師の好物は、しばしば弟子にも伝搬する。
ドイツ・ブレーメンにあるマックスプランク海洋微生物学研究所のWiddel(ヴィッデル)センセイは、甘いものに目がない。
センセイと研究の打ち合わせや論文のまとめを行うのは、決まって土曜日の深夜。センセイは、投稿論文の単語一つ一つ吟味してゆく。一行書いては消し、また、修正文を書く。時間がかかるし、待ち時間が多い。科学論文なのに、まるで、詩人がポエムを書くようである。
すべてのことを排除し、論文書きに集中するセンセイ。したがって、相当にエネルギーを消耗する。そのため、時々カフェパウゼ(コーヒーブレークのこと)が必要だ。ある土曜日の晩のこと、いつものカフェパウゼにチョコレートが出て来た。日本で言えば、お茶請けだろうか。
そのチョコレートが、ドイツ・フェレロ社(FERRERO)社の「FERRERO KUESSCHEN」(フェレロ キュッシェン)。かわいい包み紙を剥いて、かまぼこ型の一粒を口に入れる。噛むと、サクッとヘーゼルナッツが軽やかにくだける。やや柔らかなミルクチョコレートとヘーゼルナッツの組み合わせが絶妙。今まで食べたチョコレートのなかで、最高位に位置する。
このチョコレートはヴィッデルセンセイの大好物。それ以来、私の大好物にもなった。
FERRERO KUESSCHENは、なぜ、おいしいのだろう? その秘密を探るべく、KUESSCHENに解剖メスを入れてみた。おおお。内部構造は、こんなになっていたのか! KUESSCHEN断面から判断すると、表面は固めのブラックチョコレートで覆われ、いわゆるシェルになっている。そして、観察を、内部に移す。丸ごとヘーゼルナッツが、柔らかくてしっとりとしたチョコレートで覆われている。おまけに、ところどころ、ナッツ粉砕物が散りばめられている。
無批判にKUESSCHENを口に入れて噛んだところで、ヘーゼルナッツが丸ごと入っていることに気がつかない。しかし、丸ごとヘーゼルナッツだからこそ、アーモンドとは異なる軽やかな歯ごたえを生む。ここが、このチョコレートのおいしさの秘訣に違いない。
かれこれ十数年、KUESSCHENファンになっている。残念ながら、日本では販売されていないので、ドイツに行く度にスーパーマーケットで多めに購入して来る。あまりのおいしさのため、次から次へとKUESSCHENを口の中に入れてしまう。そうすると、翌日は決まって、ニキビ吹き出物が出て来る。これでは、体に悪いので、最近は、一日一個と決めている。
ふと、ここまで書いて気がついたのだが、研究室のコンパや誕生会で、「憩いのお店」のお菓子が登場するのは、「師の好物が弟子に伝搬」したと言うことであろうか? うーん、そんなわけないか。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます