リスボン郊外シントラは、深い森の中に王宮を中心として城館や貴族の別荘が建ち並んでいたとガイドブックに記載されているので、れっきとした観光地。
かって私が大学の先生達と出かけたフィールド調査では、観光地は最初からカットするというのが習わしだったが、観光地シントラは世界文化遺産であるから、まあ我慢してゆくべえ。
シントラ駅に着くと、郊外の城館に向かうバスが並んでいる。当然私達は、そんな時間のかかるところはパスして王宮をめざして歩き出した。実はこれが正解であり、道沿いに展開する山麓のかっての別荘群や小さな集落のランドスケープが美しいわけだ。もちろん相当に技巧的設えであり、こちらは食傷気味だが、景観としてみれば美しいのだろう。どこか田舎のような人なつこいところが少ないが。
やがて小さな集落にたどり着き、中央には14世紀に改修された王宮がある。ならばはいりますかと急ぎ足で走り抜ける。ここはゴシック、スペイン、イスラム、など様々な様式をかき集め、それにポルトガル風様式であるアズレージョなどを組み込んだ技巧的あるいは作為的で不自然な建築だからマニエリスム様式とでもいったら言い過ぎか。
その足で、S君の所望でレガイラ宮殿まで足を伸ばす。17世紀の王族の別荘をブラジル出身の富豪が買取、改装された宮殿だとガイドブックには記載されていた。世界文化遺産ではないが、ポルトガルの国の文化財に指定されている。庭園が広くランドスケープ・デザイナーの好きそうな空間だと思いつつ園内を散策していた。
最奥まで歩いて来て、駅へ戻るために捕まえたジムニーの通り過ぎ去る風景が、広げた屏風をたたみ込むようで心地よかった。シントラの駅前に中華料理屋がありラーメンをすすっていたのが、なぜか幸せな気分だった。やはり駅前ラーメンだな。そして私達はバスでシントラを後にし、次の目的地をめざしたのである。
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