≪最終一番勝負 第35譜 指始図≫ 6七とまで
指し手 ▲9七玉
[僕たちがチェスの駒にならなくちゃいけないんだ]
白い駒の後ろに、もう一つの扉が見えた。
「どうやるの?」ハーマイオニーは不安そうだった。
「たぶん、僕たちがチェスの駒にならなくちゃいけないんだ」
(中略)
ロンが黒駒に動きを指示しはじめた。駒はロンの言うとおり黙々と動いた。ハリーは膝が震えた。負けたらどうなるんだろう。
「ハリー、斜め右に四つ進んで」
ロンと対になっている黒のナイトが取られてしまった時が最初のショックだった。白のクイーンが黒のナイトを床に叩きつけ、チェス盤の外に引きずり出したのだ。ナイトは身動きもせず盤外にうつ伏せに横たわった。
「こうしなくちゃならなかったんだ」
ロンが震えながら言った。
「君があのビショップを取るために、道を空けとかなきゃならなかったんだ。ハーマイオニー、さあ、進んで」
(『ハリーポッターと賢者の石』J.K.ローリング著 松岡佑子訳)
『ハリーポッターと賢者の石』にはこのように主人公たち3人(ハリー、ロン、ハーマイオニー)が「チェスの駒」になって闘うというシーンがある。ここに登場する巨大な人間サイズのチェスの駒たちは、“魔法”によって生命を吹きこまれ、動く仕組みになっている。
このシーンは映画版でも取り入れられているが、その人間サイズの「駒たち」のデザインは、「ルイス島の駒」だそうである。
「ルイス島の駒」とは?
チェスの駒は、工芸品、芸術品としてつくられたものも多く、面白いデザインの駒が残っている。
その中でもっとも有名なものが「ルイス島の駒」であろう。
これは、スコットランド北北西のへブリディーズ諸島のルイス島で発見されたので「ルイス島の駒」と呼ばれることとなった。発見されたのは1831年のことで、つまり今からおよそ200年前のことだ。
この表情豊かな人物デザインの「ルイス島の駒」の製作年代は、1200年頃と推定されている。なんと発見時よりさらに600年さかのぼる。 セイウチの牙でつくられていて、おそらく北欧ノルウェーでつくられたものではないかという研究者の推定がある。類似したデザインの駒がそこで作られていたからだ。
発見された駒は、78個で、その中に「8個の王」と「8個の女王」の駒がある。つまり少なくとも4組分の駒だったことになる(チェスの駒は1組32個なので全然足らないが)
現在その本物は、エジンバラのスコットランド博物館と大英博物館に展示されている。(『ハリーポッターと賢者の石』をその著者ローリングが執筆したのはエジンバラのコーヒーショップである)
インドで生まれたボードゲーム「チャトランガ」は、7世紀には「チャトランジ」としてペルシア地方で大発展した。それがいろいろなルートでヨーロッパに伝わり、10世紀には「チェス」として、欧州の各地で楽しまれるようになった。
「チャトランガ」、「チャトランジ」のときからそうであったが、「チェス」にはたくさんの変則ルール、地方ルールがあった。新しいルールも加えられたりして、駒の性質や呼び名も変化していった。たとえば「大臣」という斜めに一マスだけ動いていた駒が、「貴婦人」と呼ばれたり「女王」と呼ばれたりして、現在のような“最強の駒”へと進化していったりした(性転換して能力覚醒したというわけだ)
これらのチェスの多様なローカルルールが統一されていったのは、18世紀にイギリス(ロンドン)やフランス(パリ)で始まった「チェスクラブ」の存在が大きい。それまではチェスは酒場などで「賭け」で勝負されたりしていたが、これが「コーヒーハウス」での賞金制に変わっていき、やがてルールも統一されていったのである。
<第35譜 選んだのは、9七玉>
≪指始図≫ 6七とまで
〔松〕3三歩成 → 後手良し
〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い)
〔栗〕8九香 → 後手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 形勢不明
〔柏〕2六飛 → 形勢不明
〔桜〕9七玉
〔桐〕9八玉
「亜空間戦争最終一番勝負」を戦っている。
我々終盤探検隊が「先手番」をもって、後手をもつ≪亜空間の主(ぬし)≫に運命を賭して対する、最終決戦である。
この戦争に負けると、我々はおそらくずっとこの≪亜空間≫から抜け出すことができなくなる。 ≪亜空間≫の一部として取り込まれてしまうのだ。
終盤探検隊は人間とソフト「激指」との連成チームであり、ここまで戦った経験から、≪ぬし≫とは互角の実力と言ってよいだろう。
しかし、ついに、この図(指始図=6七と図)を迎えて、「勝ちが近くにある」と感じるところまで来た、と思った。
ここで腰を落として考え、上のような結果となった(詳しい内容は前譜に書いてある)
そして――――
≪最終一番勝負 第35譜 指了図≫ 9七玉まで
我々――終盤探検隊――が採用した手は、▲9七玉 である。
「激指14」が第1候補手として推している 〔桜〕9七玉 の手を我々は選んだのであった。我々の“感覚”としても、もともと 〔桜〕9七玉 が第1の候補であったので、それを指すことに違和感はなかった。
第35譜につづく
ここから下は、「6七と図」の“真実”に迫る、“戦後”の調査研究記録である。
6七と図
ここで、〔松〕3三歩成 ではほんとうに勝ちがなかったのか? その“真実”を知りたい。
[調査研究:3三歩成]
3三歩成図
〔松〕3三歩成(図)についての、我々の “戦後調査研究” の内容と結果を、以下に示していく。
図以下、3三同銀、5二角成と進む(次の図)
5二角成図
「3三歩成図」から、同銀、5二角成と進んだところ。
以下5二同歩に、「3一飛」では先手負け、「4一飛」なら形勢不明の戦いになるというのが実戦中の結論だった。
最新ソフトを使った“戦後調査”によって、この結論が変わった。
次のことが明らかになったのである。
3一金図
5二同歩に、「3一金」(図)と打つ手が、実は最善手だった!!!
「3一飛」でも、「4一飛」でも、「7一飛」でもなく、「3一金」なら、はっきり先手良しになるのであった。
その「3一金」の調査内容を示す前に、「形勢不明(先手苦戦)」だった「4一飛」の変化についても進展があったので、まずそちらから報告したい。
【4一飛の真実】
4一飛基本図(再掲4一飛図)
「4一飛」と飛車を打ったところ。
3四銀、3六桂、6九角、9七玉、3六角成(次の図)
変化4一飛図01(3六角成図)
先手3六桂の“犠打”についてあらためて思うが、なんと素晴らしい“犠打”なのだろう。 後手の角を使わせたので、先手玉に詰めろがかかりにくくなっている。
ここが先手の“攻めのターン”だが、しかし「一番勝負」戦闘中はここからの先手の勝ち筋を発見できなかった。
ここで、(A)3一竜左、(B)4八香、(C)4五歩、(D)3九香と4つの候補手が考えられ、前譜では(C)4五歩以下の手順を示したが、うまくいかなかった。
戦後研究で新たに有力手として浮上してきた手が、(A)3一竜左以下の手順だ(次の図)
変化4一飛図02
3一竜左(図)は、真っ先に見える手だが。
4四玉、3二竜右に、4二桂(次の図)
変化4一飛図03
4二桂(図)と受け止められ、これで後手良しと、戦闘中は考えていた。
ただし、ここで先手3九香と打つ手がある。以下、3七歩、同香、2五馬。
しかし、3四香、6九馬と進むと―――(次の図)
変化4一飛図04
ここで3三香成は5四玉とされ、6五へ逃げる道があって後手玉が捕まらない。
なのでここではその道を塞ぐ6五銀が考えられるが、それには4五玉と今度はこちらに逃げられてやはり捕まえることが難しい。以下4七歩(3五金以下詰めろ)があるが、7九馬、9八玉、7七とで後手勝ち。
ということで、この図は後手良し。
戦時中はこれを結論としていた。
しかし、“戦後調査”の中でだが、「3四香が良くなかった。代えて、1五金(図)という手があった」 ということが発見でき、もういちどこの順を調べなおす必要が出てきたのである。
変化4一飛図05
1五金(図)と打った。 この手で3四香と銀を取ると、先手はあの二枚の竜を使いにくくしてしまう。あの銀は香車で取らないほうがよいのである。
だから1五金と、後手の馬を攻める。
以下、5四玉、2五金、同銀、7五金(次の図)
変化4一飛図06
こうなってみるともう雰囲気的には先手ペースに思える。後手玉を逃がさないで仕留められるかどうか。
以下、4六銀(最善と思われる手)に、5六歩が好手だ(次の図)
変化4一飛図07
5六歩(図)は次に6五角以下の“詰めろ”。5六同桂でも7六角以下の詰みがある。
よって後手は4五玉と逃げ、6五角に、3四歩、4三竜(次の図)
変化4一飛図08
4三竜(図)に対し、後手4四歩合なら、8四馬と金を取り、同歩に、3四竜左、同桂、同竜、同銀、3六金までの詰み。
それを防ぐ意味で4四桂合が考えられるが、その手には、4二竜右(同銀なら5四竜で詰み)とし、以下3七銀成はあるが、同桂、3六玉、8四金の展開は、先手優勢になる。
だからこの図では4四金と受けるのが最強の応手だが、それには、先手は同竜。
以下、同玉に、8四馬(5五金、同銀、3五金以下の詰めろ)、7七飛、8七金(次の図)
変化4一飛図09
後手は7七飛と王手して、先手に金を使わせて後手玉の“詰めろ”を消した。
なお、先手が8四馬と金を取った手に代えて8四金だと、以下同じように7七飛、8七金に、7五飛成で形勢は紛れていた。
この図の場合は、7八飛成のように飛車を逃げていては7三馬(後手玉への詰めろ)で後手に勝ち目はないので、8四銀と馬を取る。
先手は7七金と飛車を取り、これも後手玉への詰めろ(4三飛)
以下、7九角に、9八玉(次の図)
変化4一飛図10
こう進んでみると、先手勝勢の図になっている。
図以下は、4五玉、8四金(4四金以下詰めろ)、5四桂打、5五銀と進めば、後手玉は“受けなし”である(5五同銀には、4七飛、4六合、3五金以下詰み。3七銀成なら、同桂、3六玉、3八銀)
4一飛基本図(再掲)
以上の“戦後調査研究”により、4一飛(図)以下、先手の勝ち筋が発見された。
とはいえ、これは複雑な変化となっていて、結論は変わる可能性もある。
実は「4一飛」の手に代えて、もっとわかりやすく先手の勝ちになる手があった!
