美砂:「仁科さんは立派な秘書だったと、先生は口癖のように仰言っています」
杏子:「先生は退屈しのぎに、ご冗談を仰言ったのでしょう」
美砂:「いえ、本当です。昨夜もあのあときかされたのです」
杏子がそっと紅茶を飲む。
美砂:「秘書の仕事というと、どんなことをするのでしょう」
杏子:「わたくしのときは、先生への電話を取り次いだり、文献を揃えたり、タイプを打ったり、大体そんなことでした」
美砂:「わたし、タイプは苦手なのです」
杏子:「簡単な文献をうつだけですから、そんなに上手にできなくても平気です」
美砂:「時間は?」
杏子:「一応、朝9時から夕方5時までということになっていますが、先生はあの通り暢気な方ですから、とても気楽です」
(渡辺淳一・「流氷への旅」より)
30年前は時間がゆっくりと流れていたのですね。
4つの研究グループを一手に引き受けている秘書さんは、大忙し。
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