大学の講義で使用したレジメ(注)について1例を示しておこう。といっても解像度をMaxにしても読めないだろうけど、これが文中で登場したレジメである。
レジメの原則は、1講義A3サイズ1枚以内とすること。文章の羅列ではなくチャートを用いて講義内容を構造化して示すこと。
この地域空間構成論で私が撮影した講義用の画像は、すべてフィルム機材を用いてリバーサル・フィルムで撮影した。これをデジタルデュープしたのは、ニコンDf+AiAF Micro Nikkor60mm/f2.8だ。結果は比較的原画に忠実に複写してくれたと思われる。そのおかげでPhotoshopCC2018での修正も容易だった。だからリバーサル・フィルムは、デジタル画像と大差なく同様に扱うことができる、という知見を得た。
最後にジョン・ジャーディ(1940-2015年)というアメリカの建築家の話をしておこう。
図2. Hotel Bellagio(ラスベガス) ジョン・ジャーディ晩年の作品である。ホートンプラザをつくったときの感性に変わって、上品で美しい色使いであり、成熟した彼の姿を感じさせてくれる。
図3. Hotel Bellagio(ラスベガス) Bellagioの低層部を取り巻く地中海スタイルの建築群、彼がイタリアの古い街を参照してきたことがわかる。
図4. Hotel Bellagio(ラスベガス) 彼の建築言語に必ず登場してきたアウトドアモールはではなく、数少ないインナーモールとしている。それでも、天井をガラス張りにしてアウトドアモールへの憧憬をしめしているかのようだ。
図5. ユニバーサルスタジオ ジョンジャーディーのデザインの中でこれは少し異色である。全ての店舗の建築ファサードやサインのデザインが異なっている。それでもパラパラにはならないで、まとまっている不思議さがある。それは彼のテイストであり、ここがユニバーサルスタジオだからだ。
図6. ユニバーサルスタジオ どこをみても同じデザインがない。そんなことをいったら日本の都市だってバラバラだ。しかしここでは、バラバラという感じはしない。むしろそれぞれが協調したかのようにフェスティバルの気分を盛り上げてくれる。
図7. 小学生達が学外見学にやってきた。これから映画を見に行くのだろう。さすが映画の街だ。
図8. The Fremont Street(ラスベガス) カジノが建ち並ぶストリートの上に、電子制御の巨大なスクリーン天井を配置した。ただそれだけのデザインだ。しかし時間が来るとカジノのサインは消灯し、モールの天井にドラスティックな動画映像がながされる。やはりアメリカだと感じる一瞬である。
図7. The Fremont Street(ラスベガス) 最初はテレビのニュースから始まり、やがてドラスティックな映像になってゆく。まさにみとれるという感じだ。
図8 The Fremont Street(ラスベガス)
図9. ワールドエンターテイメント・モール(東京湾台場)、出典;浜野商品研究所企画書 ジョン・ジャーディが提案した東京湾臨海部副都心のプロポーザルコンペ提案。もちろん入選をはたし事業権を獲得した。その後のバブル崩壊や事業者の判断で中止になった幻の提案。場所は今のフジテレビ本社の前の敷地だ。
図10. カナルシティ博多の最初のプロポーザル、出典;浜野商品研究所企画書 東京の企画が廃案になったので、そこで同じコンセプトで再度ジャーディーに絵を描いてもらい福岡市で提案した。
図11. キャナルシティ博多 提案は地元最大手のディベロッパーによって実現された。図10とみくらべてもらえばわかるが、河川を引くというアイデアは、人工的なカスケードになってしまった。河川法という法律があるからだ。それでもコンセプトはカナル(運河)なのだ。コンセプトが生きている。
ジャン・ジャーディは数多くのスケッチを描いている。そこには、アウトドアでの人々の生き生きとした姿とイタリアの古い集落にみられるヒューマンな建築空間が彼の感性で翻訳されて描かれている。そう彼も私達も、そんな街をつくろうとしてきたのである。
さて地域空間構成論も都市に関する部分は、ここまでである。あとはバーチャル環境やエコロジカル・プランニングの話に展開してゆく。都市から、より広域の地域のデザインをも扱うので、地域という言葉を講義の名前にしている。ちなみにこのシリーズでは、全て1990年代の画像でありリバーサル・フィルムで撮影している。それは今みてみ綺麗な画像だし、デジタルオンリーの今の時代においても結構使えるではないかと思われる。
話題がそれた。さて、そうした知見をどうやって人に伝えるか、そこで体系化という考え方が有効になる。都市を撮影して、そのまま映し出したのでは、場所毎、旅の日付毎の撮影記録の公開でしかないが、テーマを持ち、そのテーマが複数集まって都市などの大きな概念に収束すれば、それは私の立場、つまりアーバンデザインの立場での都市論になる。
情報が乱雑に発信される現代だからこそ、情報の受け手の私達は、発信する情報の上位概念の言葉を探したり、言葉がなければ新しい言葉をつくって定義したり、それを体系化して編集し、情報発信をしてゆく努力が必要になるのだろう。
さてさて、京都もグンと気温が下がり、先日は僅かばかりだが雪が屋根にみられた。冬の最後の悪あがきとでもいっておこうか。2月4日が立春だから、暦の上では春の始まりだ。しかしまだまだ寒い日は続くが、僅かばかり光が明るくなったように感じられ、確実に夜が短くなってゆく。意識の上では、やっと厳冬を通り過ぎたと思いたい。それだけで心が軽くなる。そんなわけで地域空間構成論の話で、私が一番嫌いな1月をスルーできそうなので、このシリーズもこれで終わりにしよう。
(注)このレジメは、大学講義地域空間構成論シンボルの章で使用したもの。
参考文献:The Jerde Partnership International:YOU ARE HERE,PHAIDON,1999.
EOS3,EF28-135mm/F3.5-5.6,エクタクローム