【3一金の真実】
3一金基本図
「3一金」(図)の登場である。 戦闘中、この手は、見えてはいても、ほとんどその先を考えなかった(ここで1四歩とされても先手勝てるかどうか不安があるし、5四角で勝てそうにないと思っていた)
「3一飛」では5四角以下先手負け。「4一飛」や「7一飛」は3四銀で形勢難解―――
ところが、図の「3一金」なら、はっきり先手良しになるのであった。
なぜ、飛車よりも金打ちが良いのか。それはつまり、この手は、後手の〈1〉3四銀にも〈2〉5四角(8一桂)にも対応できているからである。
(ただし後で示す〈5〉1四歩 の変化がこの場合ちょっと難しい)
ここで〈1〉3四銀なら、3二金がある。以下、同玉に―――(次の図)
変化3一金図01
3一飛(図)で後手玉は“詰み”。
変化3一金図02
それでは、〈2〉5四角(図)でどうなるか。
以下、9七玉、8一桂、同竜、同角、7一飛(次の図)
変化3一金図03(7一飛図)
この図は、すでに前回の報告で出てきた変化(「4一飛」と打って5四角、9七玉、8一桂、同竜、同角、3一金)とほぼ同じ図になっている。 7一と4一と飛車の位置が違いがあるが意味的には同じで、「先手良し」の図であると結論を出している。
この図は、先手玉に後手7七とからの詰めろが来るより前に、先に後手玉に“詰めろ”がかかっているのが重要だ。
この図が「先手良し」であることを、以下、確かめておこう。
後手 4二銀左 が、ここでの後手最善のがんばりとみられる手。 3三玉からの中段への脱出路を開いた(次の図)
変化3一金図04
4二銀左(図)に、2一金、3三玉、3五金と先手は後手玉の上空を押さえる。
以下、7七飛、8七桂、4四歩、8四馬、4三玉、7三馬(次の図)
変化3一金図05
先手勝勢である。
変化3一金図03(再掲 7一飛図)
もう一度この図に戻って、ここで 3四銀 ならどうなるか。
それには、そこで8一飛成と角を取る(次の図)
変化3一金図06
1一角以下の“詰めろ”になっている。3三玉と先に逃げても、1一角と打てば、2四玉、3六桂、3五玉、5五角成で、先手勝ち。
変化3一金図07
それでは、1四歩(図)ならどうなるか。
2一金、1三玉に、ここで8一飛成と角を取る。
以下、“7七と”(後手が一番指したい手)なら、5七角がある(次の図)
変化3一金図08
これで先手が勝ち。 2四歩なら、2五桂、2三玉、3三桂成、同玉、3四銀以下“詰み”。
4六飛なら、3六桂と詰めろをかけて先手勝ち。
この5七角打ち(図)の手は、後手が“7七と”と指したから打てた角打ちであるが、しかし後手は7七と以外で先手玉に“詰めろ”をかける手がないので、“7七と”以外の手でも勝てないのだ。
たとえば8九飛(9九飛成の狙い)には、3五金と打って後手玉に詰めろをかけて、やはり先手勝ちとなる。
変化3一金図09
7七飛、8七桂、2四歩 と指した場合。
変化3一金図10
それには、4一飛成(図)で、先手勝ち。
これで、〈2〉5四角 以下は先手良しが証明された。
3一金基本図(再掲)
「3一金図」まで戻る。 ここから、〈1〉3四銀と〈2〉5四角以外の後手の対応手について検証していく。
まず、〈3〉2四歩ならどうなるか。
変化3一金図11
先手は後手玉に“詰めろ”で迫る必要がある。手が緩むと、後手からの「7五桂、9七玉、7七と」で、逆に詰めろをかけられ、劣勢に陥るからだ。それと後手は角を持っているので、後手からの角打ちが“詰めろ逃れの詰めろ”にならないよう気を配る場面でもある。
ここは、2一金、2三玉に、3七香と打つのがよい(次の図)
変化3一金図12
この香打ちは、2二金(または2二金打)からの“詰めろ”になっている。これで先手勝勢。
(なお3七香に代えて3五歩としてしまうと、7八角、9七玉、7七とで、逆転負けとなる)
変化3一金図13
また、この場面での〈4〉4二銀左(図)は、あっさり先手良しになる。
2一金、3三玉に、3五飛と打つ手がある。
以下、3四桂に、2五桂、2四玉、5五飛(次の図)
変化3一金図14
先手勝勢。
変化3一金図15
〈5〉1四歩(図)。 問題はこの手だ。
「3一金」に対する応手としては、これが一番先手にとってやっかいな道になる。これがあるから、3一金と打つ手はあまり考えたくないところであった。3一金と打つ攻めは、1四歩に、2一金と桂馬を取った後、この金の後の働きがほとんど期待できないのが不安の残るところだ。これが飛車なら竜になってまだまだ働いてもらえるのだが(だから実戦中は「3一金」は見えていてもあまり考えたくないというわけだった)
さて、〈5〉1四歩に、2一金、1三玉と進む。 そこで先手の指し手が難しい。2六香や1五歩のような手では、詰めろになっていないので7五桂以下、先に先手玉に“詰めろ”がきて、後手が勝ちの流れになってしまう。
1三玉に、2五桂と行くのが最善手だ(これ以外の手では先手がわるい)
以下、2四玉、3三桂成、3五玉(3三同歩は3九香で先手良し)。
後手玉を逃がしてしまう不安が漂ってきたが、4八香がある(次の図)
変化3一金図16
4八香(図)と打ってみると、この手に対する後手の対応が難しい。
4六桂が見えるが、それは―――(次の図)
変化3一金図17
なんと、2五飛(図)から後手玉に“詰み”があるのだ!!(4六銀でも同じ)
2五飛、同玉、3四銀、3五玉、3六歩、2四玉、2三銀成、2五玉、2六金まで。
この詰み筋があるので、4八香で後手の受けが困難になってきている。この詰みがあることは大きかった。 ここまで読めていれば、「3一金で先手が良さそう」と感じ取れるわけである。
しかし、まだ(4八香に)7七との後手の切り返し技が残っている(次の図)
変化3一金図18
後手7七と(図)。 これを同玉は6六角の王手香取りがある(次の図)
なので9八玉と逃げるが、後手は6五角。 先手は7六歩と応じて次の図となる。
変化3一金図19
詰んでいれば先手が負けだが、ギリギリ詰みはない。
ここで 4七桂 と、7六同角 とがある。
4七桂 には、5七金。
以下、7六角、8九玉と進むが、そこで後手8七角成だと、3四飛から後手玉が詰んでしまう。 よって、4五玉、4七香、5四玉の進行が想定される。
そこで7八歩(次の図)
変化3一金図20
先手の攻めのねらいは、8四馬と金を取って、4五金から寄せていくこと。
しかしこの攻めは後手に角を渡すので、それを実行すると7八角から先手玉が先に詰まされてしまう。それをあらかじめ防ぐ意味の、7八歩(図)である。
8七とでも、6七とでも、そこでねらいの8四馬からの攻めを決行するのである。
6七とで見ていこう。6七と、8四馬、同歩、4五金、6五玉、5五金、7四玉、6六銀(次の図)
変化3一金図21
これで、先手勝勢になっている。
変化3一金図22
戻って、7六同角(図)の場合。
8九玉、6七角成、9八玉。先手玉にまだ詰みはない。
後手には詰めろが掛かっていたので、4六桂とそれを受ける(6七の馬が3四に利いていて先手2五飛、同玉、3四銀の詰み筋を消している)
これには、先手6五銀が決め手になる手(次の図)
変化3一金図23
6五銀(図)と銀を打って後手玉の可動範囲を狭め、この先手図は先手優勢である。このままなら3六歩以下後手玉は詰む。
ここで8八と(同玉に6六馬のつもり)には、9七玉でよい。
6六銀なら、3六歩、4四玉、3五飛で、先手勝ち。
以上の調査により、「3一金」に、後手〈5〉1四歩も、先手良しとなった。
変化3一金図24
「3一金」に、後手〈6〉7五桂(図)。 これが後手の最後の手段。
以下、9七玉、7九角、9八玉(香車を温存してかわした)、1四歩。
つまりこの後手の一連の手は、1四歩からの脱出路を開く前に7九角を打って攻防に利かせたという意味である。
しかし、2一金、1三玉、2五桂、2四玉、3三桂成(次の図)
変化3一金図25
ここで大海に逃げる3五玉は、4八香で後手玉が完全に捕まってしまう。今度は後手は桂馬と角をすでに打ってしまっていることもあって4八香を受ける手段がまったくないのだ。
だから後手はここで3三同歩とするが、それには3九香で―――(次の図)
変化3一金図26
やはり、先手勝勢だ。
