≪最終一番勝負 第32譜 指始図≫ 8七玉まで
[スーザンは“負け組”なのか]
「イブのむすめ、スーザンよ。これがあなたのだ。」サンタクロースはひとはりの弓と、矢をいっぱいいれた矢筒と、小さな象牙の角笛とをスーザンに渡しました。「どうしてもやむをえない時だけこの弓を使わなければいけないよ。戦いに出て戦えというわけではないからね。この弓矢は、的をはずすことがない。またこの角笛は、くちびるにあてて吹く時、あなたがどこにいようとも、何かの助けがくるはずです。」
(『ライオンと魔女』)
みんなの目にふれたものは―――小さなチェスのこまで、形と大きさはふつうの騎士ですが、重さがふつうではありませんでした。純金でできていたのです。
(中略)
スーザンは「とてもたまらないわ。」といいました。何もかも思い出しちゃって――ああ、あの楽しかった時のこと、あのフォーンやよい巨人たちとチェスをやったことや、海で歌をうたった人魚たちやわたしの馬……まざまざ思いだすわ」
(『カスピアン王子のつのぶえ』)
「わが妹スーザンは、」とピーターはかんたんに重々しく答えました。「もはやナルニアの友ではありません。」
「そうですよ。」とユースチス。「ナルニアの話をしたり、なにかナルニアに関係のあることをしようと思ってスーザンを呼んでも、あの人はただこういうだけです。『あら、なんてすばらしい記憶をおもちなんでしょう。ほんとうに、わたしたちが子どものころによく遊んだおかしな遊びごとを、まだおぼえていらっしゃるなんて、おどろきましたわ。』って」
(『さいごの戦い』)
「じっさいに鉄道事故があったのだ。」とアスランがやさしくいいました。「あなたがたのおとうさんおかあさんも、あなたがたみんなも――影の国で使うことばでいえば――死んだのだよ。学校は終わった。休みがはじまったのだ。夢はさめた。こちらは、もう、朝だ。」
(『さいごの戦い』)
(C・S・ルイス著 『ナルニア国シリーズ』 瀬田貞二訳より)
7つの物語からなる「ナルニア国シリーズ」には、“ものいうライオン”であるアスランがつくったナルニア国を舞台にした“戦いのものがたり”で、この戦いに「人間の現実世界」から人間の子供たちが参加するという展開になる。
参加した“子供たち”は、ポリー、ディゴリー、ピーター、スーザン、ルーシィ、エドマンド、ユースチス、ジルの8人。彼らのナルニアでの冒険は、「よいナルニア国」の創造の力となり、彼らはナルニア国の歴史上の伝説の人物となった(ナルニアと現実世界とでは時間の進み方がまったく違う)
しかしその「ナルニア国」は、『さいごの戦い』で、くずれさり、しかしまた“新しいナルニア”が現れはじめる。その“新しいナルニア”の物語の参加者に選ばれた子供たちは、「鉄道事故」によって死亡するかたちで「現実世界」を去ることになり、新しい冒険に旅立って行った。
ただ一人、それに加わらなかった“元ナルニアメンバー”が、スーザン・ペベンシーである。彼女は、ナルニアで活躍した王女でありながら、意識的にか無意識的にかわからないが、そこから脱退し、「現実世界で大人になる」ことを選んだのである。
スーザンは、ナルニアの冒険に参加した4人のペベンシーきょうだいの一人であり、したがって「鉄道事故」によって、スーザンは3人のきょうだいとそれから父と母とをいっぺんに失い、「現実世界」にひとり残された。
“ナルニア視点”でみれば、彼女は、最後にアスランに選ばれなかった“負け組”ということになる(“スーザン視点”では、選考会への参加権があるのに興味を失い自ら権利を放棄したとみるべきところか。彼女は、現実世界の人々とともに生きることを選んだともいえる)
スーザンは、その後、どう生きたのであろうか。いま現実世界でいちおう大人になって生きている私たちからすれば、スーザンのその後の“冒険”こそ、共感のしやすい、身近な気になる物語かもしれない。
<第32譜 かくれていた好手 8九香>
≪最終一番勝負 第32譜 指始図≫ 8七玉まで
「最終一番勝負」は ▲8七玉 まで進行している。
今回は指し手の進行を止めて、この図の3手前に戻る。
研究調査で、新たに「かくれていた手」を発見したのでそれを紹介したい。
≪最終一番勝負≫(=3二歩図)
この図(3二歩図)である。今、先手の4一角に、後手が3二歩と受けたところ。
これまでの終盤探検隊の報告では、ここで先手は「8七玉」と「6七歩」の2択で、他の手はないとしてきた。
そしてここでの「8七玉」では厳密には先手に勝ちはなく(4一角を打つ前の8七玉なら細いが勝ち筋があった)、実戦で我々(終盤探検隊)が選択した「6七歩」が、当時読み切って指したわけではないが、正解だったと思われるのである。(8七玉で勝ちがないことは第29譜で示している)
ただし、ここにきて、我々の“戦後研究”もさらに進化し、この図での新たな手を発見した。
つまり、「第3の手」が存在したのだ。
8九香図
この手である。 「8九香」。
どうやらこの手で「先手良し」という結論も、先に書いておく。
この「8九香」は、先に先手玉の守備を強化し、次に3三歩成、同銀、5二角成の筋の攻めをねらっている。
(ただし、8七玉としてから決行しないとだいたい失敗に終わる)
参考図1
「8九香」と打つ前に、「3三歩成、同銀、5二角成」(図)と攻めていくと、どうなるか。
以下、5二同歩、3一飛、8一桂(参考図2)
参考図2
この図となって、先手が不利。8一同飛成、5四角、6五歩、8一角、同竜となった時に、後手の持駒は「飛桂」だが、先手玉は着実にその攻め駒で寄せられてしまう。
ただし、この後手の5四角の筋をくらっても、先手の玉の状況がもう少し安全ならこの先手の攻め筋は成立する。これを成立させるための、「8九香」という工夫なのである。
8九香図(再掲)
「8九香」に対して、これから見ていく後手の指し手の候補手は、次の6つである。
〔一〕6六と
〔二〕6六銀
〔三〕6九金
〔四〕7五桂
〔五〕7七歩
〔六〕1四歩
6六と基本図
まず〔一〕6六と(図)から調べよう。
以下、8七玉、7五桂に、9七玉(次の図)
6六と図01
7七とに、7六歩(次の図)
6六と図02
後手のと金は「7七」の位置がこの場合はベストポジション。「7七」の位置にと金が居ると、3三歩成、同銀、5二角成と攻めていくと、同歩の瞬間に、7九角と打たれる筋で先手玉が詰めろになる。
そこで、攻める前に7六歩(図)と工夫するのである。 7六同とと取らせて、そこで3三歩成、同銀、5二角成を決行。5二同歩に、3一飛(次の図)
6六と図03
もう何度も見てきた手順である。
ここで8一桂があるが、同竜と取る。以下、8七桂成、同香、同と、同玉、5四角で、“王手竜取り”がかかる。7六金と受け、8一角、同飛成(次の図)
6六と図04
この図は、先手良しである。
後手5四角からの「王手竜取り」がかかったが、この場合は飛車を後手にもたれても、先手玉がすぐには寄らない。
一例だが、ここから5七飛、7七歩、7五歩と攻めてきても、3一角、1一玉、2五桂が後手玉への“詰めろ”で、先手勝ちになる。
6六と図05
戻って、先手9七玉のところで、後手3一銀(図)が有力手のようだ。これをどう攻略するか。寄せの勉強のために見ておこう。
3三歩成、同歩、3四歩と攻略する(次の図)
6六と図06
3四同歩には、3三歩と打って、先手良し(3三同桂には5二角成)
なので後手は4四銀引とがんばる(3三歩成、同銀は後手有望)
そこで6一飛と打って、次に5二角成をねらう。4二銀引なら6六飛成がある。
後手は4二金で勝負するが、5一飛成、4一金、同竜、4二銀引に、8四馬(次の図)
6六と図07
これで次に3二金から後手玉は詰む。だからここで3二角が予想されるが、3二同竜、同銀、7五馬、7七飛、8七桂で先手優勢である。
〔一〕6六とは、先手良し。
[追記]6六と、8七玉に、9五歩、同歩、7七桂 が実は手強い手順で、それについての研究を次の第33譜(研究調査2)にて行っている。結果は「先手良し」ではあるが、評価値は[+500]くらいで、実戦的には互角に近い。
したがって、先手は「8九香」を選ぶならば、この変化を覚悟しなければいけないということになる。
6六銀基本図
〔二〕6六銀(図)には、〔一〕6六とと同じように8七玉で先手が良い。
8七玉、7五桂、9七玉、7七銀成と進んで、そこで7八歩と打つ(次の図)
6六銀図01
なお、この手で7六歩もあるが、8七桂成、同香、6六とで、次に7六とをねらう手がこの場合はある。ここが6六銀から攻めてきた場合の特徴だ(厳密にはそれでも8九桂、7六成銀、7七歩で先手がやれそうではあるが)
