はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part133 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第32譜

2019年09月22日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第32譜 指始図≫ 8七玉まで


   [スーザンは“負け組”なのか]

 「イブのむすめ、スーザンよ。これがあなたのだ。」サンタクロースはひとはりの弓と、矢をいっぱいいれた矢筒と、小さな象牙の角笛とをスーザンに渡しました。「どうしてもやむをえない時だけこの弓を使わなければいけないよ。戦いに出て戦えというわけではないからね。この弓矢は、的をはずすことがない。またこの角笛は、くちびるにあてて吹く時、あなたがどこにいようとも、何かの助けがくるはずです。」
    (『ライオンと魔女』)

 みんなの目にふれたものは―――小さなチェスのこまで、形と大きさはふつうの騎士ですが、重さがふつうではありませんでした。純金でできていたのです。
   (中略)
 スーザンは「とてもたまらないわ。」といいました。何もかも思い出しちゃって――ああ、あの楽しかった時のこと、あのフォーンやよい巨人たちとチェスをやったことや、海で歌をうたった人魚たちやわたしの馬……まざまざ思いだすわ」
    (『カスピアン王子のつのぶえ』)

 「わが妹スーザンは、」とピーターはかんたんに重々しく答えました。「もはやナルニアの友ではありません。」
 「そうですよ。」とユースチス。「ナルニアの話をしたり、なにかナルニアに関係のあることをしようと思ってスーザンを呼んでも、あの人はただこういうだけです。『あら、なんてすばらしい記憶をおもちなんでしょう。ほんとうに、わたしたちが子どものころによく遊んだおかしな遊びごとを、まだおぼえていらっしゃるなんて、おどろきましたわ。』って」
    (『さいごの戦い』)

 「じっさいに鉄道事故があったのだ。」とアスランがやさしくいいました。「あなたがたのおとうさんおかあさんも、あなたがたみんなも――影の国で使うことばでいえば――死んだのだよ。学校は終わった。休みがはじまったのだ。夢はさめた。こちらは、もう、朝だ。」
    (『さいごの戦い』)   

  (C・S・ルイス著 『ナルニア国シリーズ』 瀬田貞二訳より)



 7つの物語からなる「ナルニア国シリーズ」には、“ものいうライオン”であるアスランがつくったナルニア国を舞台にした“戦いのものがたり”で、この戦いに「人間の現実世界」から人間の子供たちが参加するという展開になる。
 参加した“子供たち”は、ポリー、ディゴリー、ピーター、スーザン、ルーシィ、エドマンド、ユースチス、ジルの8人。彼らのナルニアでの冒険は、「よいナルニア国」の創造の力となり、彼らはナルニア国の歴史上の伝説の人物となった(ナルニアと現実世界とでは時間の進み方がまったく違う)
 しかしその「ナルニア国」は、『さいごの戦い』で、くずれさり、しかしまた“新しいナルニア”が現れはじめる。その“新しいナルニア”の物語の参加者に選ばれた子供たちは、「鉄道事故」によって死亡するかたちで「現実世界」を去ることになり、新しい冒険に旅立って行った。

 ただ一人、それに加わらなかった“元ナルニアメンバー”が、スーザン・ペベンシーである。彼女は、ナルニアで活躍した王女でありながら、意識的にか無意識的にかわからないが、そこから脱退し、「現実世界で大人になる」ことを選んだのである。
 スーザンは、ナルニアの冒険に参加した4人のペベンシーきょうだいの一人であり、したがって「鉄道事故」によって、スーザンは3人のきょうだいとそれから父と母とをいっぺんに失い、「現実世界」にひとり残された。
 “ナルニア視点”でみれば、彼女は、最後にアスランに選ばれなかった“負け組”ということになる(“スーザン視点”では、選考会への参加権があるのに興味を失い自ら権利を放棄したとみるべきところか。彼女は、現実世界の人々とともに生きることを選んだともいえる)
 スーザンは、その後、どう生きたのであろうか。いま現実世界でいちおう大人になって生きている私たちからすれば、スーザンのその後の“冒険”こそ、共感のしやすい、身近な気になる物語かもしれない。


<第32譜 かくれていた好手 8九香>


≪最終一番勝負 第32譜 指始図≫ 8七玉まで
 「最終一番勝負」は ▲8七玉 まで進行している。

 今回は指し手の進行を止めて、この図の3手前に戻る。
 研究調査で、新たに「かくれていた手」を発見したのでそれを紹介したい。

≪最終一番勝負≫(=3二歩図)
 この図(3二歩図)である。今、先手の4一角に、後手が3二歩と受けたところ。
 これまでの終盤探検隊の報告では、ここで先手は「8七玉」と「6七歩」の2択で、他の手はないとしてきた。
 そしてここでの「8七玉」では厳密には先手に勝ちはなく(4一角を打つ前の8七玉なら細いが勝ち筋があった)、実戦で我々(終盤探検隊)が選択した「6七歩」が、当時読み切って指したわけではないが、正解だったと思われるのである。(8七玉で勝ちがないことは第29譜で示している)
 ただし、ここにきて、我々の“戦後研究”もさらに進化し、この図での新たな手を発見した。
 つまり、「第3の手」が存在したのだ。

8九香図
 この手である。 「8九香」
 どうやらこの手で「先手良し」という結論も、先に書いておく。

 この「8九香」は、先に先手玉の守備を強化し、次に3三歩成、同銀、5二角成の筋の攻めをねらっている。
 (ただし、8七玉としてから決行しないとだいたい失敗に終わる)

参考図1
 「8九香」と打つ前に、「3三歩成、同銀、5二角成」(図)と攻めていくと、どうなるか。
 以下、5二同歩、3一飛、8一桂(参考図2)

参考図2
 この図となって、先手が不利。8一同飛成、5四角、6五歩、8一角、同竜となった時に、後手の持駒は「飛桂」だが、先手玉は着実にその攻め駒で寄せられてしまう。
 ただし、この後手の5四角の筋をくらっても、先手の玉の状況がもう少し安全ならこの先手の攻め筋は成立する。これを成立させるための、「8九香」という工夫なのである。

8九香図(再掲)
 「8九香」に対して、これから見ていく後手の指し手の候補手は、次の6つである。
   〔一〕6六と
   〔二〕6六銀
   〔三〕6九金
   〔四〕7五桂
   〔五〕7七歩
   〔六〕1四歩

6六と基本図
 まず〔一〕6六と(図)から調べよう。
 以下、8七玉、7五桂に、9七玉(次の図)

6六と図01
 7七とに、7六歩(次の図)

6六と図02
 後手のと金は「7七」の位置がこの場合はベストポジション。「7七」の位置にと金が居ると、3三歩成、同銀、5二角成と攻めていくと、同歩の瞬間に、7九角と打たれる筋で先手玉が詰めろになる。
 そこで、攻める前に7六歩(図)と工夫するのである。 7六同とと取らせて、そこで3三歩成、同銀、5二角成を決行。5二同歩に、3一飛(次の図)

6六と図03
 もう何度も見てきた手順である。
 ここで8一桂があるが、同竜と取る。以下、8七桂成、同香、同と、同玉、5四角で、“王手竜取り”がかかる。7六金と受け、8一角、同飛成(次の図)

6六と図04
 この図は、先手良しである。
 後手5四角からの「王手竜取り」がかかったが、この場合は飛車を後手にもたれても、先手玉がすぐには寄らない。
 一例だが、ここから5七飛、7七歩、7五歩と攻めてきても、3一角、1一玉、2五桂が後手玉への“詰めろ”で、先手勝ちになる。

6六と図05
 戻って、先手9七玉のところで、後手3一銀(図)が有力手のようだ。これをどう攻略するか。寄せの勉強のために見ておこう。
 3三歩成、同歩、3四歩と攻略する(次の図)

6六と図06
 3四同歩には、3三歩と打って、先手良し(3三同桂には5二角成)
 なので後手は4四銀引とがんばる(3三歩成、同銀は後手有望)
 そこで6一飛と打って、次に5二角成をねらう。4二銀引なら6六飛成がある。
 後手は4二金で勝負するが、5一飛成、4一金、同竜、4二銀引に、8四馬(次の図)

6六と図07
 これで次に3二金から後手玉は詰む。だからここで3二角が予想されるが、3二同竜、同銀、7五馬、7七飛、8七桂で先手優勢である。

 〔一〕6六とは、先手良し。

[追記]6六と、8七玉に、9五歩、同歩、7七桂 が実は手強い手順で、それについての研究を次の第33譜(研究調査2)にて行っている。結果は「先手良し」ではあるが、評価値は[+500]くらいで、実戦的には互角に近い。
 したがって、先手は「8九香」を選ぶならば、この変化を覚悟しなければいけないということになる。


6六銀基本図
 〔二〕6六銀(図)には、〔一〕6六とと同じように8七玉で先手が良い。
 8七玉、7五桂、9七玉、7七銀成と進んで、そこで7八歩と打つ(次の図)

6六銀図01
 なお、この手で7六歩もあるが、8七桂成、同香、6六とで、次に7六とをねらう手がこの場合はある。ここが6六銀から攻めてきた場合の特徴だ(厳密にはそれでも8九桂、7六成銀、7七歩で先手がやれそうではあるが)
 7八歩(図)は、やはり「7七」のベストポジションをくずす意味。7八同成銀でも、7六成銀でも、3三歩成、同銀、5二角成と攻めていけば先手良しになる。
 だから後手は銀損覚悟で7六歩と応じる。以下、7七歩成、同歩成、7八歩、7六歩(次の図)

6六銀図02
 先手は銀を得した。
 「7八歩、7六歩」を再度入れたのは、そうすることで後手に「7六」のスペースを埋めさせて、あとで6六と寄~7六と寄のようなと金の活用を消した意味がある。用心深い配慮である。
 さて、ここで先手はどう攻めるか。銀を得して、先手有利になっているが、7七歩では“千日手コース”でおもしろくない。
 「7七と」が居ると、3三歩成、同銀、5二角成とは攻めていけないが……

 ここは、3三歩成、同銀に、3一銀がある(次の図)

6六銀図03
 いま得た銀をここに使う。3一同玉に、5二角成。この攻めなら、角を渡さず攻めていける。
 以下、4二銀左に、3三歩(次の図)

6六銀図04
 後手は4二銀左と受けたが、代えて4二銀右は4一飛、2二玉、3四歩で寄り。また4二銀打と堅く受けるのも、8五歩、7四金、5四歩で先手の攻めは止まらない(以下6二銀左、4一飛、2二玉、7五馬、同金、3四桂)
 4二銀左と受けたのは、攻めのために銀を温存することと、3三からの玉の脱出を視野に入れた意味がある。しかしその手には、先手3三歩(図)がこの際の好手になる。これを同歩は、5一竜、同銀、4一飛から後手玉詰み。
 3三歩に4一銀と受けても、3二歩成、同玉、3三歩、同桂、1一飛で寄り。
 よって後手は4一桂と受け、以下、3二歩成、同玉、3三歩(同玉には4一馬)、同桂左、1一飛(次の図)

6六銀図05
 1一飛(図)と打つ。後手は2一銀と受けるしかない。
 そこで先手は9八金と受けを強化しておく。これは次に、2一飛成、同玉、4一馬と攻めていくための準備である。
 後手は3一歩で、その順を先受けするが、それでも予定通りに2一飛成、同玉、4一馬(次の図)

6六銀図06
 2二銀、同玉、3四桂からの“詰めろ”になっている。それを3八飛のように受けても、2四桂、同歩、2三銀が決め手になる。
 だからこの図では、後手は2四飛しかなさそうだが、それに対しては、3五銀と打って、2七飛成に3四桂で、先手勝ちとなる。

 〔二〕6六銀も先手良し。


6九金基本図
 次は後手〔三〕6九金。
 以下、8七玉に、7九金。8九に打った香車を取りに来た(次の図)

6九金図01
 ここで3三歩成、同銀、5二角成と、先手の狙い筋の攻めを決行すると、5二同歩、4一飛に―――(次の図)

