経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

知識創造のプロセスと知財活動

2013-08-11 | 書籍を読む
 知財を専門に扱う者の守備範囲は、どこからどこまでなのか。
 拙著「元気な中小企業はここが違う!」の整理でいえば、開発等によって創り出された知的財産に「かたちをつける」ことがメインで、時として「外部にはたらかせる」ことにも関与することがある。公式の分類に従えば、創造された知的財産を「保護」するのがメインで、「活用」に関与することもある。そういった捉え方になるかと思います。
 しかしながら、この範囲にいてできることにはやはり限界があり、知財の仕事をしているとそのことを度々痛感させられます。ビジネスの成功要因として「創造」と「保護」のどちらがより重要かといえば、それはいうまでもなく「創造」のほうです。「創造が○、保護が×」でも力技で何とかなってしまうケースがある一方で、「創造が×、保護が○」で成功するというケースはおよそ考え難いからです。脱デフレ、国際的な産業競争力の強化といった課題に対処するためにも、知的財産の「保護」や「活用」を論ずる以前に根本的に必要とされているのは、優れた知的財産を「創造」することです。ゆえに、現在は「保護」が中心のいわゆる「知財の仕事」のウィングをどのように広げられるかを考える場合、権利行使やライセンス、流動化といった「活用」の領域より、開発力がアップするような「創造」の領域にどのように関与できるか、そこにより関心があります。
 この点について、「元気な中小企業はここが違う!」や「経営に効く7つの知財力」では、知財活動によって他との違いを「見える化」することの意義を説明し、それが開発力の強化(=「創造」の促進)に繋がり得ることにも言及しています。「見える化」とは何ぞやを理解するために、以前に「見える化-強い企業をつくる『見える』仕組み」は読みましたが(この本の「見える化」は隠れた問題を発見するという意味での「見える化」が中心なので、他との違いや自社の強みを「見える化」とはちょっとニュアンスが異なります)、この領域についてもっとしっかりと考えてみたいということで、今さらながらでお恥ずかしい限りですが、知識創造に関する名著である「知識創造企業」を読みました。さすがに長く読み続けられているだけあって、内容は非常に濃く、読む際には蛍光ペンが手離せません。この後も繰り返し読むことになりそうな書籍です。

 まだまだモヤモヤした部分が多いし、この本の理解が不十分であるところもあるかもしれませんが、自分用の覚書きという意味も込めて、少し整理しておきたいと思います。
 この本は、組織的な知識創造のプロセスを明確に整理し、知識創造を促進するための組織構造やマネジメント形態を提言するものですが、知識創造のプロセスについての基本的な考え方は次のとおりです(と私は理解しています)。

 まず、知識を創り出す主体は、組織でなく個人である。個人を抜きにして知識の創造はあり得ない。しかし、その知識が組織として共有・増幅されなければ、知識が高度化していくことはない。
 では、個人の創り出した知識がどのように高度化されていくかというと、それは図に示したように、
(1) 暗黙知の共同化(暗黙知⇒暗黙知)
(2) 暗黙知の表出化(暗黙知⇒形式知)
(3) 形式知の連結化(形式知⇒形式知)
(4) 形式知の内面化(形式知⇒暗黙知)
というスパイラル状に進化していくものである。
 つまり、個人の中にあった知識(暗黙知)が、共同作業やディスカッションを通じて共有可能な知識(形式知)として表出化され、それらの表出化された知識(形式知)が連結されることで新しい技術や製品を生み出し、それらの知識や体験が個人に蓄積されることで新たな知識(暗黙知)を生み出すという、暗黙知と形式知の相互作用が新たな知識の創造、知識の拡大を生む、ということなのです。
 そしてこのプロセスについて、
知識創造プロセスのうち最も重要なのは、暗黙知が形式知に変換されるときである。・・・我々の勘、知覚、メンタル・モデル、信念、体験が、形式的・体系的な言語で伝達できるなにものかに変換されるのである。・・・」
と述べられているように、(2)の暗黙知の表出化=「見える化」のプロセスは、非常に重要な位置づけにあるのです。

 知財活動において主要な部分を占めている、発明の発掘~特許出願や営業秘密管理までのプロセスは、まさにこの(2)のプロセスに当てはまるものであり、さらに細かくいえば、発明者との対話は(1)の共同化のプロセスに当てはまるともいえるでしょう。商標だって、調査や出願だけを見るとこのプロセスに位置づけるのは難しいですが、自社の製品やサービスを通じて何を表現し、顧客に何を伝えたいかを論じ、それを商品名やマークとして表出化させるところに踏み込めれば、明らかに(1)や(2)のプロセスに該当します。
 そして、現在の知財活動であまりできていないと思われるのが、(3)や(4)のプロセスです。つまり、表出化された形式知を連結化させ、さらにそれらの形式知を個人に内面化させること。
 ここで思い当たる事例が、「元気な中小企業はここが違う!」で紹介したオーティスさんが作成されている「特許マップ」(p.63-66)や、しのはらプレスサービスさんが「知識集約型」として作成を進めている作業マニュアル(p.78-80)です。
 見える化した知財情報を整理し、社員にフィードバックする。知財活動が断片的な取組みに止まるのではなく、スパイラルの一部として知識創造のプロセスに貢献していくためには、こうした活動がキーになってくるのではないでしょうか。

知識創造企業
クリエーター情報なし
東洋経済新報社


見える化-強い企業をつくる「見える」仕組み
クリエーター情報なし
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