7八歩(図)は、やはり「7七」のベストポジションをくずす意味。7八同成銀でも、7六成銀でも、3三歩成、同銀、5二角成と攻めていけば先手良しになる。
だから後手は銀損覚悟で7六歩と応じる。以下、7七歩成、同歩成、7八歩、7六歩(次の図)
6六銀図02
先手は銀を得した。
「7八歩、7六歩」を再度入れたのは、そうすることで後手に「7六」のスペースを埋めさせて、あとで6六と寄~7六と寄のようなと金の活用を消した意味がある。用心深い配慮である。
さて、ここで先手はどう攻めるか。銀を得して、先手有利になっているが、7七歩では“千日手コース”でおもしろくない。
「7七と」が居ると、3三歩成、同銀、5二角成とは攻めていけないが……
ここは、3三歩成、同銀に、3一銀がある(次の図)
6六銀図03
いま得た銀をここに使う。3一同玉に、5二角成。この攻めなら、角を渡さず攻めていける。
以下、4二銀左に、3三歩(次の図)
6六銀図04
後手は4二銀左と受けたが、代えて4二銀右は4一飛、2二玉、3四歩で寄り。また4二銀打と堅く受けるのも、8五歩、7四金、5四歩で先手の攻めは止まらない(以下6二銀左、4一飛、2二玉、7五馬、同金、3四桂)
4二銀左と受けたのは、攻めのために銀を温存することと、3三からの玉の脱出を視野に入れた意味がある。しかしその手には、先手3三歩(図)がこの際の好手になる。これを同歩は、5一竜、同銀、4一飛から後手玉詰み。
3三歩に4一銀と受けても、3二歩成、同玉、3三歩、同桂、1一飛で寄り。
よって後手は4一桂と受け、以下、3二歩成、同玉、3三歩(同玉には4一馬)、同桂左、1一飛(次の図)
6六銀図05
1一飛(図)と打つ。後手は2一銀と受けるしかない。
そこで先手は9八金と受けを強化しておく。これは次に、2一飛成、同玉、4一馬と攻めていくための準備である。
後手は3一歩で、その順を先受けするが、それでも予定通りに2一飛成、同玉、4一馬(次の図)
6六銀図06
2二銀、同玉、3四桂からの“詰めろ”になっている。それを3八飛のように受けても、2四桂、同歩、2三銀が決め手になる。
だからこの図では、後手は2四飛しかなさそうだが、それに対しては、3五銀と打って、2七飛成に3四桂で、先手勝ちとなる。
〔二〕6六銀も先手良し。
6九金基本図
次は後手〔三〕6九金。
以下、8七玉に、7九金。8九に打った香車を取りに来た(次の図)
6九金図01
ここで3三歩成、同銀、5二角成と、先手の狙い筋の攻めを決行すると、5二同歩、4一飛に―――(次の図)
6九金図02
8一桂(図)で先手が悪い。
6九金図03
だからここで「5四歩」(図)と打つ。“敵の打ちたいところへ打て”の手で、後手がこれにどう応じても、もう後手からの“5四角”は打てない。
ここで後手の応手は〈a〉5四同銀、〈b〉6四銀左上、〈c〉6二銀左、〈d〉4四銀上とがある(5四歩を放置して8九金は後手悪い)
〈a〉5四同銀、または〈b〉6四銀左上なら、そこで待望の攻め「3三歩成、同銀、5二角成」が有効になる。
〈b〉6四銀左上で見ていこう。3三歩成、同銀、5二角成、同歩に、3一飛(次の図)
6九金図04
先手勝ちになった。
このような展開が、先手の狙い筋である。8九香は、こういう戦いのための準備で、先手玉に簡単に“詰めろ”がかからないように前もって受けた手なのである。〈a〉5四同銀、〈b〉6四銀左上なら、この筋で先手が勝つ。
6九金図05
「5四歩」に、〈c〉6二銀左(図)。 この手は「7一」や「5一」に受けが利く分、攻略が難しくなる。
それでも、3三歩成、同銀、5二角成から攻めていく。同歩に、4一飛。
以下、7五桂、9七玉、5一桂、3一金、1四歩(次の図)
6九金図06
後手が7一歩でなく、5一桂と受けたのは、先手に4三飛成のような活用をさせないため。
1四歩(図)で、後手は脱出口を開いた。どう攻略していくか。
2一金、1三玉に、3五金と打ち、2四歩に、2五桂、同歩、3七桂という活用があった。以下、2三玉、2五桂、4四銀に、2二金(次の図)
6九金図07
2二同玉に、5一竜(桂馬を入手)、同銀、3四桂、2三玉、2一飛成まで、ピッタリとフィニッシュできた。
6九金図08
〈d〉4四銀上(図)
この場合は、3三歩成としても、同銀引で、無効。
なので単に5二角成から攻めていく。同歩に、4一飛、3一角(これしか受けがない)、4五歩(次の図)
6九金図09
4五同銀は5三歩成、同歩、5二金と攻めていける。
よって、後手はここで攻めてくる。7五桂、9七玉、8九金、4四歩、同銀。
そこでどう攻めるかが問題になるが、5一銀と打つ手がある(次の図)
6九金図10
後手に銀を渡すと先手玉が8八銀から詰んでしまうから、この5一銀(図)の攻めはしっかりした読みがないと指せない手だ。
5一同銀なら、3一飛成、同玉、5一竜以下詰む。
よって、後手はここで1四歩。後手玉の逃げ道ができた。ここで4二銀成(不成)は、同銀、2一飛成、1三玉となって、先手がまずい。
先手は2五金。“待ち駒”だ。(これで次は4二銀成と攻めていけるし、相変わらず5一銀は3一飛成以下詰みだ)
後手はもう受けが難しいので、先手4二銀成よりも早い攻めを繰り出すしかない。
そこで、9五桂(先手玉への詰めろ)。 これを先手は同歩と取り、同歩に、8八桂と受ける(次の図)
6九金図11
先手が勝ちになったようだ。
後手はまだここから、8八同金、同玉、7六桂、9八玉、8七香で“詰めろ”が続くが、9七玉、8八香成、7七金と先手は受けて、それ以上は続かない。
〔三〕6九金も、先手良し。
8九香図(再掲)
〔一〕6六と → 先手良し
〔二〕6六銀 → 先手良し
〔三〕6九金 → 先手良し
〔四〕7五桂
〔五〕7七歩
〔六〕1四歩
参考図3
さて、「3二歩図」(「8九香」と打つ前の図)から、8九香と打たずに、5四歩と行くと、7五桂(図)と打たれる。
以下8五歩、6六と、8六玉、7四桂、9七玉、7七と、8九香、8五金、8七歩、8四銀となって―――(次の図)
参考図4
後手優勢。先手の5三歩成が間に合わない。図以下は8二馬、7六金、5五馬、4四銀で、後手優勢。
この後手7五桂以下の順を避けるために、「6七歩」と受けて、7五桂、8五歩の次の“6六と”と消したのが本譜の進行だった。
7五桂基本図
〔四〕7五桂(図)。
「8九香」と打った場合、この〔四〕7五桂への対策はできているのだろうか。これは、今回のテーマの最重要ポイントとなるところで、この結果が、「8九香」の手が成立するかどうかの命運を握っているといえる。
図以下、8五歩、6六と、8六玉、7四桂、9七玉と進む(次の図)
7五桂図01
ここが後手の分岐点で、[ア]8五金、[イ]7六と、[ウ]7七とがある。
まず[ア]8五金は、そこで3三歩成、同銀、5二角成の攻めを決行する(次の図)
7五桂図02
5二同歩は3一飛で、先手勝ち。
だからここで後手は7七と。放置して5一竜だと、8六金以下、詰まされてしまう。
先手困ったように見えるが、このピンチを切り抜ける好手がある(次の図)
7五桂図03
7五馬(図)である。急所の桂馬をはずした。
7五同金に、5三馬、8六金、同馬、7九角、8八歩、8六桂、5一竜(次の図)
7五桂図04
5一竜で先手が勝ちになったように思えるが、ここで9八桂成という妙手がある。同玉は7六角以下詰まされてしまうところだ。
したがって、9八桂成、同香と進み、6四角、7五歩、7六と、6五金(次の図)
7五桂図05
どうやら「先手良し」が確定したようだ。
7五桂図06
[ア]8五金は先手2枚の盤上の角が活躍して先手良しになった。
代えて後手[イ]7六と(図)ではどうだろう。
ここで角を渡すと7九角、9八玉、8六桂で詰まされるので、5二角成の攻めはできない。
よってここは8四歩とするが、後手は6六銀で戦力を足してくる。7七銀不成(成)を防いで先手は7八歩。
そこで6七銀不成には、3六飛の好手がある(7八銀不成には7六飛)
だから後手は7七歩。
先手苦戦に見えるが―――(次の図)
7五桂図07
9五歩(図)で、玉の上部脱出を図る。同歩なら、9四馬、7八歩成、9五馬で、9一の竜も働いてくる。
7八歩成、9六玉に、後手8四銀。
先手は9四馬(次の図)
7五桂図08
9四馬は、7六のと金の“取り”になっている。
