はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part8 ≪亜空間の旅≫

2014年11月29日 | しょうぎ
≪風6六角図≫

      [亜空間要塞の逆襲]
 やがて岸辺に近づいた時、山本麟太郎は、四人を代表するように、今はもう消えてしまった亜空間の浜に向かってつぶやいた。
「きっとある。このままですむわけがない。亜空間要塞の逆襲があるはずだ。」
                        (半村良『亜空間要塞』から)



 我々(終盤探検隊)は≪亜空間≫を旅している。
 前回の報告part7で我々はこの上の図の6六角から後手の穴熊(=亜空間要塞)を攻略する手段を見つけた。
 その手順はたいへんに素晴らしいもので、我々も思わず熱中した。
 だが、「亜空間要塞の破壊」によって、その住人である怪人たちの反撃を覚悟せねばならなくなった。

 この時点ではまだ我々は事の重大さの自覚が少なかったのであるが、我々の立場はすでに「調査隊」から、「プレイヤ-」へと変わってしまっていたのである。
 元々、我々は、「甲斐-山田戦」の94手目でもし後手が“3四飛成”としていたら、(実際の対局では負けた)後手にどれくらいの勝ちのチャンスがあったのか、そのことに興味を持って調査していたのである。それは「調査」であって、特に先手にも後手にもどちらにも気持ちの思い入れはまだなかった。
 ところが、「亜空間要塞の破壊」という、「6六角以下」の変化から、我々は“先手に感情移入をして”その攻撃を応援加勢したのだった。

 このことによって、それまでは“傍観者”であり、“客人”であった我々「終盤探検隊」は、この≪亜空間≫世界の住人として認められてしまったのである。



【4番目の刺客との闘い】

 先手の「6六角」に対して、5五歩、4八金、同金、同角、5三金と進んで、次の「5三金図」である。

5三金図
 この手が、“亜空間要塞を一度は爆破した我々に対して送りこまれた4番目の新たな刺客”であった。我々はすでに「調査人」ではない。この手と闘わなければ、そして知恵を絞って勝たねばならないのだ。

 そして、こいつは、「強敵」だった。


 4つの手を我々は有力候補に挙げた。次の手である。
  〔東〕7五角
  〔南〕4二銀
  〔西〕3三歩
  〔北〕3六金


〔東〕7五角

東7五角図1
 7五角には4四金と出てきた。
 こう指されてみると、すでに“先手が悪い”とわかった。先手の有効な次の手がないのだ。
 駒を何か一つ後手に渡すと途端に先手玉は詰んでしまいそうだ。たとえば3一角成から攻めていけば、その角を使って「△3五角」で“詰み”だ。 3六歩は2五桂で捕まる。
 もしここで先手が6九角と(後手の2五桂などの手を)受けたとしたら、後手はどう指すのだろう?

東7五角図2
 それは3六桂とするのがよい。これを同角なら3五金で角を取られてしまうし、このままなら打った6九角が無駄駒である。

 〔東〕7五角は、先手勝てない。


〔南〕4二銀

南4二銀図1
 後手の攻めは「金桂桂」の持駒と、盤上の「銀」と「金」。 小駒だけの攻めだが、この攻めは切れることは考えにくい。
 とすれば、先手は、「いかに敵陣を攻めるか」という問題となる。受けだけでは勝てないのだ。
 で、「4二銀」だ。 これは次に3一銀成(または不成)がねらいだ。

南4二銀図2
 後手は2五桂。 この手がある。
 後手は「金桂桂」と持っているので、この手がある。これは同玉と取ると3五金で詰んでしまうし、1五歩(次に2五玉と桂馬を取る意味)でも、やはり3五金、1六玉、2四桂で“詰み”だ。このままでも、詰む。
 だから先手は「4五金」。
 対して、後手は「4七銀不成」。(角取りだ)
 「1五歩に、4四金」。 

 
 その進行を我々は本筋と考えているが、1五歩ではなく、“2五玉”とそこで桂馬を取ったらどうなるかをやってみよう。
 すなわち、「南4二銀図2」から、4五金、4七銀不成、2五玉、4四金、同金、同歩となる。そこで先手7五角とすると…(桂馬を取った先手は、7五角と角を逃がしつつ攻めに使おうとした。めいっぱい欲張ってみた指し方だ。)

南4二銀図3
 2四歩(図)で先手玉が詰んでしまう。2四同玉、2三銀、1五玉、1四歩、2六玉、3六金、1七玉、2七金、同玉、3五桂、2六玉、3六金、2五玉、1三桂と、

南4二銀図4
 こういう詰みだ。
 後手4四金からの金交換は後手のこんなふうな狙いがある。
 先手としては、7五角はまずかったので、その手で他の手を考えてみたいが、たとえば3六歩のような受けだが、それは4八銀成と角を取られてやはり後手の優勢ははっきりしている。

 ということで、本線に戻る。
 「南4二銀図2」から、4五金、4七銀不成、1五歩、4四金。

南4二銀図5
 ここで(L)3一銀不成と、(M)4四同金を考えたい。

 (L)3一銀不成だと、4五金となる。(先手は金をタダで取らせる代わりに攻める一手を選んだ)
 対して4二角と先手は“詰めろ”で後手玉に迫る。 だが、ここで後手は3五金! 

南4二銀図6
 この金は取ってもよいのかだめなのか?
 まず、取ってみよう。3五同玉、3六金、2五玉、3三桂打。

南4二銀図7
 後手の持駒は「金歩」。これではまだ先手玉は詰まない。
 が、3一に銀が一枚落ちている。1六玉に、1六金、1八玉、3一銀で後手勝ちだ。

南4二銀図8
 取るのはだめだった。では次は1六玉と逃げてみよう。
 「南4二銀図6」(後手3五金)から、1六玉、2四桂、同角成、同歩、6二飛(詰めろ)、3一銀、同竜、1七桂成となって、この図である。
 この1七桂成で先手玉は詰んでしまっている。あとは簡単な並べ詰みである。

 ということで、(L)3一銀不成は先手に勝ちがないとわかったので、(M)4四同金に移ろう。 

南4二銀図9
 「南4二銀図5」から、4四同金、同歩、3五金、4八銀不成、そして、3一銀成、3七角と進んだところ。(3一銀成では“不成”もあるが、どちらも結果的には同じになる)
 
 3七同桂、同銀不成、1六玉、2四桂、同金。
 (3七同桂としないで1六玉は1五角成があって後手良し) 

南4二銀図10
 2四桂と後手が打った手に先手は同金(2五玉だと3三桂で詰みなので同金しかない)としたところ。
 これをしかし後手同歩だと、“先手勝ち”で、これは先手のねらい筋にハマる。すなわち、2四同歩には、“2三桂”があるのだ! 

南4二銀図11
 2三桂、同銀直に、3三角(図)。 後手は金合か桂合だが、どちらでも2一成銀、同銀、同竜、同玉、3一金、同玉、4二銀、3二玉、5四角、4三合、3一飛までの詰みとなる。

 が、しかしこううまくは進まない。2四桂、同金に、(南4二銀図10からは)3一銀、同竜、1七金、同香、同桂成、同玉、2五桂とするのが後手の老獪な、予定の攻め手順だ。

南4二銀図
 これで“詰み”。 1六玉に、1七金、2五玉、2四歩、同玉、3三銀打以下。

 だから、少し戻って、「南4二銀図10」から、3一銀に、2五金とする手が考えられる。
 しかしこれも、結局先手に勝ちは出ない。以下、3六金(次に2六金打の詰み)、2九飛、2四桂。

南4二銀図
 しつこくしつこく桂馬で攻められ、先手いけない。2四同金に、同歩となるが、そこで3四角、3五金、3三角(同銀なら2三桂で先手勝ちだが)、2二銀打で、後手の勝ちは決定的である。




〔西〕3三歩

 第3候補手の〔西〕3三歩を検討する。

 ≪亜空間≫は特殊空間である。現実の世界の対局と違って、何度でもやり直せるのが特殊なのである。
 しかしそれは相手も同じことで、お互いに何度も何度もやり直し、体力を消耗していく。それでもやはり、「勝ち」と「負け」とに最後には分かれる。“終わり”はあるはずなのだ。

西3三歩図1
 5三金と、金が守りから離れた瞬間に3三歩と爆弾を投下するのは理にかなった攻めである。
 そしてこの場合、先の〔南〕4二銀に対して有効だった「すぐここでの“2五桂”」は、ここでは微妙な効果となるようだ。

西3三歩図2
 3三歩に2五桂だと、4五金、3三桂、4六金、3四桂、3六玉、4六桂、同玉、5六金、3六玉、4四金、2六歩、3五金、2七玉(図)と、こうなりそうだが、これはどうも“先手良し”かもしれない。後手としては失敗。

西3三歩図3
 だから、3三歩(西3三歩図1)には、いったん同銀直と取るのが(後手としては)良いようだ。

 そこでどうも、先手にうまい手がないのである。指したい手は3二歩か、5一飛だが…

西3三歩図4
 3二歩に、そこで2五桂だ!
 こうなってみると、もはや先手に勝ち目がゼロである。
 この図から、指すとすれば先手4五金だが、3四桂、同金、同銀、1五歩、3六金、1六玉、1四歩の展開となり、やはり後手必勝である。後手はその場合「銀一枚」のみの穴熊なのだが、いわゆる“ゼット”になっていて、とん死の心配もない。

西3三歩図5
 「西3三歩図3」の後手3三同銀直に戻って、先手のいちばん粘りのある手はこの図の「3六歩」かもしれない。しかしこれも、4四金でも、3八金でも、図のように2五桂でも後手ペースの将棋である。先手は苦しい。
 この図の2五桂以下、進めてみると、2五同玉、3四桂、1五歩、1四歩、1六玉、4七銀成、5九角、1五歩、1七玉、1六歩、2八玉(1八玉には1七金)、3八金、1八玉、1七歩成、同桂、1六歩、1三歩、同香、1四歩、同香、1五歩、3七成銀、同角、同金、2八銀、1七歩成、同銀、2六桂打。

西3三歩図6
 2六同銀、同桂、1七玉、2五銀で“必至”となる。 後手の勝ち。

 こんなふうに、「西3三歩図3」以下、先手はひたすら敵の「小駒」の攻めを受ける展開になり、それで結局は負けてしまうつまらない将棋となるようだ。


 さあ、困ったことになった。
 この後手5三金のこの図が「先手負け」だとすれば、本記事の最初の図≪風6六角図≫の「6六角」が成り立たないことになる。そうするともう先手の勝ちの手段がなく、“風”の道、すなわちこの≪亜空間≫の入口の「4二金」の手で、この変化は「後手勝ち」という最終結論が出てしまうのだ!
 しばらく前ならそれでも「調査隊」である我々にはなんの影響もなかった。なるほどと納得して結果が得られたとして、それを“宝”として帰途につくだけであった。
 ところが、我々はいったん先手に加担してしまった。もはや傍観者ではいられない。
 この闘いに負けることは、我々の身が心配されるということである。
 
 この特殊な世界、≪亜空間≫には、「死」は存在しないようだ。いや、あるにはあるのだが、何度死んでも、また“やりなおし”が利く。
 いや、だからこそ怖いのだ。
 我々は「先手勝ち」という結果を見つけなければならない。そうしないと、永遠に≪亜空間世界≫に囚われ、答えをいつまでも探し求めてさまようはめになってしまう…。

 

〔北〕3六金

北3六金図1
 とにかく、先手を勝たせなければならない我々は、“藁をもすがる思い”で次の第4の候補手〔北〕3六金の調査を始めた。
 これは見た目あまりに平凡な手で、そしてこれには4七銀不成という後手の応手がすぐ見えるので、正直、あまり気のりしない手でもあった。(が、もうこれしか残っていないのだ。)
 しかし、「3六金、4七銀不成」、そこで「3三歩」が検討され始めると、思った以上の手ごたえが得られたのである。
 「3三歩」に、「3四桂、1七玉、3六銀成」として――

北3六金図2
 これではもう先手勝てないように見える。(図で3二歩成は2七成銀、同玉、3五桂以下先手玉詰み)
 ところが、ここで「 3五金 」という手が発見されたのだ!

北3六金図3
 こんな手が隠されていた!
 この 3五金 の意味は、同成銀と取らせることで先手玉にかかっている“詰めろ”を解除して、3二歩成の攻めを有効にしようという手である。
 進めてみよう。3五同成銀、3二歩成、同歩、6一飛、3一金、3八銀。

北3六金図4
 「この図は先手が勝っているかもしれない!」ということがわかって、我々は湧いた。
 さあ、慎重に検証だ。
 ここで後手の4六桂という攻め手がすぐに見える。
 そこで3一飛成は成立するのか!? これが重要な分かれ目だ。
 結果は、「成立する」だった!! 
 4六桂、3一飛成、同銀、同竜、2二金、4二銀。 「先手勝ち」。 やったぞ。

北3六金図5
 だから「北3六金図4」から後手はいったん受ける必要がある。
 〔N〕4一金打と、〔O〕4一桂とがある。

 〔N〕4一金打には、同飛成、同金、同竜だ。そこで4六桂なら――

北3六金図6
 3一金! どうやらこれも「先手勝ち」。
 同銀、同竜、2二金、4二銀、6一飛、4一金で、それ以上後手に受けはない。
 だから後手の4六桂では3一金と受けるところだろうが、それは9一竜、4六桂、3九金のようになるが、これは「互角」か。 持駒は先手が多いので、希望はかなりある。
 とりあえずここはここまでにして、〔O〕4一桂の変化を見ておこう。

北3六金図7
 我々の研究は、ここで4二歩、同金としておいて、それから9一竜とするのが良さそうということになった。
 以下、4六桂、4七銀打、3八桂成、同銀、3六金、1八玉、4七銀、同銀、同金、9三角成が変化の一例だ。

北3六金図8
 「互角」だろうが、これは正確にやれば先手が勝てそうな気がする。先手は大駒を四枚すべて持っているので、後手からの「小駒の攻め」を受けきることができれば勝ちになる。なかなかそれがむつかしいのだが、この場合は、図で3八金打なら「3九歩」で、3八銀打には「3九香」として、なんとか先手勝ちへの希望の光の道筋が細いながらも見つかっている。
 この変化も報告は一応ここまでで止めておこう。

 気になる変化が別にあるのでそちらを見ておく必要がある。

北3六金図9
 「 3五金 」に、「2五桂」(図)と返す手だ!
 「北3六金図3」(先手3五金)まで戻って、そこで「3五同成銀」とはせずに、「2五桂」(図)という手、これが“気になる手”だ。
 2五同金に、3三桂。 続いて3四金、2五桂、2八玉、4七金、6一飛、3七金打、同桂、同桂成、同角、同金、3九玉、7五角。(次の図)

北3六金図10
 この後手7五角の手で5七角なら、それは2九玉で先手勝ちに。次に3一飛成があるから。でもこの7五角に2九玉は、4四金で、これは後手勝ち。(角が3一を守っている)
 7五角には、6六歩、4四金、3八歩、3四金、3七歩、同成銀、2八金。(次の図)

北3六金図11
 ここで後手(P)2五桂と(Q)4七金がありそうだ。

 (P)2五桂には、3八歩、4八金、2九玉、2八成銀、同玉、3九金打、2九銀。(次の図) 

北3六金図12
 なんとか受け切ったか。

北3六金図13
 「北3六金図11」から(Q)4七金は、2六銀、2八成銀、同玉、3六桂、1七玉、5三角、3九銀、2一銀、6三角(この図)でどうだ。

 また、この手順中2一銀の手で、2一金と持駒の金を打って穴熊玉を固める手もある。
 その変化は、2一金、8九角、3五金、5四金、2六金、同歩、2八銀、同銀、同桂成、同玉、2六角、2九桂、4八角成、3四桂。

北3六金図14
 3四桂が入ったこの図になれば、これは先手が良くなったと思う。
 しかし途中の変化もまだまだ色々とあって、こう進むとは限らないが。


 とにかく変化が広大で、まだまだ細部の検討までは行き届いていないが、先手の勝ちへの希望はなんとか切れないでつながっている感じがある。

 しかしこの変化は、途中、まだ後手の選択肢も多い。先手は、それらの手、すべてに対応して「勝ち筋」を見つけていかなければならない。
 後手の対場に立って、「最善の手段」を考えてみよう。


北3六金図1(再掲)
 先手「3六金」まで戻って、ここで「4七銀不成、3三歩、3四桂」を想定してきたのだが、3三歩を素直に「同銀直」や、「同桂」はないだろうか。

北3六金図15
 これは、「4七銀不成、3三歩」に、「同桂」とした図である。
 以下、3四歩、2五金、同金、同桂、5七角、1四桂、1五玉。(次の図)

北3六金図16
 この図は、なんと「先手良し」のようなのである。
 たとえばここで後手5六銀成や4四金なら、3三銀と打ち込んで先手勝ち。2一桂なら、4二金で寄せられる。2一金なら、2五玉として、次に1五歩を狙う。
 では、2四金には――?

