら敵の「小駒」の攻めを受ける展開になり、それで結局は負けてしまうつまらない将棋となるようだ。
さあ、困ったことになった。
この後手5三金のこの図が「先手負け」だとすれば、本記事の最初の図≪風6六角図≫の「6六角」が成り立たないことになる。そうするともう先手の勝ちの手段がなく、“風”の道、すなわちこの≪亜空間≫の入口の「4二金」の手で、この変化は「後手勝ち」という最終結論が出てしまうのだ!
しばらく前ならそれでも「調査隊」である我々にはなんの影響もなかった。なるほどと納得して結果が得られたとして、それを“宝”として帰途につくだけであった。
ところが、我々はいったん先手に加担してしまった。もはや傍観者ではいられない。
この闘いに負けることは、我々の身が心配されるということである。
この特殊な世界、≪亜空間≫には、「死」は存在しないようだ。いや、あるにはあるのだが、何度死んでも、また“やりなおし”が利く。
いや、だからこそ怖いのだ。
我々は「先手勝ち」という結果を見つけなければならない。そうしないと、永遠に≪亜空間世界≫に囚われ、答えをいつまでも探し求めてさまようはめになってしまう…。
〔北〕3六金
北3六金図1
とにかく、先手を勝たせなければならない我々は、“藁をもすがる思い”で次の第4の候補手〔北〕3六金の調査を始めた。
これは見た目あまりに平凡な手で、そしてこれには4七銀不成という後手の応手がすぐ見えるので、正直、あまり気のりしない手でもあった。(が、もうこれしか残っていないのだ。)
しかし、「3六金、4七銀不成」、そこで「3三歩」が検討され始めると、思った以上の手ごたえが得られたのである。
「3三歩」に、「3四桂、1七玉、3六銀成」として――
北3六金図2
これではもう先手勝てないように見える。(図で3二歩成は2七成銀、同玉、3五桂以下先手玉詰み)
ところが、ここで「 3五金 」という手が発見されたのだ!
北3六金図3
こんな手が隠されていた!
この 3五金 の意味は、同成銀と取らせることで先手玉にかかっている“詰めろ”を解除して、3二歩成の攻めを有効にしようという手である。
進めてみよう。3五同成銀、3二歩成、同歩、6一飛、3一金、3八銀。
北3六金図4
「この図は先手が勝っているかもしれない!」ということがわかって、我々は湧いた。
さあ、慎重に検証だ。
ここで後手の4六桂という攻め手がすぐに見える。
そこで3一飛成は成立するのか!? これが重要な分かれ目だ。
結果は、「成立する」だった!!
4六桂、3一飛成、同銀、同竜、2二金、4二銀。 「先手勝ち」。 やったぞ。
北3六金図5
だから「北3六金図4」から後手はいったん受ける必要がある。
〔N〕4一金打と、〔O〕4一桂とがある。
〔N〕4一金打には、同飛成、同金、同竜だ。そこで4六桂なら――
北3六金図6
3一金! どうやらこれも「先手勝ち」。
同銀、同竜、2二金、4二銀、6一飛、4一金で、それ以上後手に受けはない。
だから後手の4六桂では3一金と受けるところだろうが、それは9一竜、4六桂、3九金のようになるが、これは「互角」か。 持駒は先手が多いので、希望はかなりある。
とりあえずここはここまでにして、〔O〕4一桂の変化を見ておこう。
北3六金図7
我々の研究は、ここで4二歩、同金としておいて、それから9一竜とするのが良さそうということになった。
以下、4六桂、4七銀打、3八桂成、同銀、3六金、1八玉、4七銀、同銀、同金、9三角成が変化の一例だ。
北3六金図8
「互角」だろうが、これは正確にやれば先手が勝てそうな気がする。先手は大駒を四枚すべて持っているので、後手からの「小駒の攻め」を受けきることができれば勝ちになる。なかなかそれがむつかしいのだが、この場合は、図で3八金打なら「3九歩」で、3八銀打には「3九香」として、なんとか先手勝ちへの希望の光の道筋が細いながらも見つかっている。
この変化も報告は一応ここまでで止めておこう。
気になる変化が別にあるのでそちらを見ておく必要がある。
北3六金図9
「 3五金 」に、「2五桂」(図)と返す手だ!