後手は7七銀成とするが、そこで先手は5二角成がある! これを同歩は、8四馬、同歩として、3三金以下、後手玉に“詰み”があるのだ(3三同銀は2一飛成から、3三同歩は、3二金以下)
なので後手は5二角成を放置して8九と。以下、7四馬、8七桂成、7八桂(次の図)
7五桂図09
7八桂(図)で、“詰めろ”は受かっている(7八同成銀には7六馬がある)
ここで9九とには、8四馬左、同歩に、3三金から後手玉が詰む(3三金、同桂、同歩成、同玉、3四金、同玉、2六桂以下)
よって7二香と攻めるが、それでも8四馬左(次の図)
7五桂図10
以下、7四香に、8五玉(次の図)
7五桂図11
図以下、8四歩に、9四玉として、先手玉は安全になる。角二枚を渡したが、攻め駒は十分にあり、先手勝勢である。
[イ]7六との変化は、結果は、先手の“華麗な脱出劇”となった。
7五桂図12
3番目の手、[ウ]7七と(図)
8四歩から同じように8四歩、同銀と進むと、今度は9四馬ではと金取りにならないので先手が悪い。なのでこの場合は8二馬とすることになるが、それははっきりした先手の勝ち筋が見つからない。
7七とに対しては、「7八歩」と打つのが良い。これを後手はどう応じるか。
7六と では、上の変化にさらに7八歩をゼロ手で打った形になって先手良しは明らかだ。
7六歩なら、先手はそこで8四歩だ。以下、8四同銀、8二角成、6六銀に、9八金と受ける。
7五桂図13
「7八歩、7六歩」の手の交換が、先手にとって得になっていて、この図になれば先手良し。なぜかといえば、ここで後手は 7六とと引いて活用する手が指せない からだ。7六と~7七銀成が指せる形なら、先手が悪いところだった。
ここでは後手は7八としかなさそうだが、そこで先手は攻めていける。
3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛で、先手良し。
7五桂図14
したがって、先手の「7八歩」に、後手は 同と(図)とすることになる。
ここで8四歩は、8九と以下、はっきりしない。
なのでここは、すぐに「7六歩」と打って桂馬を取りにいく手を選択するのが優る。
以下、8九と、7五歩、8五金、7四歩、8四香(次の図)
7五桂図15
簡単に受かるように見えるが、意外と受けが難しい。
8七金 には、8八との妙手があるのだ。同玉は7六金で先手悪い。
なので8八同金だが、8六金、9八玉、7六歩(次の図)
7五桂図16
先手、受けが難しい。8七歩は7七金で寄せられる。
7八桂が最善かと思われるが、7七歩成、8六桂、8八と、同玉、8六香、8七歩に、8四銀、9四馬、8五桂で、これも後手が良さそうだ。
7五桂図17
戻って、後手8四香に対しては、2六飛(図)と打つのが正解手となる。後手の8六金を受けながら、3五桂の攻めを見せた攻防手。
これに対し“7六歩”(詰めろ)がある。それには、先手8七金と受ける。そこで8八と、同玉、8六金で先手困っていそうに見えるが―――(次の図)
7五桂図18
ここで8四馬がある。以下、8七金、同玉、8四銀、3五桂(詰めろ)は、攻めの手番がまわって先手良し。
7五桂図19
2六飛 に、“8六金”(図)以下を見ていこう。
8六同飛、同香、同玉、8四銀、9四馬、8八と、7六馬、6四銀引、3五桂(次の図)
7五桂図20
3五桂(図)は、3二角成、同玉、2四桂以下の“詰めろ”。
すでに先手勝勢といえるが、もう少し進めてみよう。
7五銀左には、9七玉とかわす。以下、4七飛、8八玉、2七飛成。これで2四桂以下の詰めろは消えた。
先手はどう勝ちを決めるかという場面。いろいろあるが、3三歩成、同銀(同玉には4五金)、3一金がまぎれの少ない決め方(次の図)
7五桂図21
3一同玉に、5二角成、4二金、5三馬、同金、5一竜、2二玉、1一銀、同玉、3一金(次の図)
7五桂図22
1一銀、同玉と捨てて、後手玉の1四歩~1三玉のような脱出の可能性を消して、図の3一金で“必至”となった。「角銀」と駒を渡したが、先手玉には詰みはないので、先手勝ちが確定。
これで[ウ]7七とも先手良しが判明した。
以上、〔四〕7五桂は、きわどい変化ばかりだったが、どうやら「先手良し」である。
7七歩図基本図
〔五〕7七歩(図)は、後手が“苦心して編み出した”という感じの手。
これを同玉と取るのは、7五桂で先手のその後の勝ち筋がはっきりしない。
「5四歩」が良いようだ(次の図)
7七歩図01
ここから、〔G〕6四銀左上と〔H〕4四銀上、〔I〕7五桂とを後手の有力手としてみていく。
まず〔G〕6四銀左上。この場合は単に5二角成とする。
以下7五桂(詰めろ)、7七玉、7六歩、8八玉、5二歩、4一飛、3一角、3七桂(次の図)
7七歩図02
3七桂(図)で、実は後手玉は“詰めろ”になっている。3三金、同桂、同歩成、同玉、3四歩以下。
後手はその詰めろを受けて、5一桂。
そこで6一竜が先手の好手。以下、6七と、9七玉、7七歩成、3三歩成(次の図)
7七歩図03
3三歩成に、後手がこれを何で取るかで攻め方を決める。3三同桂なら、5一竜、同銀、3四桂で後手玉詰み。
3三同歩は5二竜で、次に4二竜からの“詰めろ”。
そして3三同玉には、5二竜。以下、9五歩に、4二竜、同角、3四歩(次の図)
7七歩図04
以下、後手玉は“詰み”。
7七歩図05
「5四歩」に、〔H〕4四銀上(図)。
先手「5四歩」に、同銀や、6二銀引の場合も、上と同じように5二角成から攻めて先手が良くなるのだが、この〔H〕4四銀上の場合だけは、それでははっきりしないので、攻め方を変える。
この場合は、5二角成とすぐにいかず、6一飛(図)と打つのが良い。
対して、後手は3一桂(何も受けないと5二角成があった)
以下、7九歩、6六と、8七玉、7五桂、9七玉、7六とが予想される手順。
そこで「4五歩」と打つ(次の図)
7七歩図06
4五歩(図)を 同銀 には、3三歩成、同玉、6五飛成と指す。
以下8七と、同香、6四銀右上、6八竜となって(次の図)
7七歩図07
先手が良い。
よって、「4五歩」に、後手はこれを手抜きして攻める順を考える。6二金 という手がある。これは飛車をどかして、6九金とこの金を使う意味だ。
6二金、7一飛成、6九金、4四歩、7九金。
どちらの攻めが早いかという競争になった。先手玉は次に8九金で“詰めろ”がかかる。
先手はスピ-ドアップで、1一銀と攻めを加速させる(次の図)
7七歩図08
1一同銀に、3二角成、2二銀、4三歩成、同桂、3三歩成、同銀左、5一竜(次の図)
7七歩図09
飛車を渡しても先手玉はまだ詰まない。
なので5一竜(図)の攻めが利く。同銀に、3三馬、同桂、5一竜、2一飛、3二金で、先手の勝ちになる。
7七歩図10
先手「5四歩」のところまで戻って、後手〔I〕7五桂。
これは先手「5四歩」を相手をしないで攻めようという方針だ。
この手には、8五歩。 以下、6六と、8六玉、7四桂、9七玉、8五金、5三歩成、7六と、8七歩(次の図)
7七歩図11
これはどちらが勝っているか。後手玉はまだ“詰めろ”ではない(5二とが詰めろになる)
だから後手は“詰めろ”で先手玉に迫る必要があるが、6六銀 や 7八歩成 が詰めろでこれで後手が勝てそうに見える。
しかし 6六銀(や7八歩成)には、先手7五馬という切り返しがある。以下、同銀引に、5二と(次の図)
7七歩図12
こう進めてみると、はっきり先手勝ちになった。
なので後手は「7七歩図11」から、8七桂成 と攻めるしかなさそうだ。以下、同香、同と、同玉、8六金、8八玉と進む(次の図)
7七歩図13
ここで先手のおもな持駒は「飛金銀桂」となった。後手玉に“詰み”はまだないのだが、ここで後手が 6六銀 と指してくれば、6六同銀、同桂として、銀が一枚増えたことで、後手玉に“詰み”が生じる。
詰み筋は、3三歩成として、同桂は3四桂から詰み。同玉には、3六飛、3四香、4五桂、2二玉、3二角成、同玉、3四飛以下。そして同銀は、3二角成、同玉、4一銀、同玉、5二とから。
また、後手が「香車」を使って先手玉に“詰めろ”をかけてくれば、その瞬間、3三歩成から(同玉の時に3五飛に香車の合駒がないので)“詰み”が生じるのだ。やはり3三歩成、同銀、3二角成以下の筋で。
だからこの図で、後手が先手玉に“詰めろ”をかける手段は限られてくる。「香車を手放さず、6六銀以外の手で“詰めろ”をかける」という条件を満たさなければならない。
そうすると、どうやら、6六桂 しかないようだ。
しかし、6六桂 に、7九歩と受ければ、やはり後手は「香車」を使わないと攻めることができない。