後手の7九角に9八玉と駒(香)を使わず受けたことで、ここで3九香と攻めに使えた。
3一金基本図(再掲)
「3一金」に、〈1〉3四銀、〈2〉5四角、〈3〉2四歩、〈4〉4二銀左、〈5〉1四歩、〈6〉7五桂 の応手について調べてきたが、いずれも「先手良し」となった。
この調査により、「3一金」と打ったこの図は「先手良し」、と結論できる。
この「3一金」の手を、我々終盤探検隊は発見できなかったのだが、実は今確認すると、「激指14」はこの「3一金」を有力手としてはっきり示していたのであった。
(3一金の評価値は -212。 第1候補手は6一飛および7一飛でその評価値は -205。 4一飛 -277、3一飛 -372)
その戦闘時の記憶ははっきりしないが、おそらく我々は「激指」の示す「3一金」を見ても、“感覚的”に、「3一金では勝てそうもない」とそれを調べる前に切り捨てしまっていたのである。
(もっともその「激指」も、3一金で先手良しとまでは読み切れていない。3一金に〈5〉1四歩以下の変化が難解だからであろう)
6七と図
〔松〕3三歩成 → 後手良し → 先手良し
〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い)
〔栗〕8九香 → 後手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 形勢不明
〔柏〕2六飛 → 形勢不明
〔桜〕9七玉 =実戦の指し手
〔桐〕9八玉
つまり、〔松〕3三歩成 なら、先手勝ちがあった。しかし数手後の「3一金」が見えなかったために、その勝ち筋をつかみきれず、これを見送ることとなったのである。
そして、▲9七玉 と指した。
[調査研究:3三歩成(追加調査)]
さらに調査は進み、また “新たな事実” が発見された。
【3一飛の真実】
3三歩成図
〔松〕3三歩成(図)、同銀、5二角成、同歩。
そこで今度は、「3一飛」 に関する新発見である(次の図)
3一飛図
「3一飛」(図)と打つのは、5四角で先手が勝てない―――というのが、戦時中の結論であった。
しかし、ここで改めて再調査してみると―――
「3一飛」、5四角、9七玉、8一桂に、“4一飛成” の変化がある(次の図)
変化3一飛図01(4一飛成図)
後手の8一桂に、“4一飛成”(図)とする。
この手は“一手パス”の手なので戦闘中は考えなかったのだが、あらためて調べてみると有力であると判明した。というか、これがどうやらこの場合(3一飛と指した場合)の最善手段で、これで先手良しの可能性さえ出てきたのであった。
この先の調査内容を示していこう。
後手の有力手は[X]7七と だ。(他に[Y]3四銀、[Z]1四歩 があり後述する)
そこで8九香が“ふつう”だが、それだと3四銀、7一馬、9五歩、同歩、4五角と進み―――(次の図)
変化3一飛図02
こうなって、先手が悪い。8九に打った香車を狙われた。7九金と受けても、6九金というぴったりとした攻めがある。
[X]7七と に、しかし、先手“6五歩” の手が好手となる(次の図)
変化3一飛図03
この “6五歩の発見” がこの“追加調査”の収穫だ。 これで先手に“希望の光”が見えてきた。
これを6五同角と取ると、2一竜から後手玉は詰んでしまうのだ!(2一竜、同玉、8一竜以下)
なので後手は3四銀。3三玉の脱出口を開く。
そこで「7八歩」(次の図)
変化3一飛図04
この手順で、どうやら最新ソフト的に「互角」の形勢になっている。 以下、厳密にはどちらが有望かを見極めていく。
先手の狙い筋としては、3筋に香車を打つ手(3九香)と、3一金(詰めろ)とがある。
しかし3九香は、6五角が“詰めろ”で後手良し。 3一金は、3三玉、3二竜、4四玉、4八香、4六銀、同香、5五玉と進んで、これはギリギリだが後手が良い。
というわけで、先手は「7八歩」(図)と打ったわけだ。
ここで考えられる後手の応手は次の4つ。
(カ)7八同と、(キ)7六歩、(ク)7六と、(ケ)9三桂
この順で、以下の変化を見ていこう。
変化3一飛図05
(カ)7八同と は、簡単に先手が良くなる。 7八同との状態は、後手に金を渡しても大丈夫だし、後手6五角も詰めろにはならないので、3九香と打って、3三玉に、2五金、4五角、3四金、同角、4五銀(図)となって、先手勝ち。
変化3一飛図06
「7八歩」に、(キ)7六歩(図)は、と金位置を「7七」のままでキープしようという手。
「7八と、7六歩」の手の交換を入れることで、とりあえず後手の6五角が詰めろで入らないようになった。
ただし、狙い筋の3九香でも3一金でもまだ勝ちきれない。
もう一手、「7一馬」 を指す(次の図)
変化3一飛図07
この「7一馬」(図)は、後手の9三桂の角取りを避けると同時に、攻めの下準備の手でもあり、次に3一金からの攻めを狙っている。
しかしこの瞬間、後手に主導権を渡したようで不安もあるが、意外と後手の手が難しい。
ここで 3三玉 の早逃げなら、4八香で先手良しになる(次に5三馬、同歩、4二銀がある)
また 6六銀 には3九香と打って、3三玉、4六金、4四玉、5二竜で先手勝ち。
「7一馬」の手はこのように、後手の有力手、3三玉や 6六銀 に対応できている。
後手が攻めるなら9五歩だ。 この変化を以下、見ていく。
9五歩を同歩と取ると、9六歩、同玉、6三角で後手ペースになる。以下8五香に9四歩、9七玉、8五角、同歩、同金は、後手良しだ。
なので9五歩には、3一金から攻めあう。 以下、3三玉、3二竜、4四玉に、4八香(次の図)
変化3一飛図08
4六銀、同香、5五玉、5七銀と進む。
そこで後手6五玉なら、3四竜で先手が勝てる。
6五玉でダメだとすると、6七としかないが―――(次の図)
変化3一飛図09
それには、5二竜(図。 この変化のための、「7一馬」であった。
まだ変化は多いが、この図は、先手良しの形勢。
図以下、5七と、5三馬、2七角成なら、4四馬から後手玉には詰みがある。 6二歩が考えられるが、5三竜、5七と、8一馬、6三銀、同馬、同歩、5一竜左で、先手が良い。
変化3一飛図10
「7一馬」のところまで戻って、後手 6二銀右(図)を調べていく。 これが後手の最強手のようだ。
この手にも、先手はやはり3一金から攻めていく。
以下3三玉、3二竜、4四玉、4八香、4六銀、同香、5五玉、5七銀(次の図)
変化3一飛図11
後手は詰みを防いで6七と。
ここまでは同じだが、今度は5二竜の手が無効なので、3四竜と銀を取る。5七とに、8一馬とする。
以下、6六玉に、7九桂で、次の図になる。
変化3一飛図12
6八銀、5四馬、同銀、8八角、7七歩成、5四竜、5三銀、5五銀
変化3一飛図13
後手の指した5三銀は(後手苦しいながらも)先手を焦らせる好手のようだ。
5五銀(図)に、5六玉、3六銀、4七と、4五竜、5七玉、6六銀、5八玉、4七銀、同玉、7七銀(次の図)
変化3一飛図14
先手が少し良い形勢(手の複雑さを考慮すれば実戦的には互角)
変化3一飛図15
「7八歩」に、(ク)7六と(図)の変化が、さらにきわどい。
ここで7一馬は、6五角が“詰めろ”になり、以下8八香に7五金があって、先手が勝てない。
だから、3九香(3二竜以下詰めろ)で勝負することになる。
以下、3三玉、2五金、4五角、5二竜(次の図)
変化3一飛図16
5二竜(図)とするのがこの場合の好手。 これは次に7一馬の活用を見ていて、4四玉なら7一馬とする予定である。
ただし、ここで7八角成が気になる手である。しかしそれには、3四金、同馬、同香、4四玉に、7八角という手が用意されている(次の図)
変化3一飛図17
この7八角(図)で、形勢は先手良しである。
なので前図からは、4四玉、7一馬と進む(次の図)
変化3一飛図18
7一馬(図)に6二歩は、8一馬で先手が良い(7一馬に6二銀右は同馬で無効)
だからここから7八角成、5三馬という激しい変化に突入する。 以下、4五玉、5四馬、5六玉、5五馬、6七玉、8八金、7七歩、8九銀(次の図)
変化3一飛図19
5六歩、6四歩、5七歩成、4八銀(次の図)
変化3一飛図20
