経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

特許出願とは「投資」なのか?

2006-11-29 | 企業経営と知的財産
 技術分野によっても異なりますが、特許出願を行って特許権を取得するまでには100万円前後の費用を要することが一般的です。外国出願なども含めて、これが嵩んでくると結構な金額になり、その成果は中長期的に表れるものなので、特許出願も一種の「投資」であると説明されることがあります。そこで、投資理論をきちんと適用して考えると、IRRを計算して投資判断(出願の判断)をすべきだ、といった議論にまでなることがあるかもしれません。
 しかしながら、売却したり安定したライセンス収入が発生したりといった例外的なケースを除くと、通常は特許権それ自体が直接的に収益を生むものではないため、これを投資として考えるにはかなり無理があるように思います。これまでも何度か記事に書きましたが(「費用対効果とは何ぞや」、「粗利率」etc.)、特許権が効果的に機能した場合には、価格競争が緩和され、特許権がなかった場合に比べて事業の利益水準が向上するという形でその効果が表れてくるはずです。また、利益水準の押上げ効果は1件の特許あたりいくらと配分できるものではなく、特許群全体として、さらには他の諸々の要素も絡み合って生じるものです。従って、ここだけを見て投資利回りがいくらという性格のものではなく、特許出願も含めた製品開発プロジェクト全体の投資利回りがいくらで、その利回りを実現するために必要な特許コストはなんぼ、と考えるべきものなのではないでしょうか。

 特許権などの知的財産権の役割を、私はよくお城の濠や石垣みたいなものだ、と説明しています。最も重要なものは天守閣(知的財産)であって、天守閣への外敵の侵入を防いでその価値を守るために必要なものが濠や石垣(知的財産権)である、ということです。濠や石垣(知的財産権)は、それ単独で何か意味を持つものではなく、その組合せ(特許ポートフォリオetc.)ではじめて防御手段となり得るものです。
 この例で考えると、石垣の石を購入する際に「IRRは?」と問うべきものではなく、城全体の投資利回りで考えて前提として石垣に必要なコストがいくらと織り込むか、或いは、せいぜい改修工事を行う際の工事全体で投資利回りがいくらかを考えるべき性格のものなのではないでしょうか。