つまり、この図はすでに「先手勝ち」になっているのである。
この図から、6六桂、7九歩、8七香、9八玉、7八歩成と進んで、以下後手玉の詰み筋を確認しておくと、3三歩成、同銀、3二角成、同玉、4一銀(次の図)
7七歩図14
2二玉なら、3四桂があるので、ピッタリ“詰み”。
4一同玉以下は、長手数になる。4一同玉、5二と、同玉、5四飛、5三角(銀)、5一竜、同玉、5三飛成、5二銀(角)、6三桂、4一玉、3二金、同玉、5二竜、4二銀、3三歩、同玉、2二角以下。
〔五〕7七歩も、先手良しが結論である。
1四歩基本図
6番目の候補手〔六〕1四歩(図)は、後手の“ふところ”を広げた手。
調査した結果、この手には、6七歩 が良いようだ。(8七玉 もあるので後述する)
(8九香を打つ前に)単に6七歩と打った場合と比較して、先手8九香と後手1四歩の手の交換になっているが、これはどちらが得しただろうか。
ここで後手の手番だが、7四銀が考えられる(6六歩は、8五歩で先手良し)
そこで先手に“好手”がある(次の図)
1四歩図01
1五歩(図)。 後手の1四歩を逆用する攻め筋である。1五同歩なら、1三歩とし、同香に、1二歩(同玉なら3二角成がある)の攻めがある。
だから後手は端を手抜きして攻めてくるしかない。
7五桂、8五歩、6四桂、8六玉、8五銀、9七玉、9五歩、1四歩(次の図)
1四歩図02
ここで後手に気の利いた攻めがない。
6七と、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、1三金(次の図)
1四歩図03
端攻めが決まり、後手玉が詰んだ。
1四歩図04
これで〔六〕1四歩は先手良しの結論が出たが、6七歩 に代えて、8七玉(図)もあるので、参考のために見ておこう。ただしこちらはたいへんにきわどい変化になる(以下の展開がスリリングで面白いのでぜひ紹介したい)
後手は7六歩。
これに対して、7八歩では、6七とで、先手が勝てないようだ(この判断が難しいところ)
7六歩を受けないで、1五歩とここでも端攻めに行くのがこの場合唯一と思われる先手の勝負手段だ(次の図)
1四歩図05
1五同歩なら、(この場合は三歩持っているので)1三歩、同香、1四歩、同香、1三歩の攻めが速く、先手良し。
後手は 7五桂 と打ち、9七玉に、7七歩成。
8九香で先受けしてあるので、この手が詰めろにならない。先手1四歩。
ここで後手6六と寄。次に7六と寄で先手玉に詰めろがかかる。
先手は1三歩成。以下、同香、同香成(次の図)
1四歩図06
1三同桂に、5二角成。(1三同玉には、1四歩、2二玉、1三香で先手良し)
以下、7六と寄に、8八香打(次の図)
1四歩図07
先手良しである。
後手はここで9五歩や8七香と攻める手があるが、1二歩または4一飛で“詰めろ”をかけて先手勝ちになる(1二歩に同玉なら、3三歩成、同歩、3二金。後手9五歩~9六歩は同馬と取れる)
1四歩図08
今の手順を途中まで戻って、7五桂 に代えて、7七桂(図)としたのがこの図。
この手が好手で、これで先手負けになると、最初調べた時には思っていたが……
図以下、1四歩、8九桂成、7八歩、7五桂、9七玉、6六と、1三歩成(次の図)
1四歩図09
1三同香、同香成、同桂、5二角成(同歩は後手玉が詰む)、7七歩成、同歩、同と。
一見、これで先手玉に受けがなく先手負け、に見える。ところがそうではなかった―――(次の図)
1四歩図10
4三馬(図)があって、先手の指せる局面になっているのである!
4三馬は、先手玉の詰めろを受けつつ、後手玉の詰めろになっている。そして4三同銀と取れば、2一金、同玉、5一竜、3一合、1一飛以下後手玉は詰むので、この馬は取れない。
だからここで後手は8七桂成、同馬、同玉と清算することになりそうだが、持駒の多い先手が優位の形勢である。
1四歩図11
戻って、先手9七玉の時に、後手 6六と の手に代えて、6二金(図)が手強い手である。しかし正確に指せば、先手が勝てる。
6二金の意味は、後手は次に3一玉として角を取ろうということである(だからここで1三歩成では、先手が負ける)
まずここで3三歩成とする。後手は同玉。
そこで正着は、8五歩。
1四歩図12
8五歩(図)。 これが重要な手である。この歩を突くことで、先手玉が広くなった。
後手の7四金に、そこで、4五金と打つ。3四飛以下“詰めろ”
後手は3四香と受ける。以下、3五歩に、2二玉、1三歩成(次の図)
1四歩図13
先手はもう3四歩と香を取っている余裕はない(それでも後手に香車を使わせた分先手玉が安全になったという意味はあり「4五金、3四香、3五歩」の手は必要だった)
1三歩成(図)に、後手は3一玉。次に4一玉で角をタダ取りされてしまう。
先手は5二歩。後手4一玉なら、5一歩成、同銀、3一飛、5二玉、5一飛成以下、後手玉が詰む。
よって、後手は6一歩と底歩で二重に受ける。
先手は6三歩。4一玉(角を取る)に、6二歩成(金を取る)。
ついに後手は角を取った。その角を7九に打つ(次の図)
1四歩図14
この時のために、先に8五歩を突いておいた。8六玉(図)と逃げるスペースがある。
6八角成、9七玉、8五金に、5一歩成以下、後手玉詰み。先手勝ち(6二銀左としても、6一竜で後手玉の詰めろはほどけない)
以上、8七玉 の結果は、これも先手良しと出た。
〔六〕1四歩は、6七歩または8七玉の後、1筋を攻めて先手良し。
8九香図(再掲)
結論は出た。 「8九香」で、先手良しである。
〔一〕6六と → 先手良し
〔二〕6六銀 → 先手良し
〔三〕6九金 → 先手良し
〔四〕7五桂 → 先手良し
〔五〕7七歩 → 先手良し
〔六〕1四歩 → 先手良し
≪最終一番勝負≫(=3二歩図)
つまりその一手前のこの図では、先手には勝ちにつながる手が2つあったということになる。
「6七歩」 → 先手良し(実戦の進行。まだ調べ切っていないが先手良しと思われる)
「8七玉」 → 後手良し(第29譜 で後手良しと結論が出た)
「8九香」 → 先手良し
≪最終一番勝負≫6七歩まで
実戦は、「6七歩」を選び、6四桂、8七玉と進んだのであった。
≪最終一番勝負≫ 8七玉まで
先手が少し有利になったのでは、と感じていた。
第33譜に続く
<参考:3二歩図のコンピューターソフト評価値>
3二歩図
「激指14」評価値
8七玉(-653) 8九香(-675) 6七歩(-749) 5四歩(-955) 8八香(-1079)
「dolphin1/orqha1018」(最新最強ソフトの一つ)評価値
8九香(-87) 8七玉(-94) 6七歩(-174) 3三歩成(-435) 3六飛(-581)
「激指」も、最新ソフトも、「6七歩」、「8七玉」、「8九香」を候補手の1~3番手に示している。
しかし、「激指14」の評価値は-700くらいで、ここでは「後手有利」であるとしている。
我々はこの「亜空間最終一番勝負」では、「激指14」を使って戦っていた。
しかし我々はこれを見て、「ここは6七歩と8七玉の2択」と考えていたのである。なぜか「8九香」は、「激指14」がこのように示していたにもかかわらず排除していた。
どれを選ぶにせよ、「激指」はすでにここは先手苦しいと見ているので、評価値の小さな差を我々は重視する意味がないと思っていた。だから、“勘”によって、我々は「6七歩」と「8七玉」のどちらかを選んだのである(この段階では「8九香」の効果がわからなかったので心に響かなかったということだ)
しかし最新ソフトでも、「6七歩」と「8九香」と「8七玉」、この3つの手については、先手にとって、どの手が良い手でどの手が悪い手かまだまだ全然判断がついていないことが、この評価値からわかる。つまりこの局面、最新ソフト的には「互角」なのである。
とはいえ、やはり最新ソフトの力なくしては、今回のような調査はできなかっただろう(「激指14」を使った場合、一局面の調査の結論を出すために、最新ソフトの場合の5~10倍以上の時間がかかる感触である)
我々(終盤探検隊)は、「激指」はこの場合後手を(たぶん後手の玉形のほうが堅いので)過大に評価する傾向があるということを、これまでこの≪亜空間戦争≫を「激指」とともに闘ってきた経験から感じていた。評価値が-700くらいでも、先手が良くなる道は存在する可能性が十分にあると思っていた(これまでもそういうことはたくさんあったので)
実際、この局面はすでに「先手良し」というのが、調査の最終的な結論である。