北3六金図17
 2四同角、同歩、3三歩成で先手が勝つ。(このための“5七角”だったというわけ)



 さて―――
 最後に、後手にとっての「正解」を示さねばならない。
 これまで、「もしかしたら先手やれるかも」という甘い夢を見てきたが、ここで「現実」を直視する覚悟を持とう。


北3六金図1(再掲)
 もう一度この図に戻って、後手の「正解手順」(先手にとって困る応手)は、これである。
 「 4七銀不成、3三歩、3四桂、1七玉、3三桂、5一飛、2一金 」(次の図)

北3六金図18
 これは、先手勝つ自信がない。 3六銀成とせず、3三桂と歩を払うのが「正解」だった。
 この先を進めてみると、3五歩、3六銀成、3四歩、2五桂、1八玉、3七桂打(次の図)が一例。

北3六金図19
 3三金(これは詰めろだが…)、同銀左、同歩成、同銀、1五角、2九桂成、3三角成、2二桂。(次の図)

北3六金図20
 2九玉には、2七成銀で、先手玉は“必至”となる。
 先手、変化する手もあるにはあるが、どうも勝てない…。



 というわけで、〔東〕7五角、〔南〕4二銀、〔西〕3三歩、〔北〕3六金、4つの手は全て「後手良し」、これが結論となった。
 「亜空間要塞」から放たれた<4人目の刺客>に、我々の用意した4つの矢はへし折られてしまったのである。

 それはすなわち、冒頭の図、≪風6六角図≫の先手「6六角」が敗れ去ったことを意味する。
 それはまた、この≪亜空間≫の勝利者は後手の側なのだという最終決定へとそのままつながりそうだ。

 ということは、“我々”は負け組となったのである。


 いや、ほんとうに負けなのだろうか。
 「隠された妙手」はもうどこにもないのだろうか。





【追加レポート: 4五金は?】

5三金図

 ここで〔東〕7五角、〔南〕4二銀、〔西〕3三歩、〔北〕3六金、の4つの手の調査報告を書いたが、もう一つの手〔白〕4五金について追加報告しておく。
 結果から言えば、この図では〔白〕4五金でも、先手は勝てない。

白4五金図1
 4五金とすれば、後手は3四桂とは打たないだろうし、4七銀不成も両取りにならない。
 〔北〕3六金よりもこの手のほうが良さそうに見えるのだが…。 

白4五金図2
 後手は4七銀不成。
 ここで先手の考えられる手は、(a)3三歩、(b)3七銀、(c)7五角。

 まず(a)3三歩だが、3六金、1七玉、2五桂、1八玉、4八銀不成、3二歩成、2六桂。(次の図)

白4五金図3
 2六同歩、2七角、2八玉、3七銀成以下“詰み”。 3二歩成は間に合わない。

 (b)3七銀は、1四桂、1七玉、2五桂、1八玉、3八金で次の図。

白4五金図4
 後手優勢。 ここで3三歩なら、同銀直、3二歩、3七金で後手勝ち。
 3五飛という手が先手にあるが、4四金、同金、同歩、2五飛、4八銀不成、同銀、2八金打、1七玉、3三桂が予想される。(次の図)

白4五金図5
 5五飛に、2九金直(詰めろ)で後手優勢がはっきりした。 

白4五金図6
 3番目の手(c)7五角。 これで勝つのが一番スマートだが…

白4五金図7
 7五角には、3六金、1七玉、4四金と後手は応じるのが好手順。これは4四同金に、3五桂と打つつもりである。
 ここから、(ア)4四同金、(イ)3七歩、(ウ)2八銀、の先手3つの手を見ておこう。

白4五金図8
 (ア)4四同金、3五桂と打ったところ。
 これは2八銀と受けても、2五桂、1八玉、3八銀不成で先手勝てない。2八金と受ければ、2七桂成、同金、同金、同玉、3五桂、2六玉、3六金、2五玉、4四歩で、やはり先手負け。どうやら3五桂と打たれては勝ち目はないようだ。

白4五金図9
 で、(イ)3七歩(図)に先手としては期待をかける。
 4五金、3六歩、2五桂、1八玉、3六金、2八金、3八金、3九銀、同金、同角、3八銀打、5七角、1七桂打。(次の図)

白4五金図10
 これで先手玉は寄ってしまっている。1七同桂に、3七桂成だ。
 後手は「小駒五枚」で攻めているのだが、これを切らすのはむつかしい。この形は攻め合える展開に持ち込めない。

白4五金図11
 (ウ)2八銀(図)も、受けているだけの手なので、結局は押し切られてしまう。
 図以下、4五金に、3七歩が、いちおうこの場合の先手の期待の手。しかし、2五桂、1八玉、3七桂成、同桂、3五桂、3九桂、3八銀成と攻めてくる。4八金の受けに4七金。(次の図)

白4五金図12
 4七同金、同桂成、同桂、3七金、同銀、2五桂、2八金、3七桂成、3八金、同成桂、3九金、3七金、2八銀、3六金行。(次の図)

白4五金図13
 結局、「小駒五枚の攻め」はいつまでも切れずに続くのである。
 この図は、先手玉への“詰めろ”になっており、後手必勝の図である。

 どうやら、「5三金」は後手最強の手段のようで、これがタイミングよく有効になる形になると、先手にもう勝ちはないのかもしれない。


 「5三金図」で〔白〕4五金も後手勝ち
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終盤探検隊 part7 ≪亜空間の旅≫

2014年11月27日 | しょうぎ
≪風3一金図≫

   [亜空間要塞を爆破せよ]
 明るい太陽も青空も、澄んだ海もそよ風も、すべてが疑わしくなった。
「おい、みんな。やっつけちまおうぜ」
 伊藤が言った。
「宇宙人たちをか」 
「そうさ。この亜空間要塞をだよ」
「どうやってだ。方法はあるのか」
「知るもんか。でも俺たちは死にはしない。キャプテン・フューチャーだ。レンズマンだ。」

              (半村良『亜空間要塞』から)



 ≪亜空間≫とは、11月5日に行われた将棋対局倉敷藤花戦三番勝負の第1局「甲斐智美-山田久美戦」の94手目、3五飛成を「3四飛成」とした架空の場面から始まる“世界”に付けた呼称である。 94手目3四飛成、同玉、以下「4二金、2五玉」と進めたところを前回の記事で研究してきた。この「4二金」からの変化には“風”の道と名付けた。
 我々終盤探検隊はその≪亜空間、風の道≫をその奥へと進んだ。


≪風2五玉図≫
 図より、3一歩、2六玉、4八と、6六角

≪風6六角図≫
 5九と、3一竜、3三銀直、9一竜、3四桂、1七玉、3八金、3一金
 (図の6六角が先手唯一の手と思われる。どうやら他の手では先手勝つ道がない)


≪風3一金図≫
 いよいよ、≪亜空間要塞≫の攻略開始である。
 この「3一金」が先手の勝利への希望を込めた一着である。

 3一同銀、同竜と進むが――、そこで後手〔1〕5五歩と、〔2〕3二金打、〔3〕2二金の応手がある。


 まず〔1〕5五歩から。

5五歩図1
 5五歩には、1五角がある。これが好手。
 この手に対し、2四歩なら、2三香、2二金、6一飛で先手勝ちが決まる。
 だから後手は2四金と応じるのが正しい受け。

 しかし3二金打なら、どうなるか。それは3三角成で先手が勝つ。(次の参考図1)

参考図1
 これを3三同金右だと、2二銀、同金、同竜、3一銀以下、詰んでしまうのだ。
 ではこの3三角成に、2二金打だとどうなるか。それは2二同馬に、3三銀。(次の参考図2) 

参考図2
 これで後手玉は寄っている。ただし、先手玉は後手に「銀」を渡すと2八銀から詰みがあるので慎重に。図で3二金右に、同銀成、同金、同竜では逆転負けだ。だから3二金右には、同竜、同金、同銀成がよいだろう。「飛角」なら先手玉は詰まないし、後手の受けは難しい。(「銀」だと先手玉は詰みがあるが、「飛角」だと詰まないのだ!)

5五歩図2
 「5五歩図1」から、「2四金、6一飛、2二金と進んだところ。
 ここで2四角と角を切って、後手玉に寄せがある。2四同歩は、ここでも2三香で先手勝ちが決まる。なので、2四同銀だが、先手は2二竜、同玉、3一銀、3二玉、3三歩、同玉、3六金として、次の図。

5五歩図3
 これで先手の勝勢だ。次に2二銀打~4五金打で後手玉は詰むし、それを受けて3五飛でも、4二銀不成、同玉、4一桂成、3三玉、4二銀以下簡単に詰む。
 先手玉は「飛角」の持駒では詰まないという“見切り”がこの寄せを成立させている。働いていないように見える6六の角がなければ、先手玉は(3九角で)角だけで詰む形になってたのだ。6六角で受けて、1五角で攻めるという二枚の角のコンビネーションが素晴らしかった。
 ためしにこの図から△2八角と攻めてみよう。2八角、1八玉、1九角成、同玉、1七香の攻めは――

5五歩図1
 1八香があるので大丈夫だ。
 ところで、この場合は大丈夫だが、3六に打った金が4五だと、ここから先手玉は(おそろしいことに)詰んでしまうようだ。詰め手順は、2九金、同玉、1八香成、同玉、2六桂打以下である。(後手の銀が2四にまで出てきているためにこの詰みが生じている)


 このように〔1〕5五歩には1五角の攻めの継続手があって先手が勝てるとわかった。

 次は〔2〕3二金打だが、これは〔3〕2二金と同じことになるので一つにまとめる。

〔2〕3二金打、〔3〕2二金

3二金打図1
 3二金打(2二金)には、3三角成が成立する。これがあるから、冒頭の図の「3一金」の攻めが有効になったのである。(3二金打に5一竜と逃げているようでは、ただの金銀交換に終わってそれでは勝てない。)
 3三角成に、後手はこれを取る手がない。3三同金右なら、2二銀、同金、同竜、3一銀以下“詰み”があるから。

3二金打図2
 ただし、「銀得」して、「やった、勝ちだ!」と喜ぶのは早すぎる。ここでこの図のように「2二金打」と頑張られた時の対応がなければいけない。角を後手に渡すと、3九角から詰んでしまうことに注意すべし!
 どうするか?
 我々終盤探検隊(隊員は一名)はこれをソフト「激指13」を使って調べている時、「先手優勢 +1498」という評価値がでていたのでこれで寄っているのだと安心していたのだが、しかしその「激指」の示す手順通りに先を進めてみると――なんだかおかしい。 図以下、2二竜、同金、同馬、同玉、3一銀、同玉、6一飛である。
 これはしかし―― 

参考図3(先手の失敗図)
 3二玉とされた時、まったく自信がないぞ。後手玉は詰まないようだし、後手に持駒を「飛角銀」と持たれて、ここで受けても勝てるとは思えない。どうしてこういうおかしな意見を「激指13」が主張するのかわからない。ともかく、この手順では先手負けだと思う。
 (追記: どうやら「激指」の読みは、「参考図3」で2八銀と受けて“先手良し”ということらしい。そうかもしれないが、先を調べると、2八銀には同金で、後手が良いのではないかと思われる。そこで3三歩、同玉、1一角の攻めがあるが、2二銀、3一飛成、4四玉、2二角成、3三歩と進むと、「後手有利 -1509」と出る)

 そこで我々は、2二金打とした「3二金打図2」から別の手段はないのかと思案した。
 そして、それは見つかったのだ!

3二金打図3
 「3二金打図2」から、「2二馬、同金、6六角」。 これが新たに見つかった“答え”だ。
 この6六角は、後手玉の“詰めろ”になっているのはもちろんだが、3九に利かせて、後手3九角という手を消して先手玉の詰みをなくしていることが重要なのだ。
 この6六角に、後手が5五歩なら――

3二金打図
 3三銀だ! これで先手が勝ちになる。(この銀打ちは上でも出てきた)

 さて、そういうわけで、5五歩では勝てない後手の、他の候補手を考える。
 (ア)5五角、それから、(イ)4四角という手段がある。

3二金打図
 (ア)5五角なら、同角、同銀、3四竜とする。この3四竜は3八の金取りになっているが、そこで後手2九金に、先手は3一銀(図)。
 先手優勢である。

3二金打図
 (イ)4四角。 これは同角、同歩と進む。
 ここから、この将棋は“奇跡”のような仕組みになっていて、「先手勝ち」に導かれる。
 4四角、同角、同歩の後は、2二竜、同玉、3一銀、同玉、6一飛、3二玉と攻めるのだ。この攻め筋は、先ほど「激指13」が示していた攻め筋だが(参考図3 しかしそこでは無効だった)、その時とこの図とでは、後手の4筋の歩が「4四歩」と一歩前に進んでいるのが違っている。それで先手優勢になるのだ。(6一飛に4一銀は、同桂成、同金、3二歩、同玉、4三金以下の詰み)

 後手の3二玉に、5四角と“王手”だ。(次の図)

3二金打図
 この角が前後に素晴らしくよく効いていて、後手玉はこれで“詰み”となる。4三銀合に、3一金、3三玉、2二銀、同玉、2一金、3三玉、2二銀以下、“並べ詰め”だ。



 以上の検討により、≪風3一金図≫以下は、「先手勝ち」となることが判明した。


 そうすると、今検討している“風”の道の結論は、「先手勝ち」で良いのだろうか。

 いや、それはまだ確定とは言えない。
 今回の報告記事の冒頭に記しておいた≪風2五玉図≫からこの≪風3一金図≫までの手順が絶対とは言い切れないからである。
 我々は、この道を先に進めるために、いくつもの“気になる手”を脇に置いて歩を進めたのである。それら“脇道の手”を全て検証しないと、「確定」はできない。


 以下、ここまでの道程の途中の“気になる手”を見ておこう。



【気になる手 其の一、1四歩】

 今まで進めてきた手順を『風の本筋』と呼ぶことにする。

≪風1七玉図≫
 これは『風の本筋』の手順中の、先手9一竜から、3四桂、1七玉と進んだところ。
 『風の本筋』では、ここで後手「3八金」としてきた。(そこで先手が「3一金」と指したのである。)

変化h図1(1四歩)
 その3八金に換えて、「1四歩」としたのがこの「変化h図1」だ。これが“気になる手”の1番目。
 この手は、“端玉には端歩を突け”で、終盤のセオリー通りの手であるが、この場合単に攻めだけの意味ではない。含みの多い、かっこいい手なのだ。この端歩を突くことで、先手のねらいの「3一金」を封じているのである!
 ここから先手が3一金打と打つと――、同銀、同竜、3二金で――

先手失敗図
 この場合はこれで受かっているのだ。先ほどの場合は、ここで3三角成で先手が勝っていた。ところがこの場合は、3三角成を同金右と取って、それで「後手良し」だ。先ほどの場合はその時に2二銀、同金、同竜、同玉、3一銀から“詰み”があったからだが、この場合は3一銀に“1三玉”として、玉に脱出されてしまう。
 したがって、3二金打には、5一竜という手になるが、それでは先手勝てない。
 また、この後手3二金打のかわりに、5五歩でも、後手良しとなる。先のケースでは決め手となった「1五角」がこの場合は打てないからである。
 1四歩の意味がわかっていただけたかと思う。“攻防の手”なのだ。

 さて、それで、「変化h図1」は、では、どちらが指しやすいのだろうか。
 少し進めてみよう。
 後手の1四歩に、「3九香、1五歩、同歩、1六歩、同玉」。

変化h図2
 「激指」の評価値は、考慮時間10分で「+264 互角」である。
 この図は先手が指しやすいのではないかと我々探検隊は判断している。ここで後手にぴったりした手が見当たらない。
 3八歩は5一飛と打たれて後手受けに困る。だからここでは3一歩が有力ではあるが、先手2五銀で先手が良さそうだ。4四歩と角の利きを止める手は、6五角、3一歩、4一桂成で先手調子が良い。
 ここでは後手2四金以下を調べてみよう。
 2四金、1七玉、3一歩、5一飛、4九と、3四香、同金、1六銀、1三香打、1四桂。

変化h図3
 1四同香、同歩、3九と、同角、3八金、6六角、2五桂、1八玉、1四香、1五歩、1七歩、同桂、同桂成、同玉、2五桂、1八玉、1五香、同銀、3七銀不成、2九香。
 手順中、後手の3七銀不成の“不成”は、先手の2六銀の受けをなくした意味がある。

変化h図4
 ここまで進めて、後手の攻めの“息切れ”が見えてきたと思う。先手勝勢だ。
 放っておけば後手玉には1二歩、同玉、1三歩の寄せがある。同銀に、3一飛成で受けなしだ。(かといって後手1二歩の受けは1四桂だし、1筋の歩は攻めに使いたいのに…)
 その攻めを受けて3二金くらいだが、先手の4一角が決め手になる。対して4二金なら、1四香、1三歩、2三角成、同銀、2二銀、同銀、同角成で先手勝ち。

 図以下、3二金、4一角に、1六歩とすると、1四香から後手玉は詰む。以下その詰みを見ておこう。1四香の後は、1三桂に、2一金(次の図)だ。

変化h図5
 この2一金を1二玉は、2二金、同銀、1三香成以下の詰み。
 2一金に、同玉以下は、3二角成、同玉、4一飛成、2一玉、1一金(次の図)。

変化h図6
 1一同玉、3一竜、同銀、同竜、2一合、1二歩、同玉、1三香成、同玉、1四歩、1二玉、1三銀、1一玉、2二銀成、同銀、同角成まで。



【気になる手 其の二、3三銀直】

変化i図1(3三銀直)
 『風の本筋』では、先手6六角に「5九と」を本筋として進めてきたが、換えて「3三銀直」が“気になる手 其の二”である。
 この手には3四歩と打ちたい。3四歩、4四銀、6二飛、5二歩、4一桂成、同金、同竜、5九と、5二飛成、3二桂。

変化i図2
 先手良さそうに見えるが、ここで“良い手”がなかなか見つからない。
 「激指」は4三竜右を推薦しているのだが、我々はその後の変化に自信が持てなかった。それでもやはり4三竜右以外の手はだめだったので、これしかないようだ。
 4三竜右は、次に4四竜、同桂、2二竜、同玉、4四角の狙いがあるが、後手は3五銀引として、その狙いは実現しない。
 4三竜右、3五銀引、1七玉、2五桂、1八玉、3七金、2八金、同金、同玉、3六銀。
 
変化i図3
 我々は、この局面では3八金、4七金、4八金打の“千日手”が最善ではないかと当初は考えていた。“千日手”になるのが不満でこの変化に進みたくないと考えていたのだ。
 しかしここは3八金ではなく、別の受けで“先手の勝ち”が確定する場面だったと後でわかった。

変化i図4
 正解手は「4八金」。 これなら、はっきり先手の勝ちになるのである。4八金と、玉から離して打つのが正しい受けなのだ。これを取られてもそれが“王手”にならないように。
 4八金に、4七金なら、攻める。 4四角だ! これを同桂なら、2二竜から簡単に詰む。4四角で、後手玉は受けなしだった。


【気になる手 其の三、6五歩】

≪風1七玉図≫(再掲)
 3つ目の“気になる手”は、この図での「6五歩」だ。
 『風の本筋』の後手「3八金」に変えて、ここで6五歩とする手が“気になる”。

変化j図1
 この「6五歩」に、7七角は、3九への角の利きがなくなって、すると上『風の本筋』で解説したような先手の攻めは成り立たなくなってしまう。「6六」の角の位置はベストポジションなのだ。かといって、ここで3三角成では勝てない。
 というわけで、この6五歩に対しては6一飛、3一歩、6五飛成とするしかないようだ。
 6五飛成に、後手5五金。(次の図)

変化j図2
 これはどっちが良いのか、まったくわかっていない。 ここはとにかく、あまりに変化が広く、これ以上は調査不能としたいところ。
 一応、先手が有利になりそうな筋をみつけたのでそれを2つ以下に示しておく。

 先手の有力な手としては、(カ)5五同角、同銀、3九香か。
 その後は、4六角、2八銀、4九と、3四香、同銀、3七歩、5三金、2六歩が予想される。(次の図)

変化j図3
 こうなると「先手良し」ではないかと思われる。
 3八金、4二金、2八金(これを同玉は3五桂で先手苦戦だが)、3二角となって――

変化j図4
 これは先手勝勢。 3二同歩は、2一竜、同玉、6一竜、3一合、3三桂、同歩、3二金打以下詰み。


 「変化j図2」(5五金)の図から、(キ)5五同角、同銀、同竜もあるか。
 そこで4六角なら、同竜、同金、2八銀で、先手が指しやすそう。
 5五同竜に、3八金、5九竜、3九角と進むとどうなるか。(次の図)

変化j図5
 3九同竜、同金、2八金、4九飛、1八銀、1四歩、2六歩、9九飛成、3七金打。

変化j図6
 先手が良さそうに見える。


 さて、実は、次の“気になる手 其の四”の変化が、「問題の変化」だ。これの調査の結末が全体のながれにより重要な結果をもたらすこととなりそうな気配がある。

 これまで、≪風2五玉図≫からの後手の指し手として「4八と」が最有力ということで、それを調べてきた。「4八と」以外の手は、すべて「先手優勢」となっている。
 そして残されたこの「4八と」以下の道も、これまでのところ一応は今回のレポートにある通り「先手優勢」の一色で染まりつつある。

 ところが、それを「後手有利」にくつがえしそうな手が、ここに来て新たに発見されたのである!
 それが次の“気になる手 其の四”の手だ。


【気になる手 其の四、5五歩からの5三金】

変化k図1
 『風の本筋』の「6六角」に、『本筋』では「5九と」を検討してきたが、ここでは「5五歩」とする。
 この手は、4八金、同金、同角、3八金、7五角となって、それは先手が指しやすいのではないかということで、それ以上は深くは踏み込まなかった変化である。
 しかしここに、「4八金、同金、同角」の後、「5三金」という手が、後手の有力手として浮上してきたのだ。


 これがその局面。
 さて、ここで先手はどう指すのが良いのだろうか。
 4二銀という手が見える。他には、3三歩や、4二金、7五角、4五金など、色々な手があって、どれが最善かわからない。


 ≪亜空間要塞≫をとりあえず爆破したのだけれど、まだ中の“怪人”がわらわらと襲いかかってきて、その退治の仕事に追われている、そんな状況だ。この残党の“怪人”たちをすべて片づけて、そこでやっと(“風”の道の)「先手優勢」が確立する。


 さあ、第4の怪人との闘い(=“気になる手 其の四”の変化)はどうなるだろうか。


       次回、part8に続く。
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終盤探検隊 part6 ≪亜空間の旅≫