「北3六金図3」(先手3五金)まで戻って、そこで「3五同成銀」とはせずに、「2五桂」(図)という手、これが“気になる手”だ。
2五同金に、3三桂。 続いて3四金、2五桂、2八玉、4七金、6一飛、3七金打、同桂、同桂成、同角、同金、3九玉、7五角。(次の図)
北3六金図10
この後手7五角の手で5七角なら、それは2九玉で先手勝ちに。次に3一飛成があるから。でもこの7五角に2九玉は、4四金で、これは後手勝ち。(角が3一を守っている)
7五角には、6六歩、4四金、3八歩、3四金、3七歩、同成銀、2八金。(次の図)
北3六金図11
ここで後手(P)2五桂と(Q)4七金がありそうだ。
(P)2五桂には、3八歩、4八金、2九玉、2八成銀、同玉、3九金打、2九銀。(次の図)
北3六金図12
なんとか受け切ったか。
北3六金図13
「北3六金図11」から(Q)4七金は、2六銀、2八成銀、同玉、3六桂、1七玉、5三角、3九銀、2一銀、6三角(この図)でどうだ。
また、この手順中2一銀の手で、2一金と持駒の金を打って穴熊玉を固める手もある。
その変化は、2一金、8九角、3五金、5四金、2六金、同歩、2八銀、同銀、同桂成、同玉、2六角、2九桂、4八角成、3四桂。
北3六金図14
3四桂が入ったこの図になれば、これは先手が良くなったと思う。
しかし途中の変化もまだまだ色々とあって、こう進むとは限らないが。
とにかく変化が広大で、まだまだ細部の検討までは行き届いていないが、先手の勝ちへの希望はなんとか切れないでつながっている感じがある。
しかしこの変化は、途中、まだ後手の選択肢も多い。先手は、それらの手、すべてに対応して「勝ち筋」を見つけていかなければならない。
後手の対場に立って、「最善の手段」を考えてみよう。
北3六金図1(再掲)
先手「3六金」まで戻って、ここで「4七銀不成、3三歩、3四桂」を想定してきたのだが、3三歩を素直に「同銀直」や、「同桂」はないだろうか。
北3六金図15
これは、「4七銀不成、3三歩」に、「同桂」とした図である。
以下、3四歩、2五金、同金、同桂、5七角、1四桂、1五玉。(次の図)
北3六金図16
この図は、なんと「先手良し」のようなのである。
たとえばここで後手5六銀成や4四金なら、3三銀と打ち込んで先手勝ち。2一桂なら、4二金で寄せられる。2一金なら、2五玉として、次に1五歩を狙う。
では、2四金には――?
北3六金図17
2四同角、同歩、3三歩成で先手が勝つ。(このための“5七角”だったというわけ)
さて―――
最後に、後手にとっての「正解」を示さねばならない。
これまで、「もしかしたら先手やれるかも」という甘い夢を見てきたが、ここで「現実」を直視する覚悟を持とう。
北3六金図1(再掲)
もう一度この図に戻って、後手の「正解手順」(先手にとって困る応手)は、これである。
「 4七銀不成、3三歩、3四桂、1七玉、3三桂、5一飛、2一金 」(次の図)
北3六金図18
これは、先手勝つ自信がない。 3六銀成とせず、3三桂と歩を払うのが「正解」だった。
この先を進めてみると、3五歩、3六銀成、3四歩、2五桂、1八玉、3七桂打(次の図)が一例。
北3六金図19
3三金(これは詰めろだが…)、同銀左、同歩成、同銀、1五角、2九桂成、3三角成、2二桂。(次の図)
北3六金図20
2九玉には、2七成銀で、先手玉は“必至”となる。
先手、変化する手もあるにはあるが、どうも勝てない…。
というわけで、〔東〕7五角、〔南〕4二銀、〔西〕3三歩、〔北〕3六金、4つの手は全て「後手良し」、これが結論となった。
