経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

気持ちよく伝わる何か

2012-06-10 | 書籍を読む
 先日、「愛されるアイデアのつくり方」という本を読みましたが、久々に心に響くビジネス書でした。
 その中から、強く印象に残ったことを1つ挙げておきます。

 企業がお客様に何かの情報を伝えようとする場合、より多くの情報をもつ企業側は、どうしても「上から目線」になってしまう。この「上から目線」がある限り、情報を受け取る側のお客様には、「上から目線だ」と直接感じることはなくても、ちょっとした「違和感」が生じて、それが情報を伝える上での障害になってしまいます。
 こうした「上から目線」を避けるためには、
① お客様が何を考え思っているのかを事実確認する。
② その際に自分の目線の高さを修正しながら考える。
③ お客様に「教える」という姿勢でなく「気持ちよく伝わる何か」を探し出す。
というプロセスが必要になるが、①を意識して行うことは多いものの、②と③のプロセスをなかなか実行できないでいることが多い、とのことです。

 これはおそらく、知財の世界にもよく生じている問題であると思います。
 知財の持つ意味を経営層に伝えようとする場合、②については、ある部分では目線を上げ、ある部分では目線を下げることが必要です。目線を上げるとは、実務レベル、事件レベルの影響ではなく、知財を意識することが経営レベルでどのような影響を生じさせるのかを考えることです(ex.「経営者の視座」のエントリ)。目線を下げるとは、経営層は当然のことながら制度や実務の知識に精通しているはずがないし、そういうことを知るべき立場にもないのだから、細かいことは知らないという前提で考えることです。この部分では、目線を上下に調整することが必要です。
 そして、おそらくより重要なのが③のプロセスで、私自身もいろいろ工夫を重ねている部分です。前に書いた「知財の領域に引きずり込むのではなく、知財という道具を持って共通の関心事に踏み込んでいく」というスタンスもそうですが、その他に、言葉の使い方、できるだけ専門用語を使わないことが大切であると思います。
 例えば、いわゆる防衛的な目的で特許を出願する必要がある場合に、「防衛特許が必要です」と説明するより、「品質保証のために特許を出願しておきましょう」と説明したほうが、おそらくその意義が多くの関係者にスムーズに伝わるでしょう。知的財産の「創造」→「保護」→「活用」と「知的創造サイクル」を前提にして事業を捉えるより、「投資」→「回収」という普通のビジネスパーソンの頭の中にあるサイクルを前提に、「投資を回収する確度を高めるために、投資の一部を知財活動に充てましょう」と説明したほうが、経営者だけでなく、多くのビジネスパーソンに知財活動の位置づけをスムーズに伝えることができるはずです。

 顧客ニーズを考え、商品やサービスを一生懸命磨いているけれども、なかなかそれが顧客に伝わらない。そういう場合、実は③のプロセスがキーになっていることが多いのではないでしょうか。

愛されるアイデアのつくり方
クリエーター情報なし
WAVE出版


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1 コメント

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知財を意識しない (久野)
2012-06-12 08:18:13
究極は、事業や経営の発展のために必要な事や役立つことの中から、その状況に応じて適用すべき方策を選んで適用する中で、知財施策がその方策に入ることもあれば、入らないこともあるという事だと思います。すなわち、知財を特別視しない、意識しないでおくことが良いのだろうと思います。すなわち、知財業務を専門にしていて、知財分野の知識と経験と多数のネットワークを持っているにしても、それらを活用することを意識しないで自然体で、知財が役立つときに使えば良いということなのだろうと思います。
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