6九金図02
 8一桂(図)で先手が悪い。

6九金図03
 だからここで「5四歩」(図)と打つ。“敵の打ちたいところへ打て”の手で、後手がこれにどう応じても、もう後手からの“5四角”は打てない。
 ここで後手の応手は〈a〉5四同銀、〈b〉6四銀左上、〈c〉6二銀左、〈d〉4四銀上とがある(5四歩を放置して8九金は後手悪い)
 〈a〉5四同銀、または〈b〉6四銀左上なら、そこで待望の攻め「3三歩成、同銀、5二角成」が有効になる。
 〈b〉6四銀左上で見ていこう。3三歩成、同銀、5二角成、同歩に、3一飛(次の図)

6九金図04
 先手勝ちになった。
 このような展開が、先手の狙い筋である。8九香は、こういう戦いのための準備で、先手玉に簡単に“詰めろ”がかからないように前もって受けた手なのである。〈a〉5四同銀、〈b〉6四銀左上なら、この筋で先手が勝つ。

6九金図05
 「5四歩」に、〈c〉6二銀左(図)。 この手は「7一」や「5一」に受けが利く分、攻略が難しくなる。
 それでも、3三歩成、同銀、5二角成から攻めていく。同歩に、4一飛。
 以下、7五桂、9七玉、5一桂、3一金、1四歩(次の図)

6九金図06
 後手が7一歩でなく、5一桂と受けたのは、先手に4三飛成のような活用をさせないため。
 1四歩(図)で、後手は脱出口を開いた。どう攻略していくか。
 2一金、1三玉に、3五金と打ち、2四歩に、2五桂、同歩、3七桂という活用があった。以下、2三玉、2五桂、4四銀に、2二金(次の図)

6九金図07
 2二同玉に、5一竜(桂馬を入手)、同銀、3四桂、2三玉、2一飛成まで、ピッタリとフィニッシュできた。

6九金図08
 〈d〉4四銀上(図)
 この場合は、3三歩成としても、同銀引で、無効。
 なので単に5二角成から攻めていく。同歩に、4一飛、3一角(これしか受けがない)、4五歩(次の図)

6九金図09
 4五同銀は5三歩成、同歩、5二金と攻めていける。
 よって、後手はここで攻めてくる。7五桂、9七玉、8九金、4四歩、同銀。
 そこでどう攻めるかが問題になるが、5一銀と打つ手がある(次の図)

6九金図10
 後手に銀を渡すと先手玉が8八銀から詰んでしまうから、この5一銀(図)の攻めはしっかりした読みがないと指せない手だ。
 5一同銀なら、3一飛成、同玉、5一竜以下詰む。
 よって、後手はここで1四歩。後手玉の逃げ道ができた。ここで4二銀成(不成)は、同銀、2一飛成、1三玉となって、先手がまずい。
 先手は2五金。“待ち駒”だ。(これで次は4二銀成と攻めていけるし、相変わらず5一銀は3一飛成以下詰みだ)
 後手はもう受けが難しいので、先手4二銀成よりも早い攻めを繰り出すしかない。
 そこで、9五桂(先手玉への詰めろ)。 これを先手は同歩と取り、同歩に、8八桂と受ける(次の図)

6九金図11
 先手が勝ちになったようだ。
 後手はまだここから、8八同金、同玉、7六桂、9八玉、8七香で“詰めろ”が続くが、9七玉、8八香成、7七金と先手は受けて、それ以上は続かない。

 〔三〕6九金も、先手良し。

8九香図(再掲)
   〔一〕6六と → 先手良し
   〔二〕6六銀 → 先手良し
   〔三〕6九金 → 先手良し
   〔四〕7五桂
   〔五〕7七歩
   〔六〕1四歩

参考図3
 さて、「3二歩図」(「8九香」と打つ前の図)から、8九香と打たずに、5四歩と行くと、7五桂(図)と打たれる。
 以下8五歩、6六と、8六玉、7四桂、9七玉、7七と、8九香、8五金、8七歩、8四銀となって―――(次の図)

参考図4
 後手優勢。先手の5三歩成が間に合わない。図以下は8二馬、7六金、5五馬、4四銀で、後手優勢。
 この後手7五桂以下の順を避けるために、「6七歩」と受けて、7五桂、8五歩の次の“6六と”と消したのが本譜の進行だった。

7五桂基本図
 〔四〕7五桂(図)。
 「8九香」と打った場合、この〔四〕7五桂への対策はできているのだろうか。これは、今回のテーマの最重要ポイントとなるところで、この結果が、「8九香」の手が成立するかどうかの命運を握っているといえる。

 図以下、8五歩、6六と、8六玉、7四桂、9七玉と進む(次の図)

7五桂図01
 ここが後手の分岐点で、[ア]8五金、[イ]7六と、[ウ]7七とがある。
 まず[ア]8五金は、そこで3三歩成、同銀、5二角成の攻めを決行する(次の図)

7五桂図02
 5二同歩は3一飛で、先手勝ち。
 だからここで後手は7七と。放置して5一竜だと、8六金以下、詰まされてしまう。
 先手困ったように見えるが、このピンチを切り抜ける好手がある(次の図)

7五桂図03
 7五馬(図)である。急所の桂馬をはずした。
 7五同金に、5三馬、8六金、同馬、7九角、8八歩、8六桂、5一竜(次の図)

7五桂図04
 5一竜で先手が勝ちになったように思えるが、ここで9八桂成という妙手がある。同玉は7六角以下詰まされてしまうところだ。
 したがって、9八桂成、同香と進み、6四角、7五歩、7六と、6五金(次の図)

7五桂図05
 どうやら「先手良し」が確定したようだ。

7五桂図06
 [ア]8五金は先手2枚の盤上の角が活躍して先手良しになった。
 代えて後手[イ]7六と(図)ではどうだろう。
 ここで角を渡すと7九角、9八玉、8六桂で詰まされるので、5二角成の攻めはできない。
 よってここは8四歩とするが、後手は6六銀で戦力を足してくる。7七銀不成(成)を防いで先手は7八歩。
 そこで6七銀不成には、3六飛の好手がある(7八銀不成には7六飛)
 だから後手は7七歩。
 先手苦戦に見えるが―――(次の図)

7五桂図07
 9五歩(図)で、玉の上部脱出を図る。同歩なら、9四馬、7八歩成、9五馬で、9一の竜も働いてくる。
 7八歩成、9六玉に、後手8四銀。
 先手は9四馬(次の図)

7五桂図08
 9四馬は、7六のと金の“取り”になっている。
 後手は7七銀成とするが、そこで先手は5二角成がある! これを同歩は、8四馬、同歩として、3三金以下、後手玉に“詰み”があるのだ(3三同銀は2一飛成から、3三同歩は、3二金以下)
 なので後手は5二角成を放置して8九と。以下、7四馬、8七桂成、7八桂(次の図)

7五桂図09
 7八桂(図)で、“詰めろ”は受かっている(7八同成銀には7六馬がある)
 ここで9九とには、8四馬左、同歩に、3三金から後手玉が詰む(3三金、同桂、同歩成、同玉、3四金、同玉、2六桂以下)
 よって7二香と攻めるが、それでも8四馬左(次の図)

7五桂図10
 以下、7四香に、8五玉(次の図)

7五桂図11
 図以下、8四歩に、9四玉として、先手玉は安全になる。角二枚を渡したが、攻め駒は十分にあり、先手勝勢である。
 [イ]7六との変化は、結果は、先手の“華麗な脱出劇”となった。

7五桂図12
 3番目の手、[ウ]7七と(図)
 8四歩から同じように8四歩、同銀と進むと、今度は9四馬ではと金取りにならないので先手が悪い。なのでこの場合は8二馬とすることになるが、それははっきりした先手の勝ち筋が見つからない。
 7七とに対しては、「7八歩」と打つのが良い。これを後手はどう応じるか。
 7六と では、上の変化にさらに7八歩をゼロ手で打った形になって先手良しは明らかだ。
 7六歩なら、先手はそこで8四歩だ。以下、8四同銀、8二角成、6六銀に、9八金と受ける。

7五桂図13
 「7八歩、7六歩」の手の交換が、先手にとって得になっていて、この図になれば先手良し。なぜかといえば、ここで後手は 7六とと引いて活用する手が指せない からだ。7六と~7七銀成が指せる形なら、先手が悪いところだった。
 ここでは後手は7八としかなさそうだが、そこで先手は攻めていける。
 3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛で、先手良し。

7五桂図14
 したがって、先手の「7八歩」に、後手は 同と(図)とすることになる。
 ここで8四歩は、8九と以下、はっきりしない。
 なのでここは、すぐに「7六歩」と打って桂馬を取りにいく手を選択するのが優る。
 以下、8九と、7五歩、8五金、7四歩、8四香(次の図)

7五桂図15
 簡単に受かるように見えるが、意外と受けが難しい。
 8七金 には、8八との妙手があるのだ。同玉は7六金で先手悪い。
 なので8八同金だが、8六金、9八玉、7六歩(次の図)

7五桂図16
 先手、受けが難しい。8七歩は7七金で寄せられる。
 7八桂が最善かと思われるが、7七歩成、8六桂、8八と、同玉、8六香、8七歩に、8四銀、9四馬、8五桂で、これも後手が良さそうだ。

7五桂図17
 戻って、後手8四香に対しては、2六飛(図)と打つのが正解手となる。後手の8六金を受けながら、3五桂の攻めを見せた攻防手。
 これに対し“7六歩”(詰めろ)がある。それには、先手8七金と受ける。そこで8八と、同玉、8六金で先手困っていそうに見えるが―――(次の図)

7五桂図18
 ここで8四馬がある。以下、8七金、同玉、8四銀、3五桂(詰めろ)は、攻めの手番がまわって先手良し。

7五桂図19
 2六飛 に、“8六金”(図)以下を見ていこう。
 8六同飛、同香、同玉、8四銀、9四馬、8八と、7六馬、6四銀引、3五桂(次の図)

7五桂図20
 3五桂(図)は、3二角成、同玉、2四桂以下の“詰めろ”。
 すでに先手勝勢といえるが、もう少し進めてみよう。
 7五銀左には、9七玉とかわす。以下、4七飛、8八玉、2七飛成。これで2四桂以下の詰めろは消えた。
 先手はどう勝ちを決めるかという場面。いろいろあるが、3三歩成、同銀(同玉には4五金)、3一金がまぎれの少ない決め方(次の図)

7五桂図21
 3一同玉に、5二角成、4二金、5三馬、同金、5一竜、2二玉、1一銀、同玉、3一金(次の図)

7五桂図22
 1一銀、同玉と捨てて、後手玉の1四歩~1三玉のような脱出の可能性を消して、図の3一金で“必至”となった。「角銀」と駒を渡したが、先手玉には詰みはないので、先手勝ちが確定。
 これで[ウ]7七とも先手良しが判明した。

 以上、〔四〕7五桂は、きわどい変化ばかりだったが、どうやら「先手良し」である。

7七歩図基本図
 〔五〕7七歩(図)は、後手が“苦心して編み出した”という感じの手。
 これを同玉と取るのは、7五桂で先手のその後の勝ち筋がはっきりしない。
 「5四歩」が良いようだ(次の図)

7七歩図01
 ここから、〔G〕6四銀左上と〔H〕4四銀上、〔I〕7五桂とを後手の有力手としてみていく。

 まず〔G〕6四銀左上。この場合は単に5二角成とする。
 以下7五桂(詰めろ)、7七玉、7六歩、8八玉、5二歩、4一飛、3一角、3七桂(次の図)

7七歩図02
 3七桂(図)で、実は後手玉は“詰めろ”になっている。3三金、同桂、同歩成、同玉、3四歩以下。
 後手はその詰めろを受けて、5一桂。
 そこで6一竜が先手の好手。以下、6七と、9七玉、7七歩成、3三歩成(次の図)
7七歩図03
 3三歩成に、後手がこれを何で取るかで攻め方を決める。3三同桂なら、5一竜、同銀、3四桂で後手玉詰み。
 3三同歩は5二竜で、次に4二竜からの“詰めろ”。
 そして3三同玉には、5二竜。以下、9五歩に、4二竜、同角、3四歩(次の図)
7七歩図04
 以下、後手玉は“詰み”。

