Scarving 1979 : Always Look on the Bright Side of Life

1979年生な視点でちょっと明るく世の中を見てみようかと思います。

早わかり?バカの壁

2004年05月25日 23時59分59秒 | 1分間スピーチ
今日は、早わかり?バカの壁でした。

早わかりセカチューさん執筆以来、
おそらく私個人にだけ大好評なこの早わかり。

要はタイトルだけをネタに、ホラ話を考えるわけですが、
今回の題材は「バカの壁」です。

セカチューさんと違って、
こちらはまるで読んだことありません。

内容について、なんの情報もありませんが、
その方が妄想が広がってより面白いです。

とにかく、早わかりスタートです。

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20XX年

増え過ぎた人口は食糧不足を招き、
家畜に与える肥料もなく、
もはや人間を生かすだけの食料を生産するだけで、
精一杯になっていた。

そこで政府は大きな壁をつくり、
人類を二分化することとした。

一方は選民層と呼ばれ、
電気ガス水道のある一戸建てで快適な暮らしを与えられるものの、
人類のたんぱく質源となる合成肉の開発研究を行い、
他方の平民層に、その生産物であるミートキューブを与える、
という役割を担う。

一方は平民層と呼ばれ、
薄汚れた管理の行き届いてないコンクリート部屋を住処に、
自分達が食事する分の農作業を主に行い、
他方の選民層に奉仕をする必要はなく、
たんぱく質となるミートキューブが配給制で与えられるのみで、
確固たる役割はない。