[スーザンは“負け組”なのか]
「イブのむすめ、スーザンよ。これがあなたのだ。」サンタクロースはひとはりの弓と、矢をいっぱいいれた矢筒と、小さな象牙の角笛とをスーザンに渡しました。「どうしてもやむをえない時だけこの弓を使わなければいけないよ。戦いに出て戦えというわけではないからね。この弓矢は、的をはずすことがない。またこの角笛は、くちびるにあてて吹く時、あなたがどこにいようとも、何かの助けがくるはずです。」
(『ライオンと魔女』)
みんなの目にふれたものは―――小さなチェスのこまで、形と大きさはふつうの騎士ですが、重さがふつうではありませんでした。純金でできていたのです。
(中略)
スーザンは「とてもたまらないわ。」といいました。何もかも思い出しちゃって――ああ、あの楽しかった時のこと、あのフォーンやよい巨人たちとチェスをやったことや、海で歌をうたった人魚たちやわたしの馬……まざまざ思いだすわ」
(『カスピアン王子のつのぶえ』)
「わが妹スーザンは、」とピーターはかんたんに重々しく答えました。「もはやナルニアの友ではありません。」
「そうですよ。」とユースチス。「ナルニアの話をしたり、なにかナルニアに関係のあることをしようと思ってスーザンを呼んでも、あの人はただこういうだけです。『あら、なんてすばらしい記憶をおもちなんでしょう。ほんとうに、わたしたちが子どものころによく遊んだおかしな遊びごとを、まだおぼえていらっしゃるなんて、おどろきましたわ。』って」
(『さいごの戦い』)
「じっさいに鉄道事故があったのだ。」とアスランがやさしくいいました。「あなたがたのおとうさんおかあさんも、あなたがたみんなも――影の国で使うことばでいえば――死んだのだよ。学校は終わった。休みがはじまったのだ。夢はさめた。こちらは、もう、朝だ。」
(『さいごの戦い』)
(C・S・ルイス著 『ナルニア国シリーズ』 瀬田貞二訳より)
7つの物語からなる「ナルニア国シリーズ」には、“ものいうライオン”であるアスランがつくったナルニア国を舞台にした“戦いのものがたり”で、この戦いに「人間の現実世界」から人間の子供たちが参加するという展開になる。
参加した“子供たち”は、ポリー、ディゴリー、ピーター、スーザン、ルーシィ、エドマンド、ユースチス、ジルの8人。彼らのナルニアでの冒険は、「よいナルニア国」の創造の力となり、彼らはナルニア国の歴史上の伝説の人物となった(ナルニアと現実世界とでは時間の進み方がまったく違う)
しかしその「ナルニア国」は、『さいごの戦い』で、くずれさり、しかしまた“新しいナルニア”が現れはじめる。その“新しいナルニア”の物語の参加者に選ばれた子供たちは、「鉄道事故」によって死亡するかたちで「現実世界」を去ることになり、新しい冒険に旅立って行った。
ただ一人、それに加わらなかった“元ナルニアメンバー”が、スーザン・ペベンシーである。彼女は、ナルニアで活躍した王女でありながら、意識的にか無意識的にかわからないが、そこから脱退し、「現実世界で大人になる」ことを選んだのである。
スーザンは、ナルニアの冒険に参加した4人のペベンシーきょうだいの一人であり、したがって「鉄道事故」によって、スーザンは3人のきょうだいとそれから父と母とをいっぺんに失い、「現実世界」にひとり残された。
“ナルニア視点”でみれば、彼女は、最後にアスランに選ばれなかった“負け組”ということになる(“スーザン視点”では、選考会への参加権があるのに興味を失い自ら権利を放棄したとみるべきところか。彼女は、現実世界の人々とともに生きることを選んだともいえる)
スーザンは、その後、どう生きたのであろうか。いま現実世界でいちおう大人になって生きている私たちからすれば、スーザンのその後の“冒険”こそ、共感のしやすい、身近な気になる物語かもしれない。
<第32譜 かくれていた好手 8九香>
≪最終一番勝負 第32譜 指始図≫ 8七玉まで
「最終一番勝負」は ▲8七玉 まで進行している。
今回は指し手の進行を止めて、この図の3手前に戻る。
研究調査で、新たに「かくれていた手」を発見したのでそれを紹介したい。
≪最終一番勝負≫(=3二歩図)
この図(3二歩図)である。今、先手の4一角に、後手が3二歩と受けたところ。
これまでの終盤探検隊の報告では、ここで先手は「8七玉」と「6七歩」の2択で、他の手はないとしてきた。
そしてここでの「8七玉」では厳密には先手に勝ちはなく(4一角を打つ前の8七玉なら細いが勝ち筋があった)、実戦で我々(終盤探検隊)が選択した「6七歩」が、当時読み切って指したわけではないが、正解だったと思われるのである。(8七玉で勝ちがないことは第29譜で示している)
ただし、ここにきて、我々の“戦後研究”もさらに進化し、この図での新たな手を発見した。
つまり、「第3の手」が存在したのだ。
8九香図
この手である。 「8九香」。
どうやらこの手で「先手良し」という結論も、先に書いておく。
この「8九香」は、先に先手玉の守備を強化し、次に3三歩成、同銀、5二角成の筋の攻めをねらっている。
(ただし、8七玉としてから決行しないとだいたい失敗に終わる)
参考図1
「8九香」と打つ前に、「3三歩成、同銀、5二角成」(図)と攻めていくと、どうなるか。
以下、5二同歩、3一飛、8一桂(参考図2)
参考図2
この図となって、先手が不利。8一同飛成、5四角、6五歩、8一角、同竜となった時に、後手の持駒は「飛桂」だが、先手玉は着実にその攻め駒で寄せられてしまう。
ただし、この後手の5四角の筋をくらっても、先手の玉の状況がもう少し安全ならこの先手の攻め筋は成立する。これを成立させるための、「8九香」という工夫なのである。
8九香図(再掲)
「8九香」に対して、これから見ていく後手の指し手の候補手は、次の6つである。
〔一〕6六と
〔二〕6六銀
〔三〕6九金
〔四〕7五桂
〔五〕7七歩
〔六〕1四歩
6六と基本図
まず〔一〕6六と(図)から調べよう。
以下、8七玉、7五桂に、9七玉(次の図)
6六と図01
7七とに、7六歩(次の図)
6六と図02
後手のと金は「7七」の位置がこの場合はベストポジション。「7七」の位置にと金が居ると、3三歩成、同銀、5二角成と攻めていくと、同歩の瞬間に、7九角と打たれる筋で先手玉が詰めろになる。
そこで、攻める前に7六歩(図)と工夫するのである。 7六同とと取らせて、そこで3三歩成、同銀、5二角成を決行。5二同歩に、3一飛(次の図)
6六と図03
もう何度も見てきた手順である。
ここで8一桂があるが、同竜と取る。以下、8七桂成、同香、同と、同玉、5四角で、“王手竜取り”がかかる。7六金と受け、8一角、同飛成(次の図)
6六と図04
この図は、先手良しである。
後手5四角からの「王手竜取り」がかかったが、この場合は飛車を後手にもたれても、先手玉がすぐには寄らない。
一例だが、ここから5七飛、7七歩、7五歩と攻めてきても、3一角、1一玉、2五桂が後手玉への“詰めろ”で、先手勝ちになる。
6六と図05
戻って、先手9七玉のところで、後手3一銀(図)が有力手のようだ。これをどう攻略するか。寄せの勉強のために見ておこう。
3三歩成、同歩、3四歩と攻略する(次の図)
6六と図06
3四同歩には、3三歩と打って、先手良し(3三同桂には5二角成)
なので後手は4四銀引とがんばる(3三歩成、同銀は後手有望)
そこで6一飛と打って、次に5二角成をねらう。4二銀引なら6六飛成がある。
後手は4二金で勝負するが、5一飛成、4一金、同竜、4二銀引に、8四馬(次の図)
6六と図07
これで次に3二金から後手玉は詰む。だからここで3二角が予想されるが、3二同竜、同銀、7五馬、7七飛、8七桂で先手優勢である。
〔一〕6六とは、先手良し。
[追記]6六と、8七玉に、9五歩、同歩、7七桂 が実は手強い手順で、それについての研究を次の第33譜(研究調査2)にて行っている。結果は「先手良し」ではあるが、評価値は[+500]くらいで、実戦的には互角に近い。
したがって、先手は「8九香」を選ぶならば、この変化を覚悟しなければいけないということになる。
6六銀基本図
〔二〕6六銀(図)には、〔一〕6六とと同じように8七玉で先手が良い。
8七玉、7五桂、9七玉、7七銀成と進んで、そこで7八歩と打つ(次の図)
6六銀図01
なお、この手で7六歩もあるが、8七桂成、同香、6六とで、次に7六とをねらう手がこの場合はある。ここが6六銀から攻めてきた場合の特徴だ(厳密にはそれでも8九桂、7六成銀、7七歩で先手がやれそうではあるが)
