経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

ムーミンではないほうのTroll

2009-12-05 | 書籍を読む
 ハンディサイズで出張の道中に丁度いいかと購入した‘死蔵特許’という本ですが、期待以上の面白さでした。JPEG特許係争の背景について書かれているのですが、いわゆる知財的な切り口ではなく、JPEG特許の権利者であるフォージェントという会社がどういう経緯で生まれ、どうやってパテント・トロールと化していったのかを経営の側面から追いかけた、そういう意味ではあまり知財っぽくない内容です。アメリカのベンチャー経営者はどういうことを考えているのか、M&Aや上場はどういう目的で行われてどういう意味があるのか、短いストーリーの中にいろんなエッセンスが盛り込まれていて、著者は‘はじめに’で「第1章から第4章までは飛ばしてもらっても結構」なんて書かれていますが、いやいや第1章から第4章こそが面白いと思います。
 で、この本を読んで、特に感じたことは次の2点。
 1つは、あたりまえのことではありますが、「リアルでサステイナブルな事業をやる」ってことは会社の魂であり、それを失ってしまうのは恐ろしい、ということです。JPEG特許は、元々は開発型のベンチャーで生まれたものですが、厳しい競争環境下で忘れ去られて‘死蔵特許’となった。上場やM&Aを経た後に、成長に限界を生じ、上場企業としてやっていくことが難しくなったので、本業(テレビ会議システム)を別会社に切り離した。そして本業を切り離した後のフォージェントが‘死蔵特許’を発見し、トロールと化した、というような経緯で、著者は「本業を継続していた時期、リアルな事業を志向する経営者が経営していた時期にJPEG特許が発見されていれば、おそらく違う活かし方がされたのではないか」といった分析されています。フォージェントも、ライセンスで得た資金で事業会社として再生することを志向していたようですが、やはり会社はサステイナブルであってこそ価値をもつもの。リアルビジネスは、まさに会社の魂です。
 もう1つ、これはちょっと意外な数字でしたが、トロールとして大暴れしたはずのフォージェットが、決算数値を見る限りでは殆ど儲かってはいないということです。JPEG特許で得たライセンス収入は計1.1億ドルですが、ライセンス収入を得た5期のうち、黒字だったのは1期だけ(9百万ドル)、残り4期の赤字は計4千万ドル近くもあったそうです。何にそんなにお金を使ったのかはわかりませんが、その後に買収したソフト会社もパッとせず、今では上場取消を株主に提案しているとのこと。‘(協議の)特許権の活用’が果たして儲かるものなのか。‘特許の活用’(個人的には特許について‘活用’という表現は好きではありませんが)のあり方について、考えさせられる事例であると思います。


死蔵特許―技術経営における新たな脅威:Patent Hoarding訴訟
榊原 憲
一灯舎

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3 コメント

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特許権の活用 (久野敦司)
2009-12-05 07:46:23
私などは、特許権は活用するために取得していると思っていますので、「特許について‘活用’という表現は好きではありません」と言われると、驚くとともに、私が気付いていない観点があってのことだろうと思い、大変に興味を持ちました。
なぜ、「特許について‘活用’という表現は好きではない」のでしょうか?
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Unknown (土生)
2009-12-05 16:06:02
久野様
たぶん私が違和感をもつ‘活用’は、久野様が仰られる‘活用’とは対象や目的が異なるもので(分析の視点の相違から生じるものと思います)、あまりそこをあれこれ論じても言葉遊びになりそうなので避けたいですが、↓
http://blog.goo.ne.jp/habupat/e/c75f28ef6ae87e6d359ef637c24d73ed
に照らせば、久野様の仰る意味の‘活用’は事業目的が先にあってその中で「当然に活用されている」ものであって、不動産の有効‘活用’みたいに、先に財産ありき、事業の本旨とは独立して「財産」を使って一儲けしましょう、みたいな意味でも理解されやすい‘活用’という言葉は、本来の知財活動の目的を曲解されやすくて危険である、というのが私の考えです。
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特許権の活用 (久野敦司)
2009-12-06 17:48:50
ありがとうございました。社会に価値提供をする活動(事業)を促進する目的を持たない特許権活用までもが文言上は含まれてしまう表現となっている「特許権の活用」というものが、好きではないということだと判りました。
そうであれば、全く同感です。
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