森博嗣
24 APR 2013
中央公論新社
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「間違いではない。私が今話したことが、正しいわけでもない。そのように、あるものが正しく、あるものが間違いだといった明らかな区別はありません。木を刻んで、仏の像を造ってみればよろしい。木のどこを削るのが正しいでしょうかな?どこを削れば間違いですか?剣に求められるものは、強さですか?正しさですか?それとも、もっと別のものですか?そのように求めることで、それが一つだと思い込んでしまう。しかし、なにものも一つではない。すべてを見て、あらゆる面から捉え、近くから、遠くから、見据えて、眺めて、そのときどきで修正し、あちらを削っては、こちらを削ってみる。そのうちだんだんと、己のもの、己が考えるものに近づいてきます。仏の像を削る者は、最初にこの形のみ、と決めているわけではない。そのように決めつけた作業では、魂は入らない。それぞれの木を見て、そのときどきの風を感じ、そして、何よりもおのれを窺い、ただ手にしたものに刃を当て、刻むのです。刻むことでしか、形は見えてこない。己の内から現れるものとは、そのような日々の作業によって、僅かずつ近づくものでしかない。あそこだと目指して、到達できるものではない。失うのは容易いが、求めるには求め続けるほかはなく、しかも、ただ近づくという感覚があるだけです。おわかりになりますか?」
という本を読みました。前2作品よりちょっと説明的なところはありますが、相変わらずのこの世界観は大好きです。答えがない。あるいは、答えは一つではない。現実というのは、そういうものです。それでも答えを求め続けているうちに、何かしらわかってくることがある。その積み重ねでしかない。まあ、これはある程度の年齢になってみないとわからないことでしょうが。結果に満足するのも大切ですが、経過を楽しむことはもっと大切だと思っています。