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「日本語の学校」 コラム その1 鴨下 信一

2016年10月04日 00時31分43秒 | 朗読・発声
 「日本語の学校」 声に出して読む<言葉の豊かさ> 鴨下 信一 平凡社新書 2009年

 コラム その1 P-55

 台本を作る――アガらないために(1)

 他人の前で朗読する時のいちばんの敵は〔アガる〕ことです。どうしてアガるのか。それは自信がないから。どうして自信がないのか。それは〔準備〕が万全でないから不安になるのです。あなたの準備はどうでしょう?
 朗読の〔台本〕はキチンと出来ていますか、字は読める大きさですか、拡大する必要はありませんか?
 紙はどうでしょう。用紙は必ずしも真っ白でなくてもいいのです。あまり白いと照明が当たってハレーションを起こして、かえって見えにくくなります。少し色がかかっているもの、例えば薄いブルーの紙など試してみてください。
 サイズはどうでしょう。これは台本を置く台がある時と、手に持って朗読する時ではちがいます。前者では大きくてもいいが〔メクる回数が少なくて済みます〕、手に持って読む時はページ数が多くなっても、小さくないと不自由です。
 一行があまり長くなるのは、よくありません。読んでいる時に、眼が上から下へたどってゆくと、顔も同じように動く。これが観客のほうから見ていると、すごくウルサく邪魔なのです。これを防ぐためには、例えばこの本のテキスト部分のように、罫引きしてニ段組にするとよいでしょう。
 ページの終わりのところで、ちょうどうまく文章が終わっていますか。なかなかそううまくはゆかないものです。切りのいいところで、少し余白が出来ても終わっておくか、次のページにこぼれた部分を、前のページに書き写しておく。これをやっておかないと、思わぬトチリの原因になります。トチればとたんに、あなたはアガって収拾がつかなくなるでしょう。
 表紙は、少し厚い紙で作ったほうがいい。表紙をこうしておかないと、手に持って歩く時にピラピラ動く、これがみっともない。みっともないと、あわてる。あわてたら必ずアガります。
 あ、そうだ。紙面いっぱいに字だらけにするのもいけません。余白を(少し多めに)作ったほうがいい。朗読をすると、意外に書き込みをしなければならないことに気づきます。出来れば行間も少し空きがあったほうが便利。
 面倒くさい。といわないこと。基礎的準備をちゃんとしない人ほど、はっきりいって、朗読は下手です。
 そして、題名(タイトル)と作家名を大きく書くこと(これをやらない人が時々いるのは、驚きです)そして最初にはっきり読むこと。作品と作家に対する敬意を忘れるような人は、朗読をする資格がありません。