花びら餅

  去年、NHKの大河ドラマ『篤姫』をずっと観ていて、およそ20年ぶりに幕末がマイ・ブームとなり、その勢いで有吉佐和子の『和宮様御留』(講談社文庫)を読み返してみました。

  『和宮様御留』はいわゆる「和宮替え玉説」を小説化した作品です。

  久しぶりに『和宮様御留』を読んでみて、こういってはなんですが、大河ドラマ『篤姫』の原作である宮尾登美子の『天璋院篤姫』とのあまりな格の違いに驚きました。もちろん『天璋院篤姫』も面白かったですが、『和宮様御留』はただ単に「時代小説」と呼ぶには惜しい作品で、その作者である有吉佐和子は、まさに司馬遼太郎に匹敵する作家だと思います。

  その『和宮様御留』の中に、和宮の替え玉にされるフキという少女が「花びら餅」を食べるシーンがあります。捨て子であり、和宮の替え玉になるまで下女として生きてきたフキは「花びら餅」をはじめて口にし、そのあまりな美味に驚嘆します。その「花びら餅」の描写がすばらしく、読んでいて「これは確かにうまそうだな」と思わずヨダレが出そうになりました。

  私はその「花びら餅」を食べたことがなく、見たこともありません。という以前に、「花びら餅」というものが存在することすら知りませんでした。だから、「花びら餅」とは京都にしかないものだと思っていたわけです。

  ところが、このまえのお正月に帰省したとき、母親と一緒にスーパーに買い物に行きました。スーパー内を一巡してレジに行こうとした途中の和菓子コーナーに、『和宮様御留』に書かれていた「花びら餅」の形状とバッチリ同じなものが並んでいました。つまり、白い平べったい丸餅で紅の三角餅、味噌餡、ごぼうを挟んだものです。

  見るなり、京都にしかないはずのものがなんで秋田にあるのかは知らないが、とにかくこれこそ憧れの「花びら餅」に違いない、と直感し、一箱(4個入り)をつかんで買い物カゴに放り込みました。

  家に帰ってラベルを見ると、小さい字で「花びら餅」とプリントしてあります。製造元は青森県八戸市の和菓子会社でした。さすがは旧南部藩の城下町です。雅ですな。

  ちなみに、母親も「花びら餅」は知らない、と言ってました。食してみると、確かに『和宮様御留』に書いてあったとおり、ごぼうは甘く煮たもので、餡は味噌餡でした。あまじょっぱい風味がなんともいえず、スーパーで売ってた安物とはいえ、予想どおりおいしかったです。

  東京に戻った直後、ふと「ネット通販で買えねえべか(←帰省の影響でナマっている)」と思い立ち、即探してみたら、やはり通販で「花びら餅」を販売している和菓子店はけっこうありました。

  ところが、「花びら餅」は正月限定商品らしく、ほとんどのところがすでに「販売終了」でした。三が日までしか販売しないんだべか?と思いつつ、なおも販売しているところを探したら、東京の和菓子店でまだ「花びら餅」を販売しているところがありました。京都の店じゃないけど、まあ買えるんならこの際どうでもいいです。実家用と自分用に申し込みました。

  それが昨日届きまして(10個入り)、一気に4個も食べてしまいました。賞味期限は3日間だそうですが、それにしてはなんだかやたらと日持ちがしそうな質感です。味は期待ほどではなかったですが、やはりあのあまじょっぱい風味は病みつきになりますね。

  まあ私はまだ「花びら餅ビギナー」なので、これから研鑽を積んで、来年の正月にまた頑張る(おいしい「花びら餅」を手に入れる)ことにします。最終目標は『和宮様御留』に出てくる「川端道喜」の「花びら餅」を食べることです。
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