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「真向法」 マイ・エッセイ 18

2016年01月27日 00時34分49秒 | マイ・エッセイ&碧鈴
 「真向法」
                                                
(あぁー、なんでもっと早くやらなかったんだろう。もっと早くやればよかった)
 もう定年退職して数年たつというのに、真向法(まっこうほう)をやりはじめたらそんなグチが口をついて出る。  
 真向法とは「健体康心」、健(すこ)やかな体、康(やす)らかな心、を目標とする、日本に昔からある健康体操で、やろうとしたきっかけは「病院に行きたくない」との強い思いだ。
 六十代も後半にさしかかって、同年代の人たちが、病に倒れた話をよく耳にするようになった。
 今までは幸いに、たいした病気もせずに来られたけれど、これから先はどうなるかわからない。だいぶ体にガタがきているな、と思い知らされることも多くなっている。
 自分の体は自分で守らなくてはならない。それにはなんといっても自然治癒力を高めることと、どんな健康法があるのかを調べてみた。
 ラジオ体操、柔軟体操(ストレッチ)、ヨーガ、太極拳、仰臥禅、心身統一合気道、真向法、自彊術、西式健康法、野口体操などが気になった。
(へぇー、太極拳って健康法に入るんだ。それなら日舞とかフラダンスなんかも健康法に入るのかな)
 太極拳は四十代のとき三年ほどやって中断、またやり出して五年になるが、週に一回みんなでわいわいやってるだけだから、健康にいいことをやっているという意識はあんまりなかった。健康法というと、毎日やるもんだというイメージがある。
 真向法は三十数年前に一度やったことがあった。そのときは長く続かなかったが、これは体によさそうだというはっきりした手ごたえはあった。
 真向法は短い時間で、タタミ一枚ほどのスペースがあればできるのがいい。それに四つの動作しかないからすぐ覚えられる。
 ナマケモノのオレにもできそうだ。「よしっ、これをもう一度やってみよう」

 さっそく最新の本を買ってきてやってみた。いまは前と違って、本ではわかりづらいところもインターネットで動画が見られるので助かる。
 まずあぐらをかいて坐り、足裏を合わせて股間に引き寄せ、体を前に倒したり、元に戻したりを繰り返す。次は両足をまっすぐそろえて、三つ目は両足を大きく広げて、同じことを繰り返す。
 この三つの動作をそれぞれ十回やり、 最後に正座をして体をうしろに倒し、バンザイをする格好で両手を伸ばす。そのまま一分間ゆっくり呼吸する。
 これだけだから、慣れれば五分もかからない。これを朝と夜の二回やる。
 やってみると、ちょっと体を曲げようとしただけで、筋・関節が悲鳴をあげる。痛くてとてもできるもんじゃない。いままでいかに不養生・不摂生をしてきたかがわかる。
 いまは山登りに例えれば、やっと登山口に立ったところで、まだ一合目にも来ていないのだからできなくても仕方ないが、それにしてもひど過ぎる。
 機械だったら油を差せばいいんだろうけど、体じゃそういうわけにもいかない。
 くじけそうになるが、いままでいたわってあげなかった体にわびを入れ、一ヶ月ほど頑張って続けていると、はっきり体が変化してきたのがわかった。
 眠っていた筋が目覚め出し、股関節が柔らかくなっていく感覚がある。深層部にある筋肉(インナーマッスル)が鍛えられるのでダイエット効果もあり、毎朝、体重計に乗るのが楽しみになった。
 夜中にトイレに起きることもなくなった。
 そしてなにより朝の目覚めのさわやかさだ。目が覚めるとさっと起き上がれるようになったのは、朝に弱かったオレにとっては画期的なことだ。
 すると真向法にも熱が入ってきた。これをやってるせいで体の調子がよくなっている。もっとやればもっとよくなるんじゃないか。朝、夜に五分やるだけではもの足りなくなり、補助体操なども取り入れ、入念に三十分くらい時間をかけてやるようになる。

 そしていま三ヶ月ほどたって、三合目くらいには来ただろうか。
 理想形にはまだまだだが、最初にくらべればだいぶさまになってきた。
 早く頂上にたどり着きたい気持ちが強くなって、頑張りすぎている自分に必死にブレーキをかける、
(無理をしてはいけない。六十数年分のひずみを直すんだ。あせらず、じっくりいこう)
 それでも、一日一ミリでいいのに、ニミリ近づきたいと躍起になっている。