アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト Aプロ(2月18日)-2


 「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」(振付:ジョージ・バランシン、音楽:ピョートル・I・チャイコフスキー)

   ローレン・カスバートソン、ワディム・ムンタギロフ


  観る前は、ワディム・ムンタギロフって誰じゃい、と思っておりましたが、これがまたいいダンサーでして、背が高い、手足が長い、ハンサム、テクニック強し、踊りも雰囲気もノーブル、と三拍子どころか何拍子も揃ってる人でした。動きが多少もっさりしている以外は、とても優れているダンサーです。イングリッシュ・ナショナル・バレエのプリンシパルだそうです。

  落ち着いた雰囲気の渋いオジさんだな、さすがベテラン、と勝手に感心して、後でプログラムを読んだら、オジさんじゃなくて、まだ21歳らしい(2009年、イングリッシュ・ナショナル・バレエにファースト・アーティストとして入団、趣味はバスケットボール)ので、びっくり仰天。さーせんした。

  21歳にしてすでにこれほど優秀だと、どーかな、このままイングリッシュ・ナショナル・バレエに留まり続けるかな~?(ニヤニヤ) いずれコヴェント・ガーデンに移るんじゃないかな~?(ニヤニヤニヤ)

  さて、久しぶりのローレン・カスバートソン。プログラムによると、1年半もの間、病気のために休養してたそうです。病名も書いてあったけど、よく分からなかったので、後で検索しました。そしたら、原因不明で、治癒に長い時間がかかる難病だということでした。そんなことになってたなんて。大変だったね。かわいそうに。

  淡いクリーム色の衣装に身を包んだカスバートソン、音楽をきちんと大事にしてる感じで、ゆっくりじっくり、実に丁寧に踊っていました。抒情的でしっとり、ふんわりした柔らかい踊りでした。ヴァリエーションとコーダはちょっといっぱいいっぱいな感じでしたが、よく踊りぬきました。

  ブランクがあったから仕方ないけど、カスバートソンの踊りを観ていて、カスバートソンは日本でもっと評価されていいはずのダンサーだよな、と思いました。

  苦しんだ時期を経て、これからはどんどん活躍してね。 


  「レ・リュタン」(振付:ヨハン・コボー、音楽:ヘンリク・ヴィェニャフスキー、アントニオ・バッジーニ)

    アリーナ・コジョカル、スティーヴン・マックレー、セルゲイ・ポルーニン
    ヴァイオリン:チャーリー・シエム
    ピアノ:高橋 望


  まあまあ小粋な佳作…でしょう、たぶん。

  2009年にロイヤル・オペラ・ハウスで初演された作品で、初演キャストはこの3人だそうです。

  ヴァイオリン奏者、ピアノ奏者ともに舞台上の前方左脇にいて、特にヴァイオリン奏者はダンサーと掛け合い的なパフォーマンスをします。

  ダンサーと奏者はみな同じ衣装です。白いシャツ、黒い腰丈のズボンにサスペンダーという姿。コジョカルもこの男装で登場します。

  速い音楽と複雑でスピーディーな動きの振付がよく合っているので観ていて気持ちよく、またダンサー同士、ダンサーとヴァイオリン奏者との掛け合いも楽しいものでした。

  最初にポルーニンとマックレーが出てきて、互いに競うように踊ります。途中からコジョカルが出てきて、ポルーニンとマックレーがコジョカルの気を引こうと躍起になるのですが、コジョカルが恋したのはイケメンのヴァイオリン奏者、チャーリー・シエム。

  コジョカルがシエムの前に立ちつくし、うっとりとシエムを見つめる表情が笑えました。

  そういえば、シエムは簡単な日本語を話しました。「コニチハ!」とか「ハジメハ」とか言ってました。ヴァイオリン奏者が司会の役割も担っているらしいです。普段は英語でやってるのでしょう。