7七歩図05
 「5四歩」に、〔H〕4四銀上(図)。
 先手「5四歩」に、同銀や、6二銀引の場合も、上と同じように5二角成から攻めて先手が良くなるのだが、この〔H〕4四銀上の場合だけは、それでははっきりしないので、攻め方を変える。
 この場合は、5二角成とすぐにいかず、6一飛(図)と打つのが良い。
 対して、後手は3一桂(何も受けないと5二角成があった)
 以下、7九歩、6六と、8七玉、7五桂、9七玉、7六とが予想される手順。
 そこで「4五歩」と打つ(次の図)

7七歩図06
 4五歩(図)を 同銀 には、3三歩成、同玉、6五飛成と指す。
 以下8七と、同香、6四銀右上、6八竜となって(次の図)

7七歩図07
 先手が良い。

 よって、「4五歩」に、後手はこれを手抜きして攻める順を考える。6二金 という手がある。これは飛車をどかして、6九金とこの金を使う意味だ。
 6二金、7一飛成、6九金、4四歩、7九金。
 どちらの攻めが早いかという競争になった。先手玉は次に8九金で“詰めろ”がかかる。
 先手はスピ-ドアップで、1一銀と攻めを加速させる(次の図)

7七歩図08
 1一同銀に、3二角成、2二銀、4三歩成、同桂、3三歩成、同銀左、5一竜(次の図)

7七歩図09
 飛車を渡しても先手玉はまだ詰まない。
 なので5一竜(図)の攻めが利く。同銀に、3三馬、同桂、5一竜、2一飛、3二金で、先手の勝ちになる。

7七歩図10
 先手「5四歩」のところまで戻って、後手〔I〕7五桂。
 これは先手「5四歩」を相手をしないで攻めようという方針だ。
 この手には、8五歩。 以下、6六と、8六玉、7四桂、9七玉、8五金、5三歩成、7六と、8七歩(次の図)

7七歩図11
 これはどちらが勝っているか。後手玉はまだ“詰めろ”ではない(5二とが詰めろになる)
 だから後手は“詰めろ”で先手玉に迫る必要があるが、6六銀7八歩成 が詰めろでこれで後手が勝てそうに見える。
 しかし 6六銀(や7八歩成)には、先手7五馬という切り返しがある。以下、同銀引に、5二と(次の図)

7七歩図12
 こう進めてみると、はっきり先手勝ちになった。

 なので後手は「7七歩図11」から、8七桂成 と攻めるしかなさそうだ。以下、同香、同と、同玉、8六金、8八玉と進む(次の図)

7七歩図13
 ここで先手のおもな持駒は「飛金銀桂」となった。後手玉に“詰み”はまだないのだが、ここで後手が 6六銀 と指してくれば、6六同銀、同桂として、銀が一枚増えたことで、後手玉に“詰み”が生じる。
 詰み筋は、3三歩成として、同桂は3四桂から詰み。同玉には、3六飛、3四香、4五桂、2二玉、3二角成、同玉、3四飛以下。そして同銀は、3二角成、同玉、4一銀、同玉、5二とから。
 また、後手が「香車」を使って先手玉に“詰めろ”をかけてくれば、その瞬間、3三歩成から(同玉の時に3五飛に香車の合駒がないので)“詰み”が生じるのだ。やはり3三歩成、同銀、3二角成以下の筋で。

 だからこの図で、後手が先手玉に“詰めろ”をかける手段は限られてくる。「香車を手放さず、6六銀以外の手で“詰めろ”をかける」という条件を満たさなければならない。
 そうすると、どうやら、6六桂 しかないようだ。
 しかし、6六桂 に、7九歩と受ければ、やはり後手は「香車」を使わないと攻めることができない。

 つまり、この図はすでに「先手勝ち」になっているのである。
 この図から、6六桂、7九歩、8七香、9八玉、7八歩成と進んで、以下後手玉の詰み筋を確認しておくと、3三歩成、同銀、3二角成、同玉、4一銀(次の図)

7七歩図14
 2二玉なら、3四桂があるので、ピッタリ“詰み”。
 4一同玉以下は、長手数になる。4一同玉、5二と、同玉、5四飛、5三角(銀)、5一竜、同玉、5三飛成、5二銀(角)、6三桂、4一玉、3二金、同玉、5二竜、4二銀、3三歩、同玉、2二角以下。

 〔五〕7七歩も、先手良しが結論である。

1四歩基本図
 6番目の候補手〔六〕1四歩(図)は、後手の“ふところ”を広げた手。
 調査した結果、この手には、6七歩 が良いようだ。(8七玉 もあるので後述する)
 (8九香を打つ前に)単に6七歩と打った場合と比較して、先手8九香と後手1四歩の手の交換になっているが、これはどちらが得しただろうか。
 ここで後手の手番だが、7四銀が考えられる(6六歩は、8五歩で先手良し)

 そこで先手に“好手”がある(次の図)

1四歩図01
 1五歩(図)。 後手の1四歩を逆用する攻め筋である。1五同歩なら、1三歩とし、同香に、1二歩(同玉なら3二角成がある)の攻めがある。
 だから後手は端を手抜きして攻めてくるしかない。
 7五桂、8五歩、6四桂、8六玉、8五銀、9七玉、9五歩、1四歩(次の図)

1四歩図02
 ここで後手に気の利いた攻めがない。
 6七と、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、1三金(次の図)

1四歩図03
 端攻めが決まり、後手玉が詰んだ。

1四歩図04
 これで〔六〕1四歩は先手良しの結論が出たが、6七歩 に代えて、8七玉(図)もあるので、参考のために見ておこう。ただしこちらはたいへんにきわどい変化になる(以下の展開がスリリングで面白いのでぜひ紹介したい)
 後手は7六歩。
 これに対して、7八歩では、6七とで、先手が勝てないようだ(この判断が難しいところ)
 7六歩を受けないで、1五歩とここでも端攻めに行くのがこの場合唯一と思われる先手の勝負手段だ(次の図)

1四歩図05
 1五同歩なら、(この場合は三歩持っているので)1三歩、同香、1四歩、同香、1三歩の攻めが速く、先手良し。
 後手は 7五桂 と打ち、9七玉に、7七歩成。
 8九香で先受けしてあるので、この手が詰めろにならない。先手1四歩。
 ここで後手6六と寄。次に7六と寄で先手玉に詰めろがかかる。
 先手は1三歩成。以下、同香、同香成(次の図)

1四歩図06
 1三同桂に、5二角成。(1三同玉には、1四歩、2二玉、1三香で先手良し)
 以下、7六と寄に、8八香打(次の図)

1四歩図07
 先手良しである。
 後手はここで9五歩や8七香と攻める手があるが、1二歩または4一飛で“詰めろ”をかけて先手勝ちになる(1二歩に同玉なら、3三歩成、同歩、3二金。後手9五歩~9六歩は同馬と取れる)

1四歩図08
 今の手順を途中まで戻って、7五桂 に代えて、7七桂(図)としたのがこの図。
 この手が好手で、これで先手負けになると、最初調べた時には思っていたが……
 図以下、1四歩、8九桂成、7八歩、7五桂、9七玉、6六と、1三歩成(次の図)

1四歩図09
 1三同香、同香成、同桂、5二角成(同歩は後手玉が詰む)、7七歩成、同歩、同と。 
 一見、これで先手玉に受けがなく先手負け、に見える。ところがそうではなかった―――(次の図)

1四歩図10
 4三馬(図)があって、先手の指せる局面になっているのである!
 4三馬は、先手玉の詰めろを受けつつ、後手玉の詰めろになっている。そして4三同銀と取れば、2一金、同玉、5一竜、3一合、1一飛以下後手玉は詰むので、この馬は取れない。
 だからここで後手は8七桂成、同馬、同玉と清算することになりそうだが、持駒の多い先手が優位の形勢である。

1四歩図11
 戻って、先手9七玉の時に、後手 6六と の手に代えて、6二金(図)が手強い手である。しかし正確に指せば、先手が勝てる。
 6二金の意味は、後手は次に3一玉として角を取ろうということである(だからここで1三歩成では、先手が負ける)
 まずここで3三歩成とする。後手は同玉。
 そこで正着は、8五歩。

1四歩図12
 8五歩(図)。 これが重要な手である。この歩を突くことで、先手玉が広くなった。
 後手の7四金に、そこで、4五金と打つ。3四飛以下“詰めろ”
 後手は3四香と受ける。以下、3五歩に、2二玉、1三歩成(次の図)

1四歩図13
 先手はもう3四歩と香を取っている余裕はない(それでも後手に香車を使わせた分先手玉が安全になったという意味はあり「4五金、3四香、3五歩」の手は必要だった)
 1三歩成(図)に、後手は3一玉。次に4一玉で角をタダ取りされてしまう。
 先手は5二歩。後手4一玉なら、5一歩成、同銀、3一飛、5二玉、5一飛成以下、後手玉が詰む。
 よって、後手は6一歩と底歩で二重に受ける。
 先手は6三歩。4一玉(角を取る)に、6二歩成(金を取る)。
 ついに後手は角を取った。その角を7九に打つ(次の図)

1四歩図14
 この時のために、先に8五歩を突いておいた。8六玉(図)と逃げるスペースがある。
 6八角成、9七玉、8五金に、5一歩成以下、後手玉詰み。先手勝ち(6二銀左としても、6一竜で後手玉の詰めろはほどけない)
 以上、8七玉 の結果は、これも先手良しと出た。

 〔六〕1四歩は、6七歩または8七玉の後、1筋を攻めて先手良し。


8九香図(再掲)
 結論は出た。 「8九香」で、先手良しである。
   〔一〕6六と → 先手良し
   〔二〕6六銀 → 先手良し
   〔三〕6九金 → 先手良し
   〔四〕7五桂 → 先手良し
   〔五〕7七歩 → 先手良し
   〔六〕1四歩 → 先手良し

≪最終一番勝負≫(=3二歩図)
 つまりその一手前のこの図では、先手には勝ちにつながる手が2つあったということになる。
  「6七歩」 → 先手良し(実戦の進行。まだ調べ切っていないが先手良しと思われる)
  「8七玉」 → 後手良し(第29譜 で後手良しと結論が出た)
  「8九香」 → 先手良し

≪最終一番勝負≫6七歩まで
 実戦は、「6七歩」を選び、6四桂、8七玉と進んだのであった。



≪最終一番勝負≫ 8七玉まで

 先手が少し有利になったのでは、と感じていた。


第33譜に続く




<参考:3二歩図のコンピューターソフト評価値>

3二歩図

「激指14」評価値
 8七玉(-653) 8九香(-675) 6七歩(-749) 5四歩(-955) 8八香(-1079)

「dolphin1/orqha1018」(最新最強ソフトの一つ)評価値
 8九香(-87) 8七玉(-94) 6七歩(-174) 3三歩成(-435) 3六飛(-581)

 「激指」も、最新ソフトも、「6七歩」、「8七玉」、「8九香」を候補手の1~3番手に示している。

 しかし、「激指14」の評価値は-700くらいで、ここでは「後手有利」であるとしている。
 我々はこの「亜空間最終一番勝負」では、「激指14」を使って戦っていた。
 しかし我々はこれを見て、「ここは6七歩と8七玉の2択」と考えていたのである。なぜか「8九香」は、「激指14」がこのように示していたにもかかわらず排除していた。
 どれを選ぶにせよ、「激指」はすでにここは先手苦しいと見ているので、評価値の小さな差を我々は重視する意味がないと思っていた。だから、“勘”によって、我々は「6七歩」と「8七玉」のどちらかを選んだのである(この段階では「8九香」の効果がわからなかったので心に響かなかったということだ)