「亜空間要塞」から放たれた<4人目の刺客>に、我々の用意した4つの矢はへし折られてしまったのである。
それはすなわち、冒頭の図、≪風6六角図≫の先手「6六角」が敗れ去ったことを意味する。
それはまた、この≪亜空間≫の勝利者は後手の側なのだという最終決定へとそのままつながりそうだ。
ということは、“我々”は負け組となったのである。
いや、ほんとうに負けなのだろうか。
「隠された妙手」はもうどこにもないのだろうか。
【追加レポート: 4五金は?】
5三金図
ここで〔東〕7五角、〔南〕4二銀、〔西〕3三歩、〔北〕3六金、の4つの手の調査報告を書いたが、もう一つの手〔白〕4五金について追加報告しておく。
結果から言えば、この図では〔白〕4五金でも、先手は勝てない。
白4五金図1
4五金とすれば、後手は3四桂とは打たないだろうし、4七銀不成も両取りにならない。
〔北〕3六金よりもこの手のほうが良さそうに見えるのだが…。
白4五金図2
後手は4七銀不成。
ここで先手の考えられる手は、(a)3三歩、(b)3七銀、(c)7五角。
まず(a)3三歩だが、3六金、1七玉、2五桂、1八玉、4八銀不成、3二歩成、2六桂。(次の図)
白4五金図3
2六同歩、2七角、2八玉、3七銀成以下“詰み”。 3二歩成は間に合わない。
(b)3七銀は、1四桂、1七玉、2五桂、1八玉、3八金で次の図。
白4五金図4
後手優勢。 ここで3三歩なら、同銀直、3二歩、3七金で後手勝ち。
3五飛という手が先手にあるが、4四金、同金、同歩、2五飛、4八銀不成、同銀、2八金打、1七玉、3三桂が予想される。(次の図)
白4五金図5
5五飛に、2九金直(詰めろ)で後手優勢がはっきりした。
白4五金図6
3番目の手(c)7五角。 これで勝つのが一番スマートだが…
白4五金図7
7五角には、3六金、1七玉、4四金と後手は応じるのが好手順。これは4四同金に、3五桂と打つつもりである。
ここから、(ア)4四同金、(イ)3七歩、(ウ)2八銀、の先手3つの手を見ておこう。
白4五金図8
(ア)4四同金、3五桂と打ったところ。
これは2八銀と受けても、2五桂、1八玉、3八銀不成で先手勝てない。2八金と受ければ、2七桂成、同金、同金、同玉、3五桂、2六玉、3六金、2五玉、4四歩で、やはり先手負け。どうやら3五桂と打たれては勝ち目はないようだ。
白4五金図9
で、(イ)3七歩(図)に先手としては期待をかける。
4五金、3六歩、2五桂、1八玉、3六金、2八金、3八金、3九銀、同金、同角、3八銀打、5七角、1七桂打。(次の図)
白4五金図10
これで先手玉は寄ってしまっている。1七同桂に、3七桂成だ。
後手は「小駒五枚」で攻めているのだが、これを切らすのはむつかしい。この形は攻め合える展開に持ち込めない。
白4五金図11
(ウ)2八銀(図)も、受けているだけの手なので、結局は押し切られてしまう。
図以下、4五金に、3七歩が、いちおうこの場合の先手の期待の手。しかし、2五桂、1八玉、3七桂成、同桂、3五桂、3九桂、3八銀成と攻めてくる。4八金の受けに4七金。(次の図)
白4五金図12
4七同金、同桂成、同桂、3七金、同銀、2五桂、2八金、3七桂成、3八金、同成桂、3九金、3七金、2八銀、3六金行。(次の図)
白4五金図13
結局、「小駒五枚の攻め」はいつまでも切れずに続くのである。
この図は、先手玉への“詰めろ”になっており、後手必勝の図である。
どうやら、「5三金」は後手最強の手段のようで、これがタイミングよく有効になる形になると、先手にもう勝ちはないのかもしれない。
「5三金図」で〔白〕4五金も後手勝ち。