父が何やら大昔の流行歌らしき鼻歌を歌っていたので、
「あ、それ、聞いたことがあるわね。お父さん、私が子供の頃によく歌ってたんじゃない?お風呂でよく歌ってたわ。」
と、何気なく反応した流れから、昔の話になった。
父曰く、
「この歌が流行った頃はね、戦争が終わって、世の中が落ち着いた頃で、昔を回顧する歌が流行り始めたんだ。ちょうどお前が生まれた頃から、明るい感じの歌が流行ってきた。
そして、やっと、あんな辛いこともあったね、こんなこともあったよね、と、話せるようになっていたんだ。話せると言う事は当時それだけ世の中が安定してきたからなんだよね。」
「つまり、ほんとに辛い時はその事を話せない、って事でしょ?」
「そう。」
現在の生活が安定してこそ辛い過去を振り返る事ができるということだろうか。それでも真に辛かったことはなかなか話せるものではないかもしれない。
「そういえば、私が中学・高校の時だったか、戦争中の事をお父さんに聞いたとき、あまり話さなかった気がする。茄子ばかり食べてた、とか言って笑っていたけど。」と、私が言うと、
「うん、あまり話したくなかったね。」
父はたしか大学の予科というところに入って、間もなく終戦となったことは聞いていた。
「お父さんも、軍事教練したんでしょ?」
「したよ。すぐ終戦になったから戦争には行かなかった。」
「よかったー!と思った?」
「思ったさ!ほんとに、助かった!と思ったね。」
ああそうだったのか。命拾いした当時のその瞬間が、生々しく感じられた。当事者の言葉は、本や資料よりも迫力がある。
それから何故か唐突に、工場でバッテリーの部品を作った話をし始めた。
学生を動員してのそれは、魚雷を作るためのものだった。
「結局俺達は、兵器を作らされていたわけ。いやだったな。」
初めて聞いた。
「人を殺すものだとわかって作っていたわけ?」
「そう。しかも、それは、行くだけの容量のバッテリー。帰ってくる事のない。」
(続く)
「あ、それ、聞いたことがあるわね。お父さん、私が子供の頃によく歌ってたんじゃない?お風呂でよく歌ってたわ。」
と、何気なく反応した流れから、昔の話になった。
父曰く、
「この歌が流行った頃はね、戦争が終わって、世の中が落ち着いた頃で、昔を回顧する歌が流行り始めたんだ。ちょうどお前が生まれた頃から、明るい感じの歌が流行ってきた。
そして、やっと、あんな辛いこともあったね、こんなこともあったよね、と、話せるようになっていたんだ。話せると言う事は当時それだけ世の中が安定してきたからなんだよね。」
「つまり、ほんとに辛い時はその事を話せない、って事でしょ?」
「そう。」
現在の生活が安定してこそ辛い過去を振り返る事ができるということだろうか。それでも真に辛かったことはなかなか話せるものではないかもしれない。
「そういえば、私が中学・高校の時だったか、戦争中の事をお父さんに聞いたとき、あまり話さなかった気がする。茄子ばかり食べてた、とか言って笑っていたけど。」と、私が言うと、
「うん、あまり話したくなかったね。」
父はたしか大学の予科というところに入って、間もなく終戦となったことは聞いていた。
「お父さんも、軍事教練したんでしょ?」
「したよ。すぐ終戦になったから戦争には行かなかった。」
「よかったー!と思った?」
「思ったさ!ほんとに、助かった!と思ったね。」
ああそうだったのか。命拾いした当時のその瞬間が、生々しく感じられた。当事者の言葉は、本や資料よりも迫力がある。
それから何故か唐突に、工場でバッテリーの部品を作った話をし始めた。
学生を動員してのそれは、魚雷を作るためのものだった。
「結局俺達は、兵器を作らされていたわけ。いやだったな。」
初めて聞いた。
「人を殺すものだとわかって作っていたわけ?」
「そう。しかも、それは、行くだけの容量のバッテリー。帰ってくる事のない。」
(続く)