 しかし最新ソフトでも、「6七歩」と「8九香」と「8七玉」、この3つの手については、先手にとって、どの手が良い手でどの手が悪い手かまだまだ全然判断がついていないことが、この評価値からわかる。つまりこの局面、最新ソフト的には「互角」なのである。
 とはいえ、やはり最新ソフトの力なくしては、今回のような調査はできなかっただろう(「激指14」を使った場合、一局面の調査の結論を出すために、最新ソフトの場合の5~10倍以上の時間がかかる感触である)
 
 我々(終盤探検隊)は、「激指」はこの場合後手を(たぶん後手の玉形のほうが堅いので)過大に評価する傾向があるということを、これまでこの≪亜空間戦争≫を「激指」とともに闘ってきた経験から感じていた。評価値が-700くらいでも、先手が良くなる道は存在する可能性が十分にあると思っていた(これまでもそういうことはたくさんあったので)
 実際、この局面はすでに「先手良し」というのが、調査の最終的な結論である。
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終盤探検隊 part132 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第31譜

2019年09月16日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第31譜 指始図≫ 6四桂まで

 指し手  ▲8七玉


    [うちがわはそとがわより大きいものだ]

 「そうだとも。」ディゴリー卿がいいました。「うちがわはそとがわより大きいものだ。」
    (『さいごの戦い』)

 その時ジルとユースチスは、ずいぶんむかしのこと、それらの荒れ地の国の地下の奥深い洞穴のなかでとほうもない巨人が眠っているのを見たことがあり、この時そのひとの名を、時の翁(おきな)と教えられたことがあるのを思い出しました。そのおりの話では、この世の終わる日に、時の翁は目をさますということだったのです。
 「そうだ。」とアスランがふたりが話をしなくても、うなずいていいました。「これまで夢を見ながら眠っていたあいだは、あのひとの名は、時というものだった。だが、目をさましたいまは、新しい名前になるだろう。」
    (『さいごの戦い』)

 みなさんが、窓の一つある部屋にいて、そのから美しい入り江か、山々のあいだにつづく緑の谷間が見えるとしましょう。そして、その窓と反対側の壁に、鏡がかかっているとします。もしみなさんが窓からふりむいて、ふと、その鏡のなかに、まったくおなじ入り江なり谷間なりを目にしたら、どうでしょう。鏡のなかの海、鏡のなかの谷は、あるいみでは、ほんとうの海や谷とおなじものです。けれどそれとともに、どこかちがうものなのです。まだ一度もきいたことがなくて、知りたくてしかたのない物語ののなかの景色のように、はるかに奥深く、はるかにふしぎなものです。もとのナルニアと、新しいナルニアのちがいも、そのようなものでした。新しいナルニアは、ずっと奥深い国でした。どの岩も花も、木の葉も、はるかに意味のふかいおもむきがありました。
    (『さいごの戦い』)

 「じっさいに鉄道事故があったのだ。」とアスランがやさしくいいました。「あなたがたのおとうさんおかあさんも、あなたがたみんなも――影の国で使うことばでいえば――死んだのだよ。学校は終わった。休みがはじまったのだ。夢はさめた。こちらは、もう、朝だ。」
    (『さいごの戦い』)

  (C・S・ルイス著 ナルニア国シリーズ『さいごの戦い』より 瀬田貞二訳)


 1950年『ライオンと魔女』からはじまったC・S・ルイス著 ナルニア国ものがたりシリーズは、1年に1冊のペースで新作が発表され、1956年7つ目の『さいごの戦い』をもって、ルイスはこのシリーズを完結させた。
 最後は、「キリスト教の終末思想」が反映されたものになっている。「ナルニア」は崩れ去り、しかしそのナルニアのうちがわには、もっと広々とした“新しいナルニア”があり、アスラン(ナルニアの創造主であるライオン)に選ばれたものは、その“新しいナルニア”に行くことができる。
 いままでの「ナルニア」は、“影の国”であることが明らかにされ、また、私たちが生きている現実世界もまた、同様に“影の国”であった。
 現実世界から「ナルニア」の王や王女として重要な時に参加していた子供たちは、「鉄道事故」によって父母ともども死亡し、“新しいナルニア”の冒険に参加する―――という結末である。
 「終末思想」に縁のないものにとっては、“死んだけどあの世でしあわせになりました”というような結末にも思え、すんなりとは受け入れがたいラストかもしれない。(子供たちが全員しっかり老人になるまで現実で生きてそのあとで新世界に行くのなら受け入れやすいのだが)
 なにしろこの子供たちは、アスランが計って殺して魂だけ連れて行ったようにもみえるから。

 C・S・ルイスはアイルランド生まれのイギリスの学者で、1898年生まれ。「ナルニア国シリーズ」を書いていたのは、ルイスが50代のとき。
 つまりC・S・ルイスは2つの世界大戦を身近に体験しているわけである。(第1作目の『ライオンと魔女』は第二次世界大戦中の子供たちの疎開から始まる話だった)
 そして、1950年頃は、アメリカとソビエト連邦の軍拡競争で、世界が不安に満ちていた時代である。この時代の人は、第三次世界大戦がやがて起こるだろうと思っていたようである。
 たとえば日本では黒澤明監督映画『生きものの記録』(1955年)がつくられた。これはある工場の経営者である男が、家族に、全財産をなげうって家族でブラジルへ移住することを宣言するという話であるが、これは、やがて核戦争が起こって地球の北半球は住めなくなる、だから核のもたらす放射能の影響が少ないとされる南半球のブラジルに避難しておこう、という発想である。
 1950年に発表されたアイザック・アシモフ『宇宙の小石』では、地球は核戦争後放射能に汚染され人の住みにくい環境になっている。この設定がアシモフの宇宙ものの作品ではずっと継承されている。やがて人類は宇宙に進出して「銀河帝国」を築いて大繁栄するが、その発祥の地である地球はいつしか忘れ去られるという設定である。(ずっと後の作品で発見された地球が描かれるが、やはり放射能に汚染されたままでもう誰もすんでいなかった)
 つまり「地球は住みにくいから宇宙へ脱出してしまえ」という発想の物語が、この時代、SFではたくさん作られたのである。それほど、「現実世界」はやがてもっと住みにくくになり、人類は滅びてしまうのではないか、という感覚がこの時代の人々の中にはあったのであろう。
 有名なのは1959年映画『渚にて』である。原作はネビル・シュートの小説(1957年)で、この物語では「第三次世界大戦が起こって人類が滅亡する」という様子をストレートに描いている。
 1938年にウラン核分裂が発見されたが、その時点では物理学者でさえ、核爆弾の製造は無理だろうと考えていた。ところが、わずか7年で、その爆弾はつくられ、その威力を世界に見せつけた。
 核分裂による広島型ウラン爆弾には「臨界量」というものがあって、その爆弾の規模には限界があった。ところが、1950年頃に米ソで行われていた水爆実験の「水爆(水素爆弾)」は、広島型の1000倍ほどの威力があった。核融合によって力が生み出される「水素爆弾」は、限界なく大きくできるのである。
 「軍拡競争」の規模と速度が、すさまじかった。
 1950年代という時代は、そういう時代であったから、どうせこの世界はいつまでももつわけがない、というような気分であったかもしれない。
 (世紀末ではなかったが)「終末論」の出やすい、心の中に巨大な暗雲を感じて生きていた時代であったといえる。

 ともあれ、“彼ら”―――ナルニアの冒険体験をした子供たち―――は、“影の国”であるこの現実世界を去り、“新しいナルニア”へと旅立っていったのである。



<第31譜 好転の予感がする>


≪最終一番勝負 第31譜 指始図≫ 6四桂まで
 「亜空間最終一番勝負」はいま、後手の≪亜空間の主(ぬし)≫が、△6四桂(=王手)と指したところ。
 先譜で述べたが、このを我々(先手をもっている終盤探検隊)は感覚的にこれを「ありがたい、先手が優勢になったのでは」と感じていた。

≪指始図≫ 6四桂まで
 後で研究調査してわかったことは、△6四桂に代えて7四銀や6六歩でも、後手が良くなるわけではないので、その前の先手「6七歩」と受けたところでは、どうやらすでに先手が優勢になっているようである。
 だから後手にとっての“最善手”はもう厳密には存在しない。後手の≪ぬし≫は、それを自覚して、勝負手としてこの △6四桂 を選んだと見るべきなのかもしれない。
 その前に後手は7三同銀とと金を払う手を指している。この手が“悪手”だったのだが、「6四」の位置の銀を「7三」に引いたので、「6四」に空間ができた。そこに「桂」を打つ手は、だから、7三銀引の手を生かした手ともいえるわけである。



≪最終一番勝負 第31譜 指了図≫ 8七玉まで

 △6四桂 には、“王手”であるから、先手は玉を逃げるしかない。
 我々終盤探検隊は、▲8七玉 と指した。この一手と思って指した。


 この「最終一番勝負」の戦闘中は ▲8七玉 以外、考えなかった。
 しかし、後で考えてみると、あるいは「7七玉」もあったか。
 以下、それをいま研究調査してみたい。


[調査研究:7七玉の変化]

7七玉基本図
 △6四桂に、「7七玉」(図)。
 後手の△6四桂は、先手に8七玉と下がらせて6七とを指したい、という意味があるが、この「7七玉」(図)は、それ(6七と)を簡単には指させないという手だ。こういう“意地を張るような手”はだいたい失敗に終わる場合が多いので、感覚的には、戦場からより遠くへ逃げる8七玉のほうが正解に思える。実際にはどうだろうか。
 「7七玉」には、後手6六歩(これが後手の最善手とみる。他に7六歩もあるので後述する)

 そこで2五香と打つ(次の図)

7七玉図01
 この2五香(図)が先手期待の一手。この手は、後手が6四桂と桂馬を使ったので、「2三」の地点を守る駒が一枚少なくなった、それで「2三」をねらうということである。次に2六飛が継続手になる。
 図より、6七歩成、8八玉と進む(次の図)

7七玉図02
 ここで先手の手番なら、2六飛、3一桂、2三香成、同桂、2四金で、後手は"受けなし"になる。後手6六と寄や6六銀ではそれより早い攻めにならないので、後手は受けなけらばならない。
 ここでは〔a〕2四歩、〔b〕6二金、〔c〕3一桂が考えられる。

 まず〔a〕2四歩。これは、同香に2三歩で、先手2六飛がくる前に香車を取ってしまおうという手。
 しかし〔a〕2四歩に、3五金と打つ好手があった(次の図)

7七玉図03
 3五金が気づきにくい手で、後手玉の上空を押さえる好手である。
 後手は2五歩と香車を取るが、先手は5二角成(次の図)
 
7七玉図04
 5二角成(図)で、先手の勝ちが決まった。

7七玉図05
 〔b〕6二金は考えられる受けで、ここで2六飛には、3一玉(角取り)で、これは後手優勢になる。
 〔b〕6二金には、「3三歩成」が良い。同歩なら3二飛から詰みだし、3三同玉は3五飛、3四桂、4五金で先手勝ち。
 だから「3三歩成」は、同銀 か、同桂 だが、同銀 には、3一金と打つ手がある(次の図)

7七玉図06
 なんと3一金の一発で後手玉は"受けなし"になっている。3一同玉に、5一竜で“必至”である。金を渡しても先手玉に詰みはない(8八玉と逃げた形が生きた)

7七玉図07
 先手の「3三歩成」を、同桂 の場合。 これには3四金(図)。
 2五桂に、3三歩と打つ(同銀なら、4三金、3一香、5一竜)
 3一香と受けても、3二歩成、同香、3三歩、同銀、4三金(次の図)

7七玉図08
 3一歩に5一竜、1四歩、2一飛、1三玉、3三金以下、先手の勝ち将棋である。

7七玉図09
 〔c〕3一桂(図)と受ける手が、後手の最善と思われる手だ。
 先手は2六飛。
 そのままなら2三香成、同桂、2四金で寄ってしまうが、ここで6二金として、2三香成、同桂、2四金なら、やはりここでも3一玉で後手良しになる。
 というわけで、先手は他の手を見つける必要がある。
 「6三歩」と打つのが良いようだ(次の図)

7七玉図10
 6三歩(図)に、後手7二金なら、3三歩成とする。同桂は2一金以下、同玉は3六飛以下寄りなので、3三同銀しかないが、そこで5一竜、4二銀右、5二竜(次の図)