  このチャーリー・シエムというヴァイオリニストは、若くてイケメンです(でも私のストライクゾーン外です)。優秀な演奏家である一方、その恵まれた容姿でモデルにも起用されてるそうです。欧米にもいるんですね。クラシック音楽家という肩書きのタレントが。日本だけの現象かと思ってたよ。

  スティーヴン・マックレーの踊りがことのほかすばらしかったです。本当に良いダンサーです。爽やかで人柄の良さそうな雰囲気と同じく、踊りも爽やかでキレがよく、かつ美しくて安定感抜群。

  ジャンプは高い(正面向き180度以上開脚ジャンプを平然と何度もやってしまう)、回転は鋭く、しかし端麗。複雑な足さばきやステップも軽々とこなしてしまう。音楽性も豊か。踊りが振付と音楽に余裕で追いついているどころか凌駕さえしており、しかしオレ様臭マンマンでそれを匂わせることは決してない。

  先日観たボリショイ・バレエのアレクサンドル・ヴォルチコフもそうだったけど(ロイヤルとボリショイを比べるな!というお叱りの声が聞こえてきそうですが)、すっごい高度な技術と表現力を合わせ持っているのに、それを押しつけがましくアピールしないというダンサーが、どーも私は好みのようです。

  セルゲイ・ポルーニンは、先月にロイヤル・バレエを退団したそうです。入団してわずか3年でプリンシパルになったということで、まだ21、2歳という若さです。にしては、プログラムにあるプロフィールの記載は極めて簡素です。レパートリーがほとんど書いてないです。

  これは、ポルーニンがまだ若いのと、在団期間が短いせいもあると思いますが、堂々と記載できる、もしくはぜひとも記載したいレパートリーが大してない、というのが主な理由でしょう。退団の原因はこのへんにあると思います。

  ダンサーの長所や優れた点というのはそれぞれ違います。ポルーニンについては、テクニックが凄いという評判を読んだことがあります。ところが、私は以前にポルーニンを観たときにそうは思わなかったし、今回の公演を観てもやはりそう思えませんでした。むしろ、マックレーとの踊り合戦で、技術的にもマックレーに及ばないのではないか、とさえ感じました。

  でも、まだ若いから伸びしろはあるんだろうし、どこかに移籍すれば新しい可能性が開けるかもしれません。いずれ大化けした姿を見せてくれるでしょう。(と、無難にまとめておこう。)


 「エチュード」(振付:ハラルド・ランダー、音楽:カール・チェルニー、クヌドーゲ・リーサゲル)

   エトワール:アリーナ・コジョカル、ヨハン・コボー、スティーヴン・マックレー、セルゲイ・ポルーニン
   白のソリスト:高村順子、佐伯知香(東京バレエ団)
   コール・ド:東京バレエ団


  好きな作品だから、まあいいんですが……。

  でも、アリーナ・コジョカル、ヨハン・コボー、スティーヴン・マックレーほどのダンサーたちに、今さらこの作品を踊らせることにどーんな意味があるんでしょうか?わしには分からん(大滝秀治風に)。

  ガラ公演ラスト盛り上げ&恒例の東京バレエ団ねじり込みを目的とした消極的選択としか思えんのですが。  

  コジョカル、コボー(←コジョカルのサポートにちょっとだけ出演)、マックレー、ポルーニンは想定内にすばらしかっただけでした。

  更に、この「エチュード」は、ソリストたちばかりでなく、カンパニー全体のレベルを見せることになる作品です。私はマリインスキー・バレエがこの作品を上演したのを観て、マリインスキーの全体的なレベルのあまりな高さに衝撃を受けましたからね。どうしてもそれと比べてしまうのです。

  個人的には、東京バレエ団がやってもなあ、と疑問に思わないでもありません。東京バレエ団には、この作品は向いていないと思います。

  まあでもいいですよ。好きな作品ですから。

  以上、Aプロでした。


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