2014年11月25日 | しょうぎ
 ≪風3一歩図≫

 我々終盤探検隊(隊員は一名)は≪亜空間≫を探索中である。“花鳥風月”の4つの道のうち、“風”の道を進んでいる。


≪風2五玉図≫
 この図の先手の「2五玉」に対し、後手の手番で――

  [ま]3三金(→3四歩で先手優勢)
  [み]3三銀直(→3四歩で先手優勢)
  [む]4八と(→3一銀で先手優勢)
  [め]5八と(→3一銀で先手優勢)
  [も]5三金(→3一銀で先手優勢)
  [や]3一歩

ということで、今、最後の[や]3一歩を調査中だ。

 [や]3一歩に対して 
  〔a〕5一竜
  〔b〕3四歩
  〔c〕2六玉
を考えていく。結局、〔c〕2六玉が有力で、〔a〕と〔b〕は先手うまくいかない。
 まずそれを確認する。

5一竜変化図1
 〔a〕5一竜。 これには5三金と後手はこの桂馬を取る。(3三金は先手有望と思われる)
 5三同竜に、5八と、同金、同金、4五金、4四桂、4六金、3三桂。
 後手に「金桂桂」と持たれると先手は大変だ。

5一竜変化図2
 以下、2六玉、3四桂、1七玉、2五桂、1八玉、4六桂となって、これは後手の快勝となった。「3一歩」と先に打った形が心強く、三枚の桂馬が躍動する後手にとって最高の展開となった。

3四歩変化図1
 〔b〕3四歩と、ここに歩を置いておくのはどうか。この歩は攻防に役立てる歩だ。
 3四歩、4八と、5一飛(この手で6八金は5三金~4四金として後手優勢)、5九と、2六玉、3五金、1七玉、2五桂、1八玉、3八金、6六角、5五歩。 

3四歩変化図2
 この後、先手は有効な攻め手がない。だからといって9一竜では、後手からは3六金から3七銀成という着実に迫る手があって、先手勝てない将棋だ。


≪風2六玉図≫
 よって、先手は〔c〕2六玉が最善と思われるのである。 玉は2五の位置では危ない。
 
 さあ、そこで後手の手番。後手、どう指すか。ここが問題である。

  [ら]3三金
  [り]5三金
  [る]4八と
  [れ]5八と

 有力候補はこの4つか。本命は[る]4八とだが、まずは[ら]3三金、[り]5三金を見ていこう。


[ら]3三金

3三金図
 [ら]3三金。 このタイミングでの3三金はどうなるだろうか。
 3三金には4二銀とする。このまま3一銀不成となれば先手の勝ちだ。
 後手は3四金。対して先手は、3一銀成。


 ここは「不成」ではなく、「成」がよい。 3一銀不成だと、次に2二銀成、同玉となった時、3三が開いているので、ここから脱出される心配をしなければならない。3一銀成だと、次に3二成銀とする手があるので、確実に迫れる。
 なお、図の3一銀成の手で3三歩は、2五桂、3六金、3三銀直と応じられて先手不利になる。

 図以下、2五桂、4四角。


 4四角が華麗な“詰めろ逃れの詰めろ”で先手勝ち。
 この角を同金は、2一成銀、同銀、同竜、同玉、3二銀、同玉、4一角からの詰み。
 同歩も詰み。2一でバラして、今度は4一飛と打ち、3一銀に、2二銀、同玉、1一角以下だ。
 


 [り]5三金

5三金図
 次は「5三金」。 この手は有力。桂馬を二枚手にすることで、後手の攻めが多彩になるし、次に4四金と金の応援も利く。
 さあ、どうだろうか。先手はこれに勝てるか。

5三金に3三歩の図
 この「3三歩」が鋭い先手の返し技。
 こうした変化の時に、3三同桂とした手が先手玉に当たらないように先に2六玉とした意味もあるのである。

 以下、後手の応手として、(e)3三同銀左、(f)3三同銀直、(g)3四桂がある。


5三金変化図e1
 (e)3三同銀左の変化
 3三同銀左なら、先手は3一竜。これで次に3二の銀がタダ取りできる。
 後手は2五桂と勝負手。 先手は1五歩。 4四金、2五玉、1四歩、3二竜、3五金、1六玉。 そこで後手は2五桂としばってきた。

5三金変化図e2
 しかしこの2四角で受かっている。


5三金変化図f1
 (f)3三同銀直の変化。
 3三同銀直には、3二歩とする。次の3一歩成が間に合うかという勝負となる。
 のんびりとはできない後手は2五桂。これを先手同玉は、2四銀、2六玉、2五桂でこれは少し先手苦しい。後手は桂馬を二枚持つとこのような攻めがあるのだ。

5三金変化図f2
 先手は1五歩。
 ここから2つの手を考える。(ア)3四銀と(イ)4四金だ。
 (ア)3四銀は、次に3五銀引、1六玉、2四桂という“詰み”が狙いだ。

5三金変化図f3
 その狙いを看破して、2四銀。 “敵の打ちたいところに打て”だ。
 2四同歩に、3一歩成。ついにこの歩成が間に合った。以下、3一同銀に、3三角、2二銀打、3一竜、3三銀、3二金。先手勝ち。後手に銀や角を渡しても先手玉が詰まないことを見切った指し方で着地を決めた。

5三金変化図f4
 (イ)4四金を解説する。
 このままだと3五金から詰まされるので、ここで2五玉と桂馬を取る。以下、3五金、1六玉、1四歩、3一歩成、1五歩、1七玉、1六歩、1八玉、3一銀、1三歩。

5三金変化図f5
 この1三歩を同香とさせることで、3一竜のときに後手玉が“詰めろ”の形になる。ここでの1三歩があるので、この変化も「先手勝ち」なのである。
 1三同香、3一竜に、1七歩成、同桂、1六歩。 そこで、1二歩、同玉、2二金とする。

5三金変化図f6
 2二同銀、2四桂、同歩、2三銀、同玉、4一角以下“詰み”。
 (この2二金では、かえて2四桂でも詰む。そのほうがわかりやすいか。)


5三金変化図g1
 (g)3四桂の変化。
 「3四桂」と攻めた場合。1七玉に、3三桂とする。3一歩の底歩を打っているからこの手が可能になる。この桂馬を攻めに使うつもり。三枚の桂馬の攻めだ。
 5一飛、2五桂、1八玉、2一銀。 どっちが攻め勝つのだろうか。

5三金変化図g2
 さあ、後手2一銀に、ここで先手はどうする?

5三金変化図g3
 「3二銀」が正解だ。これは2一銀成、同玉、3一飛成、同銀、2二銀、同玉、1一角以下の“詰めろ”。
 そこで後手はこれを3二同銀と取るが、以下、ちょっと長いが、3一飛成、2一桂、3二竜、3一歩、3四竜、1七銀、同桂、同桂成、同玉、4四金、2五竜、3三桂打、6五竜、6四歩、8五竜、8四歩となって次の図になる。 

5三金変化図g4
 この8四歩を同竜引と取るのがよい。後手の2五桂の攻めをすんなりとは許したくないので、五段目の竜の位置は確保しておきたい。
 図以下、8四同竜引、3五金、8二竜、2五桂、1八玉、1四歩(先手の狙いの1五桂の防ぎの意味)、2四銀。
 
5三金変化図g5
 これで「先手勝ち」となった。2四同歩は、もちろん2三桂だ。(このままでも2二竜、同玉、8二竜以下の詰みがあし、単に2三銀成でも勝てるだろう。)


5三金変化図g6
 後手2五桂の手のかわりに、4一桂と受けた場合を考える。一旦受けておいて、ベストなタイミングで2五桂と跳ねるつもりだ。
 さあ、ここでの攻めの「次の一手」は?

5三金変化図g7
 「4二金」が正解。これ以外の手では我々の調査では先手の勝ちの道筋はみつからなかったのである。4二歩では勝てないのだ。4二銀でもダメだ。「金」ならば、3二~2二と横に動きつつ攻めていけるわけだ。
 4二金に、2五桂、1八玉、3七銀成、3二金、3八金。
 3八金は“詰めろ”だ。

5三金変化図g8
 2二金、同玉、5五角、4四金打、3七桂。
 5五角に、4四金は、同角、同歩、3二金以下の詰み。5五角に4四歩も、3三銀、同玉、5三飛成以下の詰みがある。
 そこで後手は「4四金打」だ。 

5三金変化図g9
 3七同桂成、同角、同金、4二銀。

5三金変化図g10
 これで先手勝ちがはっきりした。先手玉は詰まない。

 以上、先手の2五玉(風2五玉図)から[り]5三金は手強かったが、先手が勝ちになった。
 [ら]3三金も[り]5三金も先手勝ち。 
 ということで次の課題[る]4八とに我々終盤探検隊の興味は移行したのである。


[る]4八と

4八と図

 ここで先手の手番だが、どう指すか。それがむつかしいのだ。
 9一竜では、5九とで勝てない。 6八金と逃げるのも、3八とで、次に2九と~1九ととされるとやはり先手が苦しい。

 ということで、ここでは「6六角」が唯一の先手の手段と思われる。


6六角図

 この「6六角」は“攻防両用”の意味がある。
 敵陣をにらむとともに、たとえば6六角に後手が5五歩ならば、4八金、同金、同角という受けの狙いもあるのだ。そこで3八金なら、どうやらその変化は先手がやれそうだ。
 4八金の瞬間に、6五歩という手があって複雑になるが、それも4七金で先手良しと出た。

 そうするとここから調査すべきは、この「6六角図」から、後手が「5九と」でどうなるかだろう。

 それには、3一竜と行く。
 以下、3三銀直、9一竜、3四桂、1七玉、3八金、3一金の進行が我々の研究だ。
 途中、3八金のところで3一歩は、3五歩、同銀、3九香で、これも今のところ(きわどいが)先手良しと出ている。

3一金図  
 我々はこの図の「3一金」の好手を発見した。これで先手優勢に導けるのでは、という感触を得ている。


  
 次回はこの図の研究探査報告をするつもりだ。 隊員に疲労の色が出てきている。だがそれは冒険にはつきもので仕方のないことである。


        Part7に続く




[補足]  ≪亜空間≫とは

 ≪亜空間≫とは、11月5日の将棋倉敷藤花戦三番勝負の第1局「甲斐智美-山田久美戦」の94手目、3五飛成を「3四飛成」とした架空の場面から始まる“世界”に付けた呼称である。 94手目3四飛成、同玉、以下「4二金、2五玉」と進めたところを今回の記事では研究している。この「4二金」からの変化には“風”の道と名付けた。

         棋譜・中継ブログは、こちら倉敷藤花戦三番勝負の中継サイトで。

 倉敷藤花戦三番勝負は11月23日、第3局を甲斐智美さんが勝ち、2勝1敗で「倉敷藤花位」を防衛されました。
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終盤探検隊 part5 ≪亜空間の旅≫

2014年11月23日 | しょうぎ
≪風2五玉図≫


 11月5日の倉敷藤花戦三番勝負の第1局「甲斐智美-山田久美戦」の94手目、3五飛成を「3四飛成」とし、以下「同玉、4二金、2五玉」と進めたところ。
         棋譜・中継ブログは、こちら倉敷藤花戦三番勝負の中継サイトで。


3四飛成の図
 我ら終盤探検隊は「3四飛成、同玉」からはじまるこの変化の探査を≪亜空間の旅≫と呼び、その中の4つの道を花・鳥・風・月と名付けた。これまでの探査の結果、花・鳥の道は「先手優勢」が確定、現在は“風”(4二金)の道を調査中である。

 4二金に5一飛の変化は、3三金で「後手優勢」と前回のpart4の報告で結論が出た。
 そこで今回レポートは、4二金に「2五玉」(上の≪風2五玉図≫)がどうなるか、それがテーマとなる。

≪3三金図≫
 この図は、4二金、2五玉に、3三金と後手が金を上がってきたところである。


3三金検討図1
 そこで3四歩! この手が、先手のねらいであった。そのために2五玉と前もって一歩身を引いたのである。
 後手の3三金は攻めのねらいがあるが、すぐに2四金と出るのは自玉が弱体化するので、都合の良いタイミングで2四金と出たいところなのだ。先手の3四歩は、それを許さず、“今すぐ2四金と出てこいや!”という手なのである。
 3四歩には、当然後手は2四金だろう。(2四歩の変化は後で)
 2四金、2六玉。

3三金検討図2
 先手は2六玉と、いったんは後手に手を渡すが、こうして2四金と金を前に出させて、後手玉をうすくして攻め合いをねらうという方針である。

 さて、ここから4つの手が考えられる。
 〔な〕3五金、〔に〕2五桂、〔ぬ〕3四金、〔ね〕3一歩
 この4つを順に見ていこう。


 まず、〔な〕3五金から。

3三金検討図3
 3五金、1七玉、2五桂、1八玉、3八金、3三歩成となって、この図。
 3三同銀直は、3二角、3一歩、5一飛。 3三同銀左は、3一金で、“受けなし”。
 先手勝ち。

3三金検討図4
 〔に〕2五桂はどうだろうか。これは“詰めろ”だから3六金とそれを受ける。
 以下、5六とに、6三角。 後手のこの5六とは、4六銀を支えて、次に3七金、同桂、同桂成をねらう意味である。

3三金検討図5
 3七金、同桂、同桂成、3一銀。

3三金検討図6
 後手玉に“詰めろ”がかかった。先手優勢。

3三金検討図7
 〔ぬ〕3四金には、3三歩(図)。 3三同銀左はやはり3一金がある。
 だから後手は3三同金とするが…

3三金検討図8
 3一銀で先手勝ち。

3三金検討図9
 〔ね〕3一歩と受けるとどうなるか。

3三金検討図10
 これには3三銀と打ち込む手があった。これで先手が勝てる。
 3三同銀直、同歩成、同銀、3二銀。

3三金検討図11
 図以下、2二銀には、4一竜で、後手玉は“必至”。(3二歩に、2一竜、同玉、3三桂以下の詰みがある)

3三金検討図12
 さて、戻って、先手の3四歩に、(2四金にかえて)2四歩の変化を考えよう。
 2四歩、2六玉、で、その次に、「2三金」と「3四金」と2通りあるが、「2三金」は4二金で先手勝てる。
 「3四金」も、先手勝ち。勝ち方は一通りではないが、一例として、4二金とする攻め方を紹介しておこう。
 図から2六玉、3四金、4二金、3一歩、3二金、同歩、5一飛、3一桂、2三銀(次の図)。

3三金検討図13
 2五歩、1七玉、2三銀、3三角。

3三金検討図14
 この3三角を取ると詰む。 図以下、2二金合に、3一飛成で“必至”。


 以上の調査により、後手の「3三金」には「3四歩」で“先手勝ち”となる、ことが確定した。

 


≪風5二玉図≫
 この図で、「3三金」と出ると負けになるということで、後手は別の手段を見つけなければならなくなった。「3三金」とせずに、他に勝つ手段があるだろうか。

 ≪風5二玉図≫では、次の手が候補手として考えられる。

  [ま]3三金(→先手勝ちが確定)
  [み]3三銀直
  [む]4八と
  [め]5八と
  [も]5三金
  [や]3一歩

 これらの手を調べていく。

[み] 3三銀直

3三銀直図
 金がダメなら、銀はどうだろう? ということで、3三銀直としてみる。
 これにも3四歩としてみよう。以下、2四銀、2六玉、2五桂、3六金。

3三銀直検討図1
 3六金では4五金もあるようだ。ただしこの手に変えて3六銀だと、3七桂成、同桂、同金が銀取りになってこれは先手大変。
 ここで(a)5三金と(b)3一歩が有力なのでこの変化を調べる。

 まず(a)5三金だが、これは後手1四桂の一手詰めがある。これを防ぐには1五歩が考えられるが、この場合は4四金で後手良しになる。
 そこで5三金には、2五金と桂馬を取る。2五同銀に、1七玉。
 後手は3六銀。これは“詰めろ”。

3三銀直検討図2
 先手玉には後手2五桂、1八玉、2七銀成、同玉、3七金以下の“詰めろ”がかかっている。 
 そこで先手は、“敵の打ちたいところに打て”で、2五桂と先に打つ。これは逆に後手玉への“詰めろ”だ。
 これを同銀なら、3二銀で先手勝ち。よって、後手は3一歩と受ける。
 先手は4二飛(詰めろ)。 後手3二金。

3三銀直検討図3
 これには3二同飛成と切って、4二角(詰めろ)とする。以下、2五銀と桂馬を取って“詰めろ”をはずすくらいだが、3一銀として、“受けなし”。 先手勝ちが決まった。

3三銀直検討図4
 後手(b)3一歩の場合。 7七角(詰めろ)、5五歩、6二飛、3二金(5五に歩を使ったので5二歩は打てない)、4一桂成。
 先手優勢だが、ここから後手は猛攻をしてくるだろう。3七銀不成、同桂、同桂成、同金、同金、同玉、2五桂、2八玉、4七と、5五角(詰めろ)、3七桂成(同角なら3八金の狙い)、1七玉、4四金。

3三銀直検討図5
 この4四金を打たないと、2二角成、同金、同飛成、同玉、3二金以下の“詰み”があった。
 図以下、7三角成(7七角でも先手良し)、4五金、2九桂、3六金、2八銀、1四歩、6六角、1五歩、同歩、と進むと次の図となる。

3三銀直検討図6
 1五同歩としたこの図は、後手玉が2二角成以下の“詰めろ”になっている。後手が1五銀とすると、その後手玉の詰みは一瞬なくなるが、1三歩という手があって、これを同香はやはり後手玉が詰むので1五銀の端攻めは大丈夫だ。
 他に後手の受けとしては4四歩、同角、4二歩という手段があるが、5五馬とすれば、また後手玉は“詰めろ”になっている。
 先手勝ち。


 このように、[み]3三銀直も、「3四歩」で、先手が勝てる。




[む] 4八と


風4八と図
 後手は3三金と出来ないのなら、戦力不足にならないよう「4八と」という手が考えられる。(ここ5八ととどちらがよいか迷うところだ。)
 この4八とには、(a)6九金、(b)4八同金、(c)3一銀が考えられる。

4八と検討図1
 4八とに(a)6九金の変化。
 上の「風4八と図」から、6九金、3一歩、5一飛、3八と、6六角、5五歩、4八歩、3七金、同桂、同と、1五歩、3三金、3八歩、1四歩、2六玉、3四桂、1七玉、2五桂、1八玉、3八と、3九と、5八角、2四歩、4二銀、1五歩、と進んでこの図である。
 長手数を進めたが、つまり先手は「金」を取らせないで後手の攻めを遅らせようと頑張ったが、結局はこの図のように、後手の攻めは先手に届いてしまったのである。図からの後手の攻めは1六歩から歩を伸ばしていく単純な攻めだが、これを先手はもう防げない。

 これで(a)6九金は先手不利になるとわかった。


4八と検討図2
 4八とに(b)4八同金の変化。
 「風4八と図」から、4八同金、同金、2六玉、3五金、1七玉、2五桂、1八玉、3八金、6六角、5五歩、3一角、と進んでこの「4八と検討図2」となる。
 先手は3八金と後手の駒に迫られている。6六角は3九への受けに利かせた意味がある。しかし次に後手には3七銀成という攻めがあって、先手困っている。
 図の「3一角」は、“勝負手”だ。(これを3一銀だと、銀を後手に渡すと1七桂成から詰むのですぐに負けてしまう。) 3一角に同銀、同竜の時に、3九角と打たれる筋を、先に打っておいた先手の6六角が防いでいるので、角なら渡してもまだ先手玉は詰まないのだ。

 図以下、同銀、同竜、2二角、4二竜、3七銀成、同桂、同桂成、3九金、同金、同角、2六桂。

4八と検討図3
 1七玉、3六金、2八銀、同成桂、同角、3八桂成、2六金、同金、同玉、3一金、3四桂、2八成桂。

4八と検討図4
 こんな感じで、後手優勢。



4八と検討図5
 最後に、4八とに(c)3一銀の変化。(a)6九金も(b)4八同金も先手負けになった。しかしこの(c)3一銀で、「先手良し」になるのである。
 後手が図から3一同銀、同竜、3三銀打とした場合。以下、5一飛(詰めろ)、2二桂、2一飛成、同銀、3一金。 

