ケイの読書日記

個人が書く書評

クリスティ作「復讐の女神」を読んで

2005-05-18 11:43:03 | Weblog
 この作品は1971年、つまりクリスティ81歳の時に発表された最後のマープル物。
 1976年に『スリーピングマーダー』が発表されているが、実はこれは、1940年代に書かれたもので、クリスティの死後、発表された。だから実際はこの『復讐の女神』がマープルの最後の活躍なのだ。
 それにしても驚くべき創作意欲、能力だ。人生の最晩年になっても、こんなに次々と小説がかけるもんだろうか?しかも、その内容がおもしろいのである。まったく衰えをみせていない。こんなミステリ作家は他にいるだろうか?ミステリって年を取ると書けなくなるような気がするが。
 
 話は最初の方はもたつく。ラフィール氏が、いったい何をマープルにやってもらいたいのかが、はっきりしないし『カリブ海の秘密』に出てきたエスター・ウォルターズやアーサー・ジャクソンが何のために登場するのかわからない。特に偶然を装ってまでエスターに会うことに相当数のページを使っているが、何の意味があるのだろうか。最後まで何かの意味があり、事件の結末に関係があるかも、と思い込んでいた自分があほらしい。

 つまり最初の1/5ぐらいまでは、散漫な印象を受けるが《大英国の著名邸宅と庭園めぐりの旅》にマープルが参加するようになると、がぜんストーリーは動いてくる。旧領主邸の三人姉妹の登場。
 マープルは彼女たちの印象を『マクベスの三妖婦』と感じている。ここらで、だいぶストーリーのネタが割れてくる。だいたいの犯行状況も犯人も簡単に推理できるようになる。
 
 それにしても、この旧領主邸の荒れ果てた屋敷や庭園の雰囲気は本当にすばらしい。こんな所がまだイギリスに残っているんだろうか。立派な近代的ビルも美しいが廃屋というのは妙に人の心をそそるところがある。子どもの頃、空き家になった廃屋を探検したいと思った人は多いだろう。 
 よく管理されたお庭はもちろん素晴らしいが、崩れ落ちた温室、雑草だらけの菜園、荒れ果てた生垣、誰も歩かなくなった通路、芝生、かってはビクトリア朝時代の美しい庭園だったことを、かすかに思い出させる荒れた庭。
 まるで『秘密の花園』のようだ。いいなぁ、こういう所を訪れてみたい。

 旧領主館の通いのお手伝いのジャネット。紅茶のポット、カップにミルクつぼ、バターとパンの小さい皿をのせたお盆、陶製洗面台に湯を入れた水差しのかん。こういった脇役や小道具も大事。『クリスティを巡る旅』なんてのがあったら、絶対行きたいね。
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