福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

ユーミン症候群

2007-04-17 00:08:49 | 南極

小さい頃は神さまがいて
不思議に夢をかなえてくれた
やさしい気持で目覚めた朝は
おとなになっても 奇蹟はおこるよ

カーテンを開いて 静かな木洩れ陽の
やさしさに包まれたなら きっと
目にうつる全てのことは メッセージ
  (荒井由実『やさしさに包まれたなら』より)

ユーミンのこの歌を聴く度に、南極?ラングホブデでの野外調査を思い出します。

ラングホブデは、第47次南極地域観測隊生物班にとって、最後の大陸調査でした。メンバーは、北大の高野さん、環境省の桝さん、そして私の3人のみです。

3人の野外調査のとき、決まって、桝さんが口笛で『やさしさに包まれたなら』を吹き続けていたのです。

01_77ラングホブの雪鳥沢には、沢にそってコケ群落や地衣類が発達し、風衝地生態系が成立しています。沢伝いに大陸側上流へ上っていくと、大陸氷河に出会います。末端氷河融解水は純水に近いほど清冽です。長大な氷柱。そして、融けかけた氷河。ハンマーでたたいても、びくともしない硬さの氷河。

絶壁の大陸氷河。越えられるだろうか? 越えなければ、小高い丘に横たわる東雪鳥池へ行けないよなあ。危険な場所をさけながら、氷河を登っていきましょう。

ヨイショ、ヨイショっと。汗をかきかき、ひたすら登る。「高野さん! 桝さんはどこですか?」と、私。

02_43「あれっ?桝さん、まだあんな所にいますよ。マスさ~ん、こっち、こっち」と高野さん。桝さんは、途中、環境省のお仕事をされているらしい。

しばらくして、桝さんがいつものように『やさしさに包まれたなら』の口笛を吹きながら、到着。やれやれ。

05_6我々の調査で大陸氷河の上を歩くことは、これが最後ですね。それでは記念写真。パチリ!(←それにしてもコキタナイ格好していますね)

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ほれ、あれを見て! 大陸氷河湖の東雪鳥池ですよ! 大陸氷河が湖01_78に落ち込んでいます。湖水の透明度も良く、湖底の藻類群落までよく見えます。あんなに栄養塩濃度が低いのに、よくまあ、藻類が繁殖しますよねえ。

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03_22帰りは、往きよりも何十倍も記憶に残っています。実は、恐怖のクレバス越えがあったからです。青白く、奥底まで落ち込んでいるクレバスを飛び越える瞬間は、心臓が破裂しそうでしたね。でも、桝さんは口笛でユーミン。

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01_79あれから1年が経ち、高野さんも私も札幌でフツーに暮らしていますが、2人ともしばしば「ユーミン症候群」に悩まされています。先日のことですが、高野さんはユーミン症候群様の症状が出てしまいました。トリガーは、朝日新聞のユーミン(JARE45同行記者)なのにね。

冗談はさておき、大人になると、夢がいろんな意味でかなえられにくくなるもの。45歳を過ぎた、冴えないメタボ系中年オヤジでも、「南極での野外調査の夢」を実現することが出来ました。本当に、奇蹟です。

そう言えば、昨晩、札幌駅前にある○○○○デパートの地下食品売り場のお魚コーナーでのこと。例によって、若手キョウインのEさんと、「鯵は半額になっているけれど、ニシンはまだ正価のままだね。もうちょっと待とうか」とシュフ度の高い日常会話。Eさんも、私も、本当に南極に行ったことあるのかな? そろそろ、研究所を飛び出し、フィールドに出かけたいなあ。

そうだ、今晩は、ユーミンを聴こう。

<追記>
ただし、メタボ系中年オヤジの夢を叶えるには、周りの皆さんの大きな犠牲のもとに成立することを、肝に銘じる必要があります!感謝。


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