ケイの読書日記

個人が書く書評

椰月美智子 「伶也と」 文藝春秋社

2018-12-12 13:08:59 | その他
 これを何と形容したらいいか…。純愛小説? それとも執着小説?

 直子はロックバンドなど全く興味のない地味な女性。高学歴で理系の大学院を出て専門職に就くが、体調不良で転職。その転職先の同僚に連れられて、まだ無名だったロックバンド「ゴライアス」のライブに行き、そこでボーカルの伶也に魅せられる。
 (小さなライブハウスでの、追っかけファンたちの熱狂というのが、よく理解できない。そういえば私、コンサートには行ったことあるけど、ライブって行った事ないよな、と今更ながら自分で驚く)
 直子も、そんな私と同じようなタイプだったが、ステージの伶也と目が合った瞬間、世界は変わる。「細胞のひとつひとつが一斉に開き、つぼみの開花を早送りするように、直子の身体が一気に外に向かって拓けていった」(本文より引用)

 Kポップのアイドルがステージで「皆さんを愛しています」と言う時、その言葉にズキッとしたりクラクラする女の子(もちろんオバハンも)を否定はしないが、こんなホール一杯の女の子に愛を捧げたら、1人1人が受け取る愛情は無きに等しい分量だろうなぁ、とは思わないんだろうか? 私だったら心の中で「愛してくれなくて結構です」と応えるね。私がコンサート会場に行くことはないけど。

 どんなに熱狂しても、ほとんどの人は、ある程度時間がたちアイドルが結婚したり人気が落ちてくると、自分の周囲の人に目を向け、つきあったり結婚したりするんだろうが、この直子は違う。
 ゴライアスがスターダムを駆け上がり、伶也が人気絶頂になり、やがて結婚、離婚、そしてスキャンダルにまみれ、事務所から見放されても、直子だけは見放さない。母親のように。
 覚醒剤で捕まった時の保釈金も、直子が用立てるのだ。なんだか怖い。


 角田光代に『くまちゃん』という短編小説集がある。その中の1篇に、全国区レベルまでは行かなかったが、そこそこ人気のあるバンドが解散した話がある。どこでもボーカルが一番人気で、バンドやってた時はモテてモテてしょうがなかった。言い寄ってくる女の子の1人と付き合っていたが、解散とともに女の子たちはキレイに離れていく。付き合っていた女の子からも別れを切り出される。
 でも元ボーカルは、さほどショックを受けない。そんなもんだと思っている。この男の強さを、伶也に分けてやりたいね。

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