小さい頃は神さまがいて
不思議に夢をかなえてくれた
やさしい気持で目覚めた朝は
おとなになっても 奇蹟はおこるよ
カーテンを開いて 静かな木洩れ陽の
やさしさに包まれたなら きっと
目にうつる全てのことは メッセージ
(荒井由実『やさしさに包まれたなら』より)
ユーミンのこの歌を聴く度に、南極?ラングホブデでの野外調査を思い出します。
ラングホブデは、第47次南極地域観測隊生物班にとって、最後の大陸調査でした。メンバーは、北大の高野さん、環境省の桝さん、そして私の3人のみです。
3人の野外調査のとき、決まって、桝さんが口笛で『やさしさに包まれたなら』を吹き続けていたのです。
ラングホブの雪鳥沢には、沢にそってコケ群落や地衣類が発達し、風衝地生態系が成立しています。沢伝いに大陸側上流へ上っていくと、大陸氷河に出会います。末端氷河融解水は純水に近いほど清冽です。長大な氷柱。そして、融けかけた氷河。ハンマーでたたいても、びくともしない硬さの氷河。
絶壁の大陸氷河。越えられるだろうか? 越えなければ、小高い丘に横たわる東雪鳥池へ行けないよなあ。危険な場所をさけながら、氷河を登っていきましょう。
ヨイショ、ヨイショっと。汗をかきかき、ひたすら登る。「高野さん! 桝さんはどこですか?」と、私。
「あれっ?桝さん、まだあんな所にいますよ。マスさ~ん、こっち、こっち」と高野さん。桝さんは、途中、環境省のお仕事をされているらしい。
しばらくして、桝さんがいつものように『やさしさに包まれたなら』の口笛を吹きながら、到着。やれやれ。
我々の調査で大陸氷河の上を歩くことは、これが最後ですね。それでは記念写真。パチリ!(←それにしてもコキタナイ格好していますね)
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ほれ、あれを見て! 大陸氷河湖の東雪鳥池ですよ! 大陸氷河が湖に落ち込んでいます。湖水の透明度も良く、湖底の藻類群落までよく見えます。あんなに栄養塩濃度が低いのに、よくまあ、藻類が繁殖しますよねえ。
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帰りは、往きよりも何十倍も記憶に残っています。実は、恐怖のクレバス越えがあったからです。青白く、奥底まで落ち込んでいるクレバスを飛び越える瞬間は、心臓が破裂しそうでしたね。でも、桝さんは口笛でユーミン。
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あれから1年が経ち、高野さんも私も札幌でフツーに暮らしていますが、2人ともしばしば「ユーミン症候群」に悩まされています。先日のことですが、高野さんはユーミン症候群様の症状が出てしまいました。トリガーは、朝日新聞のユーミン(JARE45同行記者)なのにね。
冗談はさておき、大人になると、夢がいろんな意味でかなえられにくくなるもの。45歳を過ぎた、冴えないメタボ系中年オヤジでも、「南極での野外調査の夢」を実現することが出来ました。本当に、奇蹟です。
そう言えば、昨晩、札幌駅前にある○○○○デパートの地下食品売り場のお魚コーナーでのこと。例によって、若手キョウインのEさんと、「鯵は半額になっているけれど、ニシンはまだ正価のままだね。もうちょっと待とうか」とシュフ度の高い日常会話。Eさんも、私も、本当に南極に行ったことあるのかな? そろそろ、研究所を飛び出し、フィールドに出かけたいなあ。
そうだ、今晩は、ユーミンを聴こう。
<追記>
ただし、メタボ系中年オヤジの夢を叶えるには、周りの皆さんの大きな犠牲のもとに成立することを、肝に銘じる必要があります!感謝。
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