4八と検討図6
 先手勝ち。

4八と検討図7
 そこで後手としては、3一銀には、3一同銀、同竜、2二銀、4二竜、3一歩(図)が一番粘りのある対応だ。
 ここで先手はどう指すか。金(4二)をぼろっと取れたので先手がもう勝ったようなつもりでいると、案外苦戦してここから逆転されることになってしまう。
 この場面での最善手はたぶん――

4八と検討図8
 金を逃げておくこの手だと思われる。 6八金(6九でもよい)。
 6八金以下も見ておこう。
 3三銀直、8二竜、3四桂、4一桂成、3八と、5三角。

4八と検討図9
 これで先手勝勢だ。

  [む]4八とは、3一銀で先手勝ち、が結論である。


[め] 5八と

5八と図
 [め]5八とはどうだろうか。やはりこれにも3一銀が有力だが、この場合は金を逃げる手が利かないので、それがどう影響してくるか。
 図から、3一同銀、同竜、2二銀、4二竜、3一歩。 そこで先手は5八金。

5八と検討図1
 ここで5八金とと金を払って、敵の金をそっぽに行かせるのが正解だ。以下、同金に、2六玉。

5八と検討図2
 ここから(a)3五金と、(b)3三銀直を見ておく。
 (a)3五金、1七玉、2五桂、1八玉、3七桂成、同桂、同銀成、3八歩、同成銀、5五角(詰めろ)、4四桂、3九歩、同成銀、1七角。

5八と検討図3
 これは先手勝勢。4五金なら、3四桂としてこれが“詰めろ”である。
 この変化は途中で「5五角」が“詰めろ”になって打てたが、その前に後手がどこかで3三銀直をすれば、先手8二竜となり、その場合だと少し先手の指し方が変わる。

5八と検討図4
 3三銀型なら、3四歩と叩くのが良い。同金とさせて先手玉への圧力を軽くし、4一桂成、3五桂、6四角という感じでやはり先手の勝勢である。後手の5八金がなかなか戦いに参加できていないのがこの図でわかるだろう。

5八と検討図5
 「5八と検討図2」から、(b)3三銀直、8二竜、3四桂とするのは、1七玉、4八金、5一飛、3八金、3二金(図)で先手勝ち。そっぽに行った5八の金を4八~3八と使ってみたが、やはり間に合わなかった。



[も] 5三金

5三金図
 次はこの手「5三金」である。
 先手が5一飛と打たず、2五玉と指したのだから、「それなら桂馬をいただきます」と、5三金はやってみたい手ではある。しかし自玉から離れる感じもあるが…
 我々探検隊が調べた感触では、見た目よりずっと有力な手だと感じた。この瞬間、桂馬を二枚持駒にしているので、先手にとってはかなりの脅威になるのだ。


5三金検討図1
 5三金には、やはり3一銀と攻めてみたい。
 同銀、同竜、2二銀、3二竜、3一歩、4二竜、4八と、7七角、5五歩、6二飛、3二桂、5三竜、5九と。

5三金検討図2
 ここで“3四玉”が最善手のようである。つまり“入玉ねらい”だ。この玉はもともと「3四」にいて「2五」に引いたものだ。それをまた「3四」の出ていくという面白い展開。
 攻めて勝てればそれに越したことはないが、どうもそれはいばらの道になるようで、だからここは“入玉”がベストな選択。
 3四玉、3三金、4五玉、6一歩となって、次の図。

5三金検討図3
 図の6一歩で、4四金は、先手の望むところで、同竜、同歩、5四玉が予定だ。
 そこをひねって、後手は6一歩だが、これは6一同飛成なら、4二桂、また6四飛成や8二飛成なら6二桂と打って先手の“入玉”を食い止めようという手。
 だから、先手は6一歩に、5四玉として、6二歩、同竜と、飛車を取らせて“入玉”をしていくのが良いようだ。

 思った以上に先手苦戦するが、[も]5三金も3一銀で「先手良し」。



 ということで、これまで報告した我々の調査結果をまとめるとこうなる。 

 ≪風2五玉図≫から後手の手番で――

  [ま]3三金(→3四歩で先手優勢)
  [み]3三銀直(→3四歩で先手優勢)
  [む]4八と(→3一銀で先手優勢)
  [め]5八と(→3一銀で先手優勢)
  [も]5三金(→3一銀で先手優勢)
  [ら]3一歩


 つまり先手の「2五玉」に対し、今のところすべて「先手優勢」という結果である。


[や]3一歩
 
3一歩図
 さあ、しかしもう一つ残っている。[や]3一歩(図)である。
 これはどういう結末になるのだろう。


       part6に続く(と思う)。





 
 追記:
 山田久美さんが、昨日11月22日、倉敷藤花戦三番勝負第2局で、相居飛車の闘いを制し勝利されました。
 おめでとうございます。タイトル戦4局目での初勝利、嬉しいことでしょうね。
 3か月前、僕は山田さんの将棋の記事をたまたま書いたのですが、しかしその時には彼女がタイトル戦に再び出るなんて想像もできませんでした。
      『矢倉vs雁木 山田久美の二手損雁木戦法
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終盤探検隊 part4 ≪亜空間の旅≫

2014年11月21日 | しょうぎ
≪亜空間、風の基本図≫

 11月5日の倉敷藤花戦三番勝負の第1局「甲斐智美-山田久美戦」の94手目、3五飛成を「3四飛成」とし、以下「同玉、4二金」と進めたところ。
         棋譜・中継ブログは、こちら倉敷藤花戦三番勝負の中継サイトで。


 我が終盤探検隊は「3四飛成」の変化を≪亜空間≫と名付け、さらにこの「後手4二金」の変化を“風”の道と呼んでいる。
 ここから以下のように進んで――

 5一飛、3三金、1四歩、2四金、1六玉、1五歩、1七玉、1六歩、2八玉、

風図4
 こうなったとき、後手の3六歩、3八歩、3七歩成という「歩」の攻めで後手が勝てる局面と我々は思っていたのだが、さらなる調査によってその結論はひっくり返された。

 3六歩、3八歩、3七歩成、同歩、3六歩、同歩、3七歩、1三歩、3八歩成、1八玉、1三香、1二歩、同玉、1四歩、

風図5
 ここまでは前回part4でも報告したし、『次の一手 問14』の解答編でも「追記」として記しておいた。
       『次の一手 問14
       『次の一手 問14 答えあわせ [追記と訂正あり]

 まず今回の探検レポートはこの図の補足説明から入ろうと思う。

 ここで3七銀成では同桂、同金のときに、2一飛成以下、「銀」を一枚渡したために後手玉は詰む。
 だから金や銀を後手は先手に渡さずに迫る必要があるのだが、だからこそ、後手は「と金」を作って攻めていたのだ。ところが、“金銀を渡さなくてもそれでも詰む”場合も条件によってある。次のケースがそれなのだ。(「次の一手」を出題した者としては、まさか駒を渡さなくても後手が詰んでいるケースがここに隠されているとは思わなかった)

 この図で1四同香は、その瞬間、後手玉に“詰み”が生まれる(!)のだ。
 1四同香の瞬間に、「1三」に空間ができるのがその“詰み”のカラクリだ。
 1四同香、2一飛成、同銀、同飛成、同玉、1三桂。
風図6
 この桂馬が打てるので、詰む。
 1三同銀、3二金、同玉、3三銀、2一玉、3一角成以下。


 そういうわけで、1四同香の手はない。
 そうすると、後手が勝つためには、2九とでどうか、という期待がかかる。(後手玉は放っておけば詰みはまだない。)
 この2九とは“詰めろ”である。2八と、同玉、3七銀成、1八玉、2六桂打以下の詰みだ。
 対して先手は、1三歩成、同玉として、それから2九玉とする。

風図7
 この局面で、後手はどう指すか。3七銀成(不成)よりも、3七歩のほうがよさそうだ。(安全のため銀の利きを3五に残しておきたい)
 しかし、3七歩には、1六香がある。1六香、1五歩、同香、1四歩に、3一飛成。
風図8
 ここでこの3一飛成という好手があるので、それで結論は「先手勝ち」となるのである!
 3一飛成を同銀は、同角成が“王手”で、そこで飛車しか合駒のない後手は負ける。
 だから、3一飛成には、1五歩、2二竜、1四玉と玉を逃げる。しかし、以下、1三金、同桂、同竜、同玉、2二銀、1四玉、2四角成、
風図9
 2四同玉、3五金、同銀、1三角、1四玉、2五銀、同玉、3五角成、1六玉、1七銀、2七玉、2八香までの“詰み”。
 ギリギリの攻防を制し、「先手の勝ち」となった。これはどうやら確定だ。


 さて、するとこの≪亜空間、風の基本図≫から4二金、5一飛、3三金というながれは“先手良し”なのか?

 いやいや、その結論を出すのは早計すぎる。

 実は、後手の「2四金」がこの場合は“敗着”になったのである。戻って――

風課題図A
 先手の4二角に、ここで2四金と出たのがいけなかった。
 ここは、「2四歩ならば、後手の勝ちになる」と、我が探検隊はこの図での“正解”を突き止めたのであった。

風図A1
 2四歩、1六玉、1五歩、1七玉、1六歩、2八玉、3七銀成。

風図A2
 ここで3七銀成とする手が成立する。
 もしも2四金と出た形ならば、銀を一枚渡した瞬間に2一飛成からの“詰み”が後手に生まれるので「銀」を捨てることは後手はできなかった。ところが、この場合は、「銀」を渡しても2一飛成以下は詰まないのである。だからこの攻めが成立する。(後手はそこを読み切らないといけない)
 つまり2四金と出た形は後手玉が弱体化してたいへんなのだが、3三金のままなら少し堅いのだ。

 3七同桂、3六歩、3八歩、3七歩成、同歩、4八と。 

風図A3
 2九銀と受ければ2五桂がある。 これで後手勝ち。



 さて、このように〔い〕4二角 と先手がここに角を打った場合には、2四歩で後手が勝てるとわかった。後手は3三金と出て、次に2四金と出る手を見せながら、実際には2四歩と行くのである。

風課題図B 
 この図で〔い〕4二角 とするこの変化は「後手優勢」と判明した。 それなら、その〔い〕4二角に変えて、先手にここで他に良い手はないのか――。 それが終盤探検隊の新たなテーマとして浮上してきた。


 〔ろ〕3一角〔は〕6六角〔に〕3五歩、この3つが候補手に挙がった。 (これ以外の手、たとえば9一竜などは、1五歩とされて先手が勝てない)

 以下、調べていこう。


〔ろ〕3一角 の変化

風図B1
 3三金と3二銀という形はいわゆる「逆形」と呼ばれる形で、あまりよくないとされる。というのは、2二や3一への利きがまるでないからである。
 その弱点をねらって攻めるのが「3一角」の意味。同銀、同飛成、2二桂なら、同竜、同玉、3一銀、同玉、5一飛以下、後手玉は詰んでしまう。
 しかし、3一角、同銀、同飛成の瞬間、後手は「角」を手に入れたので、先手玉をこの角を使って詰めてしまえばよい。そしてその“詰み”はあるのだ。

 3一角、同銀、同飛成、2四金、1六玉、1五歩、1七玉、1六歩、1八玉(2八玉は3七角)、1七歩成、同桂、同香成、同玉、1六歩、同玉、2五角

風図B2
 これで詰んでいる。 図以下、1七玉、1六歩、1八玉、2六桂打、同歩、同桂、2七玉、3七金、2六玉、3六金まで。

 よって、〔ろ〕3一角では、「角」を後手に渡してしまうために「後手勝ち」となるとわかった。


〔は〕6六角 の変化

 6六角には、5五歩とするのが良い。(6六角に1五歩は3三角成で先手勝つ)
 他に後手の応手としては3一歩や4四歩もある。4四歩は6五角のような手も気にする必要がある。3一歩は手堅くかなり有力だが、ここでは3一にできるだけ歩を打たない方針で5五歩としてみる。(3筋の歩を攻めに使う味を残しておくために。)

 6六角、5五歩、4二角でどうなるか。


 ところで、6六角に、(先の〔い〕4二角の場合と同じように)2四歩とする手は、今度は後手いけない。
 6六角、2四歩、1六玉、1五歩、1七玉、1六歩、2八玉、3六歩、2一飛成、同銀、2三桂

後手失敗図1
 この2三桂で後手玉が詰んでしまった。2一飛成、同銀、2三桂のこの筋があるのが後手2四歩型の弱点だ。


 だから6六角のこの角の利きは放置できない。そこで後手は5五歩だが、先手が4二角と打って次の図となる。

風図B3
 この図は、正しく指せば「後手勝ち」の局面である。後手にとっての正しい手は3つあり、3一歩、2四金、2四歩である。その3つの内ならどれでも「後手勝ち」への道が用意されている。
 ここでは2四金の道を示しておこう。
 先ほどの単に〔い〕4二角の時には2四金だと後手勝てなかった。しかし、6六角、5五歩の後での2四金だと、「後手勝ち」なのである。そのカラクリの種明かしをすれば、先手が6六角とここに角を一枚使用したために、先手は仮に「銀」を一枚持駒に増やしても、それでも2一飛成から詰ますことができないのだ。
 だから後手はそこを利用して、銀(金)を一枚なら捨てても良い、という考えで攻めることができる。

 2四金、1六玉、1五歩、1七玉、1六歩、2八玉、3七銀成、同桂、3六歩、3八歩、3七歩成、同歩。

風図B4
 というわけで、後手は「銀」を捨てて攻めてきた。これは上でも同じ攻めを紹介したが、この場合は6六の角が受けにも利いている。6六角には受けに使う意味もあったのだ。
 2五桂と攻めたいところだろう。しかしそれは5五角があって、あやしくなる。(次の図)

後手失敗図2
 この5五角が3七を受けながら、攻めにも利いて、これは後手も心臓に悪い展開。というか、後手玉への2二角成からの“詰めろ”でもあり、先手の勝ちに見える。しかし実際には3七桂成、同角となって、形勢不明だ。 これは先手の「6六角」のねらいに後手がまんまとハマったかたち。2五桂はまずかった。

 もっと良い手がある。2五桂ではなく、4六桂と跳ねて“詰めろ”をかける手だ。

風図B5
 これではっきり「後手勝ち」となる。


〔に〕3五歩 の変化

風図B6
 3五歩はどうだろう。3四の後手の桂馬を取ってしまえば、先手の玉の安全地帯も広くなる。

 我々の探査による結論を先に言うと、これには2四金なら、「後手勝ち」。 (2四歩なら、おそらく、逆に先手が勝ちになるのだろうと考えている)

 2四金、1六玉、1五歩、1七玉、1六歩、2八玉、3六歩

風図B7
 3六歩が“詰めろ”で、しかも先手は歩が使えない(二歩だから)ため、受けにくい。
 (詰め手順:3七歩成、1八玉、1七歩成、同桂、2八と、同玉、3七銀不成、1八玉、1七香成、同玉、2五桂、1六玉、2六銀成、同歩、1五歩以下)
 ただし、その“詰めろ”は3四歩として桂馬をはずせば解除できる。
 3四歩以下はどうなるか。

 3四歩、3七歩成、1八玉、3一歩

風図B8
 ここで3一歩と受けておく。(放置すると2一飛成以下詰みだった)
 後手玉も2四金と金が守りから離れた状態なので、この場面はけっこうきわどい。後手の攻めは、次に3八金である。先手から何か好手段があれば先手勝ちになってもおかしくない局面ではある。しかし検討を深めれば、どうやらここは「後手勝ち」の局面である。

 3三歩成、同銀左、1三歩(これを同香は逆転)、3八金、1二歩成、同玉、3九銀(一手をかせぐ犠打)、同金、3一竜、2九金、3二竜、1三玉、3一角、1四玉、1二竜、1三桂打。

風図B9
 これで、後手玉はつかまらない。 この変化はどうやら、後手の勝ちだ。


 一応、2四歩以下の変化も紹介しておく。同じように進めて、次の図となる。
風図B10
 この時に、「2四歩型」と「2四金型」とで違いが出る。 「2四金型」の場合は先手玉が1七歩成、同桂、2八と、同玉、3七銀不成以下の“詰めろ”になっていることは先ほど紹介した。しかしこの「2四歩型」の場合は、2四に金が出てきていないことでこの図は先手玉はまだ“詰めろではない”のである。
 そして、逆に後手玉は、2一飛成、同銀、2三桂以下の“詰めろ”がかかっているのである。

 


 以上のことから、≪亜空間、風の基本図≫から、3三金と出た図は「後手勝ち」、と我々探検隊(隊員は一名)は結論を出した。


風課題図C

 ところで、ここまで我々は、先手が5一飛と指したこの「風課題図C」から後手3三金の変化を研究調査してきた。
 この後手の3三金の手で、他の手はあるだろうか。3三金は最善手なのか。
 それも考えてみたのでその研究報告もしておこう。結論を先に箇条書きするとこうなる。

 (1)4八と → これは3一銀と打たれ、同銀、同飛成、3三金、4五玉以下、「先手良し」となる。
 (2)5六と → これも3一銀と打たれ、同銀、同飛成、3三金、2五玉以下、後手の攻めは届かず、「先手良し」。
 (3)3一歩 → 4五玉と入玉をねらわれる。それを6二桂と防いでも、4八歩があって「先手良し」。
 (4)よって、3三金は必然手と思われる。

以下、(1)(2)(3)について図面を使って簡単に示しておく。


(1)4八と
風図C1
 4八とは指して見たい手だが、先手から3一銀と攻める手がある。
 同銀、同竜が“詰めろ”になっているし、それを2二で受けても、“同竜”と取って詰むのだ。
 そこで後手は3三金と攻め合うことになるが…、
 この図から、3一同銀、同竜、3三金、4五玉、4四金、5六玉、5五金、6七玉。
 
風図C2
 しかし届かない。後手の4八とを咎める形で4五→5六と逃げる道ができた。
 この図から2二銀と受ける手には、4二銀と打って“先手勝ち”だ。


(2)5六と
 では、5六とだとどうなるか。これはと金を引いて使う手だ。
 これには4五に逃げる手はないから、2五→1七と逃げることになる。
 5六と、3一銀、同竜、3三金、2五玉、2四金、2六玉、3五金、1七玉、2二銀、3二竜、3一歩で、図。
 風図C3
 これは3一同竜左と取って、同銀、3三角、2二桂、3一竜で、“先手勝ち”。 飛車を渡しても1七の玉には王手さえもかからない。


(3)3一歩
風図C4
 では3一歩はどうか。先手からの3一銀が厳しいことがわかったので、この3一歩の意味は我々にもよく判る。
 しかし、3一歩には、“4五玉”がある。
 この手は5四玉→6三玉の“入玉ねらい”である。
 それを防ぐため、後手は4五玉に、6二桂とする。(5二歩は、5四玉、5三金、6五玉で先手玉は捕まらない。)
 先手は4八歩。

風図C5
 上の図から、3一歩、4五玉、6二桂、4八歩でこの図。
 そして以下、4四歩、3六玉、4八と、同金、同金、4六玉が予想されるが、これは先手玉が捕まらず“先手優勢”。 先手には豊かな持ち駒があるので、こんなふうに捕まらなくなればそれでそのまま勝ちとなる。


 以上、(1)(2)(3)の結果から、「風課題図C」では、(4)3三金が最善手、という結論となる。

 

風課題図C(再掲)
 さて、以上のように、≪亜空間、風の基本図≫から、「激指」も最有力と推している「5一飛」(風課題図C)以下は、後手の「3三金」が好手で、どうやら「後手良し」が確定と言い切ってよさそうだ。



