ワインの世界だと「ハートを一撃するワイン」と云うのがあって、これを求めてワイン愛好家の皆さんは、あてずっぽうにワインをがぶ飲みして、ある時には記憶を失い大きな失態をしたり、肝臓を壊して禁酒を余儀なくされたりと代償を払いつつも、そのワインに巡り会った時の胸の高鳴りが忘れられず、日夜愚行を重ねるものなのだ。
音楽についての才能がないので、ここ数日矢鱈とクラシックピアノの奏者のアルバムを借りてきては聴いているが、一向に「ハートを一撃する演奏」に当たらない。
まあ、ワインも1,000本飲んでようやくその一本に巡り会えればいい方だから、20枚くらいのアルバムを聴いてそんな僥倖に巡り会えるわけでもないのだろう。
ジャズピアノに凝ったことがあり、日本の女性ピアニストを何人か集中的に聴いたところ、木住野佳子が最も良くて、手に入る範囲のCDを買い集めた。
次に若い頃の姿形が好みで、ファーストアルバムの「WOW」が良かったので大西順子がすきだ。
オッパイを売りにしていた高木理代子も、動画でJazzについての懇切丁寧な解説をしてくれていて、その親切な人柄にも強く惹かれた。
最近、胸をはだけない服装で朝の番組でピアノを弾いているのを見て吃驚した。
バークレイ主席卒業と、世間でもてはやされていた上原ひろみや山中千尋は、どうも技巧に走っているようで何かが欠けているように思え、何枚かCDを買ってはみたけれど、それっきりになっている。
男性ピアニストだと、レッド・ガーラントやトミー・フラナガンのような、のんびりしたピアニストが好みで、緊張感がみなぎった演奏をするピアノは疲れていけない。
思えば、ジェイソン・モーガンと茂木誠の「日本人が学ぶべき西洋哲学入門」を読んでいて啓発され「平均律クラヴィエ曲集」へと横道にそれた。
本のほうは止まったままで机の上に伏せてある。
その内、「日本人が学ぶべき西洋哲学入門」に戻らなきゃいけないが、川本三郎と彼が推薦した台湾人作家の本を先に読まなきゃいけないので、どうなることやら。
クラシックピアノのほうは、まだ聴きだして日が浅いから1,000回くらい聴いたら何かが分かるかもしれないし、分からないかもしれない。
そもそも1,000回も聴いたことのあるアルバムは、荒井由実の「ひこうき雲」と「MISSLIM」だけだけど、そこまで飽きずに聴けただけで、この2枚のアルバムは僕にとっての名盤と云うしかない。
老い先短い僕に「ハートを一撃するアルバム」が出てくる幸せが待ち受けてるんだろうか、そしてそれを1,000回聴くだけの時間が残されているんだろうか。