4八銀(図)を 同と と取ると、7八銀から後手玉が詰む。 よって、ここは後手6八馬が最善だが、3四金で、どうやら先手が良さそうだ。
以上、(ク)7六と 以下、きわどかったが、結果としてはなんとか、「先手良し」となった。
変化3一飛図21
「7八歩」に、(ケ)9三桂(図)の変化。 角を取った。
以下、7七歩。
そこで後手は6六銀が指したい手だが、3九香(3二竜以下詰めろ)、7九角、9八玉(さらに6五角には8九玉)、3三玉に、5五金(取ると3二竜以下詰み)の好手があり、この変化は先手良し。
よって、後手は7九角と先に角を打ってくる。今度は9八玉では6五角、8九玉、3五角成で後手良しになるので、7九角には8八金と受けることになる。
そこで6六銀。以下、7八金打、5七角成に、2一竜、3三玉、3一竜左、4四玉、3二竜右、4五銀、6七香(次の図)
変化3一飛図22
最新ソフトの評価値はまだ「互角」(+100くらい)だが、どうやらこの図は「先手良し」のようである(後手の良くなる変化が見当たらない)
6七香(図)を同銀成、同金、同馬なら、4七桂と打ってはっきり先手優勢。
なので9五歩、6六香、3四歩のようなひねった手順が予想されるが、4六歩で先手ペースの戦いである。
変化3一飛図01(再掲 4一飛成図)
後手の8一桂に、“4一飛成” と指したところまで戻って、([X]7七とに代えて) [Y]3四銀(図)ならどうなるのかを見ていく(次の図)
変化3一飛図23
7一馬(後手9三桂で角を取られる手を避けた)は、そこで7七ととされ、これは「先手が悪くなる変化」に入ってしまう。
6五歩は、9三桂と角を取られ、以下3九香、7九角、9八玉、2四角成で、これは形勢不明。
しかしここでまた先手にすばらしい勝ち手順があるのだ。
“8一竜左、同角、2五桂” がそれである(次の図)
変化3一飛図24
この “2五桂” はどういう意味なのか。 意味がわからないと指せない手だが、これは実は、同銀 と取らせて、後で「3五」に駒(金)を打つ空間をつくった “犠打” なのである。
“2五桂” は3三金以下の“詰めろ”で、2五同銀と応じるしかないが、そこで3一金と打つ(次の図)
変化3一飛図25
これで先手良し。
3三玉に3五金と打ち、後手玉は4二飛くらいしか受けがないが、そこで8一竜と角を取って、先手勝ち。
ここで3六飛という手をソフトは示してくるが、それも8一竜が1一角以下の“詰めろ”。 以下、早逃げの3三玉に、1一角で、2二桂合なら3七香、3四玉なら5五角成で、先手が優勢だ。
また、7七飛には、8七香と受けておく。以下、1四歩、3二竜、1三玉に、3七桂がぴったりした手で、先手勝ち。
変化3一飛図26
もう一度 “4一飛成” まで戻って、そこで[Z]1四歩(図)ならどう攻めるか。
それには、6五歩 で先手が良くなる(次の図)
変化3一飛図27
6五同角なら、8一竜左で先手が勝ちになる。
9三桂も、2一竜、1三玉、2六香(1二竜以下詰めろ)で、先手勝勢。
7七となら、7八歩と打って、後手がどう応じてもそこで3九香で、先手良しとなる。
後手の最善手と思われる9五歩以下を見ていく。これには、3九香と打って、6六銀のような手なら3一金で先手が勝てる。
9六歩、同玉、4九金(後手は香車がほしい)とされたときの対応が、おもしろい。今度は3一金では勝てないが―――。
1一金と打つ手が正解手になる(次の図)
変化3一飛図28
3九香と打つ手を3七香にしていれば4九金の手はなかったわけだが、3七香には4六銀があって同じようなことになる。
「3一金では勝てないが、1一金なら勝てる」というのが面白い。
この手を放置されて3九金とされたとき、3一金だったら、先手の2一金、1三玉、3五金に、2四銀とされて先手悪くなる。しかし1一金の場合は、2一竜、1三玉、3五金で、(2五桂と1二金の二つの詰み筋があるので)後手に受けがないというわけなのだ。
1一金(図)を、同玉 の場合を用意しておかねばならないが、3一金、2二玉、3二竜とすれば、1三玉に3三香成が “詰めろ” で、しかも “受けがない”。 よって、先手勝ち。
変化3一飛図01(再掲 4一飛成図)
以上の調査結果から、「3一飛」に、5四角、9七玉、8一桂には、“4一飛成”(図)で、どうやら「先手良し」、ということが新たに判明したのであった。(ただし、勝ちにまで結びつけるには針の穴を通すような正確な手順が必要となり、実戦的には選びにくい順ではある)
もう一つ、気になる変化が残っている。
変化3一飛図29
さて、それなら、「3一飛」 に、5四角と8一桂の手を入れ代えて、先に8一桂にしたらどうだ、というのが、後手の工夫。 最後にこれを考えよう。
この8一桂(図)を同竜だと、5四角、9七玉、8一角で、これは以下「先手が悪くなるコース」に乗っかってしまう。
ここで先手に、“なにか良い手” がないと、今の研究手順がすべてひっくりかえされてしまうが……
“良い手”はあった!! ここで2一飛成とすればよい。 以下、同玉に、8一竜―――(次の図)
変化3一飛図30
8一竜(図)に、後手は、3一角合 か 3一飛合 しかない。
まず 3一角合 には、4一金と打つ。 自玉は後手の飛車だけでは詰まない。後手4二銀引に、3四桂(次の図)
変化3一飛図31
先手勝ち(3四同銀なら、3一金、同銀、2二香、同玉、1一角以下詰み)
3一飛合 には、同竜、同玉、6一飛と打って、4一角合なら、5一金(詰めろ)で先手良し。
そして4一飛合なら、同飛成、同玉、5一金、同玉、6三桂(次の図)
変化3一飛図32
後手玉は、“詰み”だ。
以上、再調査の結果、≪指始図≫より、〔松〕3三歩成、同銀、5二角成、同歩に、「3一飛」でも、先手に(ギリギリではあるが)勝ち筋があると判明した。
3三歩成図(再掲)
まとめると、≪指始図≫より、〔松〕3三歩成、同銀、5二角成、同歩 と進んで、そこで、「3一飛」、「4一飛(7一飛)」でも、それから、「3一金」でも、先手に勝ち筋がある。
ただし、どの勝ち筋も道はけわしい。 比較して選ぶとすれば、やはり、「3一金」 になるだろう。
6七と図
〔松〕3三歩成 → 後手良し → 先手良しに変更
〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い)
〔栗〕8九香 → 後手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 形勢不明
〔柏〕2六飛 → 形勢不明
〔桜〕9七玉 = 実戦の指し手
〔桐〕9八玉
今回の調査結果により、「6七と図」の評価は、こういう結果になった。
〔松〕3三歩成の “真実” はこれで「先手良し」と明らかになった。
しかし、他の手については、再調査をしないと、ほんとうのところはわからない。
指し手 ▲9七玉
[僕たちがチェスの駒にならなくちゃいけないんだ]
白い駒の後ろに、もう一つの扉が見えた。
「どうやるの?」ハーマイオニーは不安そうだった。
「たぶん、僕たちがチェスの駒にならなくちゃいけないんだ」
(中略)
ロンが黒駒に動きを指示しはじめた。駒はロンの言うとおり黙々と動いた。ハリーは膝が震えた。負けたらどうなるんだろう。
「ハリー、斜め右に四つ進んで」
ロンと対になっている黒のナイトが取られてしまった時が最初のショックだった。白のクイーンが黒のナイトを床に叩きつけ、チェス盤の外に引きずり出したのだ。ナイトは身動きもせず盤外にうつ伏せに横たわった。
「こうしなくちゃならなかったんだ」
ロンが震えながら言った。
「君があのビショップを取るために、道を空けとかなきゃならなかったんだ。ハーマイオニー、さあ、進んで」
(『ハリーポッターと賢者の石』J.K.ローリング著 松岡佑子訳)
『ハリーポッターと賢者の石』にはこのように主人公たち3人(ハリー、ロン、ハーマイオニー)が「チェスの駒」になって闘うというシーンがある。ここに登場する巨大な人間サイズのチェスの駒たちは、“魔法”によって生命を吹きこまれ、動く仕組みになっている。
このシーンは映画版でも取り入れられているが、その人間サイズの「駒たち」のデザインは、「ルイス島の駒」だそうである。
「ルイス島の駒」とは?