7八歩(図)は、やはり「7七」のベストポジションをくずす意味。7八同成銀でも、7六成銀でも、3三歩成、同銀、5二角成と攻めていけば先手良しになる。
だから後手は銀損覚悟で7六歩と応じる。以下、7七歩成、同歩成、7八歩、7六歩(次の図)
6六銀図02
先手は銀を得した。
「7八歩、7六歩」を再度入れたのは、そうすることで後手に「7六」のスペースを埋めさせて、あとで6六と寄~7六と寄のようなと金の活用を消した意味がある。用心深い配慮である。
さて、ここで先手はどう攻めるか。銀を得して、先手有利になっているが、7七歩では“千日手コース”でおもしろくない。
「7七と」が居ると、3三歩成、同銀、5二角成とは攻めていけないが……
ここは、3三歩成、同銀に、3一銀がある(次の図)
6六銀図03
いま得た銀をここに使う。3一同玉に、5二角成。この攻めなら、角を渡さず攻めていける。
以下、4二銀左に、3三歩(次の図)
6六銀図04
後手は4二銀左と受けたが、代えて4二銀右は4一飛、2二玉、3四歩で寄り。また4二銀打と堅く受けるのも、8五歩、7四金、5四歩で先手の攻めは止まらない(以下6二銀左、4一飛、2二玉、7五馬、同金、3四桂)
4二銀左と受けたのは、攻めのために銀を温存することと、3三からの玉の脱出を視野に入れた意味がある。しかしその手には、先手3三歩(図)がこの際の好手になる。これを同歩は、5一竜、同銀、4一飛から後手玉詰み。
3三歩に4一銀と受けても、3二歩成、同玉、3三歩、同桂、1一飛で寄り。
よって後手は4一桂と受け、以下、3二歩成、同玉、3三歩(同玉には4一馬)、同桂左、1一飛(次の図)
6六銀図05
1一飛(図)と打つ。後手は2一銀と受けるしかない。
そこで先手は9八金と受けを強化しておく。これは次に、2一飛成、同玉、4一馬と攻めていくための準備である。
後手は3一歩で、その順を先受けするが、それでも予定通りに2一飛成、同玉、4一馬(次の図)
6六銀図06
2二銀、同玉、3四桂からの“詰めろ”になっている。それを3八飛のように受けても、2四桂、同歩、2三銀が決め手になる。
だからこの図では、後手は2四飛しかなさそうだが、それに対しては、3五銀と打って、2七飛成に3四桂で、先手勝ちとなる。
〔二〕6六銀も先手良し。
6九金基本図
次は後手〔三〕6九金。
以下、8七玉に、7九金。8九に打った香車を取りに来た(次の図)
6九金図01
ここで3三歩成、同銀、5二角成と、先手の狙い筋の攻めを決行すると、5二同歩、4一飛に―――(次の図)
6九金図02
8一桂(図)で先手が悪い。
6九金図03
だからここで「5四歩」(図)と打つ。“敵の打ちたいところへ打て”の手で、後手がこれにどう応じても、もう後手からの“5四角”は打てない。
ここで後手の応手は〈a〉5四同銀、〈b〉6四銀左上、〈c〉6二銀左、〈d〉4四銀上とがある(5四歩を放置して8九金は後手悪い)
〈a〉5四同銀、または〈b〉6四銀左上なら、そこで待望の攻め「3三歩成、同銀、5二角成」が有効になる。
〈b〉6四銀左上で見ていこう。3三歩成、同銀、5二角成、同歩に、3一飛(次の図)
6九金図04
先手勝ちになった。
このような展開が、先手の狙い筋である。8九香は、こういう戦いのための準備で、先手玉に簡単に“詰めろ”がかからないように前もって受けた手なのである。〈a〉5四同銀、〈b〉6四銀左上なら、この筋で先手が勝つ。
6九金図05
「5四歩」に、〈c〉6二銀左(図)。 この手は「7一」や「5一」に受けが利く分、攻略が難しくなる。
それでも、3三歩成、同銀、5二角成から攻めていく。同歩に、4一飛。
以下、7五桂、9七玉、5一桂、3一金、1四歩(次の図)
6九金図06
後手が7一歩でなく、5一桂と受けたのは、先手に4三飛成のような活用をさせないため。
1四歩(図)で、後手は脱出口を開いた。どう攻略していくか。
2一金、1三玉に、3五金と打ち、2四歩に、2五桂、同歩、3七桂という活用があった。以下、2三玉、2五桂、4四銀に、2二金(次の図)
6九金図07
2二同玉に、5一竜(桂馬を入手)、同銀、3四桂、2三玉、2一飛成まで、ピッタリとフィニッシュできた。
6九金図08
〈d〉4四銀上(図)
この場合は、3三歩成としても、同銀引で、無効。
なので単に5二角成から攻めていく。同歩に、4一飛、3一角(これしか受けがない)、4五歩(次の図)
6九金図09
4五同銀は5三歩成、同歩、5二金と攻めていける。
よって、後手はここで攻めてくる。7五桂、9七玉、8九金、4四歩、同銀。
そこでどう攻めるかが問題になるが、5一銀と打つ手がある(次の図)
6九金図10
後手に銀を渡すと先手玉が8八銀から詰んでしまうから、この5一銀(図)の攻めはしっかりした読みがないと指せない手だ。
5一同銀なら、3一飛成、同玉、5一竜以下詰む。
よって、後手はここで1四歩。後手玉の逃げ道ができた。ここで4二銀成(不成)は、同銀、2一飛成、1三玉となって、先手がまずい。
先手は2五金。“待ち駒”だ。(これで次は4二銀成と攻めていけるし、相変わらず5一銀は3一飛成以下詰みだ)
後手はもう受けが難しいので、先手4二銀成よりも早い攻めを繰り出すしかない。
そこで、9五桂(先手玉への詰めろ)。 これを先手は同歩と取り、同歩に、8八桂と受ける(次の図)
6九金図11
先手が勝ちになったようだ。
後手はまだここから、8八同金、同玉、7六桂、9八玉、8七香で“詰めろ”が続くが、9七玉、8八香成、7七金と先手は受けて、それ以上は続かない。
〔三〕6九金も、先手良し。
8九香図(再掲)
〔一〕6六と → 先手良し
〔二〕6六銀 → 先手良し
〔三〕6九金 → 先手良し
〔四〕7五桂
〔五〕7七歩
〔六〕1四歩
参考図3
さて、「3二歩図」(「8九香」と打つ前の図)から、8九香と打たずに、5四歩と行くと、7五桂(図)と打たれる。
以下8五歩、6六と、8六玉、7四桂、9七玉、7七と、8九香、8五金、8七歩、8四銀となって―――(次の図)
参考図4
後手優勢。先手の5三歩成が間に合わない。図以下は8二馬、7六金、5五馬、4四銀で、後手優勢。
この後手7五桂以下の順を避けるために、「6七歩」と受けて、7五桂、8五歩の次の“6六と”と消したのが本譜の進行だった。
7五桂基本図
〔四〕7五桂(図)。
「8九香」と打った場合、この〔四〕7五桂への対策はできているのだろうか。これは、今回のテーマの最重要ポイントとなるところで、この結果が、「8九香」の手が成立するかどうかの命運を握っているといえる。
図以下、8五歩、6六と、8六玉、7四桂、9七玉と進む(次の図)
7五桂図01
ここが後手の分岐点で、[ア]8五金、[イ]7六と、[ウ]7七とがある。
まず[ア]8五金は、そこで3三歩成、同銀、5二角成の攻めを決行する(次の図)
7五桂図02
5二同歩は3一飛で、先手勝ち。
だからここで後手は7七と。放置して5一竜だと、8六金以下、詰まされてしまう。
先手困ったように見えるが、このピンチを切り抜ける好手がある(次の図)
7五桂図03
7五馬(図)である。急所の桂馬をはずした。
7五同金に、5三馬、8六金、同馬、7九角、8八歩、8六桂、5一竜(次の図)
7五桂図04
5一竜で先手が勝ちになったように思えるが、ここで9八桂成という妙手がある。同玉は7六角以下詰まされてしまうところだ。
したがって、9八桂成、同香と進み、6四角、7五歩、7六と、6五金(次の図)
7五桂図05
どうやら「先手良し」が確定したようだ。
7五桂図06
[ア]8五金は先手2枚の盤上の角が活躍して先手良しになった。
代えて後手[イ]7六と(図)ではどうだろう。
ここで角を渡すと7九角、9八玉、8六桂で詰まされるので、5二角成の攻めはできない。
よってここは8四歩とするが、後手は6六銀で戦力を足してくる。7七銀不成(成)を防いで先手は7八歩。
そこで6七銀不成には、3六飛の好手がある(7八銀不成には7六飛)
だから後手は7七歩。
先手苦戦に見えるが―――(次の図)
7五桂図07
9五歩(図)で、玉の上部脱出を図る。同歩なら、9四馬、7八歩成、9五馬で、9一の竜も働いてくる。
7八歩成、9六玉に、後手8四銀。
先手は9四馬(次の図)
7五桂図08
9四馬は、7六のと金の“取り”になっている。
後手は7七銀成とするが、そこで先手は5二角成がある! これを同歩は、8四馬、同歩として、3三金以下、後手玉に“詰み”があるのだ(3三同銀は2一飛成から、3三同歩は、3二金以下)
