今になって分かること

  休みのうちに連続で書いてしまおう。私の次の舞台鑑賞は、松山バレエ団の「ロミオとジュリエット」(5月4日)です。もう良席は無理かな、とダメもとでバレエ団に電話したら、サイド席ですが割と前方の席を手配してくれました。目の悪い私には福音です。

  私はロミオとジュリエットには、高度なテクニックなど期待していません。どんなにドラマティックに踊って演じてくれるかが、私にとっては最も大事なのです。森下洋子は音楽性にあふれた踊りと演技力では日本一のバレリーナだと思います。ですから、彼女がどんなジュリエットを踊り演じてくれるのか、楽しみで楽しみでならないのです。

  5月連休の松山バレエ団「ロミオとジュリエット」から6月初旬のミラノ・スカラ座バレエ団「ドン・キホーテ」までの1ヶ月間、舞台鑑賞の予定は今のところ入っていません。その間、このサイトの運営をどうしようか、と悩んでいるのですが・・・。

  「経歴」の続きを書いたり、アダム・クーパーが出演している「映像版鑑賞記」を書いたりすることもできるのですが、そんな時間があったら、やらなければならないことは他にあるわけで、どちらを選ぶかが困りものです。時間を上手にやりくりして、バランスよく両方をこなせればどんなにいいか、と思うのですが、私は一度にたくさんのことをやるのがすごい苦手です。まあ、時間を見つけてちまちまと「経歴」なり「映像版鑑賞記」(ロイヤル・バレエ「眠れる森の美女」をお借りしたので)なりを書いていければ、と思っています。

  私は仕事関係のメーリング・リストにいくつか入っています。その中の一つに、いつも読んでは「???」と困惑してしまうメールを回してくる人がいます。メーリング・リストは情報の交換と共有が主な目的なわけですから、お知らせはもちろん、質問なども回ってきます。

  その人はいつも質問ばかりしてくるのですが、その質問というのが、こちらが答えようもないものばかりなのです。難しくて答えられないのではなく、答えようがない、としか形容のしようがありません。

  具体的な例を挙げるのは控えますが、クーパー君のことに託してたとえてみましょう。たとえば「アダム・クーパーの出ている映像版には、どんなものがありますか?」といった質問なら答えられますよね。でも、「ファンの常識として、アダム・クーパーについてはどの程度まで知っているべきなのでしょうか?」と聞かれたら、みなさん答えに困るでしょう?その人は、後者のような質問ばかりしてくるのです。

  私はその人のメールに書いてある質問を読むたびに、いつも「なんなのこの人?」だったのですが、あるときふと、その人は質問の答えを求めているわけではなく、質問という形を借りて、メーリング・リストに参加している人々とコミュニケーションをしたいのだ、ということに気づきました。

  同じメーリング・リストに参加していて、私が親しくしている人たちにそれとなく聞いてみたら、彼らもその人のメールについては同じ感想を持っていました。私はその人のメールに返信したことがないのですが(答えようがないですから)、彼らも返信したことはない、ということでした。ですから、その人のメールは全員に黙殺されている可能性が高いだろうと思います。

  それでもその人は、答えの来ないであろう質問を、今でも途切れることなくメーリング・リストに回し続けているのです。その人にとっては、自分の質問をみなに読んでもらうこと自体が慰めになっているのでしょう。

  メーリング・リストの参加者のほとんどは関東に住んでいます。その人は地方に住んでいます。そういう事情もあってか、その人はそうすることによって、自分とみんなは離れていてもつながっている、同じ仲間だ、という一体感を持っている、というよりは持ちたいのだ、ということに、私はようやく思い至りました。

  私はその人のメールが回ってくるたびにうんざりし(開く前からどんな内容なのか察しがつくので)、その人に苛立ちを覚えているのです。その苛立ちというのは、「なんでそんなに『仲間』にしがみつくの!?」というものでした。でも、苛立ちを覚えるということは、私の中にもその人と同じように「『仲間』にしがみついている」ところがあるということです。

  私は意地を張って「仲間」にこだわらない風を装っていますが、その人は「仲間」にこだわっている自分を、みなに正直にさらけだせているのです。私はその人にやきもちを焼いていて、それでなおさら苛立つのでしょう。

  「仲間意識」や「身内主義」は、私とは縁遠いものです。私はこれらの感覚を持ちたいと思っていますが、なぜか縁がありません。こうした感覚は、特に地域、学校、職場などで抱きやすいものでしょう。が、私は住んでいるところでも、学校でも、職場でも、「仲間意識」や「身内主義」のような感覚を抱くことができた経験がありません。どうもなじめないのです。