チェスの駒は、工芸品、芸術品としてつくられたものも多く、面白いデザインの駒が残っている。
その中でもっとも有名なものが「ルイス島の駒」であろう。
これは、スコットランド北北西のへブリディーズ諸島のルイス島で発見されたので「ルイス島の駒」と呼ばれることとなった。発見されたのは1831年のことで、つまり今からおよそ200年前のことだ。
この表情豊かな人物デザインの「ルイス島の駒」の製作年代は、1200年頃と推定されている。なんと発見時よりさらに600年さかのぼる。 セイウチの牙でつくられていて、おそらく北欧ノルウェーでつくられたものではないかという研究者の推定がある。類似したデザインの駒がそこで作られていたからだ。
発見された駒は、78個で、その中に「8個の王」と「8個の女王」の駒がある。つまり少なくとも4組分の駒だったことになる(チェスの駒は1組32個なので全然足らないが)
現在その本物は、エジンバラのスコットランド博物館と大英博物館に展示されている。(『ハリーポッターと賢者の石』をその著者ローリングが執筆したのはエジンバラのコーヒーショップである)
インドで生まれたボードゲーム「チャトランガ」は、7世紀には「チャトランジ」としてペルシア地方で大発展した。それがいろいろなルートでヨーロッパに伝わり、10世紀には「チェス」として、欧州の各地で楽しまれるようになった。
「チャトランガ」、「チャトランジ」のときからそうであったが、「チェス」にはたくさんの変則ルール、地方ルールがあった。新しいルールも加えられたりして、駒の性質や呼び名も変化していった。たとえば「大臣」という斜めに一マスだけ動いていた駒が、「貴婦人」と呼ばれたり「女王」と呼ばれたりして、現在のような“最強の駒”へと進化していったりした(性転換して能力覚醒したというわけだ)
これらのチェスの多様なローカルルールが統一されていったのは、18世紀にイギリス(ロンドン)やフランス(パリ)で始まった「チェスクラブ」の存在が大きい。それまではチェスは酒場などで「賭け」で勝負されたりしていたが、これが「コーヒーハウス」での賞金制に変わっていき、やがてルールも統一されていったのである。
<第35譜 選んだのは、9七玉>
≪指始図≫ 6七とまで
〔松〕3三歩成 → 後手良し
〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い)
〔栗〕8九香 → 後手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 形勢不明
〔柏〕2六飛 → 形勢不明
〔桜〕9七玉
〔桐〕9八玉
「亜空間戦争最終一番勝負」を戦っている。
我々終盤探検隊が「先手番」をもって、後手をもつ≪亜空間の主(ぬし)≫に運命を賭して対する、最終決戦である。
この戦争に負けると、我々はおそらくずっとこの≪亜空間≫から抜け出すことができなくなる。 ≪亜空間≫の一部として取り込まれてしまうのだ。
終盤探検隊は人間とソフト「激指」との連成チームであり、ここまで戦った経験から、≪ぬし≫とは互角の実力と言ってよいだろう。
しかし、ついに、この図(指始図=6七と図)を迎えて、「勝ちが近くにある」と感じるところまで来た、と思った。
ここで腰を落として考え、上のような結果となった(詳しい内容は前譜に書いてある)
そして――――
≪最終一番勝負 第35譜 指了図≫ 9七玉まで
我々――終盤探検隊――が採用した手は、▲9七玉 である。
「激指14」が第1候補手として推している 〔桜〕9七玉 の手を我々は選んだのであった。我々の“感覚”としても、もともと 〔桜〕9七玉 が第1の候補であったので、それを指すことに違和感はなかった。
第35譜につづく
ここから下は、「6七と図」の“真実”に迫る、“戦後”の調査研究記録である。
6七と図
ここで、〔松〕3三歩成 ではほんとうに勝ちがなかったのか? その“真実”を知りたい。
[調査研究:3三歩成]
3三歩成図
〔松〕3三歩成(図)についての、我々の “戦後調査研究” の内容と結果を、以下に示していく。
図以下、3三同銀、5二角成と進む(次の図)
5二角成図
「3三歩成図」から、同銀、5二角成と進んだところ。
以下5二同歩に、「3一飛」では先手負け、「4一飛」なら形勢不明の戦いになるというのが実戦中の結論だった。
最新ソフトを使った“戦後調査”によって、この結論が変わった。
次のことが明らかになったのである。
3一金図
5二同歩に、「3一金」(図)と打つ手が、実は最善手だった!!!
「3一飛」でも、「4一飛」でも、「7一飛」でもなく、「3一金」なら、はっきり先手良しになるのであった。
その「3一金」の調査内容を示す前に、「形勢不明(先手苦戦)」だった「4一飛」の変化についても進展があったので、まずそちらから報告したい。
【4一飛の真実】
4一飛基本図(再掲4一飛図)
「4一飛」と飛車を打ったところ。
3四銀、3六桂、6九角、9七玉、3六角成(次の図)
変化4一飛図01(3六角成図)
先手3六桂の“犠打”についてあらためて思うが、なんと素晴らしい“犠打”なのだろう。 後手の角を使わせたので、先手玉に詰めろがかかりにくくなっている。
ここが先手の“攻めのターン”だが、しかし「一番勝負」戦闘中はここからの先手の勝ち筋を発見できなかった。
ここで、(A)3一竜左、(B)4八香、(C)4五歩、(D)3九香と4つの候補手が考えられ、前譜では(C)4五歩以下の手順を示したが、うまくいかなかった。
戦後研究で新たに有力手として浮上してきた手が、(A)3一竜左以下の手順だ(次の図)
変化4一飛図02
3一竜左(図)は、真っ先に見える手だが。
4四玉、3二竜右に、4二桂(次の図)
変化4一飛図03
4二桂(図)と受け止められ、これで後手良しと、戦闘中は考えていた。
ただし、ここで先手3九香と打つ手がある。以下、3七歩、同香、2五馬。
しかし、3四香、6九馬と進むと―――(次の図)
変化4一飛図04
ここで3三香成は5四玉とされ、6五へ逃げる道があって後手玉が捕まらない。
なのでここではその道を塞ぐ6五銀が考えられるが、それには4五玉と今度はこちらに逃げられてやはり捕まえることが難しい。以下4七歩(3五金以下詰めろ)があるが、7九馬、9八玉、7七とで後手勝ち。
ということで、この図は後手良し。
戦時中はこれを結論としていた。
しかし、“戦後調査”の中でだが、「3四香が良くなかった。代えて、1五金(図)という手があった」 ということが発見でき、もういちどこの順を調べなおす必要が出てきたのである。
変化4一飛図05
1五金(図)と打った。 この手で3四香と銀を取ると、先手はあの二枚の竜を使いにくくしてしまう。あの銀は香車で取らないほうがよいのである。
だから1五金と、後手の馬を攻める。
以下、5四玉、2五金、同銀、7五金(次の図)
変化4一飛図06
こうなってみるともう雰囲気的には先手ペースに思える。後手玉を逃がさないで仕留められるかどうか。
以下、4六銀(最善と思われる手)に、5六歩が好手だ(次の図)
変化4一飛図07
5六歩(図)は次に6五角以下の“詰めろ”。5六同桂でも7六角以下の詰みがある。
よって後手は4五玉と逃げ、6五角に、3四歩、4三竜(次の図)
変化4一飛図08
4三竜(図)に対し、後手4四歩合なら、8四馬と金を取り、同歩に、3四竜左、同桂、同竜、同銀、3六金までの詰み。
それを防ぐ意味で4四桂合が考えられるが、その手には、4二竜右(同銀なら5四竜で詰み)とし、以下3七銀成はあるが、同桂、3六玉、8四金の展開は、先手優勢になる。
だからこの図では4四金と受けるのが最強の応手だが、それには、先手は同竜。
以下、同玉に、8四馬(5五金、同銀、3五金以下の詰めろ)、7七飛、8七金(次の図)
変化4一飛図09
後手は7七飛と王手して、先手に金を使わせて後手玉の“詰めろ”を消した。
なお、先手が8四馬と金を取った手に代えて8四金だと、以下同じように7七飛、8七金に、7五飛成で形勢は紛れていた。
この図の場合は、7八飛成のように飛車を逃げていては7三馬(後手玉への詰めろ)で後手に勝ち目はないので、8四銀と馬を取る。
先手は7七金と飛車を取り、これも後手玉への詰めろ(4三飛)
以下、7九角に、9八玉(次の図)
変化4一飛図10
こう進んでみると、先手勝勢の図になっている。
図以下は、4五玉、8四金(4四金以下詰めろ)、5四桂打、5五銀と進めば、後手玉は“受けなし”である(5五同銀には、4七飛、4六合、3五金以下詰み。3七銀成なら、同桂、3六玉、3八銀)
4一飛基本図(再掲)
以上の“戦後調査研究”により、4一飛(図)以下、先手の勝ち筋が発見された。
とはいえ、これは複雑な変化となっていて、結論は変わる可能性もある。
実は「4一飛」の手に代えて、もっとわかりやすく先手の勝ちになる手があった!
