ニュースには成し得ない、
これが映画の力だ。


「鉄くず拾いの物語」75点★★★★




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ボスニア・ヘルツェゴヴィナに暮らす
ロマ(ジプシー)の一家。
夫ナジフは鉄くずを拾ってそれを売り、
妻と2人の娘を育てている。




ある日、ナジフが家に帰ると
妻セナダが腹痛に苦しんでいた。


病院へ行ったものの、
彼らは健康保険証を持っていないため
膨大な手術費用を支払わないと手術できないと言われてしまう――。

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冒頭の幼い姉妹の様子から、
まるでドキュメンタリーのようなリアリティ。

それもそのはず。これは
実際に起こった出来事を、
その当事者が演じている作品なんですね。

だからまさにリアルそのものってわけです。
ニュースでこの出来事を知った監督が、
頭にきて「現状を知らせないと!」と映画にしたそうで、
でも監督は「こんな状況なんだ!」という憤りや正義を


声高に映すわけじゃない。

森で薪を切り、車を斧で鉄くずにしていく
夫の仕事をじっと、根気よく映し
次に
妻がパンをこね、洗濯をする一部始終をじっと撮る。
彼らの生活を、静かに見つめるその視線が、
「知らない国のよその人」を、身近に感じさせるんですね。


そう感じられることが、とても大事。

「金がなければ手術はできない」

しかし雪の中、再び鉄くずを拾いにいくしかない。

黙々とした後ろ姿から、彼の心の中がにじみ出て
胸が締め付けられる。

ナジフが切羽詰まった表情で、
バスに乗っているシーンも印象的だ。

いま、あなたの隣に座っている誰かも、
助けを求める声を、内に抱えているかもしれない。

社会から見捨てられた人の姿は他人事じゃない。
日本にだって、いくらでもある。

もし、自分だったらどうするだろう。
誰に助けを求めればいいんだろう。

そう想像することこそ、大切なのだと感じさせる。
ニュースには成し得ない、これが映画の力だと
しみじみと思った良作でした。


あとね、このバージョンのチラシが
すごい好きっす。

★1/11(土)から新宿武蔵野館で公開。ほか全国順次公開。
「鉄くず拾いの物語」公式サイト