図は△2六歩と垂らした手に対して、▲4五桂と跳ねた局面。
△2六歩は、次に△2七歩成▲同銀△3七角成と桂馬を取る狙い。なので、その桂を逃げつつ後手玉を狙う桂跳ねは自然な一着で、先手が最も指したい手だ。
しかし、桂を跳ねれば、その桂の居た3七に歩と叩かれて、▲同銀なら△2七歩成とされてしまう。なので、控室では▲2三歩成△同金▲2八歩と謝るか、▲2五飛と攻防手を放つかどちらかだろうと予想していた。
「△3七歩と叩かれても大丈夫ですよ」という桂跳ねだ。
あの藤井五冠が2時間も熟考して出した結論。今度は羽生九段が長考。
3七の桂を狙って垂らした△2六歩。その桂を4五に跳ねられ自玉の玉頭を睨まれてしまっては、△2六歩の立つ瀬がない。もちろん、羽生九段は桂跳ねに対しては△3七歩で成算ありと見ており、藤井王将はそれを真っ向から否定したのだ。
……長考2時間20分。△2七歩成。以下▲同銀に△2五飛。(△2五飛では△2九飛と先手陣に打ち込む手も有力だった)
△2五飛は銀桂両取り。さらに、7七の桂の跳ねも消していて、攻防の手となっている。
しかし、▲2三歩成△同金(△同飛もあった)を利かされ、▲5三桂成と後手の玉頭に突撃されてしまった。もちろん、桂得(正確には桂歩交換)なのだが、桂取りに打った飛車が空振り気味になり、後手陣に火の手が上がった状態になってしまった。
この▲5三桂成の対応が難しい。△5三同角は玉の安全度はほぼ保てるが、角成りがなくなったので、落ち着いて▲2六歩と銀取りを受けられると、桂得はあるが、飛車が空振りどころか負担になってしまう。
△5三同玉は玉が危険地帯に引っ張り出され、色々流れ弾に当たりそう。それでも、角の働きなどを考えると、玉で取った方が勝負のアヤが残りそうだ。
羽生九段は定刻を7分過ぎた午後6時7分に手を封じた(封じ手に掛けた考慮は37分)。
羽生九段、かなり分が悪そう。
となると、やはり第1図では△3七歩と打つべきだったのでは?という疑問が…
△3七歩に、▲3七同銀△2七歩成と銀取りの先手でと金を作らせるのは、さすがに痛い。また、手抜きで攻めるという選択肢もあるが、△3八歩成より優る手段はなさそう。なので、▲2九銀と引き△2七歩成と進むのが妥当。
この変化図、と金が手順にでき、さらに厳しい△3八歩成もある。大成功に思える。
羽生九段は、なぜ、この順を指さなかったのか?局後の感想戦でこの局面の検討を注目したが、少し指し手を並べただけで、ほぼ1分ほどの検討で「これは1手負けですね」という羽生九段の言葉で、次の局面に移ってしまった。
感想戦の映像が生配信されていたが、なぜか、この局面ともう一つのキーポイントとなった局面だけ、引きの映像となってしまった。遠目であったが、▲6五桂△3八歩成▲2三歩成△同金▲8三角だったように思う。
ええ、そんなあ!
仕方がないので、色々調べてみた。
Facebookのグループ『将棋メンバー』でのコメントによると、
“5chの王将戦スレ”によると
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ソフト検討してみたら、△37歩▲29銀△27歩成▲65桂△38歩成▲83角の局面が難しい
①△49との攻め合いは藤井の勝勢の模様
②豊川説の自然そうな△72銀は、▲同角成から藤井の優勢
③本田説Aの△51金は、▲74角成で藤井の優勢
④本田説Bの△62金は、▲53左桂成△同金▲61飛に対して△73飛(それ以外は藤井の優勢)で形勢は難解
⑤△42銀は▲34飛で藤井が優勢
⑥盲点になりやすい△42金のみが、羽生有利を維持する正着(実戦的には▲34飛以下難解)
もし羽生が現局面で⑥の筋を見えなかったら、遡って現局面で△37歩を指しづらくなる
逆に言えば、藤井は⑥を見落としてる可能性はある
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問題局面で羽生有利を維持する唯一の変化⑥を選択できた場合
以下
▲34飛△49と▲31飛成で、ここで△72銀(!)の受け以外は藤井が逆転で優勢に
つまり、羽生は現局面で△72銀が見えてなければ⑥の手順も選べない
ところが、この正着の△72銀は▲同角成△同金に▲61銀の割り打ち見えてるのでもの凄く怖く感じる
なので、もしかして藤井はこの局面で△72銀を軽視してる可能性がある
他のメンバーさんによると、上記の変化は「最強AI水匠の解析とほぼ同じ」とのこと。
①②③⑤については信用するとして、
④△6二金は
以下▲5三桂左成△同金▲6一飛に対して△7三飛!
本来ならこの△7三飛では、△4九とと金を取って攻め合い勝ちを目指したいところだ。
実際、△4九とは△5九と▲同玉△3七角成以下の詰めろである。しかし、△4九とには▲7一飛成が“詰めろ逃れの詰めろ”となり先手が勝勢(△5九と以下の詰めろは▲同玉△3七角成に合駒がない故であり、▲7一飛成で銀が入るので詰まない)。
そこで、7一の銀を守ることになるが、それには△7三飛とするしかないようだ(△8二角でも銀を守れるが、角の5三の利きがなくなるので平凡に▲5三桂成で困りそう)。
こんなところへ折角の飛車を打つのは悔しいが、角取りになっている。角を取れればうれしいが、取れなくても先手の攻めを急かすという作用も大きい。
変化図1-3から普通に▲5三桂成△同角▲5一金△4二玉▲4一金と攻めるのは、3三へ逃げられ先手の攻めはダサい状態となる。
そこで、図以下▲5三桂成△同角の時、▲2三歩成△同金を利かして
▲4一金と詰めろを掛けるのはどうか?(手順中▲2三歩成を利かさないと、▲4一金に△4二銀の受けが生じる。以下▲4二同金に△同金と取れる)
これには△6二角と、5一に利かせつつ5三への脱出口を開けるのが巧手。
以下、▲3一金△8三飛▲4一飛成△5三玉で耐えていそう。
では、④△6二金▲5三桂左成△同金▲6一飛△7三飛で後手が良いのかというとそう簡単ではなく、△6二金に▲5三桂左成とせず▲2三歩成と先に成り捨てる手がある。
これに素直に△2三同金と応じると▲3一龍と銀を取られて収拾がつかなくなる。▲5三桂成△同角を決めなかったので、角が3一に利いていない。
なので、▲2三歩成には△5四金と金取りを躱しつつ角を3一に利かすのが最善の頑張り。
以下▲3二と△同銀までは進むだろう。
この局面、先手は金桂交換の駒得+手番だが、先手陣の金銀、4五の桂、8三の角が当たりになっていて忙しい。一旦、▲5八金とかわしておくのが正解かもしれないが、後手の方が勝ちやすそうだ。
問題は、“変化図1-2”を想定した時、△6二金~△7三飛の飛車打ちを真剣に掘り下げられるかである。
“変化図1-2”に直面したら可能だろうが、▲4五桂(第1図)の局面で《△7三飛で後手イケる》とは読めないのではないだろうか。
………書き始めて、後悔しています。
⑥△4二金については、次回で。