なので後手は5二角成を放置して8九と。以下、7四馬、8七桂成、7八桂(次の図)
7五桂図09
7八桂(図)で、“詰めろ”は受かっている(7八同成銀には7六馬がある)
ここで9九とには、8四馬左、同歩に、3三金から後手玉が詰む(3三金、同桂、同歩成、同玉、3四金、同玉、2六桂以下)
よって7二香と攻めるが、それでも8四馬左(次の図)
7五桂図10
以下、7四香に、8五玉(次の図)
7五桂図11
図以下、8四歩に、9四玉として、先手玉は安全になる。角二枚を渡したが、攻め駒は十分にあり、先手勝勢である。
[イ]7六との変化は、結果は、先手の“華麗な脱出劇”となった。
7五桂図12
3番目の手、[ウ]7七と(図)
8四歩から同じように8四歩、同銀と進むと、今度は9四馬ではと金取りにならないので先手が悪い。なのでこの場合は8二馬とすることになるが、それははっきりした先手の勝ち筋が見つからない。
7七とに対しては、「7八歩」と打つのが良い。これを後手はどう応じるか。
7六と では、上の変化にさらに7八歩をゼロ手で打った形になって先手良しは明らかだ。
7六歩なら、先手はそこで8四歩だ。以下、8四同銀、8二角成、6六銀に、9八金と受ける。
7五桂図13
「7八歩、7六歩」の手の交換が、先手にとって得になっていて、この図になれば先手良し。なぜかといえば、ここで後手は 7六とと引いて活用する手が指せない からだ。7六と~7七銀成が指せる形なら、先手が悪いところだった。
ここでは後手は7八としかなさそうだが、そこで先手は攻めていける。
3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛で、先手良し。
7五桂図14
したがって、先手の「7八歩」に、後手は 同と(図)とすることになる。
ここで8四歩は、8九と以下、はっきりしない。
なのでここは、すぐに「7六歩」と打って桂馬を取りにいく手を選択するのが優る。
以下、8九と、7五歩、8五金、7四歩、8四香(次の図)
7五桂図15
簡単に受かるように見えるが、意外と受けが難しい。
8七金 には、8八との妙手があるのだ。同玉は7六金で先手悪い。
なので8八同金だが、8六金、9八玉、7六歩(次の図)
7五桂図16
先手、受けが難しい。8七歩は7七金で寄せられる。
7八桂が最善かと思われるが、7七歩成、8六桂、8八と、同玉、8六香、8七歩に、8四銀、9四馬、8五桂で、これも後手が良さそうだ。
7五桂図17
戻って、後手8四香に対しては、2六飛(図)と打つのが正解手となる。後手の8六金を受けながら、3五桂の攻めを見せた攻防手。
これに対し“7六歩”(詰めろ)がある。それには、先手8七金と受ける。そこで8八と、同玉、8六金で先手困っていそうに見えるが―――(次の図)
7五桂図18
ここで8四馬がある。以下、8七金、同玉、8四銀、3五桂(詰めろ)は、攻めの手番がまわって先手良し。
7五桂図19
2六飛 に、“8六金”(図)以下を見ていこう。
8六同飛、同香、同玉、8四銀、9四馬、8八と、7六馬、6四銀引、3五桂(次の図)
7五桂図20
3五桂(図)は、3二角成、同玉、2四桂以下の“詰めろ”。
すでに先手勝勢といえるが、もう少し進めてみよう。
7五銀左には、9七玉とかわす。以下、4七飛、8八玉、2七飛成。これで2四桂以下の詰めろは消えた。
先手はどう勝ちを決めるかという場面。いろいろあるが、3三歩成、同銀(同玉には4五金)、3一金がまぎれの少ない決め方(次の図)
7五桂図21
3一同玉に、5二角成、4二金、5三馬、同金、5一竜、2二玉、1一銀、同玉、3一金(次の図)
7五桂図22
1一銀、同玉と捨てて、後手玉の1四歩~1三玉のような脱出の可能性を消して、図の3一金で“必至”となった。「角銀」と駒を渡したが、先手玉には詰みはないので、先手勝ちが確定。
これで[ウ]7七とも先手良しが判明した。
以上、〔四〕7五桂は、きわどい変化ばかりだったが、どうやら「先手良し」である。
7七歩図基本図
〔五〕7七歩(図)は、後手が“苦心して編み出した”という感じの手。
これを同玉と取るのは、7五桂で先手のその後の勝ち筋がはっきりしない。
「5四歩」が良いようだ(次の図)
7七歩図01
ここから、〔G〕6四銀左上と〔H〕4四銀上、〔I〕7五桂とを後手の有力手としてみていく。
まず〔G〕6四銀左上。この場合は単に5二角成とする。
以下7五桂(詰めろ)、7七玉、7六歩、8八玉、5二歩、4一飛、3一角、3七桂(次の図)
7七歩図02
3七桂(図)で、実は後手玉は“詰めろ”になっている。3三金、同桂、同歩成、同玉、3四歩以下。
後手はその詰めろを受けて、5一桂。
そこで6一竜が先手の好手。以下、6七と、9七玉、7七歩成、3三歩成(次の図)
7七歩図03
3三歩成に、後手がこれを何で取るかで攻め方を決める。3三同桂なら、5一竜、同銀、3四桂で後手玉詰み。
3三同歩は5二竜で、次に4二竜からの“詰めろ”。
そして3三同玉には、5二竜。以下、9五歩に、4二竜、同角、3四歩(次の図)
7七歩図04
以下、後手玉は“詰み”。
7七歩図05
「5四歩」に、〔H〕4四銀上(図)。
先手「5四歩」に、同銀や、6二銀引の場合も、上と同じように5二角成から攻めて先手が良くなるのだが、この〔H〕4四銀上の場合だけは、それでははっきりしないので、攻め方を変える。
この場合は、5二角成とすぐにいかず、6一飛(図)と打つのが良い。
対して、後手は3一桂(何も受けないと5二角成があった)
以下、7九歩、6六と、8七玉、7五桂、9七玉、7六とが予想される手順。
そこで「4五歩」と打つ(次の図)
7七歩図06
4五歩(図)を 同銀 には、3三歩成、同玉、6五飛成と指す。
以下8七と、同香、6四銀右上、6八竜となって(次の図)
7七歩図07
先手が良い。
よって、「4五歩」に、後手はこれを手抜きして攻める順を考える。6二金 という手がある。これは飛車をどかして、6九金とこの金を使う意味だ。
6二金、7一飛成、6九金、4四歩、7九金。
どちらの攻めが早いかという競争になった。先手玉は次に8九金で“詰めろ”がかかる。
先手はスピ-ドアップで、1一銀と攻めを加速させる(次の図)
7七歩図08
1一同銀に、3二角成、2二銀、4三歩成、同桂、3三歩成、同銀左、5一竜(次の図)
7七歩図09
飛車を渡しても先手玉はまだ詰まない。
なので5一竜(図)の攻めが利く。同銀に、3三馬、同桂、5一竜、2一飛、3二金で、先手の勝ちになる。
7七歩図10
先手「5四歩」のところまで戻って、後手〔I〕7五桂。
これは先手「5四歩」を相手をしないで攻めようという方針だ。
この手には、8五歩。 以下、6六と、8六玉、7四桂、9七玉、8五金、5三歩成、7六と、8七歩(次の図)
7七歩図11
これはどちらが勝っているか。後手玉はまだ“詰めろ”ではない(5二とが詰めろになる)
だから後手は“詰めろ”で先手玉に迫る必要があるが、6六銀 や 7八歩成 が詰めろでこれで後手が勝てそうに見える。
しかし 6六銀(や7八歩成)には、先手7五馬という切り返しがある。以下、同銀引に、5二と(次の図)
7七歩図12
こう進めてみると、はっきり先手勝ちになった。
なので後手は「7七歩図11」から、8七桂成 と攻めるしかなさそうだ。以下、同香、同と、同玉、8六金、8八玉と進む(次の図)
7七歩図13
ここで先手のおもな持駒は「飛金銀桂」となった。後手玉に“詰み”はまだないのだが、ここで後手が 6六銀 と指してくれば、6六同銀、同桂として、銀が一枚増えたことで、後手玉に“詰み”が生じる。
詰み筋は、3三歩成として、同桂は3四桂から詰み。同玉には、3六飛、3四香、4五桂、2二玉、3二角成、同玉、3四飛以下。そして同銀は、3二角成、同玉、4一銀、同玉、5二とから。
また、後手が「香車」を使って先手玉に“詰めろ”をかけてくれば、その瞬間、3三歩成から(同玉の時に3五飛に香車の合駒がないので)“詰み”が生じるのだ。やはり3三歩成、同銀、3二角成以下の筋で。
だからこの図で、後手が先手玉に“詰めろ”をかける手段は限られてくる。「香車を手放さず、6六銀以外の手で“詰めろ”をかける」という条件を満たさなければならない。
そうすると、どうやら、6六桂 しかないようだ。
しかし、6六桂 に、7九歩と受ければ、やはり後手は「香車」を使わないと攻めることができない。