  なじめないとなると、襲ってくるのは疎外感です。自分はよそ者だ、という感覚です。これは辛いものです。特に強固な仲間意識で団結した集団の中にいると、疎外感はいっそう強くなります。なじめない自分が悪いのだ、いや、排他的な彼らが悪いのだ、そんな二つの感情の間を行ったり来たりします。

  今は、「仲間意識」のような感覚を持つことはあきらめようと努力しています。まだ悟りきってはいませんが、自分とは縁のないことなのだ、と未練を断ち切ることが必要なのは分かっています。

  そうなると、クーパー君はロイヤル・バレエ時代、さぞ辛かったろうと想像されるのです。彼はロイヤル・バレエ・スクールには上級(アッパー)から入りました。おそらく、ロイヤル・バレエ・スクールには、初級(ロウワー)から入ってこそ、本当のロイヤル・バレエ・スクールの生徒である、という「仲間意識」が濃厚に漂っていたと思います。

  そうした雰囲気は、当時のロイヤル・バレエにもあったでしょう。ロイヤル・バレエ・スクールの出身でなくとも、イレク・ムハメドフのように、赫々たるスター・ダンサーとしてすんなりと受け入れられた人や、シルヴィ・ギエムのように、輝かしいスターであるばかりか、もともとセコい「仲間意識」など必要としない強い人は、そんなことは気にもしなかったでしょう。

  でも、クーパー君の立場は中途半端です。生粋のロイヤル・バレエ・スクール育ちではない「よそ者」だけど、しかし彼の唯一の居場所はロイヤル・バレエしかなかったのです。しかも、彼は学校時代から、「バレエには向いていない」と言われ続け、バレエ団でも高い評価を受けていたわけではありませんでした。「ロイヤル・バレエで自分の居場所を保持し続けるためには、どんな代役の要求にもすべて応じざるを得なかった」という彼の言葉には、彼の当時の微妙な立場が窺われます。

  マシュー・ボーンがクーパー君に「白鳥の湖」のザ・スワン役を打診したとき、クーパー君はこのチャンスをしっかりとつかみました。そして、ロイヤル・バレエ以外に自分の居場所を持つことに成功しました。ボーンはその後もクーパー君を囲い込みたかったようですが、クーパー君はそれを拒否しました。彼はそのままボーンのカンパニーに居続ければ、いずれはロイヤル・バレエにいたときの二の舞になる、つまりわるい言い方をすれば、「飼い殺し」になることが分かっていたのでしょう。

  クーパー君は最終的に「仲間意識」や「身内主義」を自分から突き放しました。あきらめたのか悟ったのか、ともかくも私のような凡人にはうらやましい限りです。私も早く彼のような境地に達することができればいいのですけれどね(嘆)。  
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生きてます

  ここのところ音沙汰なしでどうもすみません。すごく忙しくなってしまって、心の余裕がなくなっていました。それに、クーパー君の公式サイトも更新がないしね。でも“Side by Side by Sondheim”の上演開始まであと2週間を切りましたから、そろそろ宣伝用のニュースやインタビュー記事なども出てくるかもしれません。
  見つけたらご紹介することもあるかも(心の余裕があればの話ですが・・・)。

  クーパー君が自分の好きな振付業で忙しいのはけっこうなことですが、彼は2005年の2月以来、日本に来ておりません。今年も来てくれる気配は今のところなし。このままだと、日本のアダム・クーパー・ファンが絶滅するのではないか、と私は危惧しております。

  アダム・クーパーが日本から遠ざかっているばかりか、今は振付業に夢中になっていて、本拠地イギリスですら舞台に立つ予定が当分の間はない。そうなるとファンというのは望みが低くなるもので、日本に来なくてもいい、せめてイギリスで舞台に立ってくれ、大金をかけても観に行くから、とすがるような気分になります。せめて秋冬には舞台に立ってほしいものですわ。

  というか、去年の10月以来、彼は舞台には立っていないはずです。早くて今年の秋冬に舞台に立つとしても、ちょうど1年のブランクがあります。日々のエクササイズやレッスンは欠かしていないと思いますが、舞台に立つということも恒常的にこなす必要があると思います。あまりに長すぎるブランクをおいてしまうと、いずれ舞台に復帰したときに、すんなりと十全なパフォーマンスを披露できるのかどうか、心配ではあります。

  まあクーパー君は器用な人ですから、久しぶりに舞台に立ったとしても、それなりにこなしてみせるのではないか、とは思いますが・・・。とはいえ、少しでもヘタレなパフォーマンスだったら、少なくともファンの目はごまかせないわよ(笑)。      
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