メタンは温室効果ガスの一つで、二酸化炭素に比べて温室効果が高いことでしられています。自然生態系では淡水の堆積物や湿地などの嫌気的な環境でメタン生成細菌によって作られるガスです。一方でメタンを餌として利用する微生物もいます。その代表が好気的メタン酸化細菌です。つまり、メタンの酸化の際に酸素を用いることによって、エネルギーを獲得しています。これまで嫌気的な条件下でメタンを酸化する細菌の分離培養に成功していません。2000年にマックスプランク海洋微生物学研究所のグループは硫酸還元を伴うメタン生成の微生物協同体(コンソーシア)を海洋底のメタンハードレートで発見いたしました。今回、脱窒を伴うメタン酸化がオランダのStrousのグループによって発表されました。
Raghoebarsing, A. et al.
A microbial consortium couples anaerobic methane oxidation to denitrification. Nature 440,918-921(2006).
反応を担うのはやはりコンソーシアで2種類の微生物で構成されています。一つはメタン生成細菌で、メタン生成反応を逆に回すことによりメタンを酸化。この時水素が生成されるため、熱力学的に反応が進みません。しかし、この水素を脱窒細菌が取り除く(硝酸を窒素ガスに変換するときのエネルギー源として利用する)ことにより、全体として脱窒メタン酸化反応が進行します。この細菌は新規のバクテリアで、系統的に最も近いのは琵琶湖北湖(早崎沖水深90m地点)の脱窒層堆積物に生息する菌だそうです。この発見の意義は、人為的な富栄養化(農業起源の窒素負荷)に対して脱窒メタン酸化微生物コンソーシアが淡水環境から窒素を系外へ除去し、さらにメタンの大気中への放出を抑制している点です。
写真1:滋賀県琵琶湖の北湖(早崎沖90m地点)で採取された堆積物コア。赤茶けた酸化鉄の層の下に脱窒層(硝酸塩を窒素ガスに変換する微生物反応)が発達しています。さらに、脱窒層の下部にメタン生成層(酢酸塩あるいは二酸化炭素と水素からメタンを生成する微生物反応)が発達。
写真2:琵琶湖での調査風景(2001年1月29日、滋賀県立琵琶湖研究所はっけん号にて)、と言うより調査の合間の休み時間。
Yoshikazu Koizumi, Hisaya Kojima and Manabu Fukui. Characterization of depth-related microbial community structure in lake sediment by denaturing gradient gel electrophoresis of amplified 16S rDNA and reversely transcribed 16S rRNA fragments. FEMS Microbiology Ecology 46:147-157.2003.
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