7七玉図11
 次に3四歩が“詰めろ”になる。 先手勝ち。

7七玉図12
 よって、「6三歩」には、後手は金取りを放置して攻めあうほうが良さそうだ。
 6六と(図)
 先手は9七玉と逃げ、7七と寄に、7八歩(次の図)

7七玉図13 
 ここで7八歩としたのは、このままだと7六と寄がきびしいから(7八歩と打たず単に6二歩成は、7六と寄、9八金で、これは形勢不明の戦い)
 7八歩が先手の最善手で、後手がどう応じても、後手の寄せが弱くなる。
 7六と引に、そこで6二歩成と金を取る(次の図)

7七玉図14
 これも先手の勝てる将棋になっている。
 7五金には、同馬と取って、同とに、3三金から後手玉詰み。
 6二同銀右(左)には、2三香成で良い。同桂、2四金、3一玉に、5二角成である。

7七玉図15
 先手「7七玉」に対して、7六歩(図)の場合。
 この手に対し8八玉だと、6七と、7八歩、6六銀で、先手悪い。
 ここはしかし、6八玉と逃げる手があり、これが正着(次の図)

7七玉図16
 ここで4九金では、先手に余裕ができるので、2五香と打って先手優勢がはっきりする。
 なので、後手は6九金で勝負だ。6九同玉に、7七歩成。
 以下、5八玉、4六銀、4九玉(次の図)

7七玉図17
 ここで 4七と と、3六桂 とが考えられる。
 4七と 以下は、4八歩、3七と(代えて5六桂もあるが4七歩、3六桂、3九金、4七銀成、5八金で受かっており先手良し)、3三香、3一銀、3七桂、同銀成、3五飛(詰めろ)、4二金、5一竜(次の図)

7七玉図18
 以下、4一金、同竜で、先手勝ち。角を渡しても、先手玉に詰みはない。

7七玉図19
 3六桂(図)には、3八香と打って、2八桂成に、3三歩成とする。
 これを同桂なら、3四金と打ってこの手が2三金、同玉、2一飛以下“詰めろ”になり先手勝勢。
 よって後手は3三同銀と取るが、同香成(次の図)

7七玉図20
 3三同桂なら、1一銀、同玉、3一飛、2一銀(2一香合は2二金以下詰み)、3二角成で、先手勝ちが決まる。
 なので3三同玉だが、これには4五金と打つ(3四飛以下詰めろ)
 3四香に、3五歩、同銀、2五銀(次の図)

7七玉図21
 2五銀(図)は、3四銀、4二玉、3二角成、同玉、3三歩、同桂、同銀成、同玉、3四香以下の“詰めろ”。
 この変化も先手勝ちになった。


7七玉基本図(再掲)
 意外であったが、「7七玉」は先手有望だったようだ。以上のように、研究では、はっきり「先手良し」となり、先手にとって都合の悪い変化は見つかっていない。

7七玉図02(再掲)
 後手6六歩に2五香と打って、6七歩成にこの8八玉と逃げたこの形が、見た目以上に良い形なのである。この玉は、金を渡しても、角を渡しても詰まないので、その分思い切って攻めて行けるのだ。
 これが8七玉(実戦の進行)なら、7五桂と打たれ、9七玉と逃げ、7七とと追われたときに、角も金も渡せない。

 ――――ということは、我々は「7七玉」を選ぶべきところだったかもしれないということになる。(戦闘中はまったく考慮しなかった手なのであるが)

 なお、コンピューターソフト「激指14」の評価値は、「7七玉」は[ -927 後手優勢 ]である。(実戦の「8七玉」は[ -568 ])


≪指了図≫ 8七玉まで



[調査研究:先手が4一角と打たずに6七歩、そして後手6四桂の場合]

≪最終一番勝負≫7三同銀図
 この将棋の手を少しさかのぼって、この図は、先手の7三歩成(悪手だった)に、後手が同銀(これも悪手だった)とした場面。
 そのときの譜で述べた通り、ここでは4通りの手順の選択肢がある。
  (1)8七玉
  (2)6七歩
  (3)4一角、3二歩、8七玉
  (4)4一角、3二歩、6七歩

 実戦は、「(4)4一角、3二歩、6七歩」を選んだのだったが、(2)6七歩を選んだ場合の一変化を、次の研究対象としたい。

6四桂A'図
 「4一角、3二歩」を入れずに、6七歩、6四桂(図)と進んだ場合 である。
 図より、8七玉、7六歩、7八歩、6七とと進む。(「7六歩、7八歩」の手の交換はあってもなくてもだいたい同じに進みそうだが、とりあえず先手に一歩を使わせて持ち歩を少なくさせておくという意味はあるかもしれない)
 ここで、2五香と打つ手がある。

6四桂図01
 この場合もやはり「2五香」(図)。 この「2五香」は、先手にとって「後手が6四に桂馬をつかったから」考えてみたい手となる。
 「2五香」は、「2三」をにらんでいる。次に2六飛と打って、さらに4五角と「2三」に利きを集中させる攻めがある。後手は6四に桂馬を使ったために、受けに使う桂馬が一枚少なくなっており、2五香はそこを突いたのだ。
 2六飛に3一桂と受けても、2三香成、同桂、2四金で受け切れない。
 また、3一銀と銀を受けに使うのは、2六飛、3二銀、2三香成、同銀、3一角がある(次の図)

6四桂図02
 先手の攻めが成功している。

6四桂図03
 だから後手は、7五桂が最善の手になる。以下、9七玉に、7七歩成、同歩、同と、9八金(次の図)

6四桂図04
 この形を決めることで、とりあえず先手に金を一枚使わせた。しかし後手はもう受ける駒がないので、2四歩から勝負することになる(代えて3一銀は2六飛、3二銀、4五角で先手良し)
 先手は2四同香と素直に応じ、以下2三歩、同香成、同飛、2五飛(次の図)

6四桂図05
 2五飛(図)で、王手銀取りだ。3四玉には3七桂(2四歩、4五角)で後手玉は捕まる。
 よって、後手は2四歩。以下、5五飛に、そこで 2二玉3二玉 もあるので後述する)
 2二玉 では、代えて6九金として金取りを避けておきたいが、しかしそれでは7五飛、同金、1五桂で、後手玉は寄せられていた。
 だから 2二玉 と逃げたのだが、そこで先手4五角(次の図)

6四桂図06
 角を手持ちにしていたので、この角打ちが出現した(これが4一角と決めなかった効果だ)
 このタイミングで角を打ったのは、先手の5五の飛車は、5九飛と7五飛の2つ指したい手があり、どちらを指すかを相手の手を見てから決めようという意味がある。
 放置すると、5九飛や8四馬で金を補充してから3三歩成で後手玉は詰む。
 なので後手は2三香と受ける(気の利かない受けだがこれくらいしか受けの手がない)
 先手は5九飛で、金を取る。
 そこで後手の手番だが、早い攻めはない。7六歩か6六歩くらいだが、7六歩 に、3三歩成、同銀、3一銀と攻める(次の図)

6四桂図07
 3一同玉(3二玉なら3四歩)、2三角成、3二銀、5三飛成(次の図)

6四桂図08
 5三飛成(図)で、先手の勝ちになった。5三同金は2二銀、同銀、5一竜以下詰みなので、2三銀とするしかなさそうだが、5二竜で、"受けなし"になる。

6四桂図09
 7六歩 では後手が寄せられてしまうのなら、3二歩(図)と受けるしかない。
 先手は7八歩と打つ。後手の7六歩に、3三歩成。これを同銀は、4一金で寄る。なので、3三同桂。
 以下、7二角成、7四銀、6一馬(次の図)

6四桂図10
 角を成って、今度は横から攻める。次に5二馬がある。それを受ける6二金には、5一馬として、先手が優勢である。

6四桂図11
 戻って、先手5五飛に、後手3二玉(図)の場合。
 この手に対しても、やはり4五角が良い手になる。以下、2三香、5九飛、7六歩に、6三銀(次の図)

6四桂図12
 これで後手陣を攻略できる。6三同金に5一竜で寄り。3一歩と受けるのも、5二銀成、同歩、4一金で、寄りである。
 先手優勢。

6四桂図13
 2三香 と受けても駄目なら、代えて 3一歩(図)でどうか。これは香車を攻めに使うために温存した意味があって、後手は9五歩の攻めをねらっている。
 3三歩成、同銀、1二角成に、9五歩。香車を持っているので“詰めろ”になっている。
 先手はそこで―――(次の図) 

6四桂図14
 7五飛(図)が用意の一手。5九飛(金を取る)を決めないで4五角と打ったのは、この手を含みに残しておく意味があったのだ。この場合の7五飛は受けの手で、同時に攻め駒も増える。
 以下、9六歩、同玉、7五金、同馬、8四銀、2三銀、4二玉、2一馬、9五歩、同竜(次の図)

6四桂図15
 後手玉には“詰めろ”がかかっており、受けも難しい。先手勝勢。


7三同銀図(再掲)
 「7三同銀図」に戻り、この調査の結果、ここから「6七歩、6四桂」と進むと、はっきり「先手良し」になる順があるとわかった。
 先手の「6七歩」に対して、7四銀や6四銀や6六歩でも「先手良し」になることは、すでに前譜で証明を済ませている。
 これで次の「(2)6七歩」が、「先手良し」と明らかになった。
  (1)8七玉 → 先手良し
  (2)6七歩 → 先手良し
  (3)4一角、3二歩、8七玉 → 後手良し
  (4)4一角、3二歩、6七歩 → 実戦の進行

 この2五香の変化は、「4一角、3二歩」の角打ちを入れなかった場合に、有効となる(4五角打ちがあるから)
 「4一角、3二歩」を先に打ってしまうとこの変化がないのだが、それでも―――つまり、実戦の進行の(4)4一角、3二歩、6七歩でも、「先手が良い」のではないか。


参考図
 実戦は、(4)4一角、3二歩、6七歩の後、6四桂、8七玉と進んだ。おそらく次の手は6七とだが、そこで「2五香」はあるのだろうか。
 つまりこの図であるが、「4一角、3二歩」の交換が入っている。角をすでに4一に打ったので、いまの研究手“4五角”がない。
 しかしそれでも、ここから2三香成~2五飛の王手銀取りはあるわけで、これでも先手良しなのでは―――という感じもある。実戦中もこの筋は気づいていた。
 (この参考図についての調査は、また後の譜で)



≪最終一番勝負 第31譜 指了図≫ 8七玉まで(再掲)

 つまり、先手はついに「勝ちになった」のではないか。
 戦闘中も、そのように感じていた。我らがソフト「激指14」の評価値はいまだ後手寄り(-568)であったけれども。



第32譜につづく
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終盤探検隊 part131 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第30譜

2019年09月04日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第30譜 指始図≫ 6七歩まで

 指し手  △6四桂


    [世界のはてにはなにがある?]

