福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

M先生のエンカレッジ(encourage)

2007-06-28 06:09:00 | 大学院時代をどう過ごすか

22年前、アメリカ帰りのM先生(助手)は、私の所属する講座(微生物化学講座)に新しい旋風を吹き込んでくれました。研究や大学の研究室運営に関するM先生の考えは、当時の常識と大きな乖離がありました。そのため、夕方、講座のお茶飲み場(廊下にあった)では、院生とM先生の間に大きな議論となり、お互いの共通理解に達した部分もあれば、そうでないところもありました。ただ、当時のお茶飲み場で繰り広げられる、熱い議論は、結構有意義だったと思います。不思議なことですが、M先生が主張されたことの大半は、現在日本の大学や研究社会の中で常識になって来ています。ということは、彼は先見性があったと言うほかありません。

当時から、研究に対して極めて厳しいM先生。そんな先生のお好きな言葉は、英語のエンカレッジ(encourage)。「勇気づける」とか「励ます」という意味ですが、M先生は大学院生との関わりの中で、エンカレッジの重要性を熱っぽく説いていたのです。その姿勢は、現在でも変わっていません。

私が修士2年生(M2)の時、こんなことがありました。何かの弾みで私の眼鏡が飛んで床に落ち、レンズが割れてしまったのです。奨学金支給日前でお金に困っていて、どうしようか思案していると、M先生がやって来たのです。財布から2万円を出して、「福井さん、これで眼鏡を買いなさい。出世払いで良いわよ」と。とてもありがたいM先生の心配りでした(トイレで泣きました)。M先生は、院生一人一人の状況をよく把握していたため、即座に、こうしたさり気ないことができたのですね。

それから10年以上経て、M先生と同僚になりました。彼に、院生のころの「眼鏡事件」をお話したら、「そんなこと、あったの?」と意外な反応のM先生。そういうことは、恩を受けた学生は忘れません!

そして、さらに何年か経って、M先生の「人生の夢」を私が打ち砕いてしまいました。恩を仇で返す、冷徹な行為をしてしまいました。今、必死になって、別の形で「償い」をしているところです。「許される」域に達するには、まだまだ努力が必要です。何としてでも、やり遂げます。

さらにもう一つのエピソード。かつて、M先生のエンカレッジを完全に無駄にしたことがあります。実は、M先生の奥様は、東京にある国立の女子大学の教員をしておられます。ある時、M先生宅で、奥様の研究室の院生と冴えない私たちとの合コン(合同コンパのこと)を企画してくれたのです。私(M2)にとっては生まれて初めての合コンでしたので、どんなふうに宴を過ごしてよいのかわかりませんでした。研究室には何度か合コンの経験がある院生もいたので、合コン前に彼らを中心にいろいろと夢を膨らませて企画をたてていたのですが、、、、。当日、話題も途切れ途切れ、そして、沈黙の連続。とうとう、2つの研究室メンバーが完全分離し、一組のカップルも誕生しませんでした。とても残念でしたね。折角のM先生夫妻の「エンカレッジ」だったのに。

大学教員からの「エンカレッジ」を活かすのも、無駄にするのも、院生次第と言うことでしょうか。