新型コロナウィルスも緊急事態宣言解除時期であり、ようやくクラスターが追跡できる感染規模に縮小してたということであり、感染が終息したわけではない。いつもの推移と現状をみながら、最後に2つ指摘事項と、現在の感染状況を俯瞰してみよう。
1.何故日本人は重要なことを最初に説明しないのか?
重要な事とは、発症期ではなく潜伏期にウィルスの放出量が最大となる可能性が高く、従って発症者をみつけるのが困難であること。そこがこれまでのウィルスとは異なっていること。
私は、既に5月2日の私のブログ「番外編432. 新型コロナウィルス(COVID-19)感染者数の推移について その7.日本と韓国の比較考察」のなかで、「図4.感染構造の仮説モデル」をあげて、これが潜伏期感染だという仮説をたてた。
私は、どうして隔離しているにもかかわらず感染者が次から次へと出現するのだろう疑問に思った。だから私なりにデータ解析をしながら、感染量が最大になる時期が、これまでよりは前にずれており、既に潜伏期で感染が起きていたとする仮説を提案した。そして保健所や国がおこなっていることは、今回のウィルス感染とは、すべて逆方向の対応ではないかと違和感をブログで指摘した。当時の図版を以下に再掲しておく。
図1. 感染構造の仮説モデル(5月2日ブログから再掲)
だが、これは仮説ではなく現実だった。図1にあげたのは、国立国際医療研究センター、国際感染症センターが示した感染構造(注1)が図2である。
図2.COVID-19とSARSの感染構造(注1)
図2は、新型コロナウィルスとSARSの感染構造を比較したもので、新型コロナウィルスは潜伏期にウィルスの感染量(排出量)が最大になり、潜伏期感染をしていることがわかる。従って発症を自覚してからPCR検査を受け隔離される現在の保健所のシステムでは感染を防御できない。他方でSARSは、発症期にウィルス排出量が最大になるので、それから隔離しても感染を防ぐことができた。
私は、このような図がメディアで報道された記憶はない。
そんなことを知らないのは、あんただけだよ、国民はみんな知ってんだから、という理屈なのだろうか。
おそらく感染症の治療をしながら、こうした構造がわかってきたと思われる。つまり潜伏期感染であれば、誰が感染したかはわからないので構造的に捉えられない。だから人と人との接触を8割減とする施策がなされたと理解すべきだろう。
新型コロナウィルスには、そうした方法しかなかったということであり、保険・医療の従事者達は、潜伏期感染によってワクチンのない現状下では、今ある保険所・医療システム、そして治療方法が効果が少ないことを理解しながら、対処療法を続けきたと考えられる。
ならば、そのことを国は最初に国民に説明したらどうですか、というのが私の意見。少なくとも警戒宣言発令時には、わかっていた知識である。そんな重要な事を最初にいわないとする経験を、これまで随分としてきた。
2.何故国内技術を最大限活用しないのか?
2時間で自動で検査ができるPCR検査キットは日本製だった。だが日本政府が認めないままヨーロッパで活躍したが、日本で使われることはなかった。そんな日本の技術の流出があった。
WEBのYAHOO!(注2)ニュースによれば、「ヨーロッパで多用されている2時間で検査ができる全自動PCR検査システム試薬キットは、日本の開発ベンチャー企業プレシジョン・システム・サイエンス社(千葉県松戸市)が製造し、仏エリテック社から販売されている。海外では既に数多く使われてきた実績があるのに日本では使っていない。PCR検査自体は保険適用がされたが、そのために医療機関と都道府県との契約が必要となるなど新たに制度の壁もでてきた。そして日本は、利権構造、既得権益、岩盤規制、官僚主義、お役所仕事で雁字搦めになっているため、肝心の技術をもちながら、それを拡大し利用できなかった」、と報じている。
プレシジョン・システム・サイエンス社と日本政府の関係の悪さがうかがえる。ベンチャー企業だから、天下りを受け入れないとか、普段から厚生労働省との関係がないとか、つまり利権構造に組しない関係性の悪さがあったのだろう。だからこそベンチャー企業といえるのであるが。今は京都の島津製作所が1時間で検査可能な製品開発をおこない、試料の一部無償提供をおこなっている。
最近政府がビックデータを活用して感染症のソフトウェアを作ろうと関心を寄せている。つまり感染したら、氏名は伏せるが(管理者は知っている)、位置情報でどこにいるかを詳細(寝室にいれば彼女と抱き合っていることもわかる精度の情報)に示し、感染者が接近したらブトゥースをつかってアラートを鳴らすというものだ。プライバシーの課題があるので今後政府で検討したいとするものだ。