 ゆれる甲板をふむ足どりは、堂々としてあぶなげなく、そのしぐさは気品にみちて礼儀正しいものでした。ルーシィとエドマンドには、すぐわかりました。リーピチープです。あの、ナルニアものいうけものたちきっての勇士、ネズミの族長です。二度めのベルナの戦いで消えることのないほまれを勝ちえた者なのです。ルーシィは、以前にもそう思ったように、リーピチープを両手にすくいいれて、ぎゅとだきしめてやりたくてしかたありませんでした。けれども、とてもできない望みだということを、ルーシィは心得ていました。そんなことは、リーピチープの気を悪くするにきまっていましたから。
    (『朝びらけ丸 東の海へ』)

 ルーシィは、ともにある小さな腰かけにすわって、リーピチープとチェスをたたかわせては、ずいぶんと時間をすごしました。リーピチープがチェスのこまをあげるのは、なにしろこまが大きいものですから、盤のまんなかちかくまで動かす場合などは、両手にかかえて爪さき立っていくので、見ていておもしろい見ものでした。リーピチープは、りっぱなさし手で、じぶんのさした手をよくおぼえている時は、たいてい勝ちました。けれども、時々はルーシィが勝ちました。それはネズミのほうが、女王と城がぶつかるおそれのあるところへ、騎士のこまをすすめるようなおかしな手をうつことがあるからでした。それはネズミが時々チェスの遊びだということをふっと忘れてしまって、ほんとうの戦争のことばかり考えて、戦場でならじぶんはこうするという作戦を、騎士のこまにやらせるから、そんなことになるのでした。リーピチープの心は、望みなき望み、死か栄光かを賭けた突撃、さいごの死守のことばかりだったのです。
    (『朝びらけ丸 東の海へ』)

 五日ほどのあいだ、船は南南東の風にまかせて、陸地を見ず、魚もカモメも見かけすに走りました。それから、午後まではげしく雨のふった日がありました。ユースチスはリーピチープとチェスをたたかわして二度負けてしまい、前のようないやらしいじぶんにもどりかけました。
    (『朝びらけ丸 東の海へ』)

 六つめのドアをすぎたころ、ルーシィははじめてほんとうにおどろかされてしまいました。ちょっとの間、ルーシィはたしかに、あの意地のわるそうな、ひげを生やした小さな顔が、壁からとびだして、じぶんにしかめっ面をしてみせたような気がしたのです。そこでむりに足をとめて、そこを見ました。ところがなんの顔もありません。ただ、ルーシィ自身の顔の大きさと形をした小さい鏡があって、鏡のふちの上のほうに髪の毛、下のほうにひげがたれさがっていますから、その鏡を見ると、じぶんの顔が、鏡のふちの髪の毛とひげの間にぴったりはいって、それを生やした顔のように見えるのです。「通りすがりに、横目でちらりとじぶんのかげを見ちゃったのだわ。」とルーシィはひとりごとをいいました。
    (『朝びらけ丸 東の海へ』)

 この冒険のあと、十二日のあいだ、朝びらけ丸はおだやかな風をうけて、すこし東よりの南へむかいましたが、空はたいていよくはれ、大気はあたたかで、鳥かげも見えず、魚も見かけず、ただ一度だけ、右舷はるかかなたにクジラの潮ふくところをながめました。ルーシィとリーピチープとは、そのあいだずいぶんいくどもチェスを戦わせました。十三日目に、エドマンドがマストの見張り台から、右舷前方にあたって、海面から大きな黒っぽい山のようなものがそびえ立っているのを見つけました。
    (『朝びらけ丸 東の海へ』)

 それからリーピチープは、三人にさよならといい、別れをおしもうとしました。けれどもネズミは、よろこびにうちふるえていたのです。ルーシィはここではじめて、そしてこれをさいごに、いつもそうしたいと思っていたことをしてのけました。ルーシィは、両手でネズミをだきあげ、ほおずりをしたのです。
  (C・S・ルイス著 ナルニア国シリーズ『朝びらけ丸 東の海へ』より 瀬田貞二訳)



 『朝びらけ丸 東の海へ』の原題は『The Voyage of the Dawn Treader』である。「dawn」とは「夜明け」のことで、「treader」は、「貿易」とか「商業」というような意味。なので直訳すれば「貿易船夜明け号の航海」となる。
 訳者の瀬田貞二氏はこれを、『朝びらけ丸 東の海へ』と思い切って訳したわけだ。たしかに、「夜明け号」より、「朝びらけ丸」のほうが、あかるい印象になる。
 今回紹介した文の中でも、「じぶん」「おどろかされる」「かげ」「さいごに」など、小学生でも読めるようなやさしい漢字で表せるものを、あえてひらがな表記にしてある。この工夫のおかげで、全体的にのびやかな印象の描写になっている。日本語の「ひらがな」そのものが、あかるさ、のびやかさを持っていることが感じられる。

 『朝びらけ丸 東の海へ』は、海のむこう、すなわち“せかいのはて”まで旅していく話である。帰ってこないかくごで、“はてのはて”まで進んで行ったのが、リーピチープという名の“ものいうネズミ”であった。



<第30譜 揺れる心>


≪一番勝負 指始図≫ 6七歩まで
 先手番をもつ我々――終盤探検隊――は、結局、▲6七歩(図)を選択した。
「8七玉」を選ばなかった。後の研究でここでの「8七玉」は先手が悪いということは、前譜で示している。
 ―――ということは、ここで ▲6七歩 を選んだということは、正しかったかもしれない。(ただしこの6七歩で先手が良くなっているかどうかは、まだ明らかでない)

 なお、コンピューターソフト「激指14」は、この図の評価を、[-669 後手有利]としている。(「8七玉」のほうは[-798])
 後手良しの評価だが、この将棋は後手を過大に評価する傾向がずっと見られるので、これくらいは「互角」と見たほうがよい。この「最終一番勝負」の戦闘中も我々はそのように思っていた。
 いや、先手のほうが良いのでは、とさえ感じていた。


6七歩図(指始図)
 さて、ここでの後手の候補手は次のような手である。
  〔い〕6六歩
  〔ろ〕6四銀右
  〔は〕7四銀
  〔に〕6四銀引
  〔ほ〕6四桂
  〔へ〕3一銀
  〔と〕7五歩

 ▲6七歩 を指すにあたって、我々がもっとも気にしたのは、〔い〕6六歩 の手である。しかしこれには、8五歩で先手がやれると目途が立った。だから ▲6七歩 を選んだのである。

 ところが、指した後、後手の≪亜空間の主(ぬし)≫の指し手を待つ間に、後手〔は〕7四銀 の変化が気になり始めた。この手は、実は「激指14」の10コの候補手に入っていなかったということもあって、やや軽く見ていたのである。しかし考えてみれば、7四銀や6四銀右と、この銀を活用する手は、むしろ後手の本筋とも思える手で、これらの手を無視するわけにはいかない。
 そして7四銀の手の先を読んで行けば、これは容易ならざる形勢ではないかと、だんだんと息苦しくなってきたのだった。
 我々は、「8七玉」よりも「6七歩」のほうがより良いと判断して、▲6七歩 を選んだのだったが、〔は〕7四銀 に気づいた後は、「8七玉を選ぶべきだったか」という思いが、手を読む合間に、ぐるぐると頭の片隅をめぐっている状態になっていた。

 この図の、我々の読みは次のようなものであった。


6六歩図
 まず、〔い〕6六歩 について。
 ▲6七歩に、後手 〔い〕6六歩(図)は考えられる手だ。これを同歩なら、同とで、6七歩の一手がまったくの無駄手になる。だから先手は他の手を指すしかないが、遅い手だと、6七歩成が来る。

 我々終盤探検隊は、もちろんこの〔い〕6六歩 への対策はできていた。

 〔a〕8七玉、〔b〕3三香、それから〔c〕8五歩 を以下この順で見ていく。

6六歩変化図01
 まず、ここでの〔a〕8七玉 は、理論的にはつまらない手といえる。これを選ぶと、その前の「6七歩、6六歩」の手の交換が、先手にとって得な要素がなくなるからだ。その意味を具体的に示すために、以下の手順を記していく。
 〔a〕8七玉 に、7五桂(図)。 以下、9七玉、7六歩、7八歩、6七歩成(次の図)

6六歩変化図02
 「と金」が二枚できた。これが働くと後手有利になる。
 ここは3三香が先手期待の攻めとなる。以下、3一銀、5二角成、7七歩成、同歩、同と、4三馬、8七と(次の図)

6六歩変化図03
 まず一枚目の「と金」をここで使う。8七同馬、同桂成、同玉、7五桂、9七玉、6九角、8八金、9五歩、9八玉、6七と(次の図)

6六歩変化図04
 「と金」を一枚捨てても、さらに2枚目の「と金」がここで働いてくる。
 図で、7九金と受けるのが抵抗力のある指し方になるが、しかし、3六角成、5一竜に、5四馬がぴったりの手になり、後手優勢である。
 このように、〔a〕8七玉 だと後手の2枚の「と金」がきっちり有効に働いて、先手が悪くなる。

6六歩変化図05
 それでは、〔b〕3三香(図)はどうか。
 後手は3一銀と受ける。
 そこで3七桂は有力だが、4二金、5一竜、4一金、同竜、5四角の展開は、後手良し。

6六歩変化図06
 8五歩(図)のほうが良さそうだ。8五歩、7五歩、8六玉、7四桂、9七玉、8五金、5二角成、8六金、8八玉(次の図)

6六歩変化図07
 8八玉のところ、代えて9八玉は後手が角を取った手が、7六角以下の詰めろになるので、先手は8八玉(図)と逃げた。
 後手は7六桂と打ち、9八玉に、そこで5二歩と角を取る。
 そこで3一飛だと、先手は負かされてしまう。9七金、同玉、7九角から“とん死”だ。
 ここは、だが、7五馬があった(次の図)

6六歩変化図08
 この7五馬(図)が、“詰めろ逃れの詰めろ”。
 後手玉は、3一竜、同玉、5三馬、同歩、5一飛から、詰みがある。
 この図は、先手勝ち。

6六歩変化図09
 しかし、後手の“修正案”があった。8五金 の手に代えて、4二金(図)とする手である。
 5一竜に、6二銀引とする(次の図)

6六歩変化図10
 “6一竜”、6七歩成、5四歩(次の図)

6六歩変化図11
 5四歩(図)を同銀は、5二飛、同金、3二香成、同銀、同角成、同玉、5二竜で、先手が勝ちになる。
 だから、ここで後手は4一金と角を取る。 同竜に、7九角(次の図)

6六歩変化図12
 8七玉に、6六と寄で、後手の勝ちになっている。
 後手玉に詰みがあれば――というところだが、詰みはない。
 しかし、この図でもし3七桂と跳ねてあったら、3二香成、同銀、同竜、同玉、3三銀以下、詰む。―――ということなら、5四歩 に代えて、3七桂 ならどうだ、という発想になる(次の図)

6六歩変化図13
 後手6七歩成に、3七桂(図)
 ここで4一金、同竜と進めば、今度は後手玉が“詰めろ”になっているので、その展開なら、先手が良い。
 しかし、5一歩があった。このままなら4一金と角をタダ取りされてしまう。
 なので、先手は、8四馬、同歩、7四角成と、上部開拓をめざす(次の図)

6六歩変化図14
 先手玉が上部に逃げることができれば、先手が勝つ。
 しかしここで、7七ととされ、8八桂に、6六と(次の図)

6六歩変化図15
 どうも“上部脱出”はまぼろしに終わるようだ。後手勝勢。

6六歩変化図16
 戻って、後手6二銀引の場面で、竜を逃げずに、“3二香成”(図)と勝負してどうか。
 これを同銀なら、3三金と打って、先手優勢になる(以下、3三同金、同歩成、同玉、3二角成、4四馬、3七桂)
 なので、3二同金が正着。
 以下、3三歩成、同金、5二竜、3二歩、5四歩、8五金、5三歩成(次の図)

6六歩変化図17
 8六金、9八玉、9七香、8九玉、1一玉(次の図)

6六歩変化図18
 先手玉は次に後手8七金が“詰めろ”になり、6七歩成や8六桂の継続手もあるのでこの攻めはほどけない。そして、図の1一玉が手堅い好手で、後手への攻めは難しい。
 後手勝ち。

6六歩図(再掲)
 以上示してきた通り、この「6六歩図」で、〔a〕8七玉、〔b〕3三香では先手勝てない。
 しかしこの後手6六歩に対して、我々(終盤探検隊)は、先手が勝てるという見通しがあった。だからこの「6七歩」の手を選んだのである。

 ここで〔c〕8五歩と歩を突くのが正着である。

6六歩変化図19
 8五歩と金取りに突く手は、上でも出てきたが、それは「3三香、3一銀」の手の交換の後であった。それをやらずに、すぐに8五歩(図)が正着手である。(「3三香、3一銀」の場合は後で後手4二金という手が好手になったが、この場合はその手がない)
 この8五歩の手は、いつでもあったが、「6七歩、6六歩」の手の交換をしたこの瞬間こそがねらい目であった。8五歩に、6六とという手が、この場合はできないからである。
 8五歩に、7四金、7五歩、6四金、8六玉となれば、はっきり先手良しになる。そうなれば、3三歩成、同銀、5二角成と攻めても、9四馬~9五玉の“入玉”ねらいでも、先手が勝てる将棋になる。
 よって、8五歩には、7五歩、8六玉、7四桂と切り返してくる。以下、9七玉、8五金に、8八香(次の図)

