ケイの読書日記

個人が書く書評

小林久三 「暗黒告知」 講談社文庫

2020-02-16 12:48:43 | その他
 第20回江戸川乱歩賞受賞作(1974年) 
 日本最初の公害と言われる栃木県の足尾銅山の鉱毒事件。その渦中の明治40年に起きた、反対派農民の殺害事件。彼は、反対派巨頭・田中正造の片腕と言われていたが、体制派に寝返ったという噂もあった。殺害に使われた凶器は、田中正造の杖。いったい犯人は正造なのか?それとも正造を陥れようとする罠なのか?

 教科書にも載っている足尾銅山事件や田中正造の名前で、いっきに作品に引き込まれる。密室殺人なので本格推理なんだろうが、読みどころはそこではない。明治10年代から続く足尾銅山の公害垂れ流し。それに対抗しようとする反対派農民たち。彼らの精神的支え田中正造。しかし、権力により切り崩され弱体化していく農民たち。
 これは推理小説というより、社会派小説だよね。

 しかし…若い頃に読めば、私も「明治政府はケシカラン!!」と言っただろうが、年を取った今では寝返る農民の心がよく分かるなぁ。私がもし足尾銅山近くの村に住んでいて、公害の被害にあっていたら、最初は反対派になるだろうが、お金や代替え地を提示されたら、すぐ体制派に寝返るだろうね。さっと農地を捨てて、お金をもらって代替え地に引っ越す。
 こんな汚染された土地にしがみついてどうする? 先祖代々の土地を守りたいという気持ちは理解できるが、でもその先祖って縄文時代からここに住んでたの? 違うでしょ? どっかから流れてきたんでしょ?

 しかし、そこが明治の農民。土地に対する愛着・執着はすごい。でもでも勝負は見えている。早く次に行ったら? でもでもそこに田中正造の狂信的な善意が立ちふさがる。彼を裏切る事は出来ない。田中正造は、足尾銅山鉱毒事件のために、富も名誉もすべて投げうって反対派農民たちを支援しているのだ。でもでもこのままでは…という永遠のループ。つらいだろう。

 見方によっては疎ましくも感じられる義人・田中正造だが、こういった狂人じみた正義の人でなければ、公害は告発できないだろうね。水俣病や四日市公害でも、そういった人はいただろう。

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