ルグリズブートキャンプ(1)

  今日(8月8日)から来週いっぱいは「マニュエル・ルグリ強化週間」です。「ルグリと輝ける仲間たち」A、Bプロと「白鳥の湖」を観ます。今日は「ルグリと輝ける仲間たち」Aプロを観てきました。

  3部構成で、第1部は「白の組曲」(振付:セルジュ・リファール、音楽:エドゥアール・ラロ)でした。

  黒い背景に白い衣装に身を包んだダンサーたちが整然と居並んだ様は美しく、また壮観でもありました。

  それからダンサーたちが次々と踊りを披露していきます。私はパリ・オペラ座のダンサーを、一挙にこれだけの量を見るのは初めての経験で、「スーパーバレエレッスン」でマニュエル・ルグリにダメ出しされてばかりいたアクセル・イボ君でさえも、実は背が高くてスタイルが良く、またすばらしい技術の持ち主であったことに驚きました。

  パリ・オペラ座バレエ団のダンサーたちはみな恵まれた容姿と優れた技術を持っていて、下位のダンサーでも軽々と超絶技巧をこなしてみせるのが当たり前なようでした。上位のダンサーはそれにプラスしてなめらかさや表現力を有していました。彼らの踊りに共通していたのは、とにかく正確できっちりしている、という印象で、(悪い意味ではなく)やや機械的で硬質な感じのする踊りでした。

  「白の組曲」はダンサーの配置や踊りが整然としており、振りはクラシックですが、必ず一ひねり加えて難しくしてありました。パリ・オペラ座バレエ団のダンサーたちは凄かったですが、彼らに加わって踊った東京バレエ団のダンサーたちもよく頑張っていたと思います。

  第2部では3作品が上演されました。最初は「扉は必ず・・・」(振付:イリ・キリアン、音楽:ダーク・ハウブリッヒ)でした。これはAプロでの私のイチ押し作品です。

  クープランの曲をアレンジした、バロック調の音楽が流れます。エレオノーラ・アバニャートは黄色いドレス、グレーのアンダースカートを身につけ、マニュエル・ルグリは白いシャツを着て白い膝丈の下穿きを穿いています。後ろにはベッド、その横には大きな扉があります。

  アバニャートとルグリはゆっくりとした、スローモーションのような動きで、互いにもたれ合い、絡み合い、押しのけ合い、抱き合い、またもんどりうって踊ります。時にテープが早回転したような音が流れると、それに従って彼らの動きも速くなります。また映像を早回しで何度もリピートするかのように、彼らは一つの花束をさかんに投げあいます。最後にふたりは並んで座って、1個のリンゴを大きくかじります。

  プログラムにあるとおり、この作品はある男女の関係を、未来、現在、過去をごちゃ混ぜにして描いた作品なのでしょう。振付自体にも不思議な魅力がありましたが、その魅力を最大限に引き出していたのがルグリとアバニャートです。絵画のような雰囲気が漂う、静かでゆっくりな動きだけど、観ている側がつい集中してしまう迫力がありました。

  次は「スパルタクス」(振付:ユーリー・グリゴローヴィチ、音楽:ハチャトゥリアン)よりスパルタクスとフリーギアのパ・ド・ドゥです。なぜいきなり「スパルタクス」なんでしょう?「スパルタクス」はパリ・オペラ座バレエ団のレパートリーにあるんでしょうか?

  最初にフリーギアのソロも踊られたので嬉しかったです。フリーギアはマチルド・フルステーが踊りました。小柄でほっそりしたダンサーです。スパルタクスはステファン・ビュヨンでした。

  フリーギアのソロをフルステーはすばらしく踊りましたが、やはりボリショイ・バレエ映像版「スパルタクス」での、ナターリャ・ベスメルトノヴァの踊りが私の脳内に染み付いていて、ベスメルトノヴァはすごいダンサーだったんだな、と思いました。

  スパルタクスが片手でフリーギアを支え、フリーギアはスパルタクスの肩に手を置いて、スパルタクスの体の上に逆立ちになる有名なリフトもすんなりと成功しました。これは、いつかのなにかの公演で、ロシアのバレエ団のダンサーたちが失敗していたほど難しいリフトです。

  でも、確かに上手なんだけど、もうちょっと音楽にうまく乗ってほしかったというか、踊りにも音楽的なリズムがほしい気がしました。

  最後は「ドリーブ組曲」(振付:ジョゼ・マルティネス、音楽:レオ・ドリーブ)です。パ・ド・ドゥで、アニエス・ルテステュとジョゼ・マルティネスが踊りました。

  衣装は、女性は袖なしで胸の部分は紫のベルベット生地、胸の下から腰は青色の縦縞の生地、スカートは淡い青色のふんわりした形で、下に幾重もの白いアンダースカートがついています。かわいかったです。男性は大きな三角形の襟の白いシャツ、紫のベルベット生地のベスト、青の縦縞の短い上着、白いタイツでした。女性の衣装と素材や色は同じです。この衣装はなんとルテステュのデザインだそうです。

