ケイの読書日記

個人が書く書評

小谷野敦 「このミステリーがひどい!」 飛鳥新社

2019-11-02 19:11:27 | その他
 この人の名前は『もてない男』で知っていたので読んでみた。予想を裏切って、すごく楽しく読めた。

 推理小説といえば、シャーロック・ホームズだが、小谷野氏は好きでないそうだ。何が面白いのか分からないと書いてある。これについては、私も心当たりがある。子供の頃、ポプラ社から出ているルパンは夢中になって読んだが、ホームズ物はそれほど面白いとは思わなかった。最初に読んだのが『踊る人形』という暗号物だったからかもしれない。
 大人になってから、延原謙の訳で読んだら、本当に面白くてビックリした。ただこれは、トリックとか推理とかが素晴らしいのではなく、ヴィクトリア女王時代の雰囲気と、ホームズの名探偵としての型が、すごく私好みだったからである。
 女嫌いの孤高の名探偵。ワトソンだけに心を開く偏屈な男に、私は参ってしまったのだ。色んな名探偵がいるが、女好きの名探偵は、私はノン!である。(ポール・アルテの名探偵オーウェン・バーンズは珍しい事に女に弱い)
 シャーロック・ホームズの物語は、私にとってホームズとワトソンの物語。謎や殺人事件が起こらなくても、私は十分に楽しめる。キャラ読みというか…火村やアリスもそうだね。私にとって。

 小谷野氏は、当然だが日本の推理小説にもイチャモンを付けている。ミステリー3大奇書については理解できなくもないが、松本清張なんて良い作品が多いと思うけど。西村京太郎、山村美紗はぶった切ってよろしい。ただ、西村京太郎はすごく多作なので、中には良い作品もあるといって『天使の傷痕』を推している。読んでみよう。

 現代の人気作家の宮部みゆき、高村薫、東野圭吾、奥田英朗などなど、評価が低い。有栖川有栖の『マレー鉄道の謎』を小谷野氏が読んで「あまりにも普通の密室推理で拍子抜けした」と書いてあるが、なぜ「マレー鉄道の謎」を読むのか? これ、賞を取っているが、さほど面白くない。国名シリーズの短編を読め!と言いたい。キレッキレのミステリだと思うよ。

 それから自分が好きな作家の悪口を書いてあると、さすがにムッとくる。皆川博子が嫌いと書いてあるが、私は大好き。この人、たいして読んでないんじゃないかな? 『死の泉』のことを酷評している。私が今から読もうとしているのに。
 どうも、この人は西洋幻想趣味が好きではないようだ。つまらん男だ。

 最後の方に「人気作家の世評の高い作品を濫読した結果、現代ミステリへの私の評価はかなり低くなったことを率直に記しておきたい」とあけすけに書いてある。自分の趣味を押し付けないでほしい。
 
 PS。米澤穂信の『満願』の評価が低いのにもイラっとした。

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