私の研究者としての強みは親譲りの手先の器用さ。培養が困難な微生物の培養や単離を得意とする。言わば、職人系研究者。しかし、その器用さも使っていなければ、錆びてしまう。
実験を中心とする研究者にとって、実験台から離れる期間が長くなることは致命的。
霞ヶ関で働いていた頃(1998年)、実験から離れざるを得なかった。第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で議決された京都議定書をもとに、我が国の地球環境保全に関する技術開発をどう推進するか、具体的に検討することが当時の私のタスク。その中でも、橋本首相とオランダのコック首相とで交わされた、環境技術開発に関する国際協力を急遽具体化することになった。連日のように、オランダ環境省、オランダの学術振興会に相当する組織(NWO)、そして在日オランダ大使館の担当者たちとのやりとり。度々、大使館(建物は出島の形をしている)にも足を運ぶ。また、オランダからのミッションの対応。そして、過密スケジュールでオランダへ行き、環境省、NWOそしていくつかの大学を訪問。
さらに、フィンランド政府との国際協力も担当することに。これまた、在日フィンランド大使館やフィンランド経済省担当者とのやり取りが続く。これまた、雪が舞うフィンランドへ行き、現地の担当者と話を詰める。
ある日の深夜のこと。仕事が多すぎて、さばけない。誰も手伝ってくれないし、手伝えない。大部屋オフィスには環境省からの出向者が残っていた。今晩は徹夜ですかね、と軽く言葉を交わす。
深夜2時、一通のメールが届く。長いメッセージの後、こんな文で結ばれていた。
You have particular skills in the laboratory and can deal with interesting microorganisms.
ドイツの恩師、Friedrich Widdel(フリードリッヒ・ヴィッデル)先生からであった。
そのとたん、コンピューターのディスプレーが霞んで見えなくなり、キーボードが濡れてしまった。
そして、やっとこ、さっとこ、まとめあげたのが、下記の論文。
Manabu Fukui, Andreas Teske, Bernhard Assmus, Gerard Muyzer and Friedrich Widdel. Physiology, phylogenetic relationships, and ecology of filamentous sulfate-reducing bacteria (genus Desulfonema). Archives of Microbiology 172: 193-203. 1999
特別に思い入れの深い論文となった。
そして、今、ドイツの恩師に是非会いたいと思っている。今度の3月にブレーメンに行く。必ず行く!