6六歩変化図20
 8八香(図)。  3三香と打ちこんだ場合には、この香打ちはなかった。
 これが良い手で、どうやら先手優勢である。
 以下、7六金に、3三歩成、同銀、5二角成(次の図)

6六歩変化図21
 5二角成(図)に、同歩なら、3一飛(ここに飛車を打つことで後手3四銀に4一竜を用意した)で先手良し。
 また、4二銀右なら、4一飛と打ち、1四歩、3四歩が予想されるが、これも先手優勢。
 4二銀左には、4一馬と入り、6七歩成に、3三歩で、後手玉は寄りである。

 すなわち、〔い〕6六歩 には8五歩 で先手良し、を結論とする。


6四銀右図
 次は、〔ろ〕6四銀右 (図)
 この手に対し、戦闘中の我々の予定は、「3三歩成、同銀、5二角成」の攻めであった。それでどうなるか。

6四銀右変化図01
 5二同歩、7一飛(受けにも利かせた)、5四角(次の図)

6四銀右変化図02
 先手玉が「7六」の位置にいるので、この角打ちがある。
 以下、7七玉に、8一桂で、先手の“二枚飛車”の攻めが止められてしまう。
 そこで4一飛成(次に3一金を狙う)には、7五桂がより早い攻めになる。また、3一金の詰めろは、3四銀で後手良し。
 6八玉には―――(次の図)

6四銀右変化図03
 6八玉は5九の金を取りながら右方面に玉を逃がす意味だが、6六歩(図)で、先手玉は逃げきれず、この図は後手優勢。

 「3三歩成、同銀、5二角成」では、5四角の筋があるので、先手勝てないことがわかった。


6四銀右変化図04
 それなら、「3三歩成、同銀」の後、「6一飛」(図)でどうか。 次に5二角成をねらう。
 4二金、6三角成の展開は、先手が良い。
 この図では、3四銀が最も粘り強い手で、以下、3七香、4二金、6三角成、6二歩(次の図)

6四銀右変化図05
 7二馬、7五銀、8七玉、4一金、3四香、7四桂(次の図)

6四銀右変化図06
 次に後手からの8六銀~8五桂の攻めが速く、形勢は不明である。

 実は、いまの手順で、7二馬 と逃げた手が甘かったようだ。

6四銀右変化図07
 5三馬(図)と馬を切る手がより良い手である。
 以下、5三同銀に、8四馬と、もう一つの馬も切る。8四同歩に、7五玉(次の図)

6四銀右変化図08
 これなら、先手玉は"入玉"できるので、先手が良い。玉を安全に入玉させてから攻める。
 (ただし、ここで7三角と打つ手があり、以下、7四玉、9一角、同飛成のようになり、飛車を後手に渡すことになりそう)

 〔ろ〕6四銀右 には「3三歩成、同銀、6一飛」で先手が良さそう。


7四銀図
 そして〔は〕7四銀(図)でもいまと同じように指して、先手有望なのではないか―――というのが、戦闘中の(6七歩を着手する前の)“読み”だった。

7四銀変化図01
 「6四銀右」の時と同じように、「3三歩成、同銀、6一飛」(図)と進めて、この図になる。
 これでやっぱり先手良しではないか。―――それが戦闘時の終盤探検隊の最初の見通しだった。

 ところが、ここで “6三銀” という手があると、6七歩を着手した後に気づいたのだった。

7四銀変化図02
 “6三銀”(図)。 この銀を受けに使うというのは、“読みの盲点”になっていて気づくのが遅れ、6七歩の着手の後に気づいたのだった。気づいて、「しまった。やらかしたか」と思ったのだった。
 “6三銀” 以下、5二角成、同銀、5一飛成、5四角(次の図)

7四銀変化図03
 5四角(図)に、7七玉は、6一歩、5二竜、7五桂でどうも先手に勝ち目がなさそう。
 なので、6五香と頑張ってみる。これには後手8一桂(6一歩、5二竜は互角の勝負)
 以下、5二竜、6四銀引(次の図)

7四銀変化図04
 どっちが勝っているか。
 6六歩、5一歩、同竜、4二銀左(次の図)

7四銀変化図05
 どうやらこの手順で後手良しがはっきりしてきたようだ。
 図以下、6一竜に、9三桂と角を取る(8一桂と打った手がここで生きた)
 2一竜に、3三玉(次の図)

7四銀変化図06
 ここで3五金と打って先手が勝てそうな気がするが、先手玉は6五銀、同歩、6七角(7七玉には7五香、8七玉には6五角)以下、詰んでいるのである。
 この図は、後手の勝ち。

7四銀変化図02(再掲 6三銀図)
 〔は〕7四銀 に、3三歩成 以下は、この “6三銀で先手苦戦” ということとなると、その前の「6七歩」の選択がどうだったかという話になる。「6七歩」より「8七玉」を選ぶべきではなかったか。我々はチャンスをのがして悪い道に入ってしまったのではないか。―――そんな後悔交じりの焦る気持ちで、後手の次の手を待っていたのであった。



≪最終一番勝負 第30譜 指了図≫ 6四桂まで

 ところが、後手の次の手は「6四桂」であった。この手を見て、我々はほっと安堵したのである(後手が悪手を指したとその瞬間感じたのだ)



[6七歩図の戦後調査研究]

7四銀変化図02(再掲 6三銀図)
 “戦後”、あらためてこの「6三銀図」を研究してみた。
 最新ソフトはここでわずかながら後手寄りの評価値(-200くらい)を出しているし、しかもマイナスの評価値になる手が5つ以上並んでいる。となれば、ここはやっぱり後手が良いのだと判断したくなる。
 しかししっかり研究してみると、ここから「3七香」(ここは3九香でも3六香でも同じ)で、先手がやれるのではないか、という研究結果となったのである(次の図)

7四銀変化図07
 「3七香」(図)。 ここで後手は何を指すか。
 最新ソフトは、ここで 後手6六歩 を最善手として示すので、その手の先をまず追ってみよう。
 6六歩 には、5一飛成とする。同金、同竜(次の図)

7四銀変化図08
 こう進んでみると、先手優勢の図になっている(最新ソフトもいつも正しいとは限らないことがこの例でわかる) 

7四銀変化図09
 「3七香」に、6四桂 から後手が攻めてきた場合。以下、8七玉、7五桂、9七玉、6七歩成で、この図。
 こうなると、今度は後手に飛車を渡すと7七飛から詰まされてしまうので、5一飛成の攻めはできない。
 だが、5二角成からの攻めがある。5二角成、同銀、5一飛成、7九角、9八玉、6一歩、5二竜、4二銀右、4一銀(次の図)

7四銀変化図10
 これでもう、後手には有効手がない。3七香が後手陣にしっかり利いている。
 後手玉は、3二銀成、同玉、3一金、同玉、6一竜以下の、“詰み”がある。
 この順は、先手良し。

7四銀変化図11
 「3七香」に、4二銀右 と応じた場合。先手の5一飛成や5二角成の攻めを受けた手だ。
 これには、5三歩(図)がある。
 5三同銀なら、これは“一手パス”のような手で、5二角成、同銀、5一竜で、先手が勝てる。
 なので、後手は5三同金だが、それには、3四歩、4四銀と、銀を守備から外しておいて、そこで5一飛成が堅実な手順(次の図)

7四銀変化図12
 以下、同銀、同竜に、6四桂、8七玉、7五桂に、9八玉と逃げておけば、先手玉は詰まないので、先手勝ち。

7四銀変化図13
 「3七香」に、1四歩(図)。 玉のふところを広げた手。 
 ここで5二角成や5一飛成は先手が悪い。
 最新ソフトはここで3三香成を推奨してくる。3三香成を同桂は1一銀、同玉、3二角成で先手勝勢になるが、3三同玉で、難しい。後手に香車を渡すと7四香のような攻めが生じて、先手も厳しい。
 それよりも、1五歩が良さそうである(次の図)

7四銀変化図14
 1四歩で広げた後手のふところを、1五歩(図)で狭める手が最善手と思われる。
 1五同歩なら、1三歩、同香に、5二角成と攻めて行ける。
 この状態でも、5二角成や5一飛成が有効に働く。 この図は、先手良し。

 つまり結論としては、〔は〕7四銀「3三歩成、同銀、6一飛」は、先手良しである。

7四銀図(再掲)

 実は、〔は〕7四銀 に対しては、もう一つの攻め筋があって、そちらのほうがより勝ちやすい攻めになる。
 それは、ここで「3三香」である。

7四銀変化図15
 この「4一角、3二歩」を利かせて「3三香」と打ちこむ攻めは、すっかりおなじみになってきた攻め筋だが、実戦中は、我々(終盤探検隊)は、気づいておらず、発想になかった。
 「3三香」を、同桂は5二角成で先手良し。同銀は、同歩成、同玉、4五銀、4二玉、2二金以下、やはりこれも先手が良い。
 「3三香」には3一銀が最強手となるが、先手はそこで6一飛と打つ(次の図)

7四銀変化図16
 上の攻めと似た図になったが、3三香が刺さっているところが大きく違う。
 6一飛と打って、後手がゆるい手を指していると、5二角成がある。たとえば後手6六歩なら5二角成で先手良し。
 ここで後手が何を指すか、有効な指し手があるのかないのか、それが問題だ。

 まず 7五桂 はどうだろう。(次の図)

7四銀変化図17
 7五桂(図)が攻めとしては最も早そうな手で、先手の5二角成には、6四桂として、以下7七玉、6七と、8八玉、7六歩、7八歩、6六銀と進むと、後手良し。
 しかも「7四銀型」なので、7五桂に8五歩も無効だ(6四銀右型なら8五歩があったところ)
 他に有効な手がなければ後手良しで確定するところだったが、しかし、8四馬という手がある!
 8四同歩に、3二香成、同銀、同角成、同玉、3三銀(次の図)

7四銀変化図18
 8四馬で金を一枚補充することで、後手玉に“詰み”が生じていたのである!
 3三同桂に、3一金と打って、同玉に、5一飛成、同玉、4一香合、2一金(次の図)

7四銀変化図19
 先手の勝ち。 この詰み筋が、「3三香」の攻めの狙い目になる。

6一飛図(再掲7四銀変化図01)
 6一飛と打ったこの図に戻る。ここで6三銀のような手も、やはりこの場合は8四馬で先手が勝ちになるわけだ。
 では、4二金 はどうか(次の図)

7四銀変化図20
 4二金(図)には、5一飛成とする。すると、4一金、同竜。
 これで後手は角を手にしたが、とりあえずは後手玉の“詰めろ”を受けないといけない。
 8一桂と受ける手があった。同竜には、5四角がある。
 しかし8二竜とすれば―――(次の図)

7四銀変化図21
 後手は困っている。6二歩のような受けなら、7一竜と入って、8一に打った桂馬が空振りになる。
 図で4二角と受けても、3二香成、同銀、同竜、同玉、4一銀、同玉、5二金、3二玉、4二金、同銀、2二金以下詰み。
 つまりこの図は、先手勝勢だ。

7四銀変化図22
 というわけで、4二銀引(図)が後手の最善かと思われる手。
 しかしこれも、攻略する手があるのだ。
 まず5三歩と打つ。同銀なら5二角成または8四馬で先手勝ち。
 後手は7五銀、8七玉としてから、5三金とこの歩を取る。「7五銀、8七玉」入れたのは、これを入れないと5三金の後、8四馬、同歩、7四角成の“二枚替え”があるからだが―――(次の図)

7四銀変化図23
 それでもここで8四馬があるのだ!
 同歩に、3二香成、同銀、同角成、同玉(次の図)