政府はこうして人類の役割を二分化することで、
食料による食料のための統制を行った。

平民層の人々は、選民層の裕福な生活に誰しもが憧れた。

その欲求が発生することを事前に察知していた政府は、
あらかじめ誰しもが選民層になる機会を設けた。

平民層が壁を越え、
選民層の世界に入るためには3つの方法があった。

1つ目は、同年代を集め5年に1度行われる試験に合格した者。
2つ目は、脳死または死の宣告を受けた者。
3つ目は、殺人等の重犯罪を犯した者。

どの方法で壁を越えても平民層に戻ることが出来ないが、
2つ目、3つ目で越えても決して幸せにはなれない。

試験に合格できない者の多くは、
幸せな暮らしを諦め、淡々と日々を過ごす道を選んだ。

たとえ質素であっても、
責任のない人生の方が楽である、と考えた。

いつしか政府のつくった大きな壁は、
バカだけが取り残される壁、
バカの壁と呼ばれるようになった。

平民層のヨウロウは22歳。

ヨウロウは、思考停止のバカになろうとは思えない、
選民層になる夢を捨てきれずにいる、珍しい青年だった。

青年の暴走は、時に思いつかない事態を引き起こす。

ヨウロウは、はるか高いバカの壁を、
登り越えようと思ったのだ。

思い立ったら吉日と、
なにも考えずヨウロウはバカの壁によじ登り始めた。

ヨウロウは身の軽さには自信があった。

かれこれ10mほど登ったところだろうか、
見回りの警察官がヨウロウに気付いた。

しかし警察官はなにもせず、ただ見守るだけ。

越えてしまえば、選民層の警察がなんとかするだろうし、
壁から落ちて気でも失えば、逮捕もしやすい。

おそらくそう考えてるのだろう。
この警察官もまたバカだから。

夜が来て朝が来て昼が来てを繰り返し、
もう3日の月日が経ったのだろうか。

ヨウロウは、警察官のある意味予想通りに、
ついに登り、上り、昇り切った。

壁の上から見える選民層側の景色は、
見渡す限りの荒野。

小さな頃から教えられてきた、
選民層の美しい田園都市はどこにも見当たらない。

そして誰もいない。

遠く遠くに、ひとつ工場があるだけだ。

ヨウロウは壁を降りると、仮眠を取り、
翌朝、工場へと向かった。

その道は荒れ果てており、
舗装はおろか、土は枯れ果て、
草花一本さえ生えていない。

工場入口、ミートキューブを載せたトラックが、
門の中に入ろうとしている。

その隙を縫って工場へと足を踏み入れた。

無機質な音を立て、無気力に調子を崩さず稼働する機械。
しかし、工場内に漂う匂いは非常に生臭い。

ベルトコンベアの上を、ミートキューブが流れていく。

家畜の飼えない中、こんな荒野の中で、
どうやってこのたんぱく質をつくっているのか、
ヨウロウは気になり、ベルトの元を目指した。

元に辿り着いた。

巨大な粉砕機に、
クレーンが多量のなにかを入れている。

ヨウロウは人の目から逃れることを忘れ、
その、なにか、がわかる距離まで駆け寄った。

クレーンで拾って投げ込まれているのは、
人の山だった。

老若男女問わず、不器用に積み上げられた人間達を、
クレーンが無造作に掴み上げ、機械の中へ落として行く。

ボキボキグシャグシャと、機械が人が泣く。

そして綺麗に加工され、ミートキューブとなる。
ヨウロウ自身好んで食べた、あのミートキューブに。。。

その光景から目が離せないヨウロウの肩を、
誰かがポンと叩いた。

振り返ると、街頭テレビ越しに話す姿をいつも見ていた、
食料管理大臣の姿があった。

「君、どこから入ってきたんだね。」

「どうしても選民層の暮らしが見たくて、バカの壁を越えて。」

「いい勇気だ。君はここをどう思う。」

「どう思うというか、これは本当のことなのかどうか。」

「本当のことだ。君も私も息をしている。」

「しかし。」

「あれは生きていない。単なるタンパク質源なんだよ。
 生を全うした老人や、生きている必要のない罪人ばかりだ。
 なにを戸惑うことがある。なにを大事にすることがある。」

「けど人の命は。」

「命などないのだよ。あれには。
 単なる肉でしかない。それ以上なにもない。」

「でも。」

「そんなことより、なぜこの事実をひた隠しているか。
 そして試験合格者はどこに行ったのか、疑問ではないか。」

「ええ。」

「学力のある者を放っておくと独自に研究し、
 事実に気付いてしまい、それを公表してしまう危険がある。
 そんなことをされたら、一体どうなると思う。
 平民層の多くが、まともに生きていられなくなるだろう。
 自分の食べていたものが、愛する者だったのかもしれないのだよ。
 普通の精神で耐えられるかね。」

「いえ。。。」

「だから試験で学力のある、研究を行いそうな知的探究心の強い者を、
 あらかじめ選抜し、気付かれぬ前にこの事実を話しているのだ。
 事実を受け入れたものは管理官や研究員となり、
 事実を受け入れられず気が狂うか、この世に失望したものは、
 老人や罪人共と一緒に、そこの単なるたんぱく質の原料となる。
 今まで後者の数が圧倒的に多く、この場に残るものはほとんどいない。
 だからこちらの世界には、この工場しかない。
 ただ、それだけのことだ。」

「それだけのこと。。。」

「選民層があるという幻想は、平民層に夢を与えることにもなる。
 誰にでも平等に幸せになる権利がある、という約束みたいなものだ。
 平民層の中で生きる気力を、目的を失うこともなく、
 君みたいに夢を叶えようと、生きることを頑張ってくれる。
 そのためにも選民層はあるとしなくてはならない。
 君はどうしたいかね。壁を登った勇気は買うぞ。」

ヨウロウは大粒の涙を流し、
言葉もなく、その場に崩れ落ちた。。。


バカの壁の本当の語源は、死を省みないバカが越える壁、
正しく略すならば、バカの壁でなく死の壁であったのだ。。。


クレーンがまた、ひとつ、落とした。


3日後。

平民層にミートキューブが配給される。

一列に並び、笑顔で受け取る少年達。
遅れて群がる老人達。

「やっぱりお肉様は美味しいね。」

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いかがでしたでしょう?

「バカの壁」はこんな物語でしょう、きっと。

絶対違いますけど。
そもそも物語じゃないですけど。

なんで今更、終末論的SFなのか不明ですが、
私達の年代なんてのは、こういうお話に弱いのです。

つまり、このお話の最大のオチは、
書いてる人が一番バカだった、っていうことです。

にしても最後に続編の「死の壁」も入れてくるところなんてのは、
我ながら上手いですね。

つくづくいい作品です。ソイレント・グリーンさん。

本を全く読まない人が、
想像だけで本を書くと一体どうなるか。

その答えを出してくれる、この早わかり。

次回を、どうぞお楽しみに。