ねーさんとバンビーナの毎日

「静」→ 「淡」→ 「戻」→ 「無」→「休」→「解・涛」→「涛・停」→「抜」→24年「歩」 最終章序章スタート!

仕事に就いてから・その9

2006年12月21日 18時55分39秒 | 思い出ねーさん
課長は別の会社からヘッドハンティングの声がかかっていた。
別の中堅印刷会社のDTP部門立ち上げを任せたいといったものだった。

とある日ねーさんを含め正社員の3名と課長とで、その会社に訪問したことがあった。
すでに敷地内のある棟の一室がDTP専務ルームとして構築されていた。
それも超かっこよく。

当時のその会社の専務さんに「君達が先行して身につけた力を我が社で存分に発揮してもらいたい。その為のバックアップも惜しまない。」と口説かれた。

まだ入社4年目社会人4年目の若かったねーさんらは困惑した。
なぜってただの視察だと思っていたからだ。
「あ、課長ったら、私達を連れて転職するかどうかを決め兼ねてて顔色が冴えないんだ、最近。」専務さんからの熱烈ラブコールに耳を傾けつつ、心の中でそんなことに思いを巡らせた。

帰り道、一緒に行った他の二人と、「あの専務さんライオネルリッチーにソックリだったよね~!あだ名はライオネルもしくはリチ男にしよう!」と超クダラナイ話で盛り上がった。

この時の課長は腹の中ではかなりの決心をしていたハズだ。それも40を過ぎ転職する年齢には遅いあたりの年齢だったからだ。
そんな心中を察すればクダラナイ「ライオネル!」や「リチ男!」だのそんな感想だけ言ってワイワイしているねーさん達を見てどのように感じたろう?と思う。
実はそんな部分は馬鹿話をしつつも、ねーさんは察していた。
馬鹿話で今日のこの訪問を薄めないと抱えきれない事情が裏にありそうだな…と察したので、馬鹿っ話に花を咲かせた。

課長はあまり詳細は語らずに気楽な感じで誘い出した。
ねーさんらを試した意図もあったかと思う。
試したって、それは悪い意味ではなく、「まだこの会社にいたいと思っているか否か。何か別のことを試してみたいと思っているか、否か。」という意味でだ。
「否である。」という部分を察すれば強引に誘導してきただろう。

ねーさん達には野望も何もなく、はたまた一緒にやっている仲間とオサラバして他社に行く気などさらさらなかった。給料アップが見込めたのに、さらさらそんな気がなかった。
まだこれからが本当に大変な時期なのに、他の人達に任せて去るということが悪いと感じた。

課長は「君達は職場思いだなぁ。ったく。」と苦笑いしつつ、程なく会社を去った。

この課長に託されたミッションは新しい(これからスタンダードになるであろう、そして今まさにそうである)印刷行程の構築で、それの期限が3年だった訳だ。
視察に行った時期とちょうど重なる。
そして多分次のミッションが課長には言い渡されていたはずだ。
それに対して絶対に納得がいかなかった課長の結論だったのだろう。

課長が去って、しばらくしたある日、とある雑誌に視察に行った会社のDTPルームというのが掲載されていた。
人間工学に基づいた設計とやらで、斬新なデザインが取り上げられていた。
それを目にした時、「うわぁ、ここに引っ張ろうとしてくれてたんだ。それもねーさん達を。」
そう思ったら、ちょっぴり胸が切なくなったりした。

「いい仕事するにはいいもん(高いものだろうが安いものだろうが本当においしいものということ)食わんとダメだ!」とか、
DTP検定を主催している側の人(課長の知人)の訪問があった際に、「またくだらん検定作って金儲けしようとして!そういう検定制度を作ったところでいい人間が育つと思うか?ったくしょーもないなぁ。日本のいい職人はこれから育たなくなるわ。(笑)」と言えてしまうこの課長には賛否両論ありそうだが、ねーさんはどうしてだか嫌いになれないお方であった。

そしてあれから15年近く経つ今、この課長も引退間近であるが、忘れた頃にたまに連絡が入る。
かならず仕事の話だ。
印象に残るひとりとしてインプットしていただけているのはありがたい。