【3一金の真実】
3一金基本図
「3一金」(図)の登場である。 戦闘中、この手は、見えてはいても、ほとんどその先を考えなかった(ここで1四歩とされても先手勝てるかどうか不安があるし、5四角で勝てそうにないと思っていた)
「3一飛」では5四角以下先手負け。「4一飛」や「7一飛」は3四銀で形勢難解―――
ところが、図の「3一金」なら、はっきり先手良しになるのであった。
なぜ、飛車よりも金打ちが良いのか。それはつまり、この手は、後手の〈1〉3四銀にも〈2〉5四角(8一桂)にも対応できているからである。
(ただし後で示す〈5〉1四歩 の変化がこの場合ちょっと難しい)
ここで〈1〉3四銀なら、3二金がある。以下、同玉に―――(次の図)
変化3一金図01
3一飛(図)で後手玉は“詰み”。
変化3一金図02
それでは、〈2〉5四角(図)でどうなるか。
以下、9七玉、8一桂、同竜、同角、7一飛(次の図)
変化3一金図03(7一飛図)
この図は、すでに前回の報告で出てきた変化(「4一飛」と打って5四角、9七玉、8一桂、同竜、同角、3一金)とほぼ同じ図になっている。 7一と4一と飛車の位置が違いがあるが意味的には同じで、「先手良し」の図であると結論を出している。
この図は、先手玉に後手7七とからの詰めろが来るより前に、先に後手玉に“詰めろ”がかかっているのが重要だ。
この図が「先手良し」であることを、以下、確かめておこう。
後手 4二銀左 が、ここでの後手最善のがんばりとみられる手。 3三玉からの中段への脱出路を開いた(次の図)
変化3一金図04
4二銀左(図)に、2一金、3三玉、3五金と先手は後手玉の上空を押さえる。
以下、7七飛、8七桂、4四歩、8四馬、4三玉、7三馬(次の図)
変化3一金図05
先手勝勢である。
変化3一金図03(再掲 7一飛図)
もう一度この図に戻って、ここで 3四銀 ならどうなるか。
それには、そこで8一飛成と角を取る(次の図)
変化3一金図06
1一角以下の“詰めろ”になっている。3三玉と先に逃げても、1一角と打てば、2四玉、3六桂、3五玉、5五角成で、先手勝ち。
変化3一金図07
それでは、1四歩(図)ならどうなるか。
2一金、1三玉に、ここで8一飛成と角を取る。
以下、“7七と”(後手が一番指したい手)なら、5七角がある(次の図)
変化3一金図08
これで先手が勝ち。 2四歩なら、2五桂、2三玉、3三桂成、同玉、3四銀以下“詰み”。
4六飛なら、3六桂と詰めろをかけて先手勝ち。
この5七角打ち(図)の手は、後手が“7七と”と指したから打てた角打ちであるが、しかし後手は7七と以外で先手玉に“詰めろ”をかける手がないので、“7七と”以外の手でも勝てないのだ。
たとえば8九飛(9九飛成の狙い)には、3五金と打って後手玉に詰めろをかけて、やはり先手勝ちとなる。
変化3一金図09
7七飛、8七桂、2四歩 と指した場合。
変化3一金図10
それには、4一飛成(図)で、先手勝ち。
これで、〈2〉5四角 以下は先手良しが証明された。
3一金基本図(再掲)
「3一金図」まで戻る。 ここから、〈1〉3四銀と〈2〉5四角以外の後手の対応手について検証していく。
まず、〈3〉2四歩ならどうなるか。
変化3一金図11
先手は後手玉に“詰めろ”で迫る必要がある。手が緩むと、後手からの「7五桂、9七玉、7七と」で、逆に詰めろをかけられ、劣勢に陥るからだ。それと後手は角を持っているので、後手からの角打ちが“詰めろ逃れの詰めろ”にならないよう気を配る場面でもある。
ここは、2一金、2三玉に、3七香と打つのがよい(次の図)
変化3一金図12
この香打ちは、2二金(または2二金打)からの“詰めろ”になっている。これで先手勝勢。
(なお3七香に代えて3五歩としてしまうと、7八角、9七玉、7七とで、逆転負けとなる)
変化3一金図13
また、この場面での〈4〉4二銀左(図)は、あっさり先手良しになる。
2一金、3三玉に、3五飛と打つ手がある。
以下、3四桂に、2五桂、2四玉、5五飛(次の図)
変化3一金図14
先手勝勢。
変化3一金図15
〈5〉1四歩(図)。 問題はこの手だ。
「3一金」に対する応手としては、これが一番先手にとってやっかいな道になる。これがあるから、3一金と打つ手はあまり考えたくないところであった。3一金と打つ攻めは、1四歩に、2一金と桂馬を取った後、この金の後の働きがほとんど期待できないのが不安の残るところだ。これが飛車なら竜になってまだまだ働いてもらえるのだが(だから実戦中は「3一金」は見えていてもあまり考えたくないというわけだった)
さて、〈5〉1四歩に、2一金、1三玉と進む。 そこで先手の指し手が難しい。2六香や1五歩のような手では、詰めろになっていないので7五桂以下、先に先手玉に“詰めろ”がきて、後手が勝ちの流れになってしまう。
1三玉に、2五桂と行くのが最善手だ(これ以外の手では先手がわるい)
以下、2四玉、3三桂成、3五玉(3三同歩は3九香で先手良し)。
後手玉を逃がしてしまう不安が漂ってきたが、4八香がある(次の図)
変化3一金図16
4八香(図)と打ってみると、この手に対する後手の対応が難しい。
4六桂が見えるが、それは―――(次の図)
変化3一金図17
なんと、2五飛(図)から後手玉に“詰み”があるのだ!!(4六銀でも同じ)
2五飛、同玉、3四銀、3五玉、3六歩、2四玉、2三銀成、2五玉、2六金まで。
この詰み筋があるので、4八香で後手の受けが困難になってきている。この詰みがあることは大きかった。 ここまで読めていれば、「3一金で先手が良さそう」と感じ取れるわけである。
しかし、まだ(4八香に)7七との後手の切り返し技が残っている(次の図)
変化3一金図18
後手7七と(図)。 これを同玉は6六角の王手香取りがある(次の図)
なので9八玉と逃げるが、後手は6五角。 先手は7六歩と応じて次の図となる。
変化3一金図19
詰んでいれば先手が負けだが、ギリギリ詰みはない。
ここで 4七桂 と、7六同角 とがある。
4七桂 には、5七金。
以下、7六角、8九玉と進むが、そこで後手8七角成だと、3四飛から後手玉が詰んでしまう。 よって、4五玉、4七香、5四玉の進行が想定される。
そこで7八歩(次の図)
変化3一金図20
先手の攻めのねらいは、8四馬と金を取って、4五金から寄せていくこと。
しかしこの攻めは後手に角を渡すので、それを実行すると7八角から先手玉が先に詰まされてしまう。それをあらかじめ防ぐ意味の、7八歩(図)である。
8七とでも、6七とでも、そこでねらいの8四馬からの攻めを決行するのである。
6七とで見ていこう。6七と、8四馬、同歩、4五金、6五玉、5五金、7四玉、6六銀(次の図)
変化3一金図21
これで、先手勝勢になっている。
変化3一金図22
戻って、7六同角(図)の場合。
8九玉、6七角成、9八玉。先手玉にまだ詰みはない。
後手には詰めろが掛かっていたので、4六桂とそれを受ける(6七の馬が3四に利いていて先手2五飛、同玉、3四銀の詰み筋を消している)
これには、先手6五銀が決め手になる手(次の図)
変化3一金図23
6五銀(図)と銀を打って後手玉の可動範囲を狭め、この先手図は先手優勢である。このままなら3六歩以下後手玉は詰む。
ここで8八と(同玉に6六馬のつもり)には、9七玉でよい。
6六銀なら、3六歩、4四玉、3五飛で、先手勝ち。
以上の調査により、「3一金」に、後手〈5〉1四歩も、先手良しとなった。
変化3一金図24
「3一金」に、後手〈6〉7五桂(図)。 これが後手の最後の手段。
以下、9七玉、7九角、9八玉(香車を温存してかわした)、1四歩。
つまりこの後手の一連の手は、1四歩からの脱出路を開く前に7九角を打って攻防に利かせたという意味である。