 するとその一手前の≪亜空間、風の基本図≫はどうだろう? その図を「後手が優勢」とまで言ってよいのかどうか。
 ≪亜空間、風の基本図≫からの、「5一飛」以外の手を検証する必要がある。



 では、≪亜空間、風の基本図≫から、先手の第2の手段、「 2五玉 」をこれから調査することにする。

風2五玉図
 これがその図だ。
 2五玉は、3三金とされ、結局今まで調査してきたこととあまり変わらないように思うかもしれない。ところが、それは全くの誤りだ。

風課題図D
 3四歩!
 2五玉、3三玉には、“3四歩”と金の頭を叩く手があって、これが有効なのである。この手を指したいがための2五玉だったともいえるのである。
 2五玉といったん身体を引いておいて、相手が3三金と前に出てきたところを、ガツン!と叩く。側に護衛のいない王が、自らの拳を使って闘うすごい手だ。


 そして我が終盤探検隊は、これ以後の変化を検討し、今のところ、「先手良し」と言ってよいだろうと考えている。
 次回はその調査報告から始めることになるだろう。


         part5に続く
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終盤探検隊 part3 ≪亜空間の旅≫

2014年11月19日 | しょうぎ
 
 この図は、倉敷藤花戦第1局「甲斐智美-山田久美戦」を元にしているが、その終盤の実際には現れていない変化である。

             棋譜・中継ブログは、こちら倉敷藤花戦三番勝負の中継サイトで。


 まず“現実”の対局の棋譜を確認しておこう。

「甲斐-山田戦」89手
 図は、後手の挑戦者山田女流が先手玉を追っかけたところ。次の手が90手目。
 以下、3七銀不成、3五玉、4六銀不成、4五玉、3五飛成、5四歩、6二歩、4四銀…、という進行だったが…

「甲斐-山田戦」117手
 結局、甲斐女流の玉は8二まで逃げ込み、そのまま先手の勝ちとなった。
 局後の検討で、3八角成(82手目)からの後手の攻めが失敗だったとされた。後手の山田さんにすれば、この攻め筋に最後の持ち時間を投入して、修正が利かない状態だったのだろう。


 これからは、今の手順の途中、3五飛成のところで、冒頭の図のように、「 3四飛成 」はなかったか、ということを検討していく。
 この3四飛成の筋は「甲斐-山田戦」の感想戦では触れられていないようだ。ソフト「激指」はこの筋をもっと前5六角(80手目)と打ったあたりから読みの本戦としていてそれがあるので3八角成と攻めて後手優勢と見ていた。ところがこの場面にまできて、時間を与えてじっくり読ませると、ここはもはや「激指」の力でも先手後手どちらが良いか判断がつかないところらしい。
 しかし現実の対局の進行では、後手の勝ち味はゼロだったので、山田久美挑戦者はこの筋に気づいていれば、これを選ぶべきところではあった。


 「3四飛成、同玉」とすれば、ここからの将棋は全く別の広がりを見せる。
 そもそも「3四飛成、同玉」以下の“探検”は、実際にはない架空の世界を旅するようなものだから、現実の世界とは別の物語といってよい。
 我々終盤探検隊は(隊員一名だが)、ここから先を≪亜空間の旅≫と呼ぶことした。

 半村良の娯楽SF小説に『亜空間ナントカ』というようなシリーズがあったが、そこから採った呼び名である。たしかその小説は麻雀仲間が「亜空間」の入り口をみつけてそこを冒険する話だったと思う。(書いていたらもう一度読みたくなった。)


≪亜空間入口の図≫
 「3四飛成、同玉」としたこの図が≪亜空間≫の入口である。

 調査してみると、この≪亜空間入口≫から、道は主に4つに分かれている。
 この4つの道を、我々はそれぞれ、“花”“鳥”“風”“月” と呼ぶことにした。

 なお、≪亜空間入口の図≫からは、この4つ以外にも、一応、考えられる後手の手はある。
 「3一金」と、他に「3三銀左」もある。しかしこれらはあまり有望ではなさそうだ。
 たとえば3一金には、5一飛として、先手にとって都合の良いときに、3一飛成からの“二枚替え”の手がいつでもあって、しかも後手からの攻め手が少ないので、これは後手勝てそうもない。
 また、3三銀左は、2五玉で、後でまだ先手からは4一桂成が残っており、さらに3一桂成から2一桂成が間に合う展開に持ち込めそうだ。3三銀左は後手玉がうすくなって持ちそうにない。
 ということで、我々は≪亜空間≫の以後の調査を有力な“花鳥風月の4つ”の手に絞って探査することに決定したのである。

 

【花.3三桂】

花図1
 まずはこの手だ 「 3三桂 」。
 これは一気に決めてやろう(決まっていたらいいのにな)という勝負手だが、調査すればすぐに無理筋と判明した。
 3三桂の狙いは、次に△4二桂の一手詰め。 当然先手は4一桂成だが、そこで3一銀。

花図2
 この手を用意して、さあどうだというわけだ。3一成桂と行くと、ワナにはまって、2二桂で先手玉が“詰み”。
 しかしそのワナは単純すぎる。先手はこれを見破れば、2一金、同銀、3一成桂という返しワザがある。(この手の発見はたとえ秒読み将棋でも可能であろう。)

花図3
 これで先手玉は4三からの入玉ルートが開けた。それを阻止して4四金なら3三玉でよい。先手の勝ちだ。
 


【鳥.4二桂】

鳥図1
 さあ、第2の道、“鳥”の道に入ってゆこう。
 「 4二桂 」だ。
 この手は、先手からの4一桂成を放置して攻める狙いで、しかし後手の持ち駒は「歩三」。そんな攻めは先手からすれば怖くない気もする。が、意外にも有力なのであった。 

鳥図2
 上の「鳥図1」から、「2五玉、5八と」と進んだ場面。
 この5八とで、4八とは、6八金などと金を逃げられると、後手は攻めの戦力不足になる。だから「5八と」なのである。
 以下、4一桂成、5九と、1五歩、1四歩。

鳥図3 
 この1四歩を取ると、まずい。1四同歩、3三桂、2六玉、3四桂、1七玉、2五桂となって…

鳥図4
 これは一気に先手が負けになった。(詰み)


 そこで「鳥図3」まで戻って、4二成桂、3五金、1六玉、1五歩、1七玉、1六玉、2八玉、3六金、2六銀と進めてみると…

鳥図5
 この2六銀の受けは、ソフト「激指13」の示す最善手で、これで形勢は「互角」としている。これで受かっていれば3二成桂があるので先手が良さそうだが、どうだろうか。
 ここから、後手は3七銀成、同銀、同金直、同桂、3六歩と進む。(3七銀成に同桂は、2六金、同歩、3六歩、3八歩、3七歩成、同歩、3六歩で後手勝ち)

鳥図6
 ここで3八歩は、3七歩成、同歩、3六桂で寄り。
 しかしここで1六香があって、これがあるので「激指13」はこれで先手もやれると示してた。(1六同香なら、1二歩、同玉、1三歩以下、後手玉は詰む)
 ところが、その「激指」の読みは案外ザルだった。
 「鳥図6」から、1六香、3七歩成、1七玉、1六香、同玉、1五歩、2六玉、2四香、2五桂、3四桂と進めてみると…

鳥図7
 後手の勝ちがはっきりした。

 つまり「鳥図5」はすでに“先手負け”だったわけである。


 このように“鳥”の変化(4二桂)は先手にとって、実は油断ならない道なのである。

 実は先手の指し手にいくつか問題があった。2つのポイントを以下に示しておく。

 第1のポイント。 「鳥図3」まで戻って、ここで「4二成桂」が緩手だったのだ。ここで「3一成桂」なら、はっきり先手の勝ち将棋となるところだったのである。

鳥図8 3一成桂の変化
 この3一成桂は、次に2一成桂からの、後手玉への“詰めろ”になっている!
 だから、図以下、たとえば1五歩に、2一成桂、同銀、同飛成、同玉、5一飛、3一金、3二銀、同玉、4一角(次の図)

鳥図9
 以下、4一同金、2一銀、3三玉、4五桂、4四玉、5三飛成…、というような“詰み”。 長いがむつかしくはない。

 〔追記: 3一成桂は、その後の調べで、3五金、1六玉、1五歩、1七玉、1六歩、2八玉、3六金とされると後手玉はまだ詰みがないとわかった。その変化は形勢不明に近いが、今のところ検討では、2六銀で先手受けきっていると出ている。それなら先手勝ち。ただし、きわどい変化なので、先手としては、次に示す“第2のポイント”の「5八同金」を選ぶのが良さそうだ。〕


鳥図10 5八同金の変化
 第2のポイントは、「鳥図2(5八と)」までさかのぼって、この5八とをこの「鳥図10」のように、同金と取ることである。これが正着で先手が有利になる。(4一桂成をガマンしてこの手を選ぶのは実戦だとむつかしそうだが。)
 5八同金、2六玉、3四桂、1七玉。

鳥図11
 この図は先手優勢である。後手からの速い攻めがないので、4一桂成~3一成桂で勝てる。
 ここで後手が3一金なら、6一飛と飛車を打っておけば、先手都合のよいタイミングを選んで3一飛成からの“二枚替え”がいつでも決行できる。
 かといって4二金には3一銀、5二金には、3三歩という決め手がある。3三歩、同銀左に、3一金だ。(→次の図)

鳥図12
 
 というわけで、どうやらこの“鳥”の変化(=「4二桂」)は、先手良しが確定である。


 さあ、我々終盤探検隊は、次なる道、“風”に進もうとしている。 この道こそが、当初からわれわれの調査探検の“本命”のターゲットである。

【風.4二金】

風図1
 図の「 4二金 」が、後手の勝ち筋の存在の期待のかかる“風”の道への入口だ。

 ここで5一飛が「激指13」も第一に推す手。(6一飛だと、5三金で先手が悪い)
 そこで後手は3三金と出る。先手は2五玉。後手3四桂。

風図2
 次に2四金と出られると詰むので、先手は1五歩。

風図3
 後手は1四歩。おそらくはこれが最善手。
 この手で2四金としたくなるが、それはまずい。2四金、1六玉、そこで1四歩では、3三歩という手裏剣が急所に刺さり、先手が勝つ。(2四金のタイミングが大事なのだ。)
 また、「1四歩」の手のかわりに、もしもこの手で後手4八ととすれば、先手から3一銀という寄せがあって、これで先手の勝ちになる。(3一同竜、2二銀は、同竜、同玉、3一銀、同玉、5一飛以下“詰み”。) しかし1四歩に3一銀なら、今度は同銀、同飛成の時に、2四金、1六玉、1五歩、1七玉、1六歩、2八玉、3七銀打以下、後手が銀を手にしたために先手玉が先に“詰み”となる。
 つまり、後手のこの「1四歩」は端を攻めることで、同時に先手の3一銀の狙いの手を封じているわけだ。

 
 そこで先手がどう指すかだが、4二角が有力手。これは後手が4八とや3八金などなら、3三角成で先手が勝つ。4二角にはこのねらいがある。

 そのねらいをはずしながら後手は2四金と“王手”で出る。(2四同角成は後手勝ち)

 以下、1六玉、1五歩、1七玉、1六歩、2八玉、と進んで次の図となる。

風図4
 さて、筆者はこの図を180度回転させて、それを「次の一手 問14」として出題している。
 その“答え”は、「3六歩、3八歩、3七歩成、同歩、3六歩、同歩、3七歩」というものである。この出題図で持ち歩が「4つ」なのがぴったりで、そしてこの3七歩は“詰めろ”である。しかもこの“詰めろ”は受けがない、だから後手勝ち――
 ―――と筆者は思っていたのだ。
       『次の一手 問14
       『次の一手 問14 答えあわせ [追記と訂正あり]


 ところが! その後の検討で、新事実が明らかになり、先手の攻めながら受ける超絶技巧な手段が見つかって“この図は逆に“先手勝ちになる”とわかったのだ。
 「3六歩、3八歩、3七歩成、同歩、3六歩、同歩、3七歩」の後、先手は「1三歩」。 「3八歩成、1八玉、1三香」に、「1二歩、同玉、1四歩」

風図5
 これで「先手勝ち」。 
 1四同香は、なんと後手玉は“詰み”なのである。(1四同金は3三銀で後手受けなし)
 2九と(詰めろ)で勝てれば良いのだが、それも1三歩成、同玉、2九玉と応じて「先手勝ち」となるのだ。
 「風図5」は、どうやら“先手勝ち”のようだ。



 今回の探検レポートはここまでとしよう。最後の図がなぜ“先手勝ち”なのかその説明もこのままでは不親切であるし、この“風”(=4二金)の変化はまだまだ報告すべき内容がある。


 次回、part4に続く。
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終盤探検隊 part2 甲斐-山田戦

2014年11月17日 | しょうぎ

 11月17日。本日は将棋の日。江戸時代、家元(将棋御三家)が毎年「御城将棋」を実施するのが恒例行事となっていた日。


 さて、上のこの図は、11月5日の倉敷藤花戦三番勝負の第1局「甲斐智美-山田久美戦」の81手目の局面である。
 6五に跳ねた桂馬で「5三桂不成」としたところ。

        棋譜・中継ブログは、こちら倉敷藤花戦三番勝負の中継サイトで。


2二桂成の変化図1
 我が終盤探検隊(隊員は一名だけど)は、前回記事part1で、この81手目の「5三桂不成」は次善手で、最善手は“2二桂成、同玉、5三桂成”であることを発見した。それがこの変化図である。

 その前の80手目山田久美女流の「5六角」が、それまでの優位を失った手で、4二銀なら後手が良かったが、5六角と指したので、先手にも“チャンスが来た!?”という場面になってきたのだ。しかしそのチャンスボールも、「最善手」では返せなかった。



 さて、実戦で指された81手目「5三桂不成」の局面はどうなのか、それをこれから調べていこう。

甲斐-山田戦81手図

 先手甲斐智美女流の指した「5三桂不成」(81手目、銀をとった)に対し、後手山田久美女流の手番。
 有力手は3つ。
 (A)3八角成(B)3四角(C)3一金
 山田さんが本局で選んだのは(A)3八角成だが、これは自爆の道を進んだような結果となった。
 だから局後の感想戦では(B)3四角を検討し、これを選ぶべきところだったと彼女たちは結論している。
 そして中継の棋譜コメントでは、3番目の(C)3一金にはまったく触れていない。

 だが、どうやらこの3つともに後手にとっては有力で、そう考えると総合的にこの81手目の図では厳密には後手が優位ということになるのだろう。


 (B)3四角を見ていこう。

3四角の変化図1
 「81手図」から、3四角、4一桂成、4六桂、4九金打、3八桂成、同金、4一銀、同竜、4六桂、3九銀、3八桂成、同銀、5六角、3九金、3一金、9一竜、4七銀で、この「変化図1」。
 倉敷藤花戦中継の棋譜コメントでは、感想戦の結果として『結論としてはどうやら千日手になる』とある。
 つまりそれはここで4九銀打、3八銀成、同銀、4七銀、というようなことだろうと思う。
 後手の攻め脚が止まると、先手の桂香の攻めが炸裂するので、後手も攻め続けなければいかないので手を変えにくいということだろう。
 しかし千日手を回避する手段はあるにはあったと思う。たとえばこの図ならば、(4九銀打に)△5八歩がある。
 その後をさらに続けてみる。
 「変化図1」より、4九銀打、5八歩、8六角、4一飛。 

3四角の変化図2
 この4一飛のところで、初めは3二飛、次に3二金を調べたが、それは先手が互角以上にやれるようだ。
 ところがここで4一飛と受けて、これは後手が良いらしい。4一飛に、同竜、同金、7一飛は、これを受けずに5九歩成で、後手が優勢になる。

 まあ、こう進むとは限らないわけで、(B)3四角以下は互角の勝負ということで良いだろう。 ただ、千日手の権利は後手にある。


 次に(C)3一金を調べる。

3一金の変化図1
 検討の結論を先に言えば、この(C)3一金は大いに有望で、これで後手良しではないのかと思われる。
 後手の3一金に、先手が(ア)2二桂成、同金、3一銀と攻めたとする。
 そこで後手が3八角成。この時に後手は「飛金銀桂歩二」の持駒である。
 3八同玉、4七銀、2八玉、3八飛、1七玉、2五桂、2六玉、3六金…

3一金の変化図2
 以下、2五玉に、2四歩、同玉、3三金、1五玉、1四歩、2五玉、1三桂、1四玉、2三金までの詰み。
 先手玉は詰んでしまった。この4七銀からの詰め筋は前回記事part1でも他の変化で出てきたが、後手の陣形の違いによって詰む詰まないの結果が変わる。この場合は“詰む”のである。
 なので、先手は2二桂成~3一銀の攻めはダメ。


 だからといって、(イ)2二桂成、同金、4九銀打と、銀を取ってから受けにまわるのも先手勝てない。
 「2二桂成、同金、4九銀打、4六桂」で、この4六桂が3八桂成以下の“詰めろ”になる。だからそこでも3一銀の攻めの手は指せず、そうなると3九金のようにさらに受けにまわらなければならず、次の図となる。
3一金の変化図3
 この図から3八桂成~4七銀という攻めは、4九銀打とされてこれは「千日手」の展開だ。後手には悪くとも千日手という権利があるが、ここは5八歩と打開に挑戦してみよう。
 5八歩、3一銀、5九歩成、2二銀成、同玉、4二金、4九と、5五角、3三歩。

3一金の変化図4
 後手玉は寄らず、したがってこの図は後手優勢のようである。
 先手がここでいったん4九銀なら、3八飛、同銀、同角成、1八玉、1七銀以下“詰み”がある。


 (ウ)2二桂成、同金、4九金打の場合も調べたが、(イ)と同じ展開で後手良しとなった。


 それでは、(C)3一金に対し、(エ)単に4九銀打と受けたらどうなるか。
 後手は3四角と桂馬を取る。

3一金の変化図5
 そこで4二歩だと、5八歩でこれは先手が攻め合い負け。 では、ということで図のように「4一金」としてみよう。この手は有力だ。
 これに対する後手の受けが悩ましく、筆者は最初は4一銀、同桂成、3二金のような受けをいろいろと検討していたが、結局あっさり4一で全部清算するのが良さそうだということになった。
 すなわち、4一銀、同桂成、同金、同竜、3一金、9一竜、4六桂、3六香、3八桂成、同銀、4六桂、4九銀打、3八桂成、同銀、5六角…

3一金の変化図6
 以下、4九金打には、3五歩、同香、3四歩、5八歩、4七と、同銀、同角成、3四香、3六銀

3一金の変化図7
 この図の3六銀は凄い手だが、先手に受ける駒が角と桂しかない今が決めどころなのである。3六同歩なら、3七銀、同桂、2九飛から、寄り。

 こんな感じで、(C)3一金なら後手優勢だったかもしれない、という検討結果だ。
 ただし、先手3六香のところでは5五角のほうが優れているかもしれないし、どこかで3一竜と切って攻める手もある。 はっきり後手優勢とまではまだ言い切れないが、後手が互角以上の闘いができるのは確かだろう。


 以上の検討により、後手山田女流が(B)3四角または(C)3一金は後手にとって有力だったことを確認した。


甲斐-山田戦81手図(再掲)
△3八角成 ▲同玉 △4七金 ▲2八玉 △3八飛 ▲1七玉
 山田久美さんは82手目、(A)3八角成以下の攻めを決行した。現実世界は、選べる手は1つだけ。

 よく、女流棋士は指したい手を指す、男性プロ棋士は相手の嫌がる手を選ぶというが…。こういうのは持ち時間も関係していると思う。この対局は持ち時間各2時間である。山田さんはおそらくこの3八角成の攻めばかりに時間を“投資”して、いまさらさほど深くは読んでいない別の曲線的な順を選んでも、秒読みの中では勝てる自信がなかったということかもしれない。
 山田さんはこの前の5六角(80手目)で持ち時間を使い切り、1分将棋だったのだ。(先手の甲斐さんはもっと前から。)