7四銀変化図24
 こう進むと、後手には豊富な持駒がある。先手はもう後手玉を詰ますしかないが―――
 もちろん、“詰み”があるからこの順に進めたのである。
 どうやって詰ますか(次の図)

7四銀変化図25
 前の図から、4一銀と打ち捨てて、同玉に、3一金(図)と打つのが、やさしいが気づきにくい詰み筋である。
 3一同玉に、5一飛成、同銀、同竜、4一銀合、4二銀、2二玉、3三歩成(次の図)

7四銀変化図26
 5一竜に後手が4一香合だと、2二玉に、3二金があったから、それで後手は4一銀合としたのだが、それでも3三歩成(図)から、詰んでいる。3三同桂に、2一金、同玉、4一竜まで。
 この詰み筋がわかっていれば、6一飛に4二銀引と受けたこの後手陣は、たやすく攻略ができるわけである。

 〔は〕7四銀 には、「3三香」で、先手良しとわかった。

6四銀右図(再掲)
 〔ろ〕6四銀右 に、「3三香」の攻めはどうだろう。何か違いがあるだろうか。

6四銀右変化図09
 同じように、3三香、3一銀、6一飛、4二銀右と進んで、やっぱり5三歩(図)と打つ。
 これを同金なら、先ほどと同じく、8四馬、同歩に、3二香成から後手玉が“詰み”なので先手勝ち。
 だが、「6四銀型」なので、これを“同銀引”と取る手がある。これが「7四銀型」との違い(次の図)

6四銀右変化図10
 しかし、“5三同銀引”には、5二角成(図)の攻めがある。
 5二同歩 に、3一飛成(次の図)

6四銀右変化図11
 これで後手玉は詰んでいるのである!
 3一同銀に、3二香成、同玉、4一銀、2二玉、3二金(次の図)

6四銀右変化図12
 この詰み筋は、後手の5三銀があるから、生じている。この銀が「6四銀」の位置にあったときには4一銀に、4二玉とかわし、3二金、5三玉と逃げることができるので、この詰みはなかった。つまり、先手の5三歩に同銀引と取らせた手が“逃げ道封鎖”となり、この攻め筋が有効になったのだ。
 1一玉には、2一金、同玉、3三桂、1一玉、2一金まで。

6四銀右変化図13
 だから途中先手5二角成まで戻って、後手は 同歩 とは取れないとわかったが、代わる手として、後手6四桂(図)が考えられる。
 以下、8七玉に、1四歩 が工夫の一手(次の図)

6四銀右変化図14
 1四歩(図)と玉のふところを広げ、これなら次に5二歩と角を取れる。
 なので先手は4一馬。
 以下、7五桂、9七玉、7六歩、7八歩、6七とが想定されるが、そこで先手は5一飛成と攻める(次の図)

6四銀右変化図15
 飛車一枚だけなら渡しても先手玉は詰まされないので、5一同銀には、同竜で、後手の受けが難しく、先手勝勢になっている。

6四銀右変化図16
 「6四桂、8七玉」のところまで戻って、そこで、香車を取る 3三歩(図)ならどうなるか。
 これには、5一馬とし、すると、同銀、同飛成、4二角と進む(次の図)

6四銀右変化図17
 3一竜、同角、3三歩成、同玉(同桂は1一銀以下詰み)、3一竜、3二歩、7八金(次の図)

6四銀右変化図18
 先手玉の“詰めろ”を消して、7八金と受けたこの図は、先手優勢。
 以下、9五歩、同歩、8九飛のような攻めがあるが、しっかり8八銀と受けて、もう先手玉に詰めろはかからない。次に先手は3五金と打てば、先手勝ちが確定する。

 以上の結果、〔ろ〕6四銀右 に、「3三香」以下は、先手良し。

6四銀引変化図01
 〔に〕6四銀引(図)という手も最新ソフトは有力手の一つとして挙げている(対戦中はこの手は我々の想定にはまったくなかった)
 〔ろ〕6四銀右 の場合と同じに指すとどうなるのか。
 3三香、3一銀引、6一飛、4二銀引、5三歩(次の図)

6四銀引変化図02
 この5三歩(図)で先手良し、と〔ろ〕6四銀右 の場合はそうなった。この場合も、5三同金なら、8四馬から金を入手すれば3二香成から後手玉が詰むのは同じだ。
 しかし―――(次の図)

6四銀引変化図03
 6二金(図)と寄る手がこの場合はある。対して5一飛成は、1四歩で、後手良し。
 これは、先手“失敗の図”となっているのである。

6四銀引変化図04
 戻って、〔と〕6四銀引 には、3七桂(図)が良いようだ。
 ここで、〈m〉7五金と〈n〉7五桂を後手の有力手として、以下の手順を示しておく。

 〈m〉7五金には、8七玉と逃げる(7五同馬もあるがそれは形勢不明)
 後手は7四桂と攻めを継続(次の図) 

6四銀引変化図05
 ここで5二角成がある。これを同歩は、3三金から後手玉が詰む(3七桂の効果)
 よって、後手は5二角成を放置して、8六金、9八玉、7五桂と攻める。以下、4一馬、8七桂成、8九玉、6七とに、3三金(次の図)

6四銀引変化図06
 後手玉は3三金(図)から詰んでいる。3三同桂、同歩成、同玉(同銀は2一金以下詰み)、3五香以下の詰み。“3七桂”が有効に働いている。

6四銀引変化図07
 後手〈n〉7五桂(図)の場合。
 これには、2五桂と桂を跳ぶ。これは3三金以下の“詰めろ”
 なので後手は4四銀と受けるが、それには5三歩(次の図) 

6四銀引変化図08
 5三同金なら、3三香で、先手の勝ちが決まる。
 よって後手は5三同銀右と取ることになるが、先手は8五歩、7四金を利かせておいて、4五歩(次の図)

6四銀引変化図09
 この4五歩(図)を同銀なら、3三香が早い寄せになる。
 その前に「8五歩、7四金」を入れたのは、先手玉を広くするため。次に9四馬とすれば、先手玉は9五まで逃げるスペースもできる。
 後手は8四歩(同歩なら8五歩で後手良し)
 以下、4四歩、同銀。そこで3三香は、8五金以下先手負ける。
 なので、先手は9四馬とする(次の図)
 
6四銀引変化図10
 8五歩、同馬、6七桂成に、3三香(次の図)

6四銀引変化図11
 “ねらいの3三香”(図)をこのタイミングで決行する。
 6六と、8七玉、3三桂、同歩成、同銀引、同桂成、同銀、5二角成(次の図)

6四銀引変化図12
 先手勝勢。

 〔に〕6四銀引 は先手良し。


6七歩図(再掲)
 ここまでの結果をまとめておくと
  〔い〕6六歩 → 8五歩で先手良し
  〔ろ〕6四銀右 → 3三香または3三歩成以下先手良し
  〔は〕7四銀 → 3三香または3三歩成以下先手良し
  〔に〕6四銀引 → 3七桂で先手良し
  〔ほ〕6四桂
  〔へ〕3一銀
  〔と〕7五歩

 実際に後手番の≪ぬし≫が指したのは、〔に〕6四桂 だった。

 他に、最新ソフトは、〔へ〕3一銀〔と〕7五歩 を有力手として示していたので、これも調査してみた。結果はどちらも、「先手良し」だが、どうやって先手が有利になるのかを確認しておきたい。

3一銀図
 〔へ〕3一銀

3一銀変化図01
 3一銀には、2六香(図)と打つ手が良い。
 後手3一銀の意味は、次に4二金の手を用意したことにあるが、ここでまず後手が攻めの手を指してきた場合を示しておく。
 たとえば後手が 6六歩 とした場合。
 それには3三歩成とする。これを同桂は、5二角成、同歩に、2一金、同玉、1一飛以下“詰み”
 よって3三同玉だが、それには、5二角成、同歩、3五飛が好手順の攻めだ(次の図)

3一銀変化図02
 後手3四桂合に、単に3一竜だと、5四角で先手不利(5四角が4五に利いている)
 だが、「2三香成、同玉、3一竜」がその手を見越した冴えた手順である(次の図)

3一銀変化図03
 これで先手優勢だ。「2三」に玉を呼んでおいた効果で、ここで5四角と打っても、後手は詰めろを逃れていない。
 ただし、ここで後手6九角が“詰めろ逃れの詰めろ”になっている。しかし7八歩と受けておいて、後手の攻めは続かない。(6九角が7八角成と動くと、後手玉には詰みが発生する) 

3一銀変化図04
 先手の2六香に、4二金(図)とした場合。もともと3一銀としたのは、この手を受けの切り札にするためだった。
 これに対し、先手5一竜なら、4一金、同竜、5四角、7七玉、7五桂で、後手良しになる。これが後手の狙い。
 したがって 4二金 には、先手6三角成が正しい。この手は銀取りなので後手は6二銀右とするが、ここで2三香成と捨てて、同玉に、4五馬が好位置である。後手玉への“詰めろ”になっている。(先に2三香成、同玉を入れることで、より受けにくくしている。単に4五馬だと1一桂で粘られていた)

 以下進行の例は、7三香、8七玉、5二金(4二のスペースをあけて詰めろを受けた)、1一飛―――(次の図)

3一銀変化図05
 先手勝勢になった。

 〔へ〕3一銀 には、2六香で、先手良し。


7五歩図
 〔と〕7五歩(図)には、8七玉。そこで後手は6七と。
 この6七とが指したいということで、後手は7五歩と打ったのだ。
 しかし「7五」に歩を打ったために、後手からの「7五桂」が打てないところが、後手にとって口惜しいところ。
 
 6七とに、先手は3三歩成(次の図)

7五歩変化図01
 3三歩成(図)、同銀に、5二角成とする攻めがこの場合は成立する。
 以下、5二同歩に、3一金とするのが良い。
 後手は5四角で反撃だ(次の図)

7五歩変化図02
 「8七」まで玉がすでに逃げていることが、先手の5二角成の角切りの攻めを成立させた。
 5四角(図)に、9七玉と逃げ、8一桂には、同竜と素直に取る。
 以下、8一同角、6一飛(後手玉への詰めろ)、3四銀、8一飛成、3三玉、3六桂(次の図)

7五歩変化図03
 先手勝勢である。4四歩の受けが考えられるが、4一竜、4二飛、5一角で、受けがなくなる。
 「7五歩、8七玉」の手の交換は、先手が得をしていることがこれではっきりした。

 〔と〕7五歩 は、先手良しになる。



6七歩図(再掲)
 以上の結果をまとめておくと
  〔い〕6六歩 → 8五歩で先手良し
  〔ろ〕6四銀右 → 3三香または3三歩成以下先手良し
  〔は〕7四銀 → 3三香または3三歩成以下先手良し
  〔に〕6四銀引 → 3七桂で先手良し
  〔ほ〕6四桂
  〔へ〕3一銀 → 2六香で先手良し
  〔と〕7五歩 → 8七玉で先手良し



 しかしこの「亜空間戦争一番勝負」の戦闘中は、〔は〕7四銀 を恐れていたことはすでに述べた通りである。

 そして、後手の指した手は、ノーマークだった〔ほ〕6四桂 だった。
 この手は深くは考えていなかった。というのは、この手ならなんとかなりそうだ、と思っていたからである。



≪最終一番勝負 第30譜 指了図≫ 6四桂まで

 △6四桂

 後手の≪亜空間の主(ぬし)≫の指し手を待っているあいだ、ずっと7四銀の手が手強いと心配していたので、我々は6四桂を見た瞬間、ほっとした。
 そして、「しめた。こっちが優勢になったのではないか」と思ったのであった。 しかしそれは半分は感覚的なもので、十分な読みが入っていての感想ではない。
 油断大敵―――こういう気のゆるみそうなときほど、気を引き締めて臨む必要がある。

 △6四桂 と打たれて、さあ、実際の形勢は、どうだろうか。

 「〔と〕7五歩、8七玉、6七と」の場合と似ているが、「△6四桂、8七玉、6七と」と進んだとき、後手には“7五桂打ち”のスペースがあるのが、違いになる。


第31譜につづく
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