しかし、2一金、1三玉、2五桂、2四玉、3三桂成(次の図)
変化3一金図25
ここで大海に逃げる3五玉は、4八香で後手玉が完全に捕まってしまう。今度は後手は桂馬と角をすでに打ってしまっていることもあって4八香を受ける手段がまったくないのだ。
だから後手はここで3三同歩とするが、それには3九香で―――(次の図)
変化3一金図26
やはり、先手勝勢だ。
後手の7九角に9八玉と駒(香)を使わず受けたことで、ここで3九香と攻めに使えた。
3一金基本図(再掲)
「3一金」に、〈1〉3四銀、〈2〉5四角、〈3〉2四歩、〈4〉4二銀左、〈5〉1四歩、〈6〉7五桂 の応手について調べてきたが、いずれも「先手良し」となった。
この調査により、「3一金」と打ったこの図は「先手良し」、と結論できる。
この「3一金」の手を、我々終盤探検隊は発見できなかったのだが、実は今確認すると、「激指14」はこの「3一金」を有力手としてはっきり示していたのであった。
(3一金の評価値は -212。 第1候補手は6一飛および7一飛でその評価値は -205。 4一飛 -277、3一飛 -372)
その戦闘時の記憶ははっきりしないが、おそらく我々は「激指」の示す「3一金」を見ても、“感覚的”に、「3一金では勝てそうもない」とそれを調べる前に切り捨てしまっていたのである。
(もっともその「激指」も、3一金で先手良しとまでは読み切れていない。3一金に〈5〉1四歩以下の変化が難解だからであろう)
6七と図
〔松〕3三歩成 → 後手良し → 先手良し
〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い)
〔栗〕8九香 → 後手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 形勢不明
〔柏〕2六飛 → 形勢不明
〔桜〕9七玉 =実戦の指し手
〔桐〕9八玉
つまり、〔松〕3三歩成 なら、先手勝ちがあった。しかし数手後の「3一金」が見えなかったために、その勝ち筋をつかみきれず、これを見送ることとなったのである。
そして、▲9七玉 と指した。
[調査研究:3三歩成(追加調査)]
さらに調査は進み、また “新たな事実” が発見された。
【3一飛の真実】
3三歩成図
〔松〕3三歩成(図)、同銀、5二角成、同歩。
そこで今度は、「3一飛」 に関する新発見である(次の図)
3一飛図
「3一飛」(図)と打つのは、5四角で先手が勝てない―――というのが、戦時中の結論であった。
しかし、ここで改めて再調査してみると―――
「3一飛」、5四角、9七玉、8一桂に、“4一飛成” の変化がある(次の図)
変化3一飛図01(4一飛成図)
後手の8一桂に、“4一飛成”(図)とする。
この手は“一手パス”の手なので戦闘中は考えなかったのだが、あらためて調べてみると有力であると判明した。というか、これがどうやらこの場合(3一飛と指した場合)の最善手段で、これで先手良しの可能性さえ出てきたのであった。
この先の調査内容を示していこう。
後手の有力手は[X]7七と だ。(他に[Y]3四銀、[Z]1四歩 があり後述する)
そこで8九香が“ふつう”だが、それだと3四銀、7一馬、9五歩、同歩、4五角と進み―――(次の図)
変化3一飛図02
こうなって、先手が悪い。8九に打った香車を狙われた。7九金と受けても、6九金というぴったりとした攻めがある。
[X]7七と に、しかし、先手“6五歩” の手が好手となる(次の図)
変化3一飛図03
この “6五歩の発見” がこの“追加調査”の収穫だ。 これで先手に“希望の光”が見えてきた。
これを6五同角と取ると、2一竜から後手玉は詰んでしまうのだ!(2一竜、同玉、8一竜以下)
なので後手は3四銀。3三玉の脱出口を開く。
そこで「7八歩」(次の図)
変化3一飛図04
この手順で、どうやら最新ソフト的に「互角」の形勢になっている。 以下、厳密にはどちらが有望かを見極めていく。
先手の狙い筋としては、3筋に香車を打つ手(3九香)と、3一金(詰めろ)とがある。
しかし3九香は、6五角が“詰めろ”で後手良し。 3一金は、3三玉、3二竜、4四玉、4八香、4六銀、同香、5五玉と進んで、これはギリギリだが後手が良い。
というわけで、先手は「7八歩」(図)と打ったわけだ。
ここで考えられる後手の応手は次の4つ。
(カ)7八同と、(キ)7六歩、(ク)7六と、(ケ)9三桂
この順で、以下の変化を見ていこう。
変化3一飛図05
(カ)7八同と は、簡単に先手が良くなる。 7八同との状態は、後手に金を渡しても大丈夫だし、後手6五角も詰めろにはならないので、3九香と打って、3三玉に、2五金、4五角、3四金、同角、4五銀(図)となって、先手勝ち。
変化3一飛図06
「7八歩」に、(キ)7六歩(図)は、と金位置を「7七」のままでキープしようという手。
「7八と、7六歩」の手の交換を入れることで、とりあえず後手の6五角が詰めろで入らないようになった。
ただし、狙い筋の3九香でも3一金でもまだ勝ちきれない。
もう一手、「7一馬」 を指す(次の図)
変化3一飛図07
この「7一馬」(図)は、後手の9三桂の角取りを避けると同時に、攻めの下準備の手でもあり、次に3一金からの攻めを狙っている。
しかしこの瞬間、後手に主導権を渡したようで不安もあるが、意外と後手の手が難しい。
ここで 3三玉 の早逃げなら、4八香で先手良しになる(次に5三馬、同歩、4二銀がある)
また 6六銀 には3九香と打って、3三玉、4六金、4四玉、5二竜で先手勝ち。
「7一馬」の手はこのように、後手の有力手、3三玉や 6六銀 に対応できている。
後手が攻めるなら9五歩だ。 この変化を以下、見ていく。
9五歩を同歩と取ると、9六歩、同玉、6三角で後手ペースになる。以下8五香に9四歩、9七玉、8五角、同歩、同金は、後手良しだ。
なので9五歩には、3一金から攻めあう。 以下、3三玉、3二竜、4四玉に、4八香(次の図)
変化3一飛図08
4六銀、同香、5五玉、5七銀と進む。
そこで後手6五玉なら、3四竜で先手が勝てる。
6五玉でダメだとすると、6七としかないが―――(次の図)
変化3一飛図09
それには、5二竜(図。 この変化のための、「7一馬」であった。
まだ変化は多いが、この図は、先手良しの形勢。
図以下、5七と、5三馬、2七角成なら、4四馬から後手玉には詰みがある。 6二歩が考えられるが、5三竜、5七と、8一馬、6三銀、同馬、同歩、5一竜左で、先手が良い。
変化3一飛図10
「7一馬」のところまで戻って、後手 6二銀右(図)を調べていく。 これが後手の最強手のようだ。
この手にも、先手はやはり3一金から攻めていく。
以下3三玉、3二竜、4四玉、4八香、4六銀、同香、5五玉、5七銀(次の図)
変化3一飛図11
後手は詰みを防いで6七と。
ここまでは同じだが、今度は5二竜の手が無効なので、3四竜と銀を取る。5七とに、8一馬とする。
以下、6六玉に、7九桂で、次の図になる。
変化3一飛図12
6八銀、5四馬、同銀、8八角、7七歩成、5四竜、5三銀、5五銀
変化3一飛図13
後手の指した5三銀は(後手苦しいながらも)先手を焦らせる好手のようだ。
5五銀(図)に、5六玉、3六銀、4七と、4五竜、5七玉、6六銀、5八玉、4七銀、同玉、7七銀(次の図)
変化3一飛図14
先手が少し良い形勢(手の複雑さを考慮すれば実戦的には互角)
変化3一飛図15
「7八歩」に、(ク)7六と(図)の変化が、さらにきわどい。
ここで7一馬は、6五角が“詰めろ”になり、以下8八香に7五金があって、先手が勝てない。