甲斐-山田戦87手図
△2八銀 ▲2六玉 △3七銀不成 ▲3五玉
 実戦はここで(D)2八銀だった。
 感想戦では、ここで(E)3三銀打で頑張るのはどうかと検討されたようだ。
 また、筆者はこの将棋の棋譜を見たとき、ここで(F)3七金はなかったのかと、それを真っ先に思った。
 他には(G)3一金もあるか。
 
 それぞれ検討してみよう。

 (E)3三銀打、2二桂成、同銀、4一桂成、2五桂、2六玉、3七金、6三角。

3三銀打の変化図1
 (E)3三銀打からの順は、図の6三角で後手の攻めが止まった。続いて3五歩(詰めろ)に、4五銀と受け、4四歩に、3一銀が逆に“詰めろ”。 先手の勝ちは動きそうもない。

 今の順で、2五桂のところ、かえて3七金も有力にみえる。
3三銀打の変化図2
 それは、3三銀打、2二桂成、同銀、4一桂成の後、3七金、同桂、同飛成、2六金、3三桂打、3一成桂、2五桂打、1八玉、2八銀となって、この「変化図2」。
 この中で、先手の3一成桂がポイントで、これを4二成桂だとまた先手の勝ち味が遅れてややこしくなるかも。
 「変化図2」は、後手玉が、2一成桂、同銀、同竜、同玉、3二角、同玉、4二金、同玉、6四角以下の“詰めろ”になっている。先手の勝ち。


3七金の変化図
 「87手図」から(F)3七金の変化は、以下、同桂、同金、同飛成、2二角成、同桂、5五角(王手飛車取り)、4四桂、3七角、2五桂、2六玉、3七桂成となって、この図。
 これで後手も可能性があるのではと直感的には感じたが―――、誤りだった。
 後手玉に“詰み”がある。3一銀、同金、3三金、同玉、3四歩以下。(詰まさないで4一桂成でも先手勝ち)


3一金の変化図
 また「87手図」から、他に(G)3一金は、5五角(図)で後手が勝てない将棋。 
 4四銀なら、3一竜、同銀、4二角で決まる。


 実戦は「87手図」から、△2八銀 ▲2六玉 △3七銀不成 ▲3五玉と進んで次の図となった。

甲斐-山田戦91手図
△3七銀不成 ▲3五玉
 ここで実戦は4六銀不成だが、(H)4八銀成でどうだったかと思った人もこの対局を観戦していたアマにはいたようだ。これも調べてみる。

4八銀成の変化図
 4八銀成、3七歩、5九成銀、2二桂成、同玉、5五角となって、この図。
 以下3三歩は4一桂成で先手勝ち。  3三桂打は先手玉への“詰めろ”なので4一桂成ではまずいが、3三同角成、同銀、3一銀、同金、同竜以下後手玉が“詰み”。 4四金も、同角、同歩、4一桂成で先手勝ち。
 後手に勝ちがないようだ。


甲斐-山田戦93手図
 実戦は△4六銀不成 ▲4五玉と進み、この「93手図」となった。

 結局、いろいろ他の手も調べてきたが、3八角成(82手目)の後は、この93手目までの間に、後手に勝ち筋はどこにも見つからなかった。
 この図からさらに △3五飛成 ▲5四玉 △6二歩 ▲4五銀 △4四歩 となって、先手の甲斐玉は、ついに8二まで逃げて入玉となり、甲斐智美女流がこの第1局を勝利した。これが現実の結末である。

 後手の山田久美さんが(3八角成のあと)どこかで勝利を逃がした印象の終盤だったが、実際のところは、その「印象」とは違い、3八角成からあとは山田さんにチャンスはほとんどない。
 そのことは、中継の棋譜コメントに書いてある両対局者による感想戦の内容を読んでもそうなっている。



 だが、宝(勝利へのチャンス)の欠片は実は盤上に落ちていた! この93手目の場面にである。
 いや、本当のところはまだ調べてみないと真実はわからないが、可能性はあった。


 「93手目図」から、(実戦は3五飛成だったが)(I)3四飛成なら、後手に勝ちがあったかも知れないのだ。

3四飛成の変化図
 「93手目図」から、3四飛成、同玉の変化。

 ここで4つの後手の有力手がある。
 (花)3三桂  (鳥)4二桂  (風)4二金  (月)5二金

 後手の勝ち筋は、はたしてここにあるのか。 最も有力に見えるのは(風)4二金かと思われるが、本当にそれは(後手にとっての)宝石なのか。




 将棋の「終盤」はワンダーな世界である。 その世界は調べれば調べるほ煌めきを放つ“妙手”が生まれてくる可能性を隠し持っている。
 さあ、ここにまた「終盤」の新たな洞窟が見つかった。探検隊(隊員一名)はもちろんその未知の洞窟に敢然と突入する予定である。

     次回、part3に続く。
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終盤探検隊 part1 甲斐-山田戦

2014年11月15日 | しょうぎ
△5六角(80手目)以下の指し手
▲5三桂不成 △3八角成 ▲同玉 △4七金 ▲2八玉 △3八飛
▲1七玉 △2八銀 ▲2六玉 △3七銀不成 ▲3五玉 △4六銀不成 ▲4五玉


 図は、今月の5日に行われた対局、本年度の倉敷藤花戦三番勝負第1局「甲斐智美-山田久美戦」、その80手目の局面。
 この将棋はここから「終盤」に突入していく。

 棋譜・中継ブログは、こちら倉敷藤花戦三番勝負の中継サイトでどうぞ。


 この「終盤」を“探検調査”した結果をこれからレポートしたいと思う。


甲斐-山田戦27手図
 序盤はこんな感じ。「先手三間飛車vs中飛車左穴熊」というここ数年に注目されている戦型である。
 いま、先手の甲斐智美さん(倉敷藤花)が8六飛として、後手の挑戦者山田久美さんが「7二金」と応じたところ。
 甲斐さんはここが仕掛けのチャンスと見て、5六歩。


 自分はこの戦型を指した経験が少ないので感覚的にはよく判らないが、杉本昌隆『中飛車左穴熊』を読んで理論的には少し知っている。この本は面白かった。この戦法の“新しさ”に、「おお、そうだったのか!」と感心することが多かった。
 山田久美女流プロのこの「中飛車左穴熊」では採用されていないが、右銀を動かさず7一のままで穴熊に囲うという戦術がある。

参考図1
 こんな感じ。この意味は何かというと、8六飛に、“7二銀”と応じるという意味。右の金は7二に上がらず、穴熊の守備に就かせたいということだ。
 まず、ここが“新しい”。

参考図2
 そして、振り飛車が5八金左としたのを見て、今度は後手の中飛車側が、8四飛。これだと先手は7八金とはできない。振り飛車の美濃囲いでの7八金型はバランスが良いのでまったくそれで不満はないが、だから後手は5八に金を上がったのを見て、それから8四飛なのだ。
 対して先手は8六歩だが、そこで後手は5四飛と元の位置に飛車を戻す。
 何の意味があったのか。
 ここがまったく“新しい感覚”なのである。従来の感覚からすれば8六歩と突いて、次に8五歩の形になれば振り飛車がうれしい感じがする。ところがどうも、この戦型、「8七歩型」よりも、「8五歩型」のほうが後手中飛車側にとって、都合がよいとわかってきたのだ。だから後手は8四とまわって、8六歩~8五歩をわざわざ突かせるのである。
 そのくわしい理屈はここでは書かないが(知りたい方は杉本本をお読みください)、これは筆者にとっては、読まなければずっと知らなかったであろう“新しい知識”だった。

 つい最近の対局11月12日の順位戦(B2)で「佐々木慎-野月浩貴戦」がこのような将棋になっている。(先手の佐々木六段が中飛車左穴熊)


 さて、「甲斐-山田戦」だが、「8六飛、7二金」に、「5六歩」とここから甲斐さんが開戦した。ここからは「中盤戦」だ。
 7二金と金をこちらに上がらせて金銀を分散させ、それから5六歩と、中央で決戦しようというこの感覚は、たしかに理にかなっている。

甲斐-山田戦45手図
 進んで、こんなふうになった。この5二の飛車は、いま甲斐さんが5二歩、同飛と、「一歩」を使ってつくったもの。
 次に後手から5六歩や6七銀という攻めがあるので、6一銀、と甲斐さんは攻めたわけだが、この「5二歩、同飛、6一銀」の攻め(こういう銀打ちを「割打ち」という)は、歩切れになるし、あの“7二金”を相手にしたわけで、それを考えるとこれでは面白くない気がする。(本譜の進行が悪かったというわけではない。)
 そこで、5二歩と叩くところで、「▲4五銀はどうか」と考えてみた。

変化4五銀図1
 これだ。あの“7二金”を相手にせず、3四銀から敵玉に迫っていくねらいだ。
 以下、6七銀、3四銀、5八銀不成、同金左、7八飛、7七角、7九飛成、5二歩、同飛、4三銀成が考えられる進行。

変化4五銀図2
 さらに続けると、5一飛、5二歩、同金、4四歩、4二歩、3三成銀、同銀、3二銀、2二銀打、5五角。

変化4五銀図3
 先手の攻めは細いが、この図で8九竜なら、4五桂、3四銀、5三歩で、これは先手の攻めがつながっているようだ。図で6二金左なら、8八角打。 よくわからないが、もしかすると先手が良いかもしれない。(実際には盤上には現れなかったこの「4五銀」も、本対局の終了後の感想戦で出たようだ。4五銀に5六歩が検討されている。)

 ただしこの辺りは、他に選択肢がたくさんあって、「どう指しても一局」という感じ。
 
 だからこそ、プロはこの辺りの中盤に持ち時間の多くをつぎ込んで考える。ここで読み勝ってリードするつもりだ。
 ところが、持ち時間などほとんどないと言ってよいアマの将棋では、「どう指しても一局」なら、考えるだけ時間がもったいない。この辺りは勘で指しとばし、5分、10分の時間を終盤に残しておくほうが正しい選択だ。(筆者は考えるのが好きなので中盤でついつい考えてしまい、終盤はだいたい秒読み状態。わるいクセとわかってはいるが…。)


甲斐-山田戦61手図
△5一飛 ▲同龍 △同角 ▲6一飛 △3二銀 ▲5三歩 △同銀 ▲8一飛成 △6八歩
 甲斐さんは、5七に「と金」を作らせるその代償として、6一に飛車を成りこんだ。リスクの高い攻めで、だからすでにこの辺りで甲斐さんは2時間の持ち時間のそのほとんどをもう消費してしまっていた。
 山田、5一飛。以下、同竜、同角、に6一飛。山田さんは3二銀と受け、甲斐さんは8一飛成で「桂得」。
 このあたりはどうやら「互角」の闘い。

甲斐-山田戦70手図
▲4六桂 △3三角 ▲3四桂 △7七角成 ▲同桂 △6九歩成 ▲6五桂 △5九と ▲同金 △5六角
 ここで4六桂と先手番の甲斐さんは打った。次に3四桂と攻める意味だが、「激指」的には、どうやらここから形勢は後手山田女流優位に傾いていく。いったん7九金がよかったのかもしれない。6七飛なら、そこで4六桂と指せばよい。
 人間(プロ棋士)の評価は、このあたりは人によって形勢が違っている。そうすると「互角」と見るのが正しいだろう。
 甲斐女流はここではすでに「1分将棋」に突入している。


 本譜の順、先手の6五桂に、山田さんは5九ととと金を捨ててきた。
 その瞬間にこれを手抜きして2二桂成、同玉、5三桂成とする手がある。 それは以下、4九と、3一銀(これを同金は後手玉が詰む)、3三玉、4九銀、7八飛、5八歩のようになるが…(次の図)
 
5三桂成の変化図
 これは5八とで、後手良し。そこで3四銀、同玉、5六角という王手飛車の筋もあるが、飛車を取っても、4九とが先手玉への“詰めろ”になって、これは後手の勝ち将棋。

 5九とに手抜きできないと読んだ甲斐女流、5九同金と応じる。


甲斐-山田戦80手図
 そこで山田女流、ねらいの5六角。
 この手は3八角成が第一のねらいで、ここからこの将棋は「終盤戦」と言っていいだろう。いよいよ終盤探検隊(隊員は一名)の本格活動開始である。
 3八角成をおそれて、先手が4九金(打)のように受けたら、6五角で、これははっきり後手ペース。さらにもう一つ、5六角には3四角というねらいもある。

 3八角成が山田久美さんの読みの本線だっただろう。しかしその攻めは細い攻めだったので、局後の検討では、5六角と打つ手で、「4二銀」が正着だったとされた。山田さんは本局の将棋を、この「5六角から3八角成」の攻めに賭けて、そう指して敗れたのだから、後であれこれつついてもしかたのないことではある。
 だが、勝負師ならば、「5六角で勝っていたらよいのにな」というような、希望的な思いだけでいるわけにはいかない。だがしかし、ここで4二銀と自陣に手を戻す手を指すのは、5六角と指したい手を指すよりもエネルギーが必要かもしれない。

 山田女流もこの手を指して「1分将棋」に。

 (5六角としないで)4二銀の変化を検討しておこう。
 4二銀、2二桂成、同玉、6六角、4四角となって、次の図。
 
4二銀の変化図1
 なるほど、これは後手が良さそう。

 また、4二銀、2二桂成、同玉に、“5三銀”とした場合も見ておくと、以下、3三銀、4二歩、4六桂で、次の図。

4二銀の変化図2
 これも後手勝てそうだ。次に3八桂成、同玉、4七銀からの簡明な“詰み”がある。

 こんな感じで、たしかに5六角のかわりに「4二銀」は、はっきり後手が良しだと思う。(こういうところの確認はアマの私たちにはたいへん参考になる。)



甲斐-山田戦80手図(再掲)
▲5三桂不成 △3八角成
 まあとにかく、山田久美さんは「5六角」と指した。
 このあたりがこの将棋の山場だった。(山場ではあるが、この先はもう両者1分将棋だった。)
 先手の甲斐智美さんがここで考えたことは、どうやらここで5三桂成と指すか、5三桂不成で行くかということの選択のようだ。先ほども書いたように、3八角成を受ける手は6五角があるので勝ち目がない。3八角成なら、その先の変化は「自信があった」か、あるいは「自信はないが、まあしかたがない」だったか、それはわからないが、甲斐さんは度胸を決めていただろう。
 実戦、「1分将棋」の中で、5三桂成では、3四角で自信なしと読んだ甲斐女流は、5三桂不成と指した。
 そして後手の山田女流は、3八角成と攻めていったのである。


 しかし、時間にしばられない活動のできる我が終盤探検隊(隊員一名だが)は、「激指13」をフル活用して検討し、別の結論を得た。
 ここでは、「2二桂成、同玉、5三桂成」(次の図)が最善の手順で、これで先手良しなのではないか、というものである。

2二桂成の変化図1
 2二桂成と桂馬を後手に渡すと、4六桂などと後手から攻められる手も生まれ、また、3八角成以下の攻めに来られた場合にも、2五桂などと後手から打たれる手段があるため、2二桂成はギリギリまで指さないでおきたいという考えで、それで甲斐女流は「80手図」では読みからはずしていたのだろうと想像する。

 けれども、さて、「5六角」に、「2二桂成、同玉、5三桂成」としたこの変化図は、先手良しではないだろうか。

 この図から、「3八角成」と後手が攻めたとする。これは「甲斐-山田戦」の本譜の場合よりも、後手は「桂馬」を一つ持駒に加えている。だからこの攻めが成立しているのではないかと、ふつうは思う。ところが、奇跡的というか、どうやら3八角成では寄らない、と思われるのである。
 後手の玉型が穴熊ではなくなっていることも重要で、この図では、後手の玉に3一銀からの寄せが見えているのである。

 とにかく、やってみよう。「3八角成、同玉、4七銀、2八玉、3八飛、1七玉、2五桂、2六玉」で、次の図だ。

2二桂成の変化図2
 これが寄っていそうに見えるが、そうではないのだ。3六金は、2五玉で逃れている。
 そしてここでは、後手玉には3一銀からの“詰み”が生じている。(玉が2六にいるのがプラスに働いた)
 それではと、「3八角成、同玉、4七銀、2八玉」の時に、2五桂と打ってしばるのも、やはり3一銀以下、後手が詰む。
 3八角成から先手に駒を渡すと、途端に後手玉は詰む詰まないの危険状態にさらされるのである。

 こういう3八角成からの変化のときに、5三の桂馬は「不成」ではなく、「成」でないといけない。
 もしも「5三桂不成」の場合は、3八角成、同玉、4七金、2八玉、3八飛、1七玉、2八銀、2六玉、3七銀不成、3五玉、4六銀不成、4二桂。(次の図)

2二桂成の変化図3
 これで先手玉は捕まった。もしも5三の駒が「成桂」だったら、この4二桂は無効で、形勢は入れ替わる。
 だから「80手図」では、「2二桂成、同玉、5三桂成」と、この桂は成るのが正しい。

 
2二桂成の変化図4
 「2二桂成の変化図1」についてもう少し検討結果を書いておく。
 たとえばそこで「4六桂」という攻めが見える。
 驚いてしまうが、その瞬間、なんと後手玉は3一銀以下、“詰み”が生まれている。 手順は、3一銀、3三玉、2二角、3四玉、3五銀、同玉、3六歩(図)。
 以下は、3六同玉、2六金、4五玉、3七桂まで。 後手が打った4六桂が自玉の邪魔駒になっている。先手にとって実にうまくできている。 4六桂は、自玉の詰みを招いた悪手だったというわけ。

 では、「2二桂成の変化図1」で後手、前もっての「2五桂」の“待ち駒”はどうか。これは先手にまだ角を渡さず、次に3八角成から詰める狙いだ。

2二桂成の変化図5
 「2二桂成の変化図1」より、2五桂、3一銀、3三玉、1一角、3四玉、3五銀、同玉、3六金、3四玉、4八歩。
 で、この図。 やはり3一銀以下攻めて、先手優勢のようだ。次に4一竜や、5五角成がある。


 以上の検討結果により、甲斐智美女流の指した81手目5三桂不成では、「2二桂成、同玉、5三桂成」で先手良しだったのではないかというのが、終盤探検隊のみつけた結論。


 探検レポート、本日の記事はここまで。 次回part2に続く。
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次の一手 問14 答えあわせ [追記と訂正あり]

2014年11月13日 | 次の一手
                                「次の一手 問14」 ≪問題図≫


≪正解図≫

 正解は、7四歩でした。

 ≪問題図≫の場面で、先手が「歩を4つ」持っているのが大事なところで、これでぴったり先手の勝てる将棋となる。


 以下、次の手について、この順で解説します。

  (い)8五金
  (ろ)7三銀不成
  (は)6二と
  (に)7九歩
  (ほ)7四歩(正解手)
  (へ)9三歩成


 〔 本記事の末尾に「追記」があります。解答の訂正など重要な内容ですのでぜひお読み下さい。 〕


(い)8五金


 「8五金」は、次に7四金となれば攻撃力となるが、この手自体はまだなんでもなく、遅い。
 この手は“詰めろ”になっていないので、7七歩(図)と打たれて受けがなく先手が負けになる。

 要するに先手は、攻めるなら、最低でも“詰めろ”で後手玉に迫る必要がある。


(ろ)7三銀不成


 「7三銀不成」は、「同桂」に「7四歩」のつもり。
 しかし「銀」を後手に渡してしまうと――


 8九飛成から詰まされてしまう。「8九飛成、同銀、同竜、同玉、7八銀、同玉、7七銀(図)、同銀、6九銀、6八玉、7九角」以下。

 後手に金や銀を一枚渡すと、8九飛成から詰まされて負けになる。


(は)6二と


 「6二と」は、≪問題図≫を見た時に、反射的に多くの人がすぐに浮かぶ手だと思う。
 この手はそして後手玉への“詰めろ”になっている。7二と、9二玉、9三歩成、同桂、8二と、同玉、7三銀不成という順だ。
 しかし「6二と」には「6二同金」と正確に応じられると、これは先手、負けになる。