つまり、この図はすでに「先手勝ち」になっているのである。
この図から、6六桂、7九歩、8七香、9八玉、7八歩成と進んで、以下後手玉の詰み筋を確認しておくと、3三歩成、同銀、3二角成、同玉、4一銀(次の図)
7七歩図14
2二玉なら、3四桂があるので、ピッタリ“詰み”。
4一同玉以下は、長手数になる。4一同玉、5二と、同玉、5四飛、5三角(銀)、5一竜、同玉、5三飛成、5二銀(角)、6三桂、4一玉、3二金、同玉、5二竜、4二銀、3三歩、同玉、2二角以下。
〔五〕7七歩も、先手良しが結論である。
1四歩基本図
6番目の候補手〔六〕1四歩(図)は、後手の“ふところ”を広げた手。
調査した結果、この手には、6七歩 が良いようだ。(8七玉 もあるので後述する)
(8九香を打つ前に)単に6七歩と打った場合と比較して、先手8九香と後手1四歩の手の交換になっているが、これはどちらが得しただろうか。
ここで後手の手番だが、7四銀が考えられる(6六歩は、8五歩で先手良し)
そこで先手に“好手”がある(次の図)
1四歩図01
1五歩(図)。 後手の1四歩を逆用する攻め筋である。1五同歩なら、1三歩とし、同香に、1二歩(同玉なら3二角成がある)の攻めがある。
だから後手は端を手抜きして攻めてくるしかない。
7五桂、8五歩、6四桂、8六玉、8五銀、9七玉、9五歩、1四歩(次の図)
1四歩図02
ここで後手に気の利いた攻めがない。
6七と、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、1三金(次の図)
1四歩図03
端攻めが決まり、後手玉が詰んだ。
1四歩図04
これで〔六〕1四歩は先手良しの結論が出たが、6七歩 に代えて、8七玉(図)もあるので、参考のために見ておこう。ただしこちらはたいへんにきわどい変化になる(以下の展開がスリリングで面白いのでぜひ紹介したい)
後手は7六歩。
これに対して、7八歩では、6七とで、先手が勝てないようだ(この判断が難しいところ)
7六歩を受けないで、1五歩とここでも端攻めに行くのがこの場合唯一と思われる先手の勝負手段だ(次の図)
1四歩図05
1五同歩なら、(この場合は三歩持っているので)1三歩、同香、1四歩、同香、1三歩の攻めが速く、先手良し。
後手は 7五桂 と打ち、9七玉に、7七歩成。
8九香で先受けしてあるので、この手が詰めろにならない。先手1四歩。
ここで後手6六と寄。次に7六と寄で先手玉に詰めろがかかる。
先手は1三歩成。以下、同香、同香成(次の図)
1四歩図06
1三同桂に、5二角成。(1三同玉には、1四歩、2二玉、1三香で先手良し)
以下、7六と寄に、8八香打(次の図)
1四歩図07
先手良しである。
後手はここで9五歩や8七香と攻める手があるが、1二歩または4一飛で“詰めろ”をかけて先手勝ちになる(1二歩に同玉なら、3三歩成、同歩、3二金。後手9五歩~9六歩は同馬と取れる)
1四歩図08
今の手順を途中まで戻って、7五桂 に代えて、7七桂(図)としたのがこの図。
この手が好手で、これで先手負けになると、最初調べた時には思っていたが……
図以下、1四歩、8九桂成、7八歩、7五桂、9七玉、6六と、1三歩成(次の図)
1四歩図09
1三同香、同香成、同桂、5二角成(同歩は後手玉が詰む)、7七歩成、同歩、同と。
一見、これで先手玉に受けがなく先手負け、に見える。ところがそうではなかった―――(次の図)
1四歩図10
4三馬(図)があって、先手の指せる局面になっているのである!
4三馬は、先手玉の詰めろを受けつつ、後手玉の詰めろになっている。そして4三同銀と取れば、2一金、同玉、5一竜、3一合、1一飛以下後手玉は詰むので、この馬は取れない。
だからここで後手は8七桂成、同馬、同玉と清算することになりそうだが、持駒の多い先手が優位の形勢である。
1四歩図11
戻って、先手9七玉の時に、後手 6六と の手に代えて、6二金(図)が手強い手である。しかし正確に指せば、先手が勝てる。
6二金の意味は、後手は次に3一玉として角を取ろうということである(だからここで1三歩成では、先手が負ける)
まずここで3三歩成とする。後手は同玉。
そこで正着は、8五歩。
1四歩図12
8五歩(図)。 これが重要な手である。この歩を突くことで、先手玉が広くなった。
後手の7四金に、そこで、4五金と打つ。3四飛以下“詰めろ”
後手は3四香と受ける。以下、3五歩に、2二玉、1三歩成(次の図)
1四歩図13
先手はもう3四歩と香を取っている余裕はない(それでも後手に香車を使わせた分先手玉が安全になったという意味はあり「4五金、3四香、3五歩」の手は必要だった)
1三歩成(図)に、後手は3一玉。次に4一玉で角をタダ取りされてしまう。
先手は5二歩。後手4一玉なら、5一歩成、同銀、3一飛、5二玉、5一飛成以下、後手玉が詰む。
よって、後手は6一歩と底歩で二重に受ける。
先手は6三歩。4一玉(角を取る)に、6二歩成(金を取る)。
ついに後手は角を取った。その角を7九に打つ(次の図)
1四歩図14
この時のために、先に8五歩を突いておいた。8六玉(図)と逃げるスペースがある。
6八角成、9七玉、8五金に、5一歩成以下、後手玉詰み。先手勝ち(6二銀左としても、6一竜で後手玉の詰めろはほどけない)
以上、8七玉 の結果は、これも先手良しと出た。
〔六〕1四歩は、6七歩または8七玉の後、1筋を攻めて先手良し。
8九香図(再掲)
結論は出た。 「8九香」で、先手良しである。
〔一〕6六と → 先手良し
〔二〕6六銀 → 先手良し
〔三〕6九金 → 先手良し
〔四〕7五桂 → 先手良し
〔五〕7七歩 → 先手良し
〔六〕1四歩 → 先手良し
≪最終一番勝負≫(=3二歩図)
つまりその一手前のこの図では、先手には勝ちにつながる手が2つあったということになる。
「6七歩」 → 先手良し(実戦の進行。まだ調べ切っていないが先手良しと思われる)
「8七玉」 → 後手良し(第29譜 で後手良しと結論が出た)
「8九香」 → 先手良し
≪最終一番勝負≫6七歩まで
実戦は、「6七歩」を選び、6四桂、8七玉と進んだのであった。
≪最終一番勝負≫ 8七玉まで
先手が少し有利になったのでは、と感じていた。
第33譜に続く
<参考:3二歩図のコンピューターソフト評価値>
3二歩図
「激指14」評価値
8七玉(-653) 8九香(-675) 6七歩(-749) 5四歩(-955) 8八香(-1079)
「dolphin1/orqha1018」(最新最強ソフトの一つ)評価値
8九香(-87) 8七玉(-94) 6七歩(-174) 3三歩成(-435) 3六飛(-581)
「激指」も、最新ソフトも、「6七歩」、「8七玉」、「8九香」を候補手の1~3番手に示している。
しかし、「激指14」の評価値は-700くらいで、ここでは「後手有利」であるとしている。
我々はこの「亜空間最終一番勝負」では、「激指14」を使って戦っていた。
しかし我々はこれを見て、「ここは6七歩と8七玉の2択」と考えていたのである。なぜか「8九香」は、「激指14」がこのように示していたにもかかわらず排除していた。
どれを選ぶにせよ、「激指」はすでにここは先手苦しいと見ているので、評価値の小さな差を我々は重視する意味がないと思っていた。だから、“勘”によって、我々は「6七歩」と「8七玉」のどちらかを選んだのである(この段階では「8九香」の効果がわからなかったので心に響かなかったということだ)
しかし最新ソフトでも、「6七歩」と「8九香」と「8七玉」、この3つの手については、先手にとって、どの手が良い手でどの手が悪い手かまだまだ全然判断がついていないことが、この評価値からわかる。つまりこの局面、最新ソフト的には「互角」なのである。
とはいえ、やはり最新ソフトの力なくしては、今回のような調査はできなかっただろう(「激指14」を使った場合、一局面の調査の結論を出すために、最新ソフトの場合の5~10倍以上の時間がかかる感触である)
我々(終盤探検隊)は、「激指」はこの場合後手を(たぶん後手の玉形のほうが堅いので)過大に評価する傾向があるということを、これまでこの≪亜空間戦争≫を「激指」とともに闘ってきた経験から感じていた。評価値が-700くらいでも、先手が良くなる道は存在する可能性が十分にあると思っていた(これまでもそういうことはたくさんあったので)
実際、この局面はすでに「先手良し」というのが、調査の最終的な結論である。