だから、3九香(3二竜以下詰めろ)で勝負することになる。
以下、3三玉、2五金、4五角、5二竜(次の図)
変化3一飛図16
5二竜(図)とするのがこの場合の好手。 これは次に7一馬の活用を見ていて、4四玉なら7一馬とする予定である。
ただし、ここで7八角成が気になる手である。しかしそれには、3四金、同馬、同香、4四玉に、7八角という手が用意されている(次の図)
変化3一飛図17
この7八角(図)で、形勢は先手良しである。
なので前図からは、4四玉、7一馬と進む(次の図)
変化3一飛図18
7一馬(図)に6二歩は、8一馬で先手が良い(7一馬に6二銀右は同馬で無効)
だからここから7八角成、5三馬という激しい変化に突入する。 以下、4五玉、5四馬、5六玉、5五馬、6七玉、8八金、7七歩、8九銀(次の図)
変化3一飛図19
5六歩、6四歩、5七歩成、4八銀(次の図)
変化3一飛図20
4八銀(図)を 同と と取ると、7八銀から後手玉が詰む。 よって、ここは後手6八馬が最善だが、3四金で、どうやら先手が良さそうだ。
以上、(ク)7六と 以下、きわどかったが、結果としてはなんとか、「先手良し」となった。
変化3一飛図21
「7八歩」に、(ケ)9三桂(図)の変化。 角を取った。
以下、7七歩。
そこで後手は6六銀が指したい手だが、3九香(3二竜以下詰めろ)、7九角、9八玉(さらに6五角には8九玉)、3三玉に、5五金(取ると3二竜以下詰み)の好手があり、この変化は先手良し。
よって、後手は7九角と先に角を打ってくる。今度は9八玉では6五角、8九玉、3五角成で後手良しになるので、7九角には8八金と受けることになる。
そこで6六銀。以下、7八金打、5七角成に、2一竜、3三玉、3一竜左、4四玉、3二竜右、4五銀、6七香(次の図)
変化3一飛図22
最新ソフトの評価値はまだ「互角」(+100くらい)だが、どうやらこの図は「先手良し」のようである(後手の良くなる変化が見当たらない)
6七香(図)を同銀成、同金、同馬なら、4七桂と打ってはっきり先手優勢。
なので9五歩、6六香、3四歩のようなひねった手順が予想されるが、4六歩で先手ペースの戦いである。
変化3一飛図01(再掲 4一飛成図)
後手の8一桂に、“4一飛成” と指したところまで戻って、([X]7七とに代えて) [Y]3四銀(図)ならどうなるのかを見ていく(次の図)
変化3一飛図23
7一馬(後手9三桂で角を取られる手を避けた)は、そこで7七ととされ、これは「先手が悪くなる変化」に入ってしまう。
6五歩は、9三桂と角を取られ、以下3九香、7九角、9八玉、2四角成で、これは形勢不明。
しかしここでまた先手にすばらしい勝ち手順があるのだ。
“8一竜左、同角、2五桂” がそれである(次の図)
変化3一飛図24
この “2五桂” はどういう意味なのか。 意味がわからないと指せない手だが、これは実は、同銀 と取らせて、後で「3五」に駒(金)を打つ空間をつくった “犠打” なのである。
“2五桂” は3三金以下の“詰めろ”で、2五同銀と応じるしかないが、そこで3一金と打つ(次の図)
変化3一飛図25
これで先手良し。
3三玉に3五金と打ち、後手玉は4二飛くらいしか受けがないが、そこで8一竜と角を取って、先手勝ち。
ここで3六飛という手をソフトは示してくるが、それも8一竜が1一角以下の“詰めろ”。 以下、早逃げの3三玉に、1一角で、2二桂合なら3七香、3四玉なら5五角成で、先手が優勢だ。
また、7七飛には、8七香と受けておく。以下、1四歩、3二竜、1三玉に、3七桂がぴったりした手で、先手勝ち。
変化3一飛図26
もう一度 “4一飛成” まで戻って、そこで[Z]1四歩(図)ならどう攻めるか。
それには、6五歩 で先手が良くなる(次の図)
変化3一飛図27
6五同角なら、8一竜左で先手が勝ちになる。
9三桂も、2一竜、1三玉、2六香(1二竜以下詰めろ)で、先手勝勢。
7七となら、7八歩と打って、後手がどう応じてもそこで3九香で、先手良しとなる。
後手の最善手と思われる9五歩以下を見ていく。これには、3九香と打って、6六銀のような手なら3一金で先手が勝てる。
9六歩、同玉、4九金(後手は香車がほしい)とされたときの対応が、おもしろい。今度は3一金では勝てないが―――。
1一金と打つ手が正解手になる(次の図)
変化3一飛図28
3九香と打つ手を3七香にしていれば4九金の手はなかったわけだが、3七香には4六銀があって同じようなことになる。
「3一金では勝てないが、1一金なら勝てる」というのが面白い。
この手を放置されて3九金とされたとき、3一金だったら、先手の2一金、1三玉、3五金に、2四銀とされて先手悪くなる。しかし1一金の場合は、2一竜、1三玉、3五金で、(2五桂と1二金の二つの詰み筋があるので)後手に受けがないというわけなのだ。
1一金(図)を、同玉 の場合を用意しておかねばならないが、3一金、2二玉、3二竜とすれば、1三玉に3三香成が “詰めろ” で、しかも “受けがない”。 よって、先手勝ち。
変化3一飛図01(再掲 4一飛成図)
以上の調査結果から、「3一飛」に、5四角、9七玉、8一桂には、“4一飛成”(図)で、どうやら「先手良し」、ということが新たに判明したのであった。(ただし、勝ちにまで結びつけるには針の穴を通すような正確な手順が必要となり、実戦的には選びにくい順ではある)
もう一つ、気になる変化が残っている。
変化3一飛図29
さて、それなら、「3一飛」 に、5四角と8一桂の手を入れ代えて、先に8一桂にしたらどうだ、というのが、後手の工夫。 最後にこれを考えよう。
この8一桂(図)を同竜だと、5四角、9七玉、8一角で、これは以下「先手が悪くなるコース」に乗っかってしまう。
ここで先手に、“なにか良い手” がないと、今の研究手順がすべてひっくりかえされてしまうが……
“良い手”はあった!! ここで2一飛成とすればよい。 以下、同玉に、8一竜―――(次の図)
変化3一飛図30
8一竜(図)に、後手は、3一角合 か 3一飛合 しかない。
まず 3一角合 には、4一金と打つ。 自玉は後手の飛車だけでは詰まない。後手4二銀引に、3四桂(次の図)
変化3一飛図31
先手勝ち(3四同銀なら、3一金、同銀、2二香、同玉、1一角以下詰み)
3一飛合 には、同竜、同玉、6一飛と打って、4一角合なら、5一金(詰めろ)で先手良し。
そして4一飛合なら、同飛成、同玉、5一金、同玉、6三桂(次の図)
変化3一飛図32
後手玉は、“詰み”だ。
以上、再調査の結果、≪指始図≫より、〔松〕3三歩成、同銀、5二角成、同歩に、「3一飛」でも、先手に(ギリギリではあるが)勝ち筋があると判明した。
3三歩成図(再掲)
まとめると、≪指始図≫より、〔松〕3三歩成、同銀、5二角成、同歩 と進んで、そこで、「3一飛」、「4一飛(7一飛)」でも、それから、「3一金」でも、先手に勝ち筋がある。
ただし、どの勝ち筋も道はけわしい。 比較して選ぶとすれば、やはり、「3一金」 になるだろう。
6七と図
〔松〕3三歩成 → 後手良し → 先手良しに変更
〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い)
〔栗〕8九香 → 後手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 形勢不明
〔柏〕2六飛 → 形勢不明
〔桜〕9七玉 = 実戦の指し手
〔桐〕9八玉
今回の調査結果により、「6七と図」の評価は、こういう結果になった。
〔松〕3三歩成の “真実” はこれで「先手良し」と明らかになった。
しかし、他の手については、再調査をしないと、ほんとうのところはわからない。