 「6二同金、同金、7七歩」。


 ここでもこの「7七歩」が“詰めろ”で、しかもこれは取ることもできない。この場合の後手玉は詰まない。


 なお、≪問題図≫から、「7四歩、7二歩」の2手の交換を入れた後の「6二と」だと、後手は7筋に歩が打てないが、この場合は「銀」で代用できるため、結果は同じ。やはりその場合も、後手の勝ち。
 この図で、7七同銀左は、同角成、8八金に、8九飛成から“即詰み”なので、この「銀」は先手にとっての質駒とはならないのです。


(に)7九歩


 ≪問題図≫で「7九歩」と受けたらどうなるかを解説します。
 これには、「9七歩、同香、9六歩、同香、9七歩」と9筋を攻める。先手の9筋の香車は攻撃に使いたいので、それなら9筋の歩のたたきには素直に同香と取るしかない。 後手は先手の穴熊の香車を吊り上げて、「9七歩」と垂らす。


 この歩は、銀でも桂でも取れない。取ると、7九角成で“受けなし”になる。といって、放っとくわけにもいかないので…
 図から、「9三歩成、同桂、9八歩、9四香、9五香、7九角成」。


 後手は角を渡しても詰まない状況なので、7九角成で良い。後手勝ち。


(ほ)7四歩(正解手)


 7四歩」と歩を垂らすのがこの場合の正解です。平凡な手ですが、ここではこれしか先手の勝ちはないのです。
 ただし、この後も正しく指さないといけません。
 「7四歩」は“詰めろ”(7三歩成、9二玉、9三歩成、同桂、8二と…)なので、「7四歩」には「7二歩」ですが、これを“7二同金”の順では、勝てません。(この順は後で触れます。)

 正解手順は、「7四歩、7二歩、7三歩成、同歩、7四歩、同歩、7三歩」です。。


 これでもう、後手に受けはない。たとえば7一銀と受けても、7二歩成、同銀、同金、同玉、6三と、8二玉、7三銀打以下“詰み”。 (この変化で6三とに7一玉なら詰みはないが、先手玉も詰みはないので、7三歩成でよい。後手が角金銀の持駒を4枚そろえた時、先手玉は詰みの心配が必要になるが、3枚なら大丈夫。)




 そこで後手は「7七銀」と開き直ってきた。これで先手玉には受けがないが、後手玉を詰めてしまえばよい。7二歩成以下の“詰み”がある。(ここで「一歩」があるのがすばらしい!)
 「7二歩成、9二玉、9三歩成、同桂、8二と」。


 「8二同玉、7三銀不成、9二玉、9三香成、同玉、8五桂、9四玉」
 この詰め手順のポイントは、“7三銀不成のカタチを実現させる”ことである。 


 “打ち歩詰め”の形だが…、ここで8四銀成で大丈夫。“打ち歩詰め打開”のために用意したこの8四銀成を指すために、7三銀(不成)型をつくったのだ。
 「8四銀成、同歩、9五歩、8三玉、7三金、9二玉、8四桂」


 以下、「8一玉、7二金」まで。 

 奇麗な“詰み”でしたね!

 この詰め手順は9五に打つ「歩」がないと詰みません。けれども最後は「一歩」が余ります(8四で歩を取った)。
 余談になりますが、いわゆる「詰将棋」の正式ルールでは、現代では“駒を余らせてはダメ”となっています。江戸時代の巨星伊藤看寿らの詰将棋作品がすべて駒が余らずそれが美しいので、それが今は正式ルールになっているのですが、しかし江戸時代はこれは単に作家個人の美意識にすぎず、「詰むか詰まないか」というシンプルな問いが詰将棋の本来の姿のはず。たぶんこの駒余りはダメというルールは、昭和の戦後以降に採用されたものと思います。
 僕は、そろそろこのルールも撤廃して、“駒余りもあり”にしてはどうかと思っています。そのほうが実戦に近いトレーニングとなりますし、駒が余っても、それでも美しい詰上がりは存在すると思うので。余談でした。



 さて、≪問題図≫から「7四歩、7二歩、7三歩成」の時に、上は「同歩」以下を進めたが、「同桂」の場合を観ておきます。
 「7三同桂」には、「7四歩」です。これであとは楽勝に思えますが、実際はそうラクチンではありません。
 後手は逆転の望みを託して「4六角」(図)と打つ手があります。
 この手は「7三」を受けつつ、実は同時に先手玉への“詰めろ”になっています。それが見抜けないと、たとえば4六角に、7三歩成、同歩、同金、8一玉、7四桂などとしてしまうと、これは先手が詰まされて負けとなる。 詰め手順は、8九飛成、同銀、同竜、同玉、7八銀、同玉、6九銀、6八玉、7八金、5九玉、5八歩、4八玉、3七歩成…という順。
 この詰め手順がわかっていれば、この図から、7三歩成、同歩、7九歩でも先手勝てる。

 ここではもっとすっきりした勝ち方を示しておく。「7三歩成、同歩、同銀成、同角、7四桂」。


 以下「8一玉、7三金」。 後手に銀を一枚渡してしまったが、角を取ったので先手玉に詰みはない。(一枚足らない)
 これで先手の勝ちとなった。



 ≪問題図≫まで再び戻って、「7四歩、7二歩」のとき、これを「7二同金」とする変化についてチェック」しておきます。
 これは「7二同玉」となります(9二玉は詰む)が、そこで(a)6三と、(b)7三歩成を考える。結果はどちらも先手は勝てない。

 
 7二同玉に、「(a)6三と」。 一見これで詰んでいる“感じ”がする。しかしそれは錯覚で、6一玉(または7一玉)と逃げられると、詰まない。


 図より7三歩成には、先に「金」を後手に渡しているため、8九飛成から“詰み”がある。先手負け。



 次は7二同玉に、「(b)7三歩成」の変化。 以下、「同桂、6三と、8一玉」。


 この場合もやはり「金」を渡しているので先手玉に8九飛成からの“詰み”がある。そこで7九歩(図)と受けてみる。
 しかしこれには、後手、「7九同角成」でかまわない。角を先手に渡してもはっきり後手玉は詰まないから。
 後手の勝ち。


  このように、「7四歩、7二歩」に、「7二同金」は先手失敗です。


(へ)9三歩成
 最後に、先手が9三歩成から香車の交換をした場合はどうなるのかを見ておこう。結果は「後手勝ち」ではっきりしているが、途中は見た目、すこし複雑になる。
 「9三歩成、同香、同香成」


 「9三同玉、9四歩、8二玉、7四歩、9七歩」
 先手は香車を手にしているが、7四歩はまだ“詰めろ”にはならない。

 

 逆に先手玉へは「9七歩」が“詰めろ”。
 「9三歩成、同玉、9八歩、7七歩、9六香、9四角」


 先手玉は“詰めろ”がかかっている状態で、受けなし。 後手の勝ち。



 「7四歩、7二歩、7三歩成、同歩、7四歩、同歩、7三歩」が正解でした。 




 【追記: 新たに見つかった、本当の答え !!!】

 緊急に「追記」します。

 「将棋の終盤の奥は深い」と言いますが、まあ、びっくりです。「シンプルですっきりした答え」になるのでこれを「次の一手」に採り上げたつもりでしたが、この問題の答えがひっくりかえされるとは!

 実は、いま(15日朝=解答編の本記事をアップした2日後)、作者の中で、「次の一手 問14」の答えが間違っているのではないか、ということになっています。まだ詳しくは調査中なので、結論はこの先も動くかもしれませんが、いま現在の“新しい結論”を追記して以下に書いておきます。 宜しくお願いします。


追記図1
 これは「出題図」より、7四歩、7二歩、7三歩成、同歩、7三歩、としたところ。
 これを「正解」として、そのつもりで僕はこの「次の一手 問14」を出題・発表しました。

 ところが――

追記図2
 上の図から、9七歩という手があります。
 後手の“悪あがき”にしか見えない感じのこの手ですが…

 以下、7二歩成、9二玉、9七香、と進むところでしょう。で、次の図。

追記図3
 ここから、9八歩、同玉、9六歩。

追記図4
 この図がなんと、「後手勝ち」ではないかというのが、驚愕の新展開。
 この図で、9六同香は先手玉が“詰み”。 (これにまずびっくり)
 9六同金は7七銀で後手勝ち。
 このままなら先手玉は詰みませんが、7三銀成など、銀か金を渡すと8九飛成から詰みます。
 そこで、図で最有力なのは8一と。(この手は次に8二と、同玉、7三銀成、9二玉、8四桂打以下の詰めろになっている。) 僕はこれで先手が勝ちだろうと調べていたのですが、結論が途中でひっくり返されました。 どうやら、8一とも、9七歩成、同玉、8一玉で、先手負けではないかと今は考えます。

 
 まだ、この新事実が見つかったばかりで、しっかり検証が必要です。(今の自分の結論が間違っていて、やっぱり「先手の勝ち」だったら作者の立場からするとむしろありがたいのですが。)
 あらためて訂正記事を書くことになるかと思います。


 というわけで、いま(15日朝)の時点での、この「次の一手 問14」≪問題図≫の真の“答え”は、

 「正解手はなし、≪問題図≫は後手良しの形勢」

 ということになります。



 もしもどなたか、「追記図4」から先手勝てる順をみつけた方がいらっしゃったら、ぜひそれをお教えください。
 結果的に、答えのない「次の一手問題」を提出したこととなり、お詫びいたします。
 取り急ぎ、追記しました。
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次の一手 問14

2014年11月11日 | 次の一手
 「次の一手 問14」です。
 この問題図は、去る11月5日に行われた女流プロのタイトル戦倉敷藤花三番勝負「甲斐智美-山田久美戦」第1局の終盤の、実際にはその対局に現われなかった筋を研究していて出現した局面です。


 ヒント:
 先手玉も後手玉も共に詰みなし。
 先手玉は後手から(歩や銀など)7七に駒を打たれると危なくなるのでその筋に気をつけること。
 8九飛成からの詰み筋にも注意しよう。



 答えの発表は、2日後を予定しています。




【倉敷藤花三番勝負「甲斐智美-山田久美戦」第1局から】


甲斐-山田80手
 これがその倉敷藤花「甲斐-山田戦」。 図は80手目、後手の挑戦者山田久美女流が5六角と打った場面。
 結果的には、この5六角では4二銀が正着で、それなら後手が優勢を保てたと局後、結論された。(しかしここで5六角と打ちたい気持ちは多くのアマチュア棋士も共感するところだろう。)
 先手の甲斐智美倉敷藤花は、ここで「5三桂不成」。 これを5三桂成は3四角と桂馬を取られて自信がなかったので、「不成」としたのだった。「不成」なら、次に4一の金も桂馬で取れる。
 ここで山田さんは3八角成から攻めていった。ずっとこの攻めを考えていただろうしその気持ちはよくわかる。
 しかしここでも3四角と踏みとどまるのが正着、というのが彼女らの局後の感想戦での結論だったようだ。そして3四角なら「千日手が濃厚」ということになったらしい。

 実戦の進行は、「5三桂不成、3八角成、同玉、4七金、2八玉、3八飛、1七玉、2八銀、2六玉、3七銀不成、3五玉、4六銀不成、4五玉」。


甲斐-山田93手
 ここから、「3五飛成、5四玉、6二歩」と山田さんは追ったが、結局甲斐さんの玉を捕まえることはできなかった。


 さて、この図で、「3四飛成、同玉」として、この先手の玉は捕まえられなかったか、というのが筆者の今回の「研究」のテーマである。

研究図1a
 「3四飛成、同玉」に、「4二金」でどうだ。(4二金に換えて、3三桂や、5二金も考えたいところ。)
 ソフト「激指」はこれで後手優勢とずっと前の局面から判断していた。これが「激指」の読みの“本線”らしい。こういう展開(玉を堅くして小駒だけで攻める)はソフトの得意とするところだ。人間は飛車も角もないこういう細い攻めは不安になるので本能的に避けたがる。とはいっても、本局の場合、居飛車側は、3五飛成では全然駄目だったので、これを選ぶしかなかった。
 しかしソフトだって、間違いはたびたびある。 この図、「激指」も初めは「後手優勢 -500」くらいだったが、じっくり数十分考慮させると、そのうちに数値は変わり「互角 +287」となった。
 本当のところはどうなのか。


研究図1b
 さて、その図面を180度回転して、以下、便宜上先手後手を入れ替えたこの図面からあらためて考える。

 ここで後手(実際は先手だったが)はどう指すか。
 5九飛が有力だ。(他に8五玉が有力。 なお、4九飛は、5七金で先手が良くなる。)

 
 「5九飛、7七金、8五玉、7六桂」と進む。


研究図2
 次に8六金からの“詰めろ”だ。  そこで後手は「9五歩」。端に逃げ道を広げた。


研究図3
 9五歩には「9六歩」が正着で、これ以外の手は負けになる。たとえば8六金、9四玉、9六歩とすると、そこで7七歩が必殺の返しワザ。(下、参考図)

参考図
 これは8九飛成からの“詰めろ”だし、この歩を7七同銀左と取るのも、8九飛成、同銀、同竜以下詰んでしまう。先手負けだ。

 先に9六歩なら、その時に後手は7七歩とはできないから他の手を指さなければならない。
 「6八角」と指すとする。これは次に7七角成をねらっている。先手9五歩なら、7七角成で後手が勝つ。
 そこで、先手はそのねらいをはずしながら「8六金」と出る。これは“王手”だ。


 「研究図3」から、「6八角、8六金、9四玉、9五歩、9三玉、9四歩、8二玉」で、次の図となる。
 (8六金に同角成は、同歩、同玉、7七角、7六玉、5九角で先手勝勢になる。)


研究図4(=出題図)
 これが今回の「次の一手」の問題図です。 “正解手”を指せば、先手が勝ちになります。



 (大山名人杯)倉敷藤花戦の棋譜・ブログはこちらでどうぞ。
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次の一手 問13 答えあわせ

2014年11月09日 | 次の一手
                              「次の一手 問13」 ≪問題図≫



≪解答図≫

 問題の出題時に、18通りもの候補手を挙げたのですが、正解は一つ。7五金でした。

 
 ≪問題図≫では、やはりだれもが思いつく手は、7五に“銀”か“金”を打つ手ではないでしょうか。けれども、“銀”を打つか、“金”を打つか、それが運命の分かれ道、なのでした。
 「激指13」との実戦では僕は“銀”を打って、「7七桂成、9八玉、7一角」と応じられたときに、そこで手がなくて困ったのです。時間無制限でやっていたので、「7五銀」と打つ前にもっと考えるべきでした。
 しかしどうしても、“勘”で、“金”を残しておきたくなりますよね。だから深く考えず「7五銀」を選んだ。
 そしてその将棋を後で検討すると他にもいろいろな手があって、驚き、そして面白かったので、そのエッセンスを「次の一手問題」としてみました。


 18通りの候補手のすべての解説を書くのは大変なので、次の手について解説することにします。

 (P)7五金(正解手)
 (Q)7五銀
 (R)7五角
 (S)6四銀
 (T)6四角
 (U)6一竜
 (V)8二角
 (W)7六金
 (X)6八金
 (Y)9八玉



(P)7五金(正解手)

7五金図1
 「7五金」(銀の時も同じですが)には、後手は7一角または8二角で受けるしかありません。
 その前に、後手は「7七桂成、9八玉」としておき、それから「7一角」とする。(この7七桂成、9八玉は、先手の6八銀打などの受けの選択肢をなくす意味がある。)
 で、次の図。

7五金図2
 ここが問題で、ここで先手に決め手があるか。
 ―――あるのです!

7五金図3
 「6二角」。 これで先手の勝ち。
 この時に“銀”を手元に持っていることが重要なのです。だから「問題図」で7五には“金”を使った。
 これを6二同角と取られた時、そこで“銀”を持っていれば、“8二銀”と打てる。 持駒が“金”だと、そこで困る――というわけ。“銀”があるので、6二同角、8二銀、9二玉、6一竜、同銀、9三金で先手の勝ち。

 この図(6二角)から、後手が7八歩と来た場合をさらに検討します。
 「7八歩、7一角成、同金、8二角」 

7五金図4
 ここで「8二角」として、先手が勝てます。
 この手で7一同竜とうっかり取ると、8九角から先手玉がとん死で逆転負け。
 また、8二角を8二銀とした場合も、やはり逆転負けとなる。8二銀には、9二玉とされて詰まない。
 図の「8二角」の後は、「同金、9一竜」。 後手は金を持っていないので“詰み”です。


7五金図5
 さて、こんどは、「問題図」から正解手「7五金」まで戻って、後手が「8二角」と応じた場合を検討します。
 後手が今度は7七桂成、9八玉を入れなかったのは、8二角、同桂成、同玉の後の7四歩という先手の攻めの選択肢をなくすためです。しかしそれでも先手の明解な勝ちとなります。
 「8二角」には、「同桂成」でよい。
 角を受けに使った後手は、そこでやはり7七桂成~7八歩くらいしか攻めがありません。結局「7七桂成、9八玉」と進みます。

7五金図6
 ここで後手7八歩なら、先手は6一竜と切って、同銀に8三成桂、同玉、7四角以下の“詰み”。
 ですので、後手「8二玉」としてみます。

7五金図7
 それには、「6二角」が決め手。次に7一角打からの“詰み”があります。
 「7一歩」と受けても、「6一竜、同銀、7三角成、同玉、6四角、7二玉、6三銀」

7五金図8
 “詰み”です。



(Q)7五銀

7五銀図1
 ≪問題図≫から「7五銀」では本当にダメなのかどうか。それを考えてみましょう。
 「7五銀、7七桂成、9八玉、7一角」

7五銀図2
 ここで(a)6二角は、同角と取られて、そこで同桂成くらいしかなく、それだと後手の7八歩が“詰めろ”(角をもっている)になるため、はっきり先手の負け。
 (b)6二歩は、やはり7八歩で、以下6一歩成、7九歩成で速度負け。 後手勝ちです。

 ほかに手段はないのでしょうか。
 (c)6二金、(d)7八歩、(e)6四銀をそれぞれ検討します。

7五銀図3
 (c)6二金は、後手が(b)6二歩の場合と同じように7八歩なら、7一金で先手が勝ちになります。7一金の時には8二角からの“詰めろ”ですし、7一同金、同竜と後手が金を手にしても、先手玉は詰みません。
 では、(c)6二金は先手勝ちなのか?  いえいえ。7八歩が間違いなのです。

7五銀図4
 (c)6二金には、8五桂が正着。
 今度7一金は、同金、同竜の時に、9七桂成があります。同玉以下、9六金打~8七金として先手玉が詰みます。
 先手が(c)6二金と打ってきた時、後手は金の入手が確実となるため、7八歩ではなく8五桂を選べばよいということです。(しかし将棋の終盤は繊細ですなあ。)

7五銀図5
 次は(d)7八歩です。これはどうなるか。
 「7八歩、同成桂、同銀、同金、8八金、同金、同玉、8五金、5二銀不成、7五金」

7五銀図6
 こう進むと、この図は先手玉が次に7七銀、同玉、6五桂からの“詰めろ”になっています。それを受けて7八歩などとしても6八銀で、先手勝てません。“一手一手で勝てない”という状況です。


7五銀図7
 (e)6四銀はどうでしょう。 この手のねらいは、次に6一竜、同銀、7三銀成と、もう一つは駒を蓄えてからの7五角、8四歩、同角、同玉、7五金の攻めです。
 「7八歩、6一竜、同銀、7三銀成」

