経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

ビジネスモデル特許と公正な競争条件

2006-11-23 | 企業経営と知的財産
 昨日の記事で、「ビジネスアイデア」でスタートダッシュした企業は、有利なポジションにあるうちに「ビジネスアイデア」だけではない強さ(=参入障壁)を築けるかどうかが、その後の成長のポイントになる、という趣旨のことを書きました。このことと、いわゆる「ビジネスモデル特許」の位置付けについて考えてみたいと思います。

 「ビジネスモデル特許」については、以前の記事にも書きましたが、特許査定率が極めて低い水準に止まっています。加えて、クレームの明確性についての要件が厳しいため、特許になるとしても権利範囲はかなり限定的になってしまうことが多くなっています。要すれば、技術的に工夫したポイントがあれば特許にはなることはなるけれども、保護されるのは実施態様をそのまま真似られてしまうようなケースに限られ、アイデアを広く独占できるような権利を取得するのは困難である、といった感じです。
 こうした状況に対して、特許庁の審査は厳格すぎるのではないか、いやそもそもこんなものを特許するのはけしからん、など様々な意見があるようです。しかしながら、特許に関するテクニカルな部分だけを見るのではなく、法目的やその経済社会に与える影響を考えると、私の個人的な意見としては、現在の運用は非常にバランスのよい妥当なものなのではないかと感じています。

 いわゆる「ビジネスモデル特許」に属する出願は、現在の審査の運用では、実装を想定したかなり具体的なものが開示されていないと、特許を取得することは難しいように思います。逆に言うと、特許になるような発明は、実際のビジネスにおいてもそれなりの資金をシステム開発に投下しているケースであることが多いということです。こうした発明に対して、「アイデアにしか特徴がない」といって何ら保護が与えられず(業務系のシステムはプログラムがコピーされるわけではないので、著作権ではどうにもならないことが殆どだと思います)、いくらでもアイデアを真似し放題というのもちょっと酷なように思います。だからといって、アイデアそのものに近いレベルで20年の独占権を付与すると、IT分野での制約が雁字搦めになってしまって、新しいサービスの普及を妨げることになりかねません。そうすると、今の運用のように、実施形態をそのままシステムの基本設計から真似するようなことはNG、でも他の方法で同じアイデアを実現するのであればOKという仕切りにしておけば、後続には特許の分析や回避技術の検討など負荷がかかり、先行者にはそれなりの時間的なメリットが生じることになるので、公正な競争条件としてのバランスは、結構妥当なところに収まるのではないかという気がします。
 このように考えると、「ビジネスモデル特許」というのは、ビジネスモデルそのものを独占するためのものではなく、ビジネスモデルについて一定の時間的優位を保証するものであると捉え直すことができるのではないでしょうか。結果的には似たようなサービスを提供する競合が登場することは避けられないとしても、それまでの間に少しでも多くの顧客を囲い込み、認知度を高め、「元祖」としてのポジショニングを形成することができれば、特許取得に要した費用程度は十分にペイできるものと思います。昨日の記事との関係で言えば、「ビジネスモデル特許」は、「ビジネスアイデア」だけではない強さを築くまでの猶予期間を伸ばすために使い得るものである、ということになります。逆説的な言い方になりますが、「ビジネスモデル特許」だけに頼るのではない覚悟があるほうが、却って「ビジネスモデル特許」の効果が生じてくるように思います。

 以上の考え方より、いわゆる「ビジネスモデル特許」を出願したいというニーズに対しては、「ビジネスモデル特許をとって一儲け」というのであればやめておいたほうがよいのではないか、重要な位置付けにあるビジネスの強さを固めるための武器の一つとして特許制度を利用したいというのであればできるだけのことをやってみましょう、というのが現在の私の「ビジネスモデル特許」に対するスタンスです。そして、出願に際しては、実際に実施する形態を外さない、ということが実務上は何よりも重要になると思います。