私にいわせれば。そんなものはビックデータを扱う企業がアプリを開発すれば済む話で、政府が介入することではない。情報は一端公開すれば、どんな制度の縛りや名目を付けてもWEB上から消え去ることはない。個人が自由とクリエイティビティを発揮できる、そこにPCの開発者アップルの基本姿勢があり、今PCを政府が国民管理に使おうとしているのは、アップルの精神に反しているだけではなく、国民の意識にもそぐわない。私達が使っているのは、個人を基本としたPersonal computerであって、政府が管理するGovernment computerではないのだ。
そもそも潜伏期感染で、本人自身がわからないまま、ビックデータを駆使して何がわかるんだろうか。わかる事は1つだけ。感染経験があるか、そうでないのか、それによって差別を形成する構造につながってくる。
3.政令指定都市を有する都道府県別感染者数累積値の推移
感染者数累積値を示した。累積値であるため図の線形が低減することはあり得ず、右肩上がり、もしくは水平、にしかならない。その水平に近づくということは改善傾向が顕著になってきたということを示している。
日本にウィルスが持ち込まれたルートは大きく2種類あった。1月〜2月にかけて武漢ウィルスが持ち込まれたクルーズ船。これだけであれば、緊急事態宣言まではゆかなかった。そして3月中旬に欧米各国がおこなった都市封鎖で、日本への帰国者によって持ち込まれたヨーロッパ型ウィルス。これは感染力が強く一気に日本全体に拡散した。いずれも日本の防疫体制の構築が大変甘く、そして遅かったことになる。
図3.政令指定都市を有する県別感染者数累計値の推移(単位:人)
4.政令指定都市を有する都道府県別1日あたりの退院数/入院数の現状について
当該日の退院数/入院数の割合を過去2週間分を示したもので、数値が1未満は入院数が多く、1以上が退院数が入院数を上回り、改善方向にむかっている。また#DIV/0!は、分母の入院数が0値のためExcelではこのように表記されており、これも改善傾向を示している。それらの値を右欄に示し、合計値を安全日日数として示した。
私のブログ(5月14日)と比較すれば、安全日の日数が大きくなっており、特に10日以上ある自治体が、北海道、宮城、千葉、静岡、京都、大阪、兵庫、岡山、広島、熊本であり、改善傾向が見られる自治体である。これらの自治体は緊急事態宣言が解除されることを裏付けている。
表1. 1日毎の退院数/発生者数(5月4日-5月17日)
5.まとめ
私は、何故隔離されているのに感染者数が増えるのか?。そんな素朴な疑問から、ギゼックさんの本(注3)を読みつつ感染症を勉強しながら、毎日厚生労働省が発表する数値を手元のExcelに取り込み解析していた。本来なら、こんなデータはExcelファイルで提供されてしかるべきである。
それでも集計し少し解析したので私なりの解釈が得られた。それが潜伏期感染である。私が感じた違和感(ブログ5月7日、番外編433. 新型肺炎感染者数の推移について その8.)もそこから発生してきた。従って唯一の対処方法は、人間の行動を停止させ、三密回避しかなかったことになり、政策の論拠が理解できた。そして発熱後4日間後にPCR検査をするなどの施策は、既に手遅れ策でしかないことがわかりつつ、陽性者の発見が進められてきた。その後に続く医療も、当然対処療法しか方法はなかった。
こんな時にWEBサイトをサーフィンし情報をかき集めようというのは、文科系の手法である。そんな論拠が薄く情報の過誤も確認できないまま他人のディスクールに惑わされることなく、自らの手で解析することで、そして自らが納得してゆくことによって、過度の情報がもたらす不安は取り除けた。そのための知識は、高校生までの知見で十分だった。
最近手元にある多変量解析ソフトだけでは不十分であり、数式処理システムのMathematicaが必要かなと思う。ただ感染症のモデル式ソフトがあれば、データを投入すれば結果は出てくる。第2波に備えて、そんなシミュレーションもしたかったが時間もつきた。このシリーズも一応終わりとする。
それは、新型コロナウィルス感染が終息したということではなく、感染が人間の眼で捉えられる規模まで数値が低減しただけ、という意味である。
データ依拠:厚生労働省WEBサイト、新型コロナウィルス感染症の状況と厚生労働省の対応について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00086.html
注
注1.COVID-19新型コロナウイルス感染症について、国立国際医療研究センター、国際感染症センター:忽那賢志、PDF版
注2:https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20200509-00177769/
注3.ヨハン・ギゼック著、山本太郎・門司和彦訳:感染症疫学、昭和堂、2017