BAMBOO-JET  ~うみの部屋~

タケノコジェットでどこへでも!
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トリエステの坂道

2008-05-14 22:55:56 | 読書感想文
須賀敦子のイタリア生活エッセイです。
前回の「ヴェネツィアの宿」の次に読んだエッセイで3作目。
ヴェネツィアの宿では日本の子供時代のことや両親、家族のことが書かれてましたが、この作品ではイタリアでの家族・・・亡き夫の義理の母や弟、夫の家族の生活が描かれています。
印象的なのが「キッチンが変わった日」。
夫の家族の人生について書かれてる。
義理の父親は鉄道員だった。
その父と共に4人の子供を育てた義理の母。
貧しい鉄道員の生活で、二人の子供を結核で失う。
そしてやがて結婚4年目にして夫も急死する。
残るは義理の弟だけで、その弟が20も歳が下の娘と結婚する。
娘の実家から送られてきた立派な家具が彼らの家には似合わない・・・という話だ。
ここで作者はやたらとこの夫の実家についての「貧しさ」について細かく描いている。というか、むしろ惹かれてる、魅了されてるといってもよい。
裕福な家に生まれ、まだ日本人が少ないイタリアにまでこの時代に留学した彼女にすれば、夫や夫の実家がかもし出すその「貧しさ」というものは、まるで別世界のような珍しいものに見えたのか。。。と思う。

印象的だったのが次の文章。
当時何よりも私を戸惑わせ、それと同時に、他人には知られたくない恥ずかしい秘密のように私を惹きつけたのは、この薄暗い部屋と、その中で暮らしている人たちの意識にのしかかり、いつやむとも知れない長雨のように彼らの人格そのものにまでじわじわと浸みわたりながら、」あらゆる既成の解釈をかたくなに拒んでいるような、あの「貧しさ」だった。

ただの貧しさも須賀さんの手にかかれば、こんな表現になるんですね。すごいです。
読んでて思うに、貧しさというのは金銭的なとこから始まり、それがじわじわと身体や精神を蝕んでいき、そしてそれによって引き起こされる不幸こそが生きている現実(証)のように感じられる表現があって、なるほどなぁと思いました。

あと結婚した義理の弟の話「重い山仕事のあとみたいに」「あたらしい家」のなかなか面白かったです。

以下、新潮文庫の紹介ページから引用してます↓

夜の空港、雨あがりの教会、辺境の町に吹く北風……追憶の一かけらが、ミラノで共に生きた家族の賑やかな記憶を燃え立たせる。

あまたの詩人を輩出し、イタリア帰属の夢と引換えに凋落の道を辿った辺境都市、トリエステ。その地に吹く北風が、かつてミラノで共に生きた家族たちの賑やかな記憶を燃え立たせる――。書物を愛し、語り合う楽しみを持つ世の人々に惜しまれて逝った著者が、知の光と歴史の影を愛惜に満ちた文体で綴った作品集。未完長編の魁となったエッセイ(単行本未収録)を併録する。

○トリエステの坂道 須賀敦子/著  新潮文庫