  振付はまさに正統的なクラシック・バレエのパ・ド・ドゥでした。若いダンサーのために振り付けられた作品なんだそうです。が、ジョゼ・マルティネスのヴァリエーションでの踊りには仰天しました。背がとびきり高くて脚も際立って長いダンサーですが、柔らかい身体を駆使した技術がとにかく凄まじかったです。特に横にジャンプして開脚したときなんか、ジャンプは高いわ、脚は180度以上にもばっ、と開くわで、観ているこっちが腰を抜かしそうになりました。

  第3部の最初は「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」(振付:ジョージ・バランシン、音楽:チャイコフスキー)です。ダンサーはドロテ・ジルベールとマチュー・ガニオでした。

  ふたりの踊りはすばらしかったです(←こればっかり)。踊りとは関係ありませんが、音楽を聴いていて、やっぱりこれは「白鳥の湖」にあるべき曲だよなあ、と感じました。この音楽を自分の「白鳥の湖」に採用したブルメイステルは偉かったと思います。

  次は「椿姫」(振付:ジョン・ノイマイヤー、音楽:ショパン)第二幕よりパ・ド・ドゥ。この公演はテープ演奏ですが、この作品だけピアノによる生演奏でした。ダンサーはエレオノーラ・アバニャート、バンジャマン・ペッシュです。

  ペッシュはどっかで見たことのある兄ちゃんだな、と思いましたが、確か新国立劇場バレエ団の「ジゼル」にゲスト出演して、アルブレヒトを踊った人だと思います。

  先週、アレッサンドラ・フェリの「エトワール達の花束」で、ノイマイヤーの「ハムレット」の一部を観ました。そのとき、これは全幕を観ないと良さが分からないな、と思ったのですが、この「椿姫」でも同じように感じました。でも「ハムレット」のあの踊りより、今回の「椿姫」の踊りは分かりやすかったです。マルグリットとアルマンの愛の踊りです。

  抱き合ったりキスしたりと直接的なマイムが多かったですが、流れるような美しい振付もありました。でも、ペッシュとアバニャートの息が今ひとつ合っていなくて、特にペッシュはアバニャートをリフトするのがしんどそうでした。もっとスムーズに踊られれば、かなり美しい踊りだろうに、と思いました。

  次は「三角帽子」(振付:レオニード・マシーン、音楽:ファリャ)よりソロ。この踊りは「扉は必ず・・・」の次に気に入りました。ダンサーはジョゼ・マルティネスで、赤い幅広の袖のシャツに、黒いズボンを穿いています。

  振付にはスペイン舞踊の振りがかなり取り入れられていて、それにバレエの振りが混じっています。振付もカッコよければ、踊ったマルティネスもかなり、というか非常に、というか最高にカッコよかったです。

  マルティネスは音楽性に非常に恵まれたダンサーなのではないでしょうか。指パッチン、靴音、手拍子で巧みにリズムをとりながら、情熱的に、ダイナミックに、リズミカルに踊りました。踊り終わった瞬間に万雷の大拍手でした。

  最後は「オネーギン」(振付:ジョン・クランコ、音楽:チャイコフスキー)第三幕より別れのパ・ド・ドゥで、モニク・ルディエールとマニュエル・ルグリが踊りました。ルディエールの衣装は茶色のドレスではなく藍色のドレスでした。ルグリはあの黒い衣装です。

  ルグリがシュトゥットガルト・バレエ団日本公演の「オネーギン」にゲスト出演したときは、シュトゥットガルト・バレエ団の女性ダンサーとの息があまり合っていなくて印象が薄かったのですが、今回は違いました。とてもなめらかに、流れるように踊っていました。

  ルディエールは、オネーギンに対して、彼を愛する気持ちと拒絶しなければならないという気持ちが交錯するタチヤーナを見事に演じていました。ルグリも、プライドも何もかもかなぐり捨てて、必死にタチヤーナの愛を取り戻そうとするオネーギンを、すがるような表情をして必死に演じていました。

  ただ、やっぱりルグリもルディエールも、「オネーギン」のような、説明的なくどい演技が必要な役には向いていないのではないか、と感じました。パリ・オペラ座のダンサーは、どちらかというと演技よりは踊りそのもので表現するような、抽象的な作品のほうが得意なのだろうと思います。

  客席には「ブラボー隊」みたいな人たちがいて、彼らが絶えずブラボーを連呼してくれたので、会場が盛り上がってよかったです。私には誰だか分かりませんでしたが、ダンサーらしい人たち(←小顔、長身、スレンダー体型ですぐ分かる)も座っていました。

  とりあえず今日は「恐るべしパリ・オペラ座バレエ団」ということをマスターしました。
ヴィクトリー!   
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« エトワール達... ルグリズブー... »


 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。