7五銀図8
 先手が6一竜切りからのねらいを実行したところ。
 ここで8一飛の受けは、8二金で無効です。先手玉は一枚なら金を渡しても詰まないのでこの攻めが成立する。
 またこの図で8三飛も後手負けです。8三同成銀、同玉、8一飛以下、“詰み”があります。
 では、どう受けるか? 「7二銀」という受けがあります。同成銀なら、後手の“詰めろ”が解除され、7九歩成で後手勝ちに。 

7五銀図9
 しかしそこで図のように「8二桂成」という手がある。これを後手同角なら、8四角、同玉、7四金以下の“詰み”。 7三銀は8三金の一手詰め。
 だが、後手にもさらに“秘術”がある。
 「8七成桂、同玉、7七飛、9八玉、8二角」 

7五銀図10
 成桂を捨てて、飛車に置き換える。こうしておいて8二角と取れば、今度は後手玉の詰みが解除されている。
 ここで先手に有効手がありません。8二成銀にも、7二成銀に対しても、後手は7九歩成として「勝ち」となります。

 なお、(e)6四銀に対して7八歩を検討しましたが、そこは8五桂でも後手優勢のようです。


 以上のように、「問題図」で(Q)7五銀では、どうやら先手に勝ちがありません。


(R)7五角

7五角図1
 ≪問題図≫からの「7五角」を検討します。
 7五角には、「8四歩」しかありません。そこで先手の手番ですが、どうするか。8二銀、8三玉、6四金は、7七桂成、9八玉、7六角で後手勝ち。

 「7五角、8四歩、6八銀打」としてみましょう。以下、「7七桂成、同銀、同金、同玉、4四角、6六歩、8五金」で次の図。 

7五角図2
 ここまでの手順で、後手が「4四角、6六歩」を入れずに単に8五金と指すのは、そこで“8二金”で形勢不明の展開となります。あとからの4四角では、6八玉とされます。(ここがむつかしいところ)
 本筋の4四角には、7八玉は9九角成(次に7六香がある)、6八玉なら5六成桂で後手優勢です。
 この図で、「8二金」と打つのが先手の勝負手です。後手は「7五金」と角を取りますが――

7五角図3
 ねらいの「6一竜」。 同銀とは取れませんね。
 すると先手の勝ち? いえいえ。
 6一竜に、「6六金」で、後手の勝ちとなります。この6六金は、玉を逃げると詰むので、「6六同竜」しかありません。

7五角図4
 そこで「4九角」。 以下、「5八桂」に、「6六角」が“詰めろ”になっており、同玉と取っても6五飛以下“詰み”なので、後手勝ちが確定です。

 (追記: 「7五角、8四歩、6八銀打」にはそこですぐ4四角とするか、または5六成桂と指すほうが、後手としては、解説した順よりもより手堅くて優るようです。解説の順は4四角に5五桂合が少し気になる変化です。)

 というわけで、(R)7五角も先手勝てません。 


(S)6四銀

6四銀図1
 「6四銀」を調べます。
 これには5七角も有力ですが、これは相当きわどい変化になり、自分の調べでは後手が勝ちと出ましたが確信はありません。
 やはりここでも「6四銀」に、「7七桂成、9八玉、7一角」が有力です。

6四銀図2
 この局面から、次の2通りの手段を見ていきます。
(f)7五角、8四歩、5二銀
(g)7八歩

6四銀図3
 「(f)7五角、8四歩、5二銀」と進んだところ。後手は「7八歩」。
 6一銀不成からの攻めでは明らかに間に合いません。しかし先手のねらいは6一銀ではないのでした。
 「6一竜、同銀、6三銀成、8三飛」
 6一竜、同銀、6三銀成と、こう銀を使っていくのがねらいでした。6一竜は、8四角、同玉、7五金、9三玉、8四金からの“詰めろ”なので後手はこれを手抜きできません。6三銀成も“詰めろ”。
 そして後手は飛車しか持っていないので、8三飛と受けます。

6四銀図4
 さらに、ここから「8二桂成、同角、7四金」と迫ります。これも“詰めろ”。
 
6四銀図5
 しかし後手にも受けがあった。「6二銀」。
 銀を渡すと先手の玉は8九銀で詰んでしまうし、6二同成銀なら、7九歩成で後手の勝ちになる。先手の攻めは迫力があったが届かなかった。

6四銀図6
 「6四銀図2」まで戻り、「(g)7八歩」を調べよう。
 これも後手に分のある闘いとなるが、ここでの応手を誤ると形勢がひっくり返る。
 「7八歩」に対しては、“同金”が正解で、“同成桂”だと逆転してしまうのです。

6四銀図7
 前の図から、「7八同成桂、7五角、8四歩、6一竜、同銀、7三銀成、8一飛、8二金」と進んだのがこの図。これだと先手の勝ちになっています。
 この図の先手玉の形。金を一枚(または飛車)を後手に渡しても先手玉は詰まない形になっている。 そこがポイントととなるところで、これが“7八金”と取った形だったら、飛車を後手が持った瞬間に、8八飛で先手玉が詰んでしまっていたから、先手のこの攻めは成立しなかった。だから“あそこ”(6四銀図6)では、後手側は7八同金が正解だったというわけ。

 その「6四銀図6」に戻って、「7八同金」だと、その後は、以下「同銀、同成桂、8八金、同成桂、同玉、8五桂、8九桂、7七歩」と進みそう。
 それが次の図 

6四銀図8
 後手優勢。
 
 
 このように、(S)6四銀も後手が良くなるようです。


(T)6四角

6四角図1
 次は「6四角」。 
 これに対しては、作者の研究では、後手は「7七桂成、9八玉、6六角」とするのがよい。次に7八金が“詰めろ”になる。この「6六角」は、先手のねらいの攻め、6一竜、同銀、7三角成も封じている。飛車を渡したらその瞬間に8八飛から先手玉は詰まされてしまう。
 そこで先手は「7五銀」でどうか。

6四角図2
 この場面はしかし後手が優勢。 後手は、8七成桂(同玉に9九角成)でもよいし、7五同角でも勝てる。
 「7五同角」のほうを見ていきます。「7五同角、同角、8四歩、5三角成」。

6四角図3
 この5三角成は、次に7一角をねらっています。でもこれは詰めろにはなっていないので、後手は「7八歩」。
 7八歩では、7八銀でも後手が勝ちになりますが、先手に銀の“質駒”を与えない意味で7八歩のほうがより安全です。
 「7八歩」以下は、「7一角、同金、同馬、8三玉、7八銀、同金、7二馬、7四玉」
 7二馬を同玉だと、6一竜以下、詰んでしまうので注意が必要。

6四角図4
 後手玉は詰みません。6四金には、7五玉と逃げる。

 ということで、(T)6四角は後手勝ちとなります。



 ここから後の解説は簡単にいきます。


(U)6一竜

6一竜図

 ≪問題図≫ですぐに「6一竜」は、「同銀」と取られて先手負けになります。
 この時、後手は「飛角」を手にしているので、先手玉が7七桂成、9八玉、8七成桂、同玉、8六飛からの“詰み”が生じています。なので「6一竜、同銀」に、7五銀としたいのですが、それも8七桂成、同玉のあと、7六角、同玉、7七飛で“詰み”。


(V)8二角

8二角図1
 この図は≪問題図≫より、「8二角」と打って、以下「8四玉、6四銀(詰めろ)、6六角(詰めろ逃れ)」と進んだところ。
 この局面は後手の勝ち将棋になっています。
 「6一竜」としても、(これを同銀だと先手勝てるが)「7七桂成、9八玉、6一銀」で後手が良い。「8五」に空間をつくるのがポイントです。 以下「7三角成、8五玉」(次の図)と進めてみるが…

8二角図2
 先手玉は8八飛からの“詰み”がある。対して後手玉は、9五馬としても詰まない。

 なお、前の図(8二角図1)から9一角成なら、7七桂成、9八玉、7八金でやはり後手の勝ち。


(W)7六金

7六金図
 「7六金」には、「7七桂成、同金、同金、同玉、7六歩」で、後手優勢。
 7六同玉なら8五角、6八玉なら、5六成桂。


(X)6八金

6八金図
 「6八金」は、5六成桂で後手優勢。
 また、7七桂成、同金、同金、同玉、7六歩でも後手が良い。(これは上の「(W)7六金」と同じ変化になる。)


(Y)9八玉

9八玉図1
 「9八玉」には、7五角と打って、9七をねらって後手良しです。
 以下、「8八銀打」には、「9七桂成、同銀、同角成、同玉、8五桂、8八玉、7七桂成、9八玉、7六銀」。

9八玉図2
 これで後手勝ちとなります。8八金の受けには、9六金です。
 ただし、いまの手順で、最後7六銀のところ、9六金だと「形勢不明」になってしまいます。
 7六銀にかえての9六金には、7五角、8四歩、8五桂、8三玉、6五角という返しワザがあるのです。(次の図)

9八玉図3 (後手寄せを失敗の図)
 6五角は“詰めろ逃れの詰めろ”。(厳密にはここで9五歩としてまだ後手良しか)
 しかし、将棋の終盤は気が抜けないですね。

 


 以上、調べてきたように、正解手「7五金」以外の手では、先手勝てません。



 「次の一手」問題を作成するときは、なるべくシンプルにつくるように心がけているのですが、シンプルにつくったつもりでもこの問題図のように、調べてみるととてつもない変化のふくらみを持っています。
 一つの局面の変化を調べるのに、だいたい20時間を必要とします。(以前は30時間くらいかかった)
 この20時間というのは、つくった局面がうまくいってその局面を変更することがなかった場合の話で、局面をいじって変更する場合にはまたそこから“やり直し”になるので、2倍、3倍の時間がかかります。
 ソフトを利用しても一局面を調べるのにこれだけの時間がかかるのですから、プロ棋士が一局の将棋を5時間とか6時間の時間をかけて精一杯読んでも、読み切れないのは当然のことですね。
 そんなことを思います。


 江戸時代の対局は、家元の対局でも朝から始めて夕方までに終えるのが基本で、それで終わらないこともあったとは思いますが、基本は一日で指していたのだと思います。(はっきりとした根拠はないです。)
 1937年に実力制名人戦(リーグ戦)がスタートしますが、その時の持ち時間は各15時間で、2日制です。今で言うA級リーグに当たりますが、総当たりそれぞれ先後入れ換えての2局ずつの対局すべてがこの持ち時間です。 いま、名人戦は2日制で持ち時間各9時間です。それを考えるとこの2日制各15時間というのは超ハードな対局ですよね。それでも、将棋の手をとことん考え始めると、才能ある人でも、15時間あっても全然足らない、読み切れないということが、なんとなくですが「次の一手」を作りながら僕にもわかってきました。
 戦後すぐの1946年の名人戦「木村義雄vs塚田正夫」は、持ち時間各8時間で1日制。これもなかなかハードです。スポンサーの新聞社の経費削減のためにこうなったようです。
 順位戦の対局は、昭和の時代はもともと持ち時間は各7時間だったはずですが、今は6時間ですね。6時間に変わったのはいつでしょう? 1980年頃かな?
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次の一手 問13

2014年11月05日 | 次の一手

 「次の一手 問13」です。

 これは自分の対「激指13七段」の「飛香落ち」の対戦をもとに作成しました。(もちろん僕が下手です。) その実戦は、僕のほうに勝ち筋がいくつかあったのですが、この問題図ではそれを整形して“正解は一つ”になっています。

 駒落ち(飛香落ち)なので、盤上・駒台に飛車が一つしかありません。
 そして駒落ち将棋は上手(図でいえば上側のほう)が“先手番”であり、正しくは下手・上手という言い方で呼びますが、便宜上、ここでは下手→先手、上手→後手、として表すことにします。


 今回は、以下にヒントをたっぷり書くことにしました。(解答者を幻惑する戦略です。)


【ヒント】

 まず、≪問題図≫で、5二銀不成や、6二歩という手は先手勝てないことを確認します。
 (5二銀不成を、同金と取ってくれると、7五角、8四歩、9一竜から詰むのですが…。)

 ≪問題図≫から、5二銀不成、7七桂成、9八玉、7八歩と進んで、次の図。

失敗図
 この図は先手玉が、次に8九角からの“詰めろ”になっています。
 この「7七桂成、9八玉、7八歩」が基本的に後手のねらう攻め筋で、これよりも速く後手玉を追いつめるか、あるいは受けるなどして後手のこの攻めを防ぐか遅らせる必要があります。
 まあ、できれば攻めたいところ。
 ≪問題図≫ではまだ先手玉に“詰み”はないので、後手玉に“詰めろ”をかけて、その時、後手に受けがなければよい。


 そこでまず、(ア)8二角という手を考えてみます。8二角、8四玉に、6四銀(ヒント図1)としばって、さあどうか。

ヒント図1
 これは次に7五金までの詰みがあるので、たとえば後手が6六角と打ったとします。そこで先手は6一竜。 同銀なら、7三角成、9三玉、8四金、同歩、8二馬までの“詰み”。


 (イ)8二銀として8四玉に6四角と、角と銀とを逆にする手段も考えられますね。


 3番目の候補手は、(ウ)7五銀です。これも“詰めろ”ですね。8二角からの“詰めろ”を受けるためには、後手は7一角(または8二角)くらいしか手段がありません。(ヒント図2)

ヒント図2
 後手に角を使わせたため、先ほど紹介した後手からの「7七桂成、9八玉、7八歩」の攻めが“詰めろ”にはなっていません。つまり先手には“2手”の余裕ができたのです。といっても、次に7九歩成とされるともう受けがないので、緊迫する場面です。
 さあ、ここから寄せがあるかどうか。

 ≪問題図≫から、(銀ではなく)(エ)7五金(オ)7五角も考えたいところ。
 「(オ)7五角」には、後手は8四歩と応じる一手になります。(8四角は8二銀以下詰みなので)

 

ヒント図3a
 (カ)6四銀(図)もあります。これも8二角以下の“詰めろ”。
 6六角と後手が受ければ、6一竜、同銀、8二角からの“詰み”。これがねらいです。
 しかし6六角ではなく、5七角や、7一角と受けられてどうでしょう。
 5七角は、逆に先手玉への“詰めろ”になっています。(7九角成、同玉、7八銀…) そこで先手は6八歩と受けてどうか。以下、7七金、9八玉、7八歩と進めば…
ヒント図3b
 そこで6一竜。 この図になれば、“先手勝ち”。


 銀に変えて、≪問題図≫からの(キ)6四角もあるかもしれない。


ヒント図4
 いや、そもそも≪問題図≫から、いきなり(ク)6一竜という手もあるのではないか?


ヒント図5
 (ケ)7六金という手。
 これも後手玉への“詰めろ”だし、しかも7七への受けにも利いている。


ヒント図6
 (コ)3三角。 これは受けの手だが、7七桂成なら、9八玉とし、7八歩には、8八銀、同成桂、同馬と応じる。次に先手から7六桂と打てば、後手玉の脱出が阻止できる。


ヒント図7
 (サ)6八金は地味ながらも有力な手。6八同金、同銀となれば、後手の金が盤上から消えて、この瞬間、6一竜、同銀のとき、後手玉が8二銀、8四玉、7三銀不成、同玉、8二角以下の“詰み”になっているのだ!


 類似の手で、≪問題図≫からの(シ)7八金(ス)6八銀(セ)7八銀も挙げておく。


ヒント図8
 (ソ)9八玉はどうか。


 他に、(タ)4九角(チ)3七竜(ツ)9六歩という候補手があります。



 以上(ア)~(ツ)の18の候補手のうち、一つだけが正解手です。


 解答編は、1週間以内にと思っています。



【余談 「VS激指 飛香落ち」のことなど】
 僕は時々ソフト「激指13」を相手に、「飛香落ち」で挑んでいます。
 初め勝率は1割でしたが、最近は3割くらいは勝てているのではないかと思います。何度もやっていると相手の攻め筋が見えてくるので、だんだんと対応できるようになり、「うまくやれば勝てる」という試合運びが出来てきています。ところが「激指13七段」の中終盤の力がすごいので、まだひっくり返されることが多いのですね。
 この「次の一手 問13」のもとになった対局も、後で調べると勝ちがいくつかあったのにそれを逃して負けました。
 「飛香落ち」で5割以上勝てるようになったら、どこかの大会や道場に行って、プロ棋士に指導対局を申し込みたいと考えています。そしてゆくゆくは現役A級棋士に「飛車落ち」で勝ちたい。
 僕はもうずっと前になりますが、当時のある現役A級棋士(“す”ではじまる名前の…)との指導対局のチャンスがあって、「角落ち」でお願いしたことがありますが、A級棋士に角落ちなんて、まったく無謀なことをしたものです。15面指しとはいえ、あのレベルに「角落ち」ではまったく勝ち目がないことは今となってはよく判ります。あっさりと負かされました。
 そういうトップ棋士と自分との距離感が見えてきたのも、「激指」のような強いソフトが手元にあるおかげ。

 10年後のプロ将棋界はどうなっているのでしょうね。
 ネット環境もありますし、「激指」のような便利なトレーナーもいるので、田舎の将棋少年の“力”は飛躍的に伸びていくことでしょう。そのことが新しいプロ棋士達の層を厚くすることになると思います。
 しかし同時に、ソフトを練習パートナーとして力をつけてプロになる者がどんどん増え、その結果の表れとして、対局中にこっそりトイレでソフトを使用して難解な詰み筋を確認する、というような事件がかならずいつか起きると思います。それをやるのは、いまの棋士ではなく、将来プロになる新世代の棋士でしょう。
 今竜王戦で活躍中(森内竜王に2勝)の糸谷哲郎さんは、対局中に席を立って気分転換するのが彼のスタイルのようです。彼がソフトを使っているなんてことは絶対にないと思いますが、ああいう行動が疑われるようになる時期が来るでしょう。そして、いつかそういうことを本当にやってしまう棋士が出てくると思います。だって、最新のソフトは今、1秒に700万手読むらしいじゃないですか。(自分はどうだろう? 1秒に5手読めるかなあ…)
 まあ、将棋界の見物人である私たちにとっては、それが起きたとしても、「面白い事件」にすぎないわけですが。

 羽生名人はいま44歳。
 過去の一流プロ棋士を見てみると、だいたい46~48歳が“まがりかど”なんですね。木村義雄名人が大山康晴に名人戦で敗れ、引退したのが48歳の時。大山康晴は48歳の時に五冠王(全冠制覇)だったが、その年の秋から徐々にそのタイトルを中原誠に奪われてゆく。その中原誠名人の最後のタイトル戦登場は46歳の時だった。谷川浩司のタイトル戦登場は2006年の名人戦以来ないが、これは谷川さんが44歳の時のこと。加藤一二三の最後のタイトル戦は45歳。
 (追記しておきます。タイトル戦登場の年齢の上限についてさらに調べました。塚田正夫が48歳、升田幸三が53歳、二上達也が50歳、内藤国雄が43歳、米長邦雄が50歳、そして大山康晴が63歳です。)
 こう考えると、羽生世代の力のピークは“いま”なのです。あと2年するとそこから衰え始める可能性が高い。
 だとすれば、「羽生善治や森内俊之や佐藤康光が最強将棋ソフトを打ち負かすところを見たい」という、私たちの願望が実現する可能性のあるのは、もう数年のチャンスしかないのです。


 ところで、昨日、『将棋世界』12月号を買いました。その中に羽生さんと若島正さん(詰将棋作家として有名な人、プロ棋士ではない)の対談が載っているのですが、そこで若島さんはこんな発言をしています。
 「実は最近詰将棋を作るのに、少し考えてものを作るようになりました。詰将棋は考えなくても作れるので…」
 なんなんだ、この人は! 
 若島正さんはいま62歳で、10年ほど前から行われている詰将棋解答選手権の主催者ですが、本年度は選手として参加され、なんと61歳の若島さんが優勝をかっさらうという仰天の結果。プロ棋士の広瀬章人、宮田敦史、船江恒平も押さえての1位です。バケモノか!
コメント (3)
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