バーミンガム・ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』

  5月21日の夜公演に行ってきました。ピーター・ライト版です。主演は佐久間奈緒さん、ツァオ・チー。前回の日本公演ではツァオ・チーを見逃したから、今度はぜひ観たかったんです。

  佐久間さんもツァオ・チーもすばらしかったです。佐久間さんの重力を感じさせない、薄い絹がしんなりと沈むかのような柔らかな動きと確かなテクニック(微動だにしないバランス・キープ、繊細な爪先での動き、軽い跳躍、などなど)、また、なによりもその稀有といっていいほどの優れた音楽性には驚くばかりでした。観ていて気持ちよかったです。

  ツァオ・チーは身体が非常に柔軟なようで、特にジャンプの着地のプリエは柔らかい!の一言に尽き、硬さがまったく感じられませんでした。見せ場はビシッと確実に決め、不安定さがまったくありません。

  が、なんといっても圧巻は第三幕のグラン・パ・ド・ドゥ。完璧なパートナーシップとは、ああいう踊りをいうんだろうなー。

  カラボスのマリオン・テイトは急な代役での出演でしたが、往年のプリマ、今はBRBのバレエ・ミストレスの怪演が見られてラッキーでした。

  喜びの精を踊り(←一般の版ではリラの精のヴァリエーション)、またコール・ドの中で踊っていたセリーヌ・ギッテンスは大いに要注目。彼女はたぶん上まで行くんではないかと(今はファースト・アーティスト)。プログラムには名前しか載っていませんが、踊りが他のダンサーとぜんぜん違うので、見ればすぐに分かります。

  ピーター・ライト版は、従来版の冗長さを省いてコンパクトにし、ストーリー性を持たせているという印象。飽きがこなくてよかった。

  第一幕冒頭のガチャガチャしたエピソード(編み物女とか)を全部削除して、いきなりガーランド(花のワルツ)で始め、続けてオーロラの登場に持っていったのはよい展開だと思う。

  第二幕の終わりでカラボスが敗北したのは、リラの精の力によるものではなく、オーロラを目覚めさせるにはキスをすればよい、と王子が自力で謎を解いてみせたから、ということが強調された演出になっていた。「謎解き」によって呪いを打ち破るという話は民話や伝説にはよく出てくる。これもナイスな演出。

  オーロラが目覚めた後、王子はオーロラに求婚し、ふたりはパ・ド・ドゥを踊る。このパ・ド・ドゥはピーター・ライトの創作らしい。音楽は間奏曲を使用していた。

  演奏(指揮:フィリップ・エリス)は全体的にかなり速め。わざと速度を落としていたのは、ローズ・アダージョの最後くらい。つい先日観た映画『赤い靴』の劇中バレエ(赤い靴)のリハーサル・シーンを思い出した。

  指揮をしていたクラスターが、バレリーナのヴィクトリアに怒鳴る。「踊りが音楽と合っていない!君のピルエットが遅いせいだ!もっと速く回転しろ!」 ヴィクトリアも怒鳴り返す。「演奏のほうを遅くしなさいよ!」 クラスターは意に介さない。「音楽が第一だ!」 イギリス・バレエは今でもやっぱり「音楽第一」らしい。